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争いが絶えない世界に僕らが迷い込んでも

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争いが絶えない世界に僕らが迷い込んでも

「足が痛いのです~……姫、もうへろへろなのです……」

自らを姫と称する少女、徳川まつりは一人、山道を下っていた。
長いこと歩いた為か、疲労が蓄積しているようだ。
その割に足取りは軽やかで、表情からは幾分か余裕が感じ取れる。

それでも彼女は疲れていなければならない。演じなければならない。
「か弱い姫」を。「生き残るために皆を殺していく姫」を。

とはいっても、かなりの距離を歩いたのもまた事実。
現に太陽も随分と高くまで昇っている。
それだというのに、会うことが出来たのは未だに朋花のみだ。
一刻も早く「自分は敵だ」と他の者に伝え、皆を団結させなければならないというのに。

かといって、焦っても事態が好転するわけではない。
いつも通りのマイペースで、引き続き道を歩き続ける。

「ほ?あの子は……ロコちゃん?」

どうやらまつりの心配は稀有に終わったようだ。
ロコと思わしき少女が走って来ている。
ようやく二人目の仲間と遭遇することができた。

「はいほー!どうしたのです?そんなに急いで……」
「ひぃッ……ま、マツリ……」

実際、ロコの慌て方は普通ではなかった。
恐らく誰かの殺害に失敗して逃げてきたか、あるいは――

「み、みんなが……ロコを、殺そうとして……」

他の誰かに襲われたか。今回は後者のケースだったらしい。

「みんな?それは誰なのです?」
「か、カレンとイクと……あとツバサです……」
「それは災難でしたね……よし、ここはまつりに任せて先に行くといいのです!」

ここまでは想定通り。
ロコへはこの先に進むよう指示し、彼女の保護は朋花あたりに一任することにする。
後は去り際に可憐たちの殺害を仄めかすような言葉を洩らせば完璧だ。
そう思っての行動だったのだが――

「そんな……なんで、マツリまで……」
「ほ?まつりがどうかしたのです?」

退路を確保できたというのに、ロコは安心した様子を見せない。
それどころか、彼女の顔は見る見るうちに青ざめていく。

「あなたまで……殺し合いに……乗って……あ、ああ……」

どうも会話が噛み合わない。
まるでまつりが殺し合いに乗っていると知ってしまったかのような発言だ。
いくら感性豊かなロコでも、まつりの思考を見抜くことは不可能だろう。
まつりの現状を知る朋花と遭遇した可能性も低い。
ではなぜ彼女はこのような発言をしたのだろう。

「ロコちゃん、少し落ち着くのです。もう一度状況を――」
「ああああぁぁぁッッ!」

叫ぶや否や、ロコは急に踵を返し、走り去ってしまった。
途轍もなく恐ろしい何かから逃げるように。

「あ、待って!待つのです!」

どう見ても正常ではない。
彼女を引き止める為、急いで後を追う。

だが、走り出したのも束の間、意外にも早く追いついた。
ロコは少し進んだ所で立ち尽くしていたのだ。

「いったいどうしたのです?急に走り出すなんて……」



「カレン……イク……ツバサ……どうして……」


   ◆   ◆   ◆


『それは災難でしたね……でも大丈夫。ここでまつりが楽にしてあげるのです』


ああ、やっぱりそうだ。
最初から味方なんて一人もいなかったのだ。

もしかしたら、まつりなら助けてくれるかもしれない。
何故そのような根拠のない期待をしてしまったのだろう。

――また逃げなきゃ。

この先の道には可憐や、育、翼がうろついているかもしれない。
けれども、ここから立ち去らなければどちらにせよ殺される。
彼女らと遭遇しないよう祈りながら、ロコは残る力を振り絞り、走る。

だが甘かった。
もう追いつかれてしまった。

「カレン……イク……ツバサ……どうして……」

目の前には三人の少女が立ちはだかっていた。
それはかつてロコを殺そうとした三人。


「こ、今度こそ当てるから……避けないでね……」

銃を持った長い髪の少女が言う。


「どうしてぶったの?すっごく痛かったんだよ?」

ドリルを構えた小さな少女が問い詰める。


「協力してくれないロコちゃんは嫌いだな~」

髪のハネた少女がにこやかな笑顔で近づいてくる。


「嫌……来ないで……」

三人に気圧され、思わず後ずさる。
しかし、後方にも逃げ場はない。
同じくロコの命を狙うまつりが待ち受けている。

「さあ、もう逃げられないのです……ね?」
「動かないで……!」
「許さない」
「言うこと聞いてくれないんじゃ仕方ないよね~」



「「「「死んじゃえ」」」」



――駄目だ。
――もう耐えられない。

涙が止め処無く溢れてくる。
糸が切れたように泣き崩れ、嗚咽を漏らすことしか出来なかった。
今まで仲間だと思っていた彼女たちは誰一人、ロコを仲間と認めてくれてなどいなかったのだ。

――ロコは最初からずっと一人ぼっちだったんだ。

そして今、独り寂しく死んでいくのだろう。
そう思うと悲しくて仕方なかった。

「やだ……ぁ……死にたく、ない……ひぐ……助、けて……」





『大丈夫だよ』



不意に背後から抱きしめられた。

『大丈夫。貴方は独りじゃない』

声の主はまつりだった。
散々脅しておいて、何故今更になってこんなにも優しい言葉をかけてくるのだろう。

だけど、とても温かい。
この地獄に放り込まれてから初めて感じた温もりだった。

『よく考えてみて。何が本当で何が嘘なのか』

そう言い残すと、まつりはロコから離れていった。


「待って!独りにしないで!」


目の前には誰もいなかった。
可憐も育も、翼さえも見当たらない。
傍に立っていたのはまつりだけだった。

「今はまだ殺さないでいてあげるのです。
 でも次に会うときは……そのときはロコちゃんの最期なのです……ね?」

呆気に取られている内に、まつりは先に行ってしまった。

やはり彼女は殺し合いに乗るつもりらしい。
何の気紛れか、今は見逃してくれるようだが……。
では先程ロコを救い出してくれたまつりは何だったのだろう。
これも彼女の気紛れだというのか。

――何が本当で何が嘘なのか。
――わからない……。

可憐も育も翼もまつりも殺し合いに乗っている。
今の今まで四人で囲み、ロコを殺そうとしていたはずだ。
なのにまつりは急に態度を変え、ロコを慰めた。
それに伴い、他の三人も姿を消してしまった。

どこまでが真実なのだろう。
夢でも見ているのだろうか?

――でも……。

まつりに抱きしめられたときに感じた温かい気持ち。
この気持ちだけは嘘ではないと信じたかった。


【一日目/午前/E-5】

伴田路子
[状態]右腕に傷、過度なストレスによる幻覚・幻聴
[装備] なし
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(1~2)
[思考・行動]
基本:本当のことが知りたい
1:誰かを信じたい、誰も信じたくない
2:全部から逃げたい


   ◆   ◆   ◆


「思っていたよりもまずい状況なのです……」

ロコの不可解な言動の数々。
察するに、彼女は極度の被害妄想に陥っているのではないかと思われる。

周囲の人間全員が自分を狙っているという思い込みに囚われてしまっているのだろう。
会う人全てが敵に見え、その度に追い詰められ、症状はどんどん悪化していく。
幻覚さえ見えてしまう程に。

そして、ここまでロコを追い詰めてしまった原因は恐らく、彼女が口にしていた三人。
篠宮可憐、中谷育、そして伊吹翼
この三人の内の数名、もしくは全員がロコを殺そうとし、狂わせてしまったのだろう。

彼女らがこの先にいることはロコの発言からわかっている。
殺人に積極的な者と対話し、互いに無事でいられる可能性は低い。
大なり小なり、犠牲は覚悟しなければならないようだ。

まつりは仲間たちの説得。
ロコは瞞しからの脱却。
課せられた課題は共に厳しい。

「でも姫ならこれくらいどうってことないのです!
 ――貴方もどうか負けないで、ロコちゃん……」


【一日目/午前/E-5】

【徳川まつり】
[状態]健康
[装備]二十六年式拳銃(6/6)
[所持品]基本支給品一式、不明支給品0~1、二十六年式拳銃実包×24
[思考・行動]
基本:『敵』を演じるのです
 1:まずは人と会っていくしかないのです……ね?
 2:可憐ちゃんと育ちゃん、翼ちゃんには要注意なのです

 ♪イコロシア   時系列順に読む   絶望偶像 
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 エスケープフロムディストピア   伴田路子 


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