ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第11話

最終更新:

nwxss

- view
だれでも歓迎! 編集
(…あれ?あたし…?)
唐子の目がゆっくりと開かれた。
鼻につくオイルと錆びた鉄の匂い。
(うぅ…さむ…)
思わず身震いする。
辺りはすっかり日が落ちて真っ暗になっている。
まだまだ夏のなごりが残っているとはいえ、この時間になると、流石に少し冷え込む。
ぼんやりとする頭で、なぜこんな所にいるのかと考えた。
(そうだ。確か銀之介君のお父さんにばったり会って…)
夕方のことを思い出す。ばったりと出くわした見慣れた顔。
(それで、銀之介君のところに連れてこうとしたら空が赤くなって…?)
それから先が、思い出せない。気がついたら、ここにいた。
(いったい何がど~~なって…)
「と…こ…」
唐子の思考を中断させる声。
その弱々しい、かすかな声に反応して、唐子は何気なくそちらを見て…
「銀之介君!?」
唐子の意識が一気に覚醒する。
空地の真ん中に倒れ伏した、銀之介の姿に。
「どどどどど~したの!?」
唐子が銀之介に駆けよる。
「いったいなにが…!?」
近寄って銀之介の近づいて、唐子は気づく。
先ほどからする錆びた鉄の匂い。
それが、銀之介から放たれていることに。
「よか…無事…たんだな…」
唐子の元気な様子を見て、銀之介が安堵の表情を浮かべる。
それは、あまりに弱々しい、笑み。
「ひどい怪我じゃない!?」
銀之介が怪我をしたことは何度もある。
かつて、銀之介が銀の弾丸で撃たれたときや、もう一人の狼男と戦った時。
だが、今の銀之介の状態はかつてないほどに悪かった。
毛皮に覆われていてもなお分かるほどに、銀之介の顔色は悪い。
死人のような土気色。
「ごめ…ぼくは…」
「いいから!喋っちゃ駄目!」
さらに錆びた鉄の匂いが強くなる。
血が、止まらない。
地面が真っ赤にそまって、唐子の膝を赤く濡らす。
「こんなの…嫌だよ!」
唐子の目からボロボロと涙がこぼれ出す。
見れば、分かる。目の前の少年は、助からない。

そうそれこそ…“魔法”でも使わない限りは。

「…《キュアウォーター》」
すっと。
きれいな手が添えられ、銀之介に何かが流れ込む。
唐子は涙で滲んだ瞳で、その手が添えられた方を見る。
そこには、いつの間にか1人の少年がしゃがみ込んでいた。
「ひどい怪我だ。これだけ酷いと…」
少年は喋りながらも詠唱はやめない。時間が無い。
「…完全回復に3ラウンドはかかるね」
再び銀之介に魔力を流し込む。癒しの魔力を。
銀之介の傷が時計でも巻き戻すかのように塞がって行く。
それを銀之介はどこか茫然として、その様子を見続けていた。
唐子には少年に見覚えがあった。
そう、ついこの前の家の手伝いのときに。
「もしかして…この前の…?」
「ええ。おいしかったですよ。あなたのお店のうどん」
そう言って安心させるように“魔術師”静=ヴァンスタインは、笑った。

 *

紅く染まった空を、サフィーは駆ける。
「待ちやがれ!」
追ってくる追跡者に追いつかれないように。
恐ろしいほどのスピードだった。お互いに。
「やれやれ…しつこい男は嫌われるでしゅよ?」
距離を置いて後ろを向き、どこか楽しげにサフィーは笑う。
スピードをゆるめることなく、挑発するように。
時々、不可視の力で持って妨害するのも忘れない。
ただの不可視の力では凝縮された《ヴォーティカルカノン》とは比べるべくも無いが、それでも牽制程度にはなる。
「クソッ!」
時々思い出したように放たれる不可視の力を回避しながら、オオカミはビルの壁をけり、一息に屋上と屋根を飛び移る。
それでもなお、上空を飛ぶサフィーには追いつけない。
「ほらほら。こっちでしゅ」
(とりあえずこれだけ離れれば大丈夫ね)
口では挑発をしながら、サフィーは冷静に考える。
これだけ離れれば、充分に時間が稼げたはずだ。後は“相棒”がうまくやってくれるはず。
(後は…)
向きなおり、現在向かっている方向を驚異的な視力で持って確認。
(…うん。あと500mってとこね)
目標をとらえてさらに加速する。
「ほ~ら。狼だってんなら追いついてみせるでしゅ。それとももう年で無理でしゅか?」
「このガキ…」
オオカミは更にヒートアップする。
「この俺様を…なめてんじゃねえぞぉ!」
爆発的に加速する。サフィーとの距離がグングン縮まる。
(あと300…200…)
どんどんと詰まって行く距離を見ても、サフィーは慌てない。そのうち追いつかれるのは想定済みだ。
そう、うまく行っている。サフィーの思ったとおりに。
そしてついに…
(…後少し!)
スピードを緩めながら、向きなおる。
不敵な笑みを浮かべてオオカミを見据える。
ココまでくれば、もう大丈夫だ。
「残念だったでしゅね。これはわ…」

ガツンッ!

目の前に一瞬火花が散る。頭が、いたい。
集中が途切れ、墜落しかける。
『姉さん、よそ見して飛ぶから、看板にぶつかるのよ』
昔、一緒に暮らしてた頃妹に言われた言葉が頭をよぎる。
慌てて再び浮き上がろうとするも…
「おいついたぞ…クソガキィ…!」
その前に爪がサフィーの体を引き裂く。
「くぅ…!」
痛みからの悲鳴を飲み込み、まっすぐにオオカミを見据える。
「…しょうがない。ちょっとだけ相手してあげるわ」
本気モードで力を高める。
「相手してやる?」
対するオオカミは怪訝そうに言う。
「てめえ、俺様よりよええだろうが。いきがってんじゃねえぞ、ガキ!」
オオカミから瘴気が噴き出す。どうやら本気で殺す気らしい。
駆けだしのウィザードならそれだけで動けなくなるほどに強烈な殺気。
だが、それを受けてなお、サフィーは平然としている。
戦いが、始まった。

「《ヴォーティカルカノン》!」
サフィーの虚無の弾丸を受けてなお、オオカミは止まらない。
血をまき散らしながら、サフィーに迫る。
「死ね!」
その爪でもって、サフィーを引き裂く。
わずか、2撃。
たった1ラウンドの間に、サフィーは追いつめられた。
「キシシシシ…やっぱりよええじゃねえか」
あっという間にぎりぎりまで追い込まれたサフィーを見て、余裕を取り戻したオオカミが、サフィーを嘲笑う。
一方のサフィーは痛みに顔をしかめしながら、無理やりに笑顔をつくる。
「…分かってたわ。アタシがアンタにかなわないことぐらい」
「…なんだと?」
オオカミがサフィーの言いたいことが分からず困惑する。
それをまっすぐに見つめ、サフィーは改めて、言う。
「そう、アタシは、アンタにはかなわない。けどそれは…」
サフィーは気づいていた。間にあったことに。上空に浮かぶそれを見て。
「サシでやりあった場合よ」
オオカミがその異変に気づく。
背中が、熱い。思わず上を見て、気づく。
「いっけえ。ファイアーワークス…」
巨大な鳥が上空に浮かんでいる。その上に乗っているのは、一人の少女。
轟々と赤い炎をまき散らしながら、鳥がオオカミめがけて急降下してくる!
「全てを…焼き滅ぼしちゃえええええええええええええ!」

GYOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

渾身の体当たりを受けて、オオカミが爆炎に包まれる。
「ぐおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」
魔法の力を帯びた炎は、オオカミの月衣を易々と抜け、オオカミを焼く。
「大丈夫!?サフィーちゃん!?」
自らの魔物から飛び降りて、いのりがサフィーに駆け寄る。
「ま、なんとかね」
今にも死にそうな怪我にも関わらず、いのりに答えるサフィーの口調は軽い。
サフィーにとって、死にそうな、くらいの怪我ならばそう問題ではない。
そのくらいなら、狩人との戦いに費やした500年の間に何回もしてきた。
「てめえ…待ち伏せかよ」
黒こげになった肉体を再生させながらオオカミが悔しそうに言う。
その言葉に、サフィーはむしろ意外そうに答える。
「あら。こっちには仲間がいるのよ?1人で挑むなんて馬鹿な真似、するわけないでしょ」
サフィーの辞書に、正々堂々の文字は無い。
卑怯だろうがなんだろうが、生き残れればそれでよし。そのためならば手段を選んだりはしない。
それが、狩人に追われながら500年を生き延び、赤毛の死神と恐れられた、サフィーのやり方。
サフィーが静かにオオカミに、呟く。
「覚えときなさい。猛獣にとって最大の天敵はね…ずる賢く策をめぐらせる、狩人なのよ」
そして、サフィーの策が完成する。

シュタッ

オオカミの後ろから何かが着地する音が聞こえる。オオカミは嫌な予感と共に後ろを振り向く。
そこには、眼鏡をかけた少年を抱えた、狼の姿をした少年。
もう、放っておいても死ぬはずだったはずの少年は今はピンピンしていた。
「…で?アンタは勝てる自信があるかしら?4人相手に、たった1人で」
冷やかなサフィーの台詞でオオカミは悟る。
自分が、まんまと罠にひっかかった獲物であることを。
「チキショウ…」
オオカミの脳裏に、半年前の記憶が蘇る。
狼人間の群れに追いつめられ、挙句の果てに遠くから銀の弾丸を詰めたライフルで射殺された記憶。
今度は、違う。人数はたった4人だし遠くから狙撃してくる奴もいない。
だが、完全においつめられていることにはなんら変わりが無かった。
「もうやめて。叔父さん、僕はもう、戦いたくない」
銀之介が静かに言う。
「くくくくく…分かってんだろ?」
どこまでも甘ちゃんな銀之介に、オオカミもまた静かに言う。
「俺様は、野生に生きる狼だった。そして今は、それすらも超えた化け物だ。
…そんな俺が、飼い犬みてえに尻尾をふれるかよ!」
一声吠えて、威嚇。全員が身構える。
そして、戦いが始まる、そんなときだった。

「…《ヴォーテックス》」
漆黒の闇がサフィーめがけて飛ぶ。
「サフィーちゃん!危ない!」
いのりは咄嗟にファイアーワークスに命じてすでに酷い怪我を負っているサフィーをかばう。
間一髪、魔法はサフィーに届かずファイアーワークスの巨体にあたり、弾かれた。
突然の狙撃にサフィーは顔をしかめる。
魔法を使う、サフィーの敵。それに心当たりは一つしか無い。
「フン…せめて忌々しい吸血鬼だけでもと思ったが…」
白衣を来た、男が闇から染み出すように現れる。
「…相変わらず、汚い手を使うわね」
ほとんど汗をかかないサフィーの背中を嫌な汗が伝い落ちる。
こいつは、ある意味において自分と同じだ。
目的のため…吸血鬼を殺すためならどんな手段も厭わない。
そのことをサフィーはここにいる誰よりも知っていた。
「お前には言われたくないな。呪われし血をひく、赤毛の悪魔め」
相変わらずの不機嫌な表情で。
吸血鬼、ドクターアラキは冷やかに返した。

「アラキ!邪魔をすんな!これは俺の喧嘩だ!」
突然の闖入者にオオカミは声を荒げる。
だが、それに対してもアラキは冷静に返した。
「喧嘩?一方的な狩りの間違いだろう。お前が獲物のな」
その言葉にオオカミはぐっとつまる。
今、ここで戦ったら、負ける。それは、自分自身が一番理解していたことだから。
たたみかけるように、アラキが言う。
「今ここでお前に消滅されては困るのだ。時が満ちるまで待て。それが我が主の意思だ」
「ちぃ…嬢ちゃんの命令かよ」
その言葉に、オオカミの意気が一気に消沈する。
嬢ちゃんの命令。それはオオカミにとって最も守らなければならないもの。
それが、この世界に帰って来た時の“契約”だった。
「それでいい。この場は一旦…」
言い終わる前に虚無の弾丸が飛んでくる。
「…《ダークバリア》」
アラキの生み出した闇の球にそれは阻まれる。
そして、アラキは虚無の弾丸が放たれた方を見る。
「帰る、なんてそう簡単に認めると思う?」
サフィーは魔法の構えのまま、アラキに笑いかける。
「…心配するな。貴様らの遊び相手は別に用意してある」
そう言うとアラキは虚空から1冊の本を取り出した。
ただの本では無い。その本からは確かに何か力がこめられていた。
「召喚の魔導書…?」
その正体に一足早く気づいた静がアラキに問いかける。
「その通りだ。もっとも、この世界の、だがな」
「何だって!?」
「アバラ・ガビ・ガバラ・ガビオリラ・ゲルオリス・ゲルラ・アラオビルス・ガルバ・アラビアス・ガラビアラス・ゴル・ベル・バル…」
驚きの声を上げる静を無視してアラキが舌噛みそうな朗々と呪文を読み上げる。いつの間にか地面には召喚の魔法陣が現れている。
ファー・ジ・アースでは見られない様式。
そして、儀式が完成する。
「…アークマデテクール」
アラキの呪文の終わりと共に。
「まんまじゃん!」
いのりの突っ込みはさらっと無視された。
節くれだった角を持つ、漆黒の悪魔が魔法陣から現れる。
それと同時に、悪魔をこの世界に出さないための魔法陣が消滅する。
「さあ、悪魔よ。思う存分暴れるがいい」
アラキが言う。その言葉は、契約として悪魔にこの世界で暴れる力をもたらした。
「魔界の悪魔。赤毛の悪魔の相手はにはふさわしかろう。もっとも、そいつはお前など及びもつかぬ力を持っているがな」
悪魔が召喚されたことを確認して、アラキはオオカミを伴い闇に溶け込む。
後に残されたのは、4人と、1体の巨大な悪魔。
「あ、悪魔…?」
目の前の現実が信じられず、銀之介が呟く。
まるで、他の3人に確認するように。
「その通り。最後に置いてくだけがあるね。魔力が、そこらの雑魚とは比べ物にならない」
静は頷きながらも悪魔から目を離さない。
頭の中で戦略を組み立てる。目の前の悪魔は本気でいかなければ、倒せない。
「…もしかして、あたしたちけっこ~やばくない?」
いのりもウィザードとしての経験から察していた。目の前の悪魔がかなりの強さを持つことを。
主の気持ちを察して、ファイアーワークスも本気の戦いの構えを取る。
「なんにせよ…」
サフィーが引き継ぐ。
アラキに逃げられたのは残念だが、そんなことを言ってる場合でもないことくらい、とっくに理解していた。
「今はこいつをぶちのめすのが先でしゅ!」
その言葉と共に悪魔が翼を広げ、吠える。これから繰り広げられるであろう血の饗宴を思って。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー