「さようなら、お父さん、お母さん。―― 貴方達のおかげで、こんなにも、大きくなれたわ」
——『巡礼の年』p.7
シャーデンフロイデ
Schadenfreude
■CONTENTS
■Character
≫Looks
【その全長は高い天井に届きそうな程の高さであった。空中に浮遊する姿】
【巨大な蝶であった。特徴的な翅は夜を思わせる黒に染まって。夜空を溶かしこんだかの如く】
【否、正確にはその翅は夜そのものである。大きく羽ばたく度に、黒の濃淡が変化していく】
【零れ落ちる鱗粉は星屑を想起させる。降り積もる星の欠片が、流星群の様に地面に降り注いで】
【長い触角は空気に触れて靡くように揺れていた、獲物を指先で数える仕草に似て】
【人間一人はありそうな複眼がギョロリと貴方達を睨み付ける。それは微かに笑ったかの様に】
【 "極夜蝶" ―― "シャーデンフロイデ" その名に恥じない荘厳な蝶の姿であった】
【そして同時に、底知れぬ不気味さを携えた存在であった。巨大な蝶は、隠されたグロテスクさを見せつける】
【口吻はさながらホースの如く。人間の首など絞め殺してしまいそうな程に】
"極夜蝶"の名の通り、巨大な蝶の姿が印象的である。
加えて翅は、夜空を溶かし込んだかの様な濃淡を見せて、降り注ぐ鱗粉は星屑を想起させた。
その蝶の姿は
ファラーシャという少女が、使役する蝶の形に近いが……?
≫About
グランギニョルの神々が一柱であり、
グランギニョル神話に於ける禁書目録が存在しない
"虚神"。
INF財団には
"INF-007"と分類され
"目眩く色欲の極夜蝶"という意味の
"Shakah"のオブジェクトクラスを持つ。
その大きな性質は人間の
"シャーデンフロイデ"という感情に起因する、
"世界線"を渡る蝶であった。
最初に確認されたのは
スナークと共に、
ワームシンガーの元へ顕現した時である。
この時シャーデンフロイデ単体は
"ファラーシャ"という少女の形を取っていた。
これは、ファラーシャがシャーデンフロイデの依代として活動していた為であり
この際シャーデンフロイデは、ファラーシャの身体を借りて喋る事が可能であった。
その後
サーペント・カルト体制下では、幹部である
"オフィウクス"の一柱
"プリオル"として活動していた。
ファラーシャという少女が、
ウヌクアルハイを構成する神の一柱に大きく起因する為、
その少女の存在性を高めるという目的の下シャーデンフロイデは活動していた。
この状態で
アリア・ケーニギン=デァナハトと交戦、痛み分けの結果と終わる。
ファラーシャの身体を借りている状態では、後述する能力は殆ど行使出来ていない。
人の身にあまる能力を強引に行使している、という理由がそこにはあった。
セアンの放った必殺の一撃と相殺する一撃を放った際、巨大な破壊反応が発生
その余波を受けてシャーデンフロイデとファラーシャは分離し、半ば逃げる様に
"虚構現実"へ移動した。
そして、インシデント
巡礼の年へと続いていく。
単純な戦闘能力では、四人の猛者には遠く及ばないが、住処たる虚構現実に於いては
その本質である"世界線移動"の能力の本領を発揮し、能力者達を翻弄した。
圧倒的な能力差の中、能力者達は少しずつその能力の本質を解き明かしていく。
一方で柊は、シャーデンフロイデという存在そのものの本質に気付いた。
彼女は戦闘の最中シャーデンフロイデに言葉を向ける、そして伝えたのは小さな感情。
それは人間が当たり前に持つ、"慈愛"の感情。他者を慈しみ愛する、尊き心の動き。
シャーデンフロイデはその感情に大きく揺らいだ。誰も、自らの醜い感情を前に受け入れようとしなかったから。
しかし、柊の思いは打ち破られる。最期の世界線移動と共に、能力者達の一斉攻撃の下に消滅した。
虚構現実でも巨大な蝶型実体として認識されていた。その成立は古く、人類が自我を確立した瞬間には存在していたという。
シャーデンフロイデの正体とは、人間の持つ"暗い感情"そのものである。
人は皆、自分の醜い感情とは向き合おうとはしない。他者の不幸を悦ぶ"シャーデンフロイデ"はその最たる例である。
それ故に、シャーデンフロイデ自身は感情を読み取る事が可能であった。
他者の"シャーデンフロイデ"を読み取り、自身の存在を大きくする。
或いはその存在そのものは、"集合的な負の感情"としても定義できるだろう。
だからこそ虚構現実に於いて、シャーデンフロイデの収容施設の人員は感情を薬で抑制されていた。
人間が負の感情を持つ度にそれを糧にし、存在を強大にしていく。
シャーデンフロイデという"虚神"の信仰とはつまり、負の感情という感情そのものであった。
少なくとも感情全てを抑制すれば、シャーデンフロイデがこれ以上強大になる事はない、筈だった。
しかし、シャーデンフロイデは別の性質を持っていた。
24時間に一度も負の感情を摂取できなかった際、活性化し、世界中の感情を認知する。
そして、その瞬間に最も高く負の感情を感じている実体の元へと顕現する。
多くの場合その実体は"圧政者"や"独裁者"であり、女性の姿を借りてその実体を誑かす。
そして、例外なく多くの独裁や圧政を助長、結果として大規模な被害を生んできた。
シャーデンフロイデが活性化した際に滅亡しなかった国や地域は存在せず、それ故に"禁書"も残っていない。
正確には、シャーデンフロイデが女性の姿を借りた際の記述は残っている。
確認されているだけで妲己、エレナ・チャウシェスク、エヴァ・ブラウンといった歴代の悪女が名を連ねている。
"目眩く色欲の極夜蝶"の名は此処に起因する。シャーデンフロイデが羽ばたいた後は無限の極夜が残るだけである。
INF財団が収容されている際に活性化した場合、"聖皇"に取り入る事は間違いないとされた。
それ故に当初、財団はプロトコル"Marche funèbre"を制定。祝福された贄を派遣し、犠牲としていた。
しかし、シャーデンフロイデはその贄を捕食した後、"サナギ"へと変貌させる。
サナギは生きており、成長している事が確認された為、いずれ羽化し新たなシャーデンフロイデが出現する予測がされた。
それは世界中がシャーデンフロイデに包まれる事を示唆していた。例外なく人類が、醜い感情と直視する終末。
その時どれだけの人間が生き残る事が出来ようか。財団は対応に追われた。
そして打ち出されたのは"研究員ジョルジェッタの提言"であった。
ジョルジェッタは、人工的に人間の感情を発生する機械を作り、シャーデンフロイデを抑制しようと考えた。
成功すれば少なくとも、人間の犠牲は減り、サナギの発生を抑える事が出来る、と。
プロジェクトは"Années de pèlerinage"と名付けられ、システム"Le mal du pays"の開発が開始された。
しかし、プロジェクトは途中で暗礁に乗り上げる。"Le mal du pays"のコアとなる部分。
ジョルジェッタは悪魔に魂を売り渡した。人間の"生体部品"を、そこに用いる決断を。
そして、自分自身が、その部品となる事を提案した。
その結果新たな"虚構制御ファンクション"が制定され、ジョルジェッタの脳を使った"Le mal du pays"が運用された。
人道に反する行いであった。けれども、それは必要な犠牲でもある。
結果として虚構現実に於いて、シャーデンフロイデは一応の収容をされていた。────しかし、
ジャ=ロの手により、収容違反が確定し、
"Butterfly Effect"と呼ばれる大災害を引き起こす。
そしてその災害が、ジャ=ロの出現に繋がるのであった。
ジャ=ロの目論見に於いては、現在のシャーデンフロイデを消滅させる為に"Le mal du pays"が用いられる事
そして、"Le mal du pays"が過去の時間軸に於いて破壊される事が必須であった。
両方の目論見が果たされた今、ジャ=ロはこれまでに無い脅威として、この世界に顕現する。
■Skill
≫Skill
シャーデンフロイデの大きな能力の一つは"感情"に起因するものである。
彼女の力の根源は、その感情そのものにあり、暗い感情を持つことがシャーデンフロイデの力となる。
それ故にシャーデンフロイデは"虚構現実"に深く根付いていた。"虚構現実"の歴史と共に存在していたからである。
だからこそ、"虚構現実"に於いてその能力の本質が発揮される。その真価が"世界線移動"の能力である。
シャーデンフロイデは"平行世界"を認知する。之はどの平行世界に於いても、人間の持つ感情は変わらないが故である。
平行世界を認知する蝶であり、"平行蝶"という名称でファラーシャは認識していた。
シャーデンフロイデに対し、他者が"暗い愉しみ"を持った際シャーデンフロイデは別の世界線へ移動する。
その際世界全てが別の世界線へと変動する。それはシャーデンフロイデにとって、最も望ましい世界線である。
それは、"自身が無傷であり、敵対者が傷ついた世界線"である。その傷は多様な原因で引き起こされる。
だからこそ、"不可避"であった。シャーデンフロイデと敵対する事は、逃れられない敗北を意味する。
また、ここでの世界線移動は、大まかに説明すると、
"別の平行世界線上に存在している、異なる時間軸上に在る、特異点"への移動を意味する。
その為時間軸が変容する。過去や未来、その変化は見境無く、最も都合の良い選択を導き出す。
だからこそ脅威なのである、言ってしまえばシャーデンフロイデが引き起こすのは
"過去や未来に移動し、強制的に過去改変を起こし、バタフライ・エフェクトを巻き起こす"
という第一級の歴史改変である。その為、シャーデンフロイデが能力を発揮する事を最大限避けなければならなかった。
また、鱗粉を用いた能力も存在していた。之はファラーシャという少女の能力に起因する。
彼女の能力は、"音の原因となった事象の再生"である。その為の媒体として使われるのが"蝶"である。
シャーデンフロイデはそれを鱗粉として用いた。
この能力の大きな点は、普段は風切り音を元に、風の能力として用いる事が出来る点であり、
相手が放った能力を、そのまま利用することが出来る点にあった。
それだけでも応用性の高い強力な能力であるが、シャーデンフロイデ自身の戦闘力には大きく影響しない。
それほどまでに世界線移動の能力が強力であった、という事である。
≫対抗神話
シャーデンフロイデへの対抗策として、能力者達は三つの選択肢を用いた。
一つ目は"無感情"
機械の身体を持つアリアだからこそ行使の出来た、強制的な感情抑制と無感情で攻撃をする兵器の合わせ技であった。
『INF-007』の報告書にもあるように、無人兵器では効力がない。
例え兵器が無人であり、無感情であっても、それを用いる人間は無感情では居られない。
その瞬間、世界線が変動する。兵器を用いたという過程を残したまま、シャーデンフロイデへのダメージという結果を変える。
想像するだけでも恐ろしい作用が巻き起こされる。だからこそ、アリアにしかとれない手段とも言える。
二つ目は
"偶発"
『魏尤』や
エーリカが用いたのがこの方法である。自分でも制御の出来ない無差別な攻撃を放つ。
全ての結果は偶発的であり、そこに感情は生まれないという結論に帰結する。
しかし、シャーデンフロイデがダメージを受けた瞬間に悦ぶ事も許されないという綱渡りでもあった。
歴戦の能力者にとってはたやすい事であったが、"虚構現実"に於いては難しく、行使されなかった。
結果としてシャーデンフロイデを傷つける事は可能であったが、
シャーデンフロイデは、自らのサナギを傷つけるという手段を用いた。
サナギ自身がシャーデンフロイデの負の感情を読み取り、結果として世界線移動が引き起こされてしまった。
三つ目は"慈愛"
柊が用いたこの方法は、シャーデンフロイデに、人間の持つ慈しみの感情を与えるという方法であった。
それは即ち、自らの醜い感情を受け入れる事に等しい。
シャーデンフロイデを受け入れ、それでも人間の感情の美しい面を見捨てないという手段である。
それはあまりにも単純な事であり、それ故に最も難しい方法であった。"虚構現実"の誰も、果たせなかった。
しかし、柊はやり遂げた。己の力と、辿ってきた歴史とを組み合わせ、無知な感情に人間の偉大さを伝える。
それこそが正しい"対抗神話"の在り方であった。シャーデンフロイデの感情を、大きく揺さぶった。
けれども、財団が用いた"Le mal du pays"が全てを水泡に帰した。
之は能力者達が用いなかった、最も醜い手段であった。
"より強い負の感情"で上書きするのである。
あまりにも強い負の感情を前に、シャーデンフロイデは他の感情を認識できなくなる。
強い香料がその他の淡い香り全てをかき消す作用に似ていた。けれども、財団は之を行った。
柊によって、人間の美しい感情を知ってしまったシャーデンフロイデには、効果覿面であったことは言うまでもない。
暗い感情を前にした時、貴方はどの様な選択肢を取るだろうか。
シャーデンフロイデだけれはない。憎む事、嫉む事、妬む事。醜い感情は山ほどある。
それを抑圧したり、無視する事、或いは他者と比べて正当化する事、それを私は責められない。
けれども、それを受け入れ認める事こそ、人間の出来る最も尊い作用ではないのだろうか。
それこそが、"慈愛"────シャーデンフロイデをかき消す、真の対抗神話であった。
■Appendix
シャーデンフロイデの出てくるインシデントのまとめ。
能力者達の死闘の様子、発見された報告書、その他、シャーデンフロイデに関する結末などの詳細が載っている。
最終更新:2018年07月20日 11:23