こちら白竜工業対G兵装開発特務課 出撃!黒雷騎士!!

(投稿者:天竜)


 エントリヒ帝国首都ニーベルンゲの片隅には、ひっそりと、そして、明らかに異質な存在感を放つ町工場が存在する…。
 その名は、白竜工業
 かつて楼蘭に居を置いていた、気難しい職人達の溜まり場…。

 その更に奥に、黒板と円形の机が存在する部屋がある。
 会議室兼社長室、そしてその別名を…


こちら白竜工業対G兵装開発特務課!! 出撃!黒雷騎士!!



「では、出撃前に今回の作戦内容を確認しておこう」
 白髪まじりの青年が、黒板の前に立っている。そう、彼こそ、この白竜工業の若き社長、白竜獅遠である。
 目の前の円形の机には、メイド服を着た少女が机の上に座って、じゃがバターを食べている。若干行儀が悪い。
 ディナギア…白竜工業が擁する切り札にして、同会社が有する唯一のメード…ディナと呼ばれている。
「…と、いっても、いつも通り前線の奥深くに単騎突撃、最前線のメード部隊と合流し、Gを殲滅して帰還。
 …で、いいよね?社長」
 ディナギアが笑顔で言う。
「ああ、その通りだ」
 獅遠が頷く。
「だが今回はいつもより難易度が高い。油断はするなよ」
「…それ、どういう意味?」
 ディナギアが聞き返す。
「…最前線に強力な大型の個体が確認されているらしい。
 センチピード…ドラゴン級と言えば、分かるか?」
「成る程…資料で読んだ事があるよ」
 ディナギアが頷く。
「前線にはプロミナも投入されているが、やはり苦戦しているらしい」
 プロミナ…白竜工業製の武器を持つ、数少ないメードの一人であり、ディナとも面識があった。
「プロミナが苦戦してる…早く行かないといけないけど、こういう確認を忘れると、痛い目を見るよね」
 ディナギアが苦笑する。
「…まぁ、立ち塞がるなら、全力で潰すだけ、だけどね」
 ディナギアが頷く。その眼には一点の怯えも感じられない。
 垣間見られるのは、彼女の強く純粋な心だけだった。
「ならば良い。お前の事だ、前線に出たら目の前の敵を片っ端から斬り捨てるんだろう?
 …たとえ、それがセンチピードだろうが」
 獅遠が不適に笑う。
「…もちろんよ」
 ディナギアもそれに答えて笑い返す。
「なら、行ってこい!そして、戦果を持って帰って来い!
 …その時はまたじゃがバターを渡す!」
「了解!私はここに誓う!白竜工業の、竜式の、その誇り高き名に相応しき確かな戦果を!!」
 ディナギアが剣を掲げる。
「そう、勝利は…」
 獅遠がそれに応え、腰に下げていた日本刀を抜く。
 前線には出られないとはいえ、その刀は白竜工業、
 いや、白竜工業が白竜工業と呼ばれる以前から彼らを見守り続けてきた、白竜工業そのものの象徴…。
 それを持つのを許されるは、歴代の白竜工業の社長のみである。
「我等にあり!!」
 剣と刀が打ち鳴らされる。
「…ところで、気になったんだが、一体何故微妙にエントリヒっぽい誓い方なんだ?」
 やってしまってから、獅遠が尋ねる。
「だって、ここはエントリヒでしょ?それに、今、社長だってノリノリだったじゃない」
「フ…緊張感の無い奴だ…まぁ、良い…そうでなければ我ら所属のメードは務まらんな。
 …外までは見送らんぞ、行ってこい、ディナ!」
 獅遠が笑顔で言う。
「了解!」
 ディナギアがそれに応えてから、部屋を出て行く。
 そして、残された獅遠が部屋の天井を見上げ、呟いた。
「…誰が修理するんだ、これ…」
 天井には、ディナギアの剣が刺さった跡と日本刀の跡がしっかりとついていた…。
「仕方ない…俺がやるか」
 そして獅遠は資材を取りに社長室を出た…。

 職人達の仕事場を通過する際、三人のむさ苦しい男たちがディナギアを見送る。
「プロミナに会ったら、よろしく伝えといてくれよ、それと、『死ぬな』と頼む」
 上半身裸の筋肉質な男が言う。刀剣担当、ディナギアの剣を作り出した、平賀武士だ。
「了解だよ」
 ディナギアが頷く。
「無事に帰ってこいよ?お前がいないと俺達の職場があの男のむさ苦しさで熱暴走しちまう。
 …まぁ、お前がやられるわけが無いがな」
 テンガロンハットを被ったガンマン風の男が平賀を押し退けて言う。銃火器担当、土岐直賭である。
「もちろん…土岐も、平賀とくれぐれも『仲良く』ね」
 ディナギアが苦笑する。この後に何が起こるか分かったからだった。
「…早く行ってください、もうじきここも戦場になります」
 全身を鎧に身を包んだ男が、ディナギアを仕事場の外まで引いていく。鎧、装甲板担当の、真田剛至である。
「真田、社長の事よろしく…胃に穴が開かないようにね」
 ディナギアが本気で心配そうな顔で真田に言う。

 ディナギアが白竜工業の扉から出ると、後ろから爆発音が響く。
 どうやら、平賀と土岐が、戦闘を開始したらしい。
「皆、心配してくれてありがとね…けど、私は大丈夫だから」
 そう呟き、ディナギアが、遥か彼方にある赴くべき戦場の…グレートウォール山脈の方を向く。
「…さて、行こっか!!」

 輸送を経て、ディナギアは戦線へと到着した。

「…敵陣の中央を強行突破する!」
 ディナギアが単独でワモンの群れに突っ込む。
 一撃一撃が、突進してくるワモンの一匹一匹を確実に排除していく。
 そして、そのまま足を止めずに戦線を突っ切る。
 もちろん、彼女の通った後ろには敵の骸が散乱していた。

 センチピードの巨大な、そして長いムカデのような姿が、まだ最前線に到達していないにもかかわらず見える。
 恐らく五十メートルサイズだ。
「でかい…けど、面白いじゃない…!」
 ディナギアはそう言うと、更に進撃速度を速める。
 剣、そして両腕のパイルバンカーを兼ねたクローが、立ちふさがるワモンを片っ端から切り裂いていく。

 凄まじい勢いで、ディナギアは最前線に到着した。
「プロミナッ!増援に来たよ!!」
 戦場の中心に、炎の閃きが見える。その方向に向け、ディナギアは叫んだ。
 ディナが炎のほうへと進撃方向を変える。
「ディナ!」
 炎の中心、まるで炎のドレスを纏っているような、紅髪の短めのポニーテールの少女がそれに応える。
 彼女こそプロミナ。平賀から刀を貰った、エントリヒ帝国皇室親衛隊所属のメードだ。
 プロミナにディナギアが合流する。
「しかし…確かにこりゃ君達が苦戦するわけね…でかいわ…」
「今回のセンチピードはかなり大型です!
 …ジークフリート様がセンチピードと交戦してます!ディナはそっちの増援を!
 他の戦力はそこまで強力じゃありませんので、私と他のメード達でも何とかなります!」
 そう言ってプロミナがドレスの裾の炎を、まるで巨大な爪を持つ第三の腕のように形成し、ワモンを引き裂く。
「ジークが?分かった、任せて!それと平賀からよろしく伝えてくれと、それと伝言!『死ぬな』だってさ!」
「分かりました!礼を伝えておいてください!」
「了解だよ!」
 そう言うと、ディナギアはセンチピードのほうへと駆け出した。
「さて…こっちは私が…」
 プロミナが、形成された炎の爪を槍のような形状に変化させ、叫んだ。
「…全て、焼き尽くす!!」

 爆炎が舞い踊るようにワモンを薙ぎ払っていくのをバックに、
 ディナギアはセンチピードのほうへと進撃していく。
「戦ってるね…ジーク…!」
 センチピードに斬りかかっている銀髪の少女の姿が見える。
「ジーク!こちらディナ!これよりそちらの援護に入るッ!!」
 ディナギアが叫び、そのままセンチピードの頭部へと斬りかかる。
「了解!援護に感謝する…!」
 銀髪の少女が応える。そう、彼女こそ、エントリヒの守護女神と呼ばれる最強のメード、ジークフリートだ。
 ジークフリートが、ディナギアの隣に降りる。
「しかし…成る程、情報どおりだね」
 ディナギアが呟く。
 センチピードは幾つものGの群体であり、個々全てが頭であり身体なのだ。
 よって、ディナギアが真っ二つにした『頭部』の個体が落ち、その後ろの個体が再び『頭部』となっている。
「私が前を引き受ける!ディナは最後尾から頼む!護衛もいる、気をつけて!」
「了解!心配してくれてありがとうね、ジーク!それと、ジークこそ、気をつけてね!」
「ああ!」
 ジークフリートが、頷く。
「…行くよ!」
 ディナギアが、センチピードの横を駆け抜ける。
「見えた!」
 センチピードの最後尾に到達し、ディナギアが最後尾の一体を攻撃しようとした。

 …次の瞬間。

 突如の突進を、ディナギアが回避する。
「な!?」
 特徴的なハサミ状の顎。ワモンの亜種、シザースだ。
 その周囲に、同じくワモンの亜種のウォーリアが四体いる。
「成る程…こいつらが護衛…面白いじゃない!!」
 恐らく、今まで交戦したのがワモンだけだったのは、護衛に戦力を割いていたからだろう。
「立ち塞がるなら、斬り捨てるだけ!」
 ディナギアとシザースが踏み込んだのは、同時だった。
 シザースの顎がディナギアを捉えるのが先か、ディナギアがシザースを叩き斬るのが先か。

 顎と黒の刃が、交差した。

 次の瞬間、シザースの前足が宙を舞った。ディナギアの左頬から血が流れる。
「くっ、芯を捉え損ねたか…!」
 続けてウォーリア四体が同時に飛び掛ってくる。
「まだまだッ!!」
 そのままディナギアは前に向けて一歩を踏む。
 残り三体とシザースを背後に残し、ウォーリア一体を真っ二つにする。
 そして、背後を見ずに背後に向けて剣を振るう。
 再びウォーリア一体が真っ二つになる。
 前足の一本を失ったシザースが再び突進の体勢に入る。
 しかし、今度迎撃すればウォーリアも同時に来てこちらもただではすまないだろう。
「なら、やられる前に…やるッ!!」
 ディナギアがシザースより先に踏み込む。
 ウォーリア二体が割って入る。
「黒雷開放ッ!!」
 その叫びと共に、ディナギアの剣に黒い電気が走る。
 これが、ディナギアの持つ帯電質の金属の剣である『インフェルノライトニングブレード』の本来の能力だった。
 蓄電した電力を解き放ち、一撃の威力を飛躍的に増大させる。
「邪魔をするな…どけぇッ!!」
 二体のウォーリアが真っ二つになる。
 そして、黒雷の嵐がシザースに襲い掛かる。
「これで終わりだぁぁぁぁッ!!」
 シザースは、真っ二つになり、爆散した。
「黒雷開放解除…行くよ!」
 黒い雷が収まる。
 確かに開放時の威力は高いのだが、静電気などをチャージして使用されるため、絶えず開放する事は出来ない。
 いざというときまで温存しておかなければならないのだ。

 センチピードの最後尾に斬りかかる。
 最後尾の一体が真っ二つになり、その前方の数体がバラバラになってディナギアに襲い掛かる。
「弱い!」
 一匹の頭部を踵落としで潰し、続けて襲ってきた二体を剣で真っ二つにする。
「でえええええああああああっ!!!」
 続けて襲い掛かってきた個体に、パイルバンカーを叩き込む。
 刃をぶち込まれた敵は、バラバラに砕け散った。
 再びセンチピードの最後尾に斬りかかる。
 センチピードの現在の長さは約三十メートル。前後からの攻撃で二十メートル分の敵は倒した。
 前方で戦っているジークフリートの様子も確認できる。
 二メートルというサイズの大剣を巧みに操り、センチピードの個体一体一体を確実に叩き潰している。
 …最強の名は、伊達ではないのだ。
 センチピードも応戦しているが、ジークフリートを捉え切れていない。

 この調子で着実に削れば、センチピードは落ちる。
 しかし、ワモン級がセンチピードの周囲に集まってきていた。
「くっ…流石にまずいと気付いたらしいね…」
 ディナギアが、剣を構えなおす。
「一気に決める…黒雷開放!!」
 再びディナギアの剣から黒い雷が放たれる。
 そして、襲い来るワモンを薙ぎ倒し、センチピードに斬りかかる。
 センチピードの巨体がうねり、周囲のワモンが吹っ飛ばされる。
 無意識のうちに回避していたディナギアは気付いていなかったが、
 成る程、護衛が精鋭だけだったのはこのためだったのだ。
 しかし、相変わらずディナギアはそれを感覚だけで回避していた。
 そして、黒雷開放したディナギアの一撃は、直撃した個体を爆砕し、そのまま複数の個体を感電死させた。
「この調子で…邪魔!」
 背後から襲い掛かったワモンを一撃の下に爆砕し、もう一撃センチピードに叩き込む。残り、十五メートル。
 向こうで、ジークフリートに護衛のシザースが襲い掛かっている。
 ウォーリアの量も、こちらより多い。しかも今、周囲にはワモンも集まっている。
「早く、コイツを片付けないと…!」
 ディナギアがセンチピードに一撃を叩き込む。続けて二撃、三撃。
 一撃打ち込むごとに、敵は削られていく。
 しかし、放たれる黒雷も弱くなってきている。電力切れが近い。残り、十メートル。
「くっ…こんな時に電力切れが…けど!」
 ディナギアが、渾身の力で電力切れした剣を振り下ろす。残り、五メートル。
 既に他のGとサイズ的に大差は無い。
「ディナッ!!」
 ジークフリートが叫ぶ。
「なッ!?」
 先程ジークフリートと交戦していたシザースが、突如ディナギアの方へ突進したのだ。
「ぐっ…!」
 咄嗟に受け止めるが、吹っ飛ばされる。
 シザースがそれに追撃をかけようとする。
「やらせは、しない…!」
 しかし、次の瞬間シザースは、ジークフリートの剣によって真っ二つになっていた。
 最も背後を見せてはならない者に背後を見せた、それが、シザースの失敗だった。
「…大丈夫か?」
「うん、私もまだまだ修行不足だ、ね」
 ディナギアが頬を赤らめて答える。
 そして、その直後、ジークフリートとディナギアの一撃で、センチピード級は、落ちた…。
 それと同時に、ワモン級も一斉に退いていった…。

 後方では、ヴォルフェルト、カッツェルト以下、
 他の親衛隊の面々も増援に駆けつけていたらしいが、それはまた別の話…。

 戦場は、静寂に包まれた…ただ、残されたGの骸だけが、ここが戦場だった事を証明していた…。

「ディナ…おかげで、助かった」
 ジークフリートが、ディナギアに言う。
「助けられたのは私のほう…本当、こりゃ修行不足だよ」
 ディナギアが苦笑しながら答える。
「君は十分に強いさ…」
「ジークにそう言ってもらえると、何だか嬉しいね」
 ディナギアは、そう言って笑った。
「ふふ…君と話していると、竜式と話してるみたいで、懐かしい気持ちになるよ」
 ジークフリートは、そう言って微笑んだ。
「竜式、か…大丈夫、私は竜式とは違う…君を残して、逝きはしないよ」
 ディナギアのその言葉に、ジークフリートは少し考えて、言葉を紡ぐ。
「…君や竜式、そして君の所の社長みたいな人の事を、勇者って、呼ぶのかな…」
「勇者、かぁ…私はまだまだそう呼ばれるには遠いと思ってるけど、
 竜式とか、社長は勇者と呼ばれるに相応しい人だと思う」
「私も、君やあの社長のようになれる、かな…」
 ジークフリートが、寂しげにそう呟く。
「…君が、そう望むなら、きっとなれるよ。
 君自身がそうなりたい、と望んだ私が言うんだから、間違いないって!
 大丈夫…それまでは、私が君を護るから」
 ディナギアの言葉は、不思議とジークフリートを安心させていた。
「…あ、そうだ、せっかく久しぶりに会えたんだし、今晩一緒に酒でも飲まない?」
 ディナが、満面の笑みで申し出る。
「いや……遠慮しておく」
 ジークフリートが苦笑しながら首を横に振る。
「つれないなぁ…」
 ディナギアがつまらなさそうにため息をつく。
 ディナギア自身も、何故自分がそこまでジークフリートと酒を飲み交わす事にこだわるのかは分からなかった。
「まぁ、いっか…」
「…けど、いつかは私の方から誘いたいと思う」
 ジークフリートは、静かに、しかし、確かにそう言った。
「…え?」
「私が、君達と肩を並べられる『勇者』になれたその時には、きっと…」
「…なら、私も、その時を、いつまでも待ってるよ」
 ディナギアは、全く曇りの無い笑顔で、そう答えた…。

 そしてディナギアは、三日ほどジークと共に戦場を駆け巡り、白竜工業へと帰還していった…。

「ディナギア、ただいま帰還しました!」
 ディナギアが、社長室に入ってくる。
「よく無事で帰った!流石はディナ!
 そして、今回の戦果でかなり収入が手に入ったぞ!」
 獅遠が、満面の笑顔で言う。
「おお!本当!?」
「ああ!こりゃ今晩は社員全員で酒盛りだ!…あいつらが騒ぎを起こさなければ、楽しめる筈さ。」
「やったあ!」
 ディナギアが、飛び跳ねて喜ぶ。
「…さぁ、準備しな!たまには俺だって楽しみたいんだ!」
 獅遠が立ち上がる。
「うん!」
 ディナギアは、頷くと、駆け出していった。
 どうやら、下の作業場にいる社員達に、酒盛りの事を伝えに行ったらしい。
 作業場のほうから、歓声が響き渡っている。
「…さぁ、俺も行こうか!」
 獅遠は、ゆっくりと作業場に向けて歩き出した…。


あとがき

どうも、天竜です!
ディナがまともに戦っている所を書いた事が無かったので、書いてみました。
あと、ディナとジークの関わりとかも、あんまり書いてないし、
たまにはディナとジークのカップリングも宣伝しとかないと、と思いましてw
今後も微妙に路線がずれた話を投稿予定です!よろしくお願いします!
最終更新:2010年08月25日 13:50
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