綻び
『酒ばっか飲んでるぐうたら親父がそんなに大事?』
『ほら、わかったらこんな生活とっととやめたら?』
『覚えやすいとこだけは、アンタの親に感謝してあげる。』
『い、痛くないってばどこも!ほらもう心配しなくていいから寝よう寝よう!』
『なっ…ななな何言ってんの!?それは俺をからかって言ってるわけ?』
『……あー、分かった分かった。寝れば良いんでしょそれで満足なんでしょ?』
『ほら、わかったらこんな生活とっととやめたら?』
『覚えやすいとこだけは、アンタの親に感謝してあげる。』
『い、痛くないってばどこも!ほらもう心配しなくていいから寝よう寝よう!』
『なっ…ななな何言ってんの!?それは俺をからかって言ってるわけ?』
『……あー、分かった分かった。寝れば良いんでしょそれで満足なんでしょ?』
子どもだった。
自分は何もかもが子どもだった。
考え方は浅はかで。言葉は無意味にねじくれて。行動は無駄にまみれてて。
子どもだった。子どもとは即ち幼稚だ。幼稚とは即ち馬鹿だ。馬鹿とは即ち劣っている事だ。
彼女の一番でありたいのに、
彼女と居れば居る程劣っていくだなんて。
自分は何もかもが子どもだった。
考え方は浅はかで。言葉は無意味にねじくれて。行動は無駄にまみれてて。
子どもだった。子どもとは即ち幼稚だ。幼稚とは即ち馬鹿だ。馬鹿とは即ち劣っている事だ。
彼女の一番でありたいのに、
彼女と居れば居る程劣っていくだなんて。
大人になりたかった。
子どもを捨てる為に大人になりたかった。
けれど。子どもの願いから生まれた"俺"はふと気づく。
大人って、
子どもを捨てる為に大人になりたかった。
けれど。子どもの願いから生まれた"俺"はふと気づく。
大人って、
大人って、なんだろう―――
…ふと物思いから戻ってくると、不愉快げな澪と目が合った。
「…何ぼーっとしてんのよ牢。さっき起きたくせに歩きながら寝てるの?」
「ううん、起きてるよ。ごめんね澪。」
辛辣な言葉もさらりと流し、素直に謝る牢。そういえば牢は澪の言動に一欠片も苛立ちを覚えたことがなかった。というかそもそも感情が動く事がほとんどない。
最初からこうだから気づかなかったが、これも願いの効果なのだろうか。だとしたら、大人とは感情に振り回されないという事なのだろうか。
…変な夢を見てしまったせいか、やたらと物思いにふけってしまう。ふと気がつけば、また澪に睨まれてしまった。
「あんたねッ!次ぼーっとしてたら今すぐ焼き殺すわよ!?」
「ごめん澪。気をつけるよ。次もダメだったら焼いていいよ。」
「なんなのよその発想はッ!誰がアンタなんか焼くもんですか、火が勿体ないものッ!」
ぷいっ、とそっぽを向く澪は牢と対照的に、いつでも感情の赴くままだ。先程の理屈で言えば彼女は子ども?しかし子どもを嫌がった自分ならば子どもっぽさは不愉快なはず。彼女を見ていて不愉快になった事は一度もない。
わからない。子どもとは。大人とは。なんだろう…。
…ぐるぐる、煮詰まってきた物思いが不意に記憶を呼び覚ます。
「ううん、起きてるよ。ごめんね澪。」
辛辣な言葉もさらりと流し、素直に謝る牢。そういえば牢は澪の言動に一欠片も苛立ちを覚えたことがなかった。というかそもそも感情が動く事がほとんどない。
最初からこうだから気づかなかったが、これも願いの効果なのだろうか。だとしたら、大人とは感情に振り回されないという事なのだろうか。
…変な夢を見てしまったせいか、やたらと物思いにふけってしまう。ふと気がつけば、また澪に睨まれてしまった。
「あんたねッ!次ぼーっとしてたら今すぐ焼き殺すわよ!?」
「ごめん澪。気をつけるよ。次もダメだったら焼いていいよ。」
「なんなのよその発想はッ!誰がアンタなんか焼くもんですか、火が勿体ないものッ!」
ぷいっ、とそっぽを向く澪は牢と対照的に、いつでも感情の赴くままだ。先程の理屈で言えば彼女は子ども?しかし子どもを嫌がった自分ならば子どもっぽさは不愉快なはず。彼女を見ていて不愉快になった事は一度もない。
わからない。子どもとは。大人とは。なんだろう…。
…ぐるぐる、煮詰まってきた物思いが不意に記憶を呼び覚ます。
燃え盛る本棚が、澪へと倒れていく瞬間を見た時の
胸の中で爆ぜるような、何か。
胸の中で爆ぜるような、何か。
「………。」
胸に、思わず手を当てる。どくどく、普段より少し脈が速かった。
思い出しただけでも胸の中と背筋がざわりとする。
同時に自分の足元が、ぐらりと揺れるような心地がする。…わからない。わからないけどこの物思いは、そしてあの時感じた何かは、とんでもない劇薬なのではないか。そんな予感がした。
胸に、思わず手を当てる。どくどく、普段より少し脈が速かった。
思い出しただけでも胸の中と背筋がざわりとする。
同時に自分の足元が、ぐらりと揺れるような心地がする。…わからない。わからないけどこの物思いは、そしてあの時感じた何かは、とんでもない劇薬なのではないか。そんな予感がした。
ふと、隣の澪を見た。また睨まれることを想定しながら。
想定は外れた。澪は大きな目を不安に曇らせて、こちらを覗きこんでいたから。
「…澪?」
「ううん…別に。出歩いてて平気なのかなって思っただけよ。あの妙ちきりんな医者に安静とか言われてたくせに。」
すぐさま澪は目を伏せる。また見上げた時にはいつも通りの強気な目だった。
「あんたにくたばられると安眠できないんだから、変なへばり方しないでちょうだいよ。」
「うん。善処する。」
「善処じゃない!絶対よ、絶対!」
「…うん、そうだね。」
くす。意識せず笑みがこぼれた。
想定は外れた。澪は大きな目を不安に曇らせて、こちらを覗きこんでいたから。
「…澪?」
「ううん…別に。出歩いてて平気なのかなって思っただけよ。あの妙ちきりんな医者に安静とか言われてたくせに。」
すぐさま澪は目を伏せる。また見上げた時にはいつも通りの強気な目だった。
「あんたにくたばられると安眠できないんだから、変なへばり方しないでちょうだいよ。」
「うん。善処する。」
「善処じゃない!絶対よ、絶対!」
「…うん、そうだね。」
くす。意識せず笑みがこぼれた。
「澪の言うことは絶対。守るよ。」
…ちくり。その黄金律を破った右手が、小さく痛んだ。
本当にどうしてああなったんだろう。今の牢ならああしなくても澪を守れる幾通りもの計画をすぐ立てられるのに。
微笑している事にはっと気付いた牢はすぐ無表情に戻る。
なんだろう。なんだろう。口元の綻び。行いの綻び。綻び。綻び。
本当にどうしてああなったんだろう。今の牢ならああしなくても澪を守れる幾通りもの計画をすぐ立てられるのに。
微笑している事にはっと気付いた牢はすぐ無表情に戻る。
なんだろう。なんだろう。口元の綻び。行いの綻び。綻び。綻び。
自分自身に綻びができているような。
そんな、予感がした。
子どもを捨てたい。大人になりたい。その願いから生まれた牢。
彼女にふさわしい大人であるのが、"牢"。
そんな、予感がした。
子どもを捨てたい。大人になりたい。その願いから生まれた牢。
彼女にふさわしい大人であるのが、"牢"。
そうでなければ"牢"では無い。
そうでなくなれば"牢"は"牢"じゃなくなる。"牢"として機能しなくなる。
確かめたい。確かめたいけどわからない。
だってわからないから。問いかけたくても願い主は眠りの中。
ねぇ、 。
そうでなくなれば"牢"は"牢"じゃなくなる。"牢"として機能しなくなる。
確かめたい。確かめたいけどわからない。
だってわからないから。問いかけたくても願い主は眠りの中。
ねぇ、 。
君は俺に何を望んでいた?
君が望んでいた"大人"とは、何だ?
君が望んでいた"大人"とは、何だ?
…ぴた。
牢は突如足を止める。先を歩いていた澪も、険しい顔つきで牢を振り返った。
「…牢。」
「うん。わかってる。」
すらり、と鉄パイプを持ち直した。
「誰か…来る。」
五感全てをはりめぐらせる。耳が、鋭い風の音を捕えた瞬間、
「…牢。」
「うん。わかってる。」
すらり、と鉄パイプを持ち直した。
「誰か…来る。」
五感全てをはりめぐらせる。耳が、鋭い風の音を捕えた瞬間、
がきぃぃぃぃ…ん!
空中から現れたようにしか見えないほどの素早い刃。それを牢はぎりぎり鉄パイプで受け止めた。
「…!」
敵か。少々動じたがこの程度日常茶飯事。目配せを送ろうと澪を見、ぎょっと目を瞠った。
「澪、危ない…!」
「えっ…、ッ!」
ぎりぎりかがんで避けた澪の髪先を、華奢なてのひらがかすめていた。
澪は即座に距離を取って牢に背を預ける。にぃやり笑んでる女へ、苛立ったように罵声を浴びせた。
「ッ誰よアンタ!ブスのくせに私に触っていいと思ってんのッ!?」
澪は覚えていないようだが、牢は彼女に見覚えがある。
空中から現れたようにしか見えないほどの素早い刃。それを牢はぎりぎり鉄パイプで受け止めた。
「…!」
敵か。少々動じたがこの程度日常茶飯事。目配せを送ろうと澪を見、ぎょっと目を瞠った。
「澪、危ない…!」
「えっ…、ッ!」
ぎりぎりかがんで避けた澪の髪先を、華奢なてのひらがかすめていた。
澪は即座に距離を取って牢に背を預ける。にぃやり笑んでる女へ、苛立ったように罵声を浴びせた。
「ッ誰よアンタ!ブスのくせに私に触っていいと思ってんのッ!?」
澪は覚えていないようだが、牢は彼女に見覚えがある。
「あら、ごめんなさいね。私達今ゴミ掃除中なの。」
彼女は…桃は、悪びれもせず笑みを貼りつけている。
大きな愛らしい目が、獰猛に細まった。
「お久しぶりね、嘘つきお兄さんと喧しい女狐さん。以前滅茶苦茶に遊んでくれたお礼…させてもらっていいかしら。」
彼女は…桃は、悪びれもせず笑みを貼りつけている。
大きな愛らしい目が、獰猛に細まった。
「お久しぶりね、嘘つきお兄さんと喧しい女狐さん。以前滅茶苦茶に遊んでくれたお礼…させてもらっていいかしら。」