人外と人間
冥府の番犬と魔法少女 ケルベロス・獣姦・和姦
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冥府の番犬と魔法少女 859 ◆93FwBoL6s.様
冥王の前に、一人の少女が立ち尽くしていた。
淡い金髪のツインテールにフリルがたっぷりと付いたパステルピンクの衣装を着ていて、足元にステッキも転がっている。ツインテールの結び目にはハートの髪飾りが付き、体格の割に大きな胸元にも同じようなデザインのブローチが付いていた。両耳には小さな星のイヤリングが下げられ、少女が些細な動作をするたびに揺れていた。彼女は、いわゆる魔法少女だった。
魔法少女を見下ろしているのは、冥王だった。無数の亡霊が飛び交う玉座に身を委ねる冥王は、少女を眺め回していた。人の姿をしているものの、天を突くほどの巨体だった。その周囲を固める近衛兵もまた、冥王を守るに相応しい巨体を持っていた。当然ながら玉座の間もまた巨大であり、高層ビルなど楽に収まるほどの容積を持っていて、その中に立つ少女は一際小さく見えた。冥王が身を委ねる玉座から伸びる血のように赤黒い敷布の脇には、亡者に鎧を被せて槍を持たせた兵士が規律正しく並んでいた。
そして、ただ一人冥王の目前に立つ魔法少女は両手足を重たい鎖に拘束されているが、怯えるどころか唇を引き締めていた。派手な衣装に負けないほどの美貌を備えている魔法少女は、冥王に視線を据えていて、冥府の者達と戦う意志を表していた。魔法少女は太く重たい鎖が巻き付けられた両手を握り合わせてから、浅く息を吸い込み、小さな体を震わせて声を張り上げた。
淡い金髪のツインテールにフリルがたっぷりと付いたパステルピンクの衣装を着ていて、足元にステッキも転がっている。ツインテールの結び目にはハートの髪飾りが付き、体格の割に大きな胸元にも同じようなデザインのブローチが付いていた。両耳には小さな星のイヤリングが下げられ、少女が些細な動作をするたびに揺れていた。彼女は、いわゆる魔法少女だった。
魔法少女を見下ろしているのは、冥王だった。無数の亡霊が飛び交う玉座に身を委ねる冥王は、少女を眺め回していた。人の姿をしているものの、天を突くほどの巨体だった。その周囲を固める近衛兵もまた、冥王を守るに相応しい巨体を持っていた。当然ながら玉座の間もまた巨大であり、高層ビルなど楽に収まるほどの容積を持っていて、その中に立つ少女は一際小さく見えた。冥王が身を委ねる玉座から伸びる血のように赤黒い敷布の脇には、亡者に鎧を被せて槍を持たせた兵士が規律正しく並んでいた。
そして、ただ一人冥王の目前に立つ魔法少女は両手足を重たい鎖に拘束されているが、怯えるどころか唇を引き締めていた。派手な衣装に負けないほどの美貌を備えている魔法少女は、冥王に視線を据えていて、冥府の者達と戦う意志を表していた。魔法少女は太く重たい鎖が巻き付けられた両手を握り合わせてから、浅く息を吸い込み、小さな体を震わせて声を張り上げた。
「冥王さん!」
魔法少女は更に息を吸ってから、上擦り気味の叫びを玉座の間に響かせた。
「けっ、ケルベロスさんとお付き合いさせて頂けないでしょおか!」
「…な」「ん」「で、俺?」
「…な」「ん」「で、俺?」
冥王の御前であることを忘れ、当の本人であるケルベロスが唖然とすると、冥王は足元のケルベロスを見下ろした。
「いやにあっさり捕まってくれたと思ったら、そういうことだったか。せっかくだ、大事にしてやりなさい」
「俺の意志を」「無視しないで頂けませんか」「陛下!」
「俺の意志を」「無視しないで頂けませんか」「陛下!」
ケルベロスが三つの頭を全て使って反論するが、冥王は笑うだけだった。
「いいじゃないか。人間界に侵攻するのは暇潰しだったし、これ以上冥府を人間界に近付けたら天界から本気で襲い掛かられる。それに、戦いを始めたことで冥府の民も潤ったことだしな。お前達も、毎週のように慣れない人間界に行ったことで疲れただろう」
「ですが」「だからって」「この娘に俺を差し出すおつもりですか!」
「ですが」「だからって」「この娘に俺を差し出すおつもりですか!」
ケルベロスが主に吠え立てるような勢いで喚くと、玉座の反対側に控えていた次男のオルトロスが二つの頭を上げた。
「いいじゃないの、兄さん」「独り身なんだし、そろそろ身を固めたらどう?」
「俺は」「人間なんか」「好みじゃない!」
「俺は」「人間なんか」「好みじゃない!」
ケルベロスは三つの頭を振り回して否定するが、ケルベロスの背後に控えていた姉のキマイラが背を叩いてきた。
「気に入らなかったら喰っちゃえばいいだけでしょ、ケル」
「そうそう」「喰っちゃえ」「喰っちゃえ。性的な意味で」「だって俺達」「それが仕事だし」「ねえ兄ちゃん?」「いいなぁ嫁さん、俺も欲しいな」「嫁! 俺の嫁はどこ!」
「そうそう」「喰っちゃえ」「喰っちゃえ。性的な意味で」「だって俺達」「それが仕事だし」「ねえ兄ちゃん?」「いいなぁ嫁さん、俺も欲しいな」「嫁! 俺の嫁はどこ!」
オルトロスの背後から百の頭を出したのは、三男のラードーンだった。茶色の肌を持つ、これまた巨体の竜である。
「死ねリア充」
エキドナの背後からにょろりと巨体を引き摺り出した末弟のヒュドラは、九つの頭をぐねぐねと揺らしながら毒突いた。
「馬鹿」「言って」「んじゃねぇよどいつもこいつも!」
ケルベロスは兄弟達に三つの頭を向け、それぞれに言い返した。
「大体な」「俺には冥府の門番という重要な仕事があって」「こんな人間の小娘に構っている暇などないんだ!」
「じゃ、休暇あげるよ。今後百年、門番はオルトロスに任せよう」
「じゃ、休暇あげるよ。今後百年、門番はオルトロスに任せよう」
冥王がさらりと言ってのけると、ケルベロスは呆れた。
「そんなんで」「よろしいのですか」「陛下…」
「冥府の住人だって、休息は必要さ。じゃ、余はこれで。オルトロス、引き継ぎをお願いね」
「冥府の住人だって、休息は必要さ。じゃ、余はこれで。オルトロス、引き継ぎをお願いね」
冥王は気楽に手を振った後、玉座から巨体を消してしまった。オルトロスは景気良く吠え、尻尾を大きく振った。
「冥王陛下の」「御命令とあらば」
「んじゃ、私らも仕事あるから。後は若い二人だけで御自由に」
「んじゃ、私らも仕事あるから。後は若い二人だけで御自由に」
キマイラも姿を消すと、ラードーンはずるずると敷布と兵士の後ろを這いずっていった。
「俺の嫁ー」「探しに行くか二次元にー」「いや三次元かもよー」「むしろ四次元」「いや五次元!」「六次元!」「七次元!」「それどこだよ!」「異次元に俺の嫁!」
「死ね兄貴」「死ねリア充」「死ね駄犬」「死ねよもう」「死ねなくても死ねよ」「死んでくれよウザいから」「死ねば」「死んでも死なないけど死ね」「とにかく死ね」
「死ね兄貴」「死ねリア充」「死ね駄犬」「死ねよもう」「死ねなくても死ねよ」「死んでくれよウザいから」「死ねば」「死んでも死なないけど死ね」「とにかく死ね」
ヒュドラは陰険に吐き捨ててから、ラードーンに続いて玉座の間を出ていった。
「おい」「おい」「おい…」
冥府の住人らしからぬ気楽さに呆れたが、ケルベロスは皆を見送るしかなかった。兵士達も解散し、玉座の間を出ていった。そして、最終的に玉座の間に残されたのはケルベロスと魔法少女の二人だけとなり、ケルベロスは一つの頭を彼女に向けた。ケルベロスを始めとした冥府の住人と敵対していた魔法少女まじかるかれんは、気恥ずかしげに目線を左右に彷徨わせていた。
事の起こりは数時間前に遡る。魔法少女まじかるかれんは、人間界と冥府を繋ぐ門を開こうと画策する冥獣達と交戦していた。まじかるかれんは神族の下っ端によって魔法の力を与えられた存在であり、人間でありながら冥府の住人と戦う力を有していた。魔法少女に相応しい衣装を生み出すアイテムや奇跡を起こす魔法を起こせるステッキを手に入れた、高校二年生の女の子なのだ。冥王直属の部下であるケルベロスも何度も人間界に赴き、冥獣を使って人間達を陥れるが、その度にまじかるかれんに阻まれた。毎週のように兄弟の誰かが冥獣を率いて出撃するが、どこで何をしようともまじかるかれんが現れて、徹底的に叩きのめされた。そんな状態が一年近く続いたので、いい加減に人間界侵攻作戦にもまじかるかれんとの戦いも決着を付けようと一斉出撃した。だが、まじかるかれんは、大量の冥獣を人間界に送り込むために作り出した冥府と人間界を繋ぐ門を呆気なく魔法で破壊した。負けっ放しでは帰るに帰れない、ということで冥獣の一人がまじかるかれんを冥府に引き摺り込み、冥王の御前に差し出した。
それまでは良かった。だが、まじかるかれんは何をとち狂ったのか、ケルベロスと付き合いたいと冥王に直談判してしまった。ケルベロスにはその気はない。それどころか、生理的に嫌だ。ひんやりした死者達に比べ、生身の人間は生温くて気持ち悪い。
事の起こりは数時間前に遡る。魔法少女まじかるかれんは、人間界と冥府を繋ぐ門を開こうと画策する冥獣達と交戦していた。まじかるかれんは神族の下っ端によって魔法の力を与えられた存在であり、人間でありながら冥府の住人と戦う力を有していた。魔法少女に相応しい衣装を生み出すアイテムや奇跡を起こす魔法を起こせるステッキを手に入れた、高校二年生の女の子なのだ。冥王直属の部下であるケルベロスも何度も人間界に赴き、冥獣を使って人間達を陥れるが、その度にまじかるかれんに阻まれた。毎週のように兄弟の誰かが冥獣を率いて出撃するが、どこで何をしようともまじかるかれんが現れて、徹底的に叩きのめされた。そんな状態が一年近く続いたので、いい加減に人間界侵攻作戦にもまじかるかれんとの戦いも決着を付けようと一斉出撃した。だが、まじかるかれんは、大量の冥獣を人間界に送り込むために作り出した冥府と人間界を繋ぐ門を呆気なく魔法で破壊した。負けっ放しでは帰るに帰れない、ということで冥獣の一人がまじかるかれんを冥府に引き摺り込み、冥王の御前に差し出した。
それまでは良かった。だが、まじかるかれんは何をとち狂ったのか、ケルベロスと付き合いたいと冥王に直談判してしまった。ケルベロスにはその気はない。それどころか、生理的に嫌だ。ひんやりした死者達に比べ、生身の人間は生温くて気持ち悪い。
「あの…」
まじかるかれんは頬を染め、十メートル以上はあろうかという巨体の冥獣、ケルベロスを見上げた。
「か」「え」「れ!」
一息で言い放ったケルベロスは、壇上から下りてまじかるかれんに吠え立てた。
「俺の権限で門を開いてやるから」「人間界に帰れ!」「冗談じゃない!」
「でも、私、本気なの!」
「でも、私、本気なの!」
まじかるかれんは物怖じせず、ケルベロスに言い返した。
「本気だろうが」「なんだろうが」「俺はお前に興味がない!」
だが、ケルベロスも言い返す。
「好きだから、ここまで追い掛けてきたのに…」
まじかるかれんが俯くと、ケルベロスは三つの頭を全て背けた。
「俺は」「そんなこと」「頼んじゃいない!」
「じゃあ、何をすれば好きになってくれる?」
「じゃあ、何をすれば好きになってくれる?」
まじかるかれんはケルベロスを探るように見上げてきたが、ケルベロスは彼女に背を向けて座り込んだ。
「だから言ってるじゃないか」「俺はお前には興味がない」「ていうか、生身の人間自体に興味がない」
「だったら、なんで人間界に侵攻してきたの?」
「冥王陛下の」「御命令だからだ」「それ以外の理由があるか」
「でも、その命令は冥王さんの暇潰しだったんだよね?」
「だからって」「俺が人間を」「嫌っていないってわけじゃない」
「じゃあ、一日だけ! それならいいでしょ?」
「だったら、なんで人間界に侵攻してきたの?」
「冥王陛下の」「御命令だからだ」「それ以外の理由があるか」
「でも、その命令は冥王さんの暇潰しだったんだよね?」
「だからって」「俺が人間を」「嫌っていないってわけじゃない」
「じゃあ、一日だけ! それならいいでしょ?」
まじかるかれんの縋るような目線を注いできたので、ケルベロスはしばらく迷ってから承諾した。
「一日だけか」「それだけなら付き合ってやる」「但し一日だけだぞ」
「ありがとう、ケルベロスさん!」
「ありがとう、ケルベロスさん!」
まじかるかれんは破顔すると、鎖が絡まった両手を差し出した。
「じゃあ、これ、外して? 凄く重たいし、鎖が肌に擦れちゃって痛いの」
「外さない」「それとこれとは」「話が別だ」
「外さない」「それとこれとは」「話が別だ」
ケルベロスは四つ足を伸ばすと、長い尻尾を揺らしながら歩き出した。
「さっさと来い」「行くぞ」「置いていっちまうぞ」
「どこへ?」
「俺の部屋だ」「いつまでも御前にいるわけには」「いかねぇだろうが」
「どこへ?」
「俺の部屋だ」「いつまでも御前にいるわけには」「いかねぇだろうが」
ケルベロスは前足で扉を開けて回廊に出ると、まじかるかれんに出るように促すと、彼女もケルベロスの後に続いた。だが、両足が鎖に拘束されているので上手く歩けず、正面から転んだ。痛みで呻く彼女に、ケルベロスは尻尾を伸ばした。遅れられては面倒なので尻尾で持ち上げて背に乗せると、割り当てられている部屋を目指して石畳の回廊を歩き出した。冥府の番犬に相応しい巨体を持つケルベロスの背は、まじかるかれんには小山のようで、深い毛並みに埋もれてしまった。足を縛られているので上手く座れないらしく、時折滑り落ちそうになったので、その度にケルベロスは尻尾で支えてやった。神族の加護を受けた魔法少女なので簡単には死なないが、ケガでもされて泣き喚かれたら鋭敏な聴覚が痛んでしまう。
ただ、それだけの理由だった。
ただ、それだけの理由だった。
一日、一緒に過ごしてしまうと、二日、三日、一週間と共に過ごすようになった。
そして一ヶ月も過ぎてしまえば、ケルベロスはすっかりかれんに愛着が湧いていた。かれんもまた、冥府での暮らしに慣れた。ホームシックになるかと思いきや、亡者や冥獣が溢れた重苦しい冥府に馴染んでしまい、ケルベロスの兄弟達とも親しくなった。つい先日まで敵対していた相手とは思えないほどで、キマイラに至っては冥王城に女っ気がなかった反動からか可愛がっていた。ケルベロスも、冥王から唐突に与えられた百年間の休暇の退屈凌ぎに丁度良いと思うようになり、かれんを構うようになった。
地獄を巡る散歩を終えたケルベロスは、かれんでも食べられそうなものを掻き集めて首の一つにぶら下げ、冥王城に帰った。かれんのことは冥王が公認しているので、冥王軍の兵士や使用人からは冷やかされはしないものの、奇異の目で見られていた。それまでは冥府の門番に対して敬意と畏怖を込めた目を向けていた者達も、かれんの件を知ってからは変人を見る顔になった。だが、ケルベロスも逆の立場だったのなら似たような反応をするだろうと思っていたので、城内の者達を咎めることもなかった。
冥王城はひたすら巨大だ。冥府の主の権力を見せつけるために、亡者と冥獣を酷使して創り上げた、死と絶望の満ちた城だ。亡者にもなれず、冥獣にもなれなかった者達の空虚な魂が分厚い石造りの壁を擦り抜け、凍えるほど冷たい回廊に流れていく。冥王城を囲む岩山は鉄臭い異臭を漂わせ、遙か彼方の頂きからは溶岩がどろどろと溢れ、森を成す木々は全て腐敗している。禍々しい獣が雷鳴の如く吠え、醜い鳥が女の悲鳴のような鳴き声を立て、ヘドロの湖と川から這い出したヘドロの固まりが呻く。それでも、見た目ほど混迷していない世界だ。人間界のような混沌はなく、神族の世界のように絶対的な正義を必要としない。冥府の住人には心休まる光景だが、人間にはあらゆる嫌悪感を催す光景だと教えられていたが、かれんはそうではないようだ。
ケルベロスは自室に戻ると、見上げるほど背の高い両開きの扉の前に立つと、赤い錆の浮いたドアノブが独りでに回った。部屋に入ると、最初に壁飾りの骨が出迎えた。次に天井から垂れ下がった赤いドレープ、その奥に天蓋付きのベッドがあった。冥府故に日の差さない窓のカーテンが開けられていて、かれんは人間には大きすぎる出窓に腰掛け、外の景色を眺めていた。
そして一ヶ月も過ぎてしまえば、ケルベロスはすっかりかれんに愛着が湧いていた。かれんもまた、冥府での暮らしに慣れた。ホームシックになるかと思いきや、亡者や冥獣が溢れた重苦しい冥府に馴染んでしまい、ケルベロスの兄弟達とも親しくなった。つい先日まで敵対していた相手とは思えないほどで、キマイラに至っては冥王城に女っ気がなかった反動からか可愛がっていた。ケルベロスも、冥王から唐突に与えられた百年間の休暇の退屈凌ぎに丁度良いと思うようになり、かれんを構うようになった。
地獄を巡る散歩を終えたケルベロスは、かれんでも食べられそうなものを掻き集めて首の一つにぶら下げ、冥王城に帰った。かれんのことは冥王が公認しているので、冥王軍の兵士や使用人からは冷やかされはしないものの、奇異の目で見られていた。それまでは冥府の門番に対して敬意と畏怖を込めた目を向けていた者達も、かれんの件を知ってからは変人を見る顔になった。だが、ケルベロスも逆の立場だったのなら似たような反応をするだろうと思っていたので、城内の者達を咎めることもなかった。
冥王城はひたすら巨大だ。冥府の主の権力を見せつけるために、亡者と冥獣を酷使して創り上げた、死と絶望の満ちた城だ。亡者にもなれず、冥獣にもなれなかった者達の空虚な魂が分厚い石造りの壁を擦り抜け、凍えるほど冷たい回廊に流れていく。冥王城を囲む岩山は鉄臭い異臭を漂わせ、遙か彼方の頂きからは溶岩がどろどろと溢れ、森を成す木々は全て腐敗している。禍々しい獣が雷鳴の如く吠え、醜い鳥が女の悲鳴のような鳴き声を立て、ヘドロの湖と川から這い出したヘドロの固まりが呻く。それでも、見た目ほど混迷していない世界だ。人間界のような混沌はなく、神族の世界のように絶対的な正義を必要としない。冥府の住人には心休まる光景だが、人間にはあらゆる嫌悪感を催す光景だと教えられていたが、かれんはそうではないようだ。
ケルベロスは自室に戻ると、見上げるほど背の高い両開きの扉の前に立つと、赤い錆の浮いたドアノブが独りでに回った。部屋に入ると、最初に壁飾りの骨が出迎えた。次に天井から垂れ下がった赤いドレープ、その奥に天蓋付きのベッドがあった。冥府故に日の差さない窓のカーテンが開けられていて、かれんは人間には大きすぎる出窓に腰掛け、外の景色を眺めていた。
「おい」「どうか」「したのか」
ケルベロスが荷物を下ろしてから声を掛けると、かれんはケルベロスに振り返り、もじもじした。
「うん、なんでもないんだけどね」
「じゃあ」「なんだよ」「気にさせるな」
「じゃあ」「なんだよ」「気にさせるな」
ケルベロスは頭の一つをかれんの前に出して乗せると、かれんが自力では登れない高さのベッドに座らせた。
「なんでもないんだけど、なんでもないの」
かれんは自身を一飲み出来るほど大きなケルベロスの頭に両腕を回し、冥府の空気が染み込んだ体毛に顔を埋めた。
「なんだ」「そりゃ」「面倒臭ぇな」
ケルベロスはかれんが抱き付いた首をそのままに、残り二つの首を下げた。気持ち良いのか、かれんは甘えた声を零している。日常生活を送っている時は当然ながら魔法少女の変身を解いているので、かれんは人間界から連れ去られた時の服装のままだ。カトリック系私立高校の制服で、スカートも膝丈で清楚な雰囲気の服装だ。髪の色もまた、金髪から艶やかな黒髪に戻っていた。
鼻先をくすぐる匂いは生温く、生易しい。牙を一刺ししてしまえば、骨も筋も皮も砕け散って鉄臭い血潮が飛び散ることだろう。体毛越しに伝わる体も軟弱で、手応えというものがない。どこもかしこもふにゃふにゃで、体温があることも冥府には馴染まない。ケルベロス自身も冥府の住人に相応しく、体温がかなり低い。だから、抱き付いたところで気持ち良いものではないように思えた。
鼻先をくすぐる匂いは生温く、生易しい。牙を一刺ししてしまえば、骨も筋も皮も砕け散って鉄臭い血潮が飛び散ることだろう。体毛越しに伝わる体も軟弱で、手応えというものがない。どこもかしこもふにゃふにゃで、体温があることも冥府には馴染まない。ケルベロス自身も冥府の住人に相応しく、体温がかなり低い。だから、抱き付いたところで気持ち良いものではないように思えた。
「あのね」
「なんだ」「今度こそ」「ちゃんと言え」
「なんだ」「今度こそ」「ちゃんと言え」
ケルベロスが急かすと、かれんは恥じらいながら呟いた。
「また、して?」
「お前ってやつは」「全く」「どうしようもないな」
「お前ってやつは」「全く」「どうしようもないな」
ケルベロスは尻尾を一振りしてから、体格を縮めて人間大に変化させると、軽く跳躍してかれんの前に降りた。
「だってぇ…」
赤面したかれんはプリーツスカートの裾を上げようとしたので、ケルベロスはその裾を噛んだ。
「その前に」「やることが」「あるだろ」
「物好きなんだから」
「物好きなんだから」
かれんは照れ笑いしてから、ハートのブローチを掲げて変身し、まじかるかれんに姿を変えた。
「これでいい?」
「ああ」「それで」「いい」
「ああ」「それで」「いい」
ケルベロスはまじかるかれんのミニスカートの下に真ん中の頭を突っ込むと、薄い下着に覆われた陰部に鼻先を押し当てた。
「ひゃんっ」
まじかるかれんはくすぐったがり、膝を緩めた。ケルベロスは左右の頭で太股を甘噛みし、生臭い唾液の滴る舌を這わせた。前足を伸ばして華奢な体をベッドに押し付け、鼻先を更に埋める。ひらひらしたミニスカートの奥には、狭い陰部が隠れている。下着に牙を立てて一息で引き裂くと、まじかるかれんは少し抵抗したが、両の太股を押さえ込まれているので動けなかった。
「もう、いちいち破らないでよぉ」
「邪魔」「だから」「だ」
「邪魔」「だから」「だ」
ケルベロスは真ん中の頭をスカートから出して破れた下着を捨てると、まじかるかれんの陰部に厚い舌をねじ込んでやった。ケルベロスの唾液以外のものを帯びた舌は難なく奥まで滑り込み、筋肉も緩んでいて、押し戻されるようなことはなかった。
「あ…」
舐める必要もないほど潤っていたことを知られ、まじかるかれんは恥じらった。
「物好きなのは」「どっち」「なんだよ」
少女の体液を掻き出すように舌を前後させながら、ケルベロスは言った。最初に体を求めてきたのは、かれんの方だった。その時はかれんは変身していない姿であり、ケルベロスも巨体のままだったので、満足するまで舐め尽くすだけで終わった。ケルベロスは最初はその気ではなかったのだが、滴るほどの唾液にまみれたかれんの痴態がやたらと気に入ってしまった。甘ったるい鳴き声を零すことも上擦った声で名を呼ばれるのも楽しく思えたので、それからは体の大きさを合わせるようになった。かれんは魔法少女に変身しなくてもいいと言い張ったが、融通が利かない状態で体を重ねて傷付けてしまっては後が面倒だ。それに、敵対していた相手を蹂躙出来るのは単純に面白い。刺激を受けて強張った肉芽を吸うと、まじかるかれんは仰け反った。
「ひぃんっ!」
「次は」「どうするか」「解るな?」
「うん…」
「次は」「どうするか」「解るな?」
「うん…」
まじかるかれんは薄く汗ばんだ太股を開き、体を反転させて四つん這いになると、肉の付いた尻を高く持ち上げた。
「こうしないと、入らないもんね」
「単純に」「俺が」「やりやすいからだ」
「単純に」「俺が」「やりやすいからだ」
ケルベロスはまじかるかれんの背に覆い被さり、腰の後ろに付いた大きなリボンを腹で潰しつつ、その陰部に男根を擦り付けた。三つ首でさえなければ、美しいほど引き締まった筋肉を持つ体付きの猟犬が少女を貪らんとする様にも似ていて、背徳感が募る。彼女の陰部を舐め回すだけでは、それほど滾らない。芯に骨が入っている逸物とはいえ、充血しないままでは突き立てられない。まじかるかれんの奥から溢れ出す体液に擦り付けてやると、時折先端が肉芽に引っ掛かり、彼女は切なげな甘い声を零した。その反応に気を良くしたケルベロスは往復する速度を上げると、引っ掛かる回数も増え、体の下でまじかるかれんは身を捩った。だが、敢えて陰部には突き立てなかった。次第に腕の力を保てなくなってきたのか、まじかるかれんは肘を曲げて俯せになった。
「ちょっ、やぁん、焦らさないでぇ」
「俺は」「まだ」「出来上がっちゃいない」
「こんなに硬いのに、意地悪ぅ…」
「俺は」「まだ」「出来上がっちゃいない」
「こんなに硬いのに、意地悪ぅ…」
シーツに顔を埋め、まじかるかれんは喘いだ。ケルベロスは左の頭を下げ、まじかるかれんの首筋をべろりと舐め上げた。右の頭では裸の肩と二の腕に甘く牙を立てながら、空いている真ん中の頭を下げると、まじかるかれんの耳元で低く囁いた。
「お前は何のために魔法少女になったんだ。俺とまぐわうためか? 違うだろう?」
「うん、違う、そんなんじゃなかった…」
「うん、違う、そんなんじゃなかった…」
シーツに涎と涙を染み込ませながら、まじかるかれんは物欲しげに腰をくねらせた。
「でも、ねぇ、ケルが格好良かったからぁ、好きになっちゃってぇっ…」
「馬鹿な娘だ」
「だあってぇん…」
「馬鹿な娘だ」
「だあってぇん…」
まじかるかれんは首を曲げてケルベロスの真ん中の頭部と目を合わせると、熱を帯びた眼差しを上げた。
「あひぃっ!」
前触れもなく男根を陰部に押し込むと、まじかるかれんは甲高い悲鳴を上げた。
「お前は何が好きなんだ。モフモフとかいうやつか、それとも俺の剣か、そうでなければ見た目か?」
左右の頭で首筋と肩を噛みながらケルベロスが捲し立てると、まじかるかれんは律動に腰を揺さぶられながら答えた。
「それもあるけどっ、ああっ、やんっ、やっ、あっ、好きだから好きなのぉっ」
「理由になっていないな」
「ひゃっ…!」
「理由になっていないな」
「ひゃっ…!」
一際強く突き立てると、まじかるかれんは涙の滲んだ目をきつく閉じた。
「あ、あぁ…」
熱い迸りが白い内股を伝い、シーツに染み込んだ。一度出てしまった小水は勢いが緩まず、浅い池が広がっていった。まじかるかれんの熱い体液とケルベロスの冷たい体液が混じった黄金色の飛沫は、徐々に拡大して胸元の下にまで及んだ。達した快感と羞恥心でがくがくと足を震わせるまじかるかれんに、ケルベロスは冥府の住人らしく禍々しい笑みを見せた。
「また漏らしたな。俺の部屋を何度汚す気だ」
「ごめんなさいぃ、後で洗濯するからぁ…」
「ごめんなさいぃ、後で洗濯するからぁ…」
まじかるかれんはか細く謝るが、ケルベロスは容赦なくその胎内を責め立てた。
「当たり前だ」
「あっ、やぁああっ、また出ちゃう、やだぁあっ!」
「あっ、やぁああっ、また出ちゃう、やだぁあっ!」
まじかるかれんはシーツを握り締めるが、ケルベロスはその髪を噛んで強引に顔を上げさせ、右の頭を出して言った。
「出せ。俺を悦ばせたいのならな」
「いやぁっ…」
「いやぁっ…」
まじかるかれんは胸元を大きく開いた衣装から零れた乳房を震わせ、膀胱から押し出される飛沫の残滓に顔を歪めた。スカートの前部分は小水の池に浸り、水気を吸い取って重たく垂れていた。そこに新たな雫が落とされ、小さな水音を立てた。その音はぐちゅぐちゅと忙しなく擦り合わせる陰部の水音に紛れたが、まじかるかれんは愉悦と羞恥心で泣き声を上げ始めた。
求められたら最後、倒れるまで責めてやる。魔法少女に変身している限りは、かれんはそう簡単なことでは死なないからだ。人間大に体を縮めたとはいえ、ケルベロスの逸物は大きい。最後まで飲み込ませるためには、それなりに気を配る必要がある。それ以上に、長い退屈が紛れるからだ。ケルベロスの逸物を包む陰部が収縮し、まじかるかれんはそれと同じように痙攣した。頃合いを見計らって込み上がった精液を存分に注ぎ込むと、まじかるかれんの痙攣は一層激しくなり、上げる声も苦しげになった。ケルベロスは一旦抜くと見せかけて、力強く最深部に突っ込むと、まじかるかれんは許しを請うようにケルベロスの名を呼んだ。
その声に、ケルベロスは慢心の唸りを零した。
求められたら最後、倒れるまで責めてやる。魔法少女に変身している限りは、かれんはそう簡単なことでは死なないからだ。人間大に体を縮めたとはいえ、ケルベロスの逸物は大きい。最後まで飲み込ませるためには、それなりに気を配る必要がある。それ以上に、長い退屈が紛れるからだ。ケルベロスの逸物を包む陰部が収縮し、まじかるかれんはそれと同じように痙攣した。頃合いを見計らって込み上がった精液を存分に注ぎ込むと、まじかるかれんの痙攣は一層激しくなり、上げる声も苦しげになった。ケルベロスは一旦抜くと見せかけて、力強く最深部に突っ込むと、まじかるかれんは許しを請うようにケルベロスの名を呼んだ。
その声に、ケルベロスは慢心の唸りを零した。
腹部の体毛に埋もれる少女は、疲れ果てて眠っていた。
こうなると、動くに動けない。元の大きさに戻ったケルベロスは、灰色の空から弱々しい日差しが注ぐ窓際で丸くなっていた。その腹部には、制服から灰色のワンピースに着替えて下着も取り替えて素顔に戻ったかれんが寄り掛かり、眠り込んでいた。責めて責めて責め抜いて気を失うまで責め立てると、少しは満ち足りる。体温のない体に、かれんの体温が優しく馴染んだ。目尻に涙の名残があるかれんの寝顔を眺めつつ、ケルベロスは、なぜ気に入られてしまったのかを考えてみることにした。
人間界でまじかるかれんと敵対している時、ケルベロスは人間界に寸法に合わせるために体格を人間大に変化させていた。三つある頭部も一つにまとめていたが、それでも外見は獣人だった。かれんと初めて会った時もその格好だったように思う。しかし、それだけなのだ。一体何がかれんの琴線に触れたのか、結局見出せなかったケルベロスは前足に三つの顎を載せた。
こうなると、動くに動けない。元の大きさに戻ったケルベロスは、灰色の空から弱々しい日差しが注ぐ窓際で丸くなっていた。その腹部には、制服から灰色のワンピースに着替えて下着も取り替えて素顔に戻ったかれんが寄り掛かり、眠り込んでいた。責めて責めて責め抜いて気を失うまで責め立てると、少しは満ち足りる。体温のない体に、かれんの体温が優しく馴染んだ。目尻に涙の名残があるかれんの寝顔を眺めつつ、ケルベロスは、なぜ気に入られてしまったのかを考えてみることにした。
人間界でまじかるかれんと敵対している時、ケルベロスは人間界に寸法に合わせるために体格を人間大に変化させていた。三つある頭部も一つにまとめていたが、それでも外見は獣人だった。かれんと初めて会った時もその格好だったように思う。しかし、それだけなのだ。一体何がかれんの琴線に触れたのか、結局見出せなかったケルベロスは前足に三つの顎を載せた。
「ん」
かれんが身動きしたのでケルベロスが目を向けると、かれんはケルベロスの右の頭に手を伸ばした。
「ケルぅ…」
「なんだ」「寝て」「なかったのか」
「寝て起きたの」
「なんだ」「寝て」「なかったのか」
「寝て起きたの」
かれんはケルベロスの右の頭の耳をなぞり、引き寄せると牙の並ぶ口元に唇を寄せた。
「ケル」
「だから」「なんだ」「ってんだよ」
「キス、して?」
「我が侭」「言う」「んじゃない」
「だから」「なんだ」「ってんだよ」
「キス、して?」
「我が侭」「言う」「んじゃない」
そうは言いつつも、ケルベロスは三つの頭を順番に伸ばし、かれんの頬と唇に口元を当てた。
「ふふふ」
かれんは唾液がべったりと付いた唇を舐め、再び腹部の体毛に寄り掛かった。
「優しいね」
ケルベロスはその言葉に返さず、六つの目を閉じた。気のない振りをしても、尻尾は正直に揺れていた。
「あのね」
薄く目を開いたかれんは、互いの体液と熱い疼きが残る太股を擦り合わせ、頬を染めた。
「私、神様なんか信じないことにしたんだ。冥府の人達や冥獣と戦っても戦っても、毎日のように必ず誰かが死んでいっちゃうし、魔法なんか使っても誰も幸せに出来ないから。その時はなんとかなったとしても、その場凌ぎの幸せなんてすぐに壊れちゃうの。それに、神様が魔法の力を与えたのは私だけじゃなかったの。私が冥府と戦わなくたって、きっとすぐに他の女の子が戦いに来る。そういうことを知っちゃったから、全部がどうでもよくなっちゃったの」
「それと」「俺を気に入った理由は」「関係があるのか」
「うん。大有り」
「だったら」「なんだ」「教えろ」
「いいよ。私と皆が戦い始めてすぐに、冥府の門が開きかけた時があったでしょ?」
「ああ」「あったな」「それがどうかしたのか」
「その時、ケルが言ってくれたことが忘れられないの。愚かな神に使役された無様な小娘が、って」
「それは」「ただの」「罵倒だ」
「でも、本当のことだよ。私に魔法の力をくれた天使も、神様も、私のことを持ち上げるだけで本当のことは言ってくれなかった。何のために冥府と戦うのか、誰のために戦うのか、私が犠牲になることで誰が幸せになるのか、聞こうとしてもはぐらかされた。だけど、ケルは違ったから。おかげでやっと解ったの、私は随分馬鹿なことをしているんだなぁって」
「それと」「俺を気に入った理由は」「関係があるのか」
「うん。大有り」
「だったら」「なんだ」「教えろ」
「いいよ。私と皆が戦い始めてすぐに、冥府の門が開きかけた時があったでしょ?」
「ああ」「あったな」「それがどうかしたのか」
「その時、ケルが言ってくれたことが忘れられないの。愚かな神に使役された無様な小娘が、って」
「それは」「ただの」「罵倒だ」
「でも、本当のことだよ。私に魔法の力をくれた天使も、神様も、私のことを持ち上げるだけで本当のことは言ってくれなかった。何のために冥府と戦うのか、誰のために戦うのか、私が犠牲になることで誰が幸せになるのか、聞こうとしてもはぐらかされた。だけど、ケルは違ったから。おかげでやっと解ったの、私は随分馬鹿なことをしているんだなぁって」
かれんはケルベロスの体毛に指を差し込み、丁寧に梳いた。
「魔法少女なんて言っても、所詮は異世界の住人に擦り切れるまで利用された挙げ句、切り捨てられるだけだもん」
「それが解るだけ」「お前はまだ」「賢い部類だ」
「嬉しいな、褒めてもらえた」
「それが解るだけ」「お前はまだ」「賢い部類だ」
「嬉しいな、褒めてもらえた」
かれんは頬を緩めたので、ケルベロスは尻尾を伸ばしてかれんの小さな体に被せてやると、かれんはとろりと瞼を下げた。程なくして寝息を立て始めた少女を眺め、ケルベロスは喉の奥で唸った。天界の神が冥府に手を出すのは、いつものことだ。正と負の均衡を保つため、聖と魔の絶対量を崩さないため、互いの力関係を拮抗させ続けるための揺らぎとして戦いを起こす。双方の世界に挟まれた人間界が戦いの影響を受けることも珍しくないが、割を食うのは決まって年若い少年少女達なのだ。時代に応じて、勇者として、聖女として、聖騎士として、聖戦士として祭り上げられるが、最終的には両者の戦いの犠牲となる。神と冥王にとっては人間一人の犠牲など些細なものであり、誰も疑問は抱いていないが、ケルベロスは初めて疑念を感じた。かれんは冥府に身を投じたことで、その戦いからは解放されているので、疑念を感じるだけ無駄だったと思い直して払拭した。板挟みの戦いから解放され、生きながら死んだのだ。その事実に訳もなく安堵しつつ、ケルベロスは緩やかな眠りに落ちた。
百年間の休暇は、有意義に過ごせそうだ。
百年間の休暇は、有意義に過ごせそうだ。