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国語――(酷誤)

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国語――(酷誤) ◆LxH6hCs9JU



 【0】


 こくごのじかんです。



 ◇ ◇ ◇



 【1】


 ひうん――と。
 朝の日差しが極細の鋼線に光を落とし、キラキラと実体を映し出している。
 常人の視力では見ることも適わないそれが、五指の律動に合わせて踊り狂う。
 まずは反動のままに首根っこを断ち、その後上半身、下半身へと切り分けていく。
 細切れ肉のようにばらばらに、そしてジグザグに断割していくつもり――空を。


 ひうん――と。
 糸は何者かの意思に呼応し、巻尺のように音を鳴らしながら指に戻っていく。
 一本が戻ればまた一本、二本戻ればもう二本、指先五つで自由自在。
 腕を大きく振ると、空気が鳴いた。軽いソニックブームである。


 ひうん――と。
 空気が真空に裂けていく。大空は糸を避けられない。避けた空間は意図を語らない。
 首を吊った死体はそこにはない。人体がないのだからあたりまえ。操者の意図はお試し。


 ひうん――と。
 《曲絃師》にして《ジグザグ》、《戯言遣いの弟子》にして《紫木一姫》。


 ひうん――と、少女は満足げに《曲絃糸》を操ってみせるのだった。



 ◇ ◇ ◇


 【第一問】

  問 以下の意味を持つ慣用句を答えなさい。
    『強い者がさらに良い条件を得て強くなること』

  ■文月学園高等部二年Fクラス、坂本雄二の答え
  『鬼に金棒』
  ■教師のコメント
  正解です。慣用句の問題としてはさすがに初級すぎましたね。

  ■紫木一姫の答え
  『鬼の目から金棒』
  ■教師のコメント
  同じ『鬼』という単語を使っているだけに、紛らわしかったですかね。
  きっと『鬼の目にも涙』と言いたかったのでしょう。どちらにせよ不正解です。


 【第二問】

  問 以下の意味を持つ四字熟語を答えなさい。
    『弱者の犠牲の上に強者が栄えること』

  ■甲賀卍谷衆頭領、甲賀弾正の答え
  『弱肉強食』
  ■教師のコメント
  正解です。まさに喰うか喰われるか、忍者の世界を体現したかのような言葉ですね。

  ■紫木一姫の答え
  『焼肉定食』
  ■教師のコメント
  定番の間違いですね。


 【第三問】

  問 以下の意味を持つことわざを答えなさい。
    『獰猛さを隠し、あたかも大人しい猫のように振舞うこと』

  ■大橋高校教師、恋ヶ窪ゆり(30)の答え
  『猫をかぶる』
  ■教師のコメント
  正解です。上手く猫をかぶれていれば、今頃はきっと……

  ■紫木一姫の答え
  『猫をあぶる』
  ■教師のコメント
  動物虐待はいけません。


 ◇ ◇ ◇



 【2】


 紫木一姫が手に入れたレーダーは、単三電池四本で六時間稼働する。
 電池ボックスはカバー式で、交換には特別な工具等も必要としない。
 古泉一樹との悶着のおかげで中の電池を紛失してしまったが、機械自体が壊れたわけではなかった。
 電池の交換さえ済ませれば、今すぐにでも再利用することができるだろう。

 手持ちの荷物に単三電池はなかった。基本支給品の中には懐中電灯が入っていたが、これは単一電池二本で動いている。
 探すしかない。探すのが馬鹿らしいくらい簡単だとわかっていても探さなければならないのがなにか癪だ。
 別になくても困らないものではあるが、あったらとても便利なものでもある。なら探そう。

 辺りは住宅街で、電池が売っているような店はなかった。
 民家にも電池くらいは置いてあるかもしれないが、六時間というシビアな時間制限を計算しておけるよう、できれば新品が欲しかった。
 埃塗れの柱時計に残された使い古しの電池や、テレビのリモコンにセットされた別メーカー同士の二本なんかは、ちょっと気持ち悪い。

 選り好みしている場合じゃないでしょ、と指摘を受けるほど紫木一姫の状況は切羽詰っていない。
 放送では《師匠》の名前も呼ばれなかった。《師匠》といっても名簿に載っていた本名不詳の《師匠》さんではないが。
 いや、もしかしたら《師》が苗字で《匠》が名前なのかもしれない。《のり・たくみ》さんだったりとか。

 そんな風に一見楽しそうではあるけど実のところまったく楽しくないことを考えていると、紫木一姫は電気屋を見つけた。
 こじんまりとした建物の中は、雑多なほど電化製品に塗れ、安いのか高いのか微妙な値札の数々が狂喜乱舞している。
 大手量販店に日々客を持っていかれつつもどうにか持ち堪える人情派町の電気屋さんといった感じの店だった。

 ごちゃごちゃした店内を眺め回しながら、目的の品を探す。ごちゃごちゃしすぎていて見つけるのに手間取ってしまった。
 アルカリ単三電池四本のパックを入手。さて、そういえば六時間というのはアルカリとマンガンのどちらを基準にしたものなのだろう。
 電化製品についてはあまり詳しくない紫木一姫だったが、アルカリ乾電池のほうが長持ちハイパワーというのはどうにか記憶している。
 ならこっちのほうで問題ないか。値段も安いよりは高いほうが高性能ってことだろうし。とすぐに自己完結。

 どうせなら他になにか使えそうな電化製品を貰っていこうかとも考えたが、どれもこれも役に立ちそうにないのでやめた。
 あたりまえだ。炊飯ジャーやファンヒーターやサイクロンジェットクリーナーが生き残りの役に立つなどあろうはずがない。
 今、紫木一姫の手にある《曲絃糸》。《曲絃師》の証たるそれだけで、事は足りる。

 道草を食わず、またもとの進路に戻るとしよう。もっとも、その進路はこれから決めるのだが。
 手に入れたばかりの電池をレーダーに入れ、電源が復活するのを待つ。

 すぐに周囲一帯の簡易地図が表示された。
 そしてそこには、紫木一姫以外にもう一人、知らない誰かさんの名前が表示されていた。



 ◇ ◇ ◇


 【第四問】

  問 以下の意味を持つ慣用句を答えなさい。
    『無駄なお金を使わないこと』

  ■学園都市某高校教師、月詠小萌の答え
  『財布の紐が固い』
  ■教師のコメント
  正解です。煙草やビールといった嗜好品は特に出費が激しいかと思いますので、気をつけましょう。

  ■紫木一姫の答え
  『財布の紐が高い』
  ■教師のコメント
  きっと高級な財布なんでしょうね。


 【第五問】

  問 以下の意味を持つ四字熟語を答えなさい。
    『数ばかりが多くて役に立たないものや人々を蔑む言』

  ■県立北高校二年、生徒会長(本名不詳)の答え
  『有象無象』
  ■教師のコメント
  正解です。相応の立ち位置にいる人物が使うと、どうにも恐ろしいニュアンスになってしまいますね。

  ■紫木一姫の答え
  『うどん無双』
  ■教師のコメント
  どんなうどんなんでしょう。先生ちょっと食べてみたいと思ってしまいました。


 【第六問】

  問 以下の意味を持つことわざを答えなさい。
    『何事も実際に試してみなければわからないので、とにかくやってみるのがよいということ』

  ■御崎高校一年二組、池速人の答え
  『物は試し』
  ■教師のコメント
  正解です。チャレンジはしてみるべきです。たとえ玉砕覚悟であったとしても。

  ■紫木一姫の答え
  『元はタニシ』
  ■教師のコメント
  今はなんなんでしょう?


 ◇ ◇ ◇



 【3】


 《トレイズ》。

 それが現在、紫木一姫の手元のレーダーに表示されている、唯一の名前だった。
 名前からして外国の人だろうと推測できる。
 名簿にファーストネームしか載っていなかったのは、なにかの手違いだろうか。

 配られた名簿ははっきり言って欠陥品だった。本来、こういったものは本名を正しく明記するのが普通である。
 にも関わらず、《師匠》を始めとして名簿には愛称で記載されている人物が多く見受けられた。
 キョンシャナ、キノやシズといった名前がそれに該当する。彼ら、もしくは彼女らに苗字はないのだろうか?

 紫木一姫の名前はもともと名簿からは外れていたため、誰にとっても認知外のはずである。
 仮に紫木一姫の名前が名簿の中に組み込まれていたとしたら、どう表記されていたのだろう。
 そのまま紫木一姫か、それとも《戯言遣いの弟子》か、それとも《ジグザグ》か、さて。

 本人に直接聞いてみるのもいいかもしれない。あなたのお名前は――と、トレイズくん、もしくはトレイズちゃんに。
 今現在、紫木一姫は《トレイズ》の反応がある場所へと急行している。
 どうやら彼、あるいは彼女は一箇所にとどまってなにかをしているらしく、レーダーを見る限りでは動く気配がない。
 ご愁傷様でした。この時点でそんな言葉が送れてしまう。もしただ隠れているだけなのだとしたら、結末は確定しているから。

 と、残りの距離が50メートくらいにまで縮まったところで、《トレイズ》の表示が動いた。
 紫木一姫は足を止め、レーダーの画面を注視する。すでに追いかけても無駄っぽかった。
 《トレイズ》はものすごい速さで、索敵領域である半径500メートルの枠から脱していく。

 感づかれたのだろうか。足音が届く距離ではないし、まさか気配を悟られたというわけでもないだろう。
 急激に遠ざかっていったスピードを見るに、ひょっとしたらなんらかの乗り物に乗っているのかもしれない。
 だとしたら追いかけるのは骨だ。さて、どうしよう。逃げていった方角くらいはわかるのだが。

 とりあえずは、《トレイズ》がとどまっていた場所に向かってみるとしよう。なにか残されているかもしれないから。



 ◇ ◇ ◇


 【第七問】

  問 以下の意味を持つ四字熟語を答えなさい。
    『生命あるものは、必ず死ぬときがあるということ』

  ■陣代高校用務員(勤続25年)、大貫善治の答え
  『生者必滅』
  ■教師のコメント
  正解です。なんでしょう。ただの用務員の解答とは思えないすごい説得力を感じます。

  ■紫木一姫の答え
  『そんなのあたりまえですよ。大切なのは、天寿を納豆にするよりも前に殺されないことです』
  ■教師のコメント
  これは四字熟語の問題です。ついでに言えば、『天寿を全うする』ですね。


 【第八問】

  問 以下の意味を持つ慣用句を答えなさい。
    『知恵と力は、ありすぎて困ることはないということ』

  ■『伽藍の堂』社長、蒼崎橙子の答え
  『知恵と力は重荷にならぬ、だな。しかし……重荷、ね。よく言ったものだとは思うが――』
  ■教師のコメント
  誰ですか彼女に出題したのは。解答用紙が真っ黒になって返ってきたじゃないですか。
  っていうかなんでこの問題で魔術云々の話が出てくるんですか。先生しまいには泣きますよ。

  ■紫木一姫の答え
  『羊羹です』
  ■教師のコメント
  紫木さんはちょっとふざけているとしか思えない間違いが多いですね。あとで先生のところに来るように。


 ◇ ◇ ◇



 【4】


 《トレイズ》がしばらくとどまっていたと思われるそこは、温泉施設だった。
 旅館を思わせる古風な外観は、入り口にいた門番によって酷く陰鬱とした印象に変えられる。
 あの《首吊高校》だって、ここまで異質ではない。あそこは傍目から見れば単なるお嬢様学校だった。

 紫木一姫は門前に置かれていたその、《死体》という名の門番を見下ろす。
 死体というよりは《肉塊》と称すべきだろうか。顔面がまるでザクロのようになってしまっている。
 体格から男性ということはわかるが、面相のほどはイケメンだったのかブサイクだったのかもわからない。
 無残な壊死体だった。凶器はいったいなんだろう。考えはするものの、答えは別にいらなかった。

 さて、下手人について一人心当たりがある。さっきまでここにいたはずの《トレイズ》である。
 死体の状況を見るに、そう時間が経っているわけでもない。
 さっとやって来てさっと殺してさっと去っていった、と考えるのは妥当も妥当。
 逃げるように去っていった《トレイズ》への疑惑が生まれる。

 まあ、これが別に《師匠》というわけではないだろうから、やはり紫木一姫にとってはどうでもいいのだが。
 《トレイズ》が死体には目もくれずただ温泉を楽しみに来ただけだとしても、なにかが変わるわけではない。
 選ぶべきルート、その数にも変化はなく、レーダーに落とす視線はぶれもかすれもしない。

 ここから先はどうしようか。
 具体的な行き先は不明だが、向かっていった方向だけはわかっている《トレイズ》を追うという手もある。
 もしくはこの場にとどまり、誰かが近くを通りがかるのを待つという手もあるか。
 死は人を引き寄せる。接近はレーダーがあれば容易に気取れるし、温泉は憩いの地だ。
 血に汚れた身体を湯で清めようという残酷可憐な乙女が――来ないとも限らない。

 そういえば、この温泉の中はどうなっているのだろう?
 手元のレーダーは死体には反応しないようだから、目の前のザクロも正体が知れない。
 もしかしたら、他にも死体が転がっていたりして。安易に否定はできない。結構高い可能性がある。

 紫木一姫は、一歩を踏み出した。



【E-3/温泉施設/一日目・午前】

【紫木一姫@戯言シリーズ】
[状態]:健康
[装備]:澄百合学園の制服@戯言シリーズ、曲絃糸(大量)&手袋、レーダー
[道具]:デイパック、支給品一式、シュヴァルツの水鉄砲@キノの旅、ナイフピストル@キノの旅(4/4発) 、裁縫用の糸(大量)@現地調達
[思考・状況]
1:《トレイズ》を追うか、諦めて温泉の中に入ってみるか考える。
2:いーちゃんを生き残りにするため、他の参加者を殺してゆく。
3:SOS団のメンバーに対しては?
[備考]
※登場時期はヒトクイマジカル開始直前より。 
※SOS団のメンバーに関して知りました。ただし完全にその情報を信じたわけではありません。



 ◇ ◇ ◇


 【補習問題】

  問 以下の意味を持つ四字熟語を答えなさい。
    『花びらが細かく分かれているように、バラバラに千切れる様子』

  ■紫木一姫の答え
  『姫ちゃん知ってますよ。《ジグザグ》ですね。花びらが細かく、ってレベルではないと思うですけど。
   でも、そのあたりの加減も指先一つでどうとでもなります。なんてったって《曲絃師》ですから。
   あ、でもここでは加減、いらないですよね? そもそも加減っていっても、首を落とすか指を落とすかの違いですし。
   姫ちゃん落ち零れだから難しいことはわかんないですけど、細かく《解体(バラバラ)》に、なら得意です。はい』
  ■教師のコメント
  ※先生はバラバラ死体となってしまったためコメントできません。

  ■戯言遣いの答え
  『七花八裂』
  ■弟子のコメント
  さすがです師匠。


投下順に読む
前:リアルかくれんぼ 次:愛憎起源 Certain Desire.
時系列順に読む
前:必要の話―What is necessary?― 次:愛憎起源 Certain Desire.

前:行き遭ってしまった 紫木一姫 次:モザイクカケラ



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