Chapter 9 : 二十本の指

(投稿者:怨是)




「少佐」

 聴き慣れた声に呼び止められ、ゼクスフォルトは振り向く。
 ここはグレートウォールの仮設基地。
 数年前、Gの猛攻によって修繕が追いつかずに突貫工事だけでここまで持たせてきた。
 雨漏りが酷く、それに加えて外気の浸入によって夏場でも毛布が無ければ寝られない。
 20日制を導入してからは工事する機会も増え、幾分かましにはなったようだが、それでも両肩を抱えなければならなかった。

「“アシュレイ”でいいよ。どうかしたか?」

「じゃあ、アシュレイさん」

「やっぱり、さん付けされると何だか照れくさ――」

 ふと、彼女の両腕がゼクスフォルトの左腕を挟む。
 いつもと違う行動は、いつもと異なる状況が生み出したものなのだろうか。
 つり橋効果によるものか。

「ただ、何となくこうしていたいだけです」

「寒いもんな」

 ゼクスフォルトは咎めない。
 ただ、ただ、温もりが欲しい。
 今は温もりが欲しいだけだ。

 カレンダーを見やる。
 日時は10月27日で、時刻は7時。夕食もシャワーも、もう済ませた。
 今は便利になったものだ。少し前までならシャワーだってまともに使わせてもらえなかった。
 体臭があまりに濃厚だとGの出現率の増加が著しいという研究データが出てからは、毎晩のように浴びることが出来る。


「……今日も多かったですね」

「今回の作戦は、何だかやったら多いんだよな」

 Gの数が、報告より多かったのだ。
 ヴォルケン中将の説明した“未確定情報”とは異なり、確認できたのは従来型のGばかり。
 援軍も、ドラゴンフライに追われて墜落した戦闘機といい、やけにミスが多い。
 意図的に引き寄せているとまでは考えがたいが、何から何までいつもと違う雰囲気に遭遇すれば、確かに腕を絡ませたくもなる。

「頑張れ、シュヴェルテ。俺達は生き延びるぞ」

 戦いはまだ終わっていない。これからだ。
 寄宿舎に戻ろう。

「……恋人繋ぎでもするか」

「今更ですけど、何だか恥ずかしいですよね」

「指先を冷やさないようにするんだよ」

 顔を赤らめることは無い。
 既に、ずっと前に通ってきた道だ。
 残った右腕で、自身の首にかけた銀のペンダントに触れる。
 剣をかたどったそれの隣には、彼の左薬指の指輪と同じものがかかっている。

「にしても、今日のポテトはいつもに増して冷えてたよな」

 ゼクスフォルトは顔を上げ、話題を切り替えた。
 いつまでも辛気臭い話なんてしていられるか。愚痴でも吐いてガス抜きの一つでもしておかねば。

「作り置きだったのでしょうか」

「ひとえに作り置きっつってもやり方はあったのに、衛生課の連中は何考えてやがんだ」

 周辺視野に映る窓が、足を進めると共に後ろへと流れて行く。
 暗闇の向こう側に柵があり、灯りに照らされて佇む兵士らがいた。
 彼らに空腹の様子は見られない。見張り番特権で、早めに飯も喰えたのだろう。

「そうですよね。私達の到着が遅れてしまったというのもあるんでしょうけど」

 そうなのだ。今日の作戦では戦闘後の処理に時間がかかってしまい、仮設兵舎への到着が大幅に遅れてしまったのだ。
 それもこれも、墜落したFw209戦闘機のパイロットの回収に無駄に手間取ってしまったからである。

「パイロットが生きてて良かったけどな。でも流石に手間がかかりすぎだろ。明らかに遠回りしなくても良かっただろうに」

「というか、パイロットさん無傷でしたよね」

「そうだよ、アイツなんで無傷なんだ。少しくらい怪我しててもおかしくないだろ」

 しばしの沈黙の後、シュヴェルテが思い出したような表情を浮かべる。

「……もしかして、ベイルアウトの達人だったり?」

「あぁ、確かに年季入ってたしな。ベイルアウトしまくってるうちに、極意を学んだとか?」

 実際、エースパイロットというのは引き際を弁えている事が多いために、得てして有事の際は機体に拘らずにすぐに離脱するという。
 あくまで戦闘機は消耗品として考え、またそれが通用するのも確固たる戦績を見せ付けているエースパイロットの特権でもある。
 コンクリートの壁の色が変わる。
 突貫工事で打ちっ放しのグレーのコンクリートは、塗装も途切れ途切れだった。
 曲がり角の辺りから足音が響き、視界に二人の人影が現れた。


「あ、ジークフリートさんにシュナイダー少佐だ」

 ジークとヴォルフ・フォン・シュナイダー少佐はそれぞれの個室が用意されていた。
 他の兵士やMAIDとはえらい違いである。
 MAIDはMAIDで集合寝室はあるものの、繊細な乙女心は無視して、全員で集まって管理を受けねばならない。
 監視員に、ゼクスフォルトの部下はリストアップされていないが、10時までなら“報告”を理由にちょくちょくお邪魔することはできる。
 ジークフリートは、ゼクスフォルトらとは反対方向にある個室へと向かっているのだろう。
 ゼクスフォルトも真顔のまま、彼女に挨拶をする。

「ああ、えっと、本日も華麗な戦いぶりで」

 とりあえず彼女に出会ったからには何らかの美辞麗句を投げかけておかないと、それだけで周囲の視線が咎めるのである。
 にもかかわらず彼女の担当官であるはずのシュナイダーは、こちらには何の挨拶も無しにとっとと先へ行ってしまったのだ。
 何様のつもりか。10歳近くの差はあれど、同じ少佐で軍人だろうに。礼儀もあったものではない。
 戦闘に関係の無い、日常の事柄は全て無視するつもりか。
 ゼクスフォルトの内心は、実に面白くなかった。
 不愉快の三文字が脳裏を埋ずめそうになる。埋もれそうになる。

「……ありがとう」

 ジークは若干の間を置いて、視線を合わせずに一言そう応えると、駆け足で背後へと消えていった。
 担当官に似て暗い奴だ、とゼクスフォルトは眉をしかめる。

「元気が無いですね。どうしたんでしょう」

「……あんなの、いつもだろ」

「いつもに増して暗いような」

「気のせいだよ」

 本当に面白くない。
 突き当りを右に曲がればすぐそこが、ゼクスフォルトら一般兵の寝床。
 そこを更に進めばMAIDの寝床である。

 足を一歩踏み出すごとに、左手の指を強める。
 明日への闘志を忘れないために。
 不愉快な気持ちを心の奥底に流して溶かすために。

 しかし、何と残酷な事か。
 歩みを進めれば、いつか離別は訪れるしかない。

 シュヴェルテと絡ませた指をゆっくりと離し、扉を開ける。

「じゃあ、明日も頑張ろうな」

「はい!」

 落ち込んだ気分を、元気のいい挨拶に慰められ、そのお返しとしてシュヴェルテの頭を撫でる。
 約15cmほどの身長差のおかげで撫でやすい。
 かつての恋人と瓜二つのMAIDに別れを告げてから、扉を閉めながら回想する。
 そうだ。
 両腕でこちらの左腕に組み付くのは、あれは、エミアがよくやっていたじゃないか。

 まだシュヴェルテの右手の温もりが残る指輪を、そっと撫でる。













 同時刻、皇室親衛隊本部。
 静まり返っていた執務室に、二人の男が足を踏み入れる。
 一方のベルクマンはこの皇室親衛隊の長官。全権限が、その両手、10本の指の裁量に委ねられる。
 指を一本曲げるだけで、ヴォルケンは目の前の男に首を刎ねられてしまうのだ。
 いくら多少の親しみはあれども、恐れ多い人物である事に変わりは無い。

「ジークフリート偏重の流れ、か」

「ええ。20日制に関しては、長官の迅速な判断のおかげで手早く廃止できましたが……やはり厳しい状況にあります」

「“皇帝派”と名乗る連中の妨害工作もあるからな。私を快く思わんからといって、軍事に手出しをされるとな」

 それの廃止は、何を生み出すか。
 鮮度のや精度の高い情報の、小まめな交換を可能とする。確かにモールス信号や電話などの通信手段はあるが、紙媒体のほうがより高精度である。
 なおかつ、“皇帝派”と称する派閥の暗躍を防ぐという目的もある。
 時間を縮めればそれだけ、秘密裏に作戦を進行させにくくなるのだ。

「そも、皇帝陛下が妙なえこひいきなどするから、余計に拍車がかかったのだ。下々の立場に対する理解が、まるで足らん」

 ベルクマンは苦々しく両手の指を組む。
 口元の歪みからは明らかな憎悪が篭っており、蛍光灯の鋭い灯りが陰影を際立て、冷たい炎を灯しているようにも見えた。

「やはり、大元のジークフリートを排除するしか方法は無いのでしょうか」

「……いや、それでは連中と同じ穴の狢だ。いたずらに戦力を減らすのは得策ではない」

 皇帝派がこれまで計画してきたものは、どれもジークフリートの存在価値を脅かすとされているMAIDの暗殺ばかりである。
 変死したMAIDの共通点はどれも、ジークとスコアを並べている、あるいはジーク以上のスコアを上げているというものだった。
 その基準は徐々に徐々にと緩和され、とうとう『スコアが近い』というものまで標的となっている。
 損害はあまりに多く、中にはコアごと破壊されたり行方不明となってしまった者もいた。

「そうですな……」

「打つ手はまだある。必ず見つかる。私のほうでも、これからも協力しよう。政敵にでかい面をさせるのは癪だ」

「お願いいたします」

 悪しき流れは、止めねばならない。
 そして、それがこちらに害をなす性質を持ち合わせているならば尚更だ。

「しかし……君はどう思う?」

「どう、って、ジークフリートに関してですか?」

 ベルクマンは静かにうなずき、付け足す。

「それとヴォルフ・フォン・シュナイダー少佐の件についても、だな」

 切っても切れない。
 なぜなら、シュナイダーはジークフリートの教育担当官だからだ。
 配備されてすぐに担当官として就任。その後はずっと付きっ切りで様々な訓練を行わせてきた。
 ヴォルケンは固唾を飲み干して口を開く。

「まずジークフリートに関して述べると、いくら基本ポテンシャルが3年半ほど前の当時では高かったとしても、
 やはり彼女一体だけが持て囃されるほどとは思えないのですがね」

「その通り。しかし、ジークフリートが皇帝陛下の末娘だったとしたら?」

 ベルクマンの声がワントーン落ちる。

「……それは初耳ですな。陛下の溺愛ぶりから、薄々予感してはおりましたが」

「そうか。君にはまだ話していなかったか……これもあくまで噂話で私も確証は持てないのだが、
 もし真実だとすれば“パぁパと呼ヴぇ”発言も、溢れる親心を抑え切れなかった故のものと考えると頷けるというものだ」

「とすると、彼女を暗殺しては国家転覆の危険性も充分に有り得ますな。本当にヴォストルージアの連中が押し寄せ――」

「以前、同じ事を再三再四忠告した筈だと思うが……君のジョークは笑えん」

 うんざりした表情で遮られる。ヴォルケンも上司、それも長官を相手にしては背中の脂汗の噴出を止める事は出来なかった。

「し、失礼致しました」

「まぁいい。続けたまえ」

 ヴォルケンの鼓動がシフトチェンジし、4速から5速を緩やかに往復していた。
 軍用の高速道路――アウトバーンを疾走できる速度である。

「貴重な戦力であり、従順で寡黙。弱音も吐かない……確かにプロパガンダの材料としては至極優秀です。
 しかし、私の提唱した戦果並列案は、そこからは独立して考えるべきだと思うのです。
 全員が全員、ジークフリートのように賞賛を受けるというものではいかんのでしょうか」

 鼓動は、吐き出される単語の数に反比例するかのように、3速、2速へとシフトダウンする。
 背中の脂汗や帽子の湿度も、幾らか和らいできた。



「こうなる事はある程度予想できていたが、しかし。私の予想より更に重篤な結果に至ったな。
 仕方あるまい。功罪はどのような場合に於いても発生するものだ。
 理想論で語るなら、君の理論は賞賛すべきものかもしれん。しかし、現実はこの通り。
 やはり試験的に採用するという段階に留めておいて正解だったか」

 再び、鼓動がアウトバーンの速度へと変わる。

「つまり……」

「廃止だ」

「やはり、已むを得ませんな」

 肩を落とすヴォルケンに、ベルクマンが注釈の為の口を開く。

「実用段階に持って行くには、兵の教育がまだまだ足らん。“足を引っ張るな”という精神の教育がな。
 強者を妬むような下らん畜群本能など、ダヴハイテの星を窓に描かれるユーティッシュ共の発想だ。叩き直さねばならん」

 エントリヒ帝国において、迫害されているユーティッシュ……――ユーティア民族。
 強硬派に属する者なら、殆どの者が彼らに対して冷徹であり、冷酷であった。
 “ダヴハイテの星”と呼ばれる八角形とV字で構成される記号が窓に描かれ、強制収容所へと連行される。
 秘密警察も彼らを、Gと結託し人類の生存を阻むものとして葬ってきた。その数は蛸の足に置き換えても数え切れない。

 ヴォルケンは硬い首をゆっくりと縦に降ろす。

「ご尤も、ですな」

「……それで、シュナイダー少佐についてはどのように考えているのかね」

「彼については……配属当初から陰気な性格だと思っておりましたが、
 303作戦で片腕と片目を失って以来、輪をかけて暗くなりましたね。あれでよく担当官が務まるものです」

「命令以上の行動をせんからな。彼奴もまた、口答えも弱音も吐かん。
 しかも、双方とも神話をでっちあげられても平然としていられるある種の理想とする見方もある。
 ペットが飼い主に似るのと同じように、MAIDも担当官に似るという理論が一般的だ」

「しかしあれでは意志のない人形のようなものです。噛み砕いて理解しているならともかく、彼奴はそのまま飲み込んでいます」

「それにあの当時は彼以上に的確な人材も居なかったからな。
 かといって無闇に担当官を変えれば思想のブレが生じ、戦い方にも悪影響が出る」

 それでもヴォルケンは納得できなかった。
 的確な人材? まさか。彼奴が? あの根暗が?
 部下の信用も殆ど無い、命令を伝えるだけのマシーン男が?
 勇敢さも、明朗さも、快活さも、ユーモアも無い。
 ただ成績が良かっただけの、なんちゃって優等生の分際で。

「そう仰られても、私にはどうしても理解致しかねます。このままでは、彼に似て根暗に育ってしまいませんか?」

「彼の根暗も理由あってのものだからな。303作戦以降、時期は不明だが彼は強姦された経験がある。それも直属の部下達にな」

 ヴォルケンの眉が上がる。
『しかもホモと来たか! ここまで来ればコメディだ!』と叫びそうになるのを必死に堪える。

「……彼にそのような穢れがあったとは。それも初耳です」

「長官の椅子も伊達ではない……地獄耳にもなる。彼奴から誘ったという発言は信憑性が薄い。暴走した部下の連中に非があるな」

 二重の驚きである。
 女を三つ並べて、左側に“強”をつければ、強姦だ。
 確かに女々しい奴だとは常日頃から思っていたが、他に相手は居なかったのか。
 MAIDは殆ど全滅したが、慰みものはいくらでもあったろうに。
 屑の部下共め。性欲を持て余したか。

「とんでもない連中もいたものです。彼奴に欲情して、あまつさえ強姦とは。よほど持て余していたのでしょうな」

「いや、私はそうは思わん。征服欲の延長線上のようなものではないかね? 強姦は相手の自尊心を奪う、手っ取り早い手段の一つだ」

「いずれにせよ、虫唾の走るお話ですな」

 ヴォルケンは吐き気と、えもいわれぬ笑いの入り混じった、引きつった表情をするほか無かった。
 今まで彼と同じ空気を吸っていた事を後悔する。

「ところでその話はいつごろ耳にされましたか?」

「つい先々週だ。私も既に何度かそういう話は耳にしているし、今更驚くものでもなかったな」

「と、いう事はつい最近まで彼奴の名誉――」

 途中で噴出してしまう。笑いが止まらない。声を殺して、小さく笑うしかない。
 名誉? 笑わせる。何が名誉だ! もっと早く耳にしていたら大笑いできたのに!
 シュナイダーの小僧め。何たるザマだ!

「その辺にしておきたまえ」

 一通り控えめに肩を震わせたところで、笑いすぎて涙が滲んできた目尻を拭く。

「……失礼致しました。で、彼奴の名誉の為に隠匿されていた、と」

「仮にもジークフリートの担当官だ。英雄の担当が強姦の被害者だと、国としても示しがつかんからな。
 だがこの前の体罰事件があっただろう? それ以来、ただでさえ低い威信は、とうとう底を突いた」

 発言を終えた辺りで、ベルクマンは煙草の箱を開ける。
 銘柄は“Belkan-7”……響きがいいという理由だと、ヴォルケンは聞かされたことがある。
 箱のデザインは黒に黄色と赤の丸が7つ並んでいるシンプルなもので、有名な戦時小説“ベルカ――七人の強豪”を元にしたという。
 火をつけながら、ベルクマンがしめくくりの言葉を切り出した。

「シュナイダー少佐の対G指令本部への移籍は、いい機会かもしれん。ジークもそろそろ成熟してきた頃合だ」

「私もちょうど、そう思っていた所です」

「ジークフリートのこれからの処遇や、“皇帝派”の連中に関しては……
 ギーレン宰相閣下や他の将官とも相談してみよう。人選は私の判断で厳密に行う」

「……ありがとうございます」

「明日の夜にでも臨時会議を開くとしよう。下がりたまえ」

 背筋を伸ばす。定例の挨拶だ。

「は。それでは失礼致します。ジークハイル」

「ジークハイル」

 ヴォルケンはこの挨拶もあまり好きではない。
 “ジーク”という単語を発するときに、どうしてもジークフリートを連想してしまうためだ。
 連想がてら、ドアを開けて退室する前にもう一言、質問する。

「長官。結局ジークフリートが陛下の愛娘だったという噂の真偽の程は、宰相閣下から――」

「さて、そろそろ首の一つでも飛ばしてやりたい気分だ。どうかね? インフレはまだ収まっていないが、君の懐ならそう苦労するまい」

 ベルクマンの口元は確かに微笑みのそれだが、眼は笑っていない。
 懐に手をかけて黒い塊が覗いているのが、この距離ならすぐに判った。
 ヴァトラーP-38。文字通り懐に穴をあけられてしまわないうちに、切り返す。

「そのお言葉がジョークである事を祈ります。ジークハイル」

「ジークハイル。今日のところはジョークに留めておいてやる。出て行け」

 足早にドアが閉まる。
 その向こうから、溜め息が聞こえてきた。



「私だって知りたいが、そうもいかんさ……誰に推薦されてこの座に着いたと思っている……」



 ――軽率だったな、私は。
 ヴォルケンは、忍び足で執務室のドアを背にする。

 ギーレン・ジ・エントリヒも、エントリヒ家の人間である。
 ジークが本当に娘だったとしたら、訊くに訊けない。
 逆にただの噂話だとしても、やはり心象を損ねる。
 いかなる理由があろうと、身内をMAIDにするなどと思われては不愉快に思われるだろう。


 自室に戻る頃には、心拍数はいつもの2速に戻っていた。



最終更新:2008年12月06日 19:09
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