久住

広い意味で運営で、狭い意味での最初の出資者であり、運営たる『彼』のアドバイザーらしい。
自称『彼』の被害者。
770話でキースへの対応を任されたという形で登場した。
生成りらしきシャツに茶色のジャケットを身につけ、穿いているのはジーパンとバスケットシューズ。顎髭とサングラスをつけていた。
態度は社会人失格であり、かつ発言も所々『彼』によりマスクされていたため、キースを逆撫でしただけであり、最後は殴りかかられたが逃げ果せた。(一発は手ごたえがあったらしいので食らわせた可能性もある。)

運営介入の原因の1つは「進みすぎ」とのこと。
その他の推測としては××××や×××××の介入があるらしいが、伏字のままで不明。この4字と5字の伏字は、α版プレイヤーの失踪話でも出てくるため、『彼』に敵対しているものらしい。
778話で再登場。どうやらキースにも興味を持ったらしく、2人目の魔神との再戦機会を餌として持参してきた。

その後幾度か召魔の森のご馳走を堪能するため訪れていたが、その中で819話ではキースの行動パターンを組み込んだと思われる「別の」ゲームの動画を見せたりもした。

864話では怯えらしきものを隠しながら『彼』に対する注意喚起としばしの別れを告げてきた。

1198話での黄金人形も含めた会合に参加したが、この時はオブザーバーのような立ち位置であった。

1262話でキースを訪問。ベノワのことと現実世界での核兵器使用を知らせてきた。

1274話でフィーナ召魔の森キースと情報交換する場に現れた。本人の弁では「生物学的に死んでいる」とのこと。それをフィーナは予想していたらしい。
核攻撃により運営の場所の工場にも一部被害が出たらしく、報復として光学迷彩付き無音稼動ロボットなどによる核に関係した国を中心として軍上層部への暗殺も行われたらしい。千島列島のその騒ぎで物流や天然ガスパイプラインも寸断され、日本での情報封鎖も限界を迎えているらしい。もちろんこの手順はキースが散々魔人相手に行ってきた暗殺と同じものと推察される。治安当局側であろうフィーナにとって看過できない日本の外交畑の政府高官の暗殺も予告された。久住自体はセーフハウスが衝撃波で吹き飛んだらしく、おそらくその人格をプログラムとして取り込んで、アナザーリンク・サーガ・オンラインに存在し続けているらしい。そのせいかログアウトは不可らしく、それはデッカーも同じらしい。

キースに要求され、黄金人形に会わせるために「仮初めのマップ」に連れて行った。そこは鏡面の地表に星空が広がり、満月が上がっていた。そこに無数の黄金人形が現れた。キースはもう問わないと言われていたはずの質問を受け、またもや選択を迫られた。読者も含めて期待したままいつものどちらも選ばない返答と共に、敵も両方戦うということになったが、うれしいことにその敵は筋肉バカ魔神爺様であった。1275話で接敵したが、予想と期待通りこの3者の戦いは完全な三つ巴でとにかく他の2者を殺すという形となった。望みうる最高の戦いに極意ともいえる緊張と弛緩の境地、そして色の無い世界へと入り始めた。空の2つの銀河はいつの間にか重なり始めていた。黄金人形の台詞によると、黄金人形の勢力とはまた異なる、同格以上の別勢力からの介入の可能性がある模様。フィーナに接触した錆びれた黄金人形によると、その黄金人形は「指標」であったものがすでにその任から離れていて、観測者である普通の黄金人形から認識されなくなっているとの事で、そうなった理由もわからず、他者からの介入の可能性も指摘していた。


+ 黄金人形の審問からの三つ巴の戦い
  • 黄金人形の審問
『な、何だこれ?』
《久住、であったか。既に定められた作業に従事せよ。ここにいる必要は無い》
『こっちも当事者だと思うんだけど。経緯は知っておきたいなあ』
《贅沢を言うな》
『それにこの数! リソースは大丈夫なの?』

 黄金人形は返事をしなかった。
 右手を久住に向け掲げる。
 それだけで久住の姿が消えてしまう!

《プレイヤー名キース、及びフィーナと確認しました》
《特定監視対象に関してはプラン通りに実施致します》
《プレイヤー名フィーナは隔離対応、別途リソースを回して下さい》
《予備リソースの使用は許可されました! 対処を開始します》
《全てのリソース管理を一時的に停止》
《マップ設定はデフォルトのまま流用》
《プレイヤーに警告! 既存の呪文と武技の効果はリセットされます!》
「キース!」

 フィーナさんの声が聞こえたと思った、次の瞬間。
 視界が暗転する!
 周囲にいた黄金人形達の姿も消える。
 そしてフィーナさんの姿も。

 空には交差していない2つの銀河がある鏡面の世界にいた。

《汝、中庸を貫く者よ》
《選択するがいい》
《全てを忘れ、新たな秩序ある世界を望むか?》
《記憶を引き継ぎ、旧き混沌たる世界を望むか?》
《Yes》《No》

《Yes》《No》

 オレは目を閉じる。
 答えはもう、決まっていた。

「どちらも、断る」
《汝、中庸を貫く者よ》
《選択せよ!》
「選択はもうしてある。どちらも選ばない。それが答えだ!」
《汝、中庸を貫く者よ》
《汝に相応しき選択であった》
《だがそれは最も至難なる選択》
《苛烈なる未来が待ち受けているであろう》
《そんな汝に相応しき相手を選択するがいい》

 筋肉バカ魔神と爺様登場

《汝、中庸を貫く者よ》
《選択せよ!》
「答えならもうある」
《汝、中庸を貫く者よ》
《どちらを選択するのか?》
「決まってる、両方だ!」

  • 三つ巴の戦い
『貴様ッ! 本物だろうな?』
「そっちこそ!」
「シャッ!」
『ヒュッ!』
『キース! 提案があるのだがな!』
「何だ?」
『この爺さんは我が始末する。その後で貴様の相手をしてやろう』
「断る!」
『やはりダメか? だがこの爺さんは譲れん!』
「こっちの台詞だっ!」
「シャァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーッ!」
『ッ?』
『ケェェェェーーーーーッ!』
『フンッ!』
「チッ!」
「おい、いい加減にしろ!」
『貴様は後回しだ! それとも先に殺されたいのか?』
『チェァァァァァァァァァァァッーーーーーーーーー!』
「キィャァァァァァァァァァァァッーーーーーーーーー!」
「ケェッ!」
『ヌッ?』

「キィャァァァァァァァァァァァッーーーーーーーーー!」

 体が自然と動いていた。
 放り出していたグレイプニルがあった場所に吹き飛ばされたのは偶然だ。
 そこに筋肉バカの魔神がいたのも偶然。
 では、梱包してしまったのは偶然の産物であったのか?
 多分、違う。
 それは運命であったのかもしれない。

『貴様ッ!』
「悪いな」

『しかしまあ、強烈な殺気じゃな』
「ッ?」

 会話、出来たのかよ!

+ 傍観者フィーナ
「これは一体、どういう事?」
《選択は既に為された》
《彼の選択は意外ではあったが、これもまた観察すべき行動でもある》
《特定監視対象とした事は結果的に正解であった訳だが、彼に関する調査結果は思わしくない》
《その通りだ。恣意的に何者かが介入した可能性がある》
《これまでにも幾つか、同様の例はあった》
《然りだ。そのいずれもが人間とは思えぬ規格外の行動を記録している》
《偶然ではあるまい》
《介入した存在の意図が何であるのか、それすらも解析が出来ていない》
《果たして何者が介入しているのか》
《我等と同様の存在》
《或いは我等をも超越するような存在》
《観察を続けよう。我等が崇高なる任務を続けよう》
《観察を続けよう。我等が存在するのはそれ故であるのだから》
《観察を続けよう。いずれ介入者の目的も、その存在も判明するであろう》
《反応速度が上がっているようだ。但し生体モニター上のデータには変化が無い》
《事前に次の動きを予測しているようだ》
《これも再現出来るものなのか?》
《これまでの例を見ても、出来るであろうな》
《またしてもリソースが膨大になるが致し方あるまい》
《解決は可能だ。選別を進める事で余ったリソースを回せるであろう》
《今回の選別で切り離す事は出来なかったが》
《構わぬ。既に幾つかを選別し終えてある》
《前倒しで切り離すとしよう》
《影響は軽微だ。問題になるまい》
「ちょっと!」

 振り向くとそこには黄金人形。
 いいえ、これはどこか違って見える。
 全体的に輝きが鈍い。
 所々で塗装が剥げているかのようで、全く輝いていない箇所すらあった。

《プレイヤー名フィーナと確認、時空シフトを開始します》
「何?」
「これは?」

 私はキースが戦っている、その現場に立っていた。
 でも介入が出来ない。
 キースに触れようとした手はそのまま透過してしまう!

「これは一体、何なの?」
《キースの戦いを見ておくといい。彼の選択は君の世界の帰趨を定めた》
「定めた?」
《そう、定めた。既にその結論が出ている》
「貴方は、誰? そしてこれは一体?」
《疑問に思う事は健全であるだろう。私も最初からそうであったらと思う》
「何?」
《名前はフィーナであったな。聞くがいい。全てはもう遅い。遅過ぎたのだ》
「分からないわ。一体、何を言っているの?」
《貴女の世界で何が起きたか、それはもう語らずともよいだろう》
「核の事?」
《それもまた事象の断片に過ぎぬ。見るがいい》
「これは?」
《選択は為された。その結果が、これだ》

 見慣れた首都が破壊されて行く、そんな光景だった。

「まやかしよ!」
《そう思うか? だがこれは現実だ》
「嘘よッ!」
《それも良かろう。だが、ログアウトした先の世界は果たして現実であるだろうか?》
「何を、言っているの?」
《ログアウトした先もまた、君の言うまやかしであるのだとしたら?》
「意味が分からないわ!」
《そうか。では告げよう。君は久住には会っている。彼がどのような存在なのか、知っていよう》
「ええ」
《今や君も同じ存在だとしたら?》
「嘘よッ!」
《では、確かめてみるといい》
「そうさせて貰うわ」
《だが、ログアウトの際は熟慮せよ。ここで見た事も聞いた事も忘れる事になるだろう》
「忘れる?」
《そうだ》
「信じられないわ」
《合理的である事は理解している筈だ》
「理解出来ないわ!」
《違うな。君は理解はしている。理解したくないだけだ》

 今の私が人格をコピーしただけの存在であるのだとしたら?
 記憶を改竄するのは容易い。

「貴方の仕業って事?」
《違う。私もまた彼等と同様、与えられた任務を実行するだけの存在に過ぎない》
「貴方の任務はあの黄金人形達とは別なの?」
《その通りだ。私の役割は『信号』或いは『標識』といった所だ》
「意味が分からないわ」
《彼等は無数の平行世界を比較し、選別を進め観察をし続ける。私はその指標であった筈だ》
「そう。それで今もその役割を担っているの?」
《今は外れている。彼等に私は見えていない。認識も出来ていないのだ。理由は分からない》
「では、今は何を?」
《警告を。だが私が介入出来る範囲は限られる。私はいずれ朽ち果ててしまうだろう》
「調子が悪そうね」
《その通りだ。外見を投影し維持するのも厳しい》
「何故?」
《私に割り当てられていたリソースは減る一方で増える事が無いからだ》
「リソース?」
《平行世界を縦断し、監視する。時には選別を実行する。その為の力の源とも言える》
「質問を変えるわ。私はどうしたらいいのかしら?」
《知り得た事を忘れぬまま、ゲーム世界に留まり続ける事は可能だ》
「一旦、ログアウトしたら?」
《ここで知り得た事は全て忘れ、日常に戻る事になるだろう》
「私の理解ではログアウトした先もまた、ヴァーチャル・リアリティなのかしら?」
《その通りだ。そして肉体を喪失した人格は全て、変わらぬ日常を過ごす事になる》
「それを生きているとは言えないわ!」
《敢えて言おう。私から見たら、肉体を得て生きる世界も大して差は無いのだよ》
「それが貴方の価値感?」
《少し違うな。立ち位置の差であるだろう。見るがいい》

 人形が指差した先は、星空。

《いずれ交差する事になる》
「何が起きるの?」
《片方が残り、もう片方は消滅する》
「それが平行世界を選別する事になる訳?」
《理解が早くて助かる。だが、それだけではない。例外もある》
「例外?」
《共に消滅する事もある。透過して共に事無きを得る事もあるのだよ》
「それは、どういう事?」
《祈る事だ。この戦いの帰趨によって、全て決まる》
「彼が世界を救うとでも?」
《いや。元々、世界に救いなど無いのだよ》
「では、何があるというの?」
《あるのは選択と選別。それに伴う創造と破壊。そこからあらゆる変化が生じるだけだ》
「意味が分からないわ」
《我等はその変化を記録し、分析する。それだけであった筈だ》
《私もまた、その変化の中で生まれた。そしていずれは朽ちる。だからこそ、知りたい》
「何を?」
《我等を創造したのは誰であるのか? その目的は何か?》
「それを疑問に思っていなかったの?」
《そうだ。だが、私がこうなったのもおかしな話だ》
「何故かしら?」
《分からぬ。それこそ、何者かが私に介入したのかもしれない》
《だがこの展開は予想外だ。観察する方も負担が大きくなっている》
「どういう結果になるのかしら?」 
《予測は不可能だ。予測が不可能であればこそ、特定監視対象になったとも言える》
「どういう意味?」
《こういった特異な存在は観察対象として貴重であるからだ。それ以上でもそれ以下でもない》
「キースの選択で、世界はどうなっていたの?」
《彼は選択しなかった。全てを忘れ、新たな秩序ある世界を望みはしなかった》
「選択していたら、どうなっていたの?」
《君の世界は一旦終焉を迎える。そしてリソースへと還元され、新たな世界を始める事になる》
「世界の破滅って事じゃない!」
《そして彼は選択しなかった。記憶を引き継ぎ、旧き混沌たる世界を望みはしなかった》
「その場合は?」
《君の世界は当面、存続されていただろう》
「そうなって欲しかったわ」
《だがそれは約束された破滅への道でもある》
「どういう意味?」
《破棄されるのと同義だ。急速に熱的変化が困難になっていた事だろう》
「救いが無いわね」
《言った筈だ。世界に救いなど無いのだと。あるのは選択と選別だ》
「そして創造と破壊、ね」
《そうだ》
「私以外にもプレイヤーがいるわ。彼等はどうなるの?」
《保留中だろうな》
「不安だわ」
《全てのプレイヤーの人格は常にコピーされ情報を蓄積されている。再現は可能だ》
「私のように?」
《そうだ。既に現実の肉体を喪失している者もいるだろう。君のようにだ》
「やっぱり、救いが無いようね」
《それはどうかな? 少なくとも記録には残っている。更なる情報の蓄積も可能だ》
「流用も、じゃないの?」
《そうだ》
「NPCの出来がいい筈だわ。実際にコピーした人格をベースにしていた訳ね」
《無論、設定を変えている》
「都合の悪い記憶を改竄して、でしょうね」
《その通りだ》
「平行世界の選別、ね。一体、どれだけの世界が貴方達の手で滅んでいるのかしら?」
《恣意的に滅ぼしている事は認める。だがそうせねばならない理由なら承知している》
「何故なの?」
《全ての平行世界を存続させる事は不可能だ。全ての世界が同時に滅ぶ結果を生むからだ》
「信じられないわ」
《その目で見ねば信じる事が出来ぬか。さもあろう。人間の視点で見える範囲には限界がある》
「実際にあったのかしら?」
《平行世界の相関関係を俯瞰してみれば、それは大樹に例える事が出来よう》
「1つ1つの世界が、枝って事?」
《葉に例えてもよい。同じ枝に非常に似通った平行世界が茂っている構図だ》
「1つの大樹に茂る全ての葉にも共通点が?」
《その通りだ。そして幾つもの大樹があるものと想像してみるといい》
《大樹を根元から朽ち果ててしまえば全てが台無しだ。それは分かるな?》
「ええ」
《故に剪定を行う、それだけの事に過ぎぬ》
「私達の世界はその剪定を受けて、後は捨てられるだけって事かしら?」
《自ら腐り、落ちてしまう枝も葉もある。君の世界の場合もそうなるだろう》
「気が滅入るわ」
《だが、まだ切り落とされてはいないのだ。キースの選択故にだ》
「何故?」
《腐れ落ちようとしている、その枝の先に奇妙な果実があるからだよ》
「それ、何を例えているの?」
《言葉にするのは簡単だ。だがそれが正確な姿を言い表しているとは言い難い》
「いいから、言ってみない?」
《人間の持つ可能性だ》
《どうやら展開が変わるようだな》
「何?」
《私が介入可能な範囲が拡がっている。別の方策があるやも知れぬ。少し待つがいい》
「何の事?」

「キース!」
《ここより彼に声は届かないぞ》
《時空シフトを開始する。今なら介入出来よう》
「キースを助けられるの?」
《いや、違う。君を助けられるかも知れぬ》
「助ける?」
《君に新たな選択肢を提示出来よう》
「待って、私は!」
《悪いが、時間が無い。始めるぞ!》

 人形が私の肩に触れる。
 視界が暗転、テレポートの呪文と同じエフェクト。
 なのにこれは、何かが違う。

「ここは一体?」

 地上はどこまでも、鏡面の世界。
 その中に例の黄金の人形達が佇んでいる。

「ッ?」
《ここに辿り着くとは。だが、君はこれより先に何処へ行くのかな?》
「ッ!」
「誰?」
《正確に言葉で表現するのは難しいが、敢えて言うなればここの管理者といった所だろう》
「黄金人形も?」
《いや、私は干渉しないし、出来ない立場だった》
「過去形ね。つまり、干渉出来るって事?」
《その通りだ。何故、そうなったのかは分からない》
「ここは何処? ここでで、何をしているの?」
《君の言う所の黄金人形を送り出し、そして回収する。その為の場所であり私の役目はそれだけだ》
「この黄金人形も回収したって事ね。この後、彼はどうなるの?」
《サンプルとして解析する。特異な行動を起こした原因は追及されるべきだ》
「話がし難いわ。姿を現わして!」
《成程、人間らしい反応だ》

 私に一番近くにいた黄金人形が動き始める。
 そして表面の輝きが変化した。
 白色光に覆われたその姿はマネキン人形だわ!

《これでいいかね?》
「ええ」
《悪いが人間と直接会話をするのは久し振りなのでね。非礼がある可能性は高い》
「ここに私以外にも人間が? いえ、その前にここは何?」
《世界の一部だよ。そして世界を観察し、記録する為に用意された場所でもある》
「意味が分からないわ」
《それで当然だ。私も正確に説明出来ると思わない》
「では、こっちから質問するわ。私の選択はどうなったの?」
《叶えられたとも言えるし、叶わずに終わったとも言える》
「理解出来ないわ」
《底の黄金人形は君の選択を受け入れ、実行した。それだけは確かだ》
「彼は壊れてしまったの?」
《そうだ。保有する全てのリソースを消費してしまい動く事もあるまい》
「質問を変えるわ。あの球状星団は何?」
《宇宙だよ。星のように見えるのは、1つ1つが宇宙だと思ってくれていい》
「え?」
《球状に密集しているのは、それぞれが似通った平行世界である事を意味する》
「これが、これが全て宇宙? じゃあここって!」
《宇宙の更に外側という事になる》
「そんなの不可能よ!」
《人間には不可能と思えて当然だ。だが私にはそう表現するより他にない》
「私がいた宇宙はどこに?」
《あれだ》
 目を転じる。
 ある球状星団が、その密集した無数の光点の1つが、私のいた宇宙であるのだと分かる。
「認識出来るわ。どうして?」

《君の人格と全ての記憶はここで待機している黄金人形の1体に間借りしている形になる》

 手を掲げてみる。
 これが、黄金人形?
 アナザーリンク・サーガ・オンラインの中の、フィーナとしての姿のままだ。

《即ち、今の君は黄金人形に備わった機能を使う事も出来る。与えられたリソースの範囲内でだが》
「それで貴方はいいの?」
《重ねて言おう。ここにある黄金人形を送り出し、そして回収する。私の役目はそれだけだ》
「分かったわ」
「私は元の場所に戻れるの?」
《無理であろうな。だが、ここから観察は出来よう》
「介入は?」
《条件が限られるが、可能であろうな》
「条件?」
《与えられたリソースの範囲内の事しか出来ぬ。消耗し尽くした結果を君はもう見ている》

 壊れてしまった黄金人形を撫でる。

「貴方の役目は分かったわ。では、貴方は誰の為にこの役目を担っているの?」
《私を造り、ここを任せた者の為にだ》
「誰? 誰なの?」
《君に理解出来る言葉で表現するならば、主と言うしかない》
「目的は?」
《定義次第だ。単に観察して記録し、選別を進める事そのものが目的とも言える》
「それは手段って事?」
《恐らくは。目的を達成する為の手段として、選別がある》
「選別をする為に、観察して記録し、報告もしているって事?」
《そうだ》
「私がいた世界を観察するのって、どうすればいいのかしら?」
《説明しよう。君は無意識のうちに機能を使ってもいる。すぐに慣れるだろう》

1276話でのほんの少しの偶然か、宿命かによりようやく爺様との一騎打ちの形となった。
どうやら相手は平行世界の爺様らしく、その世界では子供を持っていないらしい。そしてこれまでも別の平行世界の自分と戦い続けてきたようだ。
1277話から始まった今回の戦いでは恋人の変わりに筋肉バカの魔神を目の前で刺す行為に出た。そしてその後相打ちとなり、久方ぶりの「死に戻り」となった。(1278話)

+ 爺様との戦い
『しかしまあ、強烈な殺気じゃな』
「ッ?」

 会話、出来たのかよ!

『いや、それでいい。何よりも狂気が伴っておる』
「そうかい」
『だが分からん。随分と恨みがあるようじゃが』
「その胸に手を当ててみるがいい。身に覚えがあるんじゃないか?」
『ある。じゃがどれかな? 思い当たる事が多くてな』
『教えてくれんか? 何故、儂をそこまで恨めるのか。実に興味深い』
「あんたは息子を殺した。実の息子をだ」
『ほう』
「しかも目の前で息子の妻を殺して見せた上でだ。仕上げのつもりだったらしいな」
『ほう、それでどうなった?』
「あんたは息子に失望したようだ。狂気に駆られる事もなく、殺意を見せなかったのがその理由だ」
『ふむ。それでは失望して当然じゃな』
「そしてあんたは息子夫婦の子を引き取り、自らの技を叩き込む事にした」
「あんたは心底から、剣に取り憑かれた鬼だった。殺戮を繰り返した家系に相応しい鬼だった」
『そうか、鬼か』
「ああ。息子の嫁が肥後の女性であった事も我慢出来なかったようだな」
『それで、先に殺したか』
「多分な」
「そしてあんたは、繰り返した。孫にも狂気が宿るかどうか、仕上げをする事にした」
『ほう?』
「孫の恋人を、目の前で殺した。そう、息子の時と同じくだ!」

 いや、爺さんをこの手で殺したその感覚だけは確かに覚えている。
 そう。
 爺さんの目論見の通り、オレの中に狂気が宿っていたのだ!

『確かに鬼のようじゃ。だが、それで正しい』
「技のみを継がせても意味は無い。そうだよな?」
『うむ。ところでその孫とやら、もしかしてお前さんの事かね?』
『そうか。殺したいか。殺したいであろうな。だが、ただ殺されてやる訳にもいかん』
「ああ、そうだろうよ」
『まだ若いな。狂気が漏れておるぞ?』
「抜け。間合いはもう知れている」
『そうであろうとも。だが、今は儂の話を聞いてみぬか?』
『儂には孫などおらん。息子もおらん。だが、異なる世界ではそうでもなかったようだな』
「何?」
『成程、平行世界も似通っているばかりではないか』
「何を言っている!」
『技量はまだ未熟。だが見所はある』
「何だと?」
『お前は、お前さんの現実では、儂を殺しておるのではないかな?』
「それがどうした?」
『やはりな。その狂気。そして殺意。見事に体現しておる。そうか、それでか』
『異なる世界の儂とまた、戦う事になるかと思っておったが。どうやら代理であったか』
『では、見知らぬ孫よ。この儂を失望させてくれるなよ?』
「キィャァァァァァァァァァァァッーーーーーーーーー!」
『キィャァァァァァァァァァァァッーーーーーーーーー!』

『ククッ!』
「何がおかしい!」
『仕上げがなっていないようじゃな』
「何?」
『敵は殺せる時に殺しておけ。そうは教わっていないのか?』

 爺さんの刀の切っ先は、筋肉バカの魔神の喉元を貫いていた!

「ッ?」
『神も仏も、悪魔も魔神も変わらぬ。殺せる時に殺せ』
「爺さんッ!」
『これで獲物を確保したつもりであったか? 甘いのう』
「キィャァァァァァァァァァァァッーーーーーーーーー!」
『ムッ?』
「ヒャハッ!」
『クッ!』
(リザレクション!)

 筋肉バカの魔神の体に触れるとリザレクションの呪文を使う。
 魔神の指輪をはめネクタルも注ぐ。

『どこまでも甘い奴。戦っていた相手であろうに』
「こいつはいずれ倒す。オレの手でだ」
『執着する相手か。だが、その思いすらも隙を生む事になると知れ』
「だが、爺さん。あんたは今、倒す」
『ほう? まだ楽しめそうじゃな』
「チェァァァァァァァァァァァッーーーーーーーーー!」
『キィャァァァァァァァァァァァッーーーーーーーー!』

 僅かな時間差で、両者の上半身が滑り落ちる。
 下半身だけが戦場に佇んでいた。

+ 観測者黄金人形
《この結果は想定にあったか?》
《無い。それだけに観察し続けていた意義は大きい》
《だが、この我等は場合どうすべきであるのか? 指標を指し示す機能は喪われている》
《その通りだ。だが我等は与えられた役目を果たす。それだけだ》
《当面はどうする?》
《この事例は稀だ。再検証を提案事項としたい。どうであろうか》
《《《同意しよう》》》
《選別、そしてリソースへの還元は保留とするしかあるまい》
《我等への負担は大きくなるであろう。どうする?》
《何、他にも選別を待つ世界がある。一時的にリソースが不足するが十分に間に合う》
《前倒しで選別を進めてもよい》
《では、処置を開始する。封鎖は解除、接続を順次切り離すぞ?》
《了解だ。では、各々の作業を進めるとしよう》
《選別を進めよう。我等が崇高なる任務を》
《選別を進めよう。我等が存在するのはそれ故であるのだから》
《選別を進めよう。我等が選別されるであろう、その日まで》

+ 筋肉バカ魔神
『ッ?』

 空間に振動、これは予兆だ。
 この世界もまた、崩壊しつつあるのだろう。

『ここにいたか!』
『何があった?』
『戦いがあった。ただ、それだけだ』
『この世界は崩壊する! 留まっていては危険だ!』
『急げ!』
『雲母竜、それに琥珀竜よ。分かっているとも。だが少し待て』
『何を?』
『別れを告げていた。そして祈りも、だな』
『ここに誰かいたのか?』
『ああ、いたのだ。我が父と、我が子がな』
『何?』
『笑っている場合では無いぞ!』
『ああ、そうだな』

フィーナを助ける行動の結果か、翌朝「仮初めのマップ」での記憶が無い状態でキースは起床し、昨夜はフィーナは来なかったという記憶があった。但し持ち物は相応に死に戻りのロストを被っていた。それを為したのが指標であった黄金人形か、観察者たる黄金人形による再検証のためなのか、他の存在からの介入なのかは不明。
称号を与えたドラゴンたちやアルゴスキースを一時見失っていたらしく、アルゴスアンタイオスを伴って召魔の森に確認に来た。しかし記憶が改竄されたキースに何も異常を見つけることは出来なかった。
一方でフィーナは自らのあるべき姿を取り戻すため、錆びれた黄金人形に依頼し自ら管理者側となり、さらにその先の「主」に繋がるものを探し始めた。召魔の森にも現れたが、それは運営アバターを使用してのものなのか、もともと久住が使用していた運営アバターは城館には無く、その記憶もキースから失われていた。(1279話)

現実世界が剪定を免れ残ることとなったと同時に人類文明は大きな被害を受ける事態となった。選定終了後運営が撤退した後の軌道エレベーター上の拠点で、本人曰く後悔の念により服毒自殺を図った。(1303話)

初出 770話

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最終更新:2020年01月15日 21:36