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君は希望と言う名の絶望に沈む

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君は希望と言う名の絶望に沈む

希望なんてあるのだろうか。
巨大な希望は、希望と言えないのではないのか。
希望は時に人を押し潰す。
それはもう、希望とは言えないのではないか。
人をそれを、絶望と言うのではないか。


希望と言う名の、絶望に沈む。



◆       ◆       ◆



まず私と環ちゃんが最初に激突した問題はひとつ、どこに向かうかであった。
北に向かえば城下町がある。
だが南側には別荘がある。
どちらに向かうのが吉かどうか、なんてわかるはずがない。
城下町の方が誰か人が留まっていそう、ではある。
しかし別荘地の方が誰か殺し合いに乗らない人が隠れているなら絶好の場所だろう。
もし、この殺し合いに乗った人が居るとしたら、人が多そうな場所に行きたいはず。

「……うーん」

あまりこういうのは考えすぎるといけないという事くらいはわかっている。
実際どれだけ考えても正解か不正解かなんてわからないのだから。
だったら野生の勘、とでもすればいいのだろうか。

「とは言っても、私にはそういうのはできないし……」

そんな大胆な事をする勇気はない。
大胆な衣装を着させられているのにという声が聞こえた気がするが気のせいである。
実際アレは私に意思じゃなくて、プロデューサーさんに着させられてるのだから。

「環ちゃん、どうしたい? ……あれ」

結局決めきれず、環ちゃんに意見を伺おうとする。
だが、近くに環ちゃんはいなかった。
どこに行ったのだろうか、まさか誘拐されたのでは……。

いや、こんな静かな場所で誘拐みたいなことをしたら流石に私も気づく。
じゃあ環ちゃん自身がどこかに行ってしまったか。
最初の時も先に行こうとしたところを止めてたはずなのに。
流石は環ちゃんの行動力と言うべきだろうか。
まぁ、こうなっては仕方ないのだけれど。

「環ちゃーん! どこー!?」
「ふうかー! きてー!」

と、そこで少し遠くから声が返ってきた。
気付かないうちに環ちゃんが先に進んでしまっていただけだったようだ。
不安だったが考えすぎで助かったと言える。
だが、来てと言っているという事は何か見つけたのだろうか。
歩き始めて数分、環ちゃんが立っていた。

そこまでは良かった。
その次が予想していなかった。
環ちゃんの傍に誰かが立っている。

「……亜美、ちゃん?」

双海亜美、一瞬真美ちゃんとどっちだったかわからなかった。
基本的に瓜二つな双子だと、こういう事はたまに起こる。
とりあえずすぐに駆け寄る。
どうやら、環ちゃんが亜美ちゃんを見つけたようだ。
ある意味良かったと言えば良かったのだろう。
だが、それは結果論であり、最悪死んでた可能性だってある。

「良かったと言えばよかったけど、ダメだよ? 急にいなくなっちゃ」
「はーい……」

まぁ、結果的に何とかなったから良しで終わらせよう。
とりあえず今すべきことは亜美ちゃんに話を聞くことだ。

「ねぇ、亜美ちゃ――――」

その声は、最後まで出る事はなかった。
亜美ちゃんがいつの間にか、移動していたから。
いや、違う。

私たちを、殺そうとしていたから。



「環ちゃん!!」



どうすればよかったかなんてわからなかった。
ただ、いつの間にか環ちゃんを転ばせてしまっていた。
同時に、左腕に痛みが生じる。

「い、……!」

最初、自分に何が起きたのかわからなかった。
そもそも、なぜこうなったのかまったく理解できなかった。
だが、環ちゃんの血の気の引いた顔と発言で、ようやく理解できた。

「ふ、ふうか……ち、血が……」

左腕を、刃物で切られた。
動脈が切れたのか、血が噴き出るように出てくる。
しかし、あくまですぐに対処すれば問題はない。
もし、『環ちゃんを転ばせなかったら』と考えると自分の顔が真っ青になる。

「あーあ……外しちゃったか」

亜美ちゃんは、少し距離を取りそう言った。
今の発言から、行動からして、殺す気でいたのは明白だった。
もし、今環ちゃんを転ばせなければ、どうなっていただろうか。
下手をすれば、頸動脈を切られていたかもしれない。
そんな簡単に頸動脈は切れるものではないが、ないとは言いきれない。
そんな事を亜美ちゃんは、堂々とやろうとしたのだ。

「……なんで……殺し合いに、乗るの……?」

痛みをこらえながら、亜美に問う。
だが、答えてはくれない。

「そんな事をしても、誰も喜んでくれないよ……皆で協力すれば、なんとかなるはずだよ!」

亜美ちゃんは喋らない。
動こうともしない。

「私達だけじゃ、なにもできないかもしれないけど……」
「他の皆だって、きっとなんとかしようと動いてくれてるはずだから」
「怖くても、立ち向かおうとしてくれているはずだから」
「だから、逃げちゃだめだよ……一緒に、プロデューサーさんを」
「やめてよ」

質問からの最初の返答は、そんな簡単な一言だった。
泣いているような、鼻声のような、そんな声で。


「なんでみんな、そんなに前向きでいられるの?」
「琴葉お姉ちゃんだって、ひびきんだってそうだよ」
「みんなみんな、諦めずに、真っ直ぐで……」
「でも、そんなの亜美にはできっこないんだよ……!」
「こんなの、出来っこないんだよ!」
「兄ちゃんは助けてくれるどころが、こんな事をさせるし!」
「社長だって、死んじゃったし、もう……!」


「もう希望なんて、どこにもないんだよ!」


私に対して、今まで黙っていた分を吐き出すように。
そう言うと再び亜美ちゃんはノコギリを構える。
対してこちらは、何も準備はできていない。
それどころが、出血を続ける左腕の処置すらできていない。

(あぁ――――せめて、環ちゃんだけでも逃がしてあげないと)

傷を負った今、自分は走って逃げる事はできない。
最低限の処置をしたとしても、すぐに運動をすれば出血量が増える。
この場を切り抜ける術が、浮かばない。
視界も少しづつ、靄がかかってきたような感じがする。
動脈が切れているのだろう、出血は止まらず処置をしなければ死ぬのは間違いない。
左腕に力も入らなくなっている。
だからせめて、亜美ちゃんを抑えて逃がしてあげないといけない。

(――――あれ)

ふとそこで気付いた。
環がいなくなっていたのだ。
逃げてくれたのだろうか、それならば問題はない。
自分はこのまま行けば、どうしようもなくなる。
だから、これでよかったのだ。



「らああああああああああああああああ!!」



ドン、と言う音とともに声が耳に響く。
朦朧として放りだそうとした意識が、途端に戻ってくる。
何事かと前を見る。

「環ちゃん……」
「ふうか! たまきが何とかするから! 逃げて!」
「駄目! 環ちゃんが逃げて……私なら大丈夫だから!」

環ちゃんが、その小さな体で亜美ちゃんを押し倒していた。
だが、危険なのは間違いがない。
体格では環の分が悪すぎる。
下手をすれば、殺されかねない。

だが、環ちゃんは恐れを知らないかのように。
ただ勇敢に、亜美ちゃんを抑え込む。

「いやだ!」
「駄目だよ、危ないから! すぐに亜美ちゃんから離れて!」
「いやだ……!」
「……え?」

「たまきがおやぶんに、みんなに会えても! ふうかだけが痛い思いするのは、いやだ!」


自分が情けなく思えてしまった。
環ちゃんは、諦めていないのだ。
この場を切り抜ける事も、皆を助けることも。
自分を犠牲にしようとしていた自分とは違う。
諦めようとしていた自分とは違う。

諦めないで、頑張らないと。
その思いが、自分の中を支配した。

まずそのためにどうすればいいか、パニックに陥りかけてる頭で考える。
ここから何をすれば、環ちゃんを救えるのか。

「……違う」

考えるんじゃない、行動するのだ。
左腕が動かなくても右腕と足は動く。

まず、亜美が持っているノコギリを無理やり奪う。
環ちゃんが抑えてくれていたから、すぐに取れた。
これで危険は薄くなった。

次に、支給品から救急箱を取り出す。
ガーゼと消毒液を取り出し、組み合わせすぐに傷口を抑える。
もう一枚のガーゼを水にぬらし、周りの血液を出来るだけふき取る。
次に、固定するもの……がない。
腕に出来るだけ血液を回さないようにするために、タオルでもあればいいのだが、ない。

「……仕方ない」

先ほど腕に傷を受けた場所の服を掴むそれを引っ張り、服の繊維の部分にアイスピックを刺す。
それを思い切り引っぱり、服を切断し、また刺し、切断しを繰り返す。
もしずれたりミスをしたら危険だが、そう言っている余裕はない。
元々薄い服のため、そこまで時間はかからなかった。
左腕の方だけ半袖みたくなってしまったが、その切った服で腕を思い切り縛る。

「……よし!」

これで応急処置は完了した。
だが、傷口を抑えていないといけないし縛ったのも不完全だ。
今は急いで逃げて、完全な処置をしなくてはいけない。

「環ちゃん、来て!」

そう声をかけると、環ちゃんはすぐに亜美ちゃんから離れた。
体中が擦り傷だらけで、どれだけ頑張ってくれていたかがすぐに分かった。
後で治療してあげないといけない。
だが、今は逃げる事が先決だ。

「……亜美ちゃん、ごめんね」

ただそれだけ呟き、そこから逃げる。
追いかけてきたらいけない、まずは助かることが大事なのだから。



◆       ◆       ◆



もう追ってきてはいなかった。
武器を奪っておいたから、追ってこなかったのだろうか。
そう考えると、あの行動は自分のためにもなったのだろう。

だがまずは、命拾いをした事を喜ぶべきだろう。

「ふうか……だいじょうぶ?」
「ありがとう、環ちゃん……助かったよ」

擦り傷だらけの環ちゃんがにっこりと笑う。
助けられたのは私の方だというのに、本当にいい子だ。
だが、すぐにその表情が曇る。

「でも……あみ、なんでこんなこと……」

その原因は、やはり亜美ちゃんだった。
あのムードメーカーだった子が殺し合いに乗って殺しに来た、というだけでもかなりの事だ。
かくいう私も、かなり衝撃を受けた。

この殺し合いと言うイベントは、非常に重いものだと実感させられた。
忘れたつもりはないが、その印象をさらに叩きつけられたようである。
でも、諦めたくはない。
ここで折れてしまうのは簡単だけれども。

「……わからないけど、止めてあげないと」

皆と一緒に、また元に戻れると信じて。
まずすべきことは、仲間を探すこと。

(……そういえば、琴葉ちゃんと響ちゃんの話を亜美ちゃんがしてた……よね)

という事は近くにいるのかもしれない。
あの話からすれば、自分たちと同じような考えをしているとも考えられる。
ならばするべきことは、まずはここから近い城下町に行って2人を探すことだ。

「環ちゃん、行こう……皆を探しに」

先はまだ長いけれど。
もう諦めたりはしない。
最後まで立ち向かって、プロデューサーさんに話をしないといけないから。

【一日目/午前/B-2】

豊川風花
[状態]左腕に裂傷(応急処置済み)、失血(軽度)、服の左腕部分が切断されている
[装備] アイスピック
[所持品]支給品一式(救急箱一部使用)、ノコギリ、ランダム支給品(0~1)
[思考・行動]
基本:皆を信じて、このイベントに諦めないで立ち向かう。
1:城下町まで行く
2:環ちゃんを治療してあげないと……
3:琴葉ちゃんと響ちゃんがどこか近くにいる……?

大神環
[状態]体中に擦り傷
[装備] なし
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(1~2)
[思考・行動]
基本:みんなと一緒にいたい、ふうかについてく。
1:あみ……



◆       ◆       ◆



全て終わった後に残ったのは、絶望だった。
武器はこの手から無くなった。
それだけじゃない、戦う気も今はない。
自分から全て奪われ、抜け殻にでもなった気分である。
横たわりながら空を見てふと呟く。

「……なんで、諦めないでいられるんだろうね」

田中琴葉我那覇響も大神環も豊川風花も皆諦めていなかった。
抗おうと言う意思が、見えた。
こんな絶望的な状況であるのにも関わらず。

「希望なんて、あるはずがないのに」

起き上がろうとするが、起き上がれない。
先ほど環と争った時の疲労のせいだろうか。
武器もなくなってどうしようもないという心労のせいか。

「……何か武器、探しに行かないと」

だが、今はただ――――動きたくなかった。
絶望に支配された体が、重かったから。



【一日目/午前/B-2】

【双海亜美】
[状態]体中に擦り傷
[装備] なし
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(0~1)
[思考・行動]
基本:死にたくないから、殺し合いに乗る
1:武器を見つけないと……
2:真美には……会いたくないなぁ
3:希望って……なんだろうね?


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