Life Goes On ◆yX/9K6uV4E



――――本当の哀しみを知った瞳は、愛に溢れて











     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇










「居る訳が無いと、思ったけど……実際いないとヘコむわね」
「ふぁいと、です!」
「……貴方も、頑張るのよ?」
「は、はい!」

日が昇りきり、暑くなった昼下がり。
厳かな教会の入り口で、五十嵐響子緒方智絵里は、やや気落ちした表情を浮かべていた。
バージンロードに、腰を降ろしコンビニで拝借したスポーツドリンクを飲んでいる。

響子達はサイクリングロードを北回りで、回る事にした。
先に行き辛い場所を優先して回ろうと。
自転車は普通に一人乗りを選んだ。
二人乗りを選ぶ事を響子は一瞬考えたが、直ぐに思いなおした。
何故なら、智絵里はいずれ切り捨てる存在なんだから。
切り捨てて、二人乗り自転車乗れないとか馬鹿すぎる。
そう響子は思い、シティサイクル型の自転車を選び、ホテルの教会に向かった。
そして、今に至り、結果として探し人であるナターリアは見つからなかったという。

「流石にあの子でも居ないか……地図に書いてなかったし」
「……次はホテル見ます?」
「そうね……いや、止めましょう」

ペットボトルのドリンクを半分ほどまで飲んだ所で、次に向かう所を決めようとした。
智絵里はホテルを指差し、響子も同意しかけるが、首を振って止める。
その視線の先には、何十階にもなるホテルのビルがあって。

「あそこ全部調べるのはきりが無いし、ナターリアが篭ってるイメージがある?」
「……ないかな」
「でしょう。あそこに誰か篭ってるとしても、地の利的に無理はする必要はない。まずはナターリアよ」

あんなホテルにナターリアは篭ってる訳が無い。
響子はそう核心めいたものがあり、ホテルは探索はしない。
たとえ他の参加者が居たとしても、だ。
ホテルに篭ってる参加者が居るとするなら、それはもう探索した結果、篭っているのだろう。
だとしたら、探索もすんでいない響子達が入っても、不利は否めない。
そう、智絵里に遅れをとった時の様に。
だから、

「ライブステージに向かいましょう……ああいうとこのほうが、ナターリア好きそうだし」
「……確かに」
「……そういうこと、行きましょうか」

そう言って響子は静かに、バージンロードを立ち上がる。
振り返ると、教会が日の光で、輝いていて。
キラキラと光るステンドグラスが綺麗だな、と思う。

大分前、こういうところで。ブライダルショーをやった。
ナターリア、和久井留美、此処には居ない松山久美子と一緒に。
あの時は、各々がウェンディングドレスを着て。
そうして、目一杯輝いていて。
目一杯笑っていて。

「……懐かしいな」

ナターリアは笑って、プロデューサーは皆の嫁だって言っていた。
なんか、可笑しい。笑えてくる。
懐かしくて、ナターリアらしくて。
でも、そんな、ナターリアだから、殺さないといけないのだ。。

「……ナターリア呼ばれてませんでしたね」
「ええ……」
「悪い知らせなのかな?」
「え? なんで? いい知らせの……私達がころさな……え?」
「…………?」

智絵里の悪い知らせという言葉に、響子は反論しようとして。
自分が言おうとしたことが、可笑しい事に気付く。

そうだ、ナターリアが死ねば、プロデューサーが助かる。
だから、呼ばれたほうがいいに決まってる。
なのに、なんで、反論しようとしたのだろう。

なんで、自分で殺さないと、と言わなきゃいけなかったんだろう。


(………………ああ、そっか、『自分で、殺したかったんだ』)


そこで、自分の矛盾に気付いて。
自分の答えを、響子は見つける。

あんなにも輝いてるナターリアだから。
大切な友人だったナターリアだから。

誰かに酷い目にあう前に。
ナターリアが苦しむ前に。

早く、自分の手で殺してあげたかったんだ。

それは、狂気でも何でもなく。
全員殺さなければならない中で。
五十嵐響子が親友を思い、恨み。

その中で、見つけた、哀しい答え。

プロデューサーの為。
自分の為。
ナターリアの為。

ストロベリーボムで焼かれたあの二人のような、無残な死を迎える前に。
優しく、哀しく、それでも、穏やかな死を。


五十嵐響子は、無意識の内に望んでいた。


響子は、薄く笑って。
髪を梳いて。


教会を、ずっと見ていた。


あの日の思い出を。
あの時の親友を。


そして、その親友を、殺す事になって。


空を、思わず、見た。


それは、蒼く、儚く、滲んでいた。










     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇








「ひっ」
「……雫さん」

そして、やや日が傾いて。
ペットボトルのスポーツドリンクが無くなった頃。
響子達は、ライブステージにたどり着いた。

其処に居たのは、ナターリアではなく、物言わぬ屍になった及川雫だった。

「放送で呼ばれたけど……こんな所で、死んでいたのね」

そう言って、響子は静かに手を合わせる。
どうか安らかに。
そう願うように。

(そういえば、一緒の仕事していたんだっけ……)

響子のその様子に、智絵里はふと思い出す。
そういえば、雫と同じ仕事をしていた筈だ。
雫だけではない、蘭子とも。
確か三船美優もそうだった筈だ。

「先に、人魚姫になって……死んじゃったね」

そう、寂しく呟いていた。
他の人の死に、興味はない。
響子は智絵里に放送の前に言っていた。
実際、放送あった後もなんの反応もしめさなかった。

本当に、興味はないのだろう。

(でも、哀しいんだ……)

でも、哀しいと言う感情そのものは、響子は全く否定していなかった。
知ってる人の死は哀しい。当たり前の事。
でも、それに泣いて、立ち止まってる暇はない。
プロデューサーの為に。
彼女は一刻も早く殺していかないといけないのだ。

それが、五十嵐響子が考えた事なのだろうと、智絵里は理解して。

(哀しいな……哀しい……な)

五十嵐響子が、選んだ道が哀しすぎて。
強すぎて、とても哀しく見えてしまう。

傍から見ると狂気しか、見えないだろう。

それでも、響子は本当の自分を見失わないで、戦っている。
プロデューサーの為、自分の為。
護る為に、必死に戦って、殺していく。

それが五十嵐響子の選んだ道なんだ。

「……早く、早く終わらせよう」
「えっ?」
「早く終わらせようって、言っただけよ。この殺し合いをね」

響子はそう、つまらなさそうに言う。
違う、それはつまらないとかそういう感情じゃない。
急ぐとかそういうのじゃない。
これ以上、哀しむのを長引かせたくないから。

哀しみたくないから、早く終わらせたいんだろう。
そうすれば、哀しまなくていいんだから。

なんて、哀しい考えだろう。


「……うん」

けど、何となく、理解も出来て。
そういう響子の考えが痛ましいほどわかって。


でも、それと同時に。


(やっぱり……そういうの、哀しいよ)


哀しい。
そんなの、哀しすぎる。
哀しみの果てまで戦うなんて。
五十嵐響子の一生がそんな哀しいものでいいの?
響子だけじゃない。


―――アイドル……皆の一生が哀しいものでいいの?


よくない。
いい訳が無い。
絶対に駄目だと思う。


こんな哀しいものでいい訳が無いんだ。

じゃあ、どうすればいい?
緒方智絵里はどうすればいい?


(解からない、まだ、解からない)


殺し合いを止めればいい。
そう、言い切れない。
解からない。
何が正しいかなんて、解からない。

今もプロデューサーの命を人質にされている。

その為に、戦ってる。
それは否定したくない、まだ戦わなきゃ。
でも、それと同時に、この殺し合いそのものが哀しい。
哀しくて、憎くて。

まだ、解からない。


「ナターリアは此処に来ると思う? 待つというの手もだけど」
「うーん、でもこのまま此処で待っても」
「そうねえ……どうしようかしら」


―――でも、智絵里の目には、意志が溢れ始めて。




(哀しい……けどっ!)




―――本当の哀しみを知った瞳は、愛に溢れて。




【B-2 ライブ会場/一日目 午後】

【五十嵐響子】
【装備:ニューナンブM60(5/5)】
【所持品:基本支給品一式×1、ストロベリー・ボム×8】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:生き残り、プロデューサーに想いを伝える。
0:どうしようかしら
1:ナターリアを殺すため、とりあえず自転車を確保し、海辺を一周するサイクリングコースを巡ってみる。
2:ナターリア殺害を優先するため、他のアイドルの殺害は後回し。
3:ただしチャンスがあるようなら殺す。邪魔をする場合も殺す。
4:緒方智絵里は邪魔なら殺す。参加者が半分を切っても殺す。
5:この島の『アイドル』たちに何らかの役割を求められているとしても、そんなこと関係ない。
6:一刻も早く終わらせないと。


【緒方智絵里】
【装備:アイスピック】
【所持品:基本支給品一式×1、ストロベリー・ボム×10】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:生き残り、プロデューサーに想いを伝える。次善策として、同じPの仲間の誰かを生き残らせる。
0:哀しい……でもっ……!
1:今は響子ちゃんの盾となり囮となる。さすがに死ぬ気はないけれど。
2:響子ちゃんと千夏さんは出来る限り最後まで殺したくない。
3:この『殺し合い』そのものが……憎くて、悲しい。


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最終更新:2013年06月28日 14:18