4 : ◆UcHUIyQWbY :2008/09/20(土) 00:17:45.19 ID:izBjfjCGO
「よっしゃー!俺の勝ち!」
('(゚∀゚∩「また負けたよ…」
「なおるよ、お前また最下位だなw意地張らずにVSシャーシ使ったら?」
('(゚∀゚∩「………」
この模型屋に集まるレーサー達の使う主なシャーシは最新型のVSシャーシ、そしてXシャーシ、S1シャーシだった。
しかしそんな中、僕が使っているのはタイプ1シャーシの
サンダーショットJr.だった。
('(゚∀゚∩「一応こだわりがあるんだよ!」
たしかにVSシャーシやXシャーシは駆動系が軽く、少し弄っただけでも速くなる。
5 : ◆UcHUIyQWbY :2008/09/20(土) 00:18:53.63 ID:izBjfjCGO
対してタイプ1シャーシは駆動系の出来が悪く、ときにはまともに走らないものさえある。
さらに、軸受けにベアリングを使えない、ギヤ比が大きい、リヤステーの強度を確保しにくいなど数々の欠点があった。しかし、その欠点がどこか愛しかった。
('(゚∀゚∩「…今日はもう帰るよ」
「おう、次は勝てるといいなw」
バカにされているのはわかっている。タイプ1なんて古いシャーシに負けるわけないと思っているのだろう。
~~~~~~~~~~~
('(゚∀゚∩「ただいま」
「あら、またミニ四駆?もういい加減卒業したら?」
7 : ◆UcHUIyQWbY :2008/09/20(土) 00:20:24.59 ID:izBjfjCGO
帰ると早速母親から小言を言われた。
('(゚∀゚∩「ちゃんと勉強もしてるよ!」
「そう、それならいいんだけど。お兄ちゃんたちは2人ともいい大学入ったんだから、あなたも頑張ってね」
('(゚∀゚∩「わかってるよ…」
僕の2人の兄は名門大学の医学部と法学部にそれぞれ進学していた。2人とも小さいころから優秀で、僕が勝てるものといえば手先の器用さくらいだった。
('(゚∀゚∩「勉強するか…」
僕もそんなに勉強が苦手な方ではない。むしろ学校でも良い方だろう。このままそれなりに良い大学に入って、それなりに良い会社に入ることになるのだろうか。
8 : ◆UcHUIyQWbY :2008/09/20(土) 00:21:09.34 ID:izBjfjCGO
▼・ェ・▼「ワンワン!」
僕の部屋の前で愛犬のビーグルが飛びついてきた。
('(゚∀゚∩「よしよし、僕の帰りを待っていてくれたのか」
ビーグルはまだ子犬の頃に、捨てられていたのを僕が拾ってきたのだ。両親に反対されたが、自分で世話をするのを条件に飼うことを認めてもらったのだ。
約束通り世話はちゃんとした。小さい頃はミルクもあげたし、風邪を引いたときは布団に入れて暖めて寝た。
('(゚∀゚∩「僕の気持ちをわかってくれるのはお前だけだよ…」
▼・ェ・▼「くぅ~ん?」
~~~~~~~~~~~~
9 : ◆UcHUIyQWbY :2008/09/20(土) 00:23:30.50 ID:izBjfjCGO
('(゚∀゚∩「こんにちは」
「おう、来たか。今日もタイプ1か?w」
('(゚∀゚∩「そうだよ!」
「懲りねえなwww…そういえば今日は変な奴が来てるぜ?」
('(゚∀゚∩「変な奴?」
「ほら、今走らせてる」
\(^o^)/「ミニ四駆 楽しいです」
そいつは僕と同い年くらいの、少し挙動不審な奴だった。
「あ、マシン止めたぜ。あいつのマシン見てみろよwww」
('(゚∀゚;∩「あれはなんだい?」
そいつのマシンはのボディに女の子のキャラクターが描かれた
マグナムセイバーだった。
10 : ◆UcHUIyQWbY :2008/09/20(土) 00:24:41.78 ID:izBjfjCGO
「な、変な奴だろ?www」
('(゚∀゚∩「たしかに変な奴だよ」
マシンをふたたび走らせる様子はないので、僕は自分のサンダーショットを走らせようとコースに近づいた。
\(^o^)/「はじめまして 僕は オワタといいます」
と、そいつが唐突に話しかけてきた。どうやらオワタというらしい。名乗られた以上、無視するのも失礼なのでこちらも返事を返す。
('(゚∀゚∩「はじめまして。なおるよだよ」
\(^o^)/「なおるよさん ですか。じゃあ なおさんって呼びますね」
('(゚∀゚∩(なにこいつ!いきなり馴れ馴れしいよ!)
初対面でいきなりあだ名とかないだろう。やっぱり変な奴だ。
12 : ◆UcHUIyQWbY :2008/09/20(土) 00:26:20.11 ID:izBjfjCGO
\(^o^)/「なおさんのマシン タイプ1シャーシ なんですね」
('(゚∀゚∩「…そうだよ」
こいつも僕のマシンをバカにするのだろうか?
\(^o^)/「かっこいいですね」
オワタが発した言葉は意外だった。
('(゚∀゚∩「そ、そうかな?」
\(^o^)/「塗装もきれいだし オリジナリティがあっていいと思います」
('(゚∀゚∩「あ、ありがとう」
\(^o^)/「僕のマシンも 見てください」
オワタはそういうと、例のマシンを見せてきた。
13 : ◆UcHUIyQWbY :2008/09/20(土) 00:27:59.50 ID:izBjfjCGO
('(゚∀゚∩「それは…」
\(^o^)/「シスターエンジェルの 麻里亞ちゃんです」
('(゚∀゚∩「そ、そう」
僕は知らないが、アニメかなにかのキャラクターらしい。
\(^o^)/「麻里亞ちゃんは シスターエンジェルの12人の妹たちの1人で…」
オワタはキャラクターについて熱く語り出したが、あいにく僕は興味がないので、マシンを走らせることにした。
('(゚∀゚∩「オワタくん、悪いけどこれから走らせるんだ」
\(^o^)/「だったら 一緒に 走らせましょう」
そうオワタが提案してきた。いいだろう。タイプ1とはいえそれなりにカスタマイズしてある。こんな奴なんかに負けないだろう。
('(゚∀゚∩「いいよ!一緒に走らせようか」
14 : ◆UcHUIyQWbY :2008/09/20(土) 00:30:09.12 ID:izBjfjCGO
「ギャハハ、なおるよ新顔にまで負けてるよwww」
\(^o^)/「わーい 僕の勝ちです」
('(゚∀゚;∩「負けたよ…」
レースの結果は、僅差ではあるがオワタのマシンの勝ちだった。意外にもセッティングの基礎は抑えているのか、オワタのマシンはそれほど遅くはなかった。
\(^o^)/「いい勝負でしたね」
('(゚∀゚∩「………」
あんな、マシンにアニメキャラをプリントするような奴に負けた…。そうだ、さっき僕のマシンを誉めたときだって、内心見下していたに違いない。きっと勝てると踏んで勝負を仕掛けてきたのだ。
15 : ◆UcHUIyQWbY :2008/09/20(土) 00:31:22.62 ID:izBjfjCGO
('(゚∀゚#∩「…おじさん、これください!」
「おや、なおるよくんがVSのマシンを買うなんて珍しいねぇ」
「お、なおるよもとうとうVSデビューか?」
僕は新マシンを買うと家に帰り、早速組み立てにかかった。初めて組むVSシャーシは、やっぱり駆動系が軽く、簡単な加工ですぐに速くできそうだった。
('(゚∀゚∩(見てろよ)
翌日………。
('(゚∀゚∩「オワタくん 勝負するよ!」
\(^o^)/「いいですとも…今日はタイプ1じゃないんですか」
('(゚∀゚∩「そうだよ!さあ、勝負するよ!」
16 : ◆UcHUIyQWbY :2008/09/20(土) 00:34:32.93 ID:izBjfjCGO
結果からいうと、僕の圧勝だった。今までタイプ1では到達することの出来なかった速度。オワタくんだけではなく、他のどのレーサーのマシンも僕のマシンにはかなわなかった。
「おいおい、初めて組んだVSでそれかよ…」
たしかに新しく組んだマシンは速い。しかしなんだろう?この空しさは…。
\(^o^)/「………」
('(゚∀゚∩「…それじゃあ、今日は帰るよ」
\(^o^)/「そういえば なおさんも僕と同じ高校生ですか」
帰ろうとする僕をオワタが引き止めた。
('(゚∀゚∩「…そうだよ」
\(^o^)/「どこの高校ですか」
('(゚∀゚∩「…オオカミ高校の三年生」
\(^o^)/「それじゃあ 僕の先輩ですね」
どうやらオワタも僕と同じ高校らしい。しかしそれがなんだというんだろう?僕は帰路についた。
17 : ◆UcHUIyQWbY :2008/09/20(土) 00:35:58.97 ID:izBjfjCGO
翌日…………。
('(゚∀゚∩「ふぅ、お昼にするよ」
学校の午前の授業が終わり、弁当を広げているところだった。
「おい、なおに用があるって後輩が来てるぜ」
クラスメイトから声をかけられた。
('(゚∀゚;∩(まさか…)
\(^o^)/「あ いたいた おーい なおさ~ん」
嫌な予感は的中した。
('(゚∀゚∩「…なんの用だよ?」
\(^o^)/「なおさんに 渡すものがあるんです」
18 : ◆UcHUIyQWbY :2008/09/20(土) 00:38:07.98 ID:izBjfjCGO
('(゚∀゚∩「渡すもの?」
\(^o^)/「ふふふ これです」
そういってオワタが取り出したのは、一対のミニ四駆のギヤだった。
('(゚∀゚∩「これは…!」
\(^o^)/「コンペティションギヤです」
コンペティションギヤとは、タイプ1とタイプ3シャーシに取り付けられるグレードアップパーツだ。4:1と、タイプ1につけられるギヤでは最も軽いギヤ比だが、古いパーツなので入手が困難だった。実際僕も実物を見るのはこれが初めてだ。
19 : ◆UcHUIyQWbY :2008/09/20(土) 00:39:44.22 ID:izBjfjCGO
('(゚∀゚∩「…これ、珍しいものだよね?いいのかい?」
\(^o^)/「僕は 使わないし なおさんの方が役に立ててくれると思ったからです」
確かにコンペティションギヤがあるとかなり助かる。僕は今までタイプ3付属の5:1のギヤ比のハイスピードギヤを使っていたが、それでは3.5:1の超速ギヤを積んだ新マシンには到底かなわない。
しかし4:1のコンペティションギヤなら、まだ勝負に持ち込めるはずだ。
('(゚∀゚∩「…オワタくん、ありがとう」
\(^o^)/「どういたしまして」
オワタは僕のマシンをバカにしてなどいなかったのだ。
('(゚∀゚∩「ところでオワタくん、オワタくんのマシンも人にバカにされたりするだろう?平気なのかい?」
20 : ◆UcHUIyQWbY :2008/09/20(土) 00:41:22.93 ID:izBjfjCGO
\(^o^)/「自分が好きなら 関係ないです 人は人 自分は自分です」
('(゚∀゚∩「…そうか!」
目から鱗が落ちる思いだった。そう、最初から人のことなど気にすることはなかったのだ。
さらに自分はバカにされるのを嫌がっていながら、オワタのマシンのことをバカにしていたという矛盾にも気づき、自分が恥ずかしくなってきた。
('(゚∀゚∩「…オワタくん、ごめんよ。ありがとう!」
\(^o^)/「? どういたしまして」
オワタは自分の教室に帰っていった。そのあと僕は午後の授業が終わるのが待ち遠しかった。そして授業が終わるやいなや帰宅し、サンダーショットの改造に取りかかった。
22 : ◆UcHUIyQWbY :2008/09/20(土) 00:42:46.03 ID:izBjfjCGO
('(゚∀゚∩(そうだよ…本当に好きなら、恥ずかしがることなんてなんにもないんだよ!)
遅いマシンなら、普通以上に手をかけて速くすればいい。簡単なことだ。
タイプ1シャーシにベアリングは使えない?そんなこと誰が決めたんだ!穴を拡張すればいいじゃないか。
バンパーの強度が足りない?FRPで新造すればいい。
どちらも精度を出さなければかえって遅くなってしまうだろう。だが出先の器用さには自信がある。
慎重に作業する。よし、大丈夫だろう。そして最後にオワタに貰ったギヤをつける。
23 : ◆UcHUIyQWbY :2008/09/20(土) 00:44:20.79 ID:izBjfjCGO
('(゚∀゚∩「できたよ!」
我ながら良い出来だと思う。ホイールはスムーズに回転し、少しのブレもない。バンパーの強度も十分だ。
('(゚∀゚∩「いってきます!」
マシンを持って家を飛び出す。またミニ四駆?そんな母親の小言が聞こえた気がするが気にしない。
('(゚∀゚∩「こんにちは!」
\(^o^)/「おや 来ましたね」
オワタもすでに来ていたようだ。
('(゚∀゚∩「早速走らせるよ!」
「あれ、お前またタイプ1かよwww」
('(゚∀゚∩「いつものタイプ1とは違うよ!なんなら勝負するよ!」
「いいぜ、いつもみたいにコテンパンにしてやるよw」
24 : ◆UcHUIyQWbY :2008/09/20(土) 00:45:37.46 ID:izBjfjCGO
('(゚∀゚∩「オワタくん、スタートの合図頼むよ!」
\(^o^)/「わかりました……レディ…ゴー!」
オワタの合図で2台のマシンが飛び出す。
「げ、速いじゃねぇか」
僕のマシンはいつも以上の速さを見せる。さすがにこの前組んだVSよりは遅いが、それでも相手のVSマシンに負けない走りをしている。
('(゚∀゚∩「その調子だよ!サンダーショット!」
そして…
\(^o^)/「ゴール!」
「俺の負けか…なおるよ、やるじゃねえか」
('(゚∀゚∩「わかったかい?古いシャーシでも、手をかけてあげれば新マシンにも負けないよ!」
25 : ◆UcHUIyQWbY :2008/09/20(土) 00:47:53.19 ID:izBjfjCGO
\(^o^)/「なおさん やりましたね」
('(゚∀゚∩「オワタくん、ありがとう!」
\(^o^)/「コンペギヤのことならもういいですよ」
違う、それだけじゃないんだ。君のおかげで大事なことに気がついたよ。
('(゚∀゚∩「今日はもう帰るよ!」
\(^o^)/「もう 帰っちゃうんですか」
('(゚∀゚∩「うん。用事があるんだ」
僕は帰宅して母親の元へ向かう。もう覚悟は決めていた。
('(゚∀゚∩「母さん!」
「あら、なに?」
('(゚∀゚∩「僕、大学には行かない!他にやりたいことがあるんだ!」
26 : ◆UcHUIyQWbY :2008/09/20(土) 00:48:50.73 ID:izBjfjCGO
「…!急になにを言い出すの?それに大学行かないでいったい何をするつもり?」
('(゚∀゚∩「僕、専門学校に行ってトリマーになりたいんだよ!」
「トリマーって…」
('(゚∀゚∩「ペットの美容師さんみたいなものだよ!」
「知ってるけど…でもなんで急に?それに簡単になれるものなの?」
('(゚∀゚∩「急にじゃないよ…実は前から興味あったんだよ。お願いだよ、母さん!」
母さんが黙りこむ。やはりダメだろうか?
「…そうね、あなたは動物が好きだし、出先が器用だから向いてるかもしれないわね」
('(゚∀゚∩「…それじゃあ!」
「お母さん一人じゃ決められないからお父さんにも聞いてみなさい」
28 : ◆UcHUIyQWbY :2008/09/20(土) 00:51:25.37 ID:izBjfjCGO
('(゚∀゚∩「ありがとう、母さん!」
「お父さんが許してくれるかはわからないわよ?…でも、あなたがこんなにはっきり自分の意志を伝えるなんて初めてね。お母さんも説得してみるわ」
('(゚∀゚∩「ありがとう!」
ありがとう。オワタくん。君のおかげで決心がついたよ。
29 : ◆UcHUIyQWbY :2008/09/20(土) 00:53:01.41 ID:izBjfjCGO
数年後…。
「オワタくん、本当にこんなところに模型屋があるのかい」
「はい 僕も 最近 気づいたんです。あ、あそこです」
「本当だ…家の近くにあったなんて…。灯台下暗しとはこのことだね!」
「入ってみましょう」
「「こんにちは!」」
「おっお、僕のマシンがバラバラだお…」
「雑に組むからだよ、ブーン」
「馬鹿ねぇ」
「モナモナw」
「フォッフォ……おや、いらっしゃい。荒巻模型店へようこそ」
番外編~オワタとなおるよ~ 完
最終更新:2013年09月06日 13:55