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とおきひ――(memory once again)

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とおきひ――(memory once again) ◆EchanS1zhg



 【0】


Today is the first day of the rest of your life.


 【1】


時はさかのぼり、まだ西の空が紅く染まりきってない頃。

埃の中に錆の匂いが混じる薄暗い格納庫の中にいたティーは、物資調達に向かうと言う黒子を見送ると、
言いつけられていた浅羽と伊里野の見張りを放棄し、喋る猫であるシャミセンを両手に抱いて通用口から外へと出た。
滑走路から離れた芝生の上をサクサクと歩き、右を見て左を見て、そしてティーはこっそり飛行場を脱走してしまう。

彼の元へと、何かを確かめる為に。

ティーは小さな歩幅でゆっくりと、しかしよどみなく暮れかかる街の中を歩いてゆく。
ここは初めての《国》だが物覚えは悪くない。一度通った道ならば、大抵その一度で覚えることができた。
とはいえ、そのまま通りを辿ってゆけば自分の不在に気づいた者が追ってきた場合見つかってしまうかもしれない。
なのでティーは少し道を外れ、脇道や裏通りなどを使ってその場所へと向かうことにした。方向感覚にも自信はあるのだ。



たくさんの植木鉢が並べられた家の前を通り、空っぽの犬小屋の前を通り、垣根に囲まれた家の前を通りすぎてゆく。
壊れた自転車の転がる路地を抜け、子供でも狭いと感じる路地を抜け、ゴミ箱の並ぶ路地を抜けてゆく。
少しずつ紅く染まってゆく街の中を彼女なりのペースで、ゴムの靴で地面を踏み、小さな歩幅で少しずつ通りすぎてゆく。

途中、建築途中のビルの中を通った。むき出しのままの鉄骨とパイプ。敷かれたままの鉄板の上を歩く。
コンコンと音を立てる足裏の堅い感触はティーにとって懐かしいもので、少しだけ生まれ故郷を思い出した。

背の高い集合住宅の囲む中、ぽっかりと開いた場所にあった公園の中をティーは横切ろうと入ってゆく。
砂場のわきをすぎて、少し逡巡してからティーは目の前のすべりだいの上に上った。
その公園の中で一番高い場所から落ちかけの夕陽を探して西の空を見る。
けれども、背の高い建物のせいで夕陽を見ることはかなわない。
ティーは猫を抱いたまま上ってきた階段を下りて、そのまま進路へと戻り、また黙って歩きはじめた。

紅い陽の中と藍色の影の中とを交互に進み、そしてそのうちようやく百貨店の姿が建物の合間から見えるようになってくる。
後もう少しと……その時、自分の名前を呼ぶ黒子の声が背中に聞こえた。後もう少し、だからすこし早足にそこへ駆け込む。



そして彼はまだそこにいた。何も変わらず、ただ陽だけが落ちていて、影の中に。もう忘れられたもののようにそこにあった。
一度立ち止まって、三歩駆け寄ってまた止まった。そこから彼の――亡くなったシズの姿をティーはじっくりと見つめる。

倒れている彼の姿を見るとあの砂浜でのことが連想されて、ティーも一度はあの時と同じようにしようとしたけれど、
しかし止められて、そう言ったのは違う人だけれども、生きろと――彼の声を聞いた。
でも、どうすればいいのかわからないからティーはまたここに戻ってきた。
彼の声をもう一度聞きに、死んだ人間が口をきけないことなんて充分に知っているのだけど、それでも確かめに戻ってきた。

もう一歩前へ。彼の顔を見る。血と煤に塗れていてボロボロだった。ティーは彼のこんな姿は見たことがなかった。
耳を澄ましても声は聞こえない。
そしてふと気づく。彼が身に纏う深い緑色のレインコート。そしてふと思い出す。雨音の記憶。
強い雨の中、彼のレインコートの中で彼に寄り添い聞いたバラバラという楽器のような雨音のことを。

じくじくと思い出が心の中に染み出してきて、胸が締めつけられる。

もう一歩前へと足を踏み出し、彼の血を踏まないぎりぎりの所まで近づいて、――そこで黒子の声に呼び止められた。






 【2】


「……結局、復讐ですのね?」

追いついてきた彼女の最初の台詞はこうだった。
ふくしゅう。
そうか、そんなことができるのかとティーは思い、その言葉を新しい寄り辺とすることに決めた。

「それで、いまきめた。つまりそういうこと」

生きる目的でも、生きる理由でもない。必要だったのはもっと実際的な、生き方というもの。
生まれ育ったあの《国》の中には与えられた生き方が存在した。シズと旅する間はそれがティーの生き方だった。
彼を失った今のティーの生き方。それは復讐。それは今のティーにとってとてもしっくりとくる生き方だった。
方法論でもない。理屈や理念でもない。自分自身の在りようを決めてくれる、そんな型をティーは欲していたのだ。

「たぶん、あのおおきなたてものがあやしい」

生き方が決まったのなら、それに従えばいい。すること、しなくてはいけないことは明白だった。
にじり寄る黒子にティーは逃げないといけないと考える。黒子に捕まってしまえば復讐できなくなるからだ。
半歩足をずらして――そこで、胸に抱いていた猫が喋り始めた。



「猫の主観での話になる可能性が高いと考え、敢えて発言は慎んだのだが――……」

そういえばずっと抱いたままだったことをティーは今更ながらに思い出した。
しかしこの猫の話は回りくどくて長ったらしい。
あの《国》の《船長》を思い出す。他の《国》でもこんな喋り方をする人やモノはいた。大抵の場合それは年寄りだ。
ならばこの猫も年寄りなのかもしれない。ティーは話の内容よりも猫が年寄りなのかが少し気になった。

結局、猫の話を要約すれば、個人の自由意志の尊重とそういうことだった。
そしてその意思に干渉する権利などどこの誰にも存在しないと、ティーにとっては風向きのよい話だ。
さてそうなれば今のうちに立ち去りたかったが、このまま抱いて走り去ると猫と黒子の会話が途切れてしまう。
じゃあ投げ捨ててゆけばいいと思うが、しかしそうするにはこの猫の抱き心地はよすぎた。あの陸という犬の次くらいには。
仕方ないので少し待つことにする。
会話はほとんど聞き流した。いつの間にかに自分ではなく黒子の話になっていたからだ。ティーはそんなことに関心はない。

「……ティー?」

呼びかけられる。どうやら猫と黒子の話は終わったらしい。

「ひょっとしてあなた……、その復讐が無謀だと、自分でも理解しているのではないですか?」

無謀。それが達成できるのかできないのか、それを全然考えてなかったことに気づく。
実際そうなのかもしれない。彼に痛手を負わせた相手に自分が勝てるのかというとそれはとても言えそうになかった。
しかし、生き方にできるできないは関係ないのだ。
それは男として生きたくないから女にしてくれと神に願うようなもので、後からどうこうするというものではない。

「自分でも意志が固いのか柔いのかが、わからないのでは? ……本当は私に、自分を止めて欲しいのではなくて?」
「あのひとをわすれて、いきていけってこと? それはいや。ぜったいにことわる」

駄目だ。生き方がないと生きてゆけない。生き方がなければティーはどうしていいのかわからなくなってしまう。

「復讐を企てない事と、その人の事を忘れる事。この二つは、同じではありませんわ。
 "仇討ちは武士の華"など今は昔。過激な行動など起こさずとも……彼を想い、彼の分まで生きる事が、弔いになる」

必要なのは彼を弔う方法ではなかった。必要なのは自分がどうすればいいかと定めてくれる決まりごと。

「いずれ解る事ですわ。そして、いずれ解ると言うことはつまり、"これから生きていかねば解らないということ"。
 ……無駄に命を捨てるのはおやめなさい。彼を追い、彼だけの為に死ぬなんて……思い出の中で、じっとしているだけですの」

今わからないといけなかった。今、ティーは生き方を見失っていたから。どうすれば生きていられるのかわからなかったから。

「"貴女が彼の事を想い続けている限り、ただそれだけで彼は貴女の心で生きている"という事を、貴女もいつか理解する日が来る。
 "彼が本当に死ぬとき"とは、"誰にも思い出されることがなくなった"時。貴女の今の行動は、彼自身を真に殺害する事と同義ですの。
 忘れないということは、それだけで素敵な事ですから」

彼女の言っていることがティーにはよく理解できなかった。
ティーはいつでも答えを求めているのに大人たちの話は年寄りじゃなくてもみんな回りくどすぎると思う。

黒子が手を差し伸べる。この手の意味はなんだろう?
こちらも手を伸ばせばいいのだろうか。しかしけれども、両手は猫を抱きかかえるのに使ってしまっている。



10秒ほどたって、彼女は伸ばしていた手を引っ込め、両手を腰に当てて何か呆れたような大きな溜息をついた。
そのままあたりを見渡し、そしてもう一度こちらをきつく睨みつけると腰に手を当てたまま語気荒く喋り始める。
猫とティーの両方に向けて――

「確かに、にゃんこさんの言うとおり彼女の復讐という意思を肯定しその道に送り出すというのもひとつの判断ですし、
 彼女を一個人として扱いその主義を尊重するというこになるでしょう。ええ、それは間違っていませんとも。
 ですが、言うまでもないことですがそれが実際にそうできるかというとそうでない可能性が高く、危険も多い。
 いえ、危険などという話ではなく十中八九、口にもしたくない不幸にあってしまうことでしょう」

抱えている猫はそのとおりだと頷いた。ティーにはまだどうでもいい話だった。

「しかしですの。それらの諸々の現実的な事情を取っ払って、彼女の復讐が達成されると肯定したとして
 それがそのまま彼女が生きてゆくという条件を満たすかというと、それは絶対にありえませんの!
 なぜならばこの世界は3日で、今からなら後2日と四半日で消えてなくなってしまうのですから。
 つまり、成否に関係なく復讐の道は生きてゆくということ自体に繋がっていないということです」

なるほどと猫が喉をくるると鳴らした。ティーは嬉しくない時でも猫が喉を鳴らすのだと思った。

「そして、お分かりですか? 猫の主観とおっしゃいましたが、ええその通り猫と人間では生き方が違いますの。
 昨日も明日もないにゃんこと違って、人間は明日も明後日も一週間後も一年後もその先ずっとを見据えて生きるものなのです。
 私がここで主義主張を各々方とぶつけているのは何もディベートをしようと考えているからではありませんのよ?
 このたったひとつの事件を乗り越えて、その先に確かな人生を取り戻すため方法を模索する協力者を募るためなんですの」

黒子の声に熱がこもる。何か溜め込んでいたものがあったのだろうか、しかしそれよりティーは彼女の言う生き方が気になった。

「人は人の中で生きてゆくものです。係わり合い補い合いながら一緒に。易々と孤高の野良猫を気取るものではありません。
 わからないなら聞けばいい。できないなら助けてもらえばいい。
 そして、自分の他にできない人がいれば今度は自分がその人の話を聞き、手を差し伸べればいい。
 怖い時、不安な時は誰かそばにいてもらえばいい」

随分と実感のこもった意見だと猫が言った。ええ、最近私にも思い知るところがありましてと黒子は答えた。

「ティーもそうされたことがあるのではありませんか?」

その言葉からは熱も棘も取り払われていた。全然違う人間なのに、まるで彼のように優しい言葉だった。

「人生は長い。それを忘れてはいけませんのよ?
 何年も何十年も、私もあなたもお婆ちゃんになるまで生きるのですから、慌てる必要などどこにもないのです。
 ここであなたと会ってまだ一日にも満たないつきあいですが、私はあなたをもう仲間だと思っています。
 勿論、ティーの意思も尊重しますけれど、それは私にとっては過ちや危険を犯す場面を見逃すという意味ではありませんの。
 お節介だろうと言われようとも、私白井黒子はあなたを助けたい。そこに主義主張なんて関係ありません」

そして、黒子は腰に当てていた手を再び差し伸べた。
今度はティーにもこの手の意味はわかった。これは、ティーに自分の生き方を見つけさせてくれる道しるべだ。


「私はあなたを見捨てたりはしません。……これからも一緒に助け合ってゆきましょう」


それは彼の声と同じだった。


ティーはその手を取り、そして――……



――地面に落ちた猫がふぎゃあと鳴いた。






 【3】


「――後、行方不明なのは”浅羽さん一人”ですけれども、もう時間ですので一旦飛行場に戻りますの」

黒子に抱かれ、そして猫を抱いて、ティーは黒子に連れられ茜色の帰り道を行く。
建物から建物へ、その屋上へ、その鉄塔の上へ、なんの遮りもない場所を彼女の能力で疾走してゆく。
その高さからはさっきは見えなかった夕陽がよく見えて、まるで今は空を飛んでいるみたいで――


――その紅い夕陽は、彼と一緒に見たあの夕陽と同じ色をしていた。






【B-5/飛行場の近く/一日目・夕方(放送直前)】

【白井黒子@とある魔術の禁書目録】
[状態]:健康
[装備]:鉄釘&ガーターリング、グリフォン・ハードカスタム@戯言シリーズ
[道具]:
[思考・状況]
 基本:ギリギリまで「殺し合い以外の道」を模索する。
 0:放送に間に合うよう急いで帰りますの。
 1:その後のことはクルツ達と相談して決める。
 2:状態が落ち着けば、この世界のこと、人類最悪のことなど、色々と考えたい。
 3:御坂美琴上条当麻を探し合流する。また彼ら以外にも信頼できる仲間を見つける。
[備考]
 『空間移動(テレポート)』の能力が少し制限されている可能性があります。
 現時点では、彼女自身にもストレスによる能力低下かそうでないのか判断がついていません。


【ティー@キノの旅】
[状態]:健康
[装備]:RPG-7(1発装填済み)、シャミセン@涼宮ハルヒの憂鬱
[道具]:デイパック、支給品一式、RPG-7の弾頭×1
[思考・状況]
 基本:「くろいかべはぜったいにこわす」
 0:そらをとんでるみたい。
 1:黒子と一緒にいる。
 2:RPG-7を使ってみたい。
 3:手榴弾やグレネードランチャー、爆弾の類でも可。むしろ色々手に入れて試したい。
 4:『黒い壁』を壊す方法、壊せる道具を見つける。そして使ってみたい。
 5:浅羽には警戒。
[備考]
 ティーは、キノの名前を素で忘れていたか、あるいは、素で気づかなかったようです。




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