――ふたりの馴れ初めはいつのことでしたか。
――私が遡れるのはAD2012のハルマゲドンまで。
――戦地で、ふたりは出会った。
――私が遡れるのはAD2012のハルマゲドンまで。
――戦地で、ふたりは出会った。
- ゆとりGKダンゲロスより
『八百万の心模様より ~親心?~』
●その1
「――という訳です。ですので、よろしければすぐに転送できますが……」
「でも、まだ助けないといけない子がいるんです」
学校見学に来て抗争に巻き込まれたお嬢さんを追ってみれば、行き着いた先は生徒会室。
言葉の喋れない私に代わって夢追中(ゆめさこ かなめ)お嬢様に私の能力を説明して頂き、
直にでも脱出をさせてあげようかと思ったのですが……中々胆の据わった人物だったようで。
もう一人抗争に巻き込まれたお嬢さんを助けるまでは帰らないとの言葉。
一一(にのまえ はじめ)さんですか。その小さな体に宿る心は見事な大きさですね。
まあ、遠巻きにお嬢さんかと思っていましたけれど近くで確認すれば……
事情があるのかもしれませんし、害はないでしょうから黙っておきましょう。
――おや、お話は終わりましたか、ご主人様。
言葉の喋れない私に代わって夢追中(ゆめさこ かなめ)お嬢様に私の能力を説明して頂き、
直にでも脱出をさせてあげようかと思ったのですが……中々胆の据わった人物だったようで。
もう一人抗争に巻き込まれたお嬢さんを助けるまでは帰らないとの言葉。
一一(にのまえ はじめ)さんですか。その小さな体に宿る心は見事な大きさですね。
まあ、遠巻きにお嬢さんかと思っていましたけれど近くで確認すれば……
事情があるのかもしれませんし、害はないでしょうから黙っておきましょう。
――おや、お話は終わりましたか、ご主人様。
「うん。一ちゃんはまだ帰らないって言うから。……だから、社」
分かりました。私も一さんと、もう一人のお嬢さんを助けられるよう生徒会に助力しますね。
「ありがとう!――えっと、一ちゃん!これからこの社も一ちゃんに協力しますので!」
お嬢様の笑顔が見られるならば、お安い御用というものです。
―――
「ところで社、
一ちゃんを追いかけた理由が私と同い年くらいだったからって言っていたよね?」
一ちゃんを追いかけた理由が私と同い年くらいだったからって言っていたよね?」
はい。
「一ちゃんって、私よりも年下に見えるんだけれど……」
並んでいるところを見ますと……ふーむ。ポニーテールがふたつ……
ではなくて、確かにご主人様より年若く見えますね。
ではなくて、確かにご主人様より年若く見えますね。
「社って……もしかして初対面の頃の私の印象でずっと私の事を見てる?」
……言われてみればそうだったのかもしれませんね。
不意に想像するご主人様の姿は未だ当時の姿……これはいけませんね。
不意に想像するご主人様の姿は未だ当時の姿……これはいけませんね。
「私もちょっとは師匠みたいに大人っぽくなっているんだから!」
そうですね。申し訳ありませんでした。
……これはちょっとした人の親の気持ちを味わった気分です。
……これはちょっとした人の親の気持ちを味わった気分です。
●その2
「おや、あの子も生徒会の方ですかね?」
「えっ!?僕に聞かれても……ごめんなさい」
生徒会室から少し離れた廊下を歩くお嬢さんが一人。
ショートカットの髪に眼鏡、実に素朴な印象のお嬢さんですね。
現在はどこかにいるであろう一さんの探し人を我々三名で探索中のため、
見知らぬ人物に出会っても生徒会メンバーかどうか分かりません。
ご主人様、危険があるかもしれないので慎重に――
ショートカットの髪に眼鏡、実に素朴な印象のお嬢さんですね。
現在はどこかにいるであろう一さんの探し人を我々三名で探索中のため、
見知らぬ人物に出会っても生徒会メンバーかどうか分かりません。
ご主人様、危険があるかもしれないので慎重に――
「すみませーん!ちょっと人を探しているのですがよろしいですかー?」
ですからご主人様は全速前進過ぎるというものですよ!一さんもびっくりしてますよ!
……おや、あちらのお嬢さんも不思議そうな顔でこちらにやってきますね。
……思えばお嬢様も一さんも高校生には見えない出で立ち。
例え相手が番長グループだとしても敵と認識されない……と良いですが。
さて、そろそろごく普通に声を掛け合う距離。何かある前に能力発動する準備を――
……おや、あちらのお嬢さんも不思議そうな顔でこちらにやってきますね。
……思えばお嬢様も一さんも高校生には見えない出で立ち。
例え相手が番長グループだとしても敵と認識されない……と良いですが。
さて、そろそろごく普通に声を掛け合う距離。何かある前に能力発動する準備を――
「えっと、どうしました?ここは危ないからすぐに避難したほうが……きゃっ!?」
いやいきなり何を転んでるんですかお嬢さん!
そして何をいきなりお嬢様ともつれ合ってとんでもない体勢で倒れているんですか!
と言いますか今これ一さんが能力発動してましたよね!?何のパッシブ能力ですか!
そして何をいきなりお嬢様ともつれ合ってとんでもない体勢で倒れているんですか!
と言いますか今これ一さんが能力発動してましたよね!?何のパッシブ能力ですか!
「いたた……ご、ごめんなさい」
「(ご、ごめんなさい……僕のせいで……)」
「いえ、こちらこそごめんなさ……ひゃあっ!!??」
そしてそこのお嬢さんはなんでお嬢様を撫で回しているんですか!
今の手つき明らかに変な方向性を感じさせるものでしたよ!
今の手つき明らかに変な方向性を感じさせるものでしたよ!
「あ、ご、ごめんなさい!私、女の子を見ると指が妙に動く癖があって」
いやその癖、明らかにおかしいでしょう!
―――
いいですかご主人様。ご主人様もいつまでも子供ではないのです。
ああいった手つきをする輩には十分な注意をですね――
ああいった手つきをする輩には十分な注意をですね――
「でも迷い込んだ子を探してくれるって言ってたし、いい人だよきっと!」
いえ、確かに人柄は良いと思いますが――そうではなく――
「そういえば社って、昔からそういう話のときはいつも私を大人扱いするよね」
むう……
……これはまた、ちょっとした人の親の気持ちを味わった気分です。
……これはまた、ちょっとした人の親の気持ちを味わった気分です。
――先程の害意の無い能力発動を見てすら、これからはもう少し厳重にお嬢様の警護をしましょうかなどと思ってしまう私は、そもそも大概な親馬鹿なのかもしれませんね。
『八百万の心模様より ~恋心?~』
●その1
「にゃー!」
「その程度か!ふんっ!」
なぜここの方々は味方同士で戦闘を繰り広げているのでしょうかね。
シャム・メルルーサさんと天刹院晶真(てんさついん しょうま)さんでしたか。
強い奴を見つけて我慢できなくなったシャムさんが天刹院さんに飛び掛って――とか、
どうしてこうなったか、言語化しても無意味なくらい勢いのみでこの状況になりましたよね。
さすが戦闘破壊学園の異名を持つ場所、で片付けて良いのでしょうか。
シャム・メルルーサさんと天刹院晶真(てんさついん しょうま)さんでしたか。
強い奴を見つけて我慢できなくなったシャムさんが天刹院さんに飛び掛って――とか、
どうしてこうなったか、言語化しても無意味なくらい勢いのみでこの状況になりましたよね。
さすが戦闘破壊学園の異名を持つ場所、で片付けて良いのでしょうか。
「わあー!あの猫さん凄い速い身のこなし!」
ご主人様、あまり近付いてはいけませんよ。巻き込まれてしまいます。
「おおー!あんな斧を軽々と扱ってる!」
魔人同士の、それもどちらも攻撃的な魔人の格闘ですから見応えがあるのは分かりますが、
あんな風に無闇に格闘をしている方々をそんなきらきらとした目で見ているのもどうかと。
あんな風に無闇に格闘をしている方々をそんなきらきらとした目で見ているのもどうかと。
「凄いなー!」
……
「格好良いなー!」
ご主人様。私だってやろうと思えば結構なことができるのですよ。
私の能力の数々、応用技、それに複合技、ご覧に入れましょうか。
私の能力の数々、応用技、それに複合技、ご覧に入れましょうか。
「わあ!社も凄いこと見せてくれるの?わーい!」
……はて、どうしてこんな流れに。
●その2
「そちらにはいませんでしたか?」
「は、はい。見つけられませんでした。お役に立てず申し訳ありません……」
いえ手伝ってもらって助かります、とにこやかに返すお嬢様。
今度は別の場所を探してみます、と若干気弱な風に応えるお嬢さん。
少し休憩しましょうか、と近くのベンチに腰をおろすお嬢様。
そうですね、と少し微笑みを浮かべてお嬢様の隣に坐るお嬢さん。
今度は別の場所を探してみます、と若干気弱な風に応えるお嬢さん。
少し休憩しましょうか、と近くのベンチに腰をおろすお嬢様。
そうですね、と少し微笑みを浮かべてお嬢様の隣に坐るお嬢さん。
「ところで……本当にすぐに私の家に来なくてもいいんですか」
「……はい。私は番長グループのみなさんに良くしてもらっています。
……こんな私でも番長グループの一員ですから。
その、確かに無くした記憶も気になりますけれど……ここを離れる訳にはいかないです!」
……こんな私でも番長グループの一員ですから。
その、確かに無くした記憶も気になりますけれど……ここを離れる訳にはいかないです!」
番長グループの逆砧(さかきぬた)れたいたぷたさんでしたね。
おどおどしているところもありますが、心根の優しい方のようで、人探しに協力的です。
話を聞いてみればなんでも記憶喪失で以前の自分のことをさっぱり覚えていないとか。
それを聞いたお嬢様がいたく心配しまして、沢山の魔人能力があり、
治療の可能性がある場所、つまり屋敷への転送を申し出たりと親身になっている訳ですが……
おどおどしているところもありますが、心根の優しい方のようで、人探しに協力的です。
話を聞いてみればなんでも記憶喪失で以前の自分のことをさっぱり覚えていないとか。
それを聞いたお嬢様がいたく心配しまして、沢山の魔人能力があり、
治療の可能性がある場所、つまり屋敷への転送を申し出たりと親身になっている訳ですが……
「それにしても呪い、ですか」
「はい……その、『お前は危険』だとか……」
「あ!もしかしてキスで呪いが解けるとか!」
「えぅっ!?あ、え、き、キス……ですか」
「そ……そんなに恥ずかしがられますと……お、思わず言ってしまった私も……」
「あ、あぅ……す、すみません」
何やら随分と微笑ましい光景を見せてくれるじゃないですか。
なんでしょうね。その肩の触れ合いそうな距離での会話といい、内容といい……
なんでしょうね。その肩の触れ合いそうな距離での会話といい、内容といい……
「あ、あと『鍵は名前にかけておいた』とも……」
「名前ですか……えーと、さかきぬた……漢字はこれで?」
「はい。れたいたぷたは全てひらがなです」
「逆さ……砧……れたいたぷた……んん?」
「何か……分かりましたか?」
「えーっと、れ・い……えーっと……」
「どうか……しました?あの、大丈夫ですか?お顔が少し赤く……」
「だ、大丈夫です!……いえ、その、名前ですか!何なんでしょうね!」
「本当に何なのでしょう……」
本当に何なのでしょう。笑いあったり、顔を赤らめあったり、見ているこちらとしては……
すごく、もどかしいです。
すごく、もどかしいです。
全く、何なのでしょうね。この気持ちは……。
『僕の名前 ~ワン・ステップ・ビフォア・ザ・タヌキ~』
『一三五は疑わる』の展開によって一 三五が番長Gに所属する理由が明らかとなった。
「これで一家との関係もわかったし、三五ちゃん……みーちゃんを疑う必要もないね!
血の絆はなんとやらとも言うし、やっぱり最終的には家族を大事にするのが道徳というか、
あれ……? ゲコーッ。とにかく、みーちゃんはいい人だよ!」
血の絆はなんとやらとも言うし、やっぱり最終的には家族を大事にするのが道徳というか、
あれ……? ゲコーッ。とにかく、みーちゃんはいい人だよ!」
揺らぎ、刻々とカエル意見に自分で戸惑う蛇淵かわず。
「まあとにかく、これで番長グループも謎が解けて、みんな仲良くできるって
ことだ! ねーっ! ……ゲコーッ。」
「そ、そうだね」
「まあとにかく、これで番長グループも謎が解けて、みんな仲良くできるって
ことだ! ねーっ! ……ゲコーッ。」
「そ、そうだね」
ハイテンションにギターを振るかわずに、逆砧れたいたぷたは笑顔で同意した。
喜ばしい事だ。これで番長Gに大きな謎はない! 怪しい人物などいない。
淫らな夢魔や、やたら口数の少ない用務員さんはいるが、皆それなりに上手くやっている。
なお、逆砧れたいたぷたは出自のハッキリしない人物である。
喜ばしい事だ。これで番長Gに大きな謎はない! 怪しい人物などいない。
淫らな夢魔や、やたら口数の少ない用務員さんはいるが、皆それなりに上手くやっている。
なお、逆砧れたいたぷたは出自のハッキリしない人物である。
どう見ても手芸部の関係者としか思えないニンジャは危険にも見えるが案外話が通じる。
一見女の子に見えるEA02は実はメカであるが、言動は暢気で棘もない。
なお、逆砧れたいたぷたはとりあえず1年生として通学しているが自分の年齢すら知らない。
一見女の子に見えるEA02は実はメカであるが、言動は暢気で棘もない。
なお、逆砧れたいたぷたはとりあえず1年生として通学しているが自分の年齢すら知らない。
歩峰鴿子は常に体からバサバサ音がして怪しいが、そのマジックは見事だ。
なお、逆砧れたいたぷたは何故か女の子に指を這わせる事があり、その手際には夢魔も
驚いたというのに、自分でも原因がわからないと言う。
なお、逆砧れたいたぷたは何故か女の子に指を這わせる事があり、その手際には夢魔も
驚いたというのに、自分でも原因がわからないと言う。
なお、
(わ、私がいま一番アヤシイんじゃ……!?)
逆砧れたいたぷたは困惑とともにその結論に、いま至ったのであった。
(わ、私がいま一番アヤシイんじゃ……!?)
逆砧れたいたぷたは困惑とともにその結論に、いま至ったのであった。
―――
「……はあ」
ため息をついて購買でカルピスを飲む、れたいたぷた。彼女は若干粘性のある乳酸菌飲料
などを好んで飲む。それすら元々そうだったのかもわからないが……
自分は、何なのだろう。考えるほど深みに嵌まりそうになる。
と――表情に影を落とすそんな彼女に、声をかける者があった。
などを好んで飲む。それすら元々そうだったのかもわからないが……
自分は、何なのだろう。考えるほど深みに嵌まりそうになる。
と――表情に影を落とすそんな彼女に、声をかける者があった。
「どうしたんですか?」
「あ、えっと――夢追さん」
「あ、えっと――夢追さん」
以前、番長小屋の近辺で見かけた少女であった。あの時ちょっと教育上よろしくない部位を
撫でてしまった事は、今でも申し訳ないと思っている。
その後相談に乗ってくれた事もあり、今では多少打ち解けた仲となっていた。
撫でてしまった事は、今でも申し訳ないと思っている。
その後相談に乗ってくれた事もあり、今では多少打ち解けた仲となっていた。
「なんだか暗い顔をしていたので。この間は人探しのお手伝いもして頂いたし、
何か力になれる事があれば!」
何か力になれる事があれば!」
夢追は明るく言った。積極的でいい子だなあ、とれたいたぷたは思った。
れたいたぷたが自分の境遇を相談した時も、ファンタジーじみた内容にも関わらず
興味深そうに聞いてくれた。うっかり目まで輝いていた。それはそれでどうなんだ。
れたいたぷたが自分の境遇を相談した時も、ファンタジーじみた内容にも関わらず
興味深そうに聞いてくれた。うっかり目まで輝いていた。それはそれでどうなんだ。
「やっぱり名前が気になるんですね……」
「はい、どうしても、、」
「そんな時は、突撃インタビューですよ!」
「……インタビュー?」
「はい、どうしても、、」
「そんな時は、突撃インタビューですよ!」
「……インタビュー?」
後に報道部員となる夢追の、その性格の片鱗であった。ヒントを持っている人がいないか
聞き取り調査を行えば良いと彼女は言う。――いや、夢追は「答え」には気づきつつは
あるのだが。あるいは、れたいたぷたの気を紛らわせようという、ささやかな優しさか。
聞き取り調査を行えば良いと彼女は言う。――いや、夢追は「答え」には気づきつつは
あるのだが。あるいは、れたいたぷたの気を紛らわせようという、ささやかな優しさか。
「私も一緒に行きますから、ね!」
「ええ、なんか悪いですよ……」
「ええ、なんか悪いですよ……」
「うーん、じゃあこうしましょう。代わりに、あなたの能力を見せてください!」
「えっ。でも私の能力は、人に対して使わないとあんまり意味が……」
「もし危険なものじゃなければ……(声をひそめて)私に使っていいですから」
「えっ。でも私の能力は、人に対して使わないとあんまり意味が……」
「もし危険なものじゃなければ……(声をひそめて)私に使っていいですから」
―――
「す、すごい! 私いま、ドラゴンですよ! 宇宙からやって来たんです!
むむむ胸はその、あんまりないですけど機械で出来ていて、相撲も得意なんです!
斧さえあれば無敵のニンジャでもあるんですから実際強い!
ああ……お姉ちゃん、かわいいっ! か、勝手に手が、ヒャッハァー!
ご主人様! 金ならいくらでも出すからちょっと襲わせやがれー、うわわわわ!」
むむむ胸はその、あんまりないですけど機械で出来ていて、相撲も得意なんです!
斧さえあれば無敵のニンジャでもあるんですから実際強い!
ああ……お姉ちゃん、かわいいっ! か、勝手に手が、ヒャッハァー!
ご主人様! 金ならいくらでも出すからちょっと襲わせやがれー、うわわわわ!」
勝手に動く自らの手に引っ張られて、れたいたぷたに突進する夢追!
それもそのはず、彼女は今「金をいくらでも出すドラゴン宇宙百合メカ貧乳力士モヒカン
触手メイド妹斧忍者」なのだ!
百合かつ触手で、モヒカンでもあるのだから女の子がいたらそりゃ襲う。
それもそのはず、彼女は今「金をいくらでも出すドラゴン宇宙百合メカ貧乳力士モヒカン
触手メイド妹斧忍者」なのだ!
百合かつ触手で、モヒカンでもあるのだから女の子がいたらそりゃ襲う。
「えっ、き、きゃぁー!」
どがしゃーん
どがしゃーん
あっさりと押し倒されるれたいたぷた。その指がもぞりと蠢いた。
日頃は彼女の精神的フートンに押し込められている謎の衝動は、女の子を見ると加速する。
ふざけて抱きつく女子とは往々に居るものではあるが、これは一線を越えてはいないか?
砂埃を巻きあげて2人は地面を転がった。ポイント倍点!
日頃は彼女の精神的フートンに押し込められている謎の衝動は、女の子を見ると加速する。
ふざけて抱きつく女子とは往々に居るものではあるが、これは一線を越えてはいないか?
砂埃を巻きあげて2人は地面を転がった。ポイント倍点!
巨大な鳥類が割って入り、無理矢理2人が引き剥がされる事になるのは数秒後の事であった。
『八百万の心模様より ~直心?~』
●その1
結局、お嬢様をこちらにも転送するにあたってお目付け役に詳しく調べてもらいましたが……
「ゆとり粒子」は魔人能力の産物だったわけですね。しかも能力者は死亡済み、と。
最近まで平和だった希望崎学園もその人物の死後に治安が悪化、ハルマゲドンに至る、と。
粒子の密度も日を追って低下しているそうで、集めても役には立たないのでしょうかね。
まあ、折角ここまで来て、抗争にも巻き込まれた訳ですし、
それにどうやら問題の能力者の残留思念も漂っていますから、そこに呼びかけて、
出来る限り集めてみましょうかね。
「ゆとり粒子」は魔人能力の産物だったわけですね。しかも能力者は死亡済み、と。
最近まで平和だった希望崎学園もその人物の死後に治安が悪化、ハルマゲドンに至る、と。
粒子の密度も日を追って低下しているそうで、集めても役には立たないのでしょうかね。
まあ、折角ここまで来て、抗争にも巻き込まれた訳ですし、
それにどうやら問題の能力者の残留思念も漂っていますから、そこに呼びかけて、
出来る限り集めてみましょうかね。
「社?どうしたの?」
ああ、ご主人様。少々、当初の目的が果たせそうにない状況になりまして……。
「私を護るための能力探し、だったっけ?」
しかしご安心ください。例え今回は目的の物が見つからずとも、
ご主人様の身を護るという私の最大の目的は常に完遂致しますので。
ご主人様の身を護るという私の最大の目的は常に完遂致しますので。
「うん、ありがとう。頼りにしてるよ」
私はご主人様のために、いつでも己が使命を100%果たして見せます。
それにご主人様がご自身の目的を果たされるとき――
当然、ご主人様ならお一人で全て目的を果たされるでしょうが――
私はそこにもう1%助力して、完璧のさらに1歩先まで、ご主人様を運んでみせます。
それにご主人様がご自身の目的を果たされるとき――
当然、ご主人様ならお一人で全て目的を果たされるでしょうが――
私はそこにもう1%助力して、完璧のさらに1歩先まで、ご主人様を運んでみせます。
「100%のその先かぁ。ね!
それじゃあ、オウワシもいつも一緒だから、私はいつでも100%の二歩先が見られるね」
それじゃあ、オウワシもいつも一緒だから、私はいつでも100%の二歩先が見られるね」
む……まあ、確かにあの鳥も……オウワシも私に欠けるものを補っておりますからね。
そうですね。私と、オウワシと、いつでもご主人様をお助け致しますよ。
そうですね。私と、オウワシと、いつでもご主人様をお助け致しますよ。
「ありがとう!
あ!今回はそれに一ちゃんと、もう一人の女の子も護ってね!」
あ!今回はそれに一ちゃんと、もう一人の女の子も護ってね!」
そうですね、そちらも出来る限り善処致しましょう。
――ご主人様のお体だけでなく、その笑顔も護れてこその私ですからね。
――ご主人様のお体だけでなく、その笑顔も護れてこその私ですからね。
●その2
「うーん、じゃあこうしましょう。代わりに、あなたの能力を見せてください!」
「えっ。でも私の能力は、人に対して使わないとあんまり意味が……」
ご主人様……人型の私が近くにいなくとも根付の私はちゃんと待機しているのですから、
そんなに危ないことはさせられませんよ。お帰りいただきますからね。
そんなに危ないことはさせられませんよ。お帰りいただきますからね。
「(そんな!お願い!危なくないって逆砧さんも言ってますし!)」
ご主人様が生徒会室の面々に混じって行動しているところは、
恐らく番長グループの方々に知られているでしょうし、危険度が高いです。
恐らく番長グループの方々に知られているでしょうし、危険度が高いです。
「(でも!まだ見ぬ魔人能力が!目の前にあるのに!)」
逆砧さんとは抗争が決着した後にでもゆっくりと能力を見せてもらえばいいじゃないですか。
「(私には……待つこと……なんて)」
……
ご主人様の笑顔を曇らせる訳には……参りました。
例え危険な目に遭われても、フォローはしっかりとさせていただきます。
ご主人様の笑顔を曇らせる訳には……参りました。
例え危険な目に遭われても、フォローはしっかりとさせていただきます。
「(……ありがとう)」
いえいえ。
―――
「す、すごい! 私いま、ドラゴンですよ! 宇宙からやって来たんです!
むむむ胸はその、あんまりないですけど機械で出来ていて、相撲も得意なんです!
斧さえあれば無敵のニンジャでもあるんですから実際強い!
ああ……お姉ちゃん、かわいいっ! か、勝手に手が、ヒャッハァー!
ご主人様! 金ならいくらでも出すからちょっと襲わせやがれー、うわわわわ!」
むむむ胸はその、あんまりないですけど機械で出来ていて、相撲も得意なんです!
斧さえあれば無敵のニンジャでもあるんですから実際強い!
ああ……お姉ちゃん、かわいいっ! か、勝手に手が、ヒャッハァー!
ご主人様! 金ならいくらでも出すからちょっと襲わせやがれー、うわわわわ!」
止めれば良かった!全力で止めれば良かった!
ぐ……しかしお嬢様が活き活きしているのもまた事実!危険も確かにないようですし……
ぐぐ……止めたいですが……しかし……お嬢様の笑顔のために……
ぐぐぐ……ああ、そんなにもつれ合ってしまわれては……そろそろ我慢の限界が……
ぐ……しかしお嬢様が活き活きしているのもまた事実!危険も確かにないようですし……
ぐぐ……止めたいですが……しかし……お嬢様の笑顔のために……
ぐぐぐ……ああ、そんなにもつれ合ってしまわれては……そろそろ我慢の限界が……
「ちょおおおっとまったあああぁぁぁーーー!!!」
ああ!そこの鳥!オウワシ!私がお嬢様の気持ちを汲んで耐えていたところに!
何を颯爽と駆けつけて、というか急降下して乱入しているんですか!
その行動見過ごせませんよ!
何を颯爽と駆けつけて、というか急降下して乱入しているんですか!
その行動見過ごせませんよ!
お嬢様の窮地を一番に助けるのはこの私です!
―――
すったもんだとはこのことですね。
なんとか先程の場は治まりましたが……。
なんとか先程の場は治まりましたが……。
まったく……私の心はとても収まりそうにありませんね。
『八百万の心模様より ~下心?~』
●その1
「くっはー!さみー!にゃー!」
「それでしたらもう少し厚着をしては……」
「なにをー!馬鹿言ってんじゃねーよ!そんなことしたら動きにくいだろーが!」
「ああ……お気持ちはわかります」
シャムさん、猫なのにこの寒い時期に薄着でずいぶんと元気ですね。
まあお嬢様も和装でなければ動きやすさ重視の服装でいることが多いですけれど……
しかし流石にシャムさんの服装はもう少し……こう……節操といいますか……
まあお嬢様も和装でなければ動きやすさ重視の服装でいることが多いですけれど……
しかし流石にシャムさんの服装はもう少し……こう……節操といいますか……
「おっ!話がわかるじゃねーか!そんならお前もそんなひらひらしたもの脱いじまえよ!」
「あ、いえ、これは防御力重視といいますか、実用的理由がありまして……」
ご主人様。駄目ですよ。衣服の私を纏っていただいたのは危険を少しでも減らすためです。
それは駆けっこや跳ね回るのには不便な服装かもしれませんが、我慢してくださいね。
それは駆けっこや跳ね回るのには不便な服装かもしれませんが、我慢してくださいね。
「あー?その服着てなきゃなんねーの?」
「はい。この服が私を護ってくれているんです」
「ならよ!裾とか袖とか切っちまえよ!まあ大体残ってりゃ問題ねーだろ?」
「うーん……言われてみればたしかに……」
ご主人様!駄目!絶対!そもそも丈の短い和装はご主人様だって好みじゃないでしょう?
それにそんな格好になっては節操がないです!動きやすさも大事でしょうが見目も大事です!
それにそんな格好になっては節操がないです!動きやすさも大事でしょうが見目も大事です!
「なんなら俺が爪で切ってやろーか?」
「あ、いえ、やっぱり服装はこのままでいいですので。お気持ちだけいただいておきます」
……思い止まっていただけてなによりです。
まったく、裾や袖を切るだなどと……
まったく、裾や袖を切るだなどと……
そんなことをされては私がお嬢様の肌に触れられる箇所が減ってしまうではないですか。
●その2
ガリガリガガガガリガリギャギャギャ……
甲高い掘削音と舞い散る火花。
お嬢様が愛用の鋼鉄製メモになにやら走り書きをしていますね。
お嬢様が愛用の鋼鉄製メモになにやら走り書きをしていますね。
ガリガリガガガガリガリギャギャギャ……
よしと一声、作業を終えて、火花から目を保護するために掛けている伊達眼鏡を外し、
これまた火花から鼻や口を保護するために深々と巻いていたマフラーを外し、
人型の私に向かってこれをお願いと、先程まで削っていたメモ板を差し出すお嬢様。
これまた火花から鼻や口を保護するために深々と巻いていたマフラーを外し、
人型の私に向かってこれをお願いと、先程まで削っていたメモ板を差し出すお嬢様。
「これ……逆砧さんのところに届けてくれる?」
おや、また逆砧さんですか。
もちろんお引き受けしますが、これは……なるほど、名前の謎解きのヒントですか。
ご主人様……ご自分で直接伝えるのが恥ずかしいのですね。
もちろんお引き受けしますが、これは……なるほど、名前の謎解きのヒントですか。
ご主人様……ご自分で直接伝えるのが恥ずかしいのですね。
「う……」
何某かの呪いを掛けられるということは、解呪したら危険が及ぶかもしれませんし、
それにそこまで義理立てするほどの間柄というわけでもないでしょう。
呪いを解く術は幾通りもあるでしょうし、これを伝えて呪いが解ける保障もありません。
伝えるのが恥ずかしいのなら尚更考え物です。それでも、これを届けて宜しいのでしょうか。
それにそこまで義理立てするほどの間柄というわけでもないでしょう。
呪いを解く術は幾通りもあるでしょうし、これを伝えて呪いが解ける保障もありません。
伝えるのが恥ずかしいのなら尚更考え物です。それでも、これを届けて宜しいのでしょうか。
「うん……解けなかったらまた何か考えればいいし……
今のところ名前にヒントがあるっていうなら、『それ』がまず試すことだろうし……」
今のところ名前にヒントがあるっていうなら、『それ』がまず試すことだろうし……」
ご主人様はお優しい。
……それでは行ってまいりますね。
……それでは行ってまいりますね。
―――
「えっ、ええと、これを……私に?ド、ドーモ」
私から差し出された鉄板を前に困惑する逆砧さん。
受け取った板を見てこれは何かと困っていますね。
まあ、一目でそれがメモだと分かる人も少ないでしょう。
受け取った板を見てこれは何かと困っていますね。
まあ、一目でそれがメモだと分かる人も少ないでしょう。
「あ……星座が掘り込まれてる……綺麗」
お嬢様の趣味でメモには一枚一枚星座の意匠が施されていますからね。
……まあ、それ、裏面なのですが。
……まあ、それ、裏面なのですが。
「おーい、鍋が出来たぞ。逆砧、一緒に食べようではないか」
そこにやってきたのは巫女装束のお嬢さん。番長グループの方でしょうね。
「お、なんじゃ?鍋敷きとは用意が良いのう。机に置いてくれ」
「えっ?あ、はい!ちょっと待ってください三五さん!
……あ、あの、夢追さんに綺麗なコースターをありがとうって伝えてください!」
……あ、あの、夢追さんに綺麗なコースターをありがとうって伝えてください!」
……まあ、うっかり藪を突いて蛇を出すような真似も控えたほうが良いですね。はい。
食事が終わればメモの裏面にも気付くでしょうし、私はこれで退散といたしましょう。
これは危機管理であってそれ以外の他意はない行動ですね。危機管理、危機管理、と。
食事が終わればメモの裏面にも気付くでしょうし、私はこれで退散といたしましょう。
これは危機管理であってそれ以外の他意はない行動ですね。危機管理、危機管理、と。
逆砧さんが初対面にしては妙に素早く仲良くなったとか、
初対面から妙にお嬢様とのスキンシップが多いとか……別にその辺りは関係のないことです。
初対面から妙にお嬢様とのスキンシップが多いとか……別にその辺りは関係のないことです。
『僕の名前 ~ボード・エニグマティック・ボード~』
鍋パーティーを終えた番長グループの面々は片付けを行う者とくつろぐ者に分かれていた。
食後の一服に煙を吐く狂白ユウ。
隣で武器のメンテをするフルアーマー純子からも並んで煙が。
食後の一服に煙を吐く狂白ユウ。
隣で武器のメンテをするフルアーマー純子からも並んで煙が。
「カニカニカニカニカカニカニ、ふぐふぐふぐぐふぐ」
蛇淵かわずはいつものように歌っている。
ちなみにもちろん、今日の鍋にはカニもふぐも入っていなかった。
蛇淵かわずはいつものように歌っている。
ちなみにもちろん、今日の鍋にはカニもふぐも入っていなかった。
「ファハハハ……アカチャン!」「アイエエエエ!?」
運悪く夢魔の今宵の相手に選ばれてしまった影平が襲われ嬌声を響かせるが、周りは
慣れたもので動じる者はいない。
運悪く夢魔の今宵の相手に選ばれてしまった影平が襲われ嬌声を響かせるが、周りは
慣れたもので動じる者はいない。
「ヨタさん、これもお願い」
「承知しました」
「承知しました」
番長小屋奥の簡易台所では、掃除婦のヨタが残像が見えるほどの速度で次々に皿を
洗っては片付けている。ヨタの元に皿を運んでいるのはれたいたぷただ。
洗っては片付けている。ヨタの元に皿を運んでいるのはれたいたぷただ。
大きな鍋をどかすと、三五が鍋敷きの模様に気がついた。
生徒会SSスレの27で夢追から渡されたものである。
生徒会SSスレの27で夢追から渡されたものである。
「綺麗な模様じゃな……ん? 裏にも何か描いてあるぞ」
「レッサーパンダだーっ」
かわずが即答した。確かに、しっぽがしましまの動物の絵が彫られている。
「レッサーパンダだーっ」
かわずが即答した。確かに、しっぽがしましまの動物の絵が彫られている。
「あっほんとだ、そんな絵も描いてあったんですねー」
れたいたぷたは働きながら、横目でその絵を確認した。近づいて見ようとする。
れたいたぷたは働きながら、横目でその絵を確認した。近づいて見ようとする。
「あ、番長ー、お茶ー」
しかしそこで、動き回るれたいたぷたを目に留めた鶉かなめがぶっきらぼうに声をかけた。
しかしそこで、動き回るれたいたぷたを目に留めた鶉かなめがぶっきらぼうに声をかけた。
「それいいな、アタシも」狂白。
「あ、頼む」純子。
「すまんがワシも頼む」峰内。
「俺は……コーヒーがいい。ブラックで」紫乃守。
「助けてくれえー!」影平。
「あ、頼む」純子。
「すまんがワシも頼む」峰内。
「俺は……コーヒーがいい。ブラックで」紫乃守。
「助けてくれえー!」影平。
「あ、はーい!」
これは一般にパシリと呼ばれる行為で、普通は番長が言いつけるものである。
ひととおり食器を運び終えたれたいたぷたは、嫌味のひとつもなく笑顔で小銭を抱えて
外に出た。影平を助けるのは無理なので見なかったことにした。
ひととおり食器を運び終えたれたいたぷたは、嫌味のひとつもなく笑顔で小銭を抱えて
外に出た。影平を助けるのは無理なので見なかったことにした。
―――
自販機の前で大量の缶を抱えながら、れたいたぷたは見知った顔を見つけた。
「夢追さん、素敵な鍋敷きありがとうございました」
「あっ、な、鍋……?」
「夢追さん、素敵な鍋敷きありがとうございました」
「あっ、な、鍋……?」
一瞬混乱した夢追だがすぐに思い当たる。自分が渡した金属板が鍋敷きになるとは。
しかし、ということは。れたいたぷたは、そこに描かれた内容を見たのだろうか?
しかし、ということは。れたいたぷたは、そこに描かれた内容を見たのだろうか?
「ど、どうでした!?」
「どう……えっと、とっても可愛かったです! レッサーパンダ!」
「どう……えっと、とっても可愛かったです! レッサーパンダ!」
果たしていかなる変化が? 意を決して聞いてみた夢追に、
れたいたぷたは一切罪のない微笑で応えた。……いや、なんにも応えられてない。
嗚呼、レッサーパンダ……。夢追は文字で伝えなかった事を後悔した。
れたいたぷたは一切罪のない微笑で応えた。……いや、なんにも応えられてない。
嗚呼、レッサーパンダ……。夢追は文字で伝えなかった事を後悔した。
どう伝えたものか、夢追は思案に暮れる事となる――
『約束』
ハルマゲドン開戦を目前に控え、静まり返った希望崎学園校舎内。
殺伐とした緊張感が立ち込めるそんな場所を、並んで歩くふたつの人影。
大量の缶を抱えた眼鏡少女と和服の袖を揺らす黒髪少女。
希望崎学園番長、逆砧れたいたぷた。
希望崎学園部外者、夢追中。
殺伐とした緊張感が立ち込めるそんな場所を、並んで歩くふたつの人影。
大量の缶を抱えた眼鏡少女と和服の袖を揺らす黒髪少女。
希望崎学園番長、逆砧れたいたぷた。
希望崎学園部外者、夢追中。
この物語は、周囲の張り詰めた空気など気にも留めずに緩い雰囲気を撒き散らす二人の、
ゆとりGKダンゲロス・ハルマゲドン開戦前に行われた最後のやり取りを記したものである。
ゆとりGKダンゲロス・ハルマゲドン開戦前に行われた最後のやり取りを記したものである。
――忘れ得ぬ感触――
「私も半分、缶をお持ちしますよ」
「いえ、一人で持てますから。これでも体は丈夫なんですよ」
逆砧は夢追とそんな他愛もない会話をしながら、廊下を歩いていた。
逆砧は番長としてグループメンバーの飲み物を買いに自販機へとやってきて、
そこに居合わせた夢追が私も一緒に番長グループの所へ行きますと言いだし、
その結果、こうして二人並んで歩いているという状況が生まれたわけである。
逆砧は番長としてグループメンバーの飲み物を買いに自販機へとやってきて、
そこに居合わせた夢追が私も一緒に番長グループの所へ行きますと言いだし、
その結果、こうして二人並んで歩いているという状況が生まれたわけである。
「突撃インタビューの件がうやむやになっていましたし、今度こそはやっちゃいましょう!
……それでも有力情報が得られなければ……えーと……私も覚悟を決めて……ゴニョゴニョ」
……それでも有力情報が得られなければ……えーと……私も覚悟を決めて……ゴニョゴニョ」
「あ、そういえばそうでしたね。私のこと、気にかけてくれてありがとうございます」
夢追の言葉に、逆砧は軽く微笑み、お礼を返す。――と同時に、
夢追との間にインタビューの話が出た際の騒動を思い出し、逆砧も不意に頬を染めた。
そもそも初対面で教育上よろしくない部位を撫でてしまったというのに、その上、
あの時は自分の能力が原因で酷い揉み合いになってしまったのであった。かなり揉み合った。
夢追との間にインタビューの話が出た際の騒動を思い出し、逆砧も不意に頬を染めた。
そもそも初対面で教育上よろしくない部位を撫でてしまったというのに、その上、
あの時は自分の能力が原因で酷い揉み合いになってしまったのであった。かなり揉み合った。
「その、あのときはあんなことをしてしまって……ごめんなさい」
逆砧の指は女の子を見ると何かの衝動を吐き出すかのように蠢くという癖(?)がある。
逆砧の能力によってモヒカンや触手の属性を付与された夢追に押し倒されたあの時、
抑えきれぬ内なる衝動によって数秒の間に行ってしまった数々の行為を脳裏に浮かべ、
赤面しつつも謝罪を述べた逆砧に対し、
逆砧の能力によってモヒカンや触手の属性を付与された夢追に押し倒されたあの時、
抑えきれぬ内なる衝動によって数秒の間に行ってしまった数々の行為を脳裏に浮かべ、
赤面しつつも謝罪を述べた逆砧に対し、
「いえそんな謝られなくてもいいですよ!なんだか凄く気持ちよかったですし!」
夢追がとんでもない発言を返してきた。
「えっ!?き、気持ち!?」
思わず抱えた缶を周囲にぶちまけそうになる逆砧。
なんとか堪えたものの、思わぬ返答に茹だる脳内は抑えようもない。
どうしよう、私はひとりのいたいけな少女の道を踏み誤らせてしまったのだろうか。
足を止め、夢追の顔をまじまじと見つめ返し、
悶々とあらぬ妄想で脳内にお花畑を形成する逆砧に対し、
爆弾発言を放ってなお笑顔を向ける夢追は言った。
なんとか堪えたものの、思わぬ返答に茹だる脳内は抑えようもない。
どうしよう、私はひとりのいたいけな少女の道を踏み誤らせてしまったのだろうか。
足を止め、夢追の顔をまじまじと見つめ返し、
悶々とあらぬ妄想で脳内にお花畑を形成する逆砧に対し、
爆弾発言を放ってなお笑顔を向ける夢追は言った。
「こう、モヒカン的思考っていうんですか?頭の中がからっぽになったような、
自分が色々なものに変身したような、スカッと爽快で凄く心が沸き立つような感じでした!
凄かったです!凄い体験ができました!逆砧さんの能力!リバティー・ヒルでしたっけ!」
自分が色々なものに変身したような、スカッと爽快で凄く心が沸き立つような感じでした!
凄かったです!凄い体験ができました!逆砧さんの能力!リバティー・ヒルでしたっけ!」
――能力の話かよ!
逆砧は盛大にずっこけた。手に持つ缶も盛大にぶちまけた。
――忘れ得ぬ夢――
「大丈夫ですか!?」
そう、差し伸べられた手を見て――
尻餅をついた逆砧はその手を握ろうと自分の手を伸ばし――
手と手が触れ合うその直前に、不意に逆砧は硬直したように動きを止めた。
尻餅をついた逆砧はその手を握ろうと自分の手を伸ばし――
手と手が触れ合うその直前に、不意に逆砧は硬直したように動きを止めた。
「?」
少しだけ不思議そうな表情を浮かべ、それでも差し出した手をそのままにする夢追。
そんな夢追を見返しながら、なぜ自分は動きを止めたのか分からず、逆砧は首を捻る。
何か自分は大切なことを忘れているような、いや記憶喪失なのだから当然なのだが、
何か手を握るという行為に特別な思い入れがあったような――
逆砧の頭に、形の見えぬ、捉え所のない思いがちらついては消えていく。
そんな夢追を見返しながら、なぜ自分は動きを止めたのか分からず、逆砧は首を捻る。
何か自分は大切なことを忘れているような、いや記憶喪失なのだから当然なのだが、
何か手を握るという行為に特別な思い入れがあったような――
逆砧の頭に、形の見えぬ、捉え所のない思いがちらついては消えていく。
「ひっぱりますよー」
そんな逆砧の中空で固まった手を、暢気な声と共に夢追がすっと握った。
はっと我に返った逆砧は、自分の体が引き起こされたこと、
そして自分の手が夢追の手に握られ、互いの体温を相手に伝え合っていることを実感し――
はっと我に返った逆砧は、自分の体が引き起こされたこと、
そして自分の手が夢追の手に握られ、互いの体温を相手に伝え合っていることを実感し――
「えっ!?逆砧さん!?だ、大丈夫ですか!?何処か傷めました!?」
ほろり、涙が零れていた。
「え……あ、これは、違うんです……痛いとかじゃなくて……
ど、どうしよう……す、すみません……すみません……」
ど、どうしよう……す、すみません……すみません……」
慌てて眼鏡をずらし、涙を拭おうとする逆砧であったが、
溢れる涙と正体の知れない情動は収まらない。
突然目の前の相手に泣き出された夢追は大いに慌てふためき、
なんとかしようと必死に頭を働かせ、人を泣き止ませる手段を記憶の中から探り、
溢れる涙と正体の知れない情動は収まらない。
突然目の前の相手に泣き出された夢追は大いに慌てふためき、
なんとかしようと必死に頭を働かせ、人を泣き止ませる手段を記憶の中から探り、
「し、失礼しますっ!」
がばっと逆砧の体を抱き締めた。
「ゆ、夢追さん!?」
「そ、そのですね、私も涙が止まらないことって、何度もあって、それで、
そんなときに師匠……あ、私の面倒を見てくれている人が、ぎゅっと抱き締めてくれて、
それで、私は泣き止むことができて……
あ、あの、私じゃちょっと包み込むみたいにとか、できませんし、
あ、いや、それよりも私じゃ力不足かもしれませんけれど、
えーと……そう!逆砧さんがご自身に能力で妹属性を付与すれば恥ずかしくないですよ!」
そんなときに師匠……あ、私の面倒を見てくれている人が、ぎゅっと抱き締めてくれて、
それで、私は泣き止むことができて……
あ、あの、私じゃちょっと包み込むみたいにとか、できませんし、
あ、いや、それよりも私じゃ力不足かもしれませんけれど、
えーと……そう!逆砧さんがご自身に能力で妹属性を付与すれば恥ずかしくないですよ!」
恥ずかしいのか緊張しているのか、はたまた突然の事態に混乱しているのか、
真っ赤になりながら早口でまくしたてる夢追の声を聞きながら、
早鐘のように鳴っている夢追の鼓動を自分の胸に感じながら――
気付けば、逆砧の涙は止まっていた。
真っ赤になりながら早口でまくしたてる夢追の声を聞きながら、
早鐘のように鳴っている夢追の鼓動を自分の胸に感じながら――
気付けば、逆砧の涙は止まっていた。
「夢追さん……ありがとうございます」
「い、いえ!どういたしまして!」
夢追の背中に手を回し、お礼を述べる逆砧。それに応える夢追。
抱き合ったまま、二人は言葉を交わす。
抱き合ったまま、二人は言葉を交わす。
「思い出せませんが……何だか一つ、夢追さんのお陰で夢が叶った気がするんです」
「えっと……それは、どうも?」
思い出すことは出来ずとも、忘れることの出来ない夢が自分にはあった。
それが思わず形になって、溢れて溶けた。きっとこれはそんなことなんだ。
逆砧は夢追の肩の上で残った涙を拭い去った。
それが思わず形になって、溢れて溶けた。きっとこれはそんなことなんだ。
逆砧は夢追の肩の上で残った涙を拭い去った。
しばし、無言で抱き合う形となった二人であるが、おもむろに逆砧が口を開く。
「あの……もう、大丈夫ですので」
「本当に大丈夫ですか?」
「はい……と言いますか、あの、そろそろ手が我慢の限界で……」
「ひゃあああ!?」
――忘れ得ぬ約束――
廊下に散らばった缶を二人で手分けして集める逆砧と夢追。
半分持ちますよ、と夢追が言い、それじゃあお願いします、と逆砧が笑顔で応える。
半分持ちますよ、と夢追が言い、それじゃあお願いします、と逆砧が笑顔で応える。
「さあ、それじゃあ今度こそ突撃インタビューですね!」
持ちやすいようにと缶を積み重ねながら、そう意気込む夢追を見て、
同じく缶を積み重ねていた逆砧は、ふとその手を止めて、表情に影を落とした。
同じく缶を積み重ねていた逆砧は、ふとその手を止めて、表情に影を落とした。
「夢追さん……やっぱり、私、インタビューは……」
逆砧の様子に気付いた夢追はいぶかしげな表情を浮かべ、どうかしたのかと逆砧に訊ねた。
「私……番長グループのみなさんからとても良くしてもらってますし、
蛇淵さんや一さんともお友達になれましたし……、
自分の正体は……確かに気になるんですけれど、やっぱり怖いんです。
手の癖もそうですし、お前は危険だっていう言葉も……
それに、さっきみたいに、自分が覚えてもいないことで自分の心が動くのを実感すると、
……自分にも本当に過去があったんだって実感すると……怖いんです」
蛇淵さんや一さんともお友達になれましたし……、
自分の正体は……確かに気になるんですけれど、やっぱり怖いんです。
手の癖もそうですし、お前は危険だっていう言葉も……
それに、さっきみたいに、自分が覚えてもいないことで自分の心が動くのを実感すると、
……自分にも本当に過去があったんだって実感すると……怖いんです」
怯えるような表情で、かすかに震えながらそう心情を吐露する逆砧を見て、
夢追は何も言えず、ただ黙ってその言葉に耳を傾けていた。
が――
夢追は何も言えず、ただ黙ってその言葉に耳を傾けていた。
が――
「あっ!」
突如、黙っていた夢追が声をあげ、
「ど、どうかしました?」
逆砧もそれに驚いて反応した。
夢追は慌てて立ち上がると、逆砧にいきなりすみませんと一言詫びを入れた。
夢追は慌てて立ち上がると、逆砧にいきなりすみませんと一言詫びを入れた。
「社が今、探していた女の子を見つけたそうです!
ただ、見た目が見た目なので逃げられてしまっているそうで、私がちょっとそこへ……
ああ、あっちの社は今転送能力が使えないんだっけ……ちょっと行ってきます!」
ただ、見た目が見た目なので逃げられてしまっているそうで、私がちょっとそこへ……
ああ、あっちの社は今転送能力が使えないんだっけ……ちょっと行ってきます!」
ついに探し人を見つけたと聞き、うだうだしている場合ではないと気持ちを切り替え、
逆砧も立ち上がる。一度人探しの手伝いを頼まれた身であるからには目的を果たさなければ。
逆砧も立ち上がる。一度人探しの手伝いを頼まれた身であるからには目的を果たさなければ。
「校舎内なら私のほうが詳しいですから、どんな場所か言ってもらえれば案内します!」
逆砧の提案に、ありがとうございますと笑顔で返し、探し人の居る場所の様子を伝える夢追。
そこならこっちが近道です、急ぎましょうと駆け出す逆砧。
しかし、
そこならこっちが近道です、急ぎましょうと駆け出す逆砧。
しかし、
「あ、すみません!この格好だと……走り辛くて……」
和装の夢追がやや出遅れる。
そんな夢追を見て、逆砧は少しの逡巡をした後――その手を握り、一緒に走り出した。
そんな夢追を見て、逆砧は少しの逡巡をした後――その手を握り、一緒に走り出した。
「わあ……あ、ありがとうございます!」
もう涙は出ない。
代わりに、ふわり、笑顔が零れた。
代わりに、ふわり、笑顔が零れた。
――――――
ハルマゲドン開戦を目前に控え、静まり返った希望崎学園校舎内。
殺伐とした緊張感が立ち込めるそんな場所を、並んで走るふたつの人影。
素朴な風貌の眼鏡少女と和服の裾をはためかす黒髪少女。
ふたつの影は、お互いの手でひとつに結ばれ、颯爽と駆けて行く。
その遠ざかり行く人影から声が聞こえる。
殺伐とした緊張感が立ち込めるそんな場所を、並んで走るふたつの人影。
素朴な風貌の眼鏡少女と和服の裾をはためかす黒髪少女。
ふたつの影は、お互いの手でひとつに結ばれ、颯爽と駆けて行く。
その遠ざかり行く人影から声が聞こえる。
「私は、逆砧さんの正体がなんであろうと、きっとお友達になれると思います!
逆砧さんなら、過去がどんなものであろうと、間違いなく、優しい人ですよ!
だから、約束します!私は逆砧さんが過去を思い出しても、必ず友達になります!
……そうだ!逆砧さんにひとつ、伝えることがあるんです!
逆砧さんの名前のことで……もしかしたら、これで呪いが解けるかも……!
あの……ちょっと口に出すのが恥ずかしいんですけれど……たぶん…………」
逆砧さんなら、過去がどんなものであろうと、間違いなく、優しい人ですよ!
だから、約束します!私は逆砧さんが過去を思い出しても、必ず友達になります!
……そうだ!逆砧さんにひとつ、伝えることがあるんです!
逆砧さんの名前のことで……もしかしたら、これで呪いが解けるかも……!
あの……ちょっと口に出すのが恥ずかしいんですけれど……たぶん…………」
言葉を交わす二人は廊下の角を曲がり、見えなくなる。
最後に見えた二人の横顔は、眩しいほどの笑顔であった。
最後に見えた二人の横顔は、眩しいほどの笑顔であった。
――――――
……その後、二人の間に何が起こったのか、いかなるやり取りが為されたのか。
逆砧の呪いは解かれたのか。抗争中の希望崎学園に迷い込んだ少女は助け出されたのか。
残念ながら、それらを語る資料は残されていない。
逆砧の呪いは解かれたのか。抗争中の希望崎学園に迷い込んだ少女は助け出されたのか。
残念ながら、それらを語る資料は残されていない。
直後に開戦したであろうハルマゲドンの戦火によって紛失したのか、
何か記録することも憚られるような事態が起きてしまったのか、
あるいは頼んだ飲み物がやってこない事に業を煮やした何者かが資料を破棄したのか。
何か記録することも憚られるような事態が起きてしまったのか、
あるいは頼んだ飲み物がやってこない事に業を煮やした何者かが資料を破棄したのか。
希望崎の混沌も一層の苛烈さを増し、隔月毎に起こるハルマゲドンや、
学外でも二大勢力の衝突による長期戦争の幕開けを予感させる紛争など、
混乱の極みにある情勢の今となっては、二人のその後を追うこともままならない。
学外でも二大勢力の衝突による長期戦争の幕開けを予感させる紛争など、
混乱の極みにある情勢の今となっては、二人のその後を追うこともままならない。
ゆえに、我々は、願う。ただ、願う。どうか――皆の愛につつまれてあれと。