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Lion Heart

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Lion Heart

獅子は格下の存在である兎を狩るのにも全力を尽くすという。
それはここにいる可憐な金色の獅子とて例外ではない。
しかしこの獅子、些か臆病なようで。
はてさて、狩りの行方や如何に――


   ◆   ◇   ◇


ブロンドの長髪を揺らし、美麗な少女が草原を往く。
何かに怯えるかのような立ち振る舞いと手に握られた銃に目を瞑れば、誰もが振り向く絶世の美女だ。
その手に込めるは殺意。内に秘めるは確かな決意。

金髪の少女、篠宮可憐は打ち損じたロコを見つける為に探索を続けていた。
見失ってしまったが、彼女はまだそう遠くには行っていないだろう。
まだ人を撃つことに恐れは感じる。しかし、いつまでも逃げてばかりでは優勝は望めない。
今度こそ確実に仕留めるんだ。
そう心に決め、可憐は獲物の姿を探す。

どれほど歩いた時だろうか。可憐は地面に赤い印がついていることに気付いた。
よく観察してみると、印はこの先に見える建造物へ向かって点々と続いているようだ。

「こ、これってもしかして……血?」

先程傷を負ったロコのものだろうか。それとも別の誰かが負傷したのだろうか。
どちらにせよ、この血痕の先には手負いの人間がいるのは間違いない。
そのような者が相手なら、戦闘経験の少ない可憐でも勝利することは難しくないだろう。
だが、これがもしロコでない人物の血であった場合、傷を負わせた何者かが潜んでいる可能性がある。
果たして、危険を冒してまで参加者を減らしにいく必要はあるのだろうか。可憐は長考する。
そんなとき――

「ひいっ!?な、何、この音……」

どこからか不気味な音が聞こえてくる。
まるでドリルが回転しているかのようなけたたましい轟音だ。
音はどうも建物の内部から発せられているらしい。
いったい何が起きているのか。この中で戦闘が行われているのかもしれない。
少なくとも不用意に近づくのは愚策だろう。
可憐は正体のわからない怪音に慄き、急いでその場を後にした。


「はぁ……。こ、怖かった……」

いつの間にか音は聞こえなくなっていた。
なんとか危機を脱し、可憐は安堵する。

「うう……、ダメだなぁ、私……」

同時に、逃げ出してしまった自分を恥じた。
今度こそ変われると思ったのに、これではいつもと同じだ。
こんなことではプロデューサーに合わせる顔がない。

「つ、次こそは必ず……!」

だが、その機会は可憐の予想よりもずっと早く訪れる。

「あら、可憐じゃないの」
「り、律子さん……!」

秋月律子。アイドルとして活動する傍ら事務仕事もこなす765プロのブレイン。
そんな彼女がいつの間にか可憐のすぐそばまで接近していた。
驚きのあまり、可憐は反射的に距離をとる。
同時に、先手必勝といわんばかりに銃口を突きつけていた。

「ちょ、ちょっとあんた!いきなりどうしたのよ!」
「え、あ、ご、ごめんなさい……」

律子に一喝され、腕を下ろしかける可憐。
しかし、彼女は再び銃を構え直す。
次こそは必ず撃つと決めたのだ。ここで引き下がるわけにはいかない。
先程までの弱い自分に打ち勝つのだ。
銃を握る手こそ震えてはいるが、可憐の眼差しには確固たる意志が宿っていた。

「ご、ごめんなさい……。やっぱり私、あ、あなたを殺します……!」
「……そう。それがあんたの答えなのね」

全てを悟ったかのような表情を見せる律子。
――何か仕掛けてくる。そう読んだ可憐は律子の次の一手を警戒する。
しかし、彼女の口からは意外な言葉が発せられた。

「いいわ。あんたに勝たせてあげる。私の屍を超えて行きなさい」

降参の意思表示だった。
銃を向けただけで勝てるとは思いもしなかった可憐は呆気に取られている。

「え……?ど、どうして……」
「別に。ただ、あんたになら任せられると思っただけよ」

そういうと、律子は自分のデイパックを足元へと置いた。

「だからあんたに託すの。私を撃ったら中身は持っていきなさい。何かの役には立つだろうから」
「ま、待ってください!なんで私なんかに……」

自分を殺してもいいなどとは、いくら肝が据わっていてもなかなか言えることではない。
はいそうですかと撃ってしまえばそれで終わりなのだが、どうしても納得のいかない可憐は律子を問い質す。

「可憐。あんたはいつもすっごく気弱で、この殺し合いでも逃げてばっかりだろうと思ってたわ。
 でも違った。今は勇気を出して一歩踏み出そうとしてる。
 そんな頑張ってるあんたを見てたら、なんだか無性に賭けてみたくなったのよ」

意外だった。
まさかここまで律子に期待されているとは……。
可憐の胸に熱さが込み上げて来る。

「律子さん……。わ、私……。
 ……やります。やらせてください……!」

もう可憐に迷いはなかった。
律子がこれほど応援してくれているのだ。彼女の気持ちを踏みにじるわけにはいかない。

「よく言ったわ、可憐。あの世で応援してるから」
「は、はい……!頑張ります……!」
「あ、でも一つだけ。顔は撃たないでもらえるかしら?
 私も一応アイドルなわけだし、最後まで綺麗なままでいたいのよ」

律子の言い分も尤もだ。
断る理由もない可憐は大きく頷き、了承する。
そして、照準を定め、引き金へと指をかけた。

「可憐」
「な、なんでしょうか……?」
「必ず勝つのよ。そんでプロデューサーを見返してやんなさい!」
「……はい!」

律子の激励に可憐は大きく返事をする。
その声色はこの島に来てから最も自信に満ちたものだった。
可憐は一つ息を吸い、吐く。
もう手の震えもない。
彼女の鋭い眼差しは律子の胸部を正確に捉える。
銃を強く握り、そして、引き金を引いた。



「や、やった……!」

律子の体が崩れ落ちた。
可憐の弾丸は彼女の中心を見事に捉えたようだ。
しばらく様子を窺うが、ぴくりとも動く気配はない。

「律子さん……。私、あなたの分まで、頑張ります……!」

殺意を向けた自分にここまで真剣に喝を入れてくれた律子にはいくら感謝しても足りないくらいだ。
彼女の為にも、これからの戦いで必ず勝ち抜くことを誓う。

「あ、鞄の中身……」

律子は生前、撃ったら中身を持っていくように言っていた。
彼女の形見ともいうべき物だ。そんな大事な物を置いていくわけにはいかない。
可憐はデイパックの封を開く為、律子だったもののそばへと歩み寄る。


――おかしい。
デイパックの中身を検める可憐はえも言われぬ違和感を感じていた。
だがその正体がわからない。
弾はしっかりと命中した。鞄の中にも不審な物は入っていない。
なのに何かが……何かがおかしい。

「あっ……匂い……!」

それは匂いだった。
律子を銃で撃ち抜いたはずなのに血の匂いが全くしないのだ。
初めて人を射殺したことで動揺し、注意が向かなかったが、思い返してみれば律子が出血していたかどうか定かでない。

(もしかして、外した……?でも、律子さんは倒れてるし…………あれ?)

ふと気がつけば彼女の天地は逆さになっていた。
何者かがぶつかってきた衝撃で重心が崩れたのだ。
地面に叩きつけられ、苦悶の表情を浮かべる可憐。
立て続けに起こるイレギュラーに慌てふためきながらも、手探りで落とした銃を探す。

「銃……銃はどこに……」



「探し物はこれかしら?」

目当ての物はすぐ眼前に現れた。
しかし、それはもう可憐の所有物ではなくなっていた。


   ◇   ◆   ◇


「なんで……どうして……」
「まんまと騙されたわね。お人好しなあんたならきっと引っかかってくれると思ってたわ」

死んだはずの律子が銃を片手に可憐を見下ろしている。
今何が起きているのか、理解が追いつかない。

「さっき……ちゃんと撃ったのに……」
「ええ、確かに撃たれたわ。そりゃとっても痛かったわよ。でも私は無事だった。これのおかげでね」

そう言うと、律子は胸元を見せるかのように服の首元を引っ張る。
彼女の普段着の下からは黒い鎧の様な装束が覗いていた。

「こ、これって……」
「防弾チョッキってやつよ。こいつがあるから死なずに済んだってわけ。ま、衝撃までは防げないけどね。
 ――さて、これを着てないあんたは痛みに耐えられるかしら?」
「ひいっ……!」

自分が律子の術中に嵌ったこと、命の危機に瀕していることは理解できた。
だが、理解できたからといってこの状況が好転するわけではない。

「やめて……撃たないでぇ……」
「あんただって一発撃ったじゃないの。これでおあいこでしょ」
「いやぁ……っ、許して……何でもしますからぁ……」

もう先刻までの勇ましい面影はどこにもなかった。
今やただ怯え、命乞いをすることで精一杯だ。

「んー、どうしようかしら」
「ごめんなさい……ごめんなさい……ごめんなさい……」

撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ、という言葉がある。
可憐は人を殺す覚悟こそ出来ていたが、殺されることまでは想定していなかった。
死の恐怖に直面し、戦意も枯れ果てた彼女は泣いて許しを請うばかりだ。
律子を撃ったことか。
ロコを怯えさせてしまったことか。
仲間を蹴落としてまで生き残ろうとしたことか。
この世に生を受けたことか。
何に対して謝っているのか、可憐自身にすらわからなくなっていた。

「仕方ないわねー。じゃあ今回は大目に見てあげる」
「……え?」

どういう風の吹き回しか、律子から許しが出た。
可憐の祈りが通じたのか、あまりにも情けない姿に呆れ果てたのか。
なんにせよ、命だけは助かったようだ。

「ただし!これからは私に絶対服従するっていう条件付きよ。いいわね?」

しかし、喜びも束の間、可憐を失意の底に落とす言葉が告げられる。
命が惜しくば自分に隷属しろというのだ。

「――はい。わかり、ました……」

従うより他なかった。
武器を取られ、生殺与奪の権を掌握されてしまっては逆らう術がない。
臆病な獅子の振り絞った勇気は鬼の知略の前に敗れ去った。


   ◇   ◇   ◆


まさかここまで上手くいくとは思わなかったわ。
危ない橋を渡るなんて私らしくないな、とは思う。
相手が可憐じゃなかったなら。
その可憐が銃を持っていなかったなら。
彼女が殺し合いに乗っていなかったなら。
私の支給品が防弾チョッキじゃなかったなら。
どれか一つでも欠けていたら、こんな博打は打たなかったでしょうね。

でも結果的に成功した。
銃という強力無比な武器、そして篠宮可憐という駒。
この二つを手に入れられたのは命を賭けるリスクに十分見合った成果と言える。
一歩間違えば死ぬような作戦は取らないつもりだったけど、やっぱり自衛手段がないと話にならないものね。

でもまぁ、こんな危なっかしいのは今回きりにしておこうかしら。
今のだって下手すれば可憐がしくじって防御できない箇所を撃たれる可能性だってあったわけだし。
私もまだ運に見放されてはいなかったみたいね。

さて、目的の物も手に入ったし、また今後の方針を決めないと。
私が生き残れるようにしっかり働くのよ、可憐。


【一日目/午前/E-4】

【秋月律子】
[状態]健康、胸部に衝撃
[装備]防弾チョッキ、グロック19(13/15)
[所持品]支給品一式、不明支給品0~1
[思考・行動]
1:不信。情にほだされないように、冷静な対応を。
2:現状は様子見。乗るべきと判断したら乗る。

【篠宮可憐】
[状態]健康
[装備]なし
[所持品]支給品一式、予備マガジン×3、ランダム支給品(0~1)
[思考・行動]
基本:殺し合いに乗る
1:逃がしたロコを捜索しつつ、他の参加者も探す
2:武器もなくなっちゃったし、律子さんも怖い……。どうしよう……。


【防弾チョッキ】
秋月律子に支給。
銃弾の貫通を防いでくれるボディアーマー。
衝撃までは防げない為、これを着用していても致命傷に至ることはある。
原作バトルロワイアルでも律子と同様、騙し討ちの用途で利用した参加者が登場した。



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 Getaway   秋月律子   Perfect simulation――? 
 IMPRESSION   篠宮可憐 


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