ラノロワ・オルタレイション @ ウィキ

Sleeping Beauty

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Sleeping Beauty ◆EA1tgeYbP.


 エリアB-5の飛行場。
 夜間飛行に備えるためか、深夜という時間帯にもかかわらず明るいその場所に、一人の男が座り込んでいる。
 頭をがしがしと掻きつつ、紙を、参加者名簿を見ている男の名前は榎本。……いや、この言い方は正確ではない。
 正しくは、男は今のところ榎本と呼ばれているとでも言うべきだろう。

 ――閑話休題。

 彼はある任務に向かう途中、ちょっとした仮眠から目覚めるとこの状況下に投げ込まれていた。
 たいていの人間にとってはどれほどの混乱を引き起こすかわからないこの状況、彼も外見はともかく内心はかなり激しく動揺していた。
 ――最もその理由は普通の人間のようにパニックによる物ではなかったが。

 ――突然の拉致。

 ――次の瞬間には、自分の命が奪われていてもおかしくはない状況。

 これらに関しては実は男の動揺を誘うとまではいかないものだ。
 彼の日常からすれば、これらの問題は非日常的なものではなく、普通に日常の延長線ともいえるもの、
 「厄介なことになった」という感想を抱きこそすれ、それ以上の感想を抱くことなどはない。
 だが、今はその例外といえる状況となっていた。

 その理由は二つ。
 名簿に載っている都合3つの名前のせいだ。

「……何をやってるんだ、木村のあほは」
 理由の一つ、水前寺邦広。

 ……正直なところ榎本にとっての水前寺とはあくまでも年齢の割りには頭が切れる、
 まあ、そんじょそこらのマスコミなんぞよりはよほど警戒するに値するレベルのガキ、という程度の存在であって、それ以上でも以下でもない。
 普段ならば彼の名前が乗っていようと榎本を動揺させるには至らない。

 ……そう、普段ならばだ。

 今、水前寺が置かれている状況、いや、置かれていた状況。そこから彼が連れてこられたと考えると、
 自分が拉致された以上に園原基地――ひいてはディーン機関やブラックマンタといったトップシークレットにかかわってくるセキュリティの問題だ。
 断じて見過ごせる事態ではない。

 ――だが、今はそれ以上に彼にとって見過ごせない名前が名簿に載せられていた。


 少し前までならばともかく、今となっては彼や水前寺が拉致されたことと比べると、彼ら二人が攫われた事、それ自体は驚くには値しない。
 ――しかし。

「何をやっていやがる、浅羽のあほが」
 窺い知れないほどの感情を込めた疲れた声で榎本はふう、とため息と共に呟いた。
 ……伊里野加奈には世界の命運がかかっている。
 冗談のような、これはどうしようもない事実でもある。はじめからたった五人しかいなかった、今となってはただ一人きりのブラックマンタのパイロット。地球の、人類の未来を守る最後の希望。
 彼女はその特殊な資質ゆえに普通の生活とは程遠い生活を、否応無しに歩むこととなり、四人の仲間を全て失った結果、守るものさえなくなった。
 ……そんな彼女に守るべきものを与え、それを奪われないように彼女に戦意を呼び起こす。正式名称ではなく俗称「子犬作戦」と呼ばれるそれを考えたのは他でもない榎本だ。

 彼、あるいは彼らの目論見どおり伊里野は与えられた子犬……浅羽直之を大事に思い、彼を守るために戦おうというようにその気持ちを変えていき、……当たり前のように人間としては壊れていった。

 ――そんな伊里野を守るために、浅羽が伊里野と共に逃亡したのが少し前。 

 ……榎本としては無理に彼らを連れ戻すつもりはなかった。

 確かに伊里野がいなければ世界が破滅するかもしれない。
しかしだ、榎本に言わせれば世界の危機なんてダイエット商品とさほど変わらない。
元々五人いた子供達の内の、生き残ったたった一人がいなければ滅んでしまう世界など、
たとえ無理やり伊里野を連れ戻して戦わせて、先延ばしをしたところで、滅びてしまうのは時間の問題だ。
ならばせめて彼らの好きにさせてやろう、そんなつもりだったのだ。

 ――だというのに。

「浅羽のあほが……」
 もう一度榎本はため息をつく。
 状況は極めて悪かった。彼の立場からすれば何が何でも伊里野を生き残らせる、それが正しい。
……だが、それは最終的には浅羽を殺すということと同義である。あそこまで浅羽に入れ込んでいる伊里野が浅羽を犠牲にして生き残ったとしても、
はたしてその後まで世界を死んでも守ろうという意思を持つことができるだろうか? 

……正直最後まで生き残っていた伊里野の仲間、エリカが死んだ時以上にひどい精神状態になっているところしか榎本には想像できない。

「……ってことはこれはない」
 極めてあっさりと、榎本は伊里野優勝案を破棄する。
……それにできればこんなくだらないゲームなんかで彼自身も死にたくはない。
そうなると残る手段はただ一つ。何とかしてこの会場から脱出を目指すしかない。

 自分と伊里野、浅羽が脱出することそれが最低目標だ。
ただ問題として、ある程度の裏事情を浅羽が知っている今となっては、浅羽が簡単に自分が信用されるとは思えない。
何せ自分は無理やり伊里野を戦わせていた人間の一人だ。

「やはり、ある程度の人間か……それかできれば水前寺あたりを上手く味方につけれりゃあ何とかなるか」
 どの道、水前寺も記憶を消すつもりでいたわけだし、ある程度の事情、トップシークレットの一つ、ブラックマンタのことなどを奴は知っている。
そこにもう少し教えてやったところで不都合はない。いざとなれば水前寺の奴をこちらに取り込んだって構わない。
榎本はそう判断する。

「――基本的にはこんなとこか」
 そう言うと、榎本は立ち上がり視線を少し先にある格納庫へと向ける。小さな音だったが間違いはない。先程確かにあの中から物音が聞こえた。
 この施設の名称が飛行場である以上、おそらくあそこには飛行機やヘリなどが並んでいることだろう。
 仮にそれらが使用可能なら脱出派、優勝狙い派のどちらにとっても極めて有用な道具となりうる。
 ――だが、榎本は格納庫内にあるであろう飛行機の類は使うことはできないだろうと踏んでいた。
 あの狐面がこちらに期待しているのはあくまでも「殺し合い」だ。
 例え優勝狙いの奴が飛行機を手にしたところで、行われるのは反撃することさえ許されない一方的な「虐殺」であって「殺し合い」ではない。

「さて、できれば乗ってないやつなら良いが」

 そう気楽に呟くと榎本はそちらに歩みを進める。

 できれば殺したくはない、それはまったくの本心だ。向かう先にいる相手がどんな相手かはわからないが、殺さずに話し合いで仲間になるならそのほうがはるかに良い。
 そもそも、浅羽や伊里野が今どういう相手と行動しているかさえわかった物ではないのだ。
 例えば榎本が誰かを殺し、そいつの知人が伊里野と同行中。放送で知人の死を知ったそいつがトチ狂って皆殺しを企て、真っ先に同行相手だった伊里野を殺害。
 ……そんなことにでもなったら目も当てられない。
 ……まあ、仮にこれから向かう先の相手が殺し合いに乗っていても負けるとは彼は思っていなかったが。
 手には何も持たぬまま、油断も慢心もなく男は格納庫へと歩みだす。


 ……数分後。

「……おいおい」
 気の抜けた溜息を榎本は漏らしていた。

 ――ステルスやらゼロ戦やら飛行機であるという一点を除けば共通項がほとんどない無作為に飛行機が並ぶ格納庫。
 少し調べてみたが、榎本の予想通りそれらには一切、燃料などは入っておらず動かすことはままならない。
 そんな動かぬ内の一機のコックピットの中にその女性はいた。

 ……もう少し正確に言おう、少し前まではコックピットの中でデイパックを抱き枕のように抱きしめて口からは涎さえ流して寝こけている女性がいた。
 今も女性は寝こけているが、デイパックは抜き取られている。
 無論、抜いたのは榎本だ。そしてそこまでされても女性は一向に起きようという気配は見せない。 

「……おーい、起きろ」
 デイパックを抜き取って、不意打ちに備え後部からぺちぺちと女性の顔をたたくが。

「……むぅ、うーん。大丈夫だってばぁ……」
 こんな調子である。ちなみにこれで三回目。
一向に起きる様子がない女性を見下ろし榎本はもう一度溜息をついた。

「……本当に殺し合いがおきてんのか?」
思わず榎本は愚痴り

「……大丈夫だってば。リリアぁ」 
 ……女性の返答とも聞こえる寝言に榎本はもう一度大きく息を吐き出した。

【B-5/飛行場内/一日目・深夜】


【榎本@イリヤの空、UFOの夏】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:デイパック×2、支給品一式(未確認ランダム支給品2~6個所持)
[思考・状況]
0:とりあえず目の前の相手が起きるのを待つ。
1:浅羽、伊里野との合流。
2:水前寺を見つけたらある程度裏の事情をばらして仲間に引き込む。
  (いざとなれば記憶はごまかせばいい、と考えているためにかなり深い事情までばらしてしまう可能性があります)
3:できるだけ殺しはしない方向で
[備考]
※原作4巻からの参戦です。
※浅羽がこちらの話を聞かない可能性も考慮しています。

アリソン・ウィッティングトン・シュルツ@リリアとトレイズ】
[状態]:健康  睡眠中
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
1:Zzz……。
[備考]
※一応、西東天の説明は聞いていました。ただ、会場内で目を覚ましていないだけです。


※格納庫の中に数台の飛行機がありますが、全て燃料がまったく入っていないために動かすことはできません。


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