FRONT of MAID  supplementary biography 02

(投稿者:クラリス・アクナ)

第2話 評価試験


「前線を高空で突破したフライ級の殲滅が私の試験内容ですね」
「そうだ。数は説明したとおり7匹と少ない。空戦でダメージを受けているのもあるからまだ楽な分類だ」

デウスルフトバッフェに合流して40分ほど。
場所を移して作戦会議を開く場所は、電球が一個しかない薄暗く小さい部屋で行われたが、作戦内容としてはあまりにも単純で、殲滅の命令だけを出して終わるという内容だった。
敵戦力は前線を高空で突破して領域に侵入したフライ級7匹で、中には戦闘機の機銃を浴びてダメージを負っているのもいるらしい。
空を飛べないメードでは7匹でもそれなりに策を必要とする数だが、空戦対応のメードであればものの数分で終わる内容である。

「今回は試験ということで、実際に攻撃に出るのはデウス、君だけだ。ドレスは遥か高空で君とGの動きを観測してもらう。ナビゲートも無しだ。自力で敵を索敵して殲滅しろ」
「了解しました」
「我々は戦闘領域外にいるがGのことだ、空気を読むとも限らない。そのときは要請を出すので防衛についてくれ」

考えうる状況を手短に話して伝えるララスンは、デウスに試験時の行動を制限させた。
ある程度の難易度を持たせなければ評価する意味がないためである。

「そろそろ目標空域に到着する。ドレス、先に出て敵を観測するんだ。舞台の準備をするぞ」
「はいはい・・・」

気だるそうにしながらも、命令は聞くドレスは、デッキに向かって歩いていった。
ララスンに殴られたところが痛むのか、自分で頭を撫でながら歩く様はやっぱり子供っぽい。

「あんな子がメードとして生まれる・・・。私たちと同じように・・・」
「唯一の救いはそれが人殺しの戦争ではないということだろう。これが人類を相手にした戦争にしてみろ。人間は消える」
「・・・・・」

人間は消えるという文脈になんの意味があるか分からない。
だが、そこにある意味というのは決して無視してはいけない重要な何かであることには違いない。

「まぁいずれにせよ、このままでは人類は死滅する。文明もすべて消え去ってしまうだろう」
「私たちはその役に立っていると信じたいです」
「私はねデウス。君たちメードの事を兵器や武器といったような扱いをさせたくないのだ。“役に立つ”といったような言葉は、私は嫌いでね。せめて“お手伝い”とか“協力”といったもっと人間らしい言葉が好きだ。寂しいことを言わないでくれ」
「ララスンさん、貴女ほどの人がここにいる理由がなんとなく分かりました。私は貴女が好きです」
「ありがとうデウス」

それぞれお互いに長い年月を生きてきた者の会話は、さっき部屋を出たドレスには分からないだろう。
デウスには、ララスンという人物がそれなりの人生を歩んでいることを感じ取っていた。
本来ならばここには居る筈のないザハーラの地の出身者と思わせる黒い肌。
准尉という立場ながら人手不足を思わせるほど気苦労が多そうな言い回しは、彼女の生い立ちを想像させるには十分だった。

『こちらコクピット。ドレス、敵観測及び試験ミッションのため開場します』

部屋にあるスピーカーからドレスの準備完了サインが届く。
ララスンは機内無線をとって告げた。

「ドレスの開場を認める。いって来いドレス」
『はぁ・・・了解。ドレス開場、舞台にでます・・・』

開放されたハッチを背にして倒れこむと、そのまま重力に任せて降下するドレス。
頭を下にしてスカイダイブの体勢に入り一気に加速する。

元々小さい身体と軽い体重から重力加速はあまり良くないドレスは、投下高度から地上ギリギリまで降下した後に飛ぶというスタイルを持っている。
ドレスが直接戦闘に参加する場合、彼女の翼は他の空戦メード達より持続力だけしか特筆するものがないため、対地攻撃を効率的に行えるようにとこのスタイルになった。

ただ、今回は高高度での観測が任務である。
ドレスは地上から吹き上げる上昇気流を捕まえると両腕を広げた。

「Flying in the sky」

ドレスの眼前から現れる白い光の輪。
それが徐々に大きくなって彼女の身体を包むように背中へ移動すると、輪がぐっと巨大化した。

「“帆に受けし風よ。汝らの力で我が躯を星の海へ投げ入れよ”」

空へ上がるための言葉を読むと、元の大きさから何倍にも広がった光の輪がドレスを持ち上げる。巨大化した輪が、帆の役割を果たして上昇気流を捕らえたのだ。
腕を広げたまま水平姿勢に入ると、輪を前へ戻していく。
完全に風を掴んでいる輪は、降下時の空気抵抗と上昇気流の力をあわせてドレスをどんどん引っ張り、上昇姿勢へと移行する。

「推力発生開始・・・」

相変わらず面倒くさそうな顔をしつつ、帆へ更なるエネルギーを送り込む。
白く光っていた輪は青い色へ染まっていき、煌びやかな空気の波を作り出すと、ドレスは空へと戻っていく。
降下したときの速度を遥かに超え、ものの数秒でヴァンシの前を掠めるように高度を上げていった。

「Voiture Lumiere(ボアチュール・ルミエール)・・・」
「ほう、面白い表現をするんだな君は」

ブリーフィングを済ませたデウスとララスンがヴァンシの展望室からその様子を見ていた。
指定の高度までゆっくり上昇していく一本の閃光は雲の陰に入って見えなくなる。

「“光の運び手”とは上手い言葉だ。シーア達が聞けば喜ぶぞ」
「なんとも美しい限りだと思います。ルトバッフェの皆様はあの翼を使って空を?」
「一応な。我々ルフトバッフェのメードはあの翼を使って空を飛ぶ。まぁドレスはちょっと特殊だがね。風を受けて飛ぶタイプだ。速度とかはないが持続力がずば抜けていてね。彼女のポジションはいつも偵察・哨戒・観察だよ」

ドレスが消えた雲を見ながら彼女のポジションをララスンはちょっと自慢げに話す。
彼女が生まれる前まで、戦闘力にこそ定評があったルフトバッフェはある問題をずっと抱えていた。
それは、目と耳の役割を持つ空中偵察管制員の存在だった。

高高度から通信・斥候・哨戒を行える通常の部隊は多く居たが、メードの運用に関する知識がないせいで、設立当初は単純な戦闘部隊として活動しざるを得なかった。
ミテアを筆頭とする後方支援主体の“青の部隊”が出来てからもその問題は常に付きまとい、偵察適正が若干あったトリアなどが担当するも、部隊を大隊として運用できるほどのカバーが出来ず、結局は小隊ごとに派遣する形をとることになる。
しかし、今回ドレスが戦線に参加するうということで部隊の大規模攻勢が可能になり、小隊ごとの派遣のみならず、ルフトバッフェ全体を送り込むことも可能になった。
ようやく出揃った人材というわけである。

「今後我々の大切な役割を担う、将来有望な少女だよ」
「これからが頼もしく思えます」

デウスは幾分か嫉妬感を覚えていた。
空間を汚染するもので飛ぶような自分より遥かに素晴らしいと。

『ララスン様! 至急コクピットへいらして下さい!』
「ん? どうした!?」

機内放送で呼び出されるララスンは、内線でコクピットにつなぐ。

『ドレスより緊急通信、目標としていたフライの部隊が予想接敵位置より10マイルの誤差あり。あと5分でコンタクト!』
「なんだと!?」
『現在高度13000フィートを進軍、真っ直ぐガリア侯国を目指しているとのこと。コンタクト位置はヴァンシより10時の方角!』
「(かなり高いな、こちらとほぼ同じ高度か・・・)分かった。直ぐに行く」

ガチャンと乱暴に内線を切ると、デウスに向き直る。

「すまない、予定よりかなり早い出撃となった」
「大丈夫です。いつでもどうぞ」
「よし、デウス。ステージに出てくれ。開場準備だ」
「了解」

二人はそれぞれの持ち場へと走っていく。
身長が大きいデウスが窮屈そうに通路を通っていく姿に、その背を見ていたララスンはふと気になった。

(あの義肢・・・、なんのために付いている・・・?)

スカートの裾から見える管状の機械。
まるで尻尾のようにウネウネ動き、その先端からコンセントの類かさらに管状の物が3本付いている。

EARTHがデウス派遣の際に車椅子のことを言っていたがそれのことか・・・?)

用途不明の義肢と身体が生まれつき弱いため付き添いのメードを用意してほしいという報告が今更疑問に思えた。

「まさか・・・な」

一瞬の不信感をぬぐうため、急ぎコクピットへ向かう。

『こちらデウス。出撃準備できました』
「よし、そのまま指示あるまで待機だ」
「いや、直ぐに出させろ。上部ハッチから出るんだ」

やや遅れてコクピットに入ってきたララスンはデウスに指示を飛ばす。
上部ハッチは緊急用に使われる防御用のデッキで、そのまま機体の上面にメードを配置させる場所である。

『了解』
「上部ハッチ緊急開放、プロセスを飛ばす。デウス、頼んだぞ」
『はい』

リフト状のカゴに乗り込み、デウスはそのまま機体の上面に配置される。
正面左側には大きな積乱雲が聳え、太陽の光がさえぎられていた。
冷たい風が強烈に顔を叩く。

(ッ・・・瘴気反応!?)

左腕に一筋の黒い線が流れていった。
自分の身体を動かすために必要最低限の力を残していたそれが、どうやらGに反応したらしい。

「フェルムコンデンサ起動。入力開始・・・」

背中にある一部の機械が勝手に動くと、なにやら吸収口のようなものが現れる。
彼女にとって、これがなければまともに戦闘できないほど重要なものである。

『デウス! まだそこにいるか!?』
「はい。敵の現在位置が不明です」

突如ララスンから通信が入る。
彼女の耳についている機械から拾っているものからだ。

『それはそうだ。すでに囲まれているからな』
「! どういうことですか」
『今左側に雷雲があるな』
「雷雲の中を通ってきたということですか?」
『ドレスからの報告でもこれのせいで索敵が出来ないといっていたが、ついさっき、雲の渓谷を縫ってこちらに接近するフライを見つけたそうだ』
「それにしては接近が速すぎますが」

素朴かつ単純な疑問。
フライ級Gはその名の通り、空を飛ぶことに特化したGで、現在人類側の最大級の脅威といえる種類だ。
外郭はワモン型より脆く、空中での動きやすさを重視したためかかなり軽い装甲を持つ。
この装甲は戦闘機の機銃でも十分撃ちぬけるほどであり、発見当初はメードに頼らなくてもよい下級種だと言われていたが、現在ではもっとも恐れられる種として世界に知らされている。
その理由は進化した反応速度とスピードだった。

『いや、ありえなくもない。やつらの飛行速度で考えるならば1時間前ですでにコンタクトしている』
「・・・負傷したフライを守っていた?」
『それが正解に近いだろうが、今は戦闘のことに集中するんだ。試験は続行する』
「了解」
『条件を一部変える。常に通信可能にしておけ。索敵を受け持つから順次撃破、敵を殲滅しろ。無論、この機体を守りぬけ。落ちたら意味がない』
「わかりました」
『よし、状況開始。レーダー索敵と対空防御姿勢だ!』

ララスンの怒号が飛び、作戦は開始された。




(コンデンサ26%・・・近いか)

自身の力は極力ギリギリまで発動させないようにしている。
でなければ、ララスン達乗組員全員が汚染されてしまうだろう。だが、このままGの接近を許せば彼女たちも汚染される。
微弱な瘴気量だが、これが増え続けると人は人でなくなってしまう。

「・・・・・」

どうするべきか悩む間にも瘴気が満ちていくのが分かった。
体中に黒い線が走り、残している力が暴れ出していた。
デウスは決断する。

「・・・“瘴炉”起動」

白き天使が黒き力を使うときが来た。
ギーンと低い機械音が骨格を伝わって耳に入る。
聞きたくない音だが、聞かなければならない。
格納された翼が大きく広げられ、手足に付いた義肢も展開された。
己の内から、強大な黒いオーラがまとわり付き、瘴気の吸収が始まる。

「無様な」

大出力瘴炉を維持するため、コンデンサの吸収がより強くなる。
スタート時点で33%あった容量が、すでに17%まで減っていた。

「あなた方を」

大量吸気で瘴気の流れを悟ったのか、一匹のフライが雲の中より姿を現す。
デウスの下へ接近するそいつは、エサとなるララスン達を無視して一直線に向かってくる。
どうやら警戒のために近づいてきたようだ。

「斬るのには」

右腕に持つ回転刃が唸りを上げ、瘴気の刃を形成する。
Gの接近でコンデンサと出力が潤っていくのが分かり、気分が昇っていく。

「全く」

真正面から突っ込んでくるフライは何を思っていたのだろうか。
ひたすら自分の瘴気を吸い続けている人間を見て親近感でも沸いたのか。
デウスが高々と右腕を上げ振り下ろすのと、フライがそれと交差したのは同じだった。

「不足ありません」

顔面から真っ二つになったフライは、体内の液体と瘴気をばら撒きながら墜ちていく。
その残った瘴気すら貪欲に吸い込むコンデンサと瘴炉は、さらに吸収を続けた。
仲間の死を知り、雲より現れた他のフライたちからさらに。

「では、続きをはじめましょう」

背中に装着されているフェルムリーフからエネルギーが噴出し、黒いオーラを纏った力場が彼女を空へと運ぶ。

「見ていなさい。小さい小さい“観察屋”さん」





今回のすぺしゃるさんくす



2話目ですん。
デウスさんがちょっとづつ変わっていきます。
というかしゃべりすぎと反省中。

ちょっと瘴気吸ってきますね  (゚∀。)ムハー










最終更新:2009年03月02日 00:19
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。