Last update 2007年11月10日
悲しいかな、俺の人生と煙草。 著者:真紅
『途中でそれる道などどこにもない。急な斜面と岩の壁だけ。』
そんな感じで表せれる俺の人生。もう嫌だ。
時々自分の存在がミジメに思えて仕方が無い。
悲しいかな、周りからもそういう目で見られてるみたいだ。
唯一そんな男を味方してくれるのが学生から吸っていた煙草。
口にくわえ、火をつけたその時からとても気が安らぐのだ。
そして口・鼻から吐き出した煙が空に消えていく様子を男は笑顔で見守る。
駅の喫煙コーナーで、この一連の動作を繰り返しながら思う。「・・・かったるい・・・。」
朝7時00分。吐き気がするほどの満員電車に揺られて向かう我が雇い主である会社。
昔は意欲を持って働いていた。が、今ではそんな物カケラも残ってはいない。
朝8時15分。地獄ともいえる時間を過ごし、少しばかり気のせいか、やつれた男は駅を出た。
会社は最寄の駅から徒歩5分。並木道の閑静な一本の長い長い道の先。
ここを通る度、男は自分の今までの変化も無い人生を思い知らされる。
20代後半の男の同期にはIT企業の社長、モデル、中には野球選手だっている。
それだけに、万年平社員の自分の運命が憎い。
遠い記憶を思い出すように男は意識を飛ばしていた。
ギュ・・・何かを踏んだ。「・・・ワンッ!」「・・・はぁ??」
男は声がした足元をゆっくりと見た。思い切り茶色の尻尾を踏んでいた。
その犬は薄く汚れていたが、その眼からは気高い何かが感じられる。
「ワンワンッ!!!」「あっ、ワリィワリィ!!」男は犬の「どけ」とも取れる鳴き声に慌てて足をどけた。
その犬は、男をしばらくじっと見て「フンッ」と鼻を鳴らし去っていった。
「・・・犬にさえバカにされんのか・・・俺・・・ハハハ・・・。」男は苦笑いし、会社へと向かう。
----------------夜9時、今日も上司に散々怒鳴られ意気消沈。
街灯に薄く照らされたあの並木道を、煙草の煙と共に男は歩く。
チラホラ見えるカップルを羨ましい気持ち半分、うっとうしい気持ち半分で見る。
・・・ギュッ。またか・・・。「・・・。」「・・・。」無言で犬と視線が合った。
犬は朝とまったく同じ場所、まったく同じ体勢で寝ていたのだ。
「・・・ワンワン!」恐らく「またお前か」という意味だろう。
「ワリィって・・・疲れてんだ・・・許してくれよ・・・。」男は犬に謝る。まだ長い煙草が落ちた。
大の男が夜中、犬一匹に許しを請っている。周りから見ればあまりにおかしな光景だ。
男は気付くと泣いていた。犬ごときに必死で謝っている自分が情けなかったのだろうか。
「・・・ったく・・・俺の人生何なんだよ・・・ちくしょう・・・。」
冷たい涙が流れる頬に、暖かい何かが触れた。
そこには涙を優しく舐める犬が見えた。
その瞳には、朝に見た気高い物の奥に深く優しさが感じれる。
「・・・ハッ・・・笑っちまう・・・犬に励まされてる・・・・・・でもありがとうな。」
今度は男が犬に抱きついている。これもまたおかしな光景だ。
-------------------次の日、また同じ時間、同じ電車、同じ風景、同じ煙草。
だが、そこには少しだけだが何かが違った。
並木道の長い長い一本道の先に見える一つの影。
「・・・ワン!!」「・・・おう、おはよう!」男一人と犬一匹の奇妙な友情。
ここからが男の人生の転機になるだろう。
今まで真っ直ぐ進んできた男の人生。それはこれから・・・。
『曲がって、曲がって、曲がって、曲がる。』