beginner's first strike
規則的に、何かが跳ねる音が空に響いていく。
「………」
福田のり子が殺し合いに乗り、それを止める事は叶わなかった。
まだ彼女は手を汚してはいないようだったが、それも時間の問題だろう。
一刻も早く、彼女を止めなければならない。そうやって心だけが焦り、しかし彼女は動けない。
まだ彼女は手を汚してはいないようだったが、それも時間の問題だろう。
一刻も早く、彼女を止めなければならない。そうやって心だけが焦り、しかし彼女は動けない。
「………」
その理由である少女――木下ひなたは、既に目を覚ましていた。
彼女が目を覚ました時、何が起きているのか理解できなかった。
死んだと思っていたのに生きていて、眼前で心配そうな表情で覗き込んでいたのは、別の仲間の姿。
そして、のり子の事を聞いた時に見せた昴の表情で彼女は察した。
あれは現実で、自分は助けてもらって、生きながらえている事。
そして――自身の存在が、昴の重荷になっている事を。
死んだと思っていたのに生きていて、眼前で心配そうな表情で覗き込んでいたのは、別の仲間の姿。
そして、のり子の事を聞いた時に見せた昴の表情で彼女は察した。
あれは現実で、自分は助けてもらって、生きながらえている事。
そして――自身の存在が、昴の重荷になっている事を。
そんな彼女に「もう少し休んでいよう」と提案したのは、昴の方からだった。
まだひなたの心に、あの恐怖が残っているのは明らかであったし、行動を無理強いする事なんてできない。
そう思っての提案であった。現に、ひなたはその言葉に甘え座り込んでいる。
彼女の表情は浮かない。自身が枷になっている事を自覚しながら、しかし立ち上がる気力もない。
それ程までに、14歳の少女が初めて感じた『死』の恐怖は、その心を強く傷つけていた。
まだひなたの心に、あの恐怖が残っているのは明らかであったし、行動を無理強いする事なんてできない。
そう思っての提案であった。現に、ひなたはその言葉に甘え座り込んでいる。
彼女の表情は浮かない。自身が枷になっている事を自覚しながら、しかし立ち上がる気力もない。
それ程までに、14歳の少女が初めて感じた『死』の恐怖は、その心を強く傷つけていた。
「情けないね、あたし」
そんな失意の中で、ひなたは小さくつぶやく。
聞こえたか聞こえていないのか、昴は反応を示す事はない。
聞こえたか聞こえていないのか、昴は反応を示す事はない。
「結局、なぁんにもできてないんだもの」
彼女も、あの時のり子に手を伸ばそうとした。だが、それも何も届く事はなかった。
あの時、想いは届かず、ひなたはただ抵抗もできず殺されるのを待つだけ。
偶然昴が通りかかっていなかったなら、あのまま死んでいただろう。
ただ、自分が無力だという事を思い知った、それだけだった。
あの時、想いは届かず、ひなたはただ抵抗もできず殺されるのを待つだけ。
偶然昴が通りかかっていなかったなら、あのまま死んでいただろう。
ただ、自分が無力だという事を思い知った、それだけだった。
「……ねぇ、昴ちゃん」
そんな自分を省みて、目の前にいる、背を向け空を見る少女をみつめて。
「あたしの事は見捨てていいから、進んでくれんかなぁ」
そう、懇願した。
「その姿を見とったら分かるよ……昴ちゃん、すっごく立派な事をしようとしとるんだなぁ、って」
返答を待たずに、ひなたは口を開く。
昴の姿に迷いはなく、もし許されるなら今すぐにでも駆け出していきそうな程であった。
彼女の意志を詳しく知らないひなたにも、彼女のしなければならないこと、それに対する決意の強さもひしひしと感じていた。
昴の姿に迷いはなく、もし許されるなら今すぐにでも駆け出していきそうな程であった。
彼女の意志を詳しく知らないひなたにも、彼女のしなければならないこと、それに対する決意の強さもひしひしと感じていた。
「こんなところで……あたしと一緒に、立ち止まっていい人じゃないべさ」
だからこそ、枷になっている自身の存在を気にかけて、立ち止まってほしくなかった。
殺す事も、抵抗する事もできないような人間のために、一人の時間を奪いたくない。
そんな自責の念が渦巻いた思考が、彼女の決断をより確固たるものとしていく。
殺す事も、抵抗する事もできないような人間のために、一人の時間を奪いたくない。
そんな自責の念が渦巻いた思考が、彼女の決断をより確固たるものとしていく。
「ごめんね、だからさ…」
「ひなた」
「ひなた」
そんな彼女を、ひとつの言葉が遮った。
「別に、オレは立派なんかじゃないよ」
背を向けたまま、昴はそうつぶやく。
それはひなたに話しているというよりも、自分の言い聞かせているようでもあった。
それはひなたに話しているというよりも、自分の言い聞かせているようでもあった。
「ただ、わがままなだけだ」
「…わがまま?」
「あんな事言われてさ、こんな事に巻き込まれても……プロデューサーの事、嫌いになれなくてさ。
オレの知ってる、頼れる優しいプロデューサーがさ、どうしても嘘とは思えないんだ」
「…わがまま?」
「あんな事言われてさ、こんな事に巻き込まれても……プロデューサーの事、嫌いになれなくてさ。
オレの知ってる、頼れる優しいプロデューサーがさ、どうしても嘘とは思えないんだ」
そう語る昴は、どこか遠いところを見つめているように思える。
この場所のどこかにいるかもしれない人の姿を、その思い出を回想しながら。
この場所のどこかにいるかもしれない人の姿を、その思い出を回想しながら。
「みんなだって……のり子だって、そうだ。あいつの頑張ってきた姿を、オレは知ってる。
きっと、分かってくれるはずなんだ。……キレイ事って言われたら、それまでなんだけど」
きっと、分かってくれるはずなんだ。……キレイ事って言われたら、それまでなんだけど」
そして、その気持ちは人を殺しかけたかつての仲間に対してもなんら変わらない。
ひなたにとっても、その気持ちに理解できないわけではない。
最初に彼女が見せていた、苦悩していた姿は、確かにひなたの知るのり子の姿だったから。
それがわかるからこそ、はっきりと拒絶されたという事実はとても重く、心にのしかかっている。
もう、無理なのかもしれないという思考に陥るほどに。
ひなたにとっても、その気持ちに理解できないわけではない。
最初に彼女が見せていた、苦悩していた姿は、確かにひなたの知るのり子の姿だったから。
それがわかるからこそ、はっきりと拒絶されたという事実はとても重く、心にのしかかっている。
もう、無理なのかもしれないという思考に陥るほどに。
「それでも……どれだけ拒絶されたって、オレは手を伸ばしたい」
だが、それでも昴は諦めないと決意した。
俯きかけていた顔を上げる。昴は、変わらず背を向けて、空を見上げていた。
俯きかけていた顔を上げる。昴は、変わらず背を向けて、空を見上げていた。
「助けたいんだ。信じてるから……のり子も、皆も」
そして、彼女は『助ける』と断言した。
この場所にいる参加者は、全員が同じ場所で頑張ってきた仲間だったから。
不器用な子もいるけど、それでもアイドルを目指して努力してきた心も同じな筈。
この場所にいる参加者は、全員が同じ場所で頑張ってきた仲間だったから。
不器用な子もいるけど、それでもアイドルを目指して努力してきた心も同じな筈。
昴は、覚えている。
かつて自分が、ステージの直前で怖気づいた時に励ましてくれた仲間の事。
初詣ライブの前に、綺麗な初日の出の見える場所まで連れて行ってくれたのり子の笑顔。
そして、プロデューサーが掛けてくれた言葉。
沢山の思い出を、昴は忘れない。絶対に、捨てない。
だからこそ、昴は自分の中にある姿を信じていく。
自分の信じる仲間を、彼女は救ってみせる。
かつて自分が、ステージの直前で怖気づいた時に励ましてくれた仲間の事。
初詣ライブの前に、綺麗な初日の出の見える場所まで連れて行ってくれたのり子の笑顔。
そして、プロデューサーが掛けてくれた言葉。
沢山の思い出を、昴は忘れない。絶対に、捨てない。
だからこそ、昴は自分の中にある姿を信じていく。
自分の信じる仲間を、彼女は救ってみせる。
「……でさ、そんなバカげた事をする、って言うからには」
そんな事を思いながら、昴は振り返る。
昴にとっても、それが自分の押しつけに等しい行為であることは自覚していた。
余計なお世話かもしれない。だとしても、そんなわがままを貫き通す覚悟はある。
だから――と、座り込んでいたひなたと同じ目線になるように、しゃがみこむ。
昴にとっても、それが自分の押しつけに等しい行為であることは自覚していた。
余計なお世話かもしれない。だとしても、そんなわがままを貫き通す覚悟はある。
だから――と、座り込んでいたひなたと同じ目線になるように、しゃがみこむ。
「目の前の仲間ぐらい助けてやれなきゃ、話にならないだろ?」
そして昴はそう言って、晴れやかに笑った。
どんな暗い事態でも、絶望的な状況でも、曇らない笑顔。
あまりにも純粋でまっすぐなその姿が、ひなたの心を強く揺さぶる。
どんな暗い事態でも、絶望的な状況でも、曇らない笑顔。
あまりにも純粋でまっすぐなその姿が、ひなたの心を強く揺さぶる。
「ひなたには悪いけど、オレは決めた事を曲げるつもりなんてないんだ。だからさ、付き合ってもらうぜ?」
そうして、彼女はまたまっすぐと手を伸ばす。
二人が同じように差し伸べて、だが結果が実る事叶わなかった行動。
でも、どれだけ拒絶されたって、今の昴にそれをやめる意思は微塵もない。
こうやって何度でも手を伸ばし、駆け寄っていく。
二人が同じように差し伸べて、だが結果が実る事叶わなかった行動。
でも、どれだけ拒絶されたって、今の昴にそれをやめる意思は微塵もない。
こうやって何度でも手を伸ばし、駆け寄っていく。
「……やっぱり、昴ちゃんはすごいねぇ」
そんな彼女の姿を見て、ひなたは感嘆の声があげた。
昴は、強い。その決意は、ひなたの想像を超えて大きく、偉大に感じられた。
人はそれを無茶だとか、無謀だと言うのかもしれない。
それでもひなたは、その純真で、まっすぐな強さに憧れを抱いたから。
昴は、強い。その決意は、ひなたの想像を超えて大きく、偉大に感じられた。
人はそれを無茶だとか、無謀だと言うのかもしれない。
それでもひなたは、その純真で、まっすぐな強さに憧れを抱いたから。
「うん。あたしなんかで良ければ、一緒に歩ませてほしいなぁ」
その手を、しっかりつかんだ。
「よっし!」
「わわっ……と」
「わわっ……と」
掴んだ手を、昴は勢いよく引き上げる。
その勢いでひなたが思わず前のめりに倒れそうになるが、なんとか踏みとどまった。
悪い悪い…と、昴は苦笑する。二人の間に、もう先ほどまでの悲壮感はなかった。
その勢いでひなたが思わず前のめりに倒れそうになるが、なんとか踏みとどまった。
悪い悪い…と、昴は苦笑する。二人の間に、もう先ほどまでの悲壮感はなかった。
「さて……これから、どうするかな……」
そうして立ち上がったのち、昴は悩むように頭を掻く。
どこか躊躇しているような、遠慮しているような風にも見える。
その理由なんて、とっくに分かっていた。
彼女には向かうべき場所がある。そして、それは自身も同じであるはずだと。
どこか躊躇しているような、遠慮しているような風にも見える。
その理由なんて、とっくに分かっていた。
彼女には向かうべき場所がある。そして、それは自身も同じであるはずだと。
「……どうしたいかなんて、もう決まってるでしょや?」
その手が届かなかった仲間の事を思い浮かべて、彼女は言った。
「決まってる、って…いいのか?」
「ホントはこわいんだけども……いずれ通らんきゃいかん道なら、避けらんねえべさ。
あたしも昴ちゃんの道を歩みたいって思ったんだから、わがままなんて言ってられんよ」
「でも…」
「ホントはこわいんだけども……いずれ通らんきゃいかん道なら、避けらんねえべさ。
あたしも昴ちゃんの道を歩みたいって思ったんだから、わがままなんて言ってられんよ」
「でも…」
昴にとって懸念していたのは、襲われたひなたの精神状態だ。
殺されかけた経験なんて昴には分からないが、少なくとも気軽に考えられるような事ではない。
そう思うと、すぐに彼女の気にする相手を追う事が戸惑われたが、それでも当の彼女の眼は本気だ。
殺されかけた経験なんて昴には分からないが、少なくとも気軽に考えられるような事ではない。
そう思うと、すぐに彼女の気にする相手を追う事が戸惑われたが、それでも当の彼女の眼は本気だ。
「付き合ってもらうって言ったの、昴ちゃんでないかい。
あたしもさ、一所懸命についていくから。だから、まっすぐ進んでくれてええよ」
あたしもさ、一所懸命についていくから。だから、まっすぐ進んでくれてええよ」
戸惑う昴に、ひなたは笑いかける。
もう彼女にとって、相手は恐怖の対象じゃない。
同じ仲間だと。ただ、道を違えてしまっただけの仲間なんだと、改めて気づかされたから。
もう彼女にとって、相手は恐怖の対象じゃない。
同じ仲間だと。ただ、道を違えてしまっただけの仲間なんだと、改めて気づかされたから。
「……そっか。ありがとな、ひなた」
「どういたしまして。こちらこそ、ありがとね」
「どういたしまして。こちらこそ、ありがとね」
ぺこり、と頭を下げて、えへへと笑う。
こうして、二人の歩む道は決まった。
同行者もやる気となれば、もう何も遠慮する事はない。
当面の目標は、目の前で道を違えてしまった女性を――のり子を『助ける』。
こうして、二人の歩む道は決まった。
同行者もやる気となれば、もう何も遠慮する事はない。
当面の目標は、目の前で道を違えてしまった女性を――のり子を『助ける』。
「よし、それじゃ……待ってろよ、のり子!
あんたが根を上げるまで、とことん付きあってやるからな!」
あんたが根を上げるまで、とことん付きあってやるからな!」
どこまでも続く道を二人でみやり、昴はそう宣言する。
二人の瞳には、迷っていた時と違う――強い意志が、宿っていた。
二人の瞳には、迷っていた時と違う――強い意志が、宿っていた。
【一日目/午前/D-2】
【永吉昴】
[状態]健康
[装備]野球ボール
[所持品]支給品一式、野球ボール×5、ランダム支給品(0~1)
[思考・行動]
基本:プロデューサーの真意を知った上で、彼の手を掴む。
1:のり子を止める、なにがなんでも救い出す
[状態]健康
[装備]野球ボール
[所持品]支給品一式、野球ボール×5、ランダム支給品(0~1)
[思考・行動]
基本:プロデューサーの真意を知った上で、彼の手を掴む。
1:のり子を止める、なにがなんでも救い出す
【木下ひなた】
[状態]健康
[装備]出刃包丁
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(0~1)
[思考・行動]
基本:昴と同じ道を歩む
1:のり子を止める
[状態]健康
[装備]出刃包丁
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(0~1)
[思考・行動]
基本:昴と同じ道を歩む
1:のり子を止める
| are you a werewolf? | 時系列順に読む | 君は希望と言う名の絶望に沈む |
|---|---|---|
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| マイウェイ | 木下ひなた | りんごのうた |
| 永吉昴 |