人外と人間
人外アパート 「人外成分談義」 非エロ
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人外アパートで、住人達がそれぞれの恋人についてダベるだけのSS。
なので、カプ要素も薄ければエロもありません。
人外成分談義 859 ◆93FwBoL6s.様
「物足りないなぁ」
秋野茜はストローを銜え、溶けかけたチョコシェイクを啜り上げた。
「だったら、追加注文すればいいじゃない。高いものでもないんだし」
その隣では、綾繁真夜が紙ナプキンで油と塩に汚れた指先を拭っていた。
「てか、そんなに喰い足りないんすか? 茜も結構喰ったのに」
二人の向かい側では、人型シオカラトンボの少年、水田シオカラが顎を開いてざらざらとポテトを流し込んだ。
「そういうんじゃなくってさ」
茜はストローを口から離し、冷えた舌で唇を舐めた。中間テスト期間中だけあって、ハンバーガーショップの店内には三人と同じような目的で集まった中高生で溢れ返っていた。狭いテーブルに参考書やプリントを広げていたり、テストの成果を話題に盛り上がっていたり、或いはテストそのものから逃避するように遊ぶ相談をしていたりと、いつも以上に騒がしかった。茜らは、この店で腹拵えをしてから一番集中出来そうな真夜の家に移動して勉強する予定なのである。
「なんていうのかなー、こうっ!」
茜が両手を上向けて妙な格好をすると、真夜は少し残ったアイスコーヒーを啜った。
「だから、何がよ」
「もしかしてあれっすか、兄貴が御無沙汰だからっつーことっすかマジでマジで」
「もしかしてあれっすか、兄貴が御無沙汰だからっつーことっすかマジでマジで」
シオカラがにやけると、茜はシオカラを引っぱたいた。
「違うよ、そういうんじゃないってば。全くもう、しーちゃんは」
アイスコーヒーのカップを置いた真夜は、零れ落ちてきた黒髪を耳元に掻き上げた。
「差し当たって、茜は何が足りないのよ?」
「うーん、だからね、そのね」
「うーん、だからね、そのね」
茜は気恥ずかしげに、半袖セーラー服のスカーフを抓んだ。
「……もふもふしたいなぁって思っちゃって」
「あーそりゃ確かに兄貴にはないっすね、てか俺っちにもないっすね。もふもふマジパネェ」
「あーそりゃ確かに兄貴にはないっすね、てか俺っちにもないっすね。もふもふマジパネェ」
シオカラはダブルチーズバーガーを一度で半分以上囓り、ほとんど固まりのまま嚥下した。
「もふもふ、ねぇ」
真夜がちょっと笑うと、茜は力説した。
「そう、もふもふ。そりゃ、ヤンマは硬くてゴツくてでかくて飛べて男前で強くて可愛くて馬鹿でそりゃもう好きで好きで世界なんか小指の先でひっくり返せそうなレベルなんだけど、たまーに、たまぁーに、もっふもっふした生き物のお腹に顔を埋めたくなっちゃうの。ふっかふかの毛並みとぬっくぬくの体にぷにっぷにの肉球にぴこぴこ動く耳とふにゃふにゃした尻尾とかがとにかくビックリするほどユートピアっ! って生き物にさぁ」
「要するにネコ科っすか」
「そう、にゃんこ! もふにゃんこぉ!」
「要するにネコ科っすか」
「そう、にゃんこ! もふにゃんこぉ!」
シオカラの言葉に茜は力一杯同意して腰を浮かせかけたが、すぐに座り直した。
「にゃんこな人達ともっふもふするのはヤンマに悪い気がするんだけど、衝動は抑えきれなくて」
「そういえばマヨリンって、マジ変身とか出来ないんすか? ガチ魔法少女だし」
「何よ、そのマヨネーズの妖精みたいな愛称は」
シオカラのいい加減な渾名に真夜は少しむっとしたが、茜に向いた。
「そういえばマヨリンって、マジ変身とか出来ないんすか? ガチ魔法少女だし」
「何よ、そのマヨネーズの妖精みたいな愛称は」
シオカラのいい加減な渾名に真夜は少しむっとしたが、茜に向いた。
「そりゃ、私は魔女だし、変身術もそれなりに覚えたけど、期待に応えられるほどのものには変身出来ないわ。やろうと思えばネコには変身出来るけど、あんまりもふもふにはなれないし、それに……」
「あ、そっか。真夜ちゃんは全裸になるんだ! ネコは服を着ないもんね!」
「知っているなら大声で言わないでよ!」
「あ、そっか。真夜ちゃんは全裸になるんだ! ネコは服を着ないもんね!」
「知っているなら大声で言わないでよ!」
茜の無遠慮な物言いに真夜は赤面しかけたが、体面を保った。
「と、とにかく、そういう理由だから。いくら友達同士っていっても、無防備な姿の時にいじくられるのはちょっと」
「それはそれでマジ萌えるんだけど。にゃんこマヨリンと茜のイチャコラ」
「だからその頭の悪い愛称をやめてくれないかしら。触角引っこ抜くわよ」
「それはそれでマジ萌えるんだけど。にゃんこマヨリンと茜のイチャコラ」
「だからその頭の悪い愛称をやめてくれないかしら。触角引っこ抜くわよ」
真夜は唇を曲げ、シオカラの触角を本当に引っ張った。シオカラは頭を振って真夜の手を払い、紙ナプキンで顎を拭った。
「うへへ、サーセン。てか、マヨリンは物足りないもんとかあるっすか? てかないっすよね、アーサーの兄貴が相手じゃ」
「……ロボ」
「……ロボ」
真夜は店内の騒がしさに紛れるほど小声で呟き、視線を彷徨わせた。
「う、うん、もちろん、アーサーに不満なんてないわ。強いし格好良いし紳士だし夜は凄いし炊事洗濯は得意だしちょっとドジで抜けてるところもすっごい萌えて全人類なんて余裕で敵に回せちゃうんだけど、茜のアパートに最近越してきた、ブライトウィングさんっていらっしゃるじゃない? 地球防衛軍の。で、そのブライトさんが変形したり巨大化したりするのを見ていると、ああうちの人もこうだったら、って考えちゃうの」
「真夜ちゃんって、ロボットものとか好きなの?」
「ええ、まぁ。それなりに。アーサーは理解出来ないって言うから、最近はそんなに見てないんだけど」
「真夜ちゃんって、ロボットものとか好きなの?」
「ええ、まぁ。それなりに。アーサーは理解出来ないって言うから、最近はそんなに見てないんだけど」
真夜がやりづらそうに付け加えると、茜は腕を組んだ。
「それは難しい問題だね。まさか、アーサーさんにオールスパークの洗礼を浴びせるわけにもいかないし」
「そうなのよねぇ」
「そうなのよねぇ」
真夜は悩ましげに目を伏せていたが、シオカラに向いた。
「そういうシオカラ君はどうなのよ? ほづみさんに不満なんてなさそうなもんだけど」
「いやぁー、それがそうでもないんすよね」
「いやぁー、それがそうでもないんすよね」
シオカラはダブルチーズバーガーの包み紙をぐしゃぐしゃと丸め、ポテトの紙ケースに突っ込んだ。
「そりゃ、ほづみんはマジ愛してるっすよ。性格可愛くて良い体してて美人でエロい匂いがしてエロくてエロくてエロくて万年発情しちゃうぜヒャッハーって勢いなんすけど、ちらっと思うことがあるんすよ。ほづみんが空を飛べたら、俺っちみたいに羽根があったら、一緒に飛び回れるのになーって。虫系だったらリアル妖精っ! 鳥類だったらリアル天使っ!
ああもうほづみん最高っ! ガチパネェ! これで勝つる!」
「それは解るなぁ。私もヤンマと一緒に飛び回れるしーちゃんが羨ましいし」
ああもうほづみん最高っ! ガチパネェ! これで勝つる!」
「それは解るなぁ。私もヤンマと一緒に飛び回れるしーちゃんが羨ましいし」
茜はすっかり溶けて液体と化したチョコシェイクを啜り終え、カップを空にした。
「あれ、茜ちゃん達じゃないか」
その声に三人が顔を上げると、トレイを持った鎧塚祐介と岩波広海が立っていた。二人は大学帰りらしく、どちらも教科書で重たく膨らんだバッグを提げていた。
「祐介兄ちゃん、ヒロ君! ちょっと待ってね、片付けるから」
茜は包み紙や紙ケースを片付け、もう一つ椅子を引っ張ってきて四人掛けの席を強引に五人掛けにした。
「はいどうぞ!」
「なんか悪いな、邪魔しちゃって」
「なんか悪いな、邪魔しちゃって」
祐介が座ると、広海は躊躇いながらも座った。
「ごめんなさい、気を遣わせちゃったみたいで」
「いいんですよ。どうせ、私達は食べ終わったところですから」
「いいんですよ。どうせ、私達は食べ終わったところですから」
真夜が微笑むと、祐介は広海を示した。
「広海とは帰りの電車で一緒になったから、ついでにちょっと話していこうって思ってさ」
「主な話題はミチルのこととかアビーさんのことですけどね」
「主な話題はミチルのこととかアビーさんのことですけどね」
広海は斜めにトレイを置き、落とさないように気を付けながらハンバーガーの包み紙を開いた。
「それで、何の話をしていたんだ?」
コーラにストローを刺しながら祐介が尋ねると、シオカラがぎちぎちと顎を鳴らした。
「いやーそれがっすね、相手に物足りないものっつーかで。まさか祐介兄貴にはないっすよね、そんなん」
「俺まで兄貴呼ばわりにしなくても。まあ、いいけど。俺がこれ以上アビーに求めるものなんて、あるわけが」
「俺まで兄貴呼ばわりにしなくても。まあ、いいけど。俺がこれ以上アビーに求めるものなんて、あるわけが」
ない、と、祐介は言いかけたが、少し間を置いて言い直した。
「いや、あるなぁ。そりゃ、アビーは新妻で主婦でピュアでキュートで艶々ボディでおしとやかで結構エロくて過去はアレだけどそれすらも素敵でもうお前のためなら平行宇宙なんて滅びていいやって思うけど、所帯染みすぎて新妻を通り越して熟女に到達しそうなんだよな……。もちろん、この時代の生活に慣れてきたのはいいことだし、そうあるべきなんだけど、あの初々しさがなくなっていくのはちょっとなぁって」
「ええ、解ります」
「いや、あるなぁ。そりゃ、アビーは新妻で主婦でピュアでキュートで艶々ボディでおしとやかで結構エロくて過去はアレだけどそれすらも素敵でもうお前のためなら平行宇宙なんて滅びていいやって思うけど、所帯染みすぎて新妻を通り越して熟女に到達しそうなんだよな……。もちろん、この時代の生活に慣れてきたのはいいことだし、そうあるべきなんだけど、あの初々しさがなくなっていくのはちょっとなぁって」
「ええ、解ります」
同じくリビングメイルの恋人を持つ真夜は、心から同意した。
「話の流れで聞いちゃうけど、ヒロ君はどう?」
茜が広海に話を振ると、広海は答えた。
「僕は、特に。ミチルはちょっと困った性格だけど、あれはあれで可愛すぎるし世間知らずなところが最高に可愛いし最近おしゃれを覚えて究極に可愛いし一途なところが無量大数可愛いしでミチルのためなら海で地上を覆い尽くしちゃってもいいやって思うくらいで、不満なんて上げたら囓られちゃいそうだし。あ、でも、強いて挙げるとするなら、ミチルのウロコの範囲かな。ミチルのウロコは凄く綺麗だから、上半身もすっぽりウロコに覆われていたら、もっとミチルは美人だったなって思ったことがあるな。もちろん、今のミチルも充分美人だけど、いっそのことインスマス顔の半魚人でも可愛いんじゃないかなぁって。目がぎょろっとしていて唇が厚くて口が尖っていて背ビレが生えていて……」
インスマス顔のミチルを想像し、広海はうっとりした。
「でも、それはミッチーには言わない方がいいんじゃないかなぁ」
茜が苦笑すると、広海は残念がった。
「うん、それは僕も解っているよ。でも、ウロコは多い方が色気があって素敵だと思うんだけど」
「先程から聞いていたが、君達はパートナーに対する敬いの気持ちが足りないようだな」
「先程から聞いていたが、君達はパートナーに対する敬いの気持ちが足りないようだな」
いきなり別の声に割り込まれ、皆が揃って振り向くと、衝立の向こう側の席に座っていたブライトウィングが立ち上がった。
「な、なんでここにいるんですか? ていうか、メタロニアンは物を食べないんじゃ」
驚いた祐介ががたっと椅子を引くと、ブライトウィングは身を乗り出してきた。
「その情報は古いぞ、祐介君。私のボディは綾子との幸せすぎて思考回路はショートどころか吹っ飛びそうな結婚生活を円滑に送るために改造を施し、その結果、人間と同じように傾向摂取出来るようになったのだ」
「ああ、ヒカリアン仕様ですね」
「うむ。よくぞ知っていたな、祐介君」
「ああ、ヒカリアン仕様ですね」
「うむ。よくぞ知っていたな、祐介君」
ブライトウィングは自分のトレイを持って五人の座る席にやってくると、隣の席の客がいなくなったのを見計らってテーブルと椅子を引き寄せてくっつけ、そこに腰掛けた。
「君達の話に便乗させてもらうが、私は綾子に不満を抱いたことは一度もない。綾子は美しく賢く繊細で精密で清冽で清潔で、全宇宙の美辞麗句を並べても綾子の魅力を表現するのは不可能だ。よって、綾子は完全なのだ。その綾子に対する不満など、私の思考回路からは弾き出されん。おこがましいではないか」
そう言いつつ、ブライトウィングは五個目のハンバーガーを不慣れな仕草で頬張った。
「たとえ、綾子が苦労して作成した料理が見るからに失敗作であり、私の高性能な味覚がそれを食品として検知しなくとも、甘んじて嚥下するのが夫の努めではないか。近頃はアビゲイルとの反復学習のおかげで改善されてはきたが」
「てか、綾子さんってそうなんすか?」
「てか、綾子さんってそうなんすか?」
シオカラが意外に思うと、ブライトウィングはカップの蓋を開けて氷をざらざらと口に入れた。
「普通の料理は上手くいくんだが、手を掛けたら掛けた分失敗するらしくてな。だが、そこがまた愛おしい」
「皆、色々あるんだねぇ」
「皆、色々あるんだねぇ」
茜はしみじみと頷いたが、不満を拭えたわけではなかった。それは皆も同じらしく、揃って何かを考えている顔だった。二箱目のチキンナゲットを開けて食べ始めたブライトウィングは、いかにして不満を抱かずにパートナーを愛するかという演説を始めたが、ほとんどが綾子の惚気だったので聞き流された。
異種族の恋人を愛する気持ちは変わらないが、愛しているからこそ欲するものもある。とりあえずヤンマにもふもふしたものでも着せてしがみつこうか、と茜は思案し、アーサーを変形ロボにする魔法ってないかしら、と真夜は割と本気で考え、ほづみんに羽根を付けさせたら蹴られるっすね、とシオカラは諦め、アビーが熟女化しても愛せるよな俺は、と祐介は決心し、ミチルは深きものどもに知り合いはいないのかな、と広海は深淵に思いを馳せ、こんな店で口直しをしている時点で私は夫として失格だ、とブライトウィングは内心で恥じ入りながら大量のファストフードを詰め込んだ。
そんな、ある日の昼下がり。
異種族の恋人を愛する気持ちは変わらないが、愛しているからこそ欲するものもある。とりあえずヤンマにもふもふしたものでも着せてしがみつこうか、と茜は思案し、アーサーを変形ロボにする魔法ってないかしら、と真夜は割と本気で考え、ほづみんに羽根を付けさせたら蹴られるっすね、とシオカラは諦め、アビーが熟女化しても愛せるよな俺は、と祐介は決心し、ミチルは深きものどもに知り合いはいないのかな、と広海は深淵に思いを馳せ、こんな店で口直しをしている時点で私は夫として失格だ、とブライトウィングは内心で恥じ入りながら大量のファストフードを詰め込んだ。
そんな、ある日の昼下がり。
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