アットウィキロゴ
ラノロワ・オルタレイション @ ウィキ
掲示板 掲示板 ページ検索 ページ検索 メニュー メニュー

ラノロワ・オルタレイション @ ウィキ

forever blue (後編)

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
管理者のみ編集可

forever blue (後編) ◆olM0sKt.GA




「ソウスケッ!」

瞬間、響いた甲高い声に宗介は何故か原因不明の迫力を感じ、伸ばした手をびくりと引っ込めた。
続いて後頭部に謎の衝撃が走る錯覚に襲われるがそちらは錯覚のままで終わってくれる。
いつの間にか吹き出していた冷や汗を隠しつつ、宗介は路地の一本から顔を出した少女に声を発した。

「リリアか! 待っていろといったはずだ、なぜ来た!」
「そ、それがちょっと状況が変わったというか……」
「どういうことだ? 説明を求める」

宗介より離れること十メートル、民家の塀に隠れるような形でぽつりぽつりとリリアが語ったところによると、彼女は自分より先に場内の人間と友好的な接触を果たしたらしい。

「それで、私がソウスケの名前を出したら、飛行場にはクルツって人がいるから安心して行けばいいって……」
「クルツ? クルツ・ウェーバーとその少女は言ったのか?」

少年を組み伏せたままの姿勢で、宗介はリリアの情報を脳内に再構築する。
瞬間移動がどうのと報告に一部詳細な説明を要する部分もあるが、接触はリリアの意思が発端の多分に偶発的なものであり、罠の可能性は低いと考えられた。

「了解した。状況その他から考えあわせるとその人物が嘘を言っている可能性は低く、情報の信頼度は高いと判断できる。だが、君の行動そのものは軽率と言わざるを得ない」
「そ、それはごめんなさい。でも、それより、あの……」

中にいるのがクルツならば、先だっての射撃練習も傍証となるだろう。事態の変化に理解が追いついたことで、宗介の緊張が和らぐのを感じる。
リリアの身に差し迫った危機がないことだけに安心してしまった宗介は、だから何故未だ彼女が距離を取ったままなのか察することができなかった。

「その子、なんでまたそこにいるの……?」

しまった、と。気づいたときにはもう遅かった。
怯えるように自分の身を抱くリリアは唇まで青白く染まってしまっている。小刻みに震えているのはこの距離からでも確認できるし、目は焦点の定まらぬままあちこちさまよっている。

「その……離してあげ、たら、どうかしら。わたっしは、もう、大丈夫だし、何かその子ずっとどこかに行こうとしてるみたい。それに……」

途切れ途切れに、ときどきガラクタのようにひっくり返った声になりながら、リリアが告げる。

「正直、私その子あまり見たくない」

何と言えばいいのか分からなかった。
ことは強姦未遂である。男である宗介には想像することも難しいが、当時の記憶は皮膚に染み込んだ汚泥のようにいつまで残り続けるに違いない。

「……そうだったな。すまない。俺の配慮が足りなかった」

腹の底に溜まったざわざわとした疼きを押し殺し、宗介は自分にできることだけを行った。
ぐったりと横たわる少年の身を起こし、リリアの視界から外れた路地に連れていく。
一度地面に横たえてから体の各所を点検し、怪我の悪化と意識の有無を確かめた。
一応の無事を確認し終えたところで、宗介は努めて平坦な声で言った。

「手荒な真似をしたことについては謝罪する。だが、俺は貴様がそれに値することをしたと同時に思っている。
場内の仲間の元に戻るなら、俺にそれは止められん。だが、そうしないというなら、一刻も早くこの場から消えてくれ」

少年からの返事はなかった。
長い長い沈黙が降りた。その間少年はぴくりとも動かず、宗介でさえまさか死んでしまったのではないかと心配するだけの時間が過ぎた後、芋虫のようなのっそりした挙動で暗い路地の陰に飲まれるように立ち去って行った。

「大丈夫か、リリア。無理をさせてしまった。重ねて申し訳なく思う」

元の路地に戻った宗介は、できる限りの言葉を述べた。リリアの顔は多少血色が戻ったように見えたが、震えがまだ収まりきってない。

「うん、大丈夫……ごめん……ありがとう」
「ここでは休息もままならない。場内に入ろう。警戒を完全に解くことはできないが、クルツがいるならそう時間をかけずとも落ち着けるはずだ」
「……うん」

不器用ないたわりを精一杯見せながら、宗介はリリアと連れだって飛行場の中に入っていく。
あの少年のことをリリアが早く忘れられるといい、宗介なりにそんなことを思った。


【B-5/飛行場入り口/一日目・夕方】

【相良宗介@フルメタル・パニック!】
[状態]:全身各所に火傷及び擦り傷・打撲(応急処置済み)
[装備]:IMI ジェリコ941(16/16+1、予備マガジンx4)、サバイバルナイフ
[道具]:デイパック、支給品一式(水を相当に消耗、食料1食分消耗)、確認済み支給品x0-1
[思考・状況]
 基本:この状況の解決。できるだけ被害が少ない方法を模索する。
 1:飛行場の中に入る。
 2:飛行機を飛ばしてみる。空港へ行って航空機を先に確保する? 航空機用の燃料を探す? 自動車の燃料で代用を試してみる? 
 3:まずはリリアを守る。もうその点で思い悩んだりはしない。
 4:リリアと共に、かなめやテッサ、トレイズらを捜索。合流する。

リリアーヌ・アイカシア・コラソン・ウィッティングトン・シュルツ@リリアとトレイズ】
[状態]:健康
[装備]:早蕨薙真の大薙刀@戯言シリーズ
[道具]:なし
[思考・状況]
 基本:がんばって生きる。憎しみや復讐に囚われるような生き方をしてる人を止める。
 1:飛行場の中に入る。
 2:飛行機を飛ばしてみる。
 3:トラヴァスを信じる。信じつつ、トラヴァスの狙いを考える。
 4:トレイズが心配。トレイズと合流する。

◇  ◆  ◇  

連続テレポート時の視界は映写機の画像を次々入れ替えるようなものだ。
飛び飛びの映像が切り替わっては後ろに流れていく。すっかり馴染んだ感覚に身を任せながら、黒子は暮れなずむ無人の街を文字通り飛び回った。
リリアと名乗った少女と接触した以外、黒子はまだ誰も見つけられていない。
焦りこそ自重しているが、夜の暗がりは黒子を急かすように、いよいよその影を濃いものにしている。

これはレースではないのだ。テレポートの隙間で頬を撫でる風に意識を冷やしてもらいながら、黒子は自戒する。一歩でも遠くに飛ぼうとする意識はすれ違いの不運をもたらす恐れがあった。
あてと呼べるものが何もない黒子では、捜査は自然高所からのローラー的なものにならざるを得ない。それにしたところで一人では限界があり、今のところ得られたのは限られた時間の浪費という結果だけだ。

徒労さえ感じさせる探索の中で、自分の足が無意識に南を向いていることに黒子は気付いていた。
百貨店を目指しているのだ。
出会って間もない伊里野という少女や、ろくに自分のことを話さなかった浅羽などは手掛かりに関してお手上げに近いが、もう一人のターゲットであるティーは違う。
ずっと一緒にいた分だけ、情報のアドバンテージは前の二人より大きい。
彼女は、百貨店で何かショックな出来事に遭遇したという。災禍に見まわれた少女が失踪してまでその現場を訪れようという発想の不自然さに黒子も気付いてはいたが、何しろ他に目標にできるものが何もない。
一風変わった少女の心中を何とか推し量りつつ、黒子は他と比べて背が高めなビルの屋上めがけて、もう何度目かも分からなくなったテレポートを敢行する。

「……見つけましたわ!」

急激に開けた視界の向こうに、ティーの歩く姿があった。
ちょうど百貨店が肉眼で捉えられる程の場所である。
黒子の視力が届くギリギリの位置にいるため、人間というよりは小さな白い何かとしか判別できないが、息の絶えた街で動くものは何よりも目立つ。
子供らしい低身長に雪のような髪の組み合わせは見間違えようもなかった。
ティーの目標はやはりこの辺りだったらしい。迷いない足取りで路地を曲がるのが、距離を詰めた黒子の位置からもはっきり見てとれた。

黒子とティーの間にはまだ百メートル単位の距離がある。まだ視界に収めたというだけだが、無事な姿のまま発見することができた。
ラストスパートとばかりにテレポートを重ね、黒子は目と鼻の先にまで迫ったティーの姿を捕らえようとする。
無意識に緩みそうになる気持ちを再度引き締めながら、黒子は跳躍を繰り返す。着地の際、ツインテールに結ばれた髪が夕闇に舞ってゆるやかになびいた。


【C-5/百貨店近くの路地/一日目・夕方】

白井黒子@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[装備]:鉄釘&ガーターリング、グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ
[道具]:
[思考・状況]
 基本:ギリギリまで「殺し合い以外の道」を模索する。
 1:ひとまずティーの確保を優先(放送の時間までには帰る)
 2:状態が落ち着けば、この世界のこと、人類最悪のこと、浅羽と伊里野のことなど、色々考えたい。
 3:御坂美琴上条当麻を探し合流する。また彼ら以外にも信頼できる仲間を見つける。
[備考]:
 ※『空間移動(テレポート)』の能力が少し制限されている可能性があります。
   現時点では、彼女自身にもストレスによる能力低下かそうでないのか判断がついていません。

【ティー@キノの旅】
[状態]:健康
[装備]:RPG-7(1発装填済み)、シャミセン@涼宮ハルヒの憂鬱
[道具]:デイパック、支給品一式、RPG-7の弾頭×1
[思考・状況]
基本:「くろいかべはぜったいにこわす」
 1:シズの元へもう一度行ってみる。そして、それからのことをそこで考える。
 2:百貨店でシャミセンのごはんを調達したい。
 3:RPG-7を使ってみたい。
 4:手榴弾やグレネードランチャー、爆弾の類でも可。むしろ色々手に入れて試したい。
 5:『黒い壁』を壊す方法、壊せる道具を見つける。そして使ってみたい。
 6:浅羽には警戒。
[備考]:
 ※ティーは、キノの名前を素で忘れていたか、あるいは、素で気づかなかったようです。


「……あっちの方の道に入って行った」

白井黒子の姿が一本の路地に消えるのを見届けると、身を隠す必要のなくなった少女は給水タンクの裏から静かに姿を現した。

「ななな、何今の? まるでワープみたいに……」
「遠目ではあるが御坂美琴と同じく自在法の気配は感じられぬな。外見から言っても、彼女が御坂美琴の言っていた友人とみてほぼ間違いあるまい」

黒子がティーを発見したビルから、さらに数十メートルほど西に外れた、ビジネスホテルの屋上である。
坂井悠二の手掛かりとなるバギーを求めて東へと向かっていたシャナ、アラストール、島田美波の一向はさしたる進展もないまま、百貨店近くにまでやってきていた。

「何かを探してるみたいだった」
「我らと同じく、人捜しの最中であったのかもな。接触の機を逃したのは失敗だった知れん」
「仕方ない。ろくに確認せずに近づいて攻撃されるよりはまし」
「二人ともよくこの距離からあれこれ見えるわね……」

ひどくぐったりした様子で美波が言った。全身で疲労をアピールするようにセメントの地面に膝をついている。
シャナは情けないなぁと率直な感想を抱いた。
橋の前でトーチと出会って以降、体力を消費するようなことは何も起きていないのである。
疲れるほどの移動さえできていない、というのが逆に問題になるくらいなのだ。
風向きの関係かホテル上空の熱波がちょうどシャナ達の進行方向を塞ぐように広がっていたのが主な原因である。
シャナにとっては些細としか思えない物音やら何やらにいちいち驚く美波との移動は予想外に手間のかかるものだったのであり、結局かなりの時間を徒歩での移動に費やしてしまった。
再び炎の翼を用いての飛行に切り替えられたのがついさっきのことである。時刻は間もなく放送を告げ、求める悠二は未だ影さえ捕まらない。

「ふむ。シャナよ、今からでもあの少女を追ってみる気はないか?」
「あの人間は急いでた。何かトラブルに巻き込まれてるのかも知れない。御坂美琴には悪いけど、今は悠二を追いたい」

アラストールの案にシャナは短い、しかし断固とした口調で答えた。

「しかしそれも想像に過ぎん。いずれにせよ、判断するには情報が不足し過ぎているのは分かるな?」
「それはそうだけど……」
「あるいは、これを転機と見ることもできよう。あのトーチと出会って以降、我らは成果と呼べるものを何ら得られていない。
むろんシャナの言うような危険もあるが、この場で合った縁をそう悪い方にばかり捉えるのは、疑心暗鬼というものであろう」

押し黙ったまま、シャナは前を向いた。
アラストールにも一理ある。制服の少女本人に危険がないことはほぼ間違いないところであるし、急いでいるから危険だというのも短絡過ぎるだろう。アラストールの言う通り、彼女の持つ情報が悠二との距離を縮めてくれるかも知れない。
だが、同時に、一刻も早く悠二を求めて飛び立ちたいという気持ちもシャナの中に歴然とあった。さっきの少女には悪いが、妙なことで足止めされるのは全力で避けたい。

「具体的な根拠に欠けた、多分に観念的な物言いであることは我も承知している。
ならばこそ、ここはシャナに任せようではないか。箱庭に囚われた身の我々では、どのみち完璧な判断など下せるはずもないのだ。
島田もそれでよいな?」

シャナの迷いを見透かすかのように、アラストールが決断を後押しする。
ちらりと視線をやると、美波が情けない姿勢のままおっけー、などと手を振っていた。
一番悪いのはぐずぐず言うだけで何も行動しないことだ。時間の浪費は最大の悪手である。

「分かった」

シャナは決断した。
端的に発せられた言葉は二人の同行者に速やかに承認され、シャナ達はそれに従って行動を再開した。


【C-5/市街地/一日目・夕方】

【シャナ@灼眼のシャナ】
[状態]:疲労(小)
[装備]:メリヒムのサーベル@灼眼のシャナ
[道具]:デイパック、支給品一式、不明支給品x1-2、コンビニで入手したお菓子やメロンパン
[思考・状況]
 基本:悠二やヴィルヘルミナと協力してこの事件を解決する。
 1:決断に従って行動する。
 2:島田美波を警護しつつ、彼女に協力。姫路瑞希を捜索し、水前寺を神社に連れ戻す。
 3:以上の目的を果たしたら一旦神社へと戻る。
 4:東にいると思われる“狩人”フリアグネの発見及び討滅。
 5:トーチを発見したらとりあえず保護するようにする。
 6:古泉一樹にはいつか復讐する。
[備考]
 紅世の王・フリアグネが作ったトーチを見て、彼が《都喰らい》を画策しているのではないかと思っています。

【島田美波@バカとテストと召喚獣】
[状態]:健康、鼻に擦り傷(絆創膏)
[装備]:第四上級学校のジャージ@リリアとトレイズ、ヴィルヘルミナのリボン@現地調達
[道具]:デイパック、支給品一式、
     フラッシュグレネード@現実、文月学園の制服@バカとテストと召喚獣(消火剤で汚れている)
[思考・状況]
 基本:みんなと協力して生き残る。
 1:シャナに同行し、姫路瑞希と坂井悠二を探す。ついでに水前寺も。
 2:川嶋亜美を探し、高須竜児の最期の様子を伝え、感謝と謝罪をする。
 3:竜児の言葉を信じ、全員を救えるかもしれない涼宮ハルヒを探す。
[備考]
 シャナからトーチについての説明を受けて、「忘れる」ということに不安を持っています。

◇  ◆  ◇  

やっと解放された足は思うように動いてくれなかった。
どこかも分からなくなってしまった街の中を浅羽はとぼとぼと歩く。思うように動かないと言いつつも足は別に苦痛を訴えたりはしていないし、なんだかんだで前には進んでいる。
つまり、浅羽の肉体というより精神の問題なのである。あの粗暴で意味不明の男にはなせはなせと泣き叫んだ浅羽は、いざそうなってみると亀のように鈍重な動きしかできないでいる。
これでもかというくらいに捻られた腕が微熱にも似た鈍痛をもたらしてくるが、大した問題ではない。浅羽の脳内は竜巻に蹂躙されるゴミ処理場のようにぐちゃぐちゃで、物理的な痛みなど正しく認識できているかも怪しい状態である。

浅羽直之は今すぐ走り出してしかるべきだと理解しているのに、それさえ実行に移せないでいる。伊里野の捜索を阻むものはもう存在していないはずなのだが。
安物映画に出てくる火星人のように理不尽な苦痛ばかり与えてきたあの男は、それこそ観察を終えた宇宙人のような唐突さで浅羽を放り捨てた。
所詮地球人に過ぎない浅羽に抵抗などできるはずもなかったのだ。内蔵の一部と血液をすっかり抜き取られてしまった浅羽は動くのもままならず、大人しく草原に倒れ伏すしかない。

栗色の髪をした女の子の姿が浮かび上がった。
そうだ。思い出した。まったく無力だったにせよ、それでも抵抗しようとした浅羽の体から力が失われたのは、あの女の子の声を聞いたからである。
もたらされたのは侮蔑の表情だ。見えもしなかったのに、彼女の中で浅羽はすでに人間ではなく、破棄されるべき汚物に過ぎないことが気持ち悪いほど強く感じられた。
言いわけは浮かんでこない。伊里野のために、という題目を封じられた浅羽に自己弁護の術はなかった。

かっとなって。ついできごころで。それはテレビの中だけで見るフィクションと変わりない事件の常套句だ。
夕飯の席を慎ましやかに彩るそいつらは、眉をひそめられつつも自分たちとは別の世界の人間だったはずだ。
だというのに、浅羽はそんな連中と同類になってしまった。居間に座っていたはずの浅羽はいつの間にか消えてしまい、変わりにテレビの中に現れる。
浅羽の痴情は電波に乗って太陽系全体に届けられ、翌日から近所の人がいやぁねぇなどと言いながら浅羽の背中に嫌悪の視線をよこすのだ。

突如膝が抜けて、浅羽はみっともなくすっ転んだ。空想の苦みは現実の痛みにたやすくとって変わる。こんなときに、右腕はあのときの胸の柔らかさを思い出していた。どれだけ自己嫌悪めいたことを重ねても、その記憶は浅羽の体に鮮烈に焼き付いている。

それでもいい、と浅羽はやはりそこに立ち戻る。伊里野がいるなら、伊里野を守れるなら。馬鹿の一つ覚えと言われたって構いやしない。
だって、現に自分は伊里野と再会することができたのだ。銃で撃たれても怯むことなく、伊里野をその手で抱きかかることができた。
今だって、たまたまはぐれてしまっているけどすぐに。少しすればすぐに。
ああ、とコンクリートのひんやりした感触に浅羽はふと素朴な疑問を抱いた。
すぐっていつのことだろう。

顔をあげる。街が蟻の巣のように縦横無尽に分岐を繰り返している。
すぐとは無限に広がる街路の組み合わせをすべて探索しつくした後のことだ。
そのことを思い出したとき、浅羽は静かに気絶したのかも知れない。

「……まったく、見れたものではないな」

覚醒していたかどうかも分からないので、目の前にいつの間にか大型の車が止まっていたことも別に不思議に思わなかった。
運転席から自分を見下ろしているらしい人間の姿を浅羽は確認しない。首を上げる気力がない。
声からとりあえず男であることは分かるので、その時点で浅羽の捜査対象からは外れていた。
男が車から降りる気配がした。また何かされるのだろうかと思った。このまま誘拐でもされるのか。それは困ると浅羽は思う。
そうして、男は混濁した浅羽の記憶を無理矢理掘り起こすような大声で、季節の分からぬ黄昏の煤けた空に向かって砲丸投げのように叫ぶのだ。

「き っ た ね ―――――――――――――――――――――――――――――――


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――っ!!」


がつん、とハンマーで殴られたような特大の衝撃が浅羽をおそった。
それはどうやら体中でぶつ切りになっていた浅羽の回路を入れるスイッチであったらしく、夢から覚めるような猛烈な勢いで浅羽の体は次々に現実認識を取り戻していく。

「ぶ、部長?」

もちろん、水前寺だった。

「何を当たり前のことを言っているのだ浅羽特派員! 君は俺がカマドウマか何かに見えているのかね? それともあれか、行き倒れた末に美女と乳繰りあう白昼夢でも見ていたのか。夢を見るのは結構だがせめて身なりと場所には気を遣いたまえ。今の君は汚い、実に汚い。
ぼろくずの親戚かと思って頭からどかんとひいてしまうところだったぞ。どかんと」

機関銃のような勢いでまくし立てられても、そもそもなぜ水前寺が突然現れたかも分かってない浅羽にまともな返事のできるはずもない。
白昼夢と言うなら今がまさにそうなのではないかなどと新たな妄想が生まれるが、浅羽は自分の頭がよりにもよって水前寺のコピーを生み出すなどと面倒きわまりない選択をするとは到底思えなかった。
本物と確信するしかない水前寺相手に浅羽は口を開こうとするが何も言えない。もっともそれは度重なる異常事態のせいというより、水前寺という変人を前にした浅羽の日常の行動であった。
寝ころんだまま口をぱくぱくさせる浅羽を面白いものでも見るかのように眺めていた水前寺が、ふっと笑った。

「乗れよ。こんなとこで寝てる時間はないんだろうが」

そのときいとも簡単に起きあがることができた自分の体に浅羽はさすがに乾いた笑いを漏らしたくなった。あれほど無理だ無理だと叫んでいたのに、自分の体はどこまで身勝手なのだろう。
細かい事情は分からないが、水前寺は浅羽をずっと捜していたらしい。詳しくは乗ってから話すと常と変わらぬ一方的な口調で言われた。

「ってうわ!? 何ですかこれ」

よく見ると救急車そのものであり、不思議なくらいそこら中べこべこに傷がついた車の助手席から中が見えた瞬間浅羽は叫んだ。
車内はおびただしい量の紙で埋め尽くされていた。さすがにルームミラーなど運転の妨げになるような部分には貼られていないが、それを除けばまるで黒魔術の儀式のような執拗さで大量の紙がばらまかれている。
そして、そのことごとくに『伊里野』『伊里野特派員』『伊里野加奈 』などといった文字が乱暴に殴り書きされているのだ。

「あ、あの部長、これって……?」

いきなりこんなものを見せられて、部長も伊里野を探していたんですねなどと喜べるような浅羽ではない。
浅羽の困惑に水前寺はああとなんでもないことのように答えた。

「これってお前、伊里野特派員に決まっているだろうが。 んんっ? まさかお前覚えてないと言うんじゃあるまいな? この後に及んでそんなこと言うならはっ倒すぞ、おい」
「そ、そんなことあるわけないでしょう!? ここにきてからも伊里野のことはずっと……」
「よかろう。そうでなくてはわざわざおれが走り回った甲斐がないというものだ」

答えになっていない答えで自分だけ勝手に納得する水前寺に、浅羽は会話の糸口を見失う。
水前寺はどこまでも水前寺らしく、浅羽の了承も得ずに傷だらけの救急車を発進させた。

「今からお前を、伊里野特派員のところに案内する」
「っ!? 部長、伊里野がどこにいるか知ってるんですか!?」
「だが、その前に話しておかねばならんことがある」

浅羽の悲痛とさえ言える叫びはまたしても水前寺の言葉に遮られた。

「……伊里野特派員は、もう助からん」

そこから先の話は、浅羽にはよく理解できなかった。
本物の伊里野がどうの、記憶が薄れてどうの、存在がどうしたなどという話はいかにも水前寺の好みそうな話の一系列としか思えず、一向に浅羽の耳に定着しない。
その上、当の水前寺が今まで見たことないくらい大真面目な顔をしているのだ。これが浅羽の理解を更に遠ざける。

悪い冗談としか思えないのに、水前寺がどうしようもなく本気であることが、浅羽には分かってしまうのだ。

「やはり、信じられんか」
「信じるも信じないもないですよ! 意味分かんないですって! 
そりゃ伊里野の体はぼろぼろだけど、だからって消えるとか言われても……」

普段なら冷や汗がでるくらいの速度でかっ飛ばす車の中で、浅羽は声を荒げる。
内容を考えればたとえ水前寺であっても殴りかかってよさそうなものであるが、なぜか浅羽はそれができずにいた。

「おれも無理に信じろとはいわん。だが浅羽よ、この先で伊里野特派員がお前を待っていることだけは確かだ。
少しでいい、一緒にいてやれ」

もしかしたら、本当なのかも知れない。
たとえ一瞬でも、それさえ満たぬ極小の時間であったとしても、浅羽にそのような思いを抱かせるほどに今の、そしてこれまでの水前寺には力があった。
与太にしか思えない研究に大真面目にのめり込む気まぐれな新聞部の部長。
浅羽にとって超人にも等しい水前寺の言動は、この場においてそれこそ超常現象めいた説得力をもって厳然と立ち塞がっていた。
でも。もし。そんなことって。
そうだとしたら。

それきり水前寺は何も言わなかった。
爆弾をくくりつけられた死刑囚のようにがなり立てるエンジンの音も、右から左に流れ落ちていく。
沈黙は恐怖だ。
特に、普段誰よりもやかましい水前寺がもたらす沈黙は、どんな暴力よりもたやすく浅羽の心を蝕んでいく。

「……消えたら、その人はどうなるんですか」

そんな、仮定の話をしてしまう。

「忘れられる。ごく一部の例外を除いて、関係した全ての記憶と記録がこの世から抹消される」
「そんな……」

それは自分も、水前寺さえも例外でないということなのだろうか。
浅羽の中に仮定が広がる。
あの夏の日。退行した伊里野がどんどん現在の記憶を失っていったように、浅羽もまた彼女のことが分からなくなるときが来るというのだろうか。
プールサイドでの出会いから始まるあの夏の日々が全て消えてなくなってしまう。そんなことが許される世界が、本当にあっていいのだろうか。
だとしたら、彼女は何のために存在していたのだろう。

ついたぞ、という水前寺の言葉の後、僅かな慣性が浅羽の体を押さえつけた。
ここが水前寺の目的地ということらしい。運転席の部長は動こうとしない。数メートル先のバス停まで、一人で歩いていけということらしい。
そこに、蜃気楼のようにおぼろげな、真っ白な少女が座っていた。

「……部長の言うことが正しいのかそうでないのか、僕には分かりません」
「そうか」
「どっちでもいいんです。何があっても、最後まで伊里野の側にいるって決めたんですから」
「……そうか」

小声で礼の言葉を述べて、浅羽は車を降りた。
純白の少女は浅羽のことなど気付いてもいないかのように、心細げに前を見ている。
浅羽を無視するかのような少女の姿に、怯むことなく正面に回り込み、彼女の視界を塞ぐ。
少女が顔を上げた。そして、浅羽の名を紡ぐ。
浅羽は決心し、言葉を返した。

「伊里野」

まずは、名前を呼ぼう。
そして、映画を見よう。


【B-4/市街地/一日目・夕方】

【浅羽直之@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:全身に打撲・裂傷・歯形、右手単純骨折、右肩に銃創、左手に擦過傷、(←白井黒子の手により、簡単な治療済み)
      微熱と頭痛。前歯数本欠損。
[装備]:毒入りカプセルx1
[道具]:デイパック、支給品一式、ビート板+浮き輪等のセット(少し)@とらドラ!
      カプセルのケース、伊里野加奈のパイロットスーツ@イリヤの空、UFOの夏
[思考・状況]
 基本:伊里野と一緒にいる。
[備考]
 ※参戦時期は4巻『南の島』で伊里野が出撃した後、榎本に話しかけられる前。
 ※伊里野が「浅羽を殺そうとした」のは、榎本たちによる何らかの投薬や処置の影響だと考えています。
 ※伊里野に関する記憶が薄れていってること(トーチ化の影響)をなんとなしに自覚しています。

【伊里野加奈@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:“トーチ”状態。その灯火は消える寸前。
[装備]:トカレフTT-33(8/8)、白いブラウスに黒いスカート
[道具]:デイパック、支給品一式×2、トカレフの予備弾倉×4、インコちゃん@とらドラ!(鳥篭つき)
[思考・状況]
 基本:浅羽とデートする。
 1:10時にバス停で待ち合わせ。10時半からの映画を浅羽と一緒に見る。
[備考]
 ※既に「本来の伊里野加奈」はフリアグネに喰われて消滅しており、ここにいるのはその残り滓のトーチです。
   紅世に関わる者が見れば、それがフリアグネの手によるトーチであることは推測可能です。
 ※元々の精神状態と、存在の力が希薄になった為、思考をまともに維持できていません。
 ※伊里野加奈は皆から忘れ去られかかっています。

水前寺邦博@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:健康
[装備]:電気銃(1/2)@フルメタル・パニック!
[道具]:デイパック、支給品一式、「悪いことは出来ない国」の眼鏡@キノの旅、ママチャリ@現地調達、テレホンカード@現地調達、湊啓太の携帯電話@空の境界(バッテリー残量100%)[思考・状況]
 基本:この状況から生還し、情報を新聞部に持ち帰る。
 1:事態を打開する為の情報を探す。
 ├「シャナ」「朝倉涼子」「人類最悪」の3人を探す。
 ├街中などに何か仕掛けがないか気をつける。
 ├”少佐”の真意について考える。
 └”死線の寝室”について情報を集める。またその為に《死線の蒼》と《欠陥製品》を探す。
 3:もし途中で探し人を見つけたら保護、あるいは神社に誘導。
 4:記録されていた危険人物(キノ)のことを神社に伝える。

【坂井悠二@灼眼のシャナ】
[状態]:健康
[装備]:メケスト@灼眼のシャナ、アズュール@灼眼のシャナ[道具]:デイパック、支給品一式、贄殿遮那@灼眼のシャナ、リシャッフル@灼眼のシャナ、ママチャリ@現地調達
[思考・状況]
 基本:この事態を解決する。
 1:シャナと再会できたら贄殿遮那を渡し、神社に戻るよう伝える。
 2:事態を打開する為の情報を探す。
 ├「シャナ」「朝倉涼子」「人類最悪」の3人を探す。
 ├街中などに何か仕掛けがないか気をつける。
 ├”少佐”の真意について考える。
 └”死線の寝室”について情報を集める。またその為に《死線の蒼》と《欠陥製品》を探す。
 3:もし途中で探し人を見つけたら保護、あるいは神社に誘導。
 4:記録されていた危険人物(キノ)のことを神社に伝える。
[備考]
 清秋祭~クリスマスの間の何処かからの登場です(11巻~14巻の間)。
 会場全域に“紅世の王”にも似た強大な“存在の力”の気配を感じています。



投下順に読む
前:【Hg】ハイドリウム 次:disappear/loss
時系列順に読む
前:【Hg】ハイドリウム 次:disappear/loss

前:CROSS†POINT――(交信点) 前編 坂井悠二 次:Memories Off (上)
前:CROSS†POINT――(交信点) 前編 水前寺邦博 次:Memories Off (上)
前:アがれはしない十三不塔――(シーサンプーター) 前編 白井黒子 次:Memories Off (上)
前:アがれはしない十三不塔――(シーサンプーター) 前編 ティー 次:Memories Off (上)
前:アがれはしない十三不塔――(シーサンプーター) 前編 浅羽直之 次:Memories Off (上)
前:アがれはしない十三不塔――(シーサンプーター) 前編 伊里野加奈 次:Memories Off (上)
前:アがれはしない十三不塔――(シーサンプーター) 前編 相良宗介 次:忘却のイグジスタンス
前:アがれはしない十三不塔――(シーサンプーター) 前編 リリアーヌ・アイカシア・コラソン
・ウィッティングトン・シュルツ
次:忘却のイグジスタンス
前:とおきひ――(forgot me not) シャナ 次:Memories Off (上)
前:とおきひ――(forgot me not) 島田美波 次:Memories Off (上)



最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー