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オープニング

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オープニング



「―――――ぅ………」



日差しを受けて、少女の意識は覚醒する。


「ん……あれ……?」

目覚めた少女――春日未来がまず真っ先に感じたのは、違和感だった。
彼女がいたのは、学校の教室のような場所。
しかし、未来にはここに一切の心当たりがない。何故こんな場所で気を失っていたのか、思い当たる節がなかった。
立て掛けられた時計を信じるなら、まだ早朝になったばかりという時間だが。

(皆もいる、みたいだけど……)

この場所にいたのは、彼女だけではなく。
彼女と同じ事務所のシアターで活躍するアイドル達も、全員集められていた。
同じ道を志し、ともに頑張ってきた50人の仲間達。
そんな周りの皆も、反応の大小はあれ未来と同じように困惑している。
どうやら、ここにいる事に心当たりがある者は誰一人としていないようだった。

(なんだろう、あれ?)

そうやってあたりを見渡していると、未来はふと一つの違和感を感じる。
ここにいる全員の首に、なにやら首輪のようなものがつけられていたのだ。
チョーカーのような、地味で無骨な装飾品。
自分の首に手を当ててみると、彼女自身にも同じものがつけられているのに気付いた。
意識しないと気付かない程軽いが、認識してしまうと、その感覚がむずかゆい。
いつの間につけられたのか。それすらも分からず、これに関しても何のてがかりもなさそうだった。

(一体、何が起こってるの?)

この状況に、人より頭が回らないと評価を受けがちな未来も疑問を抱く。
50人全員が知らないうちに、知らない場所に閉じ込められている。
こんな事、どう考えても異常だ。
アイドルとして非日常的な事にある程度は慣れている彼女達にとっても、そう思わざるをえなかった。
理由も経緯も思い当たらない。眠気からだんだん覚めてきても、何も分からない。
そんな現状が、より不安を広げていった。

もしかして、誘拐? 監禁?
何かの犯罪に巻き込まれてしまったのでは……そんな突飛な想像も、否定できないような空気が漂っていた。
その不安を誰も隠すことはできず、ざわつきはより大きくなっていく。

そんな思考が頭打ちになるのとちょうど同じ時、事態は動き出す。

『皆様、おはようございます』

一人の男性が、鍵を開けてこの部屋へ入ってきた。


「………?」

素顔を白い仮面で隠し、声を刑事ドラマの犯人みたいに変えている。
そんな状態では、その男の正体を知るのはほぼ不可能だった。
得体がしれない人物の登場に、教室内の緊張はより一層高まる。

「あの……」
『まずは、一つ。皆様の許可なく、このイベント会場へ連れてきた事を謝罪いたします』

誰かが声をかけるよりも早く、男はペコリと頭を下げる。
丁寧な言葉で、謝罪を述べている。
その口調から誰かを想定する事も、難しそうだった。

『今回は、年々衰退の一途を辿っていた我が社の最後のイベントという事で、過去最大の規模で行わせていただきます。
 皆様にも、ご協力の程よろしくお願い申し上げます』

丁寧すぎて、逆に気色悪さすら感じるほどの態度を見せる男。
なるほど、と。未来は段々と呑み込めてきた。
どうやら、これもテレビ局のイベントの一つ、という事らしい。

彼女達、765プロシアターのアイドル達は今までいろんな事をやってきた。
学園ドラマの撮影だったり、サッカーや野球だったり、肝試しだったり、バラエティ番組だったり。
ゴルフもやってみたし、サイクリングだってチャレンジしてみたし、本格的な映画の撮影もしてきた。
今回もそんな奇想天外なイベントのうちの一つなんだろうと、そう理解はできた。

『では……早速ですが、今回のイベントの説明に移らさせていただきます』


そのはず、なのに。
何故だか、未来の不安は一向に晴れなかった。

イベント内容が発表される前に、今度はどんな事をやるんだろうという不安を抱くのはよくあった。
ただそれは、期待と紙一重のものでもあったし、ワクワクしていた気持ちもあった。
でも、今回は違う。さっきまでの異常だと思っていた気持ちも、また一向に消えていない。
何故かは分からない。言葉には表せない。でも、その言葉の先を聞きたくない。
そんな不安が、彼女の動悸を早めていて。


『バトルロワイアル―――皆様には、これからたった1人になるまで、殺し合ってもらいます』


その予感は、最悪な形で現実となる。

「……えっ?」

その言葉を、未来はすぐには理解できなかった。
あまりにも突飛で、それは彼女に聞き間違いではないかと思わせるには十分すぎて。
周りも、困惑を現すかのようにざわついている。
しかし、目の前の男はその動揺に一切気にする事なく、説明を続けた。

『ルールはそのまま、単純です。最後の1人になるまで、この孤島の中で50人で殺し合う、というものです』

繰り返された言葉は、彼女達のかすかな希望をあっさりと打ち砕いた。
決して、聞き間違いでも何かの比喩でもない。
男は、ここにいる劇場の仲間達で殺し合いをしろ、と。そう言っていた。
そんな唐突に放たれた言葉に、納得できるはずがない。

「何、言ってるのよ……そんなの警察がっ」
『警察が、などと考えても無駄です』

誰かが叫んだ言葉に、言葉が重なる。
殺し合いなんて、そんなのどう考えたって犯罪だ。国や警察がそんなことを許すわけがない。
その言葉に未来も同感だったが、男はそう言われる事を分かっていたかのように話を続けていく。

『今回のイベントに対し、我々は徹底した準備を行ってきました。
 イベントとしてしばらく事務所から離れる事を不思議がるものは、ほとんどいません。
 また証拠も隠滅いたしましたのですぐに足がつく事はありませんし、仮に異変に気付かれたとしても、おそらく一月はゆうにかかるでしょう。
 それに……我々はもはや国家権力を恐れる事はありません。この覚悟、よく理解していただける事を願います』

淡々と、男は語っていく。
その言葉には、狂気が宿っていた。
それが間違っている、犯罪だという事を否定せず、それでも行おうとしている。
どう考えたって異常だ。でも、そんな男がこの場を支配している。
すぐには助けはこない。その言葉が、より絶望感を重くさせた。

『では……理解いただけたところで、詳しい説明に移らさせていただきます。
 今回のイベントに関し特に時間制限は設けませんが、あまりにも殺し合いが滞るようであれば、こちらもそれ相応の対応を取る可能性があります。
 また、開始から6時間ごとに死亡者と進入禁止エリアの発表を島中に流します。
 進入禁止エリアは、時間が経つ事に増加していきます。殺し合いをより円滑に進めるための措置ですので、ご理解いただけますようお願いします』

こちらの反応を一切気にすることなく、檀上の男は淡々と話を進めていく。
それ相応の対応、禁止エリア。一つ一つの単語が、ただただ殺し合いを進める事だけを重視していた。

『殺し合い開始にあたって、各参加者には食糧や水、懐中電灯や方位磁石に、地図やメモ機能などを内蔵した携帯端末。
 そして、それぞれによって違う武器類等を支給させていただきます。殺し合いに役立てていただけたら、幸いです』

殺し合いに役立てる、なんて。
そんな言葉の響きが今の雰囲気から浮きすぎていて、まるで現実じゃないような錯覚さえ覚える。
しかし、目の前の仮面の男の言葉に冗談だと感じられる要素は何一つなくて、どうしようもない現実を感じざるをえなかった。

『……そして、これからが最も大事な説明です。聞き逃さないようにお願いします。
 せっかくですので、デモンストレーションも兼ねて一つの映像を見ていただきましょう』

その言葉を合図にして、教室の扉が開かれる。
黒いスーツに男と同じような仮面をつけた、パッと思い浮かべるエージェントみたいな服装の男達。
彼らにより、教壇の上に一台のテレビが置かれる。仕事を終えた男達は、そそくさと部屋から出ていった。
そのテレビはすぐに電源がつけられ、ザー……と砂嵐が映り。やがて、映像が流れ出す。

「……高木、社長?」

そこに映っていたのは、彼女達がよく知る人であった。
高木順二朗。彼は、未来をはじめとしたアイドル達が所属するプロダクションの社長だ。
日常においてに深く関わっていたわけではないが、いつも朗らかな雰囲気で接し、真摯にアイドル達の夢を応援していた初老の男性。
彼がいなければ、彼女達はアイドルとしての1歩を踏み出すこともできなかっただろう。
その人が今、映像の向こうで捕らわれていた。

『ご安心ください。高木社長はまだ生きております』

彼女達の反応を見て、男は一言付け加える。
体を椅子に縛り付けられていて、猿轡と布で目と口を塞がれていて。
そんな状況なのに、高木社長はぴくりとも動かない。
それを傍から見たら生きているかも定かではなかったが、とりあえずは無事らしい。
決して安心したとは言えなかったが、未来はひとまず胸をなでおろした。

『それでは皆様、高木社長の首元にご注目ください。皆様と同じ、首輪をつけさせてもらっています』

そんな事をあの男は全く気にせず、淡々と説明を続ける。
首輪。確かに、目の前の映像に映る社長には、同じものがつけられている。
さっきも確認した通り、ここにいる全員につけられているチョーカーのような首輪。
これに、何かがあるのだろうか。そう思い触れてみて。

『むやみに触らない方が身の為かと思います。この中には、小型の爆弾が内臓されていますので』

咄嗟に、手を放した。
爆弾。未来にとって、漫画とかアニメとか、そんな遠い世界でしか聞いたことのない言葉に、背筋が凍った。
例えどんなに小さなものだろうと、こんなに肉薄した場所で爆発すればどうなるかだなんて、想像に難くない。
決して逆らえない。逆らったら、待っているのは死だと。
その事が、彼女達に恐怖を与えて。


『首輪の爆弾が爆発する条件は大きく分けて三つあります。
 一つは切断しようとしたり、無理に外そうとした時。一つは禁止エリアに入った時。そして……」

そして、何より。
これから行われれる『デモンストレーション』の想像が、できてしまった事の、恐怖が。


『……我々の判断で、爆弾のスイッチを押した時です』




ボン、と。

あまりにも軽い音と共に、映像が真っ赤に染まった。


「―――」


あまりにもあっさりと、それは終わった。
その映像の向こうの光景に、室内は嘘のように静まりかえる。
あるいは、彼女達はその現実を受け入れられなかったのかもしれない。
流れたのはあまりにも残酷で悪趣味で、つくりものとでも思ってしまいたいもの。


高木順二郎は首から上がなくなって、死んだ――なんて事。


「……うそ」

ぽつりと、この部屋のどこかで呟かれた。
小さい声も、静まり返った部屋の中で隅々まで響き渡る。
そうだったなら、どれだけよかっただろう。
ドッキリって言われたなら、どれだけ救われるのだろう。

『いいえ、すべて本当の出来事です』

しかし、そんな希望を抱く事すら許されなかった。
その言葉に反応して、男は語りだす。

『高木社長は死んだ。そして、皆様もあるいは……ああいう風になるかもしれない、ですね』

ひっ……と、上擦った声が聞こえた。
少女達が抱いていた最悪の想像が、こんなにもあっさりと現実になってしまった。
すでに少女達の命は手のひらの上にあるという事実と、誰にも頼れないという、突き放された残酷な現実。
それらは全て受け入れがたいもので、しかし強引にでも理解せざるを得ない事だった。
彼女達は静まり返る。それを確認したように、男は口を開く。

『では、最後に……繰り返すが、この殺し合いは最後の1人になるまで終わらない』

その口調が、変わった。
その変化に、未来は俯きかけていた頭を上げる。
口調だけじゃない、先ほどまでの言いえぬ不気味な雰囲気が、また別の何かへと変わっているように感じて。

『かつての仲間や親友だろうと、殺さなかったら未来はない。分かるよな?』

そう、まるで彼女達の事を良く知っているような。
得体のしれない、憎むべき人のはずなのに、その懐かしさすら感じる口調。
それに、心当たりがあった。その姿、その雰囲気が、彼女のよく知る誰かと重なった。

(まさか、そんな)

彼女にとって何回目かの、嫌な予感がよぎる。
今まで最悪の想定が尽く当たってきた未来にも、これだけは絶対にないと否定したかった。
あの人が、そんなことをするはずがない。そんなの、絶対にありえない。
だが、それ以上に考えてしまった可能性を頭の外へ追いやる事もできずに。

『それだけが―――」

仮面を外して、変わっていた声も戻っていく。
それは、彼女達にとって聞き馴染みのある声で。


「――元の場所に帰れる、唯一の手段だ」


彼女が最も信頼していた人物が、そこにいた。


「プロ……ッ!?」


その人物に、未来は思わず立ち上がろうとする。
この現実だけは、受け入れられない。何かの間違いだって。
ただ、そんな感情に突き動かされて、体だけが動いて、しかし。

「あぁ、心配しなくても大丈夫だ……少し、皆には眠ってもらうだけだからな」

ぐらり、と。視界が揺れた。
なんとか体勢を整えようとして、だが体が思うように動かずに、そのままの勢いで床に倒れる。
その痛みを感じる間もないまま、彼女達の意識は段々と遠のいていく。

(どう、して……)

薄れゆく意識の中で抱いた疑問に、答えは返ってこない。
なんで、あの人がこんな事を。あの、優しかったプロデューサーが。
どれだけ嘘だと願っても、脳裏に焼き付いた光景だけは離れてくれなくて。

「次に起きた時、このイベントは開始される。『アイドル』として、最後まで諦めずに健闘してくれ」


ただ、どうしようもなくわかってしまった事は。


「それでは―――』


―――もう、あの時には戻れないのかな。



『バトルロワイアル、開催だ』



そう、最後にそんな事を思って。
彼女の意識は、途絶えた。



【高木順二朗 死亡】
【主催 ???】
【進行役 プロデューサー】

【バトルロワイアル 開始】


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 春日未来   いつまでも、ずっと 
 プロデューサー   第一回放送 


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