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Someday

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Someday



瓦礫の上に腰掛けて、幻は石像のように考え続けていた。
時折頭を抱えて深く溜息を吐く。そしてまた、瞑想を続ける。

その背後で、じゃり、と土を踏む音がした。幻は振り返りもせず言い放つ。

「"アノニマス"、何の冗談だ?」

色違いの"樹"の姿を借りたアノニマスはゆっくりと抜刀し、いつものように甲高く哄笑した。
が、それはいつもと違った、完全に正気を失ったものだ。
さすがに驚いた幻が身を躱した場所を、"リーフブレード"が素早く薙ぎ払う。
二撃、三撃、連続する太刀筋。幻の黒衣を掠めて、鮮血の花を咲かせる。
白刃の隙間を縫って一撃を叩き込む。少しよろめいて、アノニマスはにたりと笑う。
そして、樹の声で――姿で、言った。
「冬さんは、俺を選んだ」

一瞬、幻の青い瞳が揺らめき、それからまた高純度の炎のように燃え盛る。
細い眉の眉根を寄せ、アノニマスを――"樹"を、睨みつける。
「だったら何だ。私は"幻"に過ぎない。あの人の手駒で構わないんだ」
「本当か?」
あっという間もない、"樹"は幻を救い上げるようにして組み伏せ、抵抗する幻の細い身体の上へ圧し掛かる。
噛み付きそうなほどの青い瞳に、自分の金の瞳を合わせて、深く、深く、覗き込む。
「要らないのなら、俺にちょうだい?」
「……ふざけるのも大概にしておけ」
「冬さんはあんたの物じゃないんだろ? じゃあ、俺が貰ったっていいじゃないか?」
「冬は私の物じゃない、だが私は冬の物だ。冬は渡さない」

"樹"が力を緩めると、幻はすぐさま"樹"を振り払い脱出する。
その首に、"樹"は腕を伸ばした。つかみ取って、瓦礫の壁に幻を背中からたたき付ける。
「っが……!」
「言ったじゃないか、冬さんは俺を選んだんだって。あんたは冬さんにとってもう、要らない物なんだよ?」
「違、う……!」
「冬さんは俺を追いかけて来てる。あんたはほったらかしだね……捨てられたんだ、まるで犬みたいに……それに冬さんは、俺に言ってくれたよ」

幻の耳元へ薄い唇を寄せて、


「きみが、すきだから」


そっと囁く。
幻が息をのむ音がくっきりと響いた。見開かれた青い炎は、急に褪せたように見えた。
"樹"は満足そうに笑うと、幻の身体を手放す。

幻は、立ち上がろうともしなかった。

"樹"は再び"リーフブレード"を構えると、幻の胸に刃先を添わせる。"樹"を見上げる瞳は、もう何者も映してはいなかった。
「さようなら、王子様」
ずぶりと剣が差し込まれ、幻は微かに、悲鳴にならない声を上げる。
力無くその声は途切れ、腕がだらりと落ちた。

立ち去る"樹"の後ろ姿を、墜とされた空は身動きひとつ、瞬きひとつせずに見送っていた。





どれくらいの時間が経っただろう。
幻は指先に力を込めて、這い蹲りながら体を起こした。
二分されたように重い頭と心。信じたくない心と逃れられない頭。
「……そうか、捨てられた、か。」

貫かれた心臓は、ぽっかりと穴をあけたまま――。絶望の巣食う、暗い暗い穴。
つかれた、と一言呟いて、瓦礫を背に座り込む。
『できないと言えば君の夢が終わるまでさ』
夢の笑い声が反響した。夢が終わる? こんなもの、もう残っていないに等しいじゃないか……。

けれど、それよりも強く、激しい感情が、幻をばくりと飲み込んだ。
醜く歪んでいく憎悪、悔恨、一握りの愛。
ぎっ、と瞳に色が戻る。
冷たさを増した、鋼のように冷徹で頑なな炎の色。

立ち上がった幻の視界には、たったひとつの結論だけが映っていた。

「それでも僕は、あなたを愛してる……」


もう、成すべきことを考える必要はないのだ。




Someday / Nickel Back

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