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双子の星座

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双子の星座


島の北西、城下町へと伸びる道。
その道から、少し外れた岩の影。
一見、何もいないような場所で。

「はぁ……」

少女――双海亜美は、何かから隠れるように身を潜めていた。

ひなたを手にかけた彼女は、ふらふらと、しかしはっきりと歩を進めて、少し離れた場所で身を休めていた。
彼女がこんなところでじっとしていた理由の一つに、とにかく一度体を休めたいという考えがあった。
けれど、彼女が逃げた先……城下町には、おそらく響、琴葉、風花、環がいる。
そんなところに、今進む気にもなれず。道端の岩陰なんていう、中途半端なところを場所に決めていた。

座り込む彼女の周りを、おだやかな風が流れる。
亜美が頭を上げると、空は何も変わらず、雲が流れていた。
おだやかな光景の中、まるで、今が何も変わらない現実なのだと錯覚してしまいそうになる。

けれど、そんな現実逃避は許されない。
それを示すかのように、顔を下ろすと手に握られた武器が視界に入る。
血と、直視し難い"何か"がへばりついた、鶴嘴。
見るたびに嫌悪感を抱き、投げ出したくなるが、そんな事ができるはずもない。
自らの身を守る、唯一の武器。生き残る為に、縋らなくちゃいけない。
そうして亜美は、ただただ、生きるために苦しみ続けている。

「………」

気だるげなまま、端末の電源を入れる。
真っ先に飛び込んできた情報は、今の時刻。

――12時を、回っていた。既に彼女は、流れた現実を、聞いていた。


「はぁ」

もう何度目かもわからない溜息をついて、電源を落とす。
12人もの仲間が死んだ、という事に何も感じないわけじゃない。
共にからかったり、遊んだり、頑張ったり。
そして、同じステージに立った仲間。大好きだったという気持ちに、嘘はない。

けれど、それでも自分の命と比べれば、どっちが大事かは明らかだ。
まだまだ、生きていたい。もっともっと、楽しい事があるはずだから。
こんなところで、死にたくないから。そんな、当たり前の事を胸に抱く。

(やっぱり、他の皆はそうなんじゃんか)

それに、そう思っているのは自分だけではないらしい。
今まで出会った子達が、ほぼ、そういう決意を胸に固めていて、内心不安があった。
こんな事をしているのは、自分だけなんじゃないか、と。
けれど、結局はこの殺し合いは順調に進んでいた。同じ事を思っている子は、少なからずいるのだ。
自分は間違っていないのだ、と。そう言える。
そう、認めざるをえない。ごちゃごちゃとした思考の中で、視線を落とす。

「……いたい」

落ち着いて、体を休めていると、擦り傷がひりひりと痛みだした。
さっきまでずっと、生きる事に夢中に駆け回っていた間には、意識の外に追いやっていた事実。
改めて見ると、中々に痛々しい。
これも、かつての仲間の必死な抵抗のものだと考えると、本当に気が重い。

響、琴葉。風花、環。そして、のり子と昴。
ここで出会った皆は、自分の手で殺したひなた以外はまだ生きている。
彼女達は、この状況をどう思うのだろう。
のり子以外の他全員は、希望に向かって進んでいたのに。
もう、こんなにも仲間がいなくなってしまって、それでも進むのだろうか。

「戻れるわけ、ないじゃん」

吐き捨てるように、呟く。
まだ幼い彼女に、死の実感が完全に理解できているわけではない。
が、既にその手は一人の少女を"そう"してしまったのだ。
他の11人の子達も、あんな風になって、動かなくなってしまって。
そんな中で、希望を感じられるはずも、ない。

もう、戻れないからこそ。
少女は、一人生き残る事を決めたのだ。



「……真美」

そんな事を考えて、ふと口からこぼれたのは、一人の少女の名前だった。
生まれた時から、ずっと一緒だった存在。
けれど、今はそばにいないし、会ったとしても、もう一緒にはいられない。
ここは、そういう場だから。
生き残るなら、彼女の事さえも切り捨てなければいけない。

それは、きっと彼女が人生で初めて味わう、本当の孤独。


「寂しいなぁ……」

まだ13歳の少女には、耐え難い事。


ぎゅっと、自分の体を抱きしめて、震える体を抑える。
彼女が真に堪えていたのは、人を殺す事でも、綺麗事を否定する事でもなく。
生まれて初めて、たった一人で、そんな重圧を背負う事。
内心は、そんな事に対する不安でいっぱいだった。

けれど、そんな思いをどこかへ追いやるかのように、首をぶんぶんと振る。
そんな甘えた考えを抱いたまま、生き残れるとは思っていない。
この地獄のような状況から生還するには、他の皆を殺さなくちゃいけない。
寂しさなんて、気にしてはいられないのだ。

これから、ずっと。彼女は隣にいた人を喪い、一人で歩まなくてはならないのだから。


「……~~~ッ!!」

いてもたってもいられなくなり、立ち上がる。
休憩していた筈なのに、未だ息は荒く、心身ともに穏やかになった様子はない。
余計な事を、考えすぎてしまったようだ。苦々しい表情を浮かべ、頭を抱える。

「あぁもう、しっかりしなきゃだよねぇ……!」

一人愚痴りながら、身を隠していた岩陰から、道を覗きこむ。
誰の姿も、その場所にはいない。
そろそろ動くか、と考えて、その道をどう行くかを考える。
北か、南か。二つに一つ。

北の方には、琴葉と響、風花と環がいた筈だ。
方向から行って、合流している可能性もあるだろう。
彼女達の方針から行って、最悪の状況に陥ったとしても、命まで奪われる事は考えにくい。
だが、もし合流していたとしたら四人なんて人数は明らかに不利だ。出来れば、会うのは避けたい。

対して南は、今のところ昴とのり子がいる。
昴は、あのままのり子に殺されたかと思っていたが、呼ばれなかった事を考えるにそうではないらしい。
運よく、逃げ出せたか。何か別の乱入者でもいたか。どちらにせよ、別々に行動しているだろう。
ただ、のり子は亜美から見ても危険人物である事に変わりなく、こちらも会うのは避けたかった。

結局、どちらに行っても危険を回避する事なんてできやしない。
当たり前といえば、当たり前なのだが。それでも、最善手がどうなのか、考えるのをやめるわけにはいかない。
いつどこでゲームオーバーになるかも分からないデスゲーム。心休まる時はなく、慎重になる。
幼い心も体も疲弊したまま、彼女は岩陰から足を踏み出す。
行く方向は決めても、この先の事は何も分からないまま。


「……亜美、は」

ただ、一つ。言える事がある。



「こんなトコで死ぬつもりなんか、ないかんね……!」


ゆっくりと上げた顔から見えた、その瞳と声は、揺れながらも。

確かな決意の炎が、立ち上がっていた。



【一日目/日中/C-2】

【双海亜美】
[状態]体中に擦り傷、心身共に疲弊
[装備]鶴嘴
[所持品]支給品一式、ランダム支給品(0~1)
[思考・行動]
基本:死にたくないから、殺し合いに乗る
1:北か南、どっちかにいく。
2:真美には、会えない。けど……
3:希望って……なんだろうね?


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