自分用SSまとめ
01 どうしよう
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meteor089
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01 どうしよう
嫌い、っていうか、苦手なのよ、ああいうタイプって。
初対面の女(私のことね)の全身をジロジロ見回してさ、挙句にいきなり指輪渡すなんて。
それに何よあのセリフ!「今日の出会いの記念に」だって。
本当だったら笑い飛ばしてやりたいところだったのに、あの時、
ぞぞぞぞーって体中に鳥肌が立っちゃったのよ……。
もうね、「虫唾が走る」って言うのはこのことだったのか!って体感したぐらい。
「ゼシカ。これからオレは片時も離れず君を守るよ。君だけを守る騎士になる」って言われた時も、
「はいはい。どうもありがとうございますー」なんて言うのが精一杯だった。
ほんとはもっと言い返したいぐらいだったのに……。
自分のビジュアルに自惚れてるんだか単なる女好きなんだかキザの大安売りなんだか知らないけど、
ほんと、ダメ。苦手なの。
でもあいつが仲間に入った時は「仲間になったんだもの、仲良くしなきゃ」って思ったのよ、私だって。
私がエイトたちの仲間に入れてもらった時も、
最初は「この人たちとうまくやっていけるかしら……」って内心ずっと思ってた。
連絡船に乗ってた間は特にね。
まぁ結局いろいろ話していくうちに、エイトは優しいし、ヤンガスは見た目に似合わずすごく純粋だし、
トロデ王も馬姫様も本当の王様で姫様だってことがわかったしね。
特にエイトは……優しい目をしてるけど、その奥に強い意志があるような感じで……
あの瞳を見るといつも、サーベルト兄さんを思い出したりして……。
えーと、つまりね、話して心打ち解けていけば、みんなと仲良くなれるんだなぁ……って安心したわけ。
兄さんが殺されて以来、人を会話するのもおっくうだったから……。
何て言うのかな……リハビリ?
そう、心のリハビリをみんなのおかげで出来た感じだった。
でも……あいつとはうまくやっていける自信がないのよ。
どうしよう。苦手なのよ。
そういえばあいつが仲間になって初めての夜、修道院近くのドニの町で宿を取ったことがあったんだけど、
宿に着くなりあいつは早速酒場へ出かけて行ったわ。
あいつが酒場へ行った後、宿では
「やれやれ、あのククールって兄ぃちゃんは酒場のバーテンでもやってる方が
性にあってんじゃないでがすかねぇ」とヤンガスが言うと、
エイトは「そうだね」なんて言って笑って、私もつられて笑ったりしてた。
宿で用意された簡単な夕食を三人でとった後、
エイトが町の外にいるトロデ王の食事を酒場へ注文しに行くって言うもんだから、
私とヤンガスは出来上がった食事を運ぶのを手伝おうってことになったの。
酒場は宿の向かいにあって、酔っ払った男の人たちの声と艶っぽい女の人たちの声が
交じり合って宿の中にまで聞こえてきてた。
三人で酒場まで歩いて行ってエイトが酒場の古びた木のドアを開けたとたん、
安酒のくぐもった臭いが鼻に纏わり付いてきたわ。
私は咄嗟に口に手を当てたんだけど、そんなんじゃ間に合わないぐらいの臭い。
それだけで私はもうゲンナリしてたんだけど、酒場の一番奥のテーブルにあいつを見つけちゃって……
尚更気分が悪くなっちゃたのよね。
ただでさえも薄暗い店の中の、一番暗い奥の席で、あいつはウイスキーグラスを左手に持ってた。
右手は……隣にいるバニーガールの腰の上。
軽薄、って言葉が頭の中にすぐ浮かんだわよ。私は突然頭がクラクラしてきてた。
お酒の臭いにやられたせいか、あいつを見たせいかはわからないけど。
食事が出来るまで外で待ってても良かったんだけど、
あいつを意識したために外へ出てくのも何だか癪に障って…結局酒場の中で待つことにしたわ。
エイトは「ゼシカ、気持ち悪いなら宿に帰ってもいいよ。食事なら僕とヤンガスで運べるし……」と
言ってくれたけど、とにかくあいつのために自分の行動を変更するなんて嫌だったのよ。
「大丈夫よ。どうせ食事はすぐに出来上がるんでしょ?それにトロデ王と馬…じゃなかった
ミーティア姫も外で二人っきりじゃ寂しいだろうから、
少しお話もしたいしね」なんて取り繕ったけど、すっごくくだらないプライドよね。我ながら嫌になるぐらい。
待ってる間はなるべくあいつの方に背を向けて、
エイトやヤンガスと取り留めない話をすることに神経を集中させてた。
心ではずーっと神様に祈ってたわよ。「お願い!早く食事を仕上げてよ~」ってね。
「はいお待ち。食べ終わったら皿はカウンターに置いておいてくれればいいよ」
酒場のマスターが、湯気の立ち上るワンプレート盛りとサラダボウル、
それとワインの入った大きめの蓋付きデキャンタをカウンターに出してくれた時、ほんとにホッとしたわ。
ああ、よかった、ここから出られる……って。
でもそこで油断したのが悪かったの。つい見ちゃったのよ、あいつを。
そうしたらね、あいつ、これ見よがしにバニーガールとキスしてた。あああー、もう、最悪……。
それなのにエイトときたら、「えーっと、プレートは僕が持つから……サラダボウルはヤンガスが持ってよ。
ワインはゼシカお願いね」なんて呑気に役割分担の話をしてるんだもの!
私はとにかく一秒でも酒場から出たい一心で、エイトが持ってたデキャンタを奪うように取って、
酒場の出口へ向かった。
エイトとヤンガスに「ほら、早くトロデ王に届けましょ!温かいものは温かいうちに食べるのが
一番おいしいんだから!」と声を掛けてドアに手をようとした瞬間、そこには既に誰かの手があるのが判った。
見覚えのあるグローブ……。
あいつの手だった。
「レディはナイフとフォーク以上の重いものを持っちゃいけないんだぜ」
そう言ってあいつは空いている左手で私の持っていたデキャンタをひょいと取り上げ、ドアを開けた。
「女が重いもの持っちゃダメなんて、誰がそんなルール決めたのよ」
鞭やダガーを持って日々魔物と戦ってる女に言うセリフじゃないわよ、まったく。
「……オレだよ。さあ、どうぞ。早く行かないとトロデのおっさんが餓死するかもしれないぜ?」
あいつはそう言って私の左肩に手を回してきた。
「やめてよ!恋人同士でもないのに。それに……一緒に飲んでた娘は放っておいていいの?」
私はとっさに肩にある手を振り払ったわ。
「ああ、ミラのこと?……もしかして見てたの?オレのこと――」
「……世界中の女があんたに注目してると思ったら大間違いよ」
「キビしいねぇ、ゼシカちゃんは」
あいつは苦笑いをかみ殺すようにそういって、また私の肩に手を回してきた。まったく懲りもせずに。
その時、後ろからエイトの声が聞こえてきた。
「何だかすごく仲良さそうだね、ゼシカとククールって」
「はぁ?バカ言わないでよ!どこ見てそんなこと言ってんのよ!!」
私は後ろを振り返って、食事が盛られたプレートを大事そうに抱えているエイトを睨みつけた。
でもエイトはそんな私に特に気にする様子も無く、言葉を続けた。
「だってさ、ゼシカは僕らと話する時はちょっと気を遣ったような話し方するよね?
でもククールには、ちゃんと本音で話してるじゃない?だから、仲いいんだなーっと思って……」
私とあいつをニコニコ顔で見ているエイトの横で、ヤンガスは
「これは仲いいっつーか、ゼシカねーちゃんがククールを嫌っているようにしか
アッシには見えないんでがすが……」と呟いていた。
……そうよヤンガス、あんたが一番マシなこと言ってるわ。
「ほら見ろよ。判るヤツには判るんだよ、オレたちの相性の良さってのがさ」
私の肩にあったはずのあいつの手が体のラインに沿って、
ゆっくり、着実に、下に降りてくるのを感じた。
払いのけなきゃ、と思いながらも、全身に鳥肌が立っちゃって、
手が上手いように動かないったりゃありゃしないのよ。
あいつの手が私の腰にまで来た時、あいつは私の耳元でこう囁いた。
「――オレは知ってたよ」
「何のことよ」
「オレとミラがキスするのを、ゼシカが見てたこと――」
初対面の女(私のことね)の全身をジロジロ見回してさ、挙句にいきなり指輪渡すなんて。
それに何よあのセリフ!「今日の出会いの記念に」だって。
本当だったら笑い飛ばしてやりたいところだったのに、あの時、
ぞぞぞぞーって体中に鳥肌が立っちゃったのよ……。
もうね、「虫唾が走る」って言うのはこのことだったのか!って体感したぐらい。
「ゼシカ。これからオレは片時も離れず君を守るよ。君だけを守る騎士になる」って言われた時も、
「はいはい。どうもありがとうございますー」なんて言うのが精一杯だった。
ほんとはもっと言い返したいぐらいだったのに……。
自分のビジュアルに自惚れてるんだか単なる女好きなんだかキザの大安売りなんだか知らないけど、
ほんと、ダメ。苦手なの。
でもあいつが仲間に入った時は「仲間になったんだもの、仲良くしなきゃ」って思ったのよ、私だって。
私がエイトたちの仲間に入れてもらった時も、
最初は「この人たちとうまくやっていけるかしら……」って内心ずっと思ってた。
連絡船に乗ってた間は特にね。
まぁ結局いろいろ話していくうちに、エイトは優しいし、ヤンガスは見た目に似合わずすごく純粋だし、
トロデ王も馬姫様も本当の王様で姫様だってことがわかったしね。
特にエイトは……優しい目をしてるけど、その奥に強い意志があるような感じで……
あの瞳を見るといつも、サーベルト兄さんを思い出したりして……。
えーと、つまりね、話して心打ち解けていけば、みんなと仲良くなれるんだなぁ……って安心したわけ。
兄さんが殺されて以来、人を会話するのもおっくうだったから……。
何て言うのかな……リハビリ?
そう、心のリハビリをみんなのおかげで出来た感じだった。
でも……あいつとはうまくやっていける自信がないのよ。
どうしよう。苦手なのよ。
そういえばあいつが仲間になって初めての夜、修道院近くのドニの町で宿を取ったことがあったんだけど、
宿に着くなりあいつは早速酒場へ出かけて行ったわ。
あいつが酒場へ行った後、宿では
「やれやれ、あのククールって兄ぃちゃんは酒場のバーテンでもやってる方が
性にあってんじゃないでがすかねぇ」とヤンガスが言うと、
エイトは「そうだね」なんて言って笑って、私もつられて笑ったりしてた。
宿で用意された簡単な夕食を三人でとった後、
エイトが町の外にいるトロデ王の食事を酒場へ注文しに行くって言うもんだから、
私とヤンガスは出来上がった食事を運ぶのを手伝おうってことになったの。
酒場は宿の向かいにあって、酔っ払った男の人たちの声と艶っぽい女の人たちの声が
交じり合って宿の中にまで聞こえてきてた。
三人で酒場まで歩いて行ってエイトが酒場の古びた木のドアを開けたとたん、
安酒のくぐもった臭いが鼻に纏わり付いてきたわ。
私は咄嗟に口に手を当てたんだけど、そんなんじゃ間に合わないぐらいの臭い。
それだけで私はもうゲンナリしてたんだけど、酒場の一番奥のテーブルにあいつを見つけちゃって……
尚更気分が悪くなっちゃたのよね。
ただでさえも薄暗い店の中の、一番暗い奥の席で、あいつはウイスキーグラスを左手に持ってた。
右手は……隣にいるバニーガールの腰の上。
軽薄、って言葉が頭の中にすぐ浮かんだわよ。私は突然頭がクラクラしてきてた。
お酒の臭いにやられたせいか、あいつを見たせいかはわからないけど。
食事が出来るまで外で待ってても良かったんだけど、
あいつを意識したために外へ出てくのも何だか癪に障って…結局酒場の中で待つことにしたわ。
エイトは「ゼシカ、気持ち悪いなら宿に帰ってもいいよ。食事なら僕とヤンガスで運べるし……」と
言ってくれたけど、とにかくあいつのために自分の行動を変更するなんて嫌だったのよ。
「大丈夫よ。どうせ食事はすぐに出来上がるんでしょ?それにトロデ王と馬…じゃなかった
ミーティア姫も外で二人っきりじゃ寂しいだろうから、
少しお話もしたいしね」なんて取り繕ったけど、すっごくくだらないプライドよね。我ながら嫌になるぐらい。
待ってる間はなるべくあいつの方に背を向けて、
エイトやヤンガスと取り留めない話をすることに神経を集中させてた。
心ではずーっと神様に祈ってたわよ。「お願い!早く食事を仕上げてよ~」ってね。
「はいお待ち。食べ終わったら皿はカウンターに置いておいてくれればいいよ」
酒場のマスターが、湯気の立ち上るワンプレート盛りとサラダボウル、
それとワインの入った大きめの蓋付きデキャンタをカウンターに出してくれた時、ほんとにホッとしたわ。
ああ、よかった、ここから出られる……って。
でもそこで油断したのが悪かったの。つい見ちゃったのよ、あいつを。
そうしたらね、あいつ、これ見よがしにバニーガールとキスしてた。あああー、もう、最悪……。
それなのにエイトときたら、「えーっと、プレートは僕が持つから……サラダボウルはヤンガスが持ってよ。
ワインはゼシカお願いね」なんて呑気に役割分担の話をしてるんだもの!
私はとにかく一秒でも酒場から出たい一心で、エイトが持ってたデキャンタを奪うように取って、
酒場の出口へ向かった。
エイトとヤンガスに「ほら、早くトロデ王に届けましょ!温かいものは温かいうちに食べるのが
一番おいしいんだから!」と声を掛けてドアに手をようとした瞬間、そこには既に誰かの手があるのが判った。
見覚えのあるグローブ……。
あいつの手だった。
「レディはナイフとフォーク以上の重いものを持っちゃいけないんだぜ」
そう言ってあいつは空いている左手で私の持っていたデキャンタをひょいと取り上げ、ドアを開けた。
「女が重いもの持っちゃダメなんて、誰がそんなルール決めたのよ」
鞭やダガーを持って日々魔物と戦ってる女に言うセリフじゃないわよ、まったく。
「……オレだよ。さあ、どうぞ。早く行かないとトロデのおっさんが餓死するかもしれないぜ?」
あいつはそう言って私の左肩に手を回してきた。
「やめてよ!恋人同士でもないのに。それに……一緒に飲んでた娘は放っておいていいの?」
私はとっさに肩にある手を振り払ったわ。
「ああ、ミラのこと?……もしかして見てたの?オレのこと――」
「……世界中の女があんたに注目してると思ったら大間違いよ」
「キビしいねぇ、ゼシカちゃんは」
あいつは苦笑いをかみ殺すようにそういって、また私の肩に手を回してきた。まったく懲りもせずに。
その時、後ろからエイトの声が聞こえてきた。
「何だかすごく仲良さそうだね、ゼシカとククールって」
「はぁ?バカ言わないでよ!どこ見てそんなこと言ってんのよ!!」
私は後ろを振り返って、食事が盛られたプレートを大事そうに抱えているエイトを睨みつけた。
でもエイトはそんな私に特に気にする様子も無く、言葉を続けた。
「だってさ、ゼシカは僕らと話する時はちょっと気を遣ったような話し方するよね?
でもククールには、ちゃんと本音で話してるじゃない?だから、仲いいんだなーっと思って……」
私とあいつをニコニコ顔で見ているエイトの横で、ヤンガスは
「これは仲いいっつーか、ゼシカねーちゃんがククールを嫌っているようにしか
アッシには見えないんでがすが……」と呟いていた。
……そうよヤンガス、あんたが一番マシなこと言ってるわ。
「ほら見ろよ。判るヤツには判るんだよ、オレたちの相性の良さってのがさ」
私の肩にあったはずのあいつの手が体のラインに沿って、
ゆっくり、着実に、下に降りてくるのを感じた。
払いのけなきゃ、と思いながらも、全身に鳥肌が立っちゃって、
手が上手いように動かないったりゃありゃしないのよ。
あいつの手が私の腰にまで来た時、あいつは私の耳元でこう囁いた。
「――オレは知ってたよ」
「何のことよ」
「オレとミラがキスするのを、ゼシカが見てたこと――」
やっぱりダメだ。仲良くなんか出来ないよ、こんなヤツと。
こんな気持ちの状態で私、兄さんのカタキ討ちなんてできるの?
ねぇ、兄さん……。
こんな気持ちの状態で私、兄さんのカタキ討ちなんてできるの?
ねぇ、兄さん……。