ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第09話

最終更新:

nwxss

- view
だれでも歓迎! 編集
サフィーがどこからか仕入れてきた情報を元に、飯波高校に通っていた人狼“銀之介”について調べ始めて数日。
飯波高校不思議研究部部室で、静といのりはお互いの成果について報告しあっていた。
「駄目。やっぱ1年生はほとんど知らないみたい。春美ちゃんも知らないって」
溜息と共にいのりが言う。いのりの方は色々と調べてはみたものの、さっぱり情報が得られていなかった。
「で、せんせいはどうだった?」
「ああ、僕の方は色々分かったよ。完璧とは言えないけどね」
対する静は満足げに言いながらメモを取り出した。
「よく調べられたね。去年の卒業生って言っても下がる男じゃあるまいしそんなに有名ってわけでも無いのに」
短期間でここまで調べて来たいのりが素直に関心する。それに静は肩をすくめて言う。
「いや、運が良かっただけさ。僕のクラスの担任の柏持先生が銀之介くんの担任だったのと、小夏さんが詳しく知ってたんだ」
「あ、そうだったんだ。確かに不思議研の部長なんだし、詳しくても変じゃないね」
「まあ、その代わり小夏さんからは獣化した銀之介くんがどんなに格好いいか聞かされたけどね。2時間ほど」
「…そっか、大変だったね」
いのりは同情をたっぷりと込めて静に言う。小夏のことは良く知らないが、春美を見る限り、その話がどんなだったかは想像がつく。
「なあに。元々調査もできるからって理由で送り込まれたわけだからね。このくらい、どうってことないさ」
静が相変わらずのにこやかな笑顔で言いながらメモを読む。
「本名は駒犬銀之介。今年の3月までこの学校に通っていた人狼で、正体がばれてすぐにどこかへ引っ越したらしい。日本じゃないって噂もあるけど、どこだったかは分から

ない。
どうも彼らの一家はこんな風に正体がバレては引っ越しを繰り返していたらしいね。この飯波高校にも、2年生の頃に転校生として入学したと聞いたよ。
評判は…温和な性格のお人好し。たまに獣化してこの学校でも目撃されていたって言うから、もしかしたら獣化を完全には制御しきれてないのかも知れない。
ちなみに卵の黄身を見ると獣化するんじゃないかって話だよ」
「へえ。すご~い」
静の調査の成果にいのりは目を丸くした。
多数の魔法を使いこなし、かつ実戦経験も豊富な静は、戦闘特化のウィザードとは違い、調査や情報収集も得意としている。
この手の、敵が何なのか探るところから始めなくてはいけない任務には適任なのだ。
「でも、2人以外からはあんまり詳しい話は聞けなかったなあ。どうも銀之介君の話題を出すのを避けてるみたいで」
「あ、それはあたしも思った」
普通の高校に現れた狼男。もう本人はいないとは言え、もう少し話題になってもよさそうなものだ。
「ど~もみんな反応が薄いんだよね。それに男の子は銀之介って言うとたま~に嫌そうな顔するし」
「そういえば柏持先生からも変なことを言われたよ。銀之介のことはあんまりおおっぴらに言わない方が良いって」
「なんで?」
「さあ?なぜだろうね。ただ、倉地先生が好きってわけじゃないなら、その方が楽しい高校生活になるとも言ってたなあ」
「倉地先生ってあたしのクラスの担任の倉地先生?」
「ああ。なんでかは分からないけど…」
2人してそんな話をしていたときだった。

ガチャ

「あ、ど~もこんにち…は?」
小夏か春美が入って来たと思って挨拶をしたいのりの目が点になった。ぶっちゃけて言うと、2人じゃなかったのだ。
柔道部、剣道部、空手部にレスリング部、相撲部…筋肉モリモリの男がどやどやと入ってくる。
「静=ヴァンスタインに要いのりだな?」
その中の1人、何故かガクランを着た男が2人に確認する。
「そうだけど…なんなのよあんたらは?」
「我々はァー!」
その中の代表らしい何故かガクランの男の声にあわせて、男たちはいっせいに、懐からそれを取り出す。
それは、はちまきだった。全員おそろいの。そこに書かれた文字は…『くら』の2文字。
「倉地香ファンクラブ!」
全員で声をそろえて言った。言いきった。そりゃあもう堂々と。
「倉地香…ファンクラブぅ~?」
なんだそりゃ~って気持ちを限界まで込めて、いのりが怪訝そうに聞く。
「その通り!我々は陰ながら飯波高校の女神、倉地香様を守護すべく集いし集団!」
そう言う彼の眼は、マジだった。そりゃ~もうやばいことほどに。
「…で、その倉地香ファンクラブの皆さんが僕たちに何の用だい?」
「うむ。貴様らだろう。我らが宿敵、駒犬銀之介のことを調べまわっていると言うのは!」
「宿敵?どういうことだい?」
宿敵。一般人が普通は使わないような言葉に、静が反応する。それに男は大きく頷いて答えた。
「うむ!思い起こすこと2年前、駒犬銀之介は我らが女神、倉地様を脅かした!その罪は許しがたい!
あの男はどこぞへ去ったが、いつ戻ってくるかも知れん!もし見つけたならば、すぐに我らに知らせるのだ!」
言いたいことを言うと、男は2人にポスターを押しつけてどやどやと去っていく。
「ファンクラブって…」
残されたいのりがぼ~ぜんとして言う。
「なるほどね。確かにあ~ゆ~のがいたらおいそれとは話したがらないだろうね」
うんうんと頷いて1人納得する静。
「けどまあ、これで分かったよ」
「何が?」
「新しい情報。銀之介くんの人間としての顔さ」
静はいのりに先ほど渡されたポスターを見せる。そこには柔和な少年の顔と、銀色の狼の顔写真が並べて載っている。

WANTEAD 駒犬銀之介 見つけたものは速やかに倉地香ファンクラブまで

なんてな言葉と共に。

「これって…」
「指名手配書。理由は分からないけど、銀之介君は彼らにはずいぶんと嫌われているらしい」
いのりに説明しながら、学生鞄の中にポスターをしまう。
「さ、今日はもう帰ろうか。サフィーちゃんにも教えてあげないと」
なんてなことを言っていたときだった。

バタンッ!

「静さんいますか!?」
ぶっ壊れんじゃねかってほどの勢いで扉を開けて不思議研の部長こと三石小夏が入ってくる。
「ああ部長、今日はちょっと用事があるので「よかった!やっぱり部室にいたんですね!」
静の言葉を遮って静の手をとって、言う。
「すぐ職員室へ行ってください!私じゃど~しよ~もありません!」

 *

予想外の来客を出迎えた倉地香はひどく不機嫌だった。
「…久し振りね」
目の前の来客に、倉地は敵意を隠そうともしない。
「本当に久しぶりでしゅね」
それをさらりと流す来客は、小学生くらいの赤毛の美少女。
「久しぶりで…少し老けたんじゃないでしゅか?」
サフィーである。

ピキィ

サフィーの挑発に空気が凍る。気の弱い奴ならあっさり失神するほどに。
「…永遠にお子様体型のあなたと違って、あたしは、女として磨きをかけてるの」
倉地がセクシーでダイナマイツなプロポーションで胸をはる。
サフィーに見せ付けるように。
カチンと来た。だが、すぐに思い直して答える。
「そうでしゅね。ずいぶんきれいになっと思うでしゅ。前よりきれいになって…あとは落ちるだけでしゅ」
ニヤリと笑って。

プチ

倉地の額に青筋が浮かぶ。
「…ジルちゃんなら大歓迎だけど、あなたは好きになれそうもないわ」
「そこは同意するでしゅ。アンタとは永遠に分かり合えないでしゅね」
サフィーの方も頷く。
「ま、アタシは、静を迎えに来ただけで、アンタには用はないでしゅ」
「静って…留学生の静くん?…あなた、まさか静くんから血を吸うためにたぶらかしてるんじゃないでしょうね?」
倉地は知り合いの吸血鬼の少女から聞いたことがあった。
目の前の少女が、美少年の血しか吸わない偏食家であることを。
「…そう言えば、1回しか血を頂いたことはないでしゅね」
今度また吸ってみようかなんてなことを思いながら、サフィーが答える。
「ちょっと。留学生とは言え静くんはうちの生徒なんですからね。変なことをしないでちょうだい」
「生徒…ねえ」
遠くを見ながら、この学校に通っている2人のことを思う。
「そんな可愛いもんじゃないでしゅよ。静も、いのりも」
「ちょっと、どういうことよ?」
サフィーが静だけでは無くいのりのことまで知っていることを聞き咎め、倉地が怪訝そうに聞き返す。
「…ま、色々あったんでしゅよ」
こちらに向かってくる足音を吸血鬼の聴力で聞き取り、肩をすくめて立ち上がる。
「迎えが来たようだから、そろそろ行くでしゅ」

ガチャ

「失礼します」
サフィーの言葉にあわせるように静といのりがやってくる。
「それじゃ、バイバイでしゅ」
なにか言いたげな倉地を残して、さっさとサフィーは行ってしまう。
「あ、ちょっと待ってくださいよ。結局倉地先生とはど~ゆ~関係なんですか?」
「ちょっと」
倉地は残された2人に問いかける。
「あなたたち、あの子とどういう関係なの?」
その言葉に、静は少しだけ考えて、答える。いつもの笑顔のまま。
「そうですね。強いて言うなら…戦友、ですかね」
最強に怪しい関係を。

 *

飯波の秋の日は暮れるのが速い。
そんなわけでぼちぼち太陽もすっかり沈んだ頃、3人は連れだって見回りを開始する。
「倉地先生とサフィーちゃんって、知り合いだったんだね」
呑気に話かけるいのりの言葉には、気負いは感じられない。
そりゃ~そうだ。
ベテランのウィザード2人に、やっぱりベテランの吸血鬼。並大抵のエミュレイターでは敵にもならないのだから。
「昔、ちょっと色々あったんでしゅよ」
いのりの言葉にサフィーが溜息と共に答える。
「あんまし良い思い出じゃあないんでしゅけどね」
6年前のことを思い出して、少しだけ眉をひそめる。
厄介な相手だった…敵として。
思わずこぶしを握り締めるサフィーを見ていて、静は思い出した。
「ああ、そうだ」
月衣からポスターを取り出す。
「サフィーちゃん、これ。例の人狼…銀之介君の素顔らしい」
先ほど手に入れたポスターをサフィーに手渡す。
「へえ…これが…うん?」
ポスターをしげしげと眺めて、サフィーは気づく。
「この子…見かけたわよ」
「え!?いつ!?」
サフィーのつぶやきにいのりが驚いて問い返す。
「お昼ごろ」
サフィーはその時のことを思い出した。

もやもやもやもやもやもやもやもや

サフィーの朝は遅い。

と言っても、吸血鬼なだけに夜行性だからとかそんな理由ではない。
ウィザードになって、太陽光を克服したサフィーには、別段昼間寝てなきゃいけない理由なんてないのだ。
ついでに言えばここ何日か、いのりや静と一緒に暮らしているせいか、昼起きて、夜寝る生活を送っている。
にも関わらず、サフィーの朝は遅い。
その理由はただ一つ。
吸血鬼には学校も、試験も何にもないのだ。

きゅるるるる…

アパートの一室。いのりが使っている部屋でその音は鳴り響いた。
割と可愛らしい音だった。
その後、少しして、その音の主がのっそりと起き上がる。
「ふぁぁぁぁ~」
大きなあくびをして、寝ぼけ眼でポツリと呟く。
「…お腹減ったでしゅ」
ベッドから降りてキッチンへ向かう。いつも通りならいのりが何かしら作っておいてくれるはず…

ごめん!ねぼ~した!お昼はてきと~に食べて! いのり

…だったのだが、テーブルの上にはほとんどひらがなで走り書かれた手紙と、野口さんが1人。
「…しょ~がない、でかけるとするでしゅ」

そして30分後…
ガラッ

お昼時からはだいぶ遅くなった時間、サフィーは1人で前に2人と来たうどん屋に来ていた。
「お邪魔するでしゅ」
すぐに店の奥から1人の少年が出てくる。
「いらっしゃいませ~」
「…あれ?今日はこの前のうどんのお姉ちゃんじゃないんでしゅね?」
少年を見て、怪訝そうな顔でサフィーが言う。
「うどんのお姉ちゃん…ああ、唐子ですか。唐子は今ちょっと買い物に行ってるんですよ」
「ふ~ん」
てきと~に相槌を打ちながらながら、お子様用の椅子に座る。
「ま、いいでしゅ。じゃ、お子様うどんを」
「はい。ちょっと待っててくださいね」
そしてさらに30分後…

「しっかし…吸血鬼がうどんってのも色々間違ってる気がするでしゅ」
食べ終えて、満足げな溜息と共にサフィーが呟く。
「にしても…」
サフィーはちらりと少年の方を見る。
ぼさぼさの頭、服の下の身体つきは細いと言うより…貧弱。
義理の弟を思わせるどこか憎めない、のんびりした雰囲気はサフィーの好みにも合うが…
(…30点でしゅね)
残念ながらサフィーのお眼鏡には叶わなかった。

ジリリリリリ

うどん屋の黒電話が鳴る。それを少年が取る。
「はい。七味うどん亭で…!?」
少年の表情が一変する。
「その声は…まさか!?」
のんびりした雰囲気から驚愕の表情に。
「どうして!?確かにあの時…」
そして、シリアスな表情に。
「…なんで叔父さんが生きてるのかは分からない。でも、唐子を巻き込むな!」
それは、何かを決意した、男の表情。
「…分かった。じゃあ、6時に」

やもやもやもやもやもやもやも

「…ってなことがあったから、覚えてたんだけど」
話しているうちに色々とつながったんだろう。サフィーが、本気モードになる。
「6時か…」
静が時計を見る。時計は、6時を少し回っていた。
「でも、場所が分かんないよ?ど~するの」
「任せといて」
いのりの言葉を受けて、サフィーが月匣を展開し、空へと上がる。
集中して、辺りを見回す。人間の限界をはるかに上回る目で持って、それを探す。
「…いた!」
街外れ。廃車置場になっている場所でぶつかり合う銀色の影をサフィーの目がとらえる。
明らかに一方の動きが悪い。どっちが負けてるかなんて、言うまでも無い。
「まずいわね…おされてる」
見たままを、静といのりに伝える。
「先に行くわ」
その様子を見ながら、サフィーは瞬間的に決意する。
見てすぐに分かった。でなければ、間に合わない。
「大丈夫かい?あいつは…」
「だからよ」
静の心配を一蹴する。
あいつに思い知らせなくてはならない。
「あいつには、アタシも借りがあるから!」
吸血鬼を怒らせたら、怖いってことを。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー