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  • 敷島 心華の覚醒

神薙の巫女と堕ちし龍Wiki

敷島 心華の覚醒

最終更新:2025年08月24日 21:52

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 そこには、どこからともなく現れてはいくつもの国や都市を滅ぼし、人類が生み出してきた数々の強力な兵器をものともせずに殺戮の限りを尽くす、龍と呼ばれる存在がいた。
 二〇二三年二月、人類はその暴威に曝され、生活圏の大幅な縮小を余儀なくされていた。しかし一方で、そんな龍を相手取ってなお怯むことなく立ち向かい、その身に降ろした神の奇蹟を振るって龍を鎮め、追い払い、人類の絶滅を寸でのところで食い止める巫女の人気はそれに反比例するかのようにうなぎ登りだった。
 主として素質ある若い女性のみがなれるとされる巫女は、降ろす神への信仰を集め龍に対抗する力をつけるための手段として、歌や踊りといった芸能活動を披露することが常であり、救国の英雄としてだけでなく、広く名の知れたアイドルとしての側面をも兼ね備えていた。
 そういった経緯もあって、巫女は自然と全国の少女の憧れの的となっていき、小学生女児を対象にした将来の夢ランキングでは、創設以降常に圧倒的首位を独走していた。世の少女はこぞって歌や踊りを練習し、身体を鍛えた。その熱狂ぶりたるや、存在が公表されている様々な龍を収載した図鑑などをどれほど読み込み、知識を蓄えているかがある種のステータスにまでなっていたほどであった。



 そんな巫女の黄金時代に生まれ育った倭健命の新米巫女、敷島 心華は、彼女がまだ人並みに巫女への憧れを抱く普通の中学一年生だったその当時、部活動の帰り際に日課の熱田神宮参拝を済ませて、家までの道を軽くランニングしていたところだった。
 しばらく待っていた信号が青に変わろうとしたその時、突然、閑静な熱田の住宅街に不気味なサイレンの音が鳴り響いた。世界共通の規格に沿った、どことなく本能的な不安を煽るようなその音は、龍の出現が確認された際に、一般人の迅速な避難を促す「龍警報」と呼ばれるもののそれだった。
 人類が生活圏を築けている時点で当然ながら、熱田に龍は棲まない。とすると、今回は「彷徨型」の個体が現界したといえよう。彷徨型は基本的に一度に一体ずつしか具現せず、さらに時間が経てば姿を消すため、現界したまま一箇所に留まる「定住型」と呼ばれる個体群の大移動よりも一度の被害は軽いが、その分出現頻度は高く、出現する時期や場所の予測も難しいことで知られる。人類の生活圏にも平気で現れるため、一般的な龍の被害といえばまずこの彷徨型によるものであった。

「まずい、龍警報が……! 龍が来る前に早く対龍シェルターに避難しないと……」

 思わず背筋を強張らせた心華は、家々から息せき切って飛び出してきた人たちとぶつからないようにうまくやり過ごしながら、逃げる経路を決めるために龍が出現した場所の手がかりを得ようと、彼らと一緒になって辺りを見回した。しかし、彼女の瞳に暗い影を投げかけた、ゆるやかに下りながら最寄りの対龍シェルターへ続く大通りの先から立ち昇る火柱と土煙は、龍が彼女と対龍シェルターの間を塞ぐように出現したことをはっきりと物語っていた。やや遅れて届いた爆発音からすると、双方の距離はまだ五百メートル以上あるようだが、地上付近の土煙が心華たちのいる方向に向かって少しずつ突出してきていることを鑑みるに、状況は決して明るいとはいえなかった。

「龍がこっちに向かって来てる……。あの辺りは何もないただの住宅地だし、爆発は龍の仕業か。となると、ええと、爆発だから…………アンフィバイオス、極大オルグレイア、多分ないけどモーニングコール、あとはニトロパンク、ってとこか……。Cランクでももちろん嫌だけど、Bランクはもっと来てほしくないなあ……」

 アンフィバイオスは全長二十メートル弱と大型の龍で、山椒魚などの両生類を彷彿とさせるような幅広で扁平な頭部とあでやかな瑠璃色の光沢を放つ鱗が特徴だ。また、一度放つとその後二十分は灼けた喉の再生と劫炎液の再分泌に費やさねばならないものの、その分口から吐く高温の劫炎液弾は大地を揺るがす爆発を起こす。肉弾戦闘を比較的苦手とするが、それを補ってなお余りある劫炎液弾の威力と、巫女に対して積極的に吸霊を行おうとする性質から、危険度はCランクに位置づけられている。
 オルグレイアはかなり全長の長い地中生の龍で、通常の個体で三十メートルに迫り、飛行能力こそ持たないが、翼の生えた蛇のような姿で知られている。本来ならば、オルグレイアは狡猾ではあれどDランクの龍で、口から迸る熱線もあれほどの強力な爆発は起こさないはずだ。しかし、オルグレイアの中には時として全長四十メートルを超えようかという極大個体が現れることがある。そのような極大個体は通常個体より一ランク上のCランクの中でも上位に数えられており、脱皮による疑似分身能力を持つ上、熱線も通常個体のそれとは桁違いともいわれる大爆発を生み出す。今回の爆発がオルグレイアの起こしたものだとすれば、それは極大個体のものだろう。
 そして、モーニングコールはほぼ鶏そのままの姿をした龍であり、爆発する卵を産む。約四メートルと小柄な体躯ながら、強靭な身体能力に裏打ちされた蹴撃やついばみの威力は侮り難い。心華が挙げた四種の内では最も与し易いが、残念ながら流石にモーニングコールにしては爆発の規模が大きすぎる。
 また、ニトロパンクは、全身を鉱石のような質感の爆発する鱗で包んだ蜥蜴のようなシルエットの龍だ。細身な上、全長も十三メートルほどと、驚異的というほどには大きくもないが、高威力の爆発を連続して起こす力やそれに耐えうる頑強な表皮、また自身の繰り出す爆発を衝撃の相殺などに有効活用する知能の高さなどから、危険度はBランクに設定され、一段と危険視されている。

「でも、どれも飛べないのがせめてもの救いか、そんなに動かないだろうから」

 龍に関連した情報なら専用のデータベースから機密情報でさえ手に入れることができる巫女であればいざ知らず、龍の図鑑に収載されているこのレベルの知識がすべての一般人としては十二分に完璧な理由と共に可能性を瞬時に絞った心華は、少しの間悩んだ末に左手に針路をとって、各自が思い思いの方面に避難したことである程度疎らになった人波の中、対龍シェルターまで龍を避けるように大きく迂回して行くことにした。いかに対龍シェルターの中が安全だとはいえ、そのために龍のいる方向にまっすぐ向かっていくのは自殺行為もいいところだった。

 これが後の彼女にとって最善の選択であったのか、はたまた最悪の選択となるのか、それは未だにわからない。ただ、一つ確たるものがあるとすればそれは、彼女が向かった方向に龍もまた同じように歩みを進めたというその偶然にも思える必然こそが、その後の彼女の人生に大きな、そしてこれ以上ない変化をもたらしたということだった。



 定時を過ぎたとはいえ、まだ人気の少ない時間帯。絶対的な窮地を前にして、生存数を可能な限り増やそうという種の保全本能が働きでもしたのか、心華と同じ方向に逃げていたはずの人たちは一人また一人と姿を消してゆき、気づけば辺りには彼女だけとなっていた。

「やだ、龍が近づいてきてる……。どうしよう……。いや、龍だって何も街を更地にするために暴れてるわけじゃないんだから、体力の浪費を避けるために、できるだけ道幅の広い所を通ろうとするよね。だとしたら、こっちは目立たない……はず」

 対龍シェルターまでの道程も残すところあと少しとなったところで、徐々に大きくなり腹の底から響いてくるようになった重厚な足音に戦慄した心華は、取り敢えず暴れているのが脚を持たず、比較的静かに行動するオルグレイアではなさそうなこと、そして身軽なニトロパンクよりは大柄なアンフィバイオスである可能性が高いことを理解した。そして龍はまだ大通り付近にいると判断し、若干息を切らしながらも、龍に見つかることを恐れ、視界が狭く彼女からも龍の位置を確認しえない路地に敢えて足を踏み入れた。左右から身を乗り出す家々の間を猫のごとき素早い身のこなしでかいくぐった心華は、愚直に大通りを通るより十数秒早く対龍シェルターに程近い市民公園に駆け込み、しばしの間膝に手をついて呼吸を整えた。

 そして顔を上げ、まさにその市民公園に瑠璃色の巨体を引きずり込まんとしている龍、アンフィバイオスの瞳孔のない瞳と視線を交錯させた。

 全長、目算二十メートル。まず間違いなく最大級の個体であった。

「ぁ……」

 心華の声が掠れた。胸が凍りつき、踏み出しかけていた足が止まった。
 冷たいそよ風が彼女の頬を一撫でした。

 立ち尽くす彼女の姿を認めたアンフィバイオスは、まるで試すかのように、否、至上の獲物を前に敢えて勿体ぶるかのように、ゆっくりと時間をかけて彼女の方へ向き直った。
 刹那か永遠か、それすらも曖昧な逡巡の末、茜色の雲が途切れ途切れに覆う空に突如として雷鳴が轟いたかとも錯覚させる低い唸り声が大気を揺るがし、まるで大樹の幹のように太く筋肉質な尾が公園の砂地を二、三度強く打ち付け、砂地に大きな亀裂を入れた。図鑑から得た知識だけではその意味するところは判然としなかったが、アンフィバイオスは誰がどこからどう見ても心華を威嚇していた。
 そして、威嚇しても一向に立ち去らない彼女に業を煮やしたか、ついにアンフィバイオスが脚を前に踏み出した。

 一歩目はゆっくりと。

 しかし、二歩目はより速く。

 三歩目はさらに速く。

 辛うじて正気を保っていた心華の理性は必死に警鐘を鳴らしたが、恐怖、あるいはややもすれば幾ばくかの憧憬をも孕んで大きく見開かれたその瞳には、ものの数秒で最高速に達し、姿勢を低くして彼女を一呑みにせんと大口を開いて迫りくる瑠璃色の影が大写しになっていた。



 それは突然のことだった。心華へ向けて突進してくるアンフィバイオスの左手側へ続く道の先から、彼女の動体視力では捉えるのがやっとの速度で、黒みがかった大きな物体が二、三飛来してきた。不揃いな紡錘形、あるいは凸凹した楕円体とでも言うべき形状のそれらは、鈍い破砕音を立ててアンフィバイオスの横腹に次々と勢いよく突き刺さった。
 迫るアンフィバイオスの巨躯が押されて大きく傾ぎ、その勢いのまま跳ね上がって、重々しい轟音と共に完全にひっくり返った。その巨体に比すれば短い四肢をばたつかせるも起き上がることができず、びっしりと生え揃った背の鱗を地に擦りつけて土煙を上げながら為す術なく滑るアンフィバイオスのすぐ横で呆然と尻餅をついていた心華は、しかし直後に続いた名乗り口上ではっと我に返った。

「汝の働けるその狼藉、我が霊羽の純白と漆黒の交わらぬ内は、決して看過されるべきものではございません!」

 よく通る美しい声であった。心華はその声の主と直接会ったことはなかったが、それでもその声はテレビの音楽番組や動画などで幾度となく耳にしたことがあった。彼女は、日本神話の神々を降ろす巫女たちによって構成される国内最大手のユニット「カミガカリ」に所属する巫女だった。神産みによって伊邪那岐命と伊邪那美命の間に生じた古き樹の神、久久能智神を降ろす彼女の名は――

「――枯已哉 葛さん!」

「ええ、遅くなって申し訳ありません。何とか間に合ったようですね。お怪我はありませんか?」

 殆ど自由落下に等しい速度で降下していながら、足音一つ、砂埃の一つさえ立てることなくアンフィバイオスと心華との間に立ち塞がるようにすっと着地してみせた葛は、横たわって藻掻くアンフィバイオスに向かって右手に持った長杖を構えた。先刻はこの世の覇者たる堕ちし龍の気にあてられて半ば麻痺しかかっていた心華の瞳には、今は鸛の両翼を模した一対の羽衣に縁取られた頼もしげな背中が揺るぎなく写っていた。
 彼女が声を潜めて素早く二言三言呟くと、アンフィバイオスの周囲の砂地が少し隆起し、瞬く間に幾本もの木の根らしきものが地面を割り砕いて生えてきた。それらは蛇のようにするりとアンフィバイオスの全身に絡みつき、みるみるうちににその身体を雁字搦めに拘束した。

「これでひとまずの応急処置は大丈夫ですが、あの程度の拘束では、アンフィバイオスは鱗の隙間から滑液を分泌してじきに抜け出すでしょう。討伐か鎮静か、ともかく可能な限り早く何とかしようと思いますので、少し離れていてくださいね」

 蔓性植物の成長を逆回しに見ているかのような具合で、固い螺旋を解いた長杖を掌に吸い込ませるようにして収納した彼女は、そのまま心華のもとに歩み寄ると、現役巫女の戦闘を間近で見られる僥倖に瞳を輝かせながらも、腰を抜かして未だ立ち上がれずにいた彼女を助け起こし、その手を引いて少し離れた木立へと連れて行った。薄暗い木陰に入ると、二人は身を隠すのに適した一叢の茂みを見つけた。

「ここなら流れ弾もないでしょう。知っての通り、劫炎液弾を吐いてからさほど経っていない今のアンフィバイオスには遠距離への攻撃手段がありませんから」

 その後ろに身を落ち着けた心華に、葛はしゃがんで目線を合わせ、親しみを感じさせる柔らかな声音で問いかけた。

「大丈夫でしたか? 怖かったでしょう。もう少し待っていてくださいね。差し当たっては、お名前を教えて頂けると幸いです」

 世界的巫女ユニット、天下のカミガカリの一員である枯已哉 葛本人が目の前で自身に語りかけている実感が今になってようやく湧いてきた心華は、予想だにしなかった大物を前に、俄に緊張してきた。

「は、はい! えと、わたしの名前は敷島 心華です。こういう字を書きます」

 上ずった声で通っている中学校の生徒証を鞄から慌てて引っ張り出し、葛に見せた彼女は、ふと彼女の生徒証の上に落とされた葛の瞳に視線が吸い寄せられた。大粒の紅榴石のように煌めく淡い紅色の虹彩は、心華がこれまで見たどんな宝石よりも美しく感じられた。

「ありがとうございます、心華さんですね。では、直に正規の巫女部隊が到着するかと思われますので、まず彼女たちに一報を入れさせていただいてもよろしいでしょうか? 私は依頼があって派遣されたわけではなく、ここには旧友を訪ねて通りがかっただけなんですよ」

 葛は視線を上げ、生徒証を心華に返した。彼女を僅かに見上げる紅榴石のような美しい眼は、やはり心華の視線を捉えて離さなかった。

「あ、はい、大丈夫です。お願いします」

 名残惜しそうに目を逸らした心華の声を聞き届け、葛が一つ大きく頷いて立ち上がると、軽く前方に伸ばされた彼女の右掌に瞳と同じ淡い紅色の仄かな燐光が宿り、そこから節くれ立った黒褐色の蔓が上方と下方のそれぞれに三重の緩い螺旋を描くように勢いよく伸びていった。蔓たちは上下におよそ一メートルずつ伸びたところでその動きを止め、ぎちりという音と共に固く締まった。そしてその下部が鋭く尖って刃を形成し、見慣れた枯已哉 葛の長杖の姿をなした。

「ふぅ……『鵠告ぐらむ 真木の言の葉』」

 先刻より僅かに青黒く染まり始めた西の空に向けて長杖を翳した葛の詠唱に呼応して、三叉に分かれ琥珀の冠玉を戴いた杖先が、先程と同じ色の燐光をより強く発し出した。
 この静謐なる光こそ、彼女の巫力の発露だった。救世の龍狩りたる巫女がその身に神を降ろす時、全身を走る巫脈に流れる膨大かつ清浄な巫力は、彼女の装束を神の振るう権能に合わせて再編し、またその身を包んで不可視・不可侵の鎧ともなるが、その際に現出する巫力の十人十色・百神百色・千巫千色の色彩が、虹彩の奥の微細な巫脈を透いて瞳に乗るのだった。

 待つこと須臾にして、どこかそう遠くない空から、唐突に柔らかな羽音が響いてきた。羽音の主を迎えるように木立の外に出た葛のすぐ前に、従順げな様子で静かに舞い降りた黒白の影は、彼女の地元で霊鳥として尊ばれている一羽の鸛であった。頸からは縦長の鞄を提げていた。
 労うように鸛を何度か撫でた葛が、先程とは違い薄緑色の、今度は魔力による無数の光点を杖先に宿した長杖を振るうと、その蛍のような光粒子の軌跡に沿って二枚の薄桃色の紙が冠玉から吐き出された。これらは名を魔力感応紙と言い、魔力による印字を可能とする紙であった。物理的かつ化学的に分解されにくく、魔力さえ扱えれば男性であろうと問題なく使用でき、また一度書いた文字は魔術的に固定されるため容易には消せないという性質から、重要な書面や契約書等に広く用いられていた。
 葛は魔力の光点を纏わせた指を紙上に滑らせ、すぐに二通の書面を完成させた。彼女はそれらを静かに佇んで待ち続けていた鸛の鞄に入れながら、軽く指示を飛ばした。

「しばらくこの公園の上空を旋回し、もしここに近づいて入ってしまいそうな一般の方がいましたら、不用意に近づかないようにこちらの紙を見せて引き返させてください。依頼により派遣された巫女部隊を発見しましたらこちらを見せてくださいね。頼みましたよ」

 鸛は了解の意を示すかのように嘴を打ち合わせてクラッタリングを行うと、大きな翼を目一杯広げて力強く羽ばたき飛び上がった。

「――と、時間切れのようですね」

 鸛が大きな弧を描いて右方へと曲がり、その姿が梢の陰に隠れて見えなくなるが早いか、分泌した滑液で全身をてらてらと煌めかせながら、絡みつく木の根の間を縫って拘束から這い出てきたアンフィバイオスを横目で見ながら、葛は微笑んだ。

「では、一仕事して参ります」

 その言葉と共に右足を半歩後ろに引いて、心華に向かって優雅に一礼するや否や、素早くアンフィバイオスへと向き直った彼女が、そちらへ駆けながら手に持つ長杖を地面に突き立て、下へ向けて強く押し込むと、彼女の身体は走る勢いを上方へ転化し、軽やかに空中へと躍り上がった。

 枯已哉 葛の戦闘を形容する者は、決まって「華麗」の二字を使った。その言葉が示す通りに、空中で水平方向に巫弾を放ち、その反動を利用して反対側に身を翻しアンフィバイオスに接近してからの彼女の戦闘は、華美にして流麗、洗練された根源的な品格を備えていた。長杖を物体に突き立て、棒高跳びのような格好の跳躍、及び巫弾の緻密な制御による即時の方向転換と移動。戦場に場違いなほど美しく映える花のような、空中という広いフィールドを縦横無尽に駆け巡っての三次元的な攻撃は本命の攻撃を隠匿する撹乱としても有効に機能し、彼女の戦術の重要な構成要素であった。
 葛が長杖による刺突と斬撃を織り交ぜた連撃を繰り出すたびに、アンフィバイオスの鱗の僅かな隙間が的確に抉られて青血が噴出し、彼女の身体は再び高さを得て高く舞い上がった。堪らずアンフィバイオスが上空を見据えると、今度は大地より出づる太枝が意識の外側を狙うようにその堅牢な甲殻を力強く叩きつけ、亀裂を入れた。

「はああぁぁぁっ!」

 そして、アンフィバイオスが強い衝撃に怯んで動きを止めたその一瞬を見逃さず、前もって開始していたはずの陣形構築を完璧なタイミングで完成させた葛が、今までにない規模で輝く巫力燐光を宿し、魔力光粒子を燃え盛る花火のように散らした杖先の冠玉から、彼女の十八番たる屠龍の魔術が一、穿孔斬光閃(通称センザンコウ)を罅割れた甲殻目掛けて猛烈な勢いで撃ち放った。
 硫黄の焔を彷彿とさせる蒼白色の極光の奔流が杖先から迸り、幾重にも連なって、砲弾のような速度で一直線にアンフィバイオスの左の肩口に突き刺さった。さらに、蒼光はその脆くなった甲殻に駄目押しの決定打を与えて完全に砕き、中の肉を広く露出させると、そこで大きく弾けて、自らの構造の内に秘めたる第二の伏陣を励起させた。
 大地に落ちた種が土の下に深く根を張るように、着弾点からごく細い光の筋が無数に枝分かれしながらアンフィバイオスの身体の中に素早く浸透していった。外部から窺い知ることの叶わない静的なこの変化は、当のアンフィバイオスにさえ意識されうるものではなかった。
 手負いの龍は魔術で滞空する葛の姿を認め、自身の覇たる龍性を貶めた存在に自らの手で引導を渡すべく、白瞳に怒りを漲らせて四肢の筋肉を撓ませた。飛び上がろうとでもしたのだろうか、しかしそれはその左肩周辺一帯を内部より貫いて前触れなく漏出した放射状の蒼白い光線によって中断を余儀なくされた。

 穿孔斬光閃は二段構えの術式を持つ魔術であった。というよりむしろ、その真の威力は初弾の着弾よりも、そこを中心として物体内に半径約二メートルの半球状に巡らされた光根の炸裂にこそ凝縮されていた。

 蒼光が一際強まるのと共に、甲高い落雷のような音が響き渡って、砕けた甲殻の周囲の瑠璃色の鱗が一斉に吹き飛び、青黒い肉の破片が心華の隠れていた茂みの側にまで飛び散った。それ自体ぴくぴくと不規則に痙攣する悍ましい肉片から思わず目を背けた彼女は、アンフィバイオスの巨躯がもんどり打って地響きを立てながら倒れ、青い血液が周囲に撒き散らされるのをちょうど目撃した。

「おおっ、凄い! 流石は葛さん!」

 彼女が思わず漏らした声が届いたのか、葛は彼女にちらりと目配せし、軽く親指を立ててみせた。

 これが通り一遍のアンフィバイオスであったならば、または葛が本来の力を発揮できていたならば、戦闘はより一方的なものとなっていただろうし、今の一撃で決着もついていただろう。しかし、往々にして非情な現実は、今回もその両方を否定していた。
 葛が鎮龍の儀に入ろうとアンフィバイオスに向かって祝詞を唱え始めかけたそのとき、二〇一八年にフィリピンにて初めて出現した際に数多の屈強な巫女を退けて猛威を振るい、それ以来《叛牙》の二つ名で恐れられていた歴戦のアンフィバイオスは、中空に佇む黒白の影を見据えながら、ゆっくりとその身を起こした。その深く裂けた大口の奥に、煌々と揺らめく橙赤色の烈火を滾らせて。

「っと、これも耐えるのですか、随分しぶといですね」

 巫女を確実に撃滅する最大火力という意味では、劫炎液弾は的確な手段であったろう。しかしながら、どんな隙をも逃さない優れた感覚の持ち主が相手では、特に空中の本人のみならず地面からの攻撃も可能とする葛のような類の巫女が相手では、上方の一点に集中しきっている今のアンフィバイオスはただの動かぬ的に過ぎなかった。
 劫炎液が下顎の射出器官に装填され、口外に発射されようとした寸前、戦闘の余波で不規則に隆起や陥没を生じて砕けた砂地の陰、アンフィバイオスの頭部の真下辺りから、一本の太い木の根が天へと突き上がり、その下顎を跳ね上げて強制的に閉ざした。根は、さらに返し刀で仰け反ったアンフィバイオスの頭部を捕まえると、間髪を入れずに地面へと叩きつけた。
 口が閉ざされたことで行き場を失った劫炎液は、そこに強い衝撃が加わったことで、それなりの広さがある市民公園を隅々まで強く振動させ、さらに頭部に素早く巻き付いて拘束を固めようとしていた追加の根が何本か焼け焦げ、千切れ飛ぶほどの爆発を起こした。

 頭部を根に覆われながら、その身体を一度びくりと大きく振るわせ、ぐったりと横たえて沈黙したアンフィバイオスに巫弾を数度当て、もう動かないと見た葛は、浮遊を解くことなく改めて鎮龍の儀を始めた。張り詰めた呼吸を安堵の感情と共に吐き出した心華は、何処とも知れない場所より現れる龍を、その何処とも知れない場所へと追い帰すための祝詞を朗々と詠み上げる葛と、傷口より青血を吹き出しながら倒れ伏すアンフィバイオスを順に見やった。

 そして、気付いた。

 絡み合う根の隙間から覗く不透明な乳白色の眼が、龍の生命活動の停止したことを示すどころか、喩えようのない程の激情を湛えて中天へと殺意を飛ばしていることに。

 彼女は息を呑んだが、もう遅かった。
 爆発によって脆化した根の拘束。龍を仕留めたと油断し、祝詞を唱えて自身に注意を向け切れない巫女。既にそれと悟られぬようにはち切れんばかりの力を四肢に込めていた歴戦にして狡猾なる叛牙の爆鯢龍は、傷つくのも厭わず、自らの死すらも装って、一度きりの理想的な機会を虎視眈々と付け狙っていたのだった。

 事態は瞬く間に転変した。溜め込まれた力が弾かれたように解き放たれ、アンフィバイオスは頭部の拘束を強引に引き千切って高く跳躍した。祝詞の詠唱に集中していた葛が反応できた頃には、空中で縦に一回転したアンフィバイオスの鞭のようにしなる強靭な尾が、彼女の眼前にまで迫っていた。

「きゃあっ!?」

 強く全身を打ち据えられた葛の身体は枯葉のように吹き飛ばされ、心華の隠れる茂みからそう遠くない辺りに叩きつけられた。
 その後を追って乱暴に着地したアンフィバイオスは、余裕を見せつけるかのように、地面に転がって動けずにいる葛のもとへゆっくりと歩み寄ると、徐ろにその巨大な顎を大きく開き、ずらりと二列に並んだ鋭い千の牙を、存外に華奢な彼女の身体にがっぷりと食い込ませた。

「しまっ……! 逃げてください! あぁっ!」

 吸霊。

 それは、龍が巫女に対して行う最もありふれた、最悪の攻撃。
 全身に張り巡らされた巫脈に沿って巫女の体内を駆ける巫力を簒奪し、巫女を巫女たらしめている絶対の神秘を剥奪する禁忌の御業。
 生命、ひいては最早神への冒涜とも言えるそれが赦されるのは、かつての神にして、天地の理をも捻じ曲げる龍のみであった。

「くっ……うう……」

 市民公園に木霊する葛の悲痛な呻き声をおいて他に、ある種の神聖さをも感じさせるこの空間を邪魔する無粋な雑音はなかった。
 彼女の身体から吸い上げられた巫力がアンフィバイオスの上顎に位置する器官の作用で龍気に変換され、その喉に勢いよく流れ込んで大いなる龍の糧となっていく様子をまざまざと見せつけられた心華は、自身までもが凌遅刑の如き拷問の責め苦を味わっているような気分になった。今や、彼女の心は一点の曇りもなき純然たる絶望に支配され尽くしていた。
 長杖を掴んだ葛の腕は、最初のうちこそ抵抗の意を存分に示して激しく暴れ動いていたが、アンフィバイオスの万力のような咬合力に締め上げられて巫力を奪われるにつれて、やがてその動きも弱々しいものとなり、ついには長杖を取り落として力なくだらりと垂れ落ちた。

 万象が動きを止めた。

 巫力を存分に吸ったアンフィバイオスが残り滓は用済みとばかりにそっと口を開き、数瞬前まで純白を謳っていた赤衣に包まれた小さな肢体が零れ落ち、地面に打ち棄てられた。
 瞳を絶望一色に染め、言の葉を発することもなくただ彫像のように茫然と突っ立っていた心華は、その無造作な音でようやく自身の時間を取り戻した。

「葛さん!?」

 悲鳴に近い金切り声が心華の口を衝いて出た。

 返事は、なかった。



 葛が携帯していた簡易巫力回復薬は先の尾の一撃で容器ごとすべて粉砕され、長杖が手元を離れたために魔術で予備を取り出すこともかなわなかった。
 なんとか外敵を排除してのけたアンフィバイオスは、左側の肩から背にかけてを大きく抉られて千切れかかった左前肢を引き摺り、随所から青い血液を滴らせた痛々しい姿から窺えるように、かなり消耗しているものの、心なしか満足したように何度か尾で軽く地面を叩くと、いよいよ倒れ伏す葛にとどめを刺そうと、肘から先だけで軽自動車にも匹敵する大きさの右前脚を静かに持ち上げた。辛うじて一命は取り留めたものの、先の吸霊で巫力を粗方奪い取られたか、巫癒さえもままならずにとくとくと流れ出る鮮血の中に臥していた彼女はついにその生を放棄した様子で、静かな吐息と共にそっと眼を閉じ、色褪せた死を受け入れんとした。

 ふと、葛の鼓膜が震えた。その振動は彼女の耳小骨を叩いて蝸牛管に伝わり、微弱な稲妻となって体内を駆け巡った。そして、彼女の脳髄にまで届いたところで、意味を持った一つの言葉として結実した。

 ――死んじゃ駄目ですっ!

 彼女は左脚を掴まれ、身体が引きずられるのを感じた。アンフィバイオスが脚を接地させた重苦しい音が聞こえ、葛は再び色彩を得た。

 先程とは対照的に、今度は心華が、反射的にアンフィバイオスと彼女との間に立ちはだかっていた。

「駄目。この人は殺させない」

 ところが、威勢のいい啖呵とは裏腹に、その足は竦み、声は震えていた。

「どう、して……私を……庇う、のですか? わかって……いる、でしょう?」

 血液を失ってか臨死の恐怖ゆえか、はたまた生命を擲ってでも自身を助けようとした少女の無謀に焦燥してか、先程より一層顔を青褪めさせた葛がぽつりとこぼした。龍の纏う濃密な龍気を貫いて傷をつけることができるのは、巫女が宿す巫力と、その大元となる神の力だけだ。それは誰もが知っていた。巫力を持たない心華では、アンフィバイオスに何をしようとも龍気に阻まれ、ほんの僅かの痛痒すら齎さないままに一方的に叩きのめされるのが目に見えていた。

 とどめを妨害されたアンフィバイオスの、焦点の定まらない白濁した視線が、しかし今、正に、確実に、無垢な獲物を射竦める激烈な憤怒をもって、心華を穿ち貫いた。

「ひぅっ……」

 それはさながら圧倒的な捕食者たる大蛇を前にして何をするにも叶わなくなる一介の蛙のような。さながら、天空を意のままに翔ける猛禽の影の下で地面に縮こまることしか許されない矮小なる小鳥のような。心華はそんな絶望の淵に叩き落とされそうになったが、その心は逆に一縷の希望を見出していた。
 このまま気圧されたままでは、自分も、葛も、命はない。しかし、自分がもしここで僅かでも時間を稼げば、ややもすると正規の巫女部隊の到着が間に合って、葛だけは助かるかもしれない。貴重な戦力である屠龍の巫女を救える望みがあるのなら、敬愛するアイドルである彼女の記憶の中にだけでも息づくことができるのなら、心華は不思議と悪い思いはしなかった。

 彼女は深呼吸すると、アンフィバイオスを正面から見据え、一歩前に踏み出した。

「……!」

 そして、覚悟を決めてなおどうしようもなく震える自らの胸の内奥深くに、暴龍の威圧にも一切動じない暖かな力の存在を感じた。
 十三年の長きにわたって、彼女に宿っていながら、魂の奥底で密かに眠り続けていた神が、彼女が生命の危機に瀕したことでついに目を覚まし、その大いなる力を彼女の体内に満ち溢れさせようとしたのだった。

 敷島 心華は、潜在巫有者であった。

 これまでは彼女の心臓の側で凝り固まり、格好の贄として龍を惹きつけることしか役目のなかった彼女の希薄な巫力が、神の具現によってその量、密度共に爆発的に増加し、網目のように強固な巫脈を啓きながら彼女の肉体の隅々にまで浸透する全く未知の感覚に、心華は思わず眼を固く閉じた。そして次に彼女が眼を開いた時、彼女の存在は人の理から半ば外れたそれへと昇華し、その瞳は緑柱石を思わせる鮮やかな淡緑色に染まっていた。
 闇を照らし祓う神秘を宿した瞳の輝きに呼応してか、本人すらも気付かない内に彼女の首にかかっていた銀鎖のロケットに嵌め込まれたビー玉大の火打石の欠片から、神性の発露たる緑白色の巫力の波濤が溢れ出し、瞬く間に彼女の全身を覆い隠した。渦を巻き、層をなした繭のようにも見えるその巫力の殻が消えるまでは、時間にして数秒もなかった。それでも、その僅かな間に巫力は彼女の制服の繊維の一本一本に染み渡ると、色、形、果ては体積さえも全く異なる巫女としての装束へとその姿を造り変えた。そして、巫力が心華の身体に吸い込まれて立ち消えるのと同時に、彼女の心に翻っていた暗澹たる恐怖の影すらも、あたかも最初から存在しなかったかのように綺麗さっぱりと払拭されてしまっていた。

 敷島 心華は、巫女となった。

 シンクロ率の低さゆえにまだ簡素な貫頭衣の、足首辺りまで長く垂れる背中側の裾は、彼女の一挙手一投足に合わせてうちなびき、また肩口で揃えられた彼女の黒髪は、巡る巫力を宿して、柔らかな、しかし超然とした翡翠の光を湛え揺らめいていた。
 さながら鬟(みずら)を模ったかのように彼女の側頭部に結わえられたリボンは、龍の支配する夜を切り裂く曙光の如き茜色に染め上げられていた。

「アンフィバイオス。あなたの相手は、わたし」

 巫女になって龍と戦う最低要件を満たしたとはいえそれだけで、まだ戦闘経験もなく、シンクロ率もないも同然といった駆け出しですらない彼女に、一人前の巫女が複数で挑むことが想定されるCランクのアンフィバイオスの、それもとりわけ危険な個体である《叛牙》の相手は務まらないのではないか。その疑念に答えを与えるかのように、彼女の翠緑の瞳は、つい今しがた聞こえるようになった、しきりに彼女を呼ぶ思念に応えて、熱田神宮のある方角を真っ直ぐに向いていた。

「あなたは、ずっとわたしのことをわかってくれてたんだね。認めてくれてたんだね。やっと気付いたよ。さあ、わたしに力を貸して『天叢雲剣』!」

 持ち主を選ぶと言われる遺継装具の中でも、特に自我が強く、扱いが難しいとされる天叢雲剣。毎日のように熱田神宮に参拝していた潜在巫有者の心華であったからこそ、その信頼を勝ち得るに至ったのだろう。三種の神器が一たる草薙神剣にも比肩しうるこの至高の名刀の本質は、遣い手の巫力に、さらに自身に寄せられた信仰の力を上乗せして爆発的な能力向上を可能とする強化信仰にこそあった。熱田神宮に安置され、祀られている鞘から注ぎ込まれた巫力に後押しされた「断霞」と呼ばれる不可視の斬撃によって、かつての遣い手たちは刃の届かぬはるか先をも斬り裂いたという。
 心華の呼び掛けに呼応し、神々しい玉虫色の巫力が待ち侘びていたかのように彼女の直ぐ左側の地面より天へと噴き上がった。その万色の輝きは、最後の遣い手が「厄災の饗宴」の手にかかってから二世紀近く失われたものであったが、心華にとっては長年連れ添ってきた気の置けない相棒のような心地がした。だからか、その巫力の奔流の内に朧気に浮き上がった影が相転移し、虹霓を凝集したような片刃の曲刀がゆらりと顕現して、彼女の腰の高さに抜身の刀身を横たえた時も、彼女にはどうすべきかがすでにわかっていた。
 彼女はすっと腰を落として、久方ぶりに適合する遣い手に巡り逢えた歓びにうち震える天叢雲剣の剛健な柄を右手でそっと包み込むように握り、そこから流れてくる莫大な巫力が自身の感覚を鋭敏に研ぎ澄まして、出力の強化された権能が圧倒的なまでの力を齎すのを感じた。
 これなら、いける。半ば確信した心華は、天叢雲剣の巫力によって仄かな虹色を宿した瞳の中央にアンフィバイオスをしっかりと捉え、未だ拙い巫力操作で動かせるありったけの巫力を込めて、居合抜きの要領で天叢雲剣を全力で左逆袈裟に斬り上げた。

「やああぁっ!」

 それは腰の捻りも、刃筋もまるで意識されない、ただ力任せに振り抜いただけの、剣術と言うのも烏滸がましい所作であった。しかし、百八十八年間もの長きに渡って全国の信仰を集めて溜め込むばかりで、折られた刀身を引き寄せて自己修復した時以外では一度たりとも放出されなかった巫力の桎梏が解き放たれた反動は大きかった。

 振るわれた刃先から濃密な玉虫色の巫力が暴風のように周囲に吹き荒れ、本来なら不可視のはずの渦巻く断霞までもが色づいて見えた。
 極限まで蓄積された余剰の巫力を衝撃波として排出する形となったその一撃は、爆鯢龍の瑠璃色の躯体を跡形もなく消し飛ばし、大地に大きな亀裂を入れ、沈みきった西日の残滓に照らされた遥かなる薄雲をも残らず吹き散らした。
 そして、大量の巫力を急激に消費したことによるショック反応で失神した心華の身体は、遍く天地を揺るがす神威の奔騰を抑えきれずに後方へ吹き飛ばされ、勢いよく木立に衝突して動きを止めた。

 市民公園を一陣の暖かな風が吹き抜けた。



 数日の後、心華が目を覚ますと、どうやらそこは病院の一室らしかった。

「おー、お目覚めか」

 声の主は、一見すると彼女とそう歳の離れていない少女のように見える女性であった。彼女は白衣に身を包み、病室の反対側でコンピュータに向かって何やら複雑そうな作業をこなしながら、器用に首だけを心華の方に向けて語りかけていた。

「そうだね、聞きたいことも多いだろうけど、まずはこれを飲んどきな」

 彼女は作業を中断すると、近くの電気ポットからマグカップに澄んだ緑色の液体を注ぎ、軽く冷まして心華に渡した。彼女の体調に合わせて調製したという。控えめながらも確かな甘さの中に微かな苦味も混じった温かい薬湯は、疲弊した心と身体に芯から沁み渡り、心華はようやく生気を取り戻したような心地になった。無心に喉を鳴らしていた彼女がマグカップをサイドテーブルに置くのを見計らって、女性はベッドの端に腰を下ろした。

「じゃあ、まずは自己紹介からだね。世代じゃないから知らないかもしれないけど、アタシは須久奈 れいな。少彦名命の巫女さ。そしてここは『ヒュギエイアの杯』日本支部の巫女医療センター名古屋棟だ」

 心華は、彼女の名前や、巫女やその関係者の医療に携わっていることなどは耳にしたことがあったものの、確かにそこに至るまでの来歴や経緯はあまり知らなかった。詳しく話を聞くに、彼女はかつて「アメノシタ」と呼ばれるカミガカリの派生グループで人気を博していた巫女であったが、相方の負傷によりヒュギエイアの杯に移籍し、現在は巫女たちの治療に専念しているのだという。少女のような容姿によらず、意外にも年齢は二十代後半なのだそうだ。さらに、一度心華に断りを入れて内線で誰かに一声かけてから、彼女は心華が気絶してからの事の顛末も話してくれた。

「三日前になるかな、アンフィバイオスにとどめの一撃を放ったのはアンタだろう? ここに来る前に葛ちゃんが言ってたって聞いたよ。あんだけの規模で何もかも吹っ飛ばしちゃったら目立つからね。あそこにはカミガカリの巫女が何人か向かってたんだけど、それを見て慌てて駆けつけてみれば葛ちゃんは大怪我してるわ、龍は消滅してるわ、アンタは巫力に覚醒した上で気を失ってるわでとんでもないことになってたから、葛ちゃんには応急処置をした後に二人ともここに担ぎ込んだって話さ。まあ、こうしてアンタはほぼ何事もなく復活して、今日中には問題なく退院できそうだし、葛ちゃんはもうしばらく入院してもらうことにはなるけど、別に生死の境を彷徨ってるってほどでもないし、結局まあ何とか丸く収まったって感じだね」

 心華がれいなの立て板に水を流したような淀みない語りに思わず気圧されて黙っていると、不意に病室の扉がノックされて、彼女が先程の内線で呼び出していたのだろうか、葛と同年代くらいの一人の少女が気さくな様子で入室してきた。彼女はれいなと軽く挨拶を交わすと、病室の端に立て掛けられたパイプ椅子をベッドの横に引っ張ってきて、そこに腰かけて心華に話しかけた。

「こんにちは! あなたが敷島 心華ちゃんだね?」

 心華はあまりの驚きに目を白黒させ、状況を飲み込みきれずにいた。

「あっ! これ、わたしのデフォルメキーホルダーじゃん! しかも、今年リデザインされて年明けライブで発売されたばっかの最新のやつ! やっぱり誰かがつけてくれてるのを見るのは嬉しいな!」

 そこにいたのは、多少眼や髪の色が変わったところで見間違えようもない、現在最も有名な天照大神の巫女にして、彼女が好いてやまない日本神話巫女のグループ、世界に羽ばたく「カミガカリ」で堂々たるセンターポジションを飾るリーダー。

 「陽光の寵児」照咲 陽菜その人であった。

「……えっ? ……照咲……陽菜さん? なんですか? 本当に?」

 震える言葉で恐る恐る、といった風に問いかけた心華に再び向き直り、陽菜は満面の笑みを浮かべた。

「勿論だとも! いやー、今思えば天照様のお告げだったのかね。何となく胸騒ぎがして葛さんのお見舞いの日程を繰り上げたら、まさかまさか巫力に覚醒した途端に天叢雲剣に認められて、あの《叛牙》のアンフィバイオスをも打ち破ってのけた期待の大型新人とこうして話ができるなんてね」

 陽菜は葛より一歳上だったはずだが葛のことはさん付けで呼ぶのか、などと現実逃避気味に益体のないことをぼんやりと考えていた心華は唐突に我に返った。

「いやいやいや、そんな大型新人だなんて……」

 目を丸くしながら両手をぶんぶんと振って否定しようとする彼女の慌てた様子に思わず吹き出しつつも、陽菜は励ますように告げた。

「でもね、相性のいい神と結んだ子がいなかったとはいえ、事実うちのメンバーたちも天叢雲剣には選ばれなかったわけだし、覚醒したその瞬間に遺継装具を従えてあんな危険度Bランクの龍を欠片も残さず消滅させちゃったのはあなたぐらいじゃない? それは誇っていいと思うな」

「そ……そう、ですかね……?」

 知名度、実力ともに国内はおろか世界でもトップクラスの才媛に手放しで称賛され、どこか素直に受け止めきれず複雑な心境だった心華だが、その煮え切らない気持ちは続く陽菜の言葉でたちどころに掻き消されてしまった。

「ということでね、わたしがここに来た理由は勿論葛さんのお見舞いなんだけど、実を言うともう一つあってね――」



 その日の夕刻、迎えに来た両親と共に退院の手続きを終えた心華は、医療センターの駐車場で車に乗り込んでからもずっと、先程陽菜が言っていた言葉を譫言のように何度も頭の中で繰り返していた。

『――敷島 心華ちゃん、よかったら「カミガカリ」に入ってわたし達と一緒に活動しない?』

 全国の女児たちの羨望の的、心華が夢にまで見たカミガカリからのスカウト。思いがけず実現したそれは、彼女が思い描いていたものとはいささか様子が違ったが、そのことでかえって現実味を帯びて強く実感されたのだった。

「陽菜さん、葛さん……本当に、私がカミガカリに…………。倭健命、ですか。これから、よろしくお願いしますね!」

 それは彼女の魂に宿れる神性にして、今もなお彼女に揺るぎない安らぎを与えてくれる彼女の大切な相棒の御名。あらゆる苦難を乗り越える力と遥かなる天をも味方につける運気をもたらす古の英雄神。そして、彼女と天叢雲剣とを結ぶ確かな縁の所以だった。

 心華は、一週間後に決まったカミガカリのプロデューサー陣も交えての正式な話し合いの日に思いを馳せつつ、まだ見ぬ世界への期待に胸を膨らませて、爆発による被害の復旧が済んだ自宅への道をひた走る車の後部座席から、よく晴れた静かな夕暮れの空を見上げていた。

 溢れんばかりの純情を秘めて煌めく彼女の瞳に映し出された、数匹の龍が羽ばたく茜色の空は、いつもと変わらないようでいて、どこか今までとはまったく違うように思われた。

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