STAND UP TO THE VICTORY ◆rFmVlZGwyw
生きている間にやれることをちゃんとやればさ、きれいに死ねるさ
―――ある戦災孤児の言葉
島の北西、湖に面したホテルのロビー。
オフシーズンには人で賑わっているであろうそこは、閑散としていた。
そこにいる人間は、ロビーのテーブルで向かい合っている二人の少女のみ。
「ホテルの鍵がカードキーで良かったね。これなら何枚か持っててもかさばらないし」
テーブルの上に数枚置かれたカード―――緑地に黒い磁気ラインが一本だけ通り、隅に部屋番号が書かれたカードキーだ―――のうち一枚を弄りながら
北条加蓮が言う。
少し前、彼女たちは市街地からライブステージに向かう途中にこのホテルに立ち寄った。
参加者の誰かが利用しているだろうと踏んで、このホテルの様子を見に来たのだが……。
「うん。始まって結構経つのにあたし達が一番乗りってのが信じられないけど……フロアキーも揃ってるしマスターキーもちゃんとある以上、誰も来てないって事だからなぁ」
神谷奈緒は銀色に磁気ライン、そして「Master Key」と金で書かれたカードをしげしげと眺める。
彼女たちがフロントを調べた時、このマスターキー含むカードキーは全て揃っており、全く手を付けられた痕跡はなかった。
「まぁここ端っこだし、周りにはステージくらいしかないからね。おかげで有難く使わせてもらえるってわけだ」
「細工に時間かかったけどなー。移動には
自転車があるし、しばらくはここを拠点にするってことで」
ここで二人は予定を変え、ホテルを拠点として放送ごとに行動を区切ることにした。
部屋の管理についてはどうするか話し合った結果、各フロアのカードキー数枚とマスターキーを持ち歩き、部屋をランダムで使い回す事にした。
後でホテルを訪れる他の参加者への牽制になるし、流石になくなっている部屋のドアを全てぶち抜くような無茶はしないだろう。
加えて、灯りの有無でバレないよう、取ってきたカードキーのうちいくつかに対応した部屋のカーテンを閉め、電気を点けてきた。
彼女たちが準備をしている間に、もう日は傾いてきていた。
「さて、じゃあステージ行こっか」
「ああ、色々と確認しないとな……でも時間厳しいなー」
「ライトアップとかできるのかな……ま、出たとこ勝負で!」
ホテルでの準備で大幅に時間を食ってしまい、ステージの設備の程度もわからない。
メイク等の時間も考えると、すべての準備が整うのは日没後だろうと二人は覚悟していた。
だが、彼女たちはなるべく早く『撮影』を終わらせ、『その後のこと』をこなすつもりでいた。
『あの子』が誰かの手にかかる前に。
◆◆◆◆◆◆◆◆
終わりのない Defenceでもいいよ
◆◆◆◆◆◆◆◆
私たちが『あの子』と出会ってしまう前に。
◆◆◆◆◆◆◆◆
君が僕を 見つめ続けてくれるなら
◆◆◆◆◆◆◆◆
私達『二人』で、やるんだ。
二人がたどり着いたステージには、先客がいた。
周囲を赤黒く染め上げ、横たわっている及川雫。
その表情はとても穏やかで、ブランケットをかけられているところを見ると、凄惨な殺し合いの被害者というわけではなさそうだった。
血だまりさえなければ、ステージ上でうたた寝をしているだけだと言われても信じただろう。
その遺体を前に、二人は、どちらからともなく手を合わせて目を閉じていた。
そうしないといけない気がしたから。
「……なぁ、加蓮」
「なに?」
「この人は、幸せ……だったんだろうな」
「え?うーん……そりゃあこんな顔して亡くなってるし、少なくとも最期は何かあったんだろうね」
「いや……ステージの上で死ぬってさ。ある意味アイドルとしては本望じゃないかって思って」
この島では、『アイドル』で居続けることはできない。
いや―――厳密に言えば、『アイドル』のままでは、自分も、誰かも、生かすことはできない。
そんな中で、こんな大きなステージで最期を迎えられた彼女は、『アイドル』としては最高だったのかもしれない。
「ううん、違うよ奈緒」
だが加蓮は、はっきりとそれを否定する。
「死んだら終わりなんだ。『その先』を目指せなくなっちゃうのは、どこで、どうやって死んでも、一緒なんだよ」
その向こう側に何があるのか、誰も知らないけれど。
「だから、あの子には最後まで立っててもらう。『アイドル』として、勝ってもらうために。あたし達の希望を託すために。……そのために、あたしがどうなったとしても」
その向こう側に、たとえ悲しみが待っていたとしても。
◆◆◆◆◆◆◆◆
それから、またしばらく経った。
及川雫の遺体を移動させ、ステージ裏にあった掃除用具で血だまりの掃除。
流石にステージ衣装のままやるわけにはいかないので、一旦着替えてから行った。
その後ライトアップ、音響、音源の確認等をしていたら、すっかり日は暮れかけていた。
「放送を聞いたら、着替えて本番だね」
「うん。……やっぱり、目立つんだろうなぁ」
音源は問題なし。曲も、据え付けのPCに無数のデータが登録されていた。ロック、ポップ、バラード…。
もちろん事務所のアイドルたちの曲も登録されている。なぜか
島村卯月の曲だけが入っていなかったが。漏れにしてはピンポイント過ぎたが、その理由を詮索する余裕はなかった。
ステージは夜間ライブにも対応しており、ライトアップもしっかりしていた。
ただ、やはり夜にやるとなると、その明るさが目を引いてしまうだろう。
それでも、彼女たちは引く気はなかった。
「仕方ないよ。明るくなるまで待ってたら、半日はかかるから」
次の日の出までは、ほぼ12時間。
それまでに、この後の放送、夜中の放送、早朝の放送。
3回も放送を挟むことになってしまう。
その間に自分たちのいる【B-2】が禁止エリアに指定される可能性は十分にあったし、何より。
「そんなに『参加者』を放っておいたら、凛も危ない」
渋谷凛が犠牲者として呼ばれるかもしれないと思うと、とても待ってなどいられなかった。
「そうだな。あたし達がそいつらを引き付けられれば、凛もそれだけ生き延びられるわけだし」
もちろん、その凛自身がこちらに来る可能性も否定できない。
警戒は怠らないつもりだが、ステージに夢中になっている間に、『参加者』にあっさりやられる、なんてこともありうる。
全てが危うい賭けだった。
夜の闇の中で目立つステージで、全てを投げ打って歌い、踊る。
その向こう側には何もないかもしれない。
悲しみが待っているのかもしれない。
それでも、彼女たちは立つ。
かけがえのない『あの子』の勝利のために。その笑顔を、胸に抱いて。
【B-2 屋外ライブステージ/一日目 夕方(放送直前)】
【北条加蓮】
【装備:ピストルクロスボウ、専用矢(残り20本)、私服】
【所持品:基本支給品一式×1、防犯ブザー、ストロベリー・ボム×5、アイドル衣装、メイク道具諸々、ホテルのカードキー数枚】
【状態:疲労(少)】
【思考・行動】
基本方針:覚悟を決めて、奈緒と共に殺し合いに参加する。(渋谷凛以外のアイドルを殺していく)
1:放送を聞いたら、着替えてメイクし、ステージの自分たちをデジカメで撮る。
2:その次の放送まで他のアイドルを探す。A-3が禁止エリアに指定されなければ、ホテルに戻ってその次の放送まで交代で眠る。
3:もし凛がいれば……、だけど彼女とは会いたくない。
4:事務所の2大アイドルである
十時愛梨と
高森藍子がどうしているのか気になる。
【神谷奈緒】
【装備:軍用トマホーク、私服】
【所持品:基本支給品一式×1、デジカメ、ストロベリー・ボム×6、アイドル衣装、ホテルのカードキー数枚、マスターキー】
【状態:疲労(少)】
【思考・行動】
基本方針:覚悟を決めて、加蓮と共に殺し合いに参加する。(渋谷凛以外のアイドルを殺していく)
1:放送を聞いたら、着替えてメイクし、ステージの自分たちをデジカメで撮る。
2:その次の放送まで他のアイドルを探す。A-3が禁止エリアに指定されなければ、ホテルに戻ってその次の放送まで交代で眠る。
3:もし凛がいれば……、だけど彼女とは会いたくない。
4:
千川ちひろに明確な怒り。
※自転車はステージの近くに停めてあります。
※二人が拝借してきたカードキーの部屋番号についてはお任せします。
※ライブステージでは島村卯月の『S(mile)ING!』を除き、現存する全ての楽曲が再生可能です。『S(mile)ING!』はCDから取り込めば再生できるようになります。
※及川雫の遺体は客席の端に安置されています。
最終更新:2013年09月14日 22:18