自分用SSまとめ
10 100万回のキスよりも
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meteor089
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10 100万回のキスよりも
煉獄島の地下牢獄で法皇様が死んだって話を看守から聞いた時、オレは真っ先にあいつの顔が頭に浮かんだね。
あいつ――マルチェロが、法皇様の死に関わりを持ってる。
そしてあの杖は、あいつの手に渡ったに違いない……ってな。
――それはどうやらオレだけじゃなく、みんなそう考えていたみたいだけどさ。
やっとのことで地下牢獄を抜け出して、久しぶりに外の光を浴びた時、
太陽が眩しくって仕方なかったよ。
まるでマヌーサにかかったみたいにさ、目を開けることに必死にならなきゃいけないくらいだったな。
その上……みんな酷く疲れていた。
そりゃそうだよな、あんな暗くて薄汚い地下牢獄に一ヶ月だぜ?
化け物でもない限り、あんなところに一ヶ月もいたらヘトヘトになっちまうよ。
しかもみんな、ニノ大司教のことが心配だったんだ……。
オレはこれまでニノ大司教みたいな、表面だけの聖職者みたいなヤツは大嫌いだったんだけど、何だかんだ言っても、あれだけ法皇様を思う気持ちがあるってことは、大したモンだと思ったよ。
それでもさ、力を振り絞って聖地ゴルドへ向かったんだ。
マルチェロを探し出すために。
ヤツは、ゴルドにある大講堂にいたんだ。――新法王として演説するために、な。
しかも手には……あの杖を持っていやがった。
ゼシカが言ってたよな、「あの杖は、人の心の隙間に入り込む」って……。
マルチェロも何やってんだ。
らしくねぇよ、あいつが心に隙を作るなんてさ……。
――自分は身分も低く、不貞の子であり、そういう人間は教会から虐げられていること。
教会にいる人間たちの無能っぷり。死んだ法皇様は単に君臨するだけの役立たずに過ぎなかったこと――
あいつの演説は、自分の中に溜まった長年の恨みや憎しみを全て解き放っているかのようだった。
全ての言葉が、聞いてる人を傷つけんばかりに、鋭く突き刺さるような感じだった。
そんなマルチェロを見ていたら、オレはあいつが拷問しているのを初めて見た時のことを思い出していた。
……修道院に入って二年ぐらい経った頃だと思う。
その日、オレは地下牢の宿直当番に当たってたんだ。
地下牢にある拷問室で、聖堂騎士団から抜けようとした男を、
あいつは殺さんばかりに鞭や棍棒で叩いていた。
しかも、あいつは心底嬉しそうに笑いながら、拷問をひたすら続けていたんだ……。
その時……オレは感じたんだ。
マルチェロは、恨みや憎しみっていう感情だけを支えにして、これまで生きて来たんじゃないか……って。
だから、その時から納得はしてたんだよ、オレは。
マルチェロにとって、オヤジやオレへの憎しみが生きる力の源なんだってことぐらいは、さ。
オヤジがあいつやあいつの母親にに対してやってきたことを全く知らなかったオレにとっちゃあ、
理不尽この上ないことではあったけどな。
オレが遠い壇上にいるマルチェロをじっと見ていたら、隣にいたゼシカが心配そうな顔をして、
オレの顔を覗き込んできた。
「……大丈夫?」
「……何てことないさ」
オレは肩をすくめてそう答えた。するとゼシカはオレの手を握ってきた。
「バカね……そんなこと言うなんて、無理してる証拠よ!
『バカ兄貴!そこから降りてこい!!』ってぐらいは言わなきゃ!」
そう言って、ゼシカは笑った。前にいたエイトやヤンガスも、つられて笑みを漏らしている。
オレもそんなみんなを見て、思わず苦笑いする。
何だろうね、この感じ……。
連帯感……って言うんだっけ?
オレはひとりぼっちじゃないんだなぁ……って、ちょっと嬉しくなったよ。
ゼシカは繋いだ手を握り直し、マルチェロを見据えながら言った。
「私、争いごととか戦うことってそんなに好きじゃないけど……
戦わなかったら、前に進めないこともあるのよね……」
「……そうだな」
オレもゼシカの手を握り返した。
そして、空いている方の手をそっと自分の胸に当てた。
その後すぐにあいつと戦うことになったんだけど――戦ってる時は我ながら、意外と冷静だったな。
もっと嫌な思いを抱えて戦うのかな……って思ったんだど、
とにかくあいつからあの杖を手放せたい一心で戦ってたからさ。
ゴルドが崩壊した後にあいつを助けた時も、思わず手が出ただけなんだよ。
あいつに話したことも……前々から言ってやろうとか考えてたわけじゃなく、
素直に口からスラスラ出てきたんだ。
あいつにオレが思っていることをあんなにも直接的に伝えたのって、初めてだったんじゃないかな……。
その日――オレたちは赤く染まった空の中を神鳥の魂に導かれて、ゴルドから海辺の教会へ移動した。
そこで一泊させてもらうことにしたんだ。
夜になり、みんなが寝静まった頃、オレはベッドの上に寝転びながら
月光だけを明かりにして、 マルチェロから渡された聖堂騎士団長の指輪を手に取って見ていた。
そして、静かに目を閉じてみた。
――なぁ兄貴、あんたには解るか?
煉獄島の地下牢獄で、ゼシカがオレの傷ついた心を治すために……って祈ってくれた時、
オレは本当にこのまま死んでもいいって思ったぐらい、幸せだったんだぜ?
あんたに虫ケラ扱いされ、修道院の連中からは「汚れたもの」扱いされてた、
そんなどうしようもないオレっていう人間だけのために、ゼシカは気持ちを捧げてくれた――
それだけで、オレは身悶えするほど幸せだったんだよ。
子供みたいに声を思いっきり上げて、泣きたいぐらいだったさ。
誰かの代わりとか、誰でもいいんだけどとりあえずオレ、っていうんじゃなく、
ククールっていう一人の人間をゼシカは受け止めてくれた――。
オレはやっと生きる喜びっていうやつがやっと解ったような気がしたんだ。
人間は、決して一人で生きていけるもんじゃない。
誰かに迷惑かけたり、かけられたりしながら、 お互いの心を理解していく――
それが「生きる」っていうことじゃないかなぁ……ってさ。
オレはゼシカを見るたびにいつも「かわいいなぁ」「体つきもたまんねーよなぁ」
「今日はキス出来るかなぁ」とか、 くだらないことばっかり考えてるのにさ、
胸に手を当ててもらっただけで、100万回キスする以上の喜びを感じることが出来たんだよ。
そんな気持ち、あんたは感じたことがあるか?
あんたはまだ……人を愛することを知らない。
そうだろ?
あんたが聖堂騎士団の連中なんかに捧げる優しさは……その人間を愛そうとか
助けたいって心から思うような、本当の愛情や慈悲じゃない。
自分と同じ境遇の人間を慰めることで、自分を慰めようとしてるだけだ。
初めてオレが修道院に来た時も、あんたはみなしごになったオレを見て……
自分の小さい時を思い出してたんだと思う。
それでオレに優しくしてくれたんだよな?
でもさ、オレは……そんな優しさでもよかったんだよ。
傷を舐めあうだけの愛情でも、全然構わなかったんだ。
どんな優しさでもいいから、自分を包んでくれる存在がいる……って思えたあの瞬間、
ガキだったオレは、あんたを一生忘れないと心に誓ったんだから――。
オレは――あんたが人間としての本当の心を取り戻すまで、絶対に死なせはしないさ。
どんな手を使っても、な。
あんたがどんなに生きる苦しみを抱いても、ひとりぼっちになろうとも、あんたは生き続けるんだ。
だからオレは、あんたを助けたんだよ。
オレのこういう思いを、あんたは自分に対する仕返しだと思うんだろうな。
でも……違うんだよ。
――オレはあんたとちゃんと話がしたい。それだけなんだよ、兄貴。
オレはゆっくり目を開けた。
そしてあいつの指輪を、自分の指にはめようとした。
でも……止めたんだ。
やっぱりオレのものじゃないっていう感じが強くってさ……。
オレは指輪を、来ていた上着の内ポケットにしまい込んだ。
これでも装備してることにはなる……よな?
暗黒神との戦いが終わり、この旅も終わったら、この指輪をあいつへ返しに行こう。
そして……ちゃんと伝えるんだ。
――あんたはひとりぼっちじゃない……って。
あいつ――マルチェロが、法皇様の死に関わりを持ってる。
そしてあの杖は、あいつの手に渡ったに違いない……ってな。
――それはどうやらオレだけじゃなく、みんなそう考えていたみたいだけどさ。
やっとのことで地下牢獄を抜け出して、久しぶりに外の光を浴びた時、
太陽が眩しくって仕方なかったよ。
まるでマヌーサにかかったみたいにさ、目を開けることに必死にならなきゃいけないくらいだったな。
その上……みんな酷く疲れていた。
そりゃそうだよな、あんな暗くて薄汚い地下牢獄に一ヶ月だぜ?
化け物でもない限り、あんなところに一ヶ月もいたらヘトヘトになっちまうよ。
しかもみんな、ニノ大司教のことが心配だったんだ……。
オレはこれまでニノ大司教みたいな、表面だけの聖職者みたいなヤツは大嫌いだったんだけど、何だかんだ言っても、あれだけ法皇様を思う気持ちがあるってことは、大したモンだと思ったよ。
それでもさ、力を振り絞って聖地ゴルドへ向かったんだ。
マルチェロを探し出すために。
ヤツは、ゴルドにある大講堂にいたんだ。――新法王として演説するために、な。
しかも手には……あの杖を持っていやがった。
ゼシカが言ってたよな、「あの杖は、人の心の隙間に入り込む」って……。
マルチェロも何やってんだ。
らしくねぇよ、あいつが心に隙を作るなんてさ……。
――自分は身分も低く、不貞の子であり、そういう人間は教会から虐げられていること。
教会にいる人間たちの無能っぷり。死んだ法皇様は単に君臨するだけの役立たずに過ぎなかったこと――
あいつの演説は、自分の中に溜まった長年の恨みや憎しみを全て解き放っているかのようだった。
全ての言葉が、聞いてる人を傷つけんばかりに、鋭く突き刺さるような感じだった。
そんなマルチェロを見ていたら、オレはあいつが拷問しているのを初めて見た時のことを思い出していた。
……修道院に入って二年ぐらい経った頃だと思う。
その日、オレは地下牢の宿直当番に当たってたんだ。
地下牢にある拷問室で、聖堂騎士団から抜けようとした男を、
あいつは殺さんばかりに鞭や棍棒で叩いていた。
しかも、あいつは心底嬉しそうに笑いながら、拷問をひたすら続けていたんだ……。
その時……オレは感じたんだ。
マルチェロは、恨みや憎しみっていう感情だけを支えにして、これまで生きて来たんじゃないか……って。
だから、その時から納得はしてたんだよ、オレは。
マルチェロにとって、オヤジやオレへの憎しみが生きる力の源なんだってことぐらいは、さ。
オヤジがあいつやあいつの母親にに対してやってきたことを全く知らなかったオレにとっちゃあ、
理不尽この上ないことではあったけどな。
オレが遠い壇上にいるマルチェロをじっと見ていたら、隣にいたゼシカが心配そうな顔をして、
オレの顔を覗き込んできた。
「……大丈夫?」
「……何てことないさ」
オレは肩をすくめてそう答えた。するとゼシカはオレの手を握ってきた。
「バカね……そんなこと言うなんて、無理してる証拠よ!
『バカ兄貴!そこから降りてこい!!』ってぐらいは言わなきゃ!」
そう言って、ゼシカは笑った。前にいたエイトやヤンガスも、つられて笑みを漏らしている。
オレもそんなみんなを見て、思わず苦笑いする。
何だろうね、この感じ……。
連帯感……って言うんだっけ?
オレはひとりぼっちじゃないんだなぁ……って、ちょっと嬉しくなったよ。
ゼシカは繋いだ手を握り直し、マルチェロを見据えながら言った。
「私、争いごととか戦うことってそんなに好きじゃないけど……
戦わなかったら、前に進めないこともあるのよね……」
「……そうだな」
オレもゼシカの手を握り返した。
そして、空いている方の手をそっと自分の胸に当てた。
その後すぐにあいつと戦うことになったんだけど――戦ってる時は我ながら、意外と冷静だったな。
もっと嫌な思いを抱えて戦うのかな……って思ったんだど、
とにかくあいつからあの杖を手放せたい一心で戦ってたからさ。
ゴルドが崩壊した後にあいつを助けた時も、思わず手が出ただけなんだよ。
あいつに話したことも……前々から言ってやろうとか考えてたわけじゃなく、
素直に口からスラスラ出てきたんだ。
あいつにオレが思っていることをあんなにも直接的に伝えたのって、初めてだったんじゃないかな……。
その日――オレたちは赤く染まった空の中を神鳥の魂に導かれて、ゴルドから海辺の教会へ移動した。
そこで一泊させてもらうことにしたんだ。
夜になり、みんなが寝静まった頃、オレはベッドの上に寝転びながら
月光だけを明かりにして、 マルチェロから渡された聖堂騎士団長の指輪を手に取って見ていた。
そして、静かに目を閉じてみた。
――なぁ兄貴、あんたには解るか?
煉獄島の地下牢獄で、ゼシカがオレの傷ついた心を治すために……って祈ってくれた時、
オレは本当にこのまま死んでもいいって思ったぐらい、幸せだったんだぜ?
あんたに虫ケラ扱いされ、修道院の連中からは「汚れたもの」扱いされてた、
そんなどうしようもないオレっていう人間だけのために、ゼシカは気持ちを捧げてくれた――
それだけで、オレは身悶えするほど幸せだったんだよ。
子供みたいに声を思いっきり上げて、泣きたいぐらいだったさ。
誰かの代わりとか、誰でもいいんだけどとりあえずオレ、っていうんじゃなく、
ククールっていう一人の人間をゼシカは受け止めてくれた――。
オレはやっと生きる喜びっていうやつがやっと解ったような気がしたんだ。
人間は、決して一人で生きていけるもんじゃない。
誰かに迷惑かけたり、かけられたりしながら、 お互いの心を理解していく――
それが「生きる」っていうことじゃないかなぁ……ってさ。
オレはゼシカを見るたびにいつも「かわいいなぁ」「体つきもたまんねーよなぁ」
「今日はキス出来るかなぁ」とか、 くだらないことばっかり考えてるのにさ、
胸に手を当ててもらっただけで、100万回キスする以上の喜びを感じることが出来たんだよ。
そんな気持ち、あんたは感じたことがあるか?
あんたはまだ……人を愛することを知らない。
そうだろ?
あんたが聖堂騎士団の連中なんかに捧げる優しさは……その人間を愛そうとか
助けたいって心から思うような、本当の愛情や慈悲じゃない。
自分と同じ境遇の人間を慰めることで、自分を慰めようとしてるだけだ。
初めてオレが修道院に来た時も、あんたはみなしごになったオレを見て……
自分の小さい時を思い出してたんだと思う。
それでオレに優しくしてくれたんだよな?
でもさ、オレは……そんな優しさでもよかったんだよ。
傷を舐めあうだけの愛情でも、全然構わなかったんだ。
どんな優しさでもいいから、自分を包んでくれる存在がいる……って思えたあの瞬間、
ガキだったオレは、あんたを一生忘れないと心に誓ったんだから――。
オレは――あんたが人間としての本当の心を取り戻すまで、絶対に死なせはしないさ。
どんな手を使っても、な。
あんたがどんなに生きる苦しみを抱いても、ひとりぼっちになろうとも、あんたは生き続けるんだ。
だからオレは、あんたを助けたんだよ。
オレのこういう思いを、あんたは自分に対する仕返しだと思うんだろうな。
でも……違うんだよ。
――オレはあんたとちゃんと話がしたい。それだけなんだよ、兄貴。
オレはゆっくり目を開けた。
そしてあいつの指輪を、自分の指にはめようとした。
でも……止めたんだ。
やっぱりオレのものじゃないっていう感じが強くってさ……。
オレは指輪を、来ていた上着の内ポケットにしまい込んだ。
これでも装備してることにはなる……よな?
暗黒神との戦いが終わり、この旅も終わったら、この指輪をあいつへ返しに行こう。
そして……ちゃんと伝えるんだ。
――あんたはひとりぼっちじゃない……って。