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CROSS†POINT――(交信点) 後編

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CROSS†POINT――(交信点) 後編 ◆EchanS1zhg





 【5】


ヴィルヘルミナとの交信を終え、滞りなく情報の交換をし終えた悠二と水前寺の二人は再びソファへと戻っていた。
こちらから伝える情報があれば、こちらへと伝わってくる情報もある。また、求める情報への回答もあった。
故に、電話をかける前と同様に彼らは情報を整理する為に意見を交し合う。

「《死線の蒼》に《欠陥製品》か……」

悠二の隣で水前寺がヴィルヘルミナより聞いた二つの言葉を呟く。
それらは先刻、死体で発見された零崎人識が探し人として上げていた人の名前らしい。

「どちらも、最初から名簿に名前のあった者だと考えるのが順当ではあるな。
 零崎人識が我々と同じ一般的な参加者だとするならば、名簿外にその二人がいたとは知りようがないのだから」

するならば? 悠二は発言に疑問を感じて、隣の水前寺を見る。

「うむ。こういった陰謀論は拡大してゆくときりがないのだが、
 零崎人識及び死線の蒼と欠陥製品とが、人類最悪の仲間である可能性も考えられる」

悠二も最初にヴィルヘルミナより話を聞いた時からそういう可能性を考えていた。
人類最悪のメールにある死線の寝室が=死線の蒼であるならば、その名前を出した零崎人識も人類最悪に繋がるのだろうと。

「しかし、この線で押してゆくにはいまいち死線という言葉は一般的すぎるだろう。
 たまたま偶然そうだった……というほうが、まだ分があるようにおれは思える」

やや残念な感じもあったが、悠二としても水前寺の考えには同意できた。
多少近いからといってすぐにこれはこうだと決め付けてしまうなど、結論を急ぐとロクなことはない。
そもそもとして、メールの意図もそれが本当に人類最悪からのものなのかも未だ確定していないのだ。

「とりあえずは、《死線の蒼》と《欠陥製品》と呼ばれる者を探すことにしよう。
 零崎人識が死亡している以上、どのような人物であったかを聞き出すことは最早不可能であるが、
 この世界のどこかにいることは疑いようがないしな。すでに亡くなっているのなければ行く行く先で出会えるはずだ」

頷き、悠二はポケットから取り出したメモに二人の名前を記した。
《死線の蒼》に《欠陥製品》。果たして二人はどのような人物なのか――?



悠二はソファから立ち上がると、窓際へと歩み寄りそこから空を見上げた。
明るい青の空にはいくつかの千切れ雲が浮かんでいて実に和やかだが、しかし彼の探しているものは見当たらない。

シャナ……大丈夫かな?」

ヴィルヘルミナに聞いた所、神社から自分を探してシャナが島田美波と一緒に出立したらしい。
さらによく聞けば、自分が水前寺と一緒にキョン達から離れた直後にシャナはあの場に現れたらしい。
そんなに近くにいたのかと悠二は悔しく思う。普段ならば彼女の気配に気づかないことなどないはずなのだ。

過ぎたことは置くとして、シャナがバギーを目当てに自分達を探していることが悠二には心配だった。
確かにバギーは道路の上を音を立てて走るし、それを目印にするのは悪くない。
だが、そのバギーに今乗っているのは自分達でなくシズなのだ。

「そんな浮かない顔をするものではないぞ悠二クン」

隣を見ると、いつの間にかに水前寺がいて同じように空を見上げていた。

「あのシズという男は我々がこの病院に向かうことを知っている。話が通じるのならばこちらへと誘導してくれるはずだ。
 それに前向きに考えれば、その子がシズと面識を持つことはいいことだとおれは思うぞ。
 言葉だけでは証明しきれない我々の側の実力というものをシャナという子が証明してくれるのならば、
 あのシズという男もこちら側へと転んでくれるかもしれん」

確かに。と悠二も思った。
それにシズには携帯電話の番号を渡してある。シャナと出会えば即座に電話がかかってくるかもしれない。
そう考えれば、シャナがバギーを追うことはなんら問題がないと言えるだろう。



「では、我々は我々としての行動を起こそうではないか。
 晴れてヴィルヘルミナ女史より行動の自由を保障されたのだからな!」

言って、水前寺は踵を返して病院の奥へと歩いていった。例の盗撮眼鏡に収められた映像を見れる機械を探すらしい。
悠二も最後にもう一度だけ青空を見上げ病院の奥へと歩を進めることにした。こちらは足となる救急車の確保だ。

「(うーん……)」

ヴィルヘルミナとの話し合いの結果。悠二と水前寺は遊撃隊として行動するよう彼女に任じられた。
その理由は、単純に人手が足りないからだ。
この不思議な世界の成り立ちや感じられる存在の力については彼女も同様の考察を行っており、
またあちら側ではこの後、天体観測をするなどのアプローチが考えられているらしい。
なのでこちら側、つまり悠二と水前寺の二人は地図でいうところの東半分を担当してくれると助かるとのことだった。

それは的確だと悠二も納得した。電話がある以上、わざわざ彼女達の元へといちいち帰る必要はないだろう。
だがしかし、少し残念なことがある。東側の捜索は”悠二と水前寺の二人だけ”で行うように、と言われてしまったことだ。

あの後、警察署に向かったキョンと美琴がまだ神社に戻っていないらしい。
またシャナと島田美波が神社から出たこともあって、結果、あるはずの人手が全く足りないとのこと。
なので悠二達がシャナと合流したならば、シャナと美波は即座に神社へと帰らせるようにとの彼女からの厳命であった。

「(しかたないけど……)」

キョンと美琴が向かった警察署には古泉一樹がいたらしい。
つまり、彼らが戻ってこないのはなんらかのトラブルに見舞われたからと考えるのが自然だ。
ならばそちらへと人を当てる場合、空を飛べて戦闘能力の高いシャナが向かうというのが最適だろう。
それは悠二もそう思う。ヴィルヘルミナの采配はどれも適切であり、自分が考えてもそうするだろうと断言できる。
だがしかし、

「(僕がシャナと一緒にいることを妨害しているようにしか思えない……)」

そんな意地悪も多分に含まれているのでは? と疑わずにはいられない悠二なのであった。




【B-4/病院/一日目・午後】

坂井悠二@灼眼のシャナ】
[状態]:健康
[装備]:メケスト@灼眼のシャナ、アズュール@灼眼のシャナ、湊啓太の携帯電話@空の境界(バッテリー残量100%)
[道具]:デイパック、支給品一式、贄殿遮那@灼眼のシャナ、リシャッフル@灼眼のシャナ、ママチャリ@現地調達
[思考・状況]
 基本:この事態を解決する。
 0:救急車を確保する。
 1:水前寺と一緒に浅羽を探す。
 2:シャナと再会できたら贄殿遮那を渡し、神社に戻るよう伝える。
 3:事態を打開する為の情報を探す。
 ├「シャナ」「朝倉涼子」「人類最悪」の3人を探す。
 ├街中などに何か仕掛けがないか気をつける。
 ├”少佐”の真意について考える。
 └”死線の寝室”について情報を集める。またその為に《死線の蒼》と《欠陥製品》を探す。
 4:もし途中で探し人を見つけたら保護、あるいは神社に誘導。
[備考]
 清秋祭~クリスマスの間の何処かからの登場です(11巻~14巻の間)。
 会場全域に“紅世の王”にも似た強大な“存在の力”の気配を感じています。


水前寺邦博@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:健康
[装備]:電気銃(1/2)@フルメタル・パニック!
[道具]:デイパック、支給品一式、「悪いことは出来ない国」の眼鏡@キノの旅、ママチャリ@現地調達、テレホンカード@現地調達
[思考・状況]
 基本:この状況から生還し、情報を新聞部に持ち帰る。
 0:眼鏡型カメラに記録された映像を検証するため、病院内で出力装置(PC)を探す。
 1:悠二と一緒に浅羽特派員を探す。
 2:事態を打開する為の情報を探す。
 ├「シャナ」「朝倉涼子」「人類最悪」の3人を探す。
 ├街中などに何か仕掛けがないか気をつける。
 ├”少佐”の真意について考える。
 └”死線の寝室”について情報を集める。またその為に《死線の蒼》と《欠陥製品》を探す。
 3:もし途中で探し人を見つけたら保護、あるいは神社に誘導。






 【6】


手術の終わった部屋はもう幻想の色彩も去り、元の色褪せた畳敷きのものへと戻っていた。
明かりは桜色の炎から黄ばんだ蛍光灯のものへと変わり、逢坂大河の姿は宙にではなく敷かれた布団の上にある。

気を失いぐったりとした大河の姿は生まれたままのそれで、ヴィルヘルミナはその汗に濡れた身体を温かい布で拭いていた。
力の篭めすぎで筋などを痛めていないかを確かめながら、身体を冷やさないようにと素早く丁寧に布を走らせる。
薄く紅潮した胸元から、細い四肢の先までを。汗が浮かびやすい首元や背中はより丁寧に、
そして小さな口を開かせて歯が欠けたり口の中を切っていないかも確かめる。

あらかた終わると、最後に一瞬だけ桜色の炎を走らせ彼女の身体を清めなおした。
真っ白な身体に布団をかけ、一連の作業を終えるとヴィルヘルミナはそこでようやく一息をつく。

「これにて全工程を終了。後は大河が覚醒した後、義手が正常に作動するか確認するのみであります」
「一労永逸」

麻酔なしで腕を切るなどと、まるで戦国時代か極北での話かといった風ではあるが義手を取り付ける手術は無事終了した。
大河は心身ともに衰弱しきっているが、それも寝ていればじきに回復するであろうもので大きな問題ではない。

それもこれも、その小さな身体からは想像もつかぬ胆力のおかげだろうとヴィルヘルミナは思う。
寝ている姿は深窓の令嬢のようで、腕も足も細くまるで作り物のように見える。
しかし、逢坂大河はその見た目にそぐわぬ意気の持ち主であった。
そんな彼女にヴィルヘルミナは僅かなデジャブを感じる。

華奢な体躯に、幼さを残した未完成の美貌。その身に秘めた強靭な精神力。この子はどこか炎髪灼眼の討ち手を想像させる。
木刀を振りかざし突き進んでくる様は稚拙と他ならなかったが、その無鉄砲さにはどこかノルタルジーを感じていたかもしれない。

もしかすれば、逢坂大河は別の《物語》における炎髪灼眼の討ち手に相当する存在なのかもしれない。

勿論、それはただの空想だ。あるいはあの時をまた繰り返したいと思う欲が浮かび上がらせた妄想なのかもしれない。
ヴィルヘルミナは、自身を”シャナ”だと言い切った彼女の顔を浮かべ、そして大河の顔を見る。
似ているかもしれない。けど彼女達はそれぞれ違う子で、それは当たり前のことだ。

「……それでは、今一度近辺を見回ってくるのであります」

ヴィルヘルミナは大河に被せた布団を整えなおすと、すくと立ち上がりその部屋を後にした。
僅かに赤みの増した陽光を背に受け、板張りの廊下を音もなくしずしずと進む。

影に隠れて見えない彼女の顔。そこには母のような優しい表情があったのかもしれない――……




【C-2/神社/一日目・夕方】

ヴィルヘルミナ・カルメル@灼眼のシャナ】
[状態]:疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、カップラーメン一箱(7/20)、缶切り@現地調達、調達物資@現地調達
[思考・状況]
 基本:この事態を解決する。しばらくは神社を拠点として活動。
 1:神社を防衛しつつ、御坂美琴とキョン。炎髪灼眼の討ち手と島田美波の帰りを待つ。
 2:状況に応じて、警察署や南の方にいるであろう上条当麻への捜索隊を編成して送り出す。


【逢坂大河@とらドラ!】
[状態]:睡眠中、疲労(極大)、精神疲労(極大)、右腕義手装着!
[装備]:無桐伊織の義手(右)@戯言シリーズ、逢坂大河の木刀@とらドラ!
[道具]:デイパック、支給品一式
     大河のデジタルカメラ@とらドラ!、フラッシュグレネード@現実、無桐伊織の義手(左)@戯言シリーズ
[思考・状況]
 基本:馬鹿なことを考えるやつらをぶっとばす!
 0:…………………………。






 【7】


「はぁー……」

天上の方角を突く巨大な天体望遠鏡を見て、インデックスは改めて感嘆と脱力が混じった息を吐いた。
なんど見てもすごいものはすごい。目の前に屹立する望遠鏡の大きさは彼女が居候している部屋よりも大きかった。
突然。ごうんと、望遠鏡の鎮座しているドーム内に大きな音が響き渡る。

「お、おぉ…………、すごい……」

インデックスが見上げている前で、ドーム状の天井が展開し、空が開けてゆく。
隙間から見える空はまだ茜色で、観測を行えるまでには時間があったが、
まるでTVアニメの中で見た秘密基地みたいなその光景に、インデックスはきゃあという楽しそうな声をあげた。



別室。観測機器が並ぶ一室にて、はしゃぐインデックスの姿をカメラ越しに見ていたテッサはくすりと笑い声を零した。
天井が開ききるのを確認すると、キーボードを叩いて今度は望遠鏡が乗っている台を上昇させるよう操作する。
そしてマイクを口に当ててインデックスに近づかないよう注意すると、その光景をまたしばらく楽しんだ。

当初の予定では、ここに再来するのはもう少し後の時間になってからということであったが、
テッサとインデックスの二人はその予定を繰り上げて天文台へと登ってきていた。

大きな理由としては、警察署から戻ってくるはずのキョンと御坂が戻ってきていないことがある。
その内でも特に御坂美琴の存在がこの場合は大きい。
現在、散り散りではあるがテッサ達の組んだグループは11人の人間を抱えている。
当初からこの世界にいた総人数に対して6分の1。現在であれば4分の1ほどになるこの数は、数値だけを見るならかなり多い。
だがしかし、その中には戦闘をするどころか戦闘という状況すら知らない普通の女学生らも多く含まれるのだ。
故に、何かしら動くごとに戦闘に長けた者を同伴させる必要がある。そうでなければ危険だからだ。

そして、その戦闘に長けた者の一人である御坂美琴が未だ帰還を果たしていない。
もし彼女がいれば、彼女かヴィルヘルミナのどちらかがこちらに同伴し、もう片方が神社の防衛につく予定であった。
だが、いくら待っても帰ってこないので、望遠鏡の調整も兼ねてテッサとインデックスが先行することなったのだ。

他にも、手術を終えた大河が眠ったままであったり、テッサが寝ていた間にキノという来訪者が現れたとも聞いており、
そういう諸々の理由もあってヴィルヘルミナは神社に残り防衛の任につくこととなった。
既に一度は二人だけで来ていたわけであるし、地理的に考えても天文台は危険の度合いが低いということもある。

「さてと……」

テッサは再びマイクに口をよせ、インデックスに管制室に来るようにと声をかけた。
観測機器を操作するのはテッサにとって容易いことだが、何を観測すべきなのかは彼女の知恵を借りなくてはならない。

とりあえずは、システムから前日までの観測データを呼び出しデフォルトの設定をそれに合わせておく。
インデックスから見れば不思議な魔法に見えるこれも、テッサからすればキーを少し叩くだけの簡単な作業だ。
こんなことを感心してくれる彼女の姿を思い出し、テッサはそのチグハグな光景にまた頬を緩めた。

初期設定を終えたテッサは椅子から立ち上がると、会議机の端に置かれた湯沸しポットの前へと歩いてゆく。
空腹時におけるインデックスの凶暴性の発露はすでに体験済み。
そして、テッサは見越せる危機を前に対策を怠る少女では決してない。
彼女お気に入りのカップラーメンを筆頭に、物資調達班が持ち帰った数々の食料は既に配備完了している。

「テッサ、おなかすいたー!」

そして、ちょうどインデックスが扉を勢いよく開いて管制室へと飛び込んできた。
昼食の後の午睡と、神社からここまでの山登り。彼女の食欲中枢にレッドアラームを点すには十分だったのだろう。
間もなくして、テッサの予測通りに彼女と食料による第一次接触戦が始まった。
テッサの計算によれば戦闘終了までは20分ほど。食料側6%ほどの損耗で戦闘が終了する予定である。

「……………………」

とてもおかしな光景だと、自分もサンドイッチを齧りながらテッサは思う。
このような状況で、このような時間を過ごせる自分はなんと幸運なのだろうか。
しかし、そういではない者も多数いて、今まさに死の狭間を彷徨っている。そういう者もどこかにいるはずなのだ。

結果的に、見殺しとしてしまったあの少年のような者が幾人も。

それを考えれば浮き上がった心も奈落の底へと沈む。
罪悪感が胸を締め付け、それ以上に自分は正しいことをしているのかという自問が途絶えなくなってしまう。
こんなことで死んでいった者達に顔向けができるのか。仲間と再会した時に胸を張れるのか。


しかし、この問題に答えは存在しない。


ただ問い続けることしかできないのだ。全てが決するその時まで――……




【B-1/天文台/一日目・夕方】

テレサ・テスタロッサ@フルメタル・パニック!】
[状態]:健康
[装備]:S&W M500(残弾数5/5)
[道具]:デイパック、支給品一式、予備弾x15、調達物資@現地調達、不明支給品x0-1
[思考・状況]
 基本:皆と協力し合いこの事態を解決する。
 0:陽が落ちるまでは休息。
 1:インデックスと協力して天体観測を行う。
 2:メリッサ・マオの仇は討つ。直接の殺害者と主催者(?)、その双方にそれ相応の報いを受けさせる。
[備考]
 『消失したエリア』を作り出している術者、もしくは装置は、この会場内にいると考えています。


【インデックス@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式、カップラーメン(x1)@現実
     試召戦争のルール覚え書き@バカとテストと召喚獣、缶詰多数@現地調達、不明支給品x0-1
[思考・状況]
 基本:みんなと協力して事態を解決する。
 0:陽が落ちるまでは休息。
 1:テッサと協力して天体観測を行う。
 3:とうまの右手ならあの『黒い壁』を消せるかも? とうまってば私を放ってどこにいるのかな?
[備考]
 『消失したエリア』を作り出している術者、もしくは装置は、この会場内にいると考えています。






 【8】


須藤晶穂は社務所の縁側に腰掛け、ひとりぼっちでただ陽が沈みゆく景色を眺めていた。

西日に当てられ朱色に染まる山は、知らない風景であるはずなのにどうしてか郷愁を誘い心を掻き立てる。
カラスが鳴くから帰ろう――なんて歌詞が童謡にあるが、晶穂の今の気持ちはまさにそれであった。

”帰りたい”と思っている。帰ることなんてできないのだが、気持ちはいっぱいだった。
別に元の日常に戻りたいとかそういうことではない。
もし、はいいいですよと帰してくれるならそれはありがたい話だが、今の気持ちはもっと短絡的なものだ。

現状から逃げ出したい。今、”この場”から離れたいという感情。

さっきまで、テッサとヴィルヘルミナ。そして半分寝ぼけていたインデックスとが難しい話をしていた。
晶穂も仲間の一員として同席していたから話を聞いたし、別にその内容が理解できないということもなかった。
しかし、自分から何か意見を出すことはできなかった。まるで手が出なかったともいう。

彼女達は専門家なのだ。軍人にフレイムヘイズ。抜けたところのあるインデックスだって何かすごいものらしい。
大河はちっこくて普通側の仲間だけど、彼女は自分なんかより全然すごい。
それに手術なんかして、片腕がロボットみたいになっている。もう普通側の仲間ではなくなっていた。
翻って自分は普通の普通オブ普通の一般人だった。まるで配役の肩書きが一般人ってくらい普通の女の子。
普通じゃない話の中で基準となる存在。スケールを表すために置かれる煙草の箱。それが須藤晶穂という存在だった。

だからなんだ。普通のどこが悪い――と、晶穂は思う。
それに、一口に普通と言っても人それぞれ尊重されるべき個性というものがあるのだ。
例えば大食いが得意……とか。

「はぁあああぁ~…………」

既視感。それどころかマンネリズムすら感じる嫌な気分。
部活中に浅羽と部長が自分のわからない話で盛り上がっている時の感じ。
浅羽と部長がイリヤにかまって、私という存在をどうとも思っていない時の感じ。

浅羽も部長も、テッサやヴィルヘルミナも決して意地悪をしているわけではないのだ。
ただ単に、須藤晶穂を須藤晶穂として見ているだけのことにすぎない。
構って欲しければ、注目してほしければ自分から前に出て行かないといけないのである。
魔法使いでも超能力者でもない一般人は自身の個性を自らアピールしなくては非普通人の輪には入って行けないのだ。
それが、一般人の掟。

しかし自分はそんなことができない。
盛り上がっている輪の中に顔を突っ込んで、「何々?」とずうずうしく聞くこともできなければ。
「じゃああたしもやらせてよ!」とか分も空気も弁えない分不相応な突貫もできないのだ。

弁えている。そういうことにしておけば須藤晶穂はいい子ちゃんだろう。
けど実際は、「馬鹿じゃないの?」とか「そんなこと勝手にして!」とか言ってしまい、その輪から離れてしまう。
しかも、離れるなら離れるでどっかに行けばかっこいいのに、ギリギリ目の届く範囲でウロウロいじいじしているのである。

かまってもらえなくて拗ねているだけ。そして向こうから声をかけてくれる期待を未練たらたらに諦めきれない。
すごく幼稚な感情だってことは晶穂自身がよくわかっている。わからないほど頭は悪くない。
けど、わかっちゃうからこそ悔しくもあり、そんな自分の小ささに悲しくなってしまう。

これがいつもなら、浅羽に「馬鹿!」と言って家に帰り、お気に入りの音楽を聴きながらベッドで丸まっていればいい。
それか部長に「こっちは勝手にします!」と啖呵を切って、取材兼自棄食いをしに商店街へと走ればいい。
でも、ここではそのどっちもできはしない。
みんなから離れると言っても、せいぜいこの縁側までが限界。がんばっても鳥居の前までだろう。

須藤晶穂は殺し合いの中で役に立てる人間でも、物語に彩りを与える華やかな人間でもない。
浅羽みたく無茶無謀ができるほど馬鹿ではないつもりであるし、
部長みたく力及ばない状況でも自分でできる範囲で全力を尽くせるほど肝は据わっていない。

ヴィルヘルミナやテッサにかまってなんて言えるはずもなく、かといってここから離れる度胸もない。
だから、

「帰りたい……」

ただそれだけを思うのだ。




【C-2/神社/一日目・夕方】

【須藤晶穂@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:意気消沈
[装備]:園山中指定のヘルメット@イリヤの空、UFOの夏
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考・状況]
 基本;生き残る為にみんなに協力する。
 1:どうすればいいってのよ……。
 2:部長が浅羽を連れて帰ってくるのを待つ。




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