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「これが儀式の真実となる」
——『サクリレイジ定期報告書』p.14


written by ゴーストライター

新世界より
INCIDENT No.180623

CONTENTS


 

事件


概要        

INCIDENT No.180623 通称"新世界より"は新世界歴■■■年(旧世界暦2018年)6月23日水の国旧市街にある"マルタ"にて発生した。
当該局員パグロームヴェロニカの他、近隣の能力者達が駆けつけた結果、サーペント・カルトによる大規模テロと判明、速やかに終了業務に移行。
迅速な対応により、テロによる死傷者は数名の軽傷者を除いて皆無であり、サーペント・カルトの構成員であった、

"ポステリオル"(本名:法然) "サビク"(本名:破崎 雨竜) "マルフィク"(本名:アレクサンデル・タルコフ)の死亡を確認。

"ラサルハグェ"(真名:スナーク) "ケバルライ"(真名:ジャ=ロ) "プリオル"(真名:シャーデンフロイデ)"虚神"は行方をくらました。

"ムリフェン"(本名:蜜姫かえで)アリア・ケーニギン=デァナハトの手により保護、現在外務八課の監視下に置かれている。

以下に事件の詳細を記す。

当日まで        

当日の"儀式"に備え"サーペント・カルト"はその活動を活発化していた。
一般人の拉致や、その為に行われる暴力行為や殺人。水の国警察をはじめとした各国警察機構の手では及ばない大量の件数。
特に前日までの一ヶ月間はその数を急増、幹部級であった、サビク、マルフィク、ムリフェンの姿さえも確認されていた。

此処で注目すべき点は、彼らの拉致する一般人が、全て"生きたまま"拉致されている点であった。

サーペント・カルトによる拉致や誘拐は以前からも存在していた。しかし、その多くは儀式的殺人の為の贄であり、
多くの場合は数日後、遅くとも一週間後には、被害者は凄惨な儀式を受けた死体として発見される事が常となっていた。

しかし、今回のケースに於いて、儀式的殺人の被害者は"発見されず"、構成員達も、生きたまま拉致する事を目的としていた様だ。
パグロームを始めとした一部のサクリレイジ局員は"生きたまま儀式に使用する"目論見があるのではないか、と推察した。

加えて、数名の構成員達への尋問から、儀式の日時が"6月23日"である事は確認できた。
来るべき日付に備え、パグロームに出動の命令が下ると共に、方々に散った局員への招集がかけられる。

同時にゴーストライターの手により、システム"モダンタイムス"を構築、能力者のみが閲覧できる情報ページを作成し、情報の拡散を開始した。


当日        

事件発生場所

事件の発生した場所は旧市街"マルタ"であった。
マルタは"大災厄"後、機能を失った旧市街に於いて、かつてのサーペント・カルトの聖地となっていた土地である。
当時行く宛を失ったカルトの構成員達が避難所として使用し、方々に隠れ家や抜け穴を作り隠れ住んでいた。
その後、大規模な異端狩りが発生。当時の構成員達の多くが異端審問の上殺害され、その死体は多く野ざらしにされた経緯を持つ。

その為、サーペント・カルトにとって重要な土地であり、儀式の場所として決定されたものと考えられよう。

事件の経過と推移

6月23日の14:00 マルタ内の大聖堂にて"ケバルライ"の出現を確認。同時に儀式が開始され、
集められた生贄達の座る床が空中に上昇し、静止。生贄達は生殺与奪権を握られた状態で放置された。

その床から赤い光が伸び、その各位置に幹部である"オフィウクス"達が出現し、近くにいた能力者達と戦闘に入る。
加えて、多数の"サーバント"が出現し、彼らもまた儀式の遂行を邪魔する能力者達の排除に移った。

此処に於いて大規模な戦闘活動が開始した。以下にその概要を記す。

"病魔"スナークVS"虚数渡り"パグローム&"アイの使者"兼愛 信生        

大聖堂と街を繋ぐ端の上、そこに出現したのは"ラサルハグェ"ことスナークであった。
"虚神"の一柱であり、『信仰の工場』や『破水』に於いても確認された人類の敵。
此処に対応したのはサクリレイジのエージェント、パグローム。そしてアイの科学者兼愛 信生。混戦になる形で戦いは開始した。

スナークの用いる"固執""誘惑"の能力"Mors Principium Est"。飛び道具の軌道を強制的に変化させるその術は、パグロームと信生を困惑させた。
加えて"Killers Like Candy"によって生成された大鎌は触れるだけで病を進行させる、非常に厄介な相手である。

信生によるエネルギー弾も軌道を固定され"虚数潜り"により回避しようとしたパグロームへと向かう、危機一髪の状況。
その刹那、信生の捨て身の能力が発動、自身をロボットへと改造し、紙一重でパグロームを保護、二人は軌道を変えスナークをスルーし大聖堂へと向かう。

スナークはそのまま大聖堂へは向かわず消息を絶った。戦闘へのダメージもあったのだろうが、真意については後述する。

"爪を隠す禽"チドリ・コジマVS"The Slasher"八攫 柊        

マルタ内の枯れた噴水広場。サーバントの一人、チドリは"虚神殺し"の柊と交戦する。
ククリナイフにサバイバルナイフ、サブマシンガン。羽ばたきの様に武器を扱うチドリに、柊が用いる得物は一本の刀。
時代錯誤であった、けれども、神域の剣士にとっては、その刃こそが信念と同義。

乱舞する銃弾と刃の雨嵐。それすら通り雨と潜り抜け、必殺の刃を振るう姿は、剣神と呼ぶに相応しい憧憬、
しかし、チドリもまたプロフェッショナル。手慣れた銃器の扱いは、在るべき隙を極限にまで減らす
拮抗した戦い。銃と剣、武器は違えど、達人であることは変わらない、一進一退の攻防が続き、

柊の剣閃が煌めいたなら、それは必殺の合図。放ったが最後、どちらかの致命を能わない一撃。
放たれる寸前に、チドリが"潜入任務"を暴露する。羽の下で研がれた爪はついぞ、姿を見せずに
死闘の結果は勝者無しの引き分けに終わり、チドリの真意を知った柊は大聖堂へ向かう。

"スネーク・ジャンキー"ドープ・ラブ・ライクVS"慈愛の聖母"マリア・シャリエール        

マルタにある修行僧達の寺院、或いは凄惨な拷問場跡。
佇むサーバントが一人、ドープ・ラブ・ライクは"ムリフェン"の洗脳を受け、その本質たる好奇心を阻害されていた。
蛇の本能が人を殺めるのであれば、その牙に罪は無いのだろうか。或いは、悪しき蛇遣いの蛇は、無罪と言えるのだろうか。

生贄を集めた張本人。命令に従ったと言えど、実際に手を下した犯罪人を前に、聖母はそれでも尚、護るために来たと言う。
交錯するドープの蛇と、マリアの光。力は拮抗していたが、そこに載せられたマリアの思いは重かった。
白神 鈴音を救う。聖女が願う神の奇跡と、埋め込まれた条件付けの意志と、両者を分けたのはその一点。

ドープの思いを込めた拳を受け止めるマリア。聖女にとって耐える事は日常、その覚悟は誰よりも堅く、
それでいて友を思う気持ちは、誰よりも強く、そして慈愛は何処までも深かった。
マリアはドープの罪を許す、一人の男を救いながら、人類を救わんと、マリアは大聖堂へと向かった。

"骨を導く修道士"ツァルエル・アーツバニストVS"無に帰す諜報員"厳島命        

マルタにある倉庫の廃墟。巨大な蛇の骨を首に巻くツァルエルは厳島に向けて、冷静に言い放つ。
この場を立ち去れ、と。けれどもその言葉では、死地を越えた諜報員を曲げる事など出来ない。
厳島は真っ向から否定し、己の意志に沿って、鈴音を取り戻すための戦いを行使する。

技術の粋を決した厳島の装備、それに対するツァルエルの能力は骨を扱う奇々怪々なモノであった。
やがて出現する巨大な肉食恐竜の化石。それすらも人の身で操る強大なツァルエルの前に、厳島は追い詰められる。
奥の手と称する"風式魔術"、銃火器と能力の応用は、櫻国海軍の面目躍如といった所か。

ツァルエルも高い能力の応用性を見せる。破裂する骨に、追い詰められる厳島。勝利を分けたのは執念、
厳島は窮地に陥っても、どれだけの負傷をしても、決して諦める事は無かった。数多の戦場を潜り抜けた彼に、諦めの文字はない
放たれる軍刀の居合い切り。近代兵器と魔術と、その締めを飾るのは彼の信じる刃であった。

ツァルエルは気絶、厳島は、部下であるリオシアと、鈴音の為に大聖堂へ向かう。

"尊き純潔"破崎 雨竜VS"Freak Kitchen"スクラップズ        

大聖堂へと続く道。そこに現れたのはオフィウクスが一人、"サビク"。誰よりも穢れを嫌う、蛇の信徒。
彼にとって、異形の集団であるスクラップズはこの世の醜悪の権化であった。赦すことの出来ない穢れ。
高潔な精神と、純潔の誓いを以てして、彼はその異形の殲滅を心に誓った。

修羅場慣れしたスクラップズの面々、頭領のカニバディールすらも膝を着く程に、サビクの能力は強力であった。
"反発"の異能。全てを拒絶するその精神を示す様に、何物も彼の前に存在を赦されない。
追い詰められるスクラップズ、苦し紛れの奥の手は、カニバディールに隠れたゴミ使いの伏兵。

それはサビクにとって、死にも等しい恥辱であった。必要以上の執拗さを以て、そのゴミを拒絶する。
その瞬間を見落とさない狡猾さこそが、カニバディールの本領とも言えよう。
失墜する天使。羽を毟られ肉を抉られ、それでも尚彼は戦意を喪失しない。

最期に放たれるサビクの由縁。勝敗を分けたのは、地に這い蹲り、泥を啜ってでも生きてきたカニバディールの生命力。
その刃を以て、サビクを絶った。死の間際、彼の脳裏に浮かぶ幼き日の憧憬、其処に居たのは、蛇の幹部などではなく
ただ愛を求めた一人の少年、破崎 雨竜の姿であった。

サビクを葬ったカニバディールは単身大聖堂へと向かう、全ての元凶を葬るために。

"蛇に愛されし第一の使徒"蜜姫 かえでVS"無慈悲な夜の女王"アリア・ケーニギン=デァナハト        

奇妙な縁であった。敵であることは間違いなくて、それでも何処か巡り合わせが重なる関係性。それを指して宿世と言うなら、
"ムリフェン"は教会の一つで貴女を待っていた。あれだけ強く、愛し合った仲なのに。
そこに感傷はなく、ただ感情の赴くままに、感興を貪る一対の蛇の姿が其処には在った。

重なる力と力、響き渡る血と血。銃声、罵声、嬌声、混じり合う声と色はまさしくグランギニョルの結晶。
阻害の力を行使しながら、アリアはムリフェンの感情を引きずり出す。脳髄に直接手を差し込み、抉る様に。
放たれる"Kukulucan"万物を殺戮する、蛇の禁術。アリアは致命傷を受けながら、攻撃の手を止めない。

それは精神へ語りかける名も無き毒。一度浸透したなら戻ることの出来ない病に似て、
ムリフェンは力尽きる。とどめを指す刹那に気絶した彼女を、それでも愛しく助けようとするアリア
やがて彼女はオフィウクス唯一の生存者になる。あまりにも大きすぎる罪を背負って。

"Living Dying Message"アルジャーノン&"Talking Machine"ブッチャー君VS"魔弾の射手"夕月        

その一画はさながら、ひっくり返った地獄の底。這いずり回る冒涜的な死の奔流が、生者を羨み貪っていく。
指揮するサーバント、アルジャーノンは白痴たる彼らを指揮しながら、そこに迷い込む哀れな犠牲者を持っていた。
夕月は亡者の海を渡る。耐え難き痛みの対価に手に入れたその羽"Butterfly Swimmer""虚神"の力を借りて切り刻む。

しかし、多勢に無勢。夕月の能力を持ってしてもどうにもならない程に、アルジャーノンの妙手が冴え渡る。
地に落ちた蝶はその羽を毟られ、四肢をもがれ、その儚い命を終えるはずだった。
パグロームの妻にして、サクリレイジきっての実力者。"仕立て屋"ヴェロニカが間に合わなければ。

パグロームの連絡を受けた彼女は現場に到着、能力を以てブッチャー君に大打撃を与えるとその場から去ってしまう。
強大な力を持ちながら、制御の利かない存在であった。気がついた夕月は、一人残されたアルジャーノンへ銃口を向けて。
引き金は引かれ、命は落ちる。少女はそうして、大聖堂へ向かっていく。

"二心抱く仮初の套"エーリカVS"朱に染まる雪"カチューシャ        

教会にてエーリカは迷っていた。潜入工作員としての自分と、サーバントである自分と。
その狭間で揺れる状況は彼女の精神に深い闇を落としていた。"ウヌクアルハイ"の一端を見たことも、手伝って。
与えられた任務を果たす様に意志を固めた彼女の前、現れるのは機関の"No.3"カチューシャ。

刃物を扱うエーリカに対し、カチューシャが見せるのは狙撃の妙技。狙撃手の所以たるその銃を以てして、その場を制圧する。
"Broken Glass Syndrome"を用いた射撃術が描く弾幕。それでも尚かいくぐるのはエーリカの手腕。
"Hell Edge Road/Load"曲芸師よりも鮮やかに、エーリカはその体術でカチューシャを追い詰める。

一度はその命を奪う寸前まで行ったが、カチューシャの奥の手で体勢は逆転。血みどろの死闘を演じる一歩手前、
けれども、その刹那に戦闘行動は終了する。互いに戦う理由が無いと知ったなら、二人に戦う気力はなかった。
やがて歌う二筋の愛。エーリカは決心する、サーバントの名を捨て、大聖堂に向かうと。

"偏愛する破戒僧"法然VS"心を探す兵器"ラベンダァイス&"思慮深き獣人"アーディン=プラゴール        

オフィウクスの中でも"ポステリオル"の存在は一際異色であった。ルールに縛られない破戒僧として存在しながら、蛇を偏愛する姿。
それは信徒としても使徒としても優れた能力を持つからこそ赦される、ある種の異端者の在るべき姿であった。
それ故に対峙するラベンダァイスとアーディンは困惑する。年端もいかない少女へ、平気で冒涜を謡う男に。

けれども二人はそれで揺らぐほど甘い思いで乗り込んできた訳ではなかった。戦う意志は乱れない。
二人を相手取って尚余裕を見せるポステリオル。圧倒するその戦いに隙は無かった。
しかし、二人のコンビネーションはそれを上回る。阿吽の呼吸でもまだ足りない、魂のシンクロニシティ。

追い詰められたポステリオルの奥義、黒い焔で出来た巨大な不死鳥がその翼を広げる。
ラベンダァイスの魔力砲、死力の一撃を互いに放ちながら、それでも生き残っていたのは執念が故か。
生死を分けたのはアーディンの力であった。意地にも近いその底力を以て、自身を犠牲にポステリオルを撃ち抜く。

破戒僧はその身を焼かれる。最期に伸ばした両手は、誰にも救われることなく、虚空をつかんで。

"異形の司祭"アレクサンデル・タルコフVS"Midnight Klaxon Baby"ロッソ        

信者達の地下墓地。底に佇む"マルフィク"は、サーペント・カルトの儀式の一切を執り行う偉大な司祭であった。
その身体は自らが率先して儀式に準じた結果、四肢をもがれた姿。それでも尚蛇に陶酔する姿は、オフィウクスの中でも異端。
対峙するのは探偵。描く二丁拳銃の軌跡、弾丸が描く死の咆哮が、止まることなく響き続け。

似た存在であった。その狂気的な信心故に、悪でありながら忌避されるマルフィク。あまりにもダーティ過ぎた正義の徒、ロッソ。
日の当たる場所は既に遠く、二人が佇む薄暗い墓所こそが、互いの死に場に相応しいと、二人は命を削る。
マルフィクは奥の手を見せる。彼に与えられた禁術"Crom Cruach"因果を逆流させる、無明の秘儀。

ロッソの叫喚が響き渡る。常人ならば発狂し、狂人であっても絶叫する。脳が自死を選ぶほどの苦痛。
けれどもロッソはそれに耐える。或いは、耐えてしまった。痛みと苦痛の狭間に生き残ることを生還と呼ぶのなら、
それは最早安寧などではなく、死を選ぶのが当然であったのに。ロッソは、聞こえた彼の声を頼りにした。

そこに居たのはサビクを倒し大聖堂に向かっていたカニバディールであった。奇妙な縁を感じながら、ロッソはマルフィクにとどめを指す。

苦痛の果てに救いはなく、苦行の先に涅槃はなかった。それならば苦しみとは、無用の長物では無いのだろうか。
ロッソはそれでも苦の道を選ぶ。その先に救いがない事を知っていながら。大聖堂へと向かう。

"極夜蝶"シャーデンフロイデVS"偉大なる錬金術師"セアン・フォールス        

広場で待つプリオルは、その強大な魔力を感じていた。錬金術師セアン・フォールス。ロールシャッハを退けた実力者。
セアンはその能力を拠り所にして雄々しく言葉を飾る。千年の時を生きても尚、つきぬ探求心を元に。
戦いは騒々しく始まり、それでもプリオルは淡々と夜をなぞる。生まれる蝶は音を糧にした蝶。

互いに決定打を欠きながら、プリオルの言葉がセアンを揺さぶる。不老の意味を問いただす行い。
セアンは贖罪を伝える。犯した罪を償うために、永劫の時を生きることを決めたのだと。
けれどもプリオルは其れを笑う。長く生きて、我が儘に力を振るうことが贖罪なのか。

セアンはその精神を崩壊させる。憎悪に飲み込まれたその刃は、世界を揺さぶる必殺の一撃。
プリオルは相殺させた。彼女の能力を以て、それでも衝撃を消し去る迄には行かず、
プリオルはその姿を消滅させ、セアンは正気を失った心のまま大聖堂へと向かう。

"歩く異端審問"ミサ=ソレムニスVS"骸を抱く復讐者"コープス・リバイバー&"人を活かす拳"剛田 剛太郎&"賢しき相棒"ムク        

処刑場跡にて侵入者を待っていたのは、サーバントの一人、ミサ=ソレムニス。高い信仰心を用いて異端審問を果たす聖女。
彼女に相対するのはコープス・リバイバーであった。その身を燃やしながら憎悪を叩き付ける刃は、死者の怨念を込めて
けれども、蛇の信徒達の無念が詰まった処刑場に於いて、ミサもまた負ける訳にはいかなかった。

"Lost Prophets"による巨大な拷問具の応酬。そして変幻自在の攻撃に、コープス・リバイバーはいなされる。
しかし、その拮抗状態を破ったのは剛太郎であった。類い希なる拳術の才能を持ちながら、その拳で殺戮する事を否定する剛太郎。
情報を聴覚に頼るミサにとって、乱入者は大きなハンデであった。加えて、攻撃の前に技名を叫ぶ愚行。

だが、その行いを以てしても圧倒されるほどに剛太郎の実力は高い。磨き抜かれた拳は、刀剣すらも遙か凌ぐ。
加えてコープス・リバイバーは骸の声を聞き、その力をさらに高く練り上げる、ミサにはもう、対応する術が無かった。
地に膝を着き、見下ろされる姿。彼女は叫ぶ、いくら拷問されても口を割らない、と。それは異端審問者の誇りに似て。

剛太郎とムクは感づく。ミサの狙いが時間稼ぎにあると。ミサを気絶させた後、三人は大聖堂へと向かった。

大聖堂にて        

大聖堂に居た"ケバルライ"と戦闘行動を開始したのは"無邪気の顕現"リオシア・ステロヴァニエであった。
戦闘行動に中々移らず問答を続けるケバルライ。その行動は何処か不審さと怪しさを兼ね備えていた。
しかし、リオシアに向けて語りかける姿は、邪教の指導者というよりかは、どこかの教師の姿に似て、

"ムリフェン"の名前が出るとリオシアの弁舌が変わった。変幻自在の攻撃に、ケバルライは翻弄される。
果てには"Itzamna"を使用。リオシアに苦痛を与え攻撃の手を止めようとしたが、彼女の意志は固かった。
そんな戦闘の最中、パグロームと信生が大聖堂へと乗り込む。其れを皮切りに続々と進入してくる能力者達。

ケバルライはその正体を明かすグランギニョル神話が一柱、ジャ=ロが自らの真名であると。

多数の能力者を相手取りながら、ジャ=ロはその余裕の面持ちを崩さない。数多の攻撃をいなし、飛び道具すら"Kukulucan"でかき消す。
まるで実体を持たないかの様に、その攻撃の悉くはすり抜ける。無為な戦闘を続けながら、ジャ=ロは佇んでいた。
"パグローム"が最初に気づいた。呼応する様に能力者達は察する、シンクロニシティが伝搬していく。

"パグローム"が消えた瞬間をジャ=ロは見逃さなかった。既に死亡したマルフィクが残した情報、パグロームの持つ"虚数渡り"の異能。
その行く先が空中に未だ浮いていた人質に向かったと確信したとき、ジャ=ロの絶叫がこだました。

すぐさまジャ=ロは妨害に向かう、しかし、其れを赦さない能力者達の猛攻。
ダメージは無い、けれども、真っ直ぐパグロームの邪魔をすることが出来ない。焦りの狭間にパグロームの声が響き渡った。


ジャァァァァロ!申し訳アリマセン!!俺ァ嫌がらせをさせたら、右に出る者はいねェんです!!


爆破される人質達を浮かべた床。夕月の放った魔弾もまた、其れを砕くのに一役を買って、
落下する人質達を助けるのはカニバディールがメインであった。
作り出した肉のクッションが、人質達をジャ=ロの手の届かぬ場所へと避難させる。

カニバディールの取り残しはマリアの転移魔術や、リオシアや厳島の迅速な対応によって難を逃れていく。

生贄は最早ジャ=ロのコントロール下から離れ、多数の犠牲者を出した儀式は、失敗に終わる



筈であった。


儀式の真相        

ジャ=ロは能力者達へ語る。ウヌクアルハイの受肉の本当の意味を。

ジャ=ロの目的は"集合的無意識"の汚染にあった。
サーペント・カルトの活動も、蛇をモチーフにした刺青も、凄惨な儀式も、その為にあった。
加えて、大量の生贄は目の前で残酷な蛇の宗教による殺戮や、能力者との殺し合いを見てしまった。

彼らは皆、蛇の言葉に恐怖を抱く。蛇という存在を恐怖の対象として認識する。それこそがジャ=ロの目的であった。

ウヌクアルハイは神話を持たない神であった。白神 鈴音を始めとした、数多の蛇の神格を寄せ集め、その存在を定義する事は出来る。
しかし、神話を持たなければ信仰はなく、それ故に力を持たない、唯の無名の神でしかなかった。

だからこそ、ジャ=ロはウヌクアルハイを顕現させる為に、神話を作る必要があった。
彼が眼を付けたのは人間達の持つ集合的無意識。そこに蛇に恐怖するミームを植え付ける事。
蛇を恐れる心は伝搬する。生き残った生贄達は、蛇の恐ろしさを親しい人に語るだろう、善意から。

そうすればネズミ算式に無意識は汚染されていく。その結果として、我々の無意識に、蛇を恐れるという信仰が生まれる。

そしてそれこそがウヌクアルハイの神話になるのだ、と。蛇に恐怖する全てがウヌクアルハイの力になる。
サーペント・カルトすらもジャ=ロにとっての贄であった。蛇の名も、モチーフも、全てが全て。

そうして導き出されるウヌクアルハイは、"虚神"そのものであった。信仰によって定義され、空想を力にする。
ジャ=ロの狙いはそこにあった。あらゆる蛇の神格を集めた邪悪な"虚神"を顕現させる。
其れはまさしく世界の破滅へと繋がる手段であった。人々の深い心の世界から来る神話。

ジャ=ロは勝利を謡いながらその場を後にした。人々に深い絶望を残して。

 

事件後


事件後の世界       

サーペント・カルトの実質的壊滅は世界中に報道された。
居合わせた能力者達の詳細は出なかったが、一部の識者が能力者の必要性を訴える大きな切っ掛けとなった。
一方で、能力者の危険性を訴える声は減らない。寧ろより高々に叫ばれる契機ともなっている。

"ウヌクアルハイ"の顕現に関しては成就していない。これは白神 鈴音の作用が大きい。
ウヌクアルハイの神格の一つとして存在していた白神 鈴音は、自覚を持たない神であった。
故に彼女は盲目たる白痴の神であり、世界の崩壊や破滅に対しての精神性を持っていない。

それ故に彼女がウヌクアルハイの主格として存在している限り、ウヌクアルハイは世界を滅ぼすだけの力を持たないのである。

また、白神 鈴音はウヌクアルハイを信仰する者、つまり、蛇に関するミーム汚染を受けた者の身体を借りて顕現できる。
しかし、この状態でもまだ白神 鈴音は自身の身体に固執している。その為、媒体を借りての顕現も出来ない状態であった。

つまり、世界は今紙一重で平穏を保たれている。其れはジャ=ロの想定外の奇跡であり、人間が求めた可能性の結果である。

組織の動向       

"ウヌクアルハイ"に対しアクションを起こしている組織は、現在"二つ"確認されている。


ゴトウ率いる"外務八課"は直ぐさま行動を開始した。
サクリレイジゴーストライターにコンタクトを取り接触。ウヌクアルハイへの対抗策を問答する。
ゴトウの舌鋒は鋭かった。実際に眼にしていないにも関わらず、"虚神"を正しく分析して見せた。

そこで出た結論は"カウンターミーム"の構成。ウヌクアルハイを善性の神へと変質させる。
そうしたならば、集合的無意識が構成する信仰そのものが、そっくりそのまま善性へと変わる。
それこそが"虚神"へ対抗する偉大な一歩であった。毒を以て毒を制す。

現在の主格である白神 鈴音は、元を辿れば一人の少女であった。交渉さえ出来れば、変化する余地はあった。

その為にはウヌクアルハイ自身が、己を神と認識する必要があった。自分自身が善なる神であると、認識しなければならない。
無茶な話であった。神との交流を果たすには、ゴーストライターもゴトウも、真相を知りすぎた。
ウヌクアルハイが作られた神であると知った存在に、無垢な信仰を捧げる事は出来ない、だからこそ。

「 ─── さっき言った"証人"が其れだ。」「元サーペント・カルトの幹部、蜜姫かえで。オフィウクスのひとり。」

ゴトウによって差し出される可能性。ウヌクアルハイを信じる蜜姫かえでに、ウヌクアルハイを白神 鈴音と認識させ、交渉させる。
途方も無い道のりであった。しかし、縋る藁はこの一本しかなかった。
そうして、交渉役である蜜姫かえでに対する交渉役、アリア・ケーニギン=デァナハトに全ては託された。

考えがまとまった去り際。ゴトウはふと思いついた言葉を口にする。それは何の気ない、言葉かもしれない。

「だが、『神を信じない』という選択肢もまた ── 信仰の形のひとつ、であるような気はしないかね。」

ゴーストライターは一笑に付した。信仰こそが力である"虚神"彼らが『信じない』事でも力を持つとすれば。
それこそまさしく絶望であった。一度生み出した恐怖は、二度と拭えない。そんな道理に似ていた。


ゴトウとの交渉の後、ゴーストライターはサクリレイジのボスに報告へ向かう。
そしてこれからの方針について、ボスと議論を重ねる。

ボスは自らの手元にない"蜜姫かえで"を危険視する。それはゴーストライターにとっても一緒であった。
彼らは"外務八課"より長く"虚神"と戦ってきた。それ故に、その認識には一日の長がある。
だからこそ逆算できた。この状態でジャ=ロが次に、どんな手を打ってくるのか。

ならば、ジャ=ロが次に打つ手は2つ。
1つは、ウヌクアルハイと少女を同一視する者を排除すること。
そしてもう1つは、彼らより尚強い認識として、奴らに取って都合の良いウヌクアルハイを望む者を用意することだ。

ボスの言葉は的を射ていた。ゴーストライターよりはっきりと、現状を理解している。
前者の為にサクリレイジの局員達は、少女"白神 鈴音"の関係者と接触し、保護する必要性が出来た。
保護せずとも各々の資質を見極め、協力体制や連絡が相互に取る事の出来る状態がベストとなる。

後者はまさしく"蜜姫かえで"の事を示していた。それはつまり、ジャ=ロが蜜姫かえでとコンタクトを取る事を示す。
"外務八課"との連携が求められる部分である。サクリレイジと八課との連関を求める事であった。

そして、サクリレイジは更に先の一手を考える。即ち、ジャ=ロを葬り去る、そして"虚神"を殲滅する為の方法論。

その為にはジャ=ロや、その他の神々に対する対抗策を示した、INF財団の遺産である報告書が不可欠であった。
ゴーストライターは"虚構現実"へ渡る許可を求めた。かつて失敗し、自らの顔を失ったその行いを。

約束しよう。最後にペンを執るのは君の役目だと。

ボスが下す許可。けれどもそれは条件節を導く。時間が欲しい、それは即ち、必要となる人材を集めてからにしろ、と。
ゴーストライターはそれに同意し、作戦を練った。"モダンタイムス"を用い、"虚構現実"へと渡る人材を募る。


もう一度、私と共に飛んでくれ。


 

補遺


何故受肉の儀式は失敗したのか       

おそらく儀式の真相に気づいていた何者かが、阻害したものと考えられる。
ジャ=ロが顕現させようとしたのは"虚神"であり、彼らは信仰や認識に従う。それならば、より深く信仰していれば良い。
ウヌクアルハイが持つ神格の一つ、白神 鈴音が主格になるように、強く願う行為だ。

文字にすれば簡単であるが、あの状態でそこまで知っている存在はそう多くない。ジャ=ロの儀式の真意を知っている者、
ウヌクアルハイの中に白神 鈴音が居る事を知っている者。そして"虚神"の定義について詳しい者。

答えは一つ、スナークことイル=ナイトウィッシュが願っていた。その存在を。

加えて、本来の儀式より執行が早まった。パグロームの手により強制的に実行せざるを得なかった儀式。

その二つの作用により、邪悪なる神として顕現する筈であったウヌクアルハイは、白神 鈴音によって制御されるようになったと、考えられる。

ジャ=ロの作ったミーム汚染に関して       

蛇という文字列を見て、サーペント・カルト凄惨な儀式を連想してしまう。これがミーム汚染である。
或いは何となく嫌な感想を得た場合、貴方の無意識は既にジャ=ロの描いた色に染まっている。

そして、集合的無意識は拡散していく。蛇の恐怖を知る者が他の人間に接触することで、より深く広がっていくだろう。

その為私達は蛇を知る無辜の人間を抹殺しようと考えた。国の一つで済むなら、安いものだ。
しかし、それも上手くはいかない。このことを理解してしまった"私達"も最早、そのミームが汚染されている。

故に、そのような対症療法では、最早通用しないレベルにまで来ている。

ジャ=ロの正体に関して       

これだけの騒ぎを引き起こした"ジャ=ロ"。虚神の中でも特に情報が少ない存在であったが、戦いの最中にいくらか明らかになった。

・実体は存在しない

スナークレッド・ヘリングアナンタシェーシャ達と最も違うのがこの点である。
通常攻撃はジャ=ロにダメージを与えた痕跡は無かった。リオシアとの戦闘中はダメージを受けていた様子であったが、
能力者達が集まると、その傷が無かった様に振る舞う。おそらくは演技であったのだろうか。

けれども、リオシアの秘策による固定化を受けるなど、実体化する事もあった。
パグロームに対して攻撃を仕掛けようとした際に実体化していた事から、

・物理的な干渉を行う際には実体化する必要がある

という事も伺える。

また、柊の"憑代"を強制的に提供させる技や、コープス・リバイバーの存在を滅却する技が効果を持たなかった理由。
消去法的に考えるのであれば、ジャ=ロは

・憑代を持たず、存在すらも滅却出来ない

そんな"虚神"であると推察出来よう。それならば、ジャ=ロの信仰の拠り所は何処にあるのだろうか。
或いは、あまりにも強い信仰を持つからこそ、その存在を滅却出来なかったのかもしれない。

いずれにせよ全ては、闇に葬られた報告書の中に。


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最終更新:2018年07月19日 15:27