アラキの旅 #2-1

(投稿者:A4R1)


刻  明 6:11

<楼蘭皇国 恐東(おそれあずま)港>

大量の荷物を詰めた車に乗った一行が港に着くと、海兵隊が慌ただしく駆け回っていたのが見えた。
風土独特の霞が太陽の陽を一層眩しく感じさせる。
船の出航時刻が近い表れだろう。リリは彼らの流す汗からそのことを察した。
この時間帯の気温はひんやりとしている。
気化熱で風邪をひかなければいいですけどね…。
そんな要らない心配をした。

「乗る船はどれですか?」
「えーと…七十四号船ですから…。」
「あの赤いやつじゃねぇか?」
「そのようですね。」
上部が白で、下部は朱に塗られ、白の所に黒のペンキで『七十四』と書かれた船をイイが指差す。
「うわ~!おっき~!!」
船まで駈け出そうとしたミミを慌てて引き止める。
「余り離れちゃいけません!!」
「む~…。」

「出港は何時だ?」
リリの左腕の時計を四人が覗き込む。
「明 6:20です。」
「そろそろか。」
「アルトメリアまでどれくらい時間がかかるのかな?」
「それは聞いてみないと分かりませんね…。」
視線を時計から船の乗り込み口に向けると、一人の乗務員らしき人が、
乗客と思しき人から紙片を受け取り、船に乗せているのを見つけた。
「あの人でしょうね。」
それを聞き、突然自分の頬を叩いた女が一人。
「気を抜くなよ!!」
「気合い入れ過ぎだよ!!」
動揺したままイイに論するキキを見、リリは困ったように笑った。

「四名様と車両が一台ですね。かしこまりました。では、そちらの運搬口よりお乗り込みください。」
「はい、わかりましたー。」
乗務員に乗船券を手渡し、船内に車を走り込ませる。
(もう少し柔軟なシートにして欲しかったですね…。)
座席の硬さを気にしつつも、車をゆっくりと入れていく。
後輪が船内の蝶番を乗り越えた時、大きく車体が跳ね上がった。
「うおっがっ!?」
「わっあいてっ!!」
「ひっきゃんっ!!」
「っうぁっ!?」
四人それぞれの頭に鈍い衝突音が鳴り響く。
リリもたまらず車を停め、全員頭を押さえた。
車両の後退を防ぐ突起を乗り越える時に、ある程度車体がホップするのはうすうす予感していたが、どうもそれ以上のものだった。
頭上の金属板を覆う緩衝素材は無い。
座席に体を固定する物も無い。
気の緩みはいかなる時でも身を滅ぼす火口となりうる。
それをまざまざと思い知らされた…。

<高速連絡船船内>

「おぉぉ…。」
「あうぁ~…。」
指定の位置に車を停めると、四人は転げ落ちるかのように下車した。
「口のなかかんじゃったけど、だいじょうぶ?目玉出てない!?」
「大丈夫だよ!!なんともないよ!!口以外。」
「よかったぁ~…。」
(大丈夫じゃないのはわかってるよ。
でも、まぁ、本人がよかったって言うなら…。
いや、やっぱりよくないわ。)
キキの頭のなかで、場の空気と本音のパラドックス、さらには受けたばかりの衝撃等の要因が混ざり、軽いめまいを感じ頭を支えた。
「リリ。オレ達の客室は何番だ?」
「11番です。」
「そうか。んじゃ、荷物を置いとくか。」
「銃機も置いておこうね。」
「ミミちゃんのお口をなんとかしないと…。」
「え~?このままでもいいよ。」
「いやいや、お前はいいと思ってるだろうが、周りが不安になるぜ。」
「そお?」
「うん。だらっだら出てるよ。止まってないよ。」
「ほんとうに!?」
(絶対に舌を噛み千切ってる…。)

「私はミミちゃんのお口のケアをするので、二人は甲板に出て外気を吸っておくといいでしょう。」
「あぁ。」
「分かった。」
「ミミもいきたいぃ~…。」
「そのままだと天まで行っちゃうのよ?戻ってこれないのよ?」
「あうあうぁぅぁぅぁぅ…。」
キキとイイが客室に向かうミミとリリと分かれた。


キキ>

<高速連絡船甲板>

甲板に出るドアを開けると潮風の匂いが流れてきた。
「朝日だ…。」
海岸線の向こうから太陽が顔を出し始めた…。
なんだろう…この懐かしい気持t「うおおおぉぉぉーーーーー!!!」
「ッ!?」
青天の霹靂とはこのこと!?
聴覚に関する神経が千切れる程の衝撃が走った!!
「いやーいい天気だな!!」
たまらず耳を両手で塞いだまま叫んだ。
「…イイ!!」
「な、どうした!!」
「耳元で急に叫ばないでよ!!」
「す、すまねぇ…。」
「いててて…ん?」
耳を抑えている時、ふと人だかりが見えた。
その中心には大量の大きな荷物を携えた女の子が見えた。

耳の痛みが引いてから手を放してみると、にぎやかな声が聞こえた。
多数の人を相手に、一人の女の子が物品と金銭をやり取りしているのが見えた。
「はい、9ミリピストルのだんがん200こです!!」
「…ありがとう…。」
「今日のレーションは何味なのさ?」
「なまずあじです!!」
「うげー!!」
…すごい阿鼻叫喚が巻き起こってるけど…物売りさんに違いないね。

一通りのお客さんの用事が済んで、物売りさんの全身が見えた。
カーキ色の長袖に、短パン、頭にゴーグルのような物を付けて木箱に座ってた。
その周りに、あふれ出さんばかりの物品が
ボクらを見てペコリと頭を下げた。
「こんにちわー!」
「こんにちは。」
「行商人か?」
「はいッ!知代(ちよ)というです!!!」
「『言います』でいいんだよ。」
「はいッ!!」
「おぉ、元気がいいな。」
「ありがとうございます!!」
「調子いいみたいだな。」
「あ!しゃちょうさん!おはようございます!!」
千代ちゃんが振り向いてお辞儀をしている先から、
長い後ろ髪を一つに結わえた男性がこちらに歩いてきた。

「社長さん?」
「うん!言而(げんじ)さんっていうんです!!」
「言而さんですか。」
「俺の紹介は別にいい…。それより千代、売り上げはどうだ?」
「ばっちりですよ!!」
その割にはどのバッグもパンパンだけど…。
い、言っちゃいけないよね…。
「そうか。…で、例のアレはどうだった?」
「あれ?」
「うりあげはかんばしくないですね~。
 なまえをいったら、おきゃくさんすうにんがどんびきでした~…。」
「やはりか…栄養面は確かなのだが…。名前がダメなのか…。」

溜め息混じりに荷物をまとめる千代ちゃんと言而さんのその会話にイイが割って入った。
「アレって何だ?」「ちょ、ちょっと…。」
言而さんは嫌な素振りを一つもししい。
「あぁ、日替わりレーションの事だ。
 新作が出来ると、全国販売の前に行商に売らせ、モニターの意見を取り入れ、
 よりいいレーションを選抜するというものだ…。」
「へぇ、面白い試みだな。で、今日のレーションはなんだったんだい?」
「『みそなまずごはん』です。」
うわぁ…。
「な、なまずか…好みがはっきり分かれるのも無理は無いな…。」
「味に対しては包み隠しは要らないと思ったが…。」
「ものがものだからねー。」
「よし、一つくれ。」
「ありがとうございます!!」
「何でも、試して見ないとわかんねぇしな!!キキ!お前もそう思うだろ?」
「それよりボクはプリンが食べたい…。」
「オイオイ…さっき食ったばかりだろ?」
「うぅ…一個じゃ足りない…。」
「流石に持ち歩けるようなもんじゃねぇしなぁ…。」

イイ>

「はい!ひがわりレーションです!」
「一個10鈴だ。」
硬貨を渡して差し出された物は缶詰めか。
「ん。」
さっきよりも二人の表情が明るくなったな。
「味の違うレーションを10種類買う客は滅多に居ないぞ…。」
「ま、好奇心だな。」
食べ物が何故か気になるんだよな。
さて、デザインにとやかく言う趣味なんか無いからとっとと開けるぞ。
「味噌のかおr・あ、来たななまず、こんにゃろう。」
味噌の香りと、淡水魚の物らしい臭いが開けた所から漂ってきた。
思わず眉間に力が入る。正直、気持ち良くないな。
「製造元曰く、『味噌の風味を生かすことと、生臭さを消す事の両立に苦戦している』との事らしい。」
「たべるまでがつらくて、たべるとおいしいって。『どりあん』みたいだねー。」
そこまでの強烈さじゃあないと思うが…。つーか、キキが静かになっているな…。
「例えが的を射ているようで掠っている様に感じるな…。
 まぁ、確かに味は申し分無い事に違いはないがな。」
その言葉を横に一口含んだ瞬間の風味は、二人の言う通り、淡水魚系の風味だな…。
味噌を基とした味付けはいい感じだな。
「アルトメリアで栽培される檸檬を使ってみたらどうだ?
 臭み取りと風味付けが両立できる優れものだぞ。」
「レモンって、すっごく酸っぱいの?」
「あぁ。当然、匙加減や材料の相性とかも絡んでくるだろうから、試行錯誤は必須だな。
 オレは臭いが何とかなれば十分いけると思うぜ。(レーションとしては。)
 あ、旨いな。」
「そうか。参考にさせて貰う。」
「ん。…キキ。お前も食うか?」
やけにだんまりじゃないか?
「…ん…。in…。」
「?どうした?」
「様子がおかしいな…。」
やっと口を利いたと思えば…。
「ぷりん…。」
「ぷりん?」
「だから、食ったばかりだと「ぷぅ~りぃ~ん~…!」
イ、イカれだしたか!?
「やべぇ…うわ言を発しだしやがった…!!」
「めがこわいよー!!」
明らかに体勢が不安定になりだしやがった!
「プリンはあるか!?」
「ここにはないよー!!」
「いや、新製品がこの船にある!!」
「きゃんっ!!」
突然千代ちゃんに掴み掛かった!!
咄嗟に避けてくれたが、こりゃ本格的にイカれだしてやがる!!
勢い余って頭突きで木箱を損傷させても痛がる様子が全く無ぇ…。
「俺が持ってくる!!」
言而さんの申し出に賭けるか…。
「俺が食い止める!急いでくれ!!」
「千代!避難しろ!!」
「はいぃ~!!」
二人と甲板にいた他の人は避難できたが…。
「こんな事になるだなんてよお…。」
「ぷ、ぷり、ぷぷ、ぷぷぷ…。」
狂いだしたキキが目の前にいる。
オレに視線を合わせ真正面に位置取る。
幸いなことに、銃は客室に置いてきていた。
素手なら、よっぽどのことが無い限り、船に損傷は出来ないはず。
オレ自身、砲撃並みに肉弾戦に自信がある。
しかし…

「些細なこともバカにできねぇな…。」


リリ>

<高速連絡船 11番客室>

「…はい。これで大丈夫。」
「ありがと。」
ミミちゃんの口内の治療は終わり。
えーと…。
「ミミちゃん。」
「なに?」
「これ読む?」
「ノート?」
私がバッグから取り出した一冊のノートに興味を持ったみたいね。
「えぇ。私達が探してる人が書いた物よ。」
このノートの1ページ目に
『己を知れば百戦危うからず。って、どこぞのエライ人が言ってたから、
 キキ、イイ、ミミの特徴をこれに書いておく。
 このノートが、みんなの前に立ち塞がるどんなキキも、
 もとい危機も乗り越えられるだけの力の足しにでもなればいいとおもっている。
 衣類のセンスには目を瞑ってほしい。
 俺、一人っ子だし…。』

と、あったのよね…。
大丈夫ですよ。…多分。
三人の性格をおさえていて、自然に着こなしてますよ。
最後の二行が極端に震えていましたが…。
相当自信が無かったんでしょうね…。
…気を取り直して。
「じゃ、まずはミミちゃんの所を読みましょうか。」
「ミミから!!ワクワクするね!!」
「えぇ。6ページめね。」
考えてみたら、私は1ページ目から3ページ目までしか目を通していなかったような…。
三人の最低限の運用法の部分しか呼んでいない…。
ここからは未知の領域ね…。

『―アラキ・ミミ―(荒木 御未)

 三人の中で、一番活発な子。
 明るいマイペースかもしれんね。
「その通りですね。一番元気な子ね。」
「まぁね!!」
 この子の特技は、他のMAIDの精神状態を安定させる事。
 厳密に言えば、喜怒哀楽の楽寄りにさせるということか。
「落ち着かせつつも落ち込ませないように出来るんですね。」
「ふぅ~ん。」
 基本的に、自分のペースで動く性格だ。
 はしゃぎ過ぎないようにしてあげてくれ。
 にしても、髪結うのって難しいよな…。
 頭に関する結ぶ物っつーたら鉢巻かバンダナぐらいしか手にしてなかったもん…。』

「私が居れば大丈夫だと思うんですけどね。」
「うん!」
「じゃ、次はイイの所を…。」
「あれ?もうおしまい?」
「そうね…1ページの4分の1も無いね。」
手帳サイズのノートに綴じられた紙は7枚。
他に目立つような注意点はこの子に無かったということでしょうか?
「えぇと…。」


『―アラキ・イイ―(荒木 夷衣)

 三人の中で一番アツい子。
 ロケット弾に掴み技で暴れ回るパワフルな奴だ。
 口調は荒いかもしれないが、黒くは無いはずだ。
「…確かに、女性とは思えない口調ではあるのよね…。」
「そうだよね!!」
「しっ!静かに!!」
 その子は料理もこなせるぞ。料理の助けがほしい時とかに声をかけると助かるかもよ?
 ただ、先が鋭い物は大の苦手だから気を付けろよ。
「先端恐怖症でしょうか…。」
 その子の特技はズバリ投げ技だ。
 人間もGもMAIDも、果ては航空機や車も投げられるぜ。
「いやいやいやいやいや!!」
「そこまでしちゃっていいの!?」
 後半の奴はつらいか。いや、やろうとすれば出来るんじゃね?
 人間その気になって空も飛べるようになったしな!ぬはははは!!!』

「そ、それとこれとは別だと思うわ…。」
「ミミもそう思う…。」
得体のしれない笑みがミミの顔に浮かんでいる…。
「じ、じゃあ、最後はキキの「大変だ!甲板に出るな!!」

「?」
突然、廊下から叫び声が…。
「何何!?」
原因を探ろうと、客室のドアを開けたら、一人の男性が開いたドアに激突…。
「うぉっ!?」
「あっ…。」
危うい所で受身を取られたようで、得に負傷されては…。い、いえ、それより…。
「お怪我はありませんか!?」
「いや、無い。」
その返事の後にすぐさま駆け出そうとしたその方をもう一度止めた。
「一体何があったんです!?」
「あぁ、甲板で青毛の女が暴れだしてな…赤毛の女が抑えている間に手をうとうと思ってな!!」
「そうですか。失礼しました!!」
男性が私達の隣の部屋に飛び込む。
青毛と赤毛…?…まさか…!?
「ミミちゃん!武器を持って!急ぎましょう!!」
「はーい!!」

<高速連絡船甲板>

甲板に続くドアを開くと、前方7メートル先で、イイが表情が明らかに変なキキととっ組み合っている!
「おぉ!リリ!ミミ!いい所に!!」
その二人の周りには、まるで爆撃にあったかのように多数の爆破の痕跡が…。
「な、何があったの!?」
「コイツ、プリンに飢えて、暴れだしやがった!!」
「えー!!」
「プリンをよこせ!!」
「そ、そんな事いわれても…!!」
「何時でも何所でも食べられるプリンがあるはずは…。」
「くっそー!!キキがなかなか気絶しねぇぞ!!」
イイがバックドロップを敢行した所で、先程の男性と、一人の女の子が駆け込んで来た。
その手には、細長い紙の包みが…。
「これならいけるかもしれない!!」
「それは何ですか?」
「ついこの間入荷したヤツだ。」

女の子がそれの封を開けてイイの近くに到達した。
「どうぞ!」
イイの手にそれが無事に手渡された。
「スナック菓子か!?…おぉ!プリンの匂いじゃねぇか!!」
って、そのままイイがかぶり付いた!!
「イイが食べてどうするの!!」
「!!うんめぇ!!」
テンション上げてる場合じゃ無いでしょ!!
「青毛に食わせるんだろーが!!」
「いっけねぇ!そうだった!!」
瞬く間も無く一本が胃に収まってしまいました…。
「すいません…もう一本おねがいします…。」
「あぁ…。」
「イイ!今度はしっかり!!」
「あ、あぁ。」
この顔…味をしめているかもしれません…。
「ぷぷうp、ぷぷ、ぷぷーぷぷぷ!!」
「青毛のほうの動きが活性化してないか?」
「匂いを嗅ぎつけたっぽいね…。」
「うぉらぁっ!!」
「ふぎゅっ!」
包みから取り出されたスナックを餌にキキを床に投げつけて、ショックでぽかんと開けられた口にイイがそれを押し込んだ。
「ふッ!!」
「――ッッ!!??」
スナックを詰め込まれて抑え込まれた口から、ぼぉりぼぉりとおぞましさすら覚える音が響いてきた…。
ほぼ白目をむいた状態でその音を発しているキキの顔といったら…。
わ、私の口からはとても言えない光景に…。
「んふー!んふんんん……。」
「目を閉じたぞ。」
まるで先程まで何かが憑いていたのではないかと思わせるように大人しくなった。
「…もういいな。」
そういうとイイは腕ひしぎを解いてその場から離れた。

「しかし…なんだその女は?」
スナックを租借したまま動こうとしない
「キキです。」
「キキというのか。」
「その子について記述されているノートがありますよ。」
「ノート?」
「えぇ、読みますよ。」

『―アラキ・キキ―(荒木 喜葵)


 三人の中でバランスがとれた子かも。
 俺が両手でやっと安定して扱える銃をそれぞれの手で扱える子だ。
 両利き手って羨ましすぎだと思うのだが、どうか。
「羨ましいに・・・決まってるだろッ・・・!」
「感情的過ぎじゃないですか?」
 性格はしっかり者。それ以上でもそれ以下でもない。
 しかし、どうした事か、重度のプリン依存があってだな、
 他のアラキより多めにプリンを食べないと、発作を起こしておかしくなっちまう。
「あれって、発作だったのか…。」
 よっぽど酷く無い限り、あらゆるプリンで発作を予防・抑制できる。
 行商人が売っている『プディング・バー』とかいうスナック菓子なんかいいかもな。
「あれ、プディング・バーって言うのか…。」
「30本買い取る方向で。」
「ありがとう。」
 その子の最大の特性は、様々な攻撃に対する極めて高い耐性だ。
 殴られようが撃たれようが噛み砕こうとされようが、
 キキの頑張り次第であらゆる外傷を跳ね除けるはず。
 衣類は…何とかしてくれ。
「状況によってはまるはd「言うな言うな言うな言うな言うなッ!!!」
 三人の中では頑丈以外に目立つ部分が少ないけど、
 その分成長が楽しみな子でもある。
 ぜひとも立派になって欲しいな。
 いろいろとな、いろいろと。
 い・ろ・い・・・・・・』
そこまで読んだ所で眩暈が…。

「荒の調整のために旅に出したって言うのか…無茶しやがるな…。」
「その人の真意は私は知りません。私は彼の足取りを追うよう命じられているだけです。」
「そうか…そういやあ、赤毛のお前はの名前はイイなのか?」
「ああ。オレは、イイっていうんだ。」
「いい?」
「…その『良い』か『悪い』かを匂わせるような発音はやめてくれ…。」
「くちにしていうとおんなじですよ?」
「ほんとだよ!!ねー!!」
「ねー。」
「ミミ…早速意気投合か…。」
「ははは…。」
「う…う…ん…。」
スナックを辛くも飲み込んだキキが遂に目を覚ました。
「あれ?ここは?」
「やぁーっと正気に戻ったか!!」
「え?」
「え?じゃねー!!」
キョトンとした顔のキキに、イイが飛唾しかねないほど大きな声を上げる。

「甲板をボロボロするだけ投げてやっと気を失うとは思わなかったぜ…。」
「随分ハデに暴れちまったなぁ、両者。」
「いやいやいやいや…武器無しで船体にこれだけの損傷をさせるのはただ事じゃあ…。」
「ひがいそうがくは、すうせんれんになりそうです…。」
「す…数千錬!?」
何の前触れも無く、世界が揺り動かされたかのように、
まともに立つための力が急激に抜かれてしまった。
「リリ!しっかりしてーッ!!」
「数千錬…それは戦闘機が買う事が出来るだけの大金…。」
「「「えーーーー!!??」」」
「今私達が持つ資金ではとても払いきれません…。」
当事者の二人の顔が一瞬で真っ青になった。
「やっべぇ…。」

「心配するな。代わりに俺が払ってやる。」
「え?」
突然の男性の申し出に思わず警戒心が…。
「そ、それはちょっと…。」
「どうしたリリ?」
「い、いえ、いくら窮している状況とはいえ、出会って間もない方に頼っていいものかと思い…。」
「それもそうだよねー。」

「…そういえば、キキ、イイ、ミミにリリと言っていたな。」
「は、はい。」
「つい先日、送り主の欄に君達の製作者と書かれた封筒が届いてな…。」
「封筒?」
「あぁ。ここに…。」
そう言い、旅の服装としては不向きに見える背広の懐に手を差し込もうとした時――

「サイレン…!?」
「このふねのだよ!!」
「何かヤバいのが近づいてきてるって言うのか!?」
「…!!あれでは!?」
船の向く方向の上空に何かの影が…。
「まさかあれは…。」
「わあぁ!?」
その影を確認する間も無く、船体が大きく揺れる。
「今度は何だ!?」
『ただいまジェリーフィッシュによる原動機障害が発生!民間のお客様は直ちに船内に避難してください!』
「空と海から来やがったか…!!」

刻  明 6:36

はるか遠くから響く雷鳴に、とうとう震えを堪え切れなかった。



関連項目

最終更新:2009年01月04日 11:19
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