午前6時に鳴り出した目覚ましのアラームを反射的に止め、ふと我に帰る。
その日は、矢田翠が東京という土地に踏み入れて初めての休日であった。
寮という名の某高級ホテルの一室で、ぼんやりと振り返る。
故郷から離れここ数日、あちこち飛び回っていた。巫女の大先輩にあたる昭下思依に様々な場所を案内された。
事務所、レッスンスタジオ、ライブ会場……どこも画面の中でしか見たことのない場所が目前に広がっている現実を未だ受け入れられずにいる。
ぼんやりとした頭でスケジュールアプリを開き本日の予定を確認する。
寮という名の某高級ホテルの一室で、ぼんやりと振り返る。
故郷から離れここ数日、あちこち飛び回っていた。巫女の大先輩にあたる昭下思依に様々な場所を案内された。
事務所、レッスンスタジオ、ライブ会場……どこも画面の中でしか見たことのない場所が目前に広がっている現実を未だ受け入れられずにいる。
ぼんやりとした頭でスケジュールアプリを開き本日の予定を確認する。
(そっか。今日は、おやすみ……)
そう身体が理解するとズッシリとした疲労感がのしかかった。慣れない場所でずっと緊張していた反動だろうか。
「なに、すればいいんだろ……」
ポツリと呟いた言葉はベッドの中に沈んでいった。
上京前は東京観光を楽しみにしていたハズだ。実家の自室には、ガイドブックが数冊置いてある。
上京前は東京観光を楽しみにしていたハズだ。実家の自室には、ガイドブックが数冊置いてある。
神装巫女として東京に招かれた。これからがんばろうと思った。
実際に活躍している巫女に会い、レッスンを見学した際、強く実感した。
巫女となったと言えど、実力があまりにも足りない。足りなすぎる物をどこから補えば良いのだろうか。
実際に活躍している巫女に会い、レッスンを見学した際、強く実感した。
巫女となったと言えど、実力があまりにも足りない。足りなすぎる物をどこから補えば良いのだろうか。
中途半端に覚醒した身体をどうしようかとベッドの上でもがく。
目覚ましを完全に停止していなかったらしく、またアラームが鳴り出した。ロック画面には満面笑顔を浮かべる少女。
目覚ましを完全に停止していなかったらしく、またアラームが鳴り出した。ロック画面には満面笑顔を浮かべる少女。
「……っ!!陽菜さん!!」
翠がアラームに設定している曲は『Wake up!ーRisingー』カミガカリのリーダーであり所謂翠の推し、照咲陽菜のソロ曲。爽やかながらも力強いメロディと、段々と盛り上がるイントロが飛び起きるのにちょうど良いのだ。
「思い出した。私には、ずっとやりたかったことがある…!」
勇ましくベッドから飛び起き顔を洗う。ずっとやりたかったこと。それは──────。
「お待たせ致しましたー。『陽菜のハナマルっ☀️パンケーキ』でーす」
「あ、ありがとうございます」
「あ、ありがとうございます」
都内で開催されているカミガカリコラボカフェ。訪れるのが念願の夢であった。
差し出されたパンケーキには、切り分けられたオレンジの実と粉砂糖が塗されてある。
翠は喜びを抑えきれぬように陽菜のアクリルスタンドとパンケーキの写真を撮った。
差し出されたパンケーキには、切り分けられたオレンジの実と粉砂糖が塗されてある。
翠は喜びを抑えきれぬように陽菜のアクリルスタンドとパンケーキの写真を撮った。
このカフェではウェイトレスモチーフの衣装を着たメンバーの等身大パネルに、ライブ中の写真。中央に設置されたテレビにはライブ映像が流れている。
カミガカリ一色の空間。なんとも夢心地のひと時であった。
カミガカリ一色の空間。なんとも夢心地のひと時であった。
味もしっかりと堪能し限定グッズを購入した後、次の目的地も思い付かず寮へ向かう途中に声をかけられた。
「あれぇ?おとといしぃこと一緒にいた人だ」
「たしか、カラスの人!」
「たしか、カラスの人!」
髪の色、型が違えど顔が同じ二人組に囲まれ翠は驚きを隠せないまま挨拶をする。
「……矢田、翠です。お疲れさまです。狛乃さんたち」
「「こまの⭐︎ついんずですっ」」
「「こまの⭐︎ついんずですっ」」
一糸乱れず息ぴったりの動きに翠は思わず拍手した。
美愛、美羽の二人は双子の姉妹であり動画サイトで小中学生に人気の配信者。そして狛犬の神装巫女である。
つまりは年下であれど翠の先輩であった。
つまりは年下であれど翠の先輩であった。
「みどりん1人?」
「みどりんは何してたのぉ?」
「少し散歩を……あれ?……『みどりん』って私のこと??」
「みどりんは何してたのぉ?」
「少し散歩を……あれ?……『みどりん』って私のこと??」
翠は【みどりん】が自らに付けられたあだ名だと言う事に理解するのに少々時間がかかった。
「あ!ひななのグッズだ!」
「みどりん、ひなな推し?」
「みどりん、ひなな推し?」
【ひなな】とは照咲陽菜のあだ名の一つである。翠の所持品のバックに付いていた陽菜のマスコットを双子は見つけたのだ。
「みあたち暇すぎてパパの所行こうと思ってたの!」
「みう、みどりんとお話したーい!」
「みう、みどりんとお話したーい!」
双子に連れて行かれ、翠たちは公園へ向かった。
「「どうしてひなな推しになったの?」」
「んーと……初めて陽菜さんをみたのはテレビのニュースで……」
「んーと……初めて陽菜さんをみたのはテレビのニュースで……」
『天照大神の巫女、新たに就任』そうニュースで見たのが初めてだったと翠は語る。記者会見にて堂々と答える63代目に緊張した顔の陽奈。
「最初は、同い年で隣県の子が天照大神の巫女かぁ。すごいなぁ。という感じで見ていました」
記者会見を見たコメンテーターも難しい顔で何か批評を述べていた気がする。日ノ本家以外の巫女だと矜持がどうこう言っていたが、現在ではもうこの国を代表する巫女になっている。
「アリーナのライブ、中継で見ていたんですが……その時の笑顔が眩しくて。力強い歌声が私の背中を押してくれるみたいで……」
その時歌った『Wake up!ーRisingー』。
そのパフォーマンスを見た途端、翠は彼女に惹かれていた。
そのパフォーマンスを見た途端、翠は彼女に惹かれていた。
矢田翠におけるこれまでの人生は極めて平凡と言っても過言ではなく、サラリーマンの父、商業施設でパートをしている母の元で育った。大きな夢やなりたい職業も無く自身もこれからもずっと平凡な人生を送る物だと思っていた。そんな翠に突如現れた一筋の光のような存在。少々後ろ向きだった翠の心を前に任せてくれたのだ。
「「それ、すっごい分かる〜!!!」」
口々にはしゃぐ双子に対応が遅れていたら、美愛は信じられないことを口にした。
「明日、カミガカリに挨拶しにいくんでしょ?ひななにその事言っちゃおうよ〜!!」
「そうですね…ん?えっ?」
「あれ?聞いてないの?しぃこ親切じゃないねー」
「そうですね…ん?えっ?」
「あれ?聞いてないの?しぃこ親切じゃないねー」
翠の顔を覗き込んだ美羽。
「それって……はっ……ひっ……ひ、陽奈さんと直接会うって……こと!?」
えええ〜〜〜〜!!!???と絶叫しそのままフリーズしてしまった翠に慌てる双子。
次の日。陽菜と対面した翠は緊張で石のように固まり陽菜と会話が上手くできなかったのは別の話。
おまけ
「前々から気になっていたのですが…
何故昭下さんの事は『しぃこ』なのでしょうか?」
「それはねー。てる し ぃ た こ とえだからだよー」
「パイセン呼びしてたらママのお兄ちゃんに怒られたの」
「前々から気になっていたのですが…
何故昭下さんの事は『しぃこ』なのでしょうか?」
「それはねー。てる し ぃ た こ とえだからだよー」
「パイセン呼びしてたらママのお兄ちゃんに怒られたの」
「成る程…?」