四角形が照明に照らされ浮かび上がる。清潔に掃き清められ、周囲には分厚いロープが張り巡らされている。無人の観客席は空疎な印象を与えるが、張り詰めた緊張感は、このプロレス会場がオフシーズンではなく、今まさに死闘の場となることを雄弁に物語っていた。
解説席に座る少女が二人。
一人は長い金髪にトップハットと紳士服の少女。名を早瀬光。魔法少女名、クイックローラー。
もう一人は、武装親衛隊(SS)の将校服の上に白衣を羽織った金髪シニヨンに碧眼の少女。魔法少女名、トート・アリア。
解説席に座る少女が二人。
一人は長い金髪にトップハットと紳士服の少女。名を早瀬光。魔法少女名、クイックローラー。
もう一人は、武装親衛隊(SS)の将校服の上に白衣を羽織った金髪シニヨンに碧眼の少女。魔法少女名、トート・アリア。
「画面の前のVIP会員の皆さん、聞こえておりますでしょうかー!
まもなく、【ヒートハウンド】VS【ジャスティスファイア】の試合が開始されようとしています!
実況・解説は私、『解説王に私はなる!』でお馴染み、魔法少女クイックローラーが担当致します!
そして!」
まもなく、【ヒートハウンド】VS【ジャスティスファイア】の試合が開始されようとしています!
実況・解説は私、『解説王に私はなる!』でお馴染み、魔法少女クイックローラーが担当致します!
そして!」
「フハハハハハハ! 劣等の皆さんグーテンモルゲン!
第三帝国が生んだ世界で一番頭が良い魔法少女、トート・アリアだ!
今日は後進国である諸君らのために解説をしてやるぞ!」
第三帝国が生んだ世界で一番頭が良い魔法少女、トート・アリアだ!
今日は後進国である諸君らのために解説をしてやるぞ!」
「はい! なんと第三帝国出身の魔法少女、トート・アリアさんに来ていただきました。わー、私、本物のナチス見るの生まれて初めてです!
日本のサブカルでもナチスはフリー素材として大人気ですけど、その辺はどう受け止めていらっしゃるんでしょうか?」
日本のサブカルでもナチスはフリー素材として大人気ですけど、その辺はどう受け止めていらっしゃるんでしょうか?」
「ナチスが大人気なのはもちろん知ってたけど、日本人みたいな劣等人種にも人気があるのか、へぇー」
「なるほど、貴重なご意見ありがとうございます。
さて、話題を試合に戻しますが、アリアさん、ヒートハウンドにジャスティスファイア、失礼を承知で申し上げればあまり有名ではない魔法少女ですが、二人ともどのような方たちなのでしょうか」
さて、話題を試合に戻しますが、アリアさん、ヒートハウンドにジャスティスファイア、失礼を承知で申し上げればあまり有名ではない魔法少女ですが、二人ともどのような方たちなのでしょうか」
「ヒートハウンドは犬が魔法少女になったとデータにある。つまり犬畜生だな。
ジャスティスファイアは米国出身らしい。つまり頭空っぽの脳筋に違いない。
つまり私は偉大なる存在というわけだ! フハハハハハハ」
ジャスティスファイアは米国出身らしい。つまり頭空っぽの脳筋に違いない。
つまり私は偉大なる存在というわけだ! フハハハハハハ」
「なるほどですねぇ」
二人の音声は、魔法を介して、ナイトクラブ〝Man-Man〟の下層、核シェルター兼VIPエリアに届けられる。そこでは欲望を肥え太らせた暗黒金持ちたちが、魔法少女たちの死の饗宴を肴にしているのだ。
「おおっと、各自のコーナーからそれぞれ選手が出てきましたよー!」
赤コーナーから姿を表すのは、犬耳と尻尾を生やし、ドレスを纏った小柄な魔法少女である。
傍らには、カジュアルな格好に身を包んだヒートハウンドと同年代程度に見える少女が同伴している。
傍らには、カジュアルな格好に身を包んだヒートハウンドと同年代程度に見える少女が同伴している。
「おや、友人も一緒に来ていますね? セコンドでしょうか」
「ルール上、セコンドは付けられない仕様のはずだ。観戦者は双方の同意があってのみ、観戦席にワープできるシステムのはず。
ということは……なるほど、先ほどの幹部会議で言っていた問題とはこれのことか。
フハハハハハ、戦場とは常に混乱に満ち満ちているもの! 想定外こそ戦場の醍醐味だよ!」
ということは……なるほど、先ほどの幹部会議で言っていた問題とはこれのことか。
フハハハハハ、戦場とは常に混乱に満ち満ちているもの! 想定外こそ戦場の醍醐味だよ!」
「おおっと、アリアさんが自己完結して楽しんでいます!
どうやらあの同伴者には何か秘密がある模様です! いったいどんなマジカルが展開するのか~!」
どうやらあの同伴者には何か秘密がある模様です! いったいどんなマジカルが展開するのか~!」
二人の少女は、解説席に目をやることもなく、静かにリングに向けて歩みを進める。
各自の場所から此処に連れてこられた際、選手はパンデモニカから説明を受けている。
リングに上がることを拒否すれば即座に呪いが発動すると脅され、不本意ながらも従わざるを得ないのだ。
なお、解説王を目指す者クイックローラーはこのことを知らず、あくまで双方同意の真剣勝負とだけ聞かされている。
リングに上がることを拒否すれば即座に呪いが発動すると脅され、不本意ながらも従わざるを得ないのだ。
なお、解説王を目指す者クイックローラーはこのことを知らず、あくまで双方同意の真剣勝負とだけ聞かされている。
「青コーナーからジャスティスファイアさんも入場します!
なんと、人型ではありません! 犬、犬です!
槍を咥えたロボットドッグが、リングに向かって進んでいます!」
なんと、人型ではありません! 犬、犬です!
槍を咥えたロボットドッグが、リングに向かって進んでいます!」
「おや、あの槍は……。なるほど、この勝負、わからないな」
「アリアさんがまた自己完結しています! なお、我々の音声は、選手には聞こえないよう魔法が会場に掛かっています。なので我々の解説で試合の有利不利が変わることはないのでご安心を!」
先にリングに上がったのは、ヒートハウンドの方だった。
同伴の少女と寄り添うように、不安そうな様子でジャスティスファイアを見つめている。
同伴の少女と寄り添うように、不安そうな様子でジャスティスファイアを見つめている。
「ほほう。既に試合は始まっているな」
「と、言いますと?」
「ジャスティスファイアが凡愚ならば、この勝負、一瞬でケリがつくぞ」
「一切解説してくれませんね、アリアさん」