(投稿者:レナス)
グリーデル王国国家元首にして
クロッセル連合王国の盟主であるユピテリーゼ・ラ・クロッセル。またはユピテリーゼ1世。
若くてして一国を統べ、連合国家の陣頭指揮者としての手腕を見せ付ける。その立ち振舞いは少女という歳のハンデを払拭させる。
「貴女も人が悪いですね。初めて互いに顔を合わせた時とは大違いです。何処までも不遜でありつつ、自身のペースを崩さない。
貴女がメードでなければ、護衛の者達に即刻取り押さえられて首を切られていたというのに」
「昔の話だ。貴女も我の態度を不敬と言葉にしつつも此方の演技を容易く見破っていた。だからこそ守り手を下げさせたのだろう?」
互いにテーブルに置かれた基地に支給されているカップに注がれた紅茶を啜る。
他の者が見れば卒倒するかもしれない光景にユピテリーゼの表情を穏やかそのもの。
「して用向きは何だ。ただの視察にしてはタイミングは悪い。基地の司令も殿下の来訪とバッティングして大忙しだろうに」
伊嵯那美の言葉に一国の王の瞳が光る。彼女自身に暇な時など片手で数える程度も無く、この様な場所で寛ぐ時間が本来ならばあるはずもない。
「此処の者達には多大な迷惑を被らせているのは理解しています。ですがだからこそ、この時でなければ出来ぬ事もあるから私は此処に赴いたのです。
此度の航海における大まかな情報は聞き及んでいますが、それだけでは足りないのです。我が国の他国に誇れる戦力の是非を、貴女の口から論じて貰う為に」
暖かな雰囲気をそのままに、意志を込めた言葉が紡がれる。伊嵯那美も小さな微笑みの顔を引き締め、片手を顎に添える。
「今回の戦いにおける報告は既に済んでいる。そちらで確認すれば事足りる話。我の口から出す程の事でもあるまい」
「いいえ。私が求めるモノは文章による事実では無く、人としての見解。理性を持ち、言葉を交わす存在。感情を秘めた人間としての意見を求めているのです。
報告書の閲覧とて丸々私の手元に届く訳でもありません。貴女も御存じでしょう。各国の海軍に対する意識の低さを」
「確かに。しかしそれも致し方の無い事。「G」の脅威は専ら陸に意識は向けられ、数の面でも陸の方が圧倒的だ。
大小の意識による判断で大の方に意識が偏るのは必然。そしてそれがこの国の発言力の大きさに比例している」
クロッセル連合の盟主国であるグリーデル王国はその実、形式的なものにすぎない。
盟主たるユピテリーゼ自身が女性であり、また若年層の容姿である事も加味していた。
「G」が人類のその姿を現す直前までグリーデル王国は西ルージア大陸最大の植民地保有国家であり、他国を圧倒する発言力を有していた。
しかし「G」の襲来が言葉を交わす事の出来ない異生体により蹂躙され、勢力図を大きく縮小せざる得なくなった。
植民地の大きさが災いし、今までグリーデル王国の顔色を窺っていた周辺諸国が頭角を現し、高い発言力を会得するべくして動き出した。
そうした中で誕生したクロッセル"連合王国"。"王国連合"とならなかった理由が名称からも窺える。
グリーデル王国の発言力の低さは保有する軍事力に依る所も大きい。グリーデル王国は連合屈指の海軍戦力を有し、連合の海軍と言っても過言では無い。
海の「G」の襲撃率は低い。アルトメリアとの貿易関係が無ければ遭遇率は激減するのは確かである。そして襲撃を受ける大半の戦力はグリーデル王国国立海軍。
海軍を保有しない国。海からの攻撃を被らない国。空軍戦力に重点を置く国。
グレートウォール戦線に視野を向ける国。
クロッセル連合内部の所属国の中で海軍に関心を持つ国は極めて少ない。その上連日の如く襲来する地上戦線の「G」が拍車を駆ける。
アルトメリア連邦との貿易で独占に近い立場を保有しているからこその現在の地位。辛うじて保たれている国の威信に彼女は強い危機感を抱いている。
「連合は「G」により資源の産出領域を完全に奪われています。多くの大小様々な国家の集合体である私達は「G」という共通の敵を排除するとい名目で手を取り合っていますが、それは目の前の問題を先送りにしているに過ぎません。
現在の連合はアルトメリアからの輸出に依存していると言っても過言ではない。
ザハーラ共和国は砂漠の地、元より見込みはありません。
エントリヒ帝国を相手に交渉は至難の業です。ギーレン宰相を相手取るには私だけでは力及ばず、各国に協力を要請しても望みは皆無に等しい。
メード技術が何時までアルトメリアより優位な立場に在り続けるのか、私達には測り知れません。
大陸が海を挟んで大きく隔てた
EARTH機関もルージア大陸側と本当に連携しているのかも判断出来ない。
少なくとも、アルトメリア連邦は遠くない将来、私達連合や諸外国の援助を必要となる日が来るのは確実。
私はその時が訪れた時に、何も出来ない小娘であるつもりはありません。
その為にも私自身が知る必要があるのです。我が国が有する海軍戦力は本当に「G」に対抗出来ているのか、を」
ルージア大陸におけるアルトメリアに対するアドバンテージ。それはメードの技術。資源の豊富なアルトメリアの資源を提供という形で搾取している。
当然アルトメリア側もそれを継続する意思はあろうはずもなく、アルトメリア支部のEARTH機関は手に入れるメード技術の洗練に力を入れている。
国連対G連合はルージア大陸側に存在し、大海原を隔てた異国の地で起きている出来事を入手するには時間が掛かる上、軋轢が生じているのは否めない。
提供されるメード技術が途切れ途切れ。続きを入手するには膨大な資源の提供を求められる。搾取される側の不満が貯まるのは当然と言える。
元より資源の豊富な地であるアルトメリア連邦がルージア大陸側に何時か三行半を叩き付けるのではないかとユピテリーゼは危惧しているのだ。
アルトメリア数多の部族を内包する国家。植民地政策を打破し、国家を樹立した実力。そしてメード技術の稚拙な地でも耐え忍ぶ忍耐。
今大人しいのはメード技術の有用性を認めているからに他ならず、何れ必要な情報が揃えばアルトメリア支部EARTH機関共々ルージア大陸との協定を全て破棄するだろう。
そうなればクロッセル連合は資源供給先を失って内部分裂が起こる。そして抗争へと発展し、「G」との戦いどころではなくなる。
それが分かっているからこそ、彼女は知る必要性を感じていた。自身が信を置ける絶対的な戦力を。他者の嘲笑を撥ね退ける確信を。
「良いのか? 一国の、況してや連合の長たる立場の者がその様な発言をメードでしかない我に知られても。
我はアルトメリア連邦に身を置き、
楼蘭皇国の生まれのメードだ。軍隊の階級に例えるならば精々中尉が限度。上官が情報提供を望めば容易く伝えるだろう」
M.A.I.D(メード)。「G」に対抗する為に生み出された人外の人間。人を守る為に在り、人に従う為に在る。
伊嵯那美の細められた鋭い眼光を、ユピテリーゼは不敵な笑みを浮かべた。
「それこそ私一個人とアルトメリア連邦とを結ぶ絶好の機会と成り得るでしょう。アルトメリアとて「G」の脅威の前に人間同士と争う事を望んでいるとは思いません。
向こうがこれを機に私を利用するならば、私も其方を利用するまで。私には国を守る義務があり、民を守る為に「G」の脅威を取り除く責務がある。私は私に出来る事をするまでです」
視線だけを交わし、沈黙だけだ二人の間に降りる。連合の長と一介のメードの異質な組み合わせがより一層際立つ。
この沈黙を破るのは伊嵯那美。小さく、そして何処までも愉快気に深く笑う。堪える口より漏れる声が深さを際立たせる。
「いや、失敬。遊びが過ぎた、謝罪する。我如きの話に国が本気になろうはずもない。それ以前にこの様な戯言を信ずる奇特な輩はおるまいに」
「謝罪を確かに受けました。しかし貴女の言い分も大小の違いはあれど、罷り間違ってはいません。
伊嵯那美。貴女がアルトメリアからの貿易船に必ず乗船する理由、私が存じていないとは思ってはいないでしょうに?」
「さて、何の事を言っているのかは知らん。が、貴女の推測は一考に値する。聞かせては貰えないだろうか」
伊嵯那美は冷めたポッドを再び温めるべく立ち上がり、ユピテリーゼはカップの冷めた紅茶を飲み干してから「良いでしょう」と答えた。
「アルトメリア連邦が保有するメードは陸・海・空と私達連合や帝国と大差はない。しかし海に関しては事情が異なる。
海の脅威が無いエントリヒ帝国の海軍戦力は皆無に近く、我が国グリーデル王国は逆に海軍が主力になります」
「察すればアルトメリア連邦は陸も海も必要であると言えるな」という伊嵯那美の声に「そうです」と答える。
「メード技術が必要なアルトメリア連邦は現在、どうしても海を隔てた貿易をする必要がある。しかしリスクが大きい。
航海の不祥事や「G」の脅威で貿易の確実性が揺らいでいる。今回にしても輸送船一隻分の損失を誰が被るかで連合内で大きく揉めるでしょう。
伊嵯那美。貴女には海を渡るだけの力がある。そして何よりも"生還"する可能性が誰よりも高い」
伊嵯那美は海を走る事が出来る。それは戦うだけでなく、乗る船が無くなっても自力で陸地へと移動が出来る可能性を示唆している。
「ルージア大陸側が欲する物は輸送船に満載している物資。しかしアルトメリアが欲しているのはメード技術。
私は直接メードの関連の仕事を垣間見た事はありませんが、然程嵩張る物では無いと推察出来ます。そう、"人一人が軽く抱えられる紙の束"などが例に挙げられる。
そして貴女には輸送船の護衛以外の任務は与えられていない。例え「G」の襲撃を受けて味方の艦が全滅しても護衛対象が無事ならば援護する必要性は無い」
「その話からすれば我は酷いメードだな。人類の希望たるメードの本分を逸脱している」
茶々を入れる伊嵯那美。しかしそれが単なる独り言だと理解しているユピテリーゼの言葉は途切れない。
「そしてもう一つ。貿易に関する協定事項における特異な項目。クロッセル連合の艦隊へと護衛を完全に引き継がせた後は如何なる事態に陥っても取引は成立したものとされる。
今回の様に連合艦隊が護衛する中での輸送船一隻の損失は連合が受け持つ事になります。アルトメリアは損害に関する責任は問われず、輸送船五隻分の取引が成立します。
貴女のメードとしての能力における輸送船一隻の損失は不可抗力であるとし、残り四隻の護衛は完遂されている。アルトメリア連邦は決して損害を被らない。
しかしこれに関して連合内で不満を持たない勢力があっても不思議では無い。そしてアルトメリアへと出港する船が無事にアルトメリア大陸へと辿り着く保証もない。
メード技術を欲するアルトメリアが技術を確実に持ち帰る為には反抗勢力や「G」の襲撃の不安要素すらも確実に対処出来る存在に持ち帰らせるのが最善。そしてそれが可能なのは――」
「我、か」
伊嵯那美は新しいカップに注いだ紅茶をユピテリーゼの目の前に置く。
脇に置かれている角砂糖を一つだけ入れ、スプーンで混ぜながらユピテリーゼは続ける。
「貴女は人を超越した身体能力がある。貴方ならば力による攻撃よから技術資料を確実に守る事が出来る。
貴女には単独で海を渡る力がある。例え船が何らかの理由で沈没しても独力で生存して帰還する事が出来る。
そして何よりも、貴女ならば諜報員としてはこれ以上と無く有意義な立場に置かれている。
楼蘭皇国出身。アルトメリア連邦所属。クロッセル連合とも貿易で関係を持つ。そしてメードである。
伊嵯那美。貴女の肩書はメードとしてだけでなく、国家的な関わり合いにおいて私以上の関係性を内包している可能性を秘めていると言えるのです」
「それはそれは随分と尊大な評価をされたものだ。如何に私が船旅で世界を渡るとはいえ、些か想像が過ぎるのではないかな?」
「ええ、確かに。初めにも言った通り、これは推察。妄想とも言えます。気分を害したのでしたならば謝罪致します」
そう言って紅茶を飲む様を見ると悪びれている様子は窺えない。しかしこれは先程の伊嵯那美に対する仕返しである。伊嵯那美は苦笑して「必要無い」と言って話を締め括る。
「随分と愉快な話を聞かせて貰った。これでは私のこれから話す評論に少しも間違いがあっていけないな」
「楽しんでいただけたのでしたらば光栄ですわ。気張る必要はないのです。私は貴女の「G」と相対し続けるベテランの意見が欲しいのですから。
何かしら思う所があるので知らば、より多く評して頂きたいと思います」
「相分かった。では率直な感想から入らせて貰うとしよう」
ユピテリーゼの姿勢が正される。緊張した面持ちでは無く、一国の評価に彼女は上に立つ者としての顔に変わった。
「襲撃した
イソポッドの総数は目視で確認しただけで67体。これに対して護衛対象を一隻失い、護衛艦隊十二隻の内三隻が撃沈。
護衛対象を失ったのは大きな失点ではあるが、イソポッドの出現時によって引き起こされた不運。艦隊に非は無い。
況してや同じタイミングで護衛艦二隻が同様に失っている。つまり実質の戦闘による損失は駆逐艦一隻。
70体近いイソポッドを相手に護衛目標を失わず、損害を一隻で留めた。結論を言えば、グリーデル王国国立海軍は非常に優秀だ。誇って良い」
「・・・安心しました。貴女に高い評価を戴けるとは海に散った勇敢なる兵士諸君も報われる事でしょう」
「私の下す評価にそこまで高く受け取られては此方が恐縮してしまうが、貴女の言葉に嘘は無い。褒め言葉として受け取らせて貰おう」
安堵の頬笑みと苦笑を交えて話は続く。
「貴女にはそれだけの実力と経験があるいう事です。実際、私も自国の海軍戦力について正面な評価は下せません。
政治的な観点から見た軍隊は陸であろうとも海であろうとも一つの交渉材料に過ぎない。事実海軍に関する有用性は低く、海軍戦力強化の案件は然程重要視されてはいない。
連合の資源輸入に関する重要な問題にあるにも関わらず、その現実を直視する者はいない。私もこうして視察による輸送船に積載される物資の圧倒的な量を直に見なければ現実味は帯びなかったでしょう。
その輸送船一隻が「G」によって失われた。大変な損失です。失った船の積載物はまだ存じてはいませんが穀物ならば連合の半年分の食料が、鉱物各種ならば戦線の数回分が失ったのです。
私は軍備拡張を連合会議で提案します。具体的な案件はこれから作成する事になりますが、その前に確かめたかったのです。今ある我が国の海軍戦力が果たして「G」と立ち向かえているのか、と。
常に海の脅威と直面しているメード、伊嵯那美の評価は信に値する。私は胸を張って主張する事が出来る。貴方には感謝しています、伊嵯那美」
「―――此処に来たのは本より我にそれを問い質す為にだったか。連合という場所では随分と苦労をしているようだな」
呆れと労い、感嘆の念を込めた言葉にユピテリーゼは小さく苦笑。肯定の意を示した。
「アルトメリア大陸では如何です? 多くの民族で一つの国を構築する状態を私は想像が付きません」
「我は常時海上に居るに等しいからな。アルトメリアに所属しているとは言え、情勢的な話には疎い」
「私は政治に富み、貴女は海の敵と戦う術に長ける。貴女が我が国のメードあればどれ程助かった事か、本当に惜しい人材です」
「なに、こうして互いに異なる立場にあるからこそ話す機会にも生じたとも言える。この国に属していたとすれば殿下を敬って評価に色を付けいたかもしれないぞ」
「それもそうですね。一般に支給されている拙い紅茶を嗜む機会も、こうして貴女と相対しているからこそ出来る要素と言えますね」
「それは暗に我の安い舌を酷評していると受け取れるが?」
「あら。でしたらばこの国のメードであればもっと質の良い紅茶を飲む機会に恵まれるのですよ?」
不敵な笑みに「これは一本取られたな」と伊嵯那美は諸手を上げ、ユピテリーゼはその仕草を見て微笑む。
「しかしこの国のメードは非常に優秀だと小耳に挟んでいる。噂には疎い我であっても知っているのだ。信憑性は高い様だが?」
「ええ。それもあって私の発言力も維持が出来ています。特に
ウェンディには軍事・政治の両面において高い評価を得ています」
「ふむっ。では幼い容姿のメードは居るのか? 此方へと近づく活発な足音が聞こえているのだが」
「え?」という声は、けたたましい音と共に開け放たれた扉によって掻き消された。
侵入者は「ユッピ~♪」という声を上げてユピテリーゼに飛び付き、ユピテリーゼの方は「ら、
ライラ?!」という言葉と共に飛来物の勢いを殺せずに転倒。
「探したんだよユッピー! 此処にユッピーがいるって聞いてね、ここに来てあちこちの部屋を探しまわってようやく見つけたんだよ。ほめてほめて~~っ」
「ちょっとライラっ。ノックもせずに行き成り部屋にある人が居ますか。もしも大事な話し合いの最中だったら如何するんですかっ?」
「こんな所で大事なおはなしをするところをライラ見たことないよー?」
「いえ、確かに話すような相手に恵まれてはいませんが・・・」
「今だって大丈夫だったでしょう~?」「う、それは」「ほらやっぱりー!」
突然の闖入者にユピテリーゼはたじたじ。それもそのはず、その人物は幼い容姿をしながらも彼女の知る立派なメードである。
名をライラと呼び、グリーデル王国最新のメード。見た目相応の幼い言動に常に大人の世界に身を投じているユピテリーゼは対応し切れていない。
つい先程まで対話をしていた伊嵯那美は彼女の思わぬ痴態とも言える年相応の戸惑っている様子に茫然。そして苦笑。
「――それでは我はここ等辺で退散するとしよう」
この部屋に伊嵯那美が居た事を忘れていたユピテリーゼはその言葉に何とも言えない羞恥心を感じる。
彼女の内心を察して伊嵯那美は「恥ずべき事では無い」と言葉を投げ掛け、紅茶一式を片付ける。
「随分と有意義な時間を過ごさせて貰った。是非次の機会に巡り合えたのならば、再び話をしてみたいものだ」
「私も貴女とこれからも話せる機会がある事を願います。貴女の航海の無事を祈っております」
「ああ。いずれの機会には、ユピテリーゼ殿を『ユッピー殿』と呼べるぐらいには仲良くなりたいものだ」
ライラに抱きつかれたままの彼女の顔が朱に染まる。それを見れただけでも先程の仕返しとして十分な成果を上げられて大きく頷く。
その仕草にユピテリーゼも気が付いて伊嵯那美を睨め付ける。しかし羞恥に染まった顔色の姿では迫力に欠け、伊嵯那美の満足感を更に満たすだけに留まる。
「それでは、な」と言い、洗い物を携えて部屋を出る伊嵯那美。外で護衛の者と話し合っている様だが、ユピテリーゼの聴覚では聞き取れない。なのでこの体勢を先んじて対処する。
「ライラ。そろそろ下りてくれないかしら?」
国家元首も人の子。幼子とはいえ一人分の重量を支えるのは非力な女の子の言葉に「は~い」と素直を退くライラ。
「ねぇねぇユッピー。さっきの人って誰~? ライラとおんなじメードだったけど、ユッピーのお友達~?」
「・・・ええ、そうよ。私の大事なお話が出来るお友達。次は何時逢えるか分からないけど、今度会う時にライラも一緒居た時は紹介してあげるわね?」
一人の少女として語り掛けた言葉に「うん♪」と無邪気な言葉が返って来る。
日々相手の表情を窺い、腹を探り、自身を有意な立場に立つ為の手腕を求められる少女の安らぎの時。
表裏が無く、純粋に言葉を交わし合う事の出来るこの幼い姿のメードにユピテリーゼは伊嵯那美とは異なる安心感を得る。
「それじゃあライラ。今度はライラが出会った人たちのお話を聞かせて貰えるかな?」
「うん、いいよっ! あのねあのね、この間砂ばっかりのところに行ったの。パンダのきぐるみを着た子がいてね、そんでねそんでねウェンディが――――」
如何でも良い会話を交わす二人。暫しの時間、二人は楽しそうに話をしていた。
関連項目
最終更新:2008年12月05日 11:38