キアリクは効きますか? ◆JZARTt62K2
ケロイドのように張り出した樹木の根を飛び越えると、窪みに溜まった落ち葉が風圧で少しだけ浮いた。
ニッカーボッカーをくすぐる空気はひんやりと冷たく、森の活動が正常であることを教えてくれる。
跳んだ拍子にずれたシルクハットを整えながら、僕らは影絵の森を歩く。
会話はない。ただ、ずるずると棺を引き摺る音だけが虫の鳴き声に覆い被さっている。
ニッカーボッカーをくすぐる空気はひんやりと冷たく、森の活動が正常であることを教えてくれる。
跳んだ拍子にずれたシルクハットを整えながら、僕らは影絵の森を歩く。
会話はない。ただ、ずるずると棺を引き摺る音だけが虫の鳴き声に覆い被さっている。
「バルディッシュがね」
突然、タバサが口を開いた。
足を止めて振り返ると、どこか暗いタバサの顔が目に入る。その顔からは、まるで覇気が感じられない。
野比のび太と太刀川ミミのことを伝えに塔に戻ったときから、ずっとこうである。
自分がいない間に何かあったのだろうとは察しはついたけれど、僕は結局尋ねることができないままでいた。
「放送で、フェイトって子の名前が呼ばれたでしょ? ほら、バルディッシュの持ち主の」
「フェイト……? ごめん、ちょっと覚えてないや」
翠星石や真紅の名前に気を取られていたせいで、僕は放送で呼ばれた名前を完全には把握できていなかった。
だけど、フェイトという名前には聞き覚えがある。
確か、バルディッシュが『自分のマスター』だと言っていた少女だったか。
「とにかく、呼ばれたのよ。だから私、一応知らせておかなきゃって思ってバルディッシュを起こしたの。
休憩中に悪いかな、とは思ったんだけど。現状認識は必要だから、ね」
言い訳じみた、歯切れの悪い言葉。
「そしたら、ね。バルディッシュ、黙っちゃったの。しばらくは何を言っても返事をしてくれなくて」
「まさか……!」
「ううん。結構な時間黙ってたけど、『もう大丈夫です。ありがとうございます』って言ってくれたから。
発言は減るだろうけど、これからも協力してくれるって。そのあたりは心配しなくていいよ」
「そう、よかった……」
ホッと息をつく。
一瞬、マスターを亡くしたバルディッシュがショックで動かなくなったのかと心配したけれど、杞憂だったらしい。
僕は、バルディッシュのことをよく知らない。どころかインテリジェントデバイスの仕組みすらよくわからない。
……けれど、マスターを亡くして平気な従者がいるはずがない。
そこから即座に立ち直ったバルディッシュは素直に凄いと思う。そう簡単には割り切れないものなのに。
ならば、僕らはその心意気を応えるべきだろう。
フェイト・テスタロッサ。
バルディッシュのためにも、必ず“生き返らせて”あげなければ……
突然、タバサが口を開いた。
足を止めて振り返ると、どこか暗いタバサの顔が目に入る。その顔からは、まるで覇気が感じられない。
野比のび太と太刀川ミミのことを伝えに塔に戻ったときから、ずっとこうである。
自分がいない間に何かあったのだろうとは察しはついたけれど、僕は結局尋ねることができないままでいた。
「放送で、フェイトって子の名前が呼ばれたでしょ? ほら、バルディッシュの持ち主の」
「フェイト……? ごめん、ちょっと覚えてないや」
翠星石や真紅の名前に気を取られていたせいで、僕は放送で呼ばれた名前を完全には把握できていなかった。
だけど、フェイトという名前には聞き覚えがある。
確か、バルディッシュが『自分のマスター』だと言っていた少女だったか。
「とにかく、呼ばれたのよ。だから私、一応知らせておかなきゃって思ってバルディッシュを起こしたの。
休憩中に悪いかな、とは思ったんだけど。現状認識は必要だから、ね」
言い訳じみた、歯切れの悪い言葉。
「そしたら、ね。バルディッシュ、黙っちゃったの。しばらくは何を言っても返事をしてくれなくて」
「まさか……!」
「ううん。結構な時間黙ってたけど、『もう大丈夫です。ありがとうございます』って言ってくれたから。
発言は減るだろうけど、これからも協力してくれるって。そのあたりは心配しなくていいよ」
「そう、よかった……」
ホッと息をつく。
一瞬、マスターを亡くしたバルディッシュがショックで動かなくなったのかと心配したけれど、杞憂だったらしい。
僕は、バルディッシュのことをよく知らない。どころかインテリジェントデバイスの仕組みすらよくわからない。
……けれど、マスターを亡くして平気な従者がいるはずがない。
そこから即座に立ち直ったバルディッシュは素直に凄いと思う。そう簡単には割り切れないものなのに。
ならば、僕らはその心意気を応えるべきだろう。
フェイト・テスタロッサ。
バルディッシュのためにも、必ず“生き返らせて”あげなければ……
「……ねえ、蒼星石」
と、そこで、
「私、嘘吐きじゃないよね……?」
タバサが妙な事を言い始めた。
「タバサ……?」
「何度も説明したんだよ? 何度も説得したんだよ?
それでも、バルディッシュは『私のことは気にしないでください』なんて言うばっかりで、
『フェイトを生き返らせる』って全然言ってくれない……!」
最初、タバサは僕にしたのと同じようにバルディッシュを説得したらしい。
『死体を捜してフェイトを生き返らせよう』、と。
しかしバルディッシュは、ただ悲しげに沈黙するばかりで、決してタバサの案に肯定の意を示さなかった。
あまりに物分りの悪いバルディッシュにタバサが声を荒げても、その態度は変わらなかったようだ。
結局、タバサはバルディッシュの説得を諦めざるを得なかった。
と、そこで、
「私、嘘吐きじゃないよね……?」
タバサが妙な事を言い始めた。
「タバサ……?」
「何度も説明したんだよ? 何度も説得したんだよ?
それでも、バルディッシュは『私のことは気にしないでください』なんて言うばっかりで、
『フェイトを生き返らせる』って全然言ってくれない……!」
最初、タバサは僕にしたのと同じようにバルディッシュを説得したらしい。
『死体を捜してフェイトを生き返らせよう』、と。
しかしバルディッシュは、ただ悲しげに沈黙するばかりで、決してタバサの案に肯定の意を示さなかった。
あまりに物分りの悪いバルディッシュにタバサが声を荒げても、その態度は変わらなかったようだ。
結局、タバサはバルディッシュの説得を諦めざるを得なかった。
「何を言ってもわかってくれないの……。嘘じゃ、ないのに。本当、なのに……!」
大人に言い分を聞いてもらえない子供のように。
全ての言葉を嘘と決め付けられた冤罪者のように。
口を真一文字に引き結んで、タバサは悔しさに堪えている。
大人に言い分を聞いてもらえない子供のように。
全ての言葉を嘘と決め付けられた冤罪者のように。
口を真一文字に引き結んで、タバサは悔しさに堪えている。
「僕は信じてるよ」
だから、僕が肯定した。
だから、僕が肯定した。
「蒼星石……」
「バルディッシュは一度も死んだ経験がないから俄かには信じられないんだよ。
だけど、僕は違う。僕は一度死んで蘇った。だから、信じる。
誰が否定しようと、僕は君のことを信じるよ、タバサ。
だから、タバサも自分の生き方を信じるんだ。――今までずっと、自分の足で歩み続けてきた道だろう?」
「バルディッシュは一度も死んだ経験がないから俄かには信じられないんだよ。
だけど、僕は違う。僕は一度死んで蘇った。だから、信じる。
誰が否定しようと、僕は君のことを信じるよ、タバサ。
だから、タバサも自分の生き方を信じるんだ。――今までずっと、自分の足で歩み続けてきた道だろう?」
しばらく、静寂が満ちた。
辺りには森の匂いが充満し、胸いっぱいに吸うとむせてしまいそうになるほど空気は濃い。
真円を描く月から染み出る白光が枝葉の天井から差し込み、暗闇の中に黄金の柱を屹立させている。
そんな光柱に照らされて、
「……うん、そうだね。ありがとう、蒼星石……」
タバサは、少しだけ吹っ切れたように笑った。
辺りには森の匂いが充満し、胸いっぱいに吸うとむせてしまいそうになるほど空気は濃い。
真円を描く月から染み出る白光が枝葉の天井から差し込み、暗闇の中に黄金の柱を屹立させている。
そんな光柱に照らされて、
「……うん、そうだね。ありがとう、蒼星石……」
タバサは、少しだけ吹っ切れたように笑った。
ぐしぐしと目元を擦るタバサを見ながら、僕は思う。
タバサは、物事を『自分のルール』に当て嵌めて行動している間は、強い。迷いなど一切ないほどだ。
しかし、その『ルール』自体を否定されると、弱い。年相応の精神的揺らぎが覗いてしまう。
敵の攻撃では決して折れない精神が、仲間の言葉で簡単に崩れる。
タバサは、純粋すぎるのだ。
思えば、僕がイシドロ君を埋めているときも、タバサは不安定な表情を隠そうとしなかった。
あれは、彼女にとって理解できない――『ルール』に当て嵌めることのできない行為だったのだろう。
“硬いが脆い”
それが、この段階にきて僕がタバサに抱いたイメージだった。
タバサは、物事を『自分のルール』に当て嵌めて行動している間は、強い。迷いなど一切ないほどだ。
しかし、その『ルール』自体を否定されると、弱い。年相応の精神的揺らぎが覗いてしまう。
敵の攻撃では決して折れない精神が、仲間の言葉で簡単に崩れる。
タバサは、純粋すぎるのだ。
思えば、僕がイシドロ君を埋めているときも、タバサは不安定な表情を隠そうとしなかった。
あれは、彼女にとって理解できない――『ルール』に当て嵌めることのできない行為だったのだろう。
“硬いが脆い”
それが、この段階にきて僕がタバサに抱いたイメージだった。
「……よし、そろそろ行こ! 余計な時間取らせてごめんね」
「君の不安が拭えたとしたら、それは十分有意義な時間だったと思うよ」
「うん、ありがと。でも、もう大丈夫!」
タバサが気勢を上げると、イシドロが入っている棺桶ががたんと揺れた。
……正直、子供とはいえ人一人入った棺桶を悠然と引き摺るタバサの腕力は、本当に人間のものかと疑問を抱いていないでもない。
だけど、それはタバサの人格とは何ら関係がない。
タバサは基本、普通の女の子なのだ。そのことを忘れないようにしなければ。
「君の不安が拭えたとしたら、それは十分有意義な時間だったと思うよ」
「うん、ありがと。でも、もう大丈夫!」
タバサが気勢を上げると、イシドロが入っている棺桶ががたんと揺れた。
……正直、子供とはいえ人一人入った棺桶を悠然と引き摺るタバサの腕力は、本当に人間のものかと疑問を抱いていないでもない。
だけど、それはタバサの人格とは何ら関係がない。
タバサは基本、普通の女の子なのだ。そのことを忘れないようにしなければ。
「それで、太刀川ミミさん、だった? 私達が向かってるの」
「夢を覗いた限りでは、その名前で間違いないはずだ。そろそろ着くころだと思うんだけど……ちょっと待ってて」
「夢を覗いた限りでは、その名前で間違いないはずだ。そろそろ着くころだと思うんだけど……ちょっと待ってて」
背の高い樅の木を見つけたので軽く跳躍して枝を掴み、次にその枝を踏み台にして上層部を目指す。
ひょいひょいと枝の階段を上り詰めると、最後には森全体を一望できるほどの高さにまで到達した。
北方を見れば灰色の道路が東西に走っており、更にその先にはタールのような海が広がっている。
夜の海は不気味だ。月の光も星の輝きも関係なく、全てを飲み込むような深い黒色だけが延々と世界の端まで続いている。
一旦海から視線を外し、暗緑色の絨毯を目でさらうと、北方に位置する大木から細い棒状の影が二本伸びているのが見えた。
身体を斜めにして視点を変えると、それは桃色の服を着た少女の足に違いないようだ。
僕は枝を伝って地面に降りると、タバサに告げた。
ひょいひょいと枝の階段を上り詰めると、最後には森全体を一望できるほどの高さにまで到達した。
北方を見れば灰色の道路が東西に走っており、更にその先にはタールのような海が広がっている。
夜の海は不気味だ。月の光も星の輝きも関係なく、全てを飲み込むような深い黒色だけが延々と世界の端まで続いている。
一旦海から視線を外し、暗緑色の絨毯を目でさらうと、北方に位置する大木から細い棒状の影が二本伸びているのが見えた。
身体を斜めにして視点を変えると、それは桃色の服を着た少女の足に違いないようだ。
僕は枝を伝って地面に降りると、タバサに告げた。
「やっぱり、もうすぐだ」
※ ※ ※ ※ ※
「この子は戦力にならない」
太刀川ミミが倒れている場所に着いて、僕は最初にそう言った。
タバサには既に言ってあるから、改めて、重ねて言ったことになる。
なぜそんなことを言ったのかというと、
「でも、ただ弱いだけなら鍛えればいいよ。スライムだって成長すれば強くなるんだよ?」
こんなことを言い出したタバサを説得するためだ。
太刀川ミミが倒れている場所に着いて、僕は最初にそう言った。
タバサには既に言ってあるから、改めて、重ねて言ったことになる。
なぜそんなことを言ったのかというと、
「でも、ただ弱いだけなら鍛えればいいよ。スライムだって成長すれば強くなるんだよ?」
こんなことを言い出したタバサを説得するためだ。
「いや、それ以前の問題だ。この子の左目を見てごらん」
指差した先では、抉られた瞼の隙間からぶよぶよした白い塊がはみ出していた。
「見ての通り、太刀川ミミは片目に致命的な傷を負っている。傷が治りきっていないところを見ると、左目を失ったのはきっとこの島に来てからだ」
「それがどうしたの?」
「……つい最近まで両目を使って生活していた人間が突然片目になってしまうとどうなるか、わかるかい?」
不思議そうに首を傾げるタバサに、僕は合わせる。
タバサの世界では人が片目を失った程度で騒ぐことのほうがおかしいのだろう。きっとそうだ。
だけど、タバサの人格とは関係ない。そう、関係ないんだ……!
「えーと、攻撃が当たりにくくなる?」
「……うん、まあ、端的に言えばそうなるかな。具体的に言えば、空間把握能力が落ちる――距離感が掴めなくなるんだ。
片目を瞑って生活してみるとわかるけど、まともに歩くことすら難しい。障害物の位置を把握することもできないからね。
実際、この子も敵に襲われただけじゃなく“ただ”躓いて転んだ拍子に頭を打ち付けて気絶しただけみたいだ」
「つまり、攻撃を外す可能性があって、一回転んだだけで気絶するほどHPも低いのね。……ちょっと致命的かなあ」
「そう。太刀川ミミは、足手纏い以上にはなり得ない」
酷なようだが、事実は事実として言い切らなければならない。
夢の中の会話から得た情報によると、太刀川ミミに戦闘能力は皆無。たとえ両目が健在でも戦力として期待はできなかっただろう。
加えて、本人は知らないようだが元の世界の友人達も全滅している。彼女を連れて行くことで誰かの信頼を得られる、などといった利益は期待できない。
その上、どうやら他の参加者に殆ど会っていないらしい。レックス君や姉妹達の情報を持っている可能性も薄い。
だから、これは当然の決定。
役立つ情報や有力なコネクションを持っておらず、一人で勝手に転んで気絶するほど注意力が散漫で体力もない少女を仲間にするメリットなど存在しなかった。
怪我人を抱え込むことで身動きが取り辛くなる可能性を考えると、むしろデメリットしかない。
指差した先では、抉られた瞼の隙間からぶよぶよした白い塊がはみ出していた。
「見ての通り、太刀川ミミは片目に致命的な傷を負っている。傷が治りきっていないところを見ると、左目を失ったのはきっとこの島に来てからだ」
「それがどうしたの?」
「……つい最近まで両目を使って生活していた人間が突然片目になってしまうとどうなるか、わかるかい?」
不思議そうに首を傾げるタバサに、僕は合わせる。
タバサの世界では人が片目を失った程度で騒ぐことのほうがおかしいのだろう。きっとそうだ。
だけど、タバサの人格とは関係ない。そう、関係ないんだ……!
「えーと、攻撃が当たりにくくなる?」
「……うん、まあ、端的に言えばそうなるかな。具体的に言えば、空間把握能力が落ちる――距離感が掴めなくなるんだ。
片目を瞑って生活してみるとわかるけど、まともに歩くことすら難しい。障害物の位置を把握することもできないからね。
実際、この子も敵に襲われただけじゃなく“ただ”躓いて転んだ拍子に頭を打ち付けて気絶しただけみたいだ」
「つまり、攻撃を外す可能性があって、一回転んだだけで気絶するほどHPも低いのね。……ちょっと致命的かなあ」
「そう。太刀川ミミは、足手纏い以上にはなり得ない」
酷なようだが、事実は事実として言い切らなければならない。
夢の中の会話から得た情報によると、太刀川ミミに戦闘能力は皆無。たとえ両目が健在でも戦力として期待はできなかっただろう。
加えて、本人は知らないようだが元の世界の友人達も全滅している。彼女を連れて行くことで誰かの信頼を得られる、などといった利益は期待できない。
その上、どうやら他の参加者に殆ど会っていないらしい。レックス君や姉妹達の情報を持っている可能性も薄い。
だから、これは当然の決定。
役立つ情報や有力なコネクションを持っておらず、一人で勝手に転んで気絶するほど注意力が散漫で体力もない少女を仲間にするメリットなど存在しなかった。
怪我人を抱え込むことで身動きが取り辛くなる可能性を考えると、むしろデメリットしかない。
しかし、見つけた以上放っておくわけにもいかない。このまま放置しておけば十中八九彼女は命を落とすだろう。
いくら生き返れるからといって、それは流石に後味が悪い。
とはいえ、歩くだけで気絶するほど貧弱な少女を連れ歩くわけにもいかない。
太刀川ミミの夢に潜った僕はそう判断し、しかし一人ではどうすることもできず、タバサに相談するために塔に戻ったのだ。
誤算は、タバサが『弱者でも鍛えれば十分戦える』という思想を持っていたこと。
現物を見せないと納得させることができないとは、つくづく計算外だった。
いくら生き返れるからといって、それは流石に後味が悪い。
とはいえ、歩くだけで気絶するほど貧弱な少女を連れ歩くわけにもいかない。
太刀川ミミの夢に潜った僕はそう判断し、しかし一人ではどうすることもできず、タバサに相談するために塔に戻ったのだ。
誤算は、タバサが『弱者でも鍛えれば十分戦える』という思想を持っていたこと。
現物を見せないと納得させることができないとは、つくづく計算外だった。
「それじゃあ、しょうがないかな。この子は『仲間にしない』ということで」
「やっとわかってくれたか……。それで、これからどうする?」
「そうだね……。村人を戦闘に巻き込むのは気が引ける、というより冒険者の道義に反するから連れていくことはできないし、
かといって村人をフィールドに放置しておくのもなあ。でも、移動するだけで気絶するのよね……」
もはやタバサにとって太刀川ミミは『村人』らしい。
タバサの世界では戦闘力を持たない人間を総じてそう呼ぶようだ。
「うーん……あ、そうだ! イシドロの棺を使わせてもらうってのはどうかな?」
「……へ?」
「イシドロにちょっと場所を空けてもらって、そこにこの子を入れるの!」
タバサはさも名案を思いついたかのようにはしゃぎだした。
「やっとわかってくれたか……。それで、これからどうする?」
「そうだね……。村人を戦闘に巻き込むのは気が引ける、というより冒険者の道義に反するから連れていくことはできないし、
かといって村人をフィールドに放置しておくのもなあ。でも、移動するだけで気絶するのよね……」
もはやタバサにとって太刀川ミミは『村人』らしい。
タバサの世界では戦闘力を持たない人間を総じてそう呼ぶようだ。
「うーん……あ、そうだ! イシドロの棺を使わせてもらうってのはどうかな?」
「……へ?」
「イシドロにちょっと場所を空けてもらって、そこにこの子を入れるの!」
タバサはさも名案を思いついたかのようにはしゃぎだした。
イシドロと一緒に棺桶に入れる――
それなら確かに、様々な問題は一気に片付くかもしれない。
しかし、生者を死体と一緒に棺に詰め込むのは、果たして問題ないのだろうか。
イシドロの死体はお世辞にも綺麗とは言えない。
片目は潰れ、左手は欠損。腹部に開いた穴からはどす黒く変色した臓物がはみ出ている。
そんな死体の横に気絶した人間を置くのは流石に……
(いや! イシドロは生き返るし、大事な仲間なんだ! 死体扱いするのは失礼にあたる、はずだ!)
死体だと考えるから問題なのだ。
逆に考えるんだ。“イシドロがたまたま死んじゃってるだけ”だと考えるんだ。
そう考えればなんてことはない。
太刀川ミミも片目を失っているし、意外とお似合いじゃないか。
イシドロは動かないから間違いが起こる可能性もない。
太刀川ミミが実はネクロフィリア、などという展開もないはずだ。
それなら確かに、様々な問題は一気に片付くかもしれない。
しかし、生者を死体と一緒に棺に詰め込むのは、果たして問題ないのだろうか。
イシドロの死体はお世辞にも綺麗とは言えない。
片目は潰れ、左手は欠損。腹部に開いた穴からはどす黒く変色した臓物がはみ出ている。
そんな死体の横に気絶した人間を置くのは流石に……
(いや! イシドロは生き返るし、大事な仲間なんだ! 死体扱いするのは失礼にあたる、はずだ!)
死体だと考えるから問題なのだ。
逆に考えるんだ。“イシドロがたまたま死んじゃってるだけ”だと考えるんだ。
そう考えればなんてことはない。
太刀川ミミも片目を失っているし、意外とお似合いじゃないか。
イシドロは動かないから間違いが起こる可能性もない。
太刀川ミミが実はネクロフィリア、などという展開もないはずだ。
……ほら、何の問題もない。
僕が理論的に自分を納得させている間に、タバサはさっさと準備を進めていた。
その顔は、道中の暗い顔からは考えられないほど輝いているように見える。
「こうなってくると、この子が寝てるのは好都合だね!」
「そうだね」
どうやらタバサは完全に調子を取り戻したようだ。
絶好調という言葉はこんなときにこそ使うべきだろう。実に頼もしい。
「……ぅ、ううん」
そのとき、太刀川ミミが目を覚ました。
「あ、あれ、あなたたち……」
「ラリホー」
太刀川ミミはひっくり返って眠り始めた。
「好都合だね」
「……そう、だね」
訂正。絶好調すぎて不安になる。タバサ全開だ。
その顔は、道中の暗い顔からは考えられないほど輝いているように見える。
「こうなってくると、この子が寝てるのは好都合だね!」
「そうだね」
どうやらタバサは完全に調子を取り戻したようだ。
絶好調という言葉はこんなときにこそ使うべきだろう。実に頼もしい。
「……ぅ、ううん」
そのとき、太刀川ミミが目を覚ました。
「あ、あれ、あなたたち……」
「ラリホー」
太刀川ミミはひっくり返って眠り始めた。
「好都合だね」
「……そう、だね」
訂正。絶好調すぎて不安になる。タバサ全開だ。
一度落ち込んだ反動からか、ややハイテンション気味のタバサは太刀川ミミを棺桶に押し込めた後、『戦闘の衝撃で外れないように』と蓋に鍵までかけた。
太刀川ミミが目覚めたときに面倒なことになるからやめるように言っても、
『挟まれて身動きとれなくなることにさえ気をつければ村人は無害』とかよくわからないことを言って聞いてくれない。
止めるべきだったのかもしれないが、スキップしながら棺桶を引き摺るタバサを見ていたらどうでもよくなった。
あんなに楽しそうなのだ。水を差す必要はないだろう。
太刀川ミミが目覚めたときに面倒なことになるからやめるように言っても、
『挟まれて身動きとれなくなることにさえ気をつければ村人は無害』とかよくわからないことを言って聞いてくれない。
止めるべきだったのかもしれないが、スキップしながら棺桶を引き摺るタバサを見ていたらどうでもよくなった。
あんなに楽しそうなのだ。水を差す必要はないだろう。
「それで、次はどこに向かうんだい?」
「北東の村! 蒼星石が言ってた『のび太』って子も気になるし、他にも何人かいるのよね? 今度こそ新しい仲間が見つかるかも!
仲間が見つかったら宿屋で休もう。蒼星石も疲れたでしょ? 私ももうヘトヘト!
あ、ついでにこの『村人』も村に置いていくつもり。村人は村にいるべきだからね!」
それだけ一気に捲し立てた後タバサは、まるで乱暴な飼い主が散歩中の犬を扱うように棺桶を振り回した。やはりハイテンションだ。
それを『ま、いいか』と見ている僕も相当神経が麻痺しているのかもしれないが。
「北東の村! 蒼星石が言ってた『のび太』って子も気になるし、他にも何人かいるのよね? 今度こそ新しい仲間が見つかるかも!
仲間が見つかったら宿屋で休もう。蒼星石も疲れたでしょ? 私ももうヘトヘト!
あ、ついでにこの『村人』も村に置いていくつもり。村人は村にいるべきだからね!」
それだけ一気に捲し立てた後タバサは、まるで乱暴な飼い主が散歩中の犬を扱うように棺桶を振り回した。やはりハイテンションだ。
それを『ま、いいか』と見ている僕も相当神経が麻痺しているのかもしれないが。
……いや、絶対麻痺しているな。間違いなく。
【D-1/道路/一日目・夜】
【タバサ@ドラゴンクエスト5】
[状態]ハイテンション、HP消費(大)、MP消費(大)
[装備]バルディッシュ・アサルト@魔法少女リリカルなのは(カートリッジ残数2)(待機形態・自己修復中)、
太刀川ミミ+イシドロの死体In棺桶
[道具]支給品一式×2(イシドロの服の食料も回収済み)、手榴弾×2、ヴェルグ・アヴェスター@Fate/hollow ataraxia
[思考]さあ、出発!
基本行動方針:「どんな手段を使ってでも」レックスを捜し出し、仲間と共に脱出する。
第一行動方針:北東の村へ向かい、『仲間探し』『宿屋での休息』『村人(ミミ)の返却』を行う。
第二行動方針:自分と仲間の身は「何としても」も守る。
[備考]「ドラゴンクエスト5」内でタバサが覚えている魔法は全て習得しています。
ミッドチルダ式魔法について、バルディッシュからある程度説明をうけました。
いずれイシドロは「復活」させるつもりです(最悪、全ての戦いが終わった後にでも) 。
白レンのことを見限りました。もう味方だと思っていません。
[状態]ハイテンション、HP消費(大)、MP消費(大)
[装備]バルディッシュ・アサルト@魔法少女リリカルなのは(カートリッジ残数2)(待機形態・自己修復中)、
太刀川ミミ+イシドロの死体In棺桶
[道具]支給品一式×2(イシドロの服の食料も回収済み)、手榴弾×2、ヴェルグ・アヴェスター@Fate/hollow ataraxia
[思考]さあ、出発!
基本行動方針:「どんな手段を使ってでも」レックスを捜し出し、仲間と共に脱出する。
第一行動方針:北東の村へ向かい、『仲間探し』『宿屋での休息』『村人(ミミ)の返却』を行う。
第二行動方針:自分と仲間の身は「何としても」も守る。
[備考]「ドラゴンクエスト5」内でタバサが覚えている魔法は全て習得しています。
ミッドチルダ式魔法について、バルディッシュからある程度説明をうけました。
いずれイシドロは「復活」させるつもりです(最悪、全ての戦いが終わった後にでも) 。
白レンのことを見限りました。もう味方だと思っていません。
【蒼星石@ローゼンメイデン】
[状態]全身打撲(行動には余り支障なし)、疲労(中) 、タバサに感化されて神経麻痺
[装備]バイオリンの弓@ローゼンメイデン、戦輪×9@忍たま乱太郎
[道具]支給品一式、ジッポ、板チョコ@DEATHNOTE、金糸雀のバイオリン@ローゼンメイデン
[思考]……今の会話、どのあたりがおかしかったかな。
基本行動方針:タバサとレックスをどんなことをしてでも守る
第一行動方針:北東の街へ向かう。のび太についてやや不信感を持っている。
第二行動方針:レックスを最優先で探す。姉妹たちは後回し。
第三行動方針:タバサの『夢』に入ってレックスと接触する?
[備考]タバサに強い感情(忠誠心?)を寄せています。また軽度の依存も自身で感じています。
シャナを危険視しています。
[状態]全身打撲(行動には余り支障なし)、疲労(中) 、タバサに感化されて神経麻痺
[装備]バイオリンの弓@ローゼンメイデン、戦輪×9@忍たま乱太郎
[道具]支給品一式、ジッポ、板チョコ@DEATHNOTE、金糸雀のバイオリン@ローゼンメイデン
[思考]……今の会話、どのあたりがおかしかったかな。
基本行動方針:タバサとレックスをどんなことをしてでも守る
第一行動方針:北東の街へ向かう。のび太についてやや不信感を持っている。
第二行動方針:レックスを最優先で探す。姉妹たちは後回し。
第三行動方針:タバサの『夢』に入ってレックスと接触する?
[備考]タバサに強い感情(忠誠心?)を寄せています。また軽度の依存も自身で感じています。
シャナを危険視しています。
【太刀川ミミ@デジモンアドベンチャー】
[状態]ラリホーによる『眠り』状態、頭に大きなタンコブ、左目損失(神楽の左目が入っています。長時間治療していません)
頬に軽度の弾痕、納棺状態(棺桶には外側から鍵がかかっているため、内側から開けることは不可能)
[装備]棺桶、塩酸の瓶
[道具]支給品一式、ポケモン図鑑@ポケットモンスター、ペンシルロケット×5@mother2
[思考]…………。
基本行動方針:みんなでおうちにかえる。
第一行動方針:目と頬の治療の為に街に向かいたい。もし駄目なら次は病院に向かう。
第二行動方針:協力してくれそうな仲間を探して、太一、光子郎、丈と合流。
第三行動方針:仲間(太一達優先)を殺してしまいそうな人は自分が倒す。
第四行動方針:銀髪の少女(グレーテル)にはもう会いたくない。
[備考]距離感や遠近感に多少のズレが生じています。また、視力が微妙に低下しています。
ずっと気絶していたので、感覚にはまだ慣れていません。第一次放送を聞き逃しました。
すぐ横にイシドロの死体があります。
[状態]ラリホーによる『眠り』状態、頭に大きなタンコブ、左目損失(神楽の左目が入っています。長時間治療していません)
頬に軽度の弾痕、納棺状態(棺桶には外側から鍵がかかっているため、内側から開けることは不可能)
[装備]棺桶、塩酸の瓶
[道具]支給品一式、ポケモン図鑑@ポケットモンスター、ペンシルロケット×5@mother2
[思考]…………。
基本行動方針:みんなでおうちにかえる。
第一行動方針:目と頬の治療の為に街に向かいたい。もし駄目なら次は病院に向かう。
第二行動方針:協力してくれそうな仲間を探して、太一、光子郎、丈と合流。
第三行動方針:仲間(太一達優先)を殺してしまいそうな人は自分が倒す。
第四行動方針:銀髪の少女(グレーテル)にはもう会いたくない。
[備考]距離感や遠近感に多少のズレが生じています。また、視力が微妙に低下しています。
ずっと気絶していたので、感覚にはまだ慣れていません。第一次放送を聞き逃しました。
すぐ横にイシドロの死体があります。
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