first love ◆yX/9K6uV4E



――――スキ スキ スキ あなたがスキ だって運命感じたんだもの












     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







サイロの中で、ふらふらと揺れる人影。
手には、一振りの鎌。
けれど、それは草を刈る為ではなくて、命を刈る為にあって。

逡巡するように、ふらふらと揺れていて。


そして、覚悟が決まったように、ぴたりと定まって。



命を刈る鎌は。




――――静かに、けれど、確実に振り落とされた。







     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







目の前にあるのは、一杯のコーヒー。
あの人の真似をした、砂糖もミルクも入っていないブラックの。
わたしはそれをぼーっと眺めながら、椅子に深く腰掛けて居ました。

わたし――小日向美穂は、今サイロを離れて一人、牧場の食堂に居ました。
そこは、軽食やソフトクリームなどがメインのフードコートみたいな場所です。
折角だから何か食べようかと思ったけど食べる気が起きなかったので、結局コーヒーだけ。
しかもそのコーヒーすら飲んでいません。

ただ、こういう時間が欲しかったからだけかもしれない。
だって、未だにあの時の記憶が頭の中で消えないから。
あの悪魔の囁きが。

初恋を諦めて、夢を掴めと言った声が。
それこそが希望だと言いたいように。
その囁きが、ずっとずっと響いているんです。
封を閉じていた記憶だった筈……だったのに。
今になって、こんなにも、記憶が鮮明になるなんて。
あはは……は……

初恋を諦めて、夢に手を伸ばせと。

誘惑は、余りにも蠱惑的で。
それに、手を伸ばしたくなると同時に。




――――馬鹿にして、馬鹿にして、馬鹿にして!



そんな、強い感情が湧き上がって、仕方ない。
何もかも解かったような彼女に対して。
怒りだろうか? 哀しみだろうか。
解からない、解かりません。



ねえ、ちひろさん。


貴方、恋をした事、ないよね?


きっと……ううん、絶対、そう。



初恋が叶わない。
初恋が実らない。


そんなの、知ってる。
そんなの、解かってる。


何度でも、恋をすればいい。
うん、きっとそうやって強く、なっていくのかもしれない。


でもね。



初恋ってのは――――




――――諦めたくても、諦められないものなんですよ。




叶わないとしても。
無理だとしても。
諦めるのが、当たり前でも。
どんなに実る事が見えなくても。


どんなに、情けなくて、どんなに、惨めで、どんなに、ちっぽけでも。

その、恋に縋っちゃうんです。

叶うかなって。
叶ってほしいなって。


それが、初恋だから。
どんなに傷ついても、想っていたい。


彼と見た夢と同時に。


わたしの恋も、想いも、『夢』なんです。


簡単に諦められるなら……初恋なんてしない。





「だから――――馬鹿にして。わたしの恋も、わたしの夢も……何もかも知った風に言って」


そう言って。
わたしはポケットから、小瓶を出す。
毒が入った瓶です。
簡単に、人が殺せるもの、でしょう。

「わたしは、高森藍子みたいに、なれません、なりたくありません」

高森藍子。
恋を秘めながらも、ずっと閉じ込めて。
ひたすらアイドルで居る少女。

いや、『アイドルの少女』

きっと彼女は、夢は必ず叶うって言うと思う。
満面の笑みで、頷くでしょう。
でも、それって、本当に貴方の夢なんですか?

恋を封じた貴方の夢は本当に叶ってるの?
自分の気持ちに正直にならないで。

解かるようで、でもやっぱりわたしは彼女のような考えは、嫌いだ。
絶対に認めてたまるものか。
だって、わたしは。

「初恋をして、そうやって、わたしはずっと磨かれた、糧にした、それが小日向美穂で、『アイドル』小日向美穂なんです」

初恋をして強くなった。
そうやって輝き始めた。
ちひろさんは、初恋が実らなくても、それを糧にしていけばいいといった。


ねえ、ちひろさん。

貴方はあるかもしれない『未来と希望』を見て、


何よりも大切な『今』を見てないんですね。




あはは……馬鹿にして。


手にした小瓶を、傾けようとする。
コーヒーに入れる。



だから、私は、死を選ぶ、ことにしました。

正直疲れてしまった。

人の感情を何でも知ってるようにちひろさんは馬鹿にして。

周子さんも死んで。
同じ出身だった蘭子ちゃんも死んで。


そして、わたしには、初恋を諦めろといって。



そんな、用意された夢を。





私は、選び取らない。





「さよな―――」



――さん。




「だぁああああああ! そんな事駄目だ!」



耳に、劈く声。



「もう二度と、傍に居るのに、助けられないなんて、御免だ!」


殺しきれなかった少女。


情熱に燃える少女、日野茜が、わたしの手を、掴んでいました。









     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇








夢を見ていた。
それは、傍に居た少女が、あっと言う間に死ぬ夢。
リーナが死んだ時の記憶が見せた夢だった。
私――日野茜は隣に居ながらも助けられなかったんだ。
リーナはあっと言う間に穴だらけになって。


そうやって、救えなかった夢。


私は飛び起きて、私の隣には鎌が突き刺さっていた。
ゾッとしたけど、そうやって居るべき少女が居ないことに気付いて。
私は駆け出した。牧場の敷地を探し回った。
そして、食堂に入った先に居たのは、今にも死にそうな美穂ちゃんで。


「どうして……?」
「どうして、もないです」

彼女は死のうとして。
私は止めていて、彼女は私を非難するように睨んでいました。

「死ぬなんて、駄目だ、死ぬなんて、よくない」
「……それだけ、ですか?」
「違う! 違うよ!」
「もう、疲れたんです。ねえ、茜さん?」

そう言って、彼女は私を見つめて。
その瞳は哀しみに濡れていて。

「貴方は、ちひろさんに、好きに操られていると思わないんですか?」
「……え?」
「アイドルとか希望とか……そんな言葉で縛られて……疲れました」
「……違うっ! 私達は……私達は……!」

すーっと、息を吸って。
私の思いを伝えなきゃ。

「私たちのまま、生きている! リーナは最期までリーナだったよ!」
「……」
「ロックのまま、ロックを貫いてさ……でもね」

リーナはリーナだ。
吹き込んだ言葉はとってもリーナらしかった。
でも、でもね。
それでも、あんな簡単に。







夢を見ていた。
それは、傍に居た少女が、あっと言う間に死ぬ夢。
リーナが死んだ時の記憶が見せた夢だった。
私――日野茜は隣に居ながらも助けられなかったんだ。
リーナはあっと言う間に穴だらけになって。


そうやって、救えなかった夢。


私は飛び起きて、私の隣には鎌が突き刺さっていた。
ゾッとしたけど、そうやって居るべき少女が居ないことに気付いて。
私は駆け出した。牧場の敷地を探し回った。
そして、食堂に入った先に居たのは、今にも死にそうな美穂ちゃんで。


「どうして……?」
「どうして、もないです」

彼女は死のうとして。
私は止めていて、彼女は私を非難するように睨んでいました。

「死ぬなんて、駄目だ、死ぬなんて、よくない」
「……それだけ、ですか?」
「違う! 違うよ!」
「もう、疲れたんです。ねえ、茜さん?」

そう言って、彼女は私を見つめて。
その瞳は哀しみに濡れていて。

「貴方は、ちひろさんに、好きに操られていると思わないんですか?」
「……え?」
「アイドルとか希望とか……そんな言葉で縛られて……疲れました」

「死んじゃった……何にもしてないのに、死んじゃった……」
「……そう……ですか……」
「そんな、リーナが操られた、縛られていたというの? 違う……違うって、そんなの哀しすぎるって……そんな事……言わないでよ」
「……でも」
「私も、リーナも、自分らしく生きてる、生きてた。ねえ貴方は違うの!? 恋をして、それで、生きたいんでしょ!」

美穂ちゃんの瞳が揺れた。
だから、私は言葉を繋げる。

「何者でもない、貴方の意志で恋したんだ! だったら、その意志を貫いてよ!」
「わ、わたしは……」
「見返してやるんだ、ちひろさんに、私らしく、何処までも私らしく生きるんだって!」
「わたし、らしく」
「だから……!」


だから、ねえお願い。



「死ぬなんて、選ばないで……! 死って辛くて、哀しいんだ……だからさ、生きてよ……」


生きて。生きて。


もう、誰も死なせたくないんだ。








     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇







わたしの意志。
あの人に恋して。
わたしは、今も此処に居る。


この初恋を諦めたくない。


わたしは、今を生きていて。


浮かんだのは、やっぱり、大好きな人。


ああ、わたしは、生きたいのかな?

生きて、生きて。
たとえ断れると解かっても。
伝わらないと解かっても。


好きと伝えたい、のかな。



そういえば、周子さんが言ってたなぁ……


死んだら無駄って。


周子さん……


なら、私は………………





「……生きます。生きてみようと思います」






生きていようと思う。
この想いを、無駄にしない為に。


私の意志で生きようと思ったんです。






     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






「……じゃあ、藍子ちゃんのところに行くけどいい?」
「いいですよ……話さなくてもいいなら」
「……いいよ」
「……色々御免なさい」
「生きてくれるなら、いいよ」

美穂ちゃんが生きることを選んで。
私はとりあえず、藍子ちゃんの元に一緒に戻る事を伝えた。
心配しているだろうしね。
相変わらず美穂ちゃんは藍子ちゃんを嫌ってるみたいだけど……

(救うのは、任せたからね……藍子ちゃん)

私は、美穂ちゃんを助ける事はできた。
けど、それは生きる事を強引に選ばせただけ。
彼女の心を救えちゃいない。
私は恋愛とかまだ良くわからないし。


……だから、恋する少女を救うのはさ、やっぱ恋する少女に任せるのがいいと思うんだ。


だから、私はこの子を藍子ちゃんの元へ連れて行く。
それが彼女を救う切欠になると思うから。


ねえ、リーナ、私は助けられたよ。
傍に居た子を。


だからさ、私。


リーナの分まで、色んな人。


助けるから。



うーーっし! 燃えて来た!



私らしく……皆を助けるんだ!



【G-6・牧場、食堂/一日目 午後】





【日野茜】
【装備:竹箒、草刈鎌】
【所持品:基本支給品一式x2、バタフライナイフ、44オートマグ(7/7)、44マグナム弾x14発、キャンディー袋】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:殺し合いには乗らない!
0:藍子の所に戻る
1:他の希望を持ったアイドルを探す。
2:美穂を救うのは、藍子に託す。
3:熱血=ロック!




     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




けれど、悪魔は消えない。
いつまでも、何処までも囁き続ける。

生きる事を決めても、なお。


美穂が、初恋を諦めない限り。

夢を諦めない限り。


いつまでも、悪魔は、囁いている。




【小日向美穂】
【装備:防護メット、防刃ベスト】
【所持品:基本支給品一式×1、、毒薬の小瓶】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:とりあえず、生きて見える。
1:いきてみよう
2:藍子の考えに嫌悪感。
3:囁きが、消えない。


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小日向美穂

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最終更新:2013年06月15日 08:03