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ええんやで

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ええんやで


『それでは、これで第一回放送を終了します』

どこからともなく流される悪報。
不意に始まったそれは、やはり唐突に幕を閉じた。

わからない。
どんな表情でいればいいのかも。
何を思えばいいのかも。
恐怖、後悔、安堵、不安、悲観。
様々な感情が頭の中で渦巻き、気が狂いそうになる。

それでも、辛うじてわかったことが二つあった。
奈緒を除き、この島で遭遇した者はまだ生存しているということ。
そして――『アイドル』が次々に消滅しているということ。

仲間を殺そうとする卑怯者などこの劇場にはいない。そのはずだった。
いるとしたら、それは杏奈と志保だけでいい。皆には同じ道を歩んで欲しくない。
だが、そんな僅かな願いすらも否定された。
この島は人殺しだらけだ。
ずっと信じていたアイドルとはこんなにも脆い存在だったのか。

皆が皆、生き残る為に必死で足掻いている。
例え仲間を蹴落とすことになろうとも。
勿論、まだ希望を捨てずにアイドルで在り続けようとする者も残っている。
しかし、それもまた失われてしまうのだろう。
このまま戦いが激化すれば、死ぬ者、殺す者は更に数を増していく。


――アイドルって……何なの、かな……。


プロデューサーは言った。『アイドル』として、最後まで諦めずに健闘してくれ、と。
ずっと支え合ってきた仲間を殺すような人間がアイドルであるはずがない。
では、誰一人殺すことなく生き残ることが出来るか。
それも否。
アイドルであることと殺人を犯すことに因果関係はないのか。
彼は何を欲し、何を見ようとしているのか。
偶像を失った杏奈に、その答えは見つけられなかった。
考えれば考えるほど、泥沼に嵌っていく。
そこに残るのは、殺しに加担したという耐え難い事実と、自己嫌悪。

失意に暮れる中、脳裏に浮かぶのは出会った三人の姿。
彼女たちはこの異常の中で何を思ったのだろうか。


――歩さん。

彼女はきっと殺し合いには乗っていないのだろう。
いつもは頼りないのに、今の歩からは決して弱さを感じない。
駄目なものは駄目だと拒絶出来る強さを持っているから。
死を恐れ、流されてしまった杏奈は、彼女が羨ましかった。


――志保。

奈緒を容赦なく撃ち殺した志保。
お世辞にも社交的とは言い難いが、仲間を想う気持ちは少なからず持っていたはずだ。
それがあれほどまでに非情になれるだろうか。
彼女を非難する権利などないことは杏奈自身もわかっているが、それでも彼女の変貌ぶりには恐怖を覚える。


――奈緒さん。

彼女は本当に強い女性だった。
人の道を踏み外した杏奈すらも正しく導こうとする意志の強さがあった。
奈緒がいなければ、今よりも凄惨で猟奇的な末路を辿っていたかもしれない。
そんな彼女を殺そうなどと少しでも考えてしまった自分が嫌になる。



「奈緒さん……」

今朝の光景が鮮明に蘇る。
奈緒に抱き締められた感覚。
肉に刃が突き刺さる柔らかい手応え。
彼女の怒号。
死に様。
血だまり。
志保。


「…………嫌……」


裏切っても尚、手を差し伸べてくれた。
彼女の気持ちに応えたい。
彼女に気持ちを伝えたい。


「このまま終わりなんて……そんなの、嫌……」


奈緒に何も伝えられないまま生を終える。
それだけは絶対に嫌だ。
重い体に鞭を打ち、杏奈は元いた場所へと駆けていった。


   ◆   ◆   ◆


草木に囲まれた静かな公園。
先程までの喧騒が嘘のような静寂に包まれている。

もしかしたら、まだ歩が近くにいるのではないかとも思ったが、彼女がいる気配はない。
あやふやな記憶を頼りに、杏奈は目的の場所を探す。

「いた……」

さほど迷うことなく見つけることが出来た。
真っ赤な海の中で眠る少女。
杏奈の罪の証。

「奈緒、さん……」

先程と寸分違わず、奈緒は横たわっていた。
苦痛と戸惑いが混ざり合ったような表情で、そのまま時が止まってしまったかのように。

「……」

奈緒の眼差しが突き刺さり、思わず息を呑む。
彼女の無念が伝わってくるようで、今すぐにでも逃げ出したくなる。
けれども、ここで引き下がるわけにはいかない。
罪を受け止め、奈緒に答えを示さなければ、先には進めない。
意を決し、杏奈は一歩前へ出る。


「…………ごめん、なさい」


最初に発せられたのは、懺悔。
その声は微かに震えている。
一方的に裏切っておいて謝るなど身勝手な話なのかもしれないが、それでも謝らずにはいられなかった。


「痛かった、よね……」


一つ一つ、今にも消えてしまいそうな声で、杏奈は言葉を紡ぐ。



「杏奈じゃ……みんなを、幸せになんて……出来ないかも……しれない、けど……」



「杏奈……やっぱり、アイドルやめたくない……」



「今更、許してもらえないかも、しれないけど……」



「こんなこと……もうしない、から……」



「もう……みんなを傷つけたり……しないから……」



そして、杏奈は屈み込み、奈緒の手を取る。
その手は冷たく硬直していた。
目を瞑り、祈るように両手で包み込む。


「じゃ……そろそろ、行く、ね……?」


黙祷を終えると、杏奈は手を離し、奈緒の体の上にそっと置いた。


「……さよなら。…………助けてくれて、ありがと、です」


そうして、アイドルでもなんでもない普通の少女は、偶像を取り戻す為の一歩を踏み出す。
去り行く少女を、赤い海は静かに、ただ静かに見守っていた。


【一日目/日中/H-2】

望月杏奈
[状態]精神的疲労(大)
[装備]バタフライナイフ(血液付着)
[所持品]基本支給品一式、不明支給品0~1
[思考・行動]
基本:アイドル、やめるのは……嫌
 1:また……頑張れるのかな……
[備考]
※オンモードの杏奈(アイドルとしての望月杏奈)になる事が出来なくなっています。


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