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須藤晶穂の憂鬱

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須藤晶穂の憂鬱 ◆mk2mfhdVi2


「きゃあっ!」

 エリアを一つ移動して、エリアA-2。
 小さな段差を踏み外して、悲鳴を上げながら逢坂大河は転倒する。
 もう何度目かはわからない、元より誰も数えていない地面との接触。
 膝小僧からも、とっさについた手の平からも血が滲み、
高須竜児の手によって常に新品同様に保たれている制服は泥にまみれて、ところどころ破けている。
 無惨、と言うにふさわしい状態だったが、それでも彼女は立ち上がり、再び夜の森を駆け始める。
 大河自身、その行動が暴挙であるとは理解していたが――けれども、走りを止めるわけにはいかなかった。

 大河の小さな体躯を突き動かしているものは、恐怖。

 平凡、とまでは言えずとも、それでも平穏ではあった日常を過ごしてきた少女が、初めて遭遇した非日常。
 生まれながらの殺人鬼、殺人鬼と殺人鬼のハイブリット。人間失格、零崎人識
 立ち止まったらあいつに追いつかれるかもしれない、今度は右手だけじゃすまないかもしれない。
 今度こそ――殺されるかもしれない。
 そんな恐怖に支配されながら、終わりの見えない転倒と逃亡を繰り返しす大河。

「誰か……誰か、助けて! みのりん、竜児、北村くん、ばかちー!」

 耐えがたい恐怖に怯えながら、大河は無意識のうちに友人達の名を叫ぶ。
 けれど、どれだけ彼女が泣き叫ぼうとも、その声は彼らの元に届きはしない。
 たとえどんなに強固な絆に結ばれていようと――数エリアの距離は、あまりに遠すぎた。



 そんな大河を、見下ろす影が一つあった。






 バトルロワイアルが開始した直後、エリアA-2の森の中でのこと。

 当然のことながら、あたしは困惑していた。
 だって、しょうがないじゃない。気づいたら変な箱の中に詰められていたと思ったら、
 センスの微妙なお面を被った男が現れて、よくわからない説明をしだして。
 それで、男の話が終わったと思ったら、今度はぽつんと一人で山の中に立っていた。
 こんな状況で落ち着いていられる人間なんて、部長位のものだ。
 ……いや、部長ならむしろ落ち着くどころか、これはUFOの仕業だ! とか言って、いつも以上におおはしゃぎするか。まあいいや。
 けれど、今回ばかりは流石に、あたしとしてもUFOやら宇宙人の仕業だというのも吝かではない。
 そうでも考えないと、理解できないようなことが多すぎるからだ。

「どう考えても……この量は入らないわよね……」

 いつの間にか手に持っていた黒いデイバッグと、地図やら懐中電灯やら、そのデイバッグから出てきた品物を地面に置いて見比べながら、あたしは呟く。
 まだ出しただけで、一つ一つを細かく見てみただけではないけれど、少なくとも通常この大きさのデイバッグに入る量で無いことは一目瞭然。
 ドラえもんの四次元ポケットのようなもの。男はそう例えていたけれど、中々的確な例えだった。
「でも、武器も入っているって言ってたから少し期待してたのに、よりによってこれなのね……」

 あたしは今、ヘルメットを被っていた。
 それも、ただのヘルメットでは無く、自分がよく見慣れたもの。
 非常事態の際に学校から被って通学することが義務付けられる、学校指定の黄色いヘルメットだ。
 重い、暑い、恥ずかしいの三拍子揃った生徒皆の嫌われものを何故あたしが被っているかといえば、このデイバッグから出てきたからに他ならない。
 たしかに非常事態ではあるからとりあえず被ってはみたのだけれど、まさかこんな場所まで来てこのヘルメットを被ることになるとは想像だにしてなかった。
 ついでに言えば、デイバッグを何度探してもこれ以外に武器の類のものは見つからず、
 あたしは今、自分自身の運の無さをこの上無く実感していた。

「いや、こんな事件に巻き込まれる時点でもう相当に運は無いのか……」

 懐中電灯の明かりを頼りに、名簿を眺めながらあたしは呟く。
 そこには、あたし同様に運の無い三人の知り合いの名前も書かれていた。
 浅羽直之と、伊里谷加奈と、水前寺邦博
 頼りになるとは言い難いけれど、とりあえず知り合いの名前が書かれているのを見て、
 あたしは巻き込まれたのが自分一人だけではないということに少しだけ安堵して――

『そして、生き残ることができるのは一人だけ。
 蜘蛛の糸の話を知っているものはその顛末も知っているよな?
 欲をかくなよ。一人だけという条件は絶対に覆らない』

 男のそんな説明を思い出して、一気にブルーになった。
 生き残れるのは一人、つまりその一人以外の五十九人は……死ぬのだ。
 あたしが、伊里谷が、部長が、浅羽が、四人揃って生きて園原に帰れる、ということは無いのだ。
 一人だけ生き残るか、四人揃ってここで死ぬか、選択肢はその二つしか存在しないのだ。

「……どうしよう」

 制服のスカートが汚れるのも構わずにあたしは地べたに座りこんで、頭を抱える。
 もちろん絶対に死にたくなんか無いけれど――誰かを殺して、一人だけ園原に帰ったとして、それでどうするの、という感じだ。
 というか、どうしようもないじゃないこんなの。

「皆は……どうするのかな」

 自然と、そんな言葉が口から溢れ出ていた。
 自分と同じような問題に直面しているだろう、伊里谷は、部長は、浅羽は、
 どんなことを考えて、どんな選択肢を選ぶのだろう。

「伊里谷は……多分、浅羽を探すんだろうな」

 多分というか、これに関しては間違い無く言える。
 目標以外には目もくれないで、浅羽を探して回ることだろう。
 基地に住んでいるのだから、非常時の対応も知っているだろうし、こんな状況の中ならあたしよりもよっぽどうまくやるはずだ。

「部長は……ダメだ、想像つかない」

 この状況に興奮していることだけは容易に想像できるけれど、それ以上のことはわからない。
 それ以前に、部長の行動を予測できる人間が、この世界にいるのだろうか。
 とりあえず自分にはできないことだけは確かなので、部長についてこれ以上考えるのは止めておく。
「浅羽は……」

 浅羽は、どうするのだろうか。

 ……わからない。

 普通に考えれば、伊里谷や部長よりも余程わかりやすい思考をしているはずの浅羽の考えが、今のあたしには全然わからない。
 なぜか? そんなのは決まっている。伊里谷が――伊里谷加奈が、絡んでいるからだ。
 いつもは冴えないただの男子中学生のはずの浅羽が、突然予想もつかない動きをするときは、いつだって伊里谷が絡んでいた。
 少なくとも、ここ最近はそうだ。シェルターの時も、つい先日の、旭日祭の時も。
 浅羽はいつも――伊里谷ばかり見ていた。

「はあ……こんな状況で、何考えてるんだろうあたし。他にも色々、やるべきことはあるはずなのに」

 溜め息を吐いて、のろのろとした動作で出した物を再びデイバッグの中にしまう。
 全て問題無く入り、最初と同じ状態となったデイバッグを背負って、あたしは立ち上がる。
 色々思う所はあるけれど、ひとまず浅羽達を探そう。
 時計を見れば、すでに零時三十分を回っている。
 最初にあの男が言っていた、二時間毎に世界が『切り取られる』という話。
 『切り取られる』というのが、具体的にどういった意味を持つのかはわからないけれど、
とりあえず、その切り取られる場所に居てはまずい、と言うのは間違い無いはずだ。

「今あたしが居るのは山で……山の頂きが大分西の方に見えるから、多分A-2辺りよね……」

 A-2が『切り取られる』のは午前四時。猶予は三時間以上ある。
 地図に一エリアの大きさが書かれていないのが痛かったけれど、今更そんなことに文句を言っても仕方ない。
 やるしかない。ここに居たら、死ぬだけなのだから。

『まぁ、精々……頑張って、生き残ることだ』

 男の言葉が、脳内でリフレインする。
 あの男は、自分があたし達と同じ状況にあると言っていた。
 その言葉を信じるならば、あの男の上に、この状況を作り上げた誰かがいるのだろう。
 そいつはもしかしたら宇宙人で、あたし達がポップコーンを食べながら映画を見るような気楽さで、
UFOからあたし達が必死に生きようとする様を、面白おかしく見ているのかもしれない。

 上等だ。
 精一杯、あがいてあがいて、宇宙人達の腹筋を崩壊させて、笑い過ぎで顎を外して病院に送らせてやる。

 そんなことを考えながら、あたしは山を歩き始めた。







 ……どうしよう。

 地面に倒れたまま足を押さえて唸っている少女を物陰から見ながら、あたしは考える。
 あたしが、あの女の子を発見したのはまったくの偶然だった。
 右の靴紐がほどけたので、その場で足を止めて直していたら、微かな泣き声が聞こえたのだ。
 声の方へと向かってみれば、案の定あの女の子が倒れていた。
 どうやら何度も転んだようで制服はボロボロだし、体のあちこちから血を流している。
 すぐにでも側に行って治療してあげたかったけれど――あたしの理性がストップをかけた。

 自分は今、山を下りている。
 急いで下りなければ、『切り取られる』。
 そんな状況で、あんな見るからに足手まといになりそうな女の子を、助けている余裕があるのだろうか?

 そんな声が、自分の中から聞こえてくる。
 たしかに、その通りなのだ。山道に苦しんだせいで、二時を過ぎたというのに大して距離を稼げていない。
 少しずつタイムリミットが迫り来るこの状況であの女の子を助けても、共倒れになるだけかもしれない。

 けれど、ここで女の子を放っていけば、女の子は確実にここでA-2とともに『切り取られる』。

 共倒れになるリスクを承知で、女の子を助けるか、それとも、見捨てるか――。

 あまりにも突然過ぎる選択肢を前に、あたしは動けず、ただ女の子が苦しむ様を見ているしかなかった――


【A-2/一日目・深夜】

【逢坂大河@とらドラ!】
[状態]:恐慌状態、右手欠損(止血処置済み)、全身に傷(行動に影響あり)
[装備]:なし
[道具]:デイパック、支給品一式(未確認ランダム支給品1~2個所持)
[思考・状況]
1:実乃梨、竜児助けて!
[備考]
※原作3~4巻まだ北村>竜児の時期からの参戦です。


【須藤晶穂@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:健康
[装備]:園山中指定のヘルメット@イリヤの空、UFOの夏
[道具]:デイパック、支給品一式
[思考・状況]
1:女の子を助けるか、それとも――
[備考]
※原作二巻終了後からの参戦

【園山中指定ヘルメット@イリヤの空、UFOの夏】
学校指定のヘルメット。
中身は米軍の使用しているものと同一なのでとても優秀な品であるものの、
カバーが幼稚園の通学帽のごとき黄色なため、生徒からの人気は低い。


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