[[秀逸なSS達]] 632 名前: 作家(アラバマ州)[] 投稿日:2007/04/15(日) 01:51:48.55 ID:WQoaXR2b0 おk。 とりあえず、今までの作家さんたちとは別世界で頼む。 OPはこれなwww ーhttp://www.youtube.com/watch?v=D163VhbDGuI あいつと出会ったのは、何時だっただろうか。 豪はそんな事を思いながら、土屋研究所への道を急いでいた。 『ラストレース』 634 名前: 作家(アラバマ州)[] 投稿日:2007/04/15(日) 02:00:17.64 ID:WQoaXR2b0 「こら、遅いわよ豪!!」 「わりいわりい、ちょっと色々あってさぁ。」 研究所の入り口で声を張り上げる幼馴染に、豪はいつも通り、笑って誤魔化す。 「まったくもう。みんな待ってるわよ。」 「だ~か~ら~悪かったてば。」 昔から、ジュンと烈兄貴にだけは頭があがらねぇな。 これからもずっと、尻に敷かれて…って俺何考えてるんだ。 「何、ニヤニヤしてるのよ。」 「何でもねぇ!!」 怪訝そうに自分を見詰めるジュンを視界から外すと、豪は一目散に走り出した。 「ちょっと~待ちなさいよ~!!」 637 名前: 作家(アラバマ州)[] 投稿日:2007/04/15(日) 02:08:02.14 ID:WQoaXR2b0 「あ、うんこ野郎が来ただす。」 「やっとお出ましでゲスな、豪君。」 「豪、遅いぞ。」 部屋に入ると、いつものメンバーからいつものお小言を貰う。 「だ~、もう!!5分くらい大目に見ろ!!」 来月からは中学2年だというのに、豪のこういう性格はあの頃から変わらない。 「そういう問題じゃない。まったくお前って奴は…。」 「まあ、良いじゃないか烈君。」 「博士。」 部屋の入り口には、少し白髪の混じった白衣の男性と、もう2人、金髪の男と黒髪の男。 どうやら、役者は揃ったようだ。 「それじゃ、始めようか。」 Jが言うと、烈の合図で一斉に声が沸きあがった。 「リョウ君、卒業おめでとう!!」 641 名前: 作家(アラバマ州)[] 投稿日:2007/04/15(日) 02:17:43.07 ID:WQoaXR2b0 リョウの中学卒業パーティは、色々な意味でつつがなく進行した。 途中、アフリカから届いたカイのビデオレター(何故か、気持ち悪いくらい笑顔がまぶしかったが)を上映したり、ジュンにジョーからのメールを代読されたりしたが、 そこら辺は、若さゆえの何とやらという事で…。 そんなこんなで、楽しい時間はあっという間に過ぎていった。 最後に、リョウから皆に感謝の挨拶が述べられ、会はお開きに。 会場には、片付けに残った豪とジュン、次郎丸、そして博士と話しをしているリョウだけが残された。 片付けといっても、大したものではない。 30分も経ってほぼ終わりかけた頃、豪はふっと立ち上がり、相変わらず話しをしているリョウの方へと歩いていった。 「ちょっと、豪。まだ片付け終わって…」 しかし、その声を次郎丸が腕で制する。その理由も、ジュンにはすぐにわかった。 「リョウ、最後に俺と勝負しねぇか?」 644 名前: 作家(アラバマ州)[] 投稿日:2007/04/15(日) 02:27:56.89 ID:WQoaXR2b0 ※年齢制限はフルカウルブーム時のものって事にしといてねwww 「勝負?」 一瞬、リョウの顔が変化する。 だが、豪はいつものように答えた。 「マグナムとトライダガー、どっちが速いか勝負だ。」 リョウには、豪の言わんとしている事がわかった。 [[ミニ四駆]]には、高校生以上は公式レースに参加できないというルールがある。 それは、中学までと高校生以上では、資金力、技術力など様々な面で大きな差が出来、対等なレースができない可能性があるからだ。 「良いだろう。だが、トライダガーというのは…」 「ほら!!」 豪が投げた塊をリョウが受け取る。 ブロンドとグレーが混じったような色に、X字型のボディ。 それは間違いなく、かつてのリョウの愛車トライダガーXそのものだった。 「驚いたか?土屋博士に頼んで作ってもらったんだ。」 豪はそう言いながら、今度は自分のポケットからもう一台のマシンを取り出す。 白地に青と赤、寝かせたウィングには大きな文字で『MAGNUM』と書かれている。 それは、かつて大神研究所の溶岩に沈んだ[[マグナムセイバー]]だった。 648 名前: 作家(アラバマ州)[] 投稿日:2007/04/15(日) 02:38:27.39 ID:WQoaXR2b0 何も言わず、無言でマシンを見詰めるリョウ。 その脳裏には、今までの思い出が次々と蘇ってくる。 豪も、それがわかっているのでじっと黙っていた。 少しの沈黙。そして 「良いだろう。30分後、裏のコースで勝負だ。」 「おっしゃ、そうこなくっちゃ!!」 豪はレース出来るのが楽しくて仕方が無いといった表情で、明るく答えた。 「と、言う訳でジュン、俺はマグナムのセッティングしてくるから、あとよろしくな~!!」 「ちょっと、待ちなさいよ!!」 ジュンの声も聞かず、豪は裏庭のコースへ向けて走っていく。 「全く、仕様が無いんだから。」 そう言いつつも、豪の背中を笑顔で見詰めるジュンの姿があった。 651 名前: 作家(アラバマ州)[] 投稿日:2007/04/15(日) 02:52:24.22 ID:WQoaXR2b0 土屋研究所の裏庭は広い。 その無意味に広い裏庭に、WGP用に作ったオフロードコースがある。リョウと烈が設計し、皆で何度も走らせた思い出深いコースだ。 そこに今、2台のマシンが音を立て、スタートを待っていた。 「それじゃ、行くわよ。準備は良い?」 「問題ない。」 「おう、ばっちりだぜ!!」 ジュンの問いに、リョウも豪も自信たっぷりに答える。 「豪、スイッチちゃんと入ってる?」 「うっせー!!俺がそんな凡ミスするか!!」 いつぞやのレースを思い出したジュンの冗談に、豪は顔を真っ赤にして怒っている。 だが、笑顔が混じった明るい怒り方だ。 「じゃ、行くわよ。レディ…」 2人の男の瞳が、刹那、強い眼差しに変わる。 マシンと、そしてその先へと続くコースを見詰める。 スーパー1シャーシとレブチューンモーターの駆動音が、カリカリと心地よく耳に響く。 「ゴー!!」 2人の手を離れたそれぞれのマシンが、砂煙を巻き上げ、真っ直ぐにコースを走り始めた。 652 名前: 作家(アラバマ州)[] 投稿日:2007/04/15(日) 03:05:20.52 ID:WQoaXR2b0 先に素早い加速を見せたのは、マグナムだった。 「いっけー!!マグナーーーーーーーーム!!」 その声に答えるように、豪のマグナムセイバーが白い閃光となってストレートを突き進む。 「へっへ~このままぶっちぎりだ!!」 「そうは行かん。」 リョウの鋭い声に、豪が振り向くとすぐそこにトライダガーが居た。 ダウンフォースが効き始めたのか、ぐんぐん加速していく。 「へ、そうこなくっちゃ。負けるな、マグナーム!!」 2台のマシンは、高速コーナーに突入していった。 「良いな~。私も走らせたい。」 2人のレースを見ながら、ジュンは思わずそう呟いた。 しかし、隣に座る次郎丸は、今までにないくらい真剣な面持ちで、レースを見詰めている。 「あんちゃんとうんこ野郎の勝負、久しぶり見ただす。」 「そういえば、そうねぇ。」 ジュンも思わず同意する。 WGPが始まって以来、かつてのライバル2人は、同じチームの仲間として走ってきた。 勿論、フリーフォーメーションで思いっきり走らせる事がなかった訳ではないが、2人きりでの真剣勝負は、ここ数年見た事がなかった。 それは次郎丸にとって、懐かしいようでもあり、新鮮でもあった。 654 名前: 作家(アラバマ州)[] 投稿日:2007/04/15(日) 03:20:12.14 ID:WQoaXR2b0 高速コーナーを、マグナムは荒削りに、トライダガーは得意の壁走りで通過していく。 それは、かつてのマグナムセイバーとトライダガーXの走りそのものだった。 「そんな走りじゃ、俺のトライダガーには勝てないぜ!」 コーナーで逆転したリョウが、余裕の顔で言う。 それに答える豪もいつもの表情と反応だった。 「うっせー!すぐに追いついてやらぁ!!」 白い弾丸マグナムセイバーは、トライダガーを追撃すべく、一気に加速する。 だが、トライダガーの方が一枚上手だ。中々追い付けない。 「負けるな!マグナム!!」 豪は走るマシンを追いかけながら、その先のコースを見詰めた。 不思議な感覚だった。 トライダガーは、多少手を加えた部分はあれど、基本的には昔のセッティングのままだ。 レブチューンモーターに超速ギヤ。ローラーはフロントのみ。 専用モーターにGPチップを搭載したグランプリマシン、[[ライジングトリガー]]と比べれば、それこそ月とスッポンのような速さのはずだ。 確かに、いつもより自分の走る速さが遅いのはわかっている。 だが、トライダガーの事を決して遅いとは感じなかったのだ。 「お前はどうなんだ、豪?」 自分の最大のライバルに、聞こえないように呟く。 それはきっと、GPレーサーとして4年間走ってきた自分が、忘れかけていた何か。 口では上手く言い表せないが、それはきっと、とても大事な事なんだと思う。 リョウはそんな事を思いながら、後ろの豪を見、そして目の前のコースを見た。 658 名前: 作家(アラバマ州)[] 投稿日:2007/04/15(日) 03:32:58.75 ID:WQoaXR2b0 100メートルのバックストレートを抜け、トライダガーは上り坂に入った。その先には、ヘアピンカーブと高速ダウンヒルコースが待っている。 後ろを見やると、さっきよりマグナムとの差が縮まっている。 「腕を上げたな、豪。」 本人に聞こえないように呟くと、トライダガーはヘアピンを曲がり、ダウンヒルへ入った。 「行けー!トライダガー!!」 その声と共に、トライダガーは風を受けぐんぐん加速していく。 紫のエンドベル、レブチューンモーターと黄土色の超速ギヤは、唸り声を上げる。 リョウは、その先に見えるゴールを真っ直ぐに見詰めた。そろそろ来る頃だ。 「かっとべ、マグナム!!」 10メートルほど後ろで、豪の声が聞こえる。 マグナムは、ヘアピンカーブの出口で遠心力に体を預けながら、空へと飛び上がった。 「行くぜ!マグナムトルネーーーーーーーーーーーード!!」 豪のマグナムセイバーが、正しく白い弾丸となって、トライダガーに迫る。 「いっけーーーーーーーーーーーー!!」 迫りくるマグナムと豪を見詰め、リョウはふっと笑った。 「行くぞ、トライダガー。」 ダウンフォースマシン、トライダガーXが最後の加速を見せる。 そのすぐそばにマグナムが着地。 こちらも一気に加速していく。 659 名前: 作家(アラバマ州)[] 投稿日:2007/04/15(日) 03:40:49.99 ID:WQoaXR2b0 「行け!!マグナム!!」 「負けるな、トライダガー!!」 ゴール前、10メートルの攻防。9、8、7、6、5メートル、4、3、2、1… 「ゴール!!」 豪が叫ぶ。 そして2人は、それぞれのマシンを手に受け、そっとスイッチを切った。 「なぁ、どっちが勝ったんだ?」 「え、あ、その…見てなかった(テヘ)」 「お前、何のためのチェッカーだよ!全く仕様が無えな。」 「うっさいわね。仕様が無いでしょ、良いレースで夢中になっちゃったんだから!!」 豪の言葉に、ジュンがプイッとそっぽを向く。そして、次郎丸が自信たっぷりに答えた。 「あんちゃんが勝ったに決まってるだす。うんこ野郎が勝てる訳ないだす!!」 「なんだと~~~~~~この野郎!!」 「うっさいだす、うんこうんこ野郎!!」 「待て~~~~~!!」 逃げ回る次郎丸を、豪が追い掛け回す。 いつもの光景だ。ジュンは内心、中2のする事じゃないと常々思っているのだが…。 そんな光景を見ながら、リョウが弟を呼んだ。 「次郎丸。ちょっと話しがある。」 660 名前: 作家(アラバマ州)[] 投稿日:2007/04/15(日) 03:48:45.39 ID:WQoaXR2b0 「ん、何だすか、あんちゃん?」 リョウの真剣な眼差しに、次郎丸も豪も動きを止め、リョウの元へ向かう。 2人が揃うと、リョウは次郎丸に手を出すように言った。 「こうだすか、あんちゃん。」 不思議そうに兄を見詰める次郎丸。 その瞳をじっと見ながら、リョウは、そっと何かを手渡し、言った。 「今日から、これがお前のマシンだ。」 「え?」 次郎丸の手の上には、さっきまでマグナムと真剣勝負を繰り広げていたトライダガーXが載っていた。 まだ、モーターケースの辺りが焼けるように熱い。 「土屋博士と相談して決めた。今日から、お前が俺の替わりに、ヴィクトリーズで走ってみろ。」 「へ?」 次郎丸はあまりの急展開に、ただただ目を丸くする事しかできない。 「お前がWGPで走りたがっていたのは知っていた。これからは、そのトライダガーで、世界を相手に走ってみろ。」 「あ、あんちゃん…」 次郎丸はすっかり涙目だ。 「ありがとうだす。おら、大切にするだす!!」 鼻水を啜りながら、次郎丸が言葉をつむぐ。 「但し、それをやるには2つ条件がある。」 664 名前: 作家(アラバマ州)[] 投稿日:2007/04/15(日) 04:04:21.91 ID:WQoaXR2b0 「条件?」 「そうだ。」 リョウは不安そうに自分を見詰める弟に、少し強めの口調で語りかけた。 「ひとつ、次のレースまでにトライダガーを自分のマシンにできなければ、返してもらう。」 そばで聞いていた豪の脳裏に、初めてセイバーを託された日の光景が蘇る。 そういえば、あの時、博士もそんな事言ってたっけ…。 「わかっただす。絶対ものにしてみせるだす。」 「良し。で、もうひとつの条件なんだが…それは…。」 「それは?」 次郎丸が再び不安そうに見詰める。 リョウは、そんな弟に、今度は優しい兄の眼差しで答えた。 「それは、たまにはGPチップを外して、モーターも何もかも全部ノーマルセッティングに戻して、走ってみる事だ。」 「へ、そんな事で良いんだすか?」 あまりのあっけなさに、次郎丸が逆に聞き返す。 「そうだ。まだお前にはわからないかも知れないが、いずれそうする事の大切さがわかってくるはずだ。それがわかれば、お前も一流のミニ四レーサーだ。」 リョウは、じっと弟の目を見ながら、そう答えた。 それは、さっき豪と走って、急いで付け足した条件だった。 きっとこれが、一番大切な事なんだ。 かつて、ミニ四駆にレースという概念が持ち込まれて以来、レーサー達は、ひたすらに速さを追い求めてきた。 誰より速く、昨日より速く そんな思いに答えるように、ミニ四駆もどんどん進化していった。 一般マシンの性能を遥かに超えたGPマシンも、ある意味ではそのひとつの結果だろう。 だが、忘れてはいけない大事な事がひとつだけある。 それは、マシンと、そしてライバル達と共に走り、共に楽しみ、時に悔しがりながら、それでも諦めずに、ゴールを目指し続ける事だ。 いつか、誰かも言っていたっけ。「一生懸命マシンを改造して、それで勝てれば最高!!」なのだから。 ----