No brand girls/パンドラの希望 ◆yX/9K6uV4E
――――パンドラの箱には。災厄が沢山詰まっていました。数え切れないくらいの『絶望』が。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ふう……とりあえずは撒けたかしら」
「恐らく。安心はできないけどね」
「でも、暫くは大丈夫でしょう……」
「そう願いたいわね」
燃え盛る町役場から、離れ、
大石泉の一行が避難したのは一軒の民家だった。
何の施設でもないただの家だから、簡単に見つかる事は無いと踏んだ上で。
警戒して、入り口以外にも出れる勝手口も発見し、ようやく五人――大石泉、
川島瑞樹、高垣楓、
姫川友紀、
矢口美羽は一息ついていた。
けど、其処には楓達が同行していた一人は欠けていて。
大好きな人に会いたいと願い続けていた少女――
道明寺歌鈴はもう、居ない。
恐らく紅蓮の炎に焼かれてしまっているだろう。
遺体すら、持ち運ぶ事ができなかった。
楓はその事が悔しくて、何度も心の中で謝っていた。
「美羽ちゃんは……大丈夫かしら」
「友紀ちゃんついてるし、大丈夫でしょう。フラワーズは絆が強いグループだから」
「……絆……か」
歌鈴の死に、最もショックを受けていたのが美羽だった。
自問自答を繰り返し、そして自責の念に襲われ続けている。
そんな彼女を、励ましているのが同じグループの友紀で。
今は二人で、別の部屋に居て休んでいる。
その間に、大人二人と、大人のような少女で。
「……後手後手に回っていますが、此処で一旦方針や情報を整理しましょう」
「異存は無いわ」
「いいわよ」
生きている自分達の道を決めないといけない。
泉の提案に、楓も瑞樹も頷いて、テーブルを囲む。
テーブルには、泉が入れた紅茶が湯気が立ち上っていた。
それは、服を変えていた瑞樹に代わった入れた紅茶だった。
「紅茶が冷める前に、ちゃちゃっとやってしまいましょう」
「ええ」
(突っ込んじゃいけないのかな)
さらりと言った楓の冗談に、泉は複雑な思いが巡るが、あえて口にしない。
非常に突っ込みたいが、本人が真面目な顔だから茶化す訳にもいかないと思ったから。
こほんと咳払いして、泉はまずはと切り出す。
「……とりあえず、病院にいってみようと思います」
「病院? 港ではなくて」
「だって、その傷……」
泉はそう言って、遠慮がちに瑞樹のわき腹を指差す。
目をそらしたくなるくらいに、赤く染まっていて。
それが瑞樹の負った傷の大きさを如実に表していた。
「いかなくていいわ。応急処置もしたしね」
「でも」
「でももなにもないの。いい? 私達を襲った人は恐らく相当に慣れている」
「……ええ」
「一斉掃射、その後逃げ込むことが出来る場所を焼き切るなんて、普通の子じゃ無理よ」
けれど、あくまで瑞樹は病院に行くことを拒否する。
誰が見ても、大きな傷なのに。
それでもなお、瑞樹は論理的に組み立てて、話す。
「もしかしたら、襲ったのは『敵』かもしれない」
「敵……?」
「そうね、楓ちゃんには説明してなかったわね……泉ちゃんが立てる仮説で…………ちひろ側が用意した刺客が居ると考えているのよ」
「……つまり、何かしら『レッスン』を受けた、殺す事に長けた『敵』がいると」
「と言う事。察しがよくて、助かるわ」
楓は得心したように、頷き紅茶をすする。
泉はそれでも、なお食い下がるように、瑞樹を見ていた。
大事な所を説明してないから、当然かと瑞樹は思う。
この子は異様に論理(ロジック)にこだわるから。
まるで、論理で、感情を閉じ込めるように。
「いい、泉ちゃん。仕留めきれなかったと『敵』が思ったとして、獲物は何処に行くと思う?」
「ふむ……」
「あれだけの掃射で、無傷じゃない人も出るでしょう。とすると、処置が出来る場所は」
「……あっ」
「そう。病院に逃げ込むと考える。だから、病院に逃げるのは危険よ。
敵が居なかったとしても、敵も味方も病院と言う場所は集まりすぎる。現状ではリスクが高すぎるわ。解ったかしら?」
「……は、い」
泉はあくまで渋々という感じで食い下がった。
筋は通った説明なのだから、彼女は退くしかない。
唇を噛んで、納得させようとしている泉を見ると、瑞樹は目を細めるしかなかった。
「……それじゃあ、改めて方針を決めましょう。楓さん。貴方達は飛行場から来たんですよね」
「ええ。其処に、
和久井留美、
ナターリア、
南条光が居るわ。次かその次に戻る……といったけど」
「……けど?」
「彼女が死んだ以上、簡単に戻る事はちょっとね。彼女の死に、きっと飛行場の皆も揺れるでしょうし」
「解りました。じゃあ暫くは一緒に?」
「ええ。美羽ちゃんも、友紀ちゃんと一緒に居る方がいいだろうし、ね」
そう言って哀しげに、それでも力強い表情を楓は浮かべている。
兎にも角にも、仲間が増えた事は、瑞樹達にとっては嬉しい。
楓達からの情報は有益で、自分達が見れなかった飛行場を詳しく知っていたのはプラスだったのだ。
その上で、飛行場で起きた顛末も聞いた。
楓自身の身の上も、だ。
その上で、こうも希望を持ち続ける姿は、瑞樹にとっても、泉にとっても凄いと思うしかない。
「ねえ、楓ちゃん。留美ちゃんは彷徨っていたといったよね」
「ええ。それが?」
「んー……ちょっと気になっただけよ」
和久井留美。
その存在が、瑞樹にとって引っかかって仕方が無い。
ただ彷徨っていただけ?
あれだけ理性的で、何事も決断できる彼女が。
実力もあるキャリアウーマンだった彼女が。
何も決められず、彷徨っていた。
(……そんな、馬鹿な)
ありえないと、瑞樹は思う。
酒を交わしたこともあった。
その上で彼女は、そういう人間でないのは知っている。
引っかかる……引っかかって仕方ないが、答えは出ない。
「……うーん、私が行き先決めても、構わないですか?」
そう控えめに、泉は言葉を紡いでいた。
大人二人に囲まれて緊張しているのだろうか。
少し意外でもあったけど、彼女らしいなとも瑞樹は思う。
「……港の前に寄りたい所があるということね」
「はい……警察署です」
「なるほど、その心は?」
楓の問いに、はいと頷き、瑞樹を見て。
「警察署……という事は、まず、何かしらの複数の人数でも動ける車があると思います」
「護送車とかかしら」
「ですね。鍵も一緒に補完されているでしょうし……そうすれば、川島さんも、歩く事無く移動できます」
「……貴方」
「それに、何かしら簡易な治療室もあるかもしれません。何より、拠点にしやすい場所だと考えます」
瑞樹の言葉を、ふさぐように早口で言葉を連ねる。
それは、瑞樹を想う理由で。
何よりも、泉が瑞樹を心配していると言う証拠だった。
「拠点を作るのにリスクがあるのも承知しています……ですが、『敵』の襲撃だったら、気になることがあるんです」
「それは?」
「……やはり、学校に何か、あるということですよ」
学校。
あれだけ探索して、何も見つからなかったあの場所に。
それでも、泉はまだ何かあると考える。
「まるで、はかったかのように、六人が合流したタイミングで襲われた」
「……確かに」
「それは、もしかしたら、私達をつけていたのかもしれない」
「つけていた?」
「『学校に辿り着いた私達』をです。『敵』なら、タイミングを見計らっていたかもしれない」
まるで、タイミングをはかったかのように襲撃された。
皆殺しをするような形で。
それは、一つの口封じかもしれないと泉は考える。
学校に探索した、私達を殺すための指示を受けていたとするなら。
きっと学校に、何かある。
「……なるほど。だから拠点を作りたいと」
「はい、どうでしょう?」
「…………まあ、異論は無いわ。楓ちゃんは?」
「私からも無いわよ」
「じゃあ、それでいきましょう?」
「了解したわ……今は放送まで休みましょう。いいかしら?」
「解りました……川島さん、ゆっくり休んでくださいね」
そうして、拠点を作る事を決めて。
一先ずの話し合いは終わる。
終始泉が瑞樹を心配した視線を送っていたのが、嬉しくもあり、切ない。
「ええ。泉ちゃん、友紀ちゃん達の様子みてくれないかしら?」
「いいですよ」
そういって、泉は立ち上がり、隣の部屋に移る。
瑞樹と楓は、その泉の見ながら。
「いい子ね」
「ええ」
「でも、脆そうね……あの子みたいに」
「……ええ」
そう、言葉を残していた。
紅茶は、まだ温かかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「歌鈴ちゃん……」
「……美羽」
今、友紀達が居るのは、子供部屋なのだろうか。
ベッドに、子供用の勉強机がって。
男のアイドルのポスターが飾ってあって。
丁度、年頃の……そう美羽ぐらいの女の子の部屋だった。
「この巫女服、遺品になっちゃた……どうしよう……」
美羽は、そう言ってベッドの上で体育座りをしている。
余りの哀しみに、押しつぶされそうになっていて。
友紀は、その様子を見るのが堪らなく、苦しくなっていて。
(何、やっているんだっ、あたしはさっ……!)
何か言葉を、かけようとして。
それでも、浮かぶ言葉が消えて行く。
何でだ、大切な仲間だろう。
大切な、大切な少女だろう。
それなのに。
――――私、FLOWERSのためにがんばろうとした。私が死んでも誰かが生き残ればいいって。
美羽の言葉が、友紀のなかでリフレインする。
そのたびに、息ができなくなる。
まるで、溺れる様に、苦しい。
「歌鈴ちゃん、御免ね……御免」
美羽を見る。
哀しみで、涙で。
顔を伏せている。
見て欲しくないというように。
【希望の花束の中に、絶望の一輪が混じっている。 正義の花は、何の為に咲き誇る? 咲き誇るための力が欲しいなら――――】
ちひろの、メッセージが、突き刺さる。
これが、美羽なのか。
絶望の一輪は美羽なのか。
「私は……何やってもダメだなぁ……本当ダメ……だぁ」
美羽は、こんなに泣く子だったか?
美羽は、こんなに、哀しむ子だったか?
どんなに失敗しても、苦笑いを浮かべながらも。
次にいこうと言ってくれる子じゃなかったか。
どんなに、苦しんでも、立ち止まりそうになっても。
笑って、前を向こうとした子じゃなかったか。
「……私……なんにも……ないなぁ……」
まるで、今の美羽……は、本当に……絶望に……
「違うッ!!」
そう、強く、言葉を、友紀は張り上げた。
余りにも哀しい考えを、気合で吹き飛ばした。
違う、違うんだ、と。
美羽は、私達の花は。
「……友紀……ちゃん?」
まるで、捨てられる寸前のような子犬のような顔した、美羽が其処にいて。
友紀はベッドに駆け寄って。
「馬鹿ッ!」
「……えっ」
抱きしめながら、そんな言葉を真っ先に吐いた。
美羽が驚いてるのを、感じるけど友紀は気にしなかった。
気にする必要も無かった。
今、必要なのは、そんなのじゃないから。
「美羽は、さ。一杯失敗する。一杯間違える」
「あ、う」
この子は、間違える。
幾度も、何度も、挑戦して。
そして、失敗し、間違える。
「けど、美羽は、其処でとまらないじゃん。忘れたの?」
「……でも、私は何にもないから、頑張って。色々挑戦したくて」
美羽は、ふるふると首をふって。
自分には、何も無いからって。
誇れるものが無いからって。
だから色々やりたいと、言って。
「けど、いつも上手くいかない……だから、私はダメだ」
でも、いつも失敗しちゃう。
だから、ダメだと言う。
「ううん、そんな事無いよ。そういう姿は、そういう美羽は『正しい』から」
友紀は、それを抱きしめながら否定する。
間違えながらも、挑戦する美羽は、きっと何処までも正しいんだと想う。
髪を撫でて、あげた。優しい、花の匂いがする。
「何処までも、挑戦する美羽は……やっぱり、凄いよ。何処までも……まっすぐに!」
きっとこの子の愚直なまでの挑戦する姿は、きっと何処までも『正しい』
だから、
「自分を、責めないで。自分を苦しめないでよ。 自分が犠牲になって、何も、生まれないよ。何も無いからって、挑戦することをやめないでよ」
失敗して、そのことで自分を責め続けて。
自分を苦しめて。そうやって何も無いと決め付けるのは。
決してよくない。正しくない。
「あたし達は、仲間だよ。大切な、大切な、仲間。希望の花束は、皆が、皆、『希望』でなきゃダメだから」
「……『希望』?」
「辛いなら、辛いって。哀しいなら、哀しいって言って。そうやって、ぶつかり合って、何処までも、行って来たじゃない、あたし達は、さ」
そう言って、友紀はようやっと美羽の顔を見る。
相変わらず泣きそうな顔だったけど。
でも、その目には光がともり始めて。
その光こそが、美羽が何処までも、挑戦することを諦めない姿で。
それが、友紀が、知る『フラワーズの美羽』としての希望で。
だから、友紀は、歌う。
「――――壁は、壊せるものさ。倒せるものさ」
それは、皆で歌った歌。
何処かのアイドルグループを歌った曲を。
カラオケで、ずっと歌い続けた曲だ。
そうやって、励ましあって。
「――――自分からもっと力を出してよ」
何ものでもない、少女だった時に、歌い続けてた曲だった。
何もかも、これからだったあの時の歌を。
どんな、壁でも、壊して、倒して。
そして、自分の力を出して。
「――――勇気で、未来を見せて」
美羽の、挑戦する姿は、きっと誰にも負けない、強い『勇気』だから。
どんな失敗だって恐れずに、どんな壁だって乗り越えて。
自分の力を限界まで、引き出そうとして。
そうやって、前に進んできた美羽は、何処までも勇気があったんだよ?
そんな、姿はね。
「皆、美羽の勇気に励まされたんだよ? そのことを忘れないでよ……だから」
今、美羽を覆ってる闇を、絶望を。
「――――闇を、吹き飛ばそうよ。追い払おうよ」
闇を。
絶望を。
吹き飛ばしてしまえ。
そんな、絶望。
「――――自分から、今を変えればいいのさ」
ダメな、自分を変えてしまえ。
何にも無いと想ってる自分を、変えてしまえ。
「ね、美羽……美羽は、それが出来る子だよ」
友紀は、思いっきり笑った。
笑って見せた。
「自分を、自分自身を、見捨てないで」
大切な、仲間に。
大切な言葉を、贈って。
そして――――
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――――パンドラの箱には、沢山『絶望』が詰まっていたけど、最後に残ったのは、それは何よりも輝く『希望』だったのです。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「友紀ちゃん」
美羽は、抱きしめられながら、温もりを感じ続けて。
それは大切な仲間の。
何よりの、心からの思いだった。
「私ね……殺し合いが始まって、どうすれば言いか、解らなかった」
「うん」
「ずっと、ずっと解らなくて。でも、きっと皆は、何時までも輝いてるんだって」
「……うん」
「だから、私は、そんな、皆の為に、なりたかった」
殺し合いが始まって。
訳がわからなくて。
それでも、仲間は、フラワーズは何処までも輝いてるって想った。
だから、美羽は、そんな仲間の為になりたいと想った。
死んでもいいとさえ思って。
「でも、きっと、それは、私の逃げだったんだね」
でも、きっと、それは、美羽が逃げていたと言うこと。
仲間の為に、なりたいと思って。
それは本当は自分が逃げていたことにしかならなかった。
自分自身の輝き方を見失って。
それがどういうものが未だに解らなくなって。
だから、仲間に託そうとして。
その実、仲間に、全部投げたかっただけかもしれない。
「こんな状況で……失敗する事に、恐れて。間違いを起こす事に怖がって……自分自身を見失ってかもしれないの……かな」
そうして、自分自身の輝き方を知らなくて。
そうして、自分自身の意思すら忘れて。
「正直…………まだよく解らないかも……勇気とか言われても、解らない。まだ、自分自身が、輝くものかなんて、解らない」
友紀の言葉を信じながらも、まだ解らなくて。
勇気があるのかすら、解らない。
自分自身はとても、臆病だと思うのに。
けど。
「けど――――壁は、壊せるものさ。倒せるものさ……だよね」
壁は、壊せる。
壁は、倒せる。
そうやって、今まで、体当たりで生きてきた。
「だから、私は……少しずつ、歩んでみよう……失敗に、恐れず……間違いを怖がらず……やっていけたいな」
そうやって、美羽は、顔を赤くしながら、涙を流しながら、笑った。
哀しみは癒えない。
悩みは解けない。
けど、その瞳には、『希望』の光が、確かに溢れていて。
「うん、やりなよ。それが、美羽がいい所だよ」
友紀も笑って見せた。
「うん!」
美羽も、やっと笑えていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「私、歌鈴ちゃん……にどうすればいいかな?」
「うーん……」
美羽と友紀はベッドに腰掛けながら、手を繋いでいた。
お互いの温もりを確かめながら。
美羽は歌鈴との思い出を友紀に、伝えていた。
少しずつ、落ち着くために。
自分の気持ちを整理するために。
「私が歌鈴ちゃんを巻き込んじゃったのは事実だし……」
美羽が最初に、歌鈴を巻き込んでしまったのは代わりようも無い事実で。
その事が美羽の心を苦しめていた。
死なせてしまった事も含めて。
苦しみや、哀しみは何もなくなっていなくて。
「やっぱり……謝ることしかできな――――」
そう、美羽が言おうとした時、
「――――そんなことは無い、と思いますよ」
遮る様に、ドアを開けながら、強い言葉を、彼女に伝えた人が居た。
何処か毅然とした表情を浮かべて。
美羽を見つめていた。
「……泉ちゃん」
「御免なさい、全部、聞いていました」
――――大石泉。
彼女も、また、美羽と、とても近い所にいるのだから。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
泉が様子を見に、友紀達の部屋の前に辿り着いた時、丁度二人が話し合ってる時だった。
だから、泉は入ることが出来ず、かといって立ち去る事も出来なかった。
美羽がぽつぽつと語ることは、泉にとっても身近で、何故だか心にとっても刺さったから。
自分には何も無い、自分は輝いていないと言う事は、まるで自分が喋ってるように聞こえて。
それと同時に、何処か安心した自分も居て。
フラワーズでさえ、そういう子が居るんだと思う自分が居て。
そんな妙な安堵を得た自分が少し気持ち悪くて。
扉越しに、彼女の話を聞いていた。
やがて、彼女は進もうとして。
そうして、それでも彼女は失敗を恐れないと言う。
間違いを怖がらないと言う。
泉は、凄いな、って思う。
失敗や間違いは、本当、泉にとって怖くて。
もしかしたら自分の計画のせいで歌鈴を失ってしまったのかと思う事さえ。
前を向く『勇気』の難しさは、泉自身がよく知っていた。
いいな、凄いなって思って。
それと同時に、どうして。
そんな風に、なれるの?と聞きたくて。
飛び出して、聞きたい気持ちに駆られて。
でも、そうする勇気すらなくて。
自己嫌悪に襲われそうになって。
どうして、私はいつもこうなのと思って。
やがて、美羽が歌鈴の話を切り出していた。
美羽が、語る歌鈴はドジでおっちょこちょいらしい。
本当楽しそうに、彼女の思いを伝えていた。
彼女との思い出を、楽しく伝えていて。
一緒に、着替えた。
一緒に、ご飯を食べて。
一緒に、色々考えて。
一緒に、色々笑って。
一緒に、頑張ろうといった。
泉はそんな美羽の歌鈴への思いに、ある事を考え。
泉は、泉自身の思い出を思い出し。
それでも、死なせしてしまった、と美羽はいい。
謝るしかないのかなといいかけた瞬間
大石泉は、飛び出していた。
勇気は、いつの間か出ていた。
「謝ることは、ないと思います」
「……どうして?」
美羽は不思議そうに泉を見ていて。
泉は、ゆっくりと息を吐きながら、自分の思いを伝えようとする。
「だって、貴方は、その人といて、色々思い出があるんですよね」
「うん」
「楽しかったですか?」
「……勿論」
たとえ殺し合いの場でも沢山触れ合って。
その中で、思い出を作って。
楽しかったと言えたのなら。
泉は目を閉じ、二人の大切な人を思い浮かべて。
「だったら、きっと、それは貴方にとって、大切なものになってるんだと思います」
「え?」
「それはきっと、『友達』だと、言えるものだと思います」
大切な、友達。
泉の浮かぶのは二人の友達。
こんな無愛想な私に話しかけた二人。
色んな所に連れて行った二人。
色んなものを教えてくれた二人。
二人で過ごした思い出は、泉の、力になっているから。
「あっ……」
「だから、大切なものをくれた友達にまず、言う事は…………」
だから、友達に贈るのは、謝罪の言葉じゃない。
そんなんじゃ、友達は喜ばない。嬉しくなんて無い。
もっと重要な事を伝えなきゃ。
それは
「『ありがとう』だと思いますよ?」
一緒にすごしてくれて、ありがとう。
そんな思いだと、泉は思うから。
たとえ美羽が歌鈴を巻き込んだとしても。
歌鈴はうらむ訳が無い。
だから、まず必要なのは、一緒に居た思いを伝える事、だと思うから。
楽しかったよ、ありがとうと伝える事だと思うから。
「……あぁ……歌鈴ちゃん……あのね。一緒にいて、良かった。本当に良かった。一緒にいて……笑えてよかったよ」
美羽は、笑いながら涙を流す。
そこには、哀しみながらも、辛いものは無いと、思う。
「ありがとう。ありがとう。一緒に歩んでくれて、ありがとう……歌鈴ちゃん」
大切な友達へ。
いつまでも、思いを。
「私、頑張るから…………歌鈴ちゃん、ありがとう!」
そして、美羽は歌鈴への思いを昇華して。
前へ、進むことが出来るから。
美羽が笑えたら。
そしたら、友達は笑ってくれて、頑張れというんだと思う。
泉は笑い、美羽に手を差し出す。
だから、泉は、勇気を出す、出したい。
「美羽さん……その、私は大石泉と言います」
「あ……私は、矢口美羽です」
「あの…………私……その……貴方から、もっと色々聞きたい」
「……私から?」
美羽は不思議そうな顔を浮かべて。
泉は恥ずかしがらも、しどろもどろに言葉を重ねた。
「貴方のようになるなら、どうすれば……いいか、とか……その……色々?」
「色々?」
「はい……だから、私は……貴方に、色々……聞いてもいい……ですか?」
美羽はきょとんとして。
そして、握手をして。
「勿論!」
二人して、笑いあった。
その様子を、姫川友紀は、何処か遠く、儚げな笑みを浮かべて、ずっと眺めていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「大石泉って子は、本当不器用なの」
「ええ」
「何処か達観して、凄く大人っぽく見えるんだけど……その実、とても子供」
「……ええ」
「怖がって。そして、自分を表していいのか、解らなくて。戸惑う……そんな、脆さを持った子」
「なるほど」
「だから…………大人がよく見守ってあげなきゃいけないのよ」
泉が去った部屋で、瑞樹と楓は言葉を交わしていた。
それは瑞樹が一緒に行動していた大石泉のことで。
「あの子はよく、自分を責める」
「ふむふむ」
「だから、言ってあげて……もっと色んなものに頼っていいのよと」
「なるほど……でも、貴方が伝えるべきじゃないかしら?」
楓の当然の疑問に、瑞樹は儚く笑う。
泉のことを心配するなら、瑞樹本人が伝えるべきだろう。
楓に頼む事じゃないはずだ。
なのに、頼むと言う事は。
「そうねぇ…………私の身体が持ったらの話かしら?」
「っ!?」
「今すぐの話じゃないわよ? 今日と日を越せるとは思うわ。 ただ朝日を眺められるかと言うと、微妙よね」
「やっぱり……傷が」
「素人判断だから、きっとぶれると思うけどね。まあ、自分の身体は自分がよく解っているし」
瑞樹自身が、助かるかどうか、危ういと言う事だ。
今すぐにではないけど、いづれ近いうちに死ぬ。
傷は重症なのは変わりなく。
大量出血した血は簡単に戻る事も無く。
血は少しずつ出てるのかもしれない。
「だから……あの子をよろしく」
「解ったわ」
「飲みましょうか。最後の酒ぐらい……一杯はいいわよね」
「…………ええ」
そうやって、瑞樹は棚から酒瓶を一つ取り出してあける。
放送まで一杯だけ。
そう、一杯だけ、飲みたかったから。
「強いわね」
「……そんな事ないわよ。貴方だって強いわよ楓ちゃん」
「……私は強さを貰ったから。プロデューサーから、まゆちゃんから、歌鈴ちゃんから」
「絶望の中で、希望を見つけた?」
「……なのかしらね」
「だったら、私もそうなのかしら」
この殺し合いという絶望の場で。
皮肉にも、希望がこんなにも輝いている。
楓は人の死を経験し。
瑞樹は傷を負ったことで、
「最後まで、私は自分らしく、そしてあの子達の為に、生きて見せるわよ」
強く生きよう、と誓えたのだから。
瑞樹はそう言って、一つの話を思い出す。
「そういえば、ちひろから昔きいてた話わね……」
「何の話?」
「パンドラの箱だったかしら。この世の災厄、絶望が詰まっていた箱の話」
「あぁ……あけたら、其処から、災厄が広がったという話ね」
「でも、その底には一つ残っていたものがあるそうよ」
「何かしら」
「絶対的な『希望』」
そう、パンドラの箱には絶対的な、希望が底にあるという。
「絶望に塗れながらも、それを乗り越えた先には、何よりも輝く希望が……ある……今の……わたした…ちみたい………?」
…………あれ?
瑞樹はそこで、引っかかる。
放送で語った希望と絶望。
パンドラの箱。
あの子は確か、災厄に巻き込まれ。
そして、最後に
―――『希望』に出会ったという。
「……どうしたの?」
「………………いえ、なんでもないわ」
だと、するなら。
もしかしたら。
千川ちひろが考えている事とは。
瑞樹は、楓の問いに答えず。
そして、千川ちひろの真意に、気付き始めたことを。
その事を、飲み込んで。
酒を煽ったのだった。
【G-4・民家/一日目 夕方(放送直前)】
【大石泉】
【装備:マグナム-Xバトン】
【所持品:基本支給品一式×1、音楽CD『S(mile)ING!』】
【状態:疲労、右足の膝より下に擦過傷(応急手当済み)】
【思考・行動】
基本方針:プロデューサーを助け親友らの下へ帰る。
0:美羽から色々話を聞きたい。
1:放送の後、少ししたら警察署へ。
2:脱出のためになる調査や行動をする。その上で他の参加者と接触したい。
3:島中にある放送施設を利用して仲間を募る?
4:アイドルの中に悪役が紛れている可能性を考慮して慎重に行動。
5:かな子のことが気になる。
※村松さくら、土屋亜子(共に未参加)とグループ(ニューウェーブ)を組んでいます。
【姫川友紀】
【装備:少年軟式用木製バット】
【所持品:基本支給品一式×1、電動ドライバーとドライバービットセット(プラス、マイナス、ドリル)】
【状態:疲労】
【思考・行動】
基本方針:プロデューサーを助けて島を脱出する?
0:美羽ちゃん。
1:色々と作戦を練り直さないといけない気がする。
2:脱出のためになる調査や行動をする。その上で他の参加者と接触したい。
3:仲間がいけないことを考えていたら止める。絶対に。
4:アイドルの中に悪役が紛れている可能性を考慮して慎重に行動。悪役ってなんなんだ?
5:仲間をアイドルとして護り通す? その為には犠牲を……?
※FLOWERSというグループを、
高森藍子、相葉夕美、矢口美羽と共に組んでいます。四人とも同じPプロデュースです。
※
スーパードライ・ハイのちひろの発言以降に、ちひろが彼女に何か言ってます。
【川島瑞樹】
【装備:H&K P11水中ピストル(5/5)】
【所持品:基本支給品一式×1】
【状態:疲労、わき腹を弾丸が貫通・大量出血(応急手当済み)】
【思考・行動】
基本方針:プロデューサーを助けて島を脱出する。
0:……………………まさか。
1:放送の後、少ししたら警察署へ。
2:脱出のためになる調査や行動をする。その上で他の参加者と接触したい。
3:大石泉のことを気にかける。場合によっては泉に託す。
4:アイドルの中に悪役が紛れている可能性を考慮して慎重に行動。
5:千川ちひろに会ったら、彼女の真意を確かめる。
※千川ちひろとは呑み仲間兼親友です。
※傷は処置しきれず、そのままだとやがて死にます。
【高垣楓】
【装備:仕込みステッキ、ワルサーP38(6/8)】
【所持品:基本支給品一式×2、サーモスコープ、黒煙手榴弾x2、バナナ4房】
【状態:健康】
【思考・行動】
基本方針:アイドルとして、生きる。生き抜く。
0:どうしたのかしら。。
1:アイドルとして生きる。歌鈴ちゃんや美羽ちゃん、そして誰のためにも。
2:まゆの思いを伝えるために生き残る。
3:……プロデューサーさんの為にちょっと探し物を、ね。
【矢口美羽】
【装備:歌鈴の巫女装束、鉄パイプ】
【所持品:基本支給品一式、ペットボトル入りしびれ薬、タウルス レイジングブル(1/6)】
【状態:深い悲しみ】
【思考・行動】
基本方針:?????
0:泉ちゃんと話す
1:少しずつ、歩まなきゃ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
パンドラの箱には、エルピスのというものが残っていたそうです。
それは、絶対的希望であり、予兆でもあるそうなんですよ?
絶望に諦めず、希望に向かっていくための予兆。
でもやっぱり、それは、希望なんです。
――――そうだよ。覚悟は出来た。
美羽の為に歌った歌は、サビの最後にそう言うんだっけ。
けど、その通りだね。
あたし、覚悟が出来たよ。
美羽は、やっぱ希望だ。
フラワーズの希望だ。
やっぱり、哀しみに染めちゃ、ダメなんだ。
自分が死んでしまえばいいとか、言っちゃいけないんだよ。
あの時の美羽見てられなかった。
これ以上、美羽や藍子があんな状態になるなんて、ヤダよ。
そんな事ダメ、絶対ダメ。
これ以上、仲間がそんな事いうの、絶対に嫌。
だから、私は、藍子や、夕美や、美羽に、希望のままで居てほしい。
正しいままで居てほしい。
さっき、美羽を見たんだ。
あの美羽の姿を護りたいんだって。
私達の仲間のすっごいとこ、いつまでもそのままでいて。
だって、凄い輝いてるんだから!
その為だったら、何だってしたい。なんでもする。
犠牲を出したって、構わない。
そう、決めたんだ。
だって、あたしがやらなきゃ。
あたしがやらなきゃ。
子供が正しいように。
大人がやらなきゃ。
希望であるまま。
正しいものであるまま。
彼女達には居てほしい。
皆が、笑顔であるまま。
皆が、『アイドル』でいられるように。
あたしは――――力が欲しい。
そう、ちひろに、言葉を贈った。
まだ、動くつもりはないけど。
けど、もう覚悟は決めた。
――――パンドラの底にあるのは、一つの絶対的『希望』
だから、私は、私自身の『希望の』為に、犠牲を出してさえも、
――――けれど、それが、人に皆にとって、『正しいもの』と言える『希望』とは。
敵だって、なんだって、やってやる。
――――限ラナイケドネ?
【姫川友紀】
【装備:少年軟式用木製バット】
【所持品:基本支給品一式×1、電動ドライバーとドライバービットセット(プラス、マイナス、ドリル)】
【状態:疲労】
【思考・行動】
基本方針:フラワーズの為に、覚悟を決め、なんだって、する。
0:力が欲しい。
1:暫く、まだ待つ。
※FLOWERSというグループを、高森藍子、
相葉夕美、矢口美羽と共に組んでいます。四人とも同じPプロデュースです。
※スーパードライ・ハイのちひろの発言以降に、ちひろが彼女に何か言ってます。
最終更新:2013年10月11日 14:33