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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第01話01

最終更新:

nwxss

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だれでも歓迎! 編集
ある歌に、こんな歌詞がある。

『なつやすみはやっぱり短い』。

日々移ろいゆく季節の中で、これほどにはじまる前に胸をときめかせ、終わってみれば短いと感じる季節は夏くらいのものだろう。
この話は、本来は重なることのない二つの世界の中で重なってしまった子供たち、その短い夏の物語。

オープニング・1<今日も今日とて -放浪の魔剣使い->


月匣、と呼ばれる結界がある。
それは第八世界ファー・ジ・アースと呼ばれる世界においての非日常の象徴。
日常の世界を覆う世界結界に、非常識の存在が干渉を受けないようにするための個人用結界『月衣』を改良した、個人による一つの即席結界。
逆に言えば、持ち主(ルーラー)を中心とした一つの異界だ。
この世界において、これを使えるものは二つ存在する。
一つは人間でありながら、この世界の常識外の法則を身に纏う者。夜闇の魔法使い。ナイトウィザード。
いまひとつは、そもこの世界の法則より外れたもの。異界より来るもの。この世界を狙うもの。侵魔。エミュレイター。

月匣の内容は千差万別。何もない月匣もあれば、夏草の匂いに青い空と白い太陽と夏の世界が再現されているものもある。
これは個人の心理状態が多少なりと反映される結果であると言える。
しかし。侵魔の作った月匣は、必ず同じ一つの現象が存在する。それが、

―――紅い月だ。

月門(ムーンゲート)をくぐり現れる彼らの月匣には、欠けることなき紅い月が昇る。
それはどこで月匣が展開されても変わらない。北極だろうが深海だろうが、果ては月面や宇宙空間であっても紅い月が浮かぶ。

そして、ここにも一つ。
紅い月の照らす月匣の中で、一つの闘いが終わろうとしていた。
月光に照らされ、その赤光を跳ね返す白刃。それをのどもとに突きつけられしゃがんでいる、金髪に紅い目、白いシンプルなフレアワンピースの少女。それがルーラーだ。
彼女は片腕を喪失しており、しかしその断面から血は出ていない。それこそが彼女が人間でないことの証左。
白刃を突きつけるのは、ボロボロの青年だった。服は汚れだらけ、顔には疲労の色がある。けれどそのまなざしだけはいっそ残酷なまでにまっすぐに侵魔を見据える。
ヘーゼル色の髪、ダークブラウンの瞳、だらしなくゆるんだ襟元、エンブレムのついたロングコートを羽織った東洋人。
彼の顔と名を知らぬウィザードはいまやないと言っていいだろう。その名は裏界帝国や他世界にも知れ渡っている。

柊蓮司(ひいらぎ・れんじ)。
相棒である赤い宝玉の魔剣を担い、輝明学園卒業後は各地を飛び回る生活を続けるフリーの魔剣使い。
……最近は『ノラ魔剣使い』とか『二割魔王の小間使い、四割ロンギヌス、四割異世界旅行者なトラブル磁石』とか
『不幸学生改め不幸住所不定無職』とか酷いあだ名も増えたが。とりあえず彼の忙しさは変わらない。

ちょっと前まで実家に帰省しようとして東京は大田区桃月町にいた彼だが、その後世界の守護者によって捕獲。
神無月を狙って、富士山に封じ込められている100年に一度目覚めかける冥魔ヴォルカリーノの封印を解こうとする侵魔との攻防戦を浅間神社で繰り広げ、
最終的に目覚めた冥魔ヴォルカリーノを仲間達とともにぶち倒すことに成功した彼は、その地と仲間達とも別れを告げて今度こそ実家に帰ろうとした、その矢先。
悪意ある月匣に一人飲み込まれ、多数の雑魚を放ってくる侵魔相手に70時間ほどサバイバルゲリラ戦を繰り広げて根競べし、なんとか彼の勝利で幕を閉じようとしていた。

柊は、恐れを含んだ瞳で見返してくる侵魔に対してため息をつきながら言う。

「……ったく、時間だけ取らせやがって。数で攻めりゃなんとかなるとでも思ってたのか?あんまり人間ナメるなよ」

それに対して侵魔は奥歯を強くかみ締めただけ。この体勢からではできることそのものがほとんどないとも言えるが。
そして彼にはこれまで積み上げてきた数々のエミュレイターとの交戦経験がある。この状況でも油断することはありえない。
生命力を吸わせ、魔剣に青い輝きが通る。その間にタイムラグはない。彼らが同じ修羅場を幾度となく乗り越えたゆえにできる連携だった。
彼がとどめをさすために魔剣を握る手に力を込めた、その時。

―――月匣が、大きく揺らいだ。

月匣とは先ほど記述した通り結界だ、地震なんて天災が起きるはずもない。
柊がその異変に対して周囲への警戒を強めた瞬間、自身への警戒が揺らいだことを感じ取った侵魔は後ろに駆け出した。
反応の一瞬遅れた柊は舌打ちして異変を後回しに相手との距離を詰めにかかる。だいぶ疲労しているとはいえ、ここまで追い詰めた侵魔を逃がす気は毛頭ない。
あと一歩で剣の間合いに取り込もうというところで、侵魔は振り向きざまに手のひらに虚空を生み出し柊に向けて放つ。
存在を司る虚属性の初等攻撃魔装、<ヴォーティカルショット>だ。そう大きなダメージにはならないが、柊が魔剣をもってその魔法を弾こうとした、その刹那。

柊の前方に、強力な空間の歪みが発生する。

ちょっと前の事件で虚属性―――空間や存在を統べる属性―――の魔法に対して、蝿の女王により軽いトラウマを与えられていた彼は思わず足を止める。
そもそも、月匣の中で空間の歪みが発生することは稀だがある。柊自身も少しばかり経験があるため、その記憶がオーバーラップした。
あの時は魔剣だけが空間のゆがみの先に飲み込まれ、しばらく「使い」扱いされたということもあったりした。ちょっと嫌な懐かしい思い出である。
そして、その判断が運命の分岐点だった。

柊に向けて放たれた虚属性魔法と、彼の前方に発生した空間の歪み。それはいっそ見事なまでにかちあってしまったのだ。
虚属性魔法は空間や存在に干渉するもの。それが発生した空間の歪みに妙な相互干渉を招き起こし―――結果、その歪みは暴走した。
一瞬針の先ほどのサイズに収縮する歪み。次の瞬間には次元爆発が月匣中を覆い、その圧力は月匣の存在限界を容易く突破する。
その爆発力は、すでに存在力の限界に極めて近かったルーラーの侵魔はもちろんのこと、至近距離にいた柊を巻き込み―――

―――月匣を破砕した後、収縮・消滅した次元の歪み。その後には何も残っていなかった。
柊蓮司は、この日を境にファー・ジ・アースから姿を消すことになる。


オープニング・2<任務中の出来事 -ファルコンブレード->


「……なんで俺がゴミ捨て担当なんだ?体力なら加賀の奴の方が上だろうに……」

夜明けの秋葉原。
季節柄下がらない暑苦しい空気の中、よたよたとゴミ袋を両手に持ったウェイター姿の青年が、グチりつつ人通りのない道を歩いていた。
彼の着ている給仕服は、秋葉原の常連ならば皆知っているメイド喫茶「ゆにばーさる」のものだった。
やや短めで、ぴんぴんとハリネズミのように立っている黒髪。中肉中背。やる気のないだらけた表情の青年は、胸の紙製のバッチに平仮名で「はやと」と書いてある。

高崎隼人(たかさき・はやと)。
秋葉原のメイド喫茶「ゆにばーさる」のウェイターの一人であり、レネゲイドウィルスに侵され、オーヴァードとなって、UGNに育てられたUGチルドレンの一人。
UGN、正式名称『ユニバーサル・ガーディアンズ・ネットワーク』とは、18年前に存在の明らかとなった謎のウィルスであるレネゲイドウィルスと、
それの作用によって生まれた異能者・オーヴァードという存在を、通常の人々と共存していこうという思想の下に設立された団体である。
世間一般的には、レネゲイドウィルスのこともオーヴァードのこともいまだ知られていない。だからこそ、現状はレネゲイドがらみの厄介事をなんとかする組織でもある。
その「なんとかする」の状況上、ウィルスに感染した身寄りの無い子供達に能力の使い方を学ばせ、
UGNの組織構成員として組み込んだ存在―――それがUGチルドレンと呼ばれる存在である。

隼人はそのチルドレン出身であり、今はれっきとしたUGNのエージェントであるはずなのだが、この町でウェイターの仕事にいそしんでいた。
一応言っておくと、これも悲しいことに立派にUGNとしての仕事である。UGNアキハバラ支部、それこそがメイド喫茶『ゆにばーさる』なのであった。
なんでメイド喫茶が世界的規模の団体の支部なんだよっ!?というツッコミは日本支部のお偉いさんにしていただきたい。

ともあれ。早朝から店の仕事に狩りだされていた隼人はやる気なさげにゴミ捨て場に向かっていた。
ゴミ捨ての日の朝に出さないとカラスと猫と町内会がうるさいのである。近所づきあいは大切だ。
なお。隼人はゴミ捨てだからやる気が無いわけではなく、仕事全般にやる気が見られないのだと記しておく。基本的に人から指示されてやることにはやる気のない男である。
よっこらせ、とじじむさい声をかけてゴミを置き、踵を返したその瞬間だった。
背中を向けたゴミ置き場から凄まじい音がして、隼人は思わずそちらを振り返る。そこにあったのはゴミの山だけではなくなっていた。

ゴミの山。そして―――その中から天に向けて伸びる二本の足がはみ出ていた。


あまりの光景に、一瞬本気で呆気に取られる隼人。
それも無理からぬことだろう。結構な無理やムチャクチャには慣れているはずの彼でも、こんな状況ははじめてだった。
ともあれ、数々の奇妙な体験をしている彼も順応は早い。とにかくゴミか事件かを判断するためにもその足に手をかけて引っこ抜いてみる。
……手をかける直前にこれで足だけだったらホラーだな、なんてちょっと考えて怖くなってしまったりもするが、スプラッタ自体は見慣れている。それも悲しい話だが。
とにかく引っこ抜いてみれば、それは足だけ―――なんてことはなく、ちゃんと胴体も頭もついた人間だった。

年のころは隼人と同じくらい。ちょっと身長が高めの男。特別奇妙な格好をしているわけでもないが、この「真夏」に薄手とはいえコート姿というのが妙といえば妙か。
やけにぼろぼろなのが気になって、よく観察してみるとその服のところどころには自然に擦り切れたというような穴ではないものが見つかった。
何かで突き刺したり、千切り取ったり、果ては不自然に消え去っているところまである。
そんな数々のコートの穴を見れば、隼人にもこの青年がまっとうに生きている類の―――日常の側の存在でないことが理解できる。
オーヴァード(どうるい)の可能性が高いな、と思ってから、支部長に連絡しないわけにはいかないと判断。その場で携帯を取り出し指示を仰ぐ。
その時だ。
倒れていた男が、隼人のエプロンのすそを掴む。
ちょっとホラーな展開に、慌ててうっかりモルフェウスの能力が暴走しかけた。近くのゴミ袋の山が砂に変わるのを横目に見つつ、隼人は男に問いかける。

「な、なんだよ……っ?」

その問いに、小さな声が返った。あまりに小さすぎて聞き取れないため、おそるおそるしゃがんでもう一度問いかける。

「―――もう一回。聞こえないからできるだけはっきりしゃべってくれ」

ホラー展開にちょっぴりビビりつつも、相手の言葉を聞き取ろうとする隼人。
もしもこれが最後の言葉になるのだったら、それを聞く人間は心して聞かなければならないと、彼は知っているからだ。
そして、もう一度同じ言葉が繰り返される。今度はちゃんと聞き取れた。

「……腹減った」

……真相を知るとものすごく脱力してしまいそうだったが。
いっそここに捨てておいてやろうか、という思考が生まれるものの、携帯の先の上司と繋がってしまったためそうもいかない。
とにかく上司にはあやしい男を発見したこと、話が聞けそうなこと、ついでに腹を空かせていることを告げると、
彼女は詳しく事情を聞くのでマンションの部屋までつれて来い、との命令を下した。
時間は早朝。他のエージェントをたたき起こすのも忍びないので、隼人が背負ってくるように、とのお達しである。
面倒だなぁとか、置いてきたもう一人の店員―――加賀十也(かが・とおや)に後でキレられんの俺じゃね?とか憂鬱に思いつつ、
かといって言われたこと全てに反逆しなければ気がすまないような、『No』としか言わない男でもないためいやいやながらも男を背負う。
同じような体格の人間を背負うのはちょっぴり厳しいが、無理というほどでもない。
ぶつくさと文句を言いつつ、指定の場所に謎の腹ペコ男を連れて行く羽目になる隼人だった。


UGNのアキハバラ支部は一つマンションを貸切で所有している。
他の支部に飛ばされては戻る人間がいたり、また掻き入れ時には人員が倍近く膨れ上がったりと人の出入りが他の支部に比べ大変多いので、
いちいち住居空間をとり、把握するのが大変めんどくさいという理由から日本支部長がわざわざ買い与えたという経緯である。
そのアキハバラ支部のセーフハウス、その支部長の部屋に隼人はいた。呼び出されたのだから当然といえば当然だが。
とりあえず担いできた男を見るなり、支部長は一言。

「だいぶ汚れてるみたいなので洗ってきてください」

……明け方に叩き起こされて大分ご立腹なようである。
ともあれ。
『なんだか準備よく用意されている隣の空き部屋のバスタブになみなみと水が張られているので、さっさと叩き込んでこい』とニコニコとした笑顔で言われ、
『ワカリマシタイッテマイリマス支部長サマ』としか答えられない立場(原因には性格も多分に影響しているが)の隼人が逆らえるはずもなく。
とりあえずは隣の部屋を開け、浴室に入り、一つ深呼吸。可哀相な気もするが、これも支部長命令だ。悪く思うな、と心の中で先に謝罪。
肩に担いでいた青年を、ぽいっと空中で半回転させながらバスタブに放り込む。大きな質量が沈んだことで大量の水が舞う。
制服姿のまま水をかぶるのはまずいとハヌマーンの能力をフルに使って浴室の扉を閉めて被害をシャットアウト。やけに所帯じみた能力の使い方である。
そうやって、一秒経過。二秒経過。三秒―――

「……ぶはぁっ!な、なんだっ!?なんで俺はいきなり水責めくらってんだっ!?アンゼロットの陰謀かっ!?」
「お、起きた」
「起きないと溺死するわっ!?」

なんか司の奴に雰囲気似てるなーこいつ、と隼人は思いながら見ていたが、まず聞かなければならないことを聞くことにした。

「でさ、お前誰だ?」
「いきなりそれかっ!?今水の中に放り込まれてる状況についてとか、ここがどこなのかとかこっちが聞きたいことは山ほどあるんだがっ!?」
「それについては俺じゃない奴が後で説明することになってる。とりあえず名前聞かないと話もできないからな」

……ちなみに、これは先ほど支部長から授けられた質問法である。
交渉事の苦手な隼人に相手を怒らせかねないことをさせるわけなので、ある程度相手を丸め込む方法を教えておいた支部長であった。
<社会>の低い隼人であったものの、相手はさらに低かったのか、お、おうと呟いて答えた。

「俺の名前は柊蓮司。で、お前は?」
「高崎隼人だ。とりあえず体洗って出てきてくれ。状況の説明してくれる人のところにつれてくから」

ばたん。と浴室の戸を閉める隼人。
浴室はしばらく静かだったものの、ざぶざぶという音がし始める。
隼人はさっさと青年が出てきてくれることを祈った。野郎の風呂上がりを待つ趣味は彼にはない。
結局のところ隼人は男―――柊が出てくるまで、これは任務なんだから、と何度も何度も心の中で繰り返す羽目になった。


タオルも着替えも用意していなかったはずなのに、髪の水気を大雑把にふき取り、新しい服を着て浴室から出てきた柊を見て少しだけ疑問に思うものの、
隼人の仕事は彼を浴槽に放り込んだ後、柊を支部長のところに連れて行くまでだ。無駄に干渉する必要はないだろう。
隣の部屋のドアの前に立ち、ノックを二回。はーい、とかわいらしい返事を待って入る。
そこには、黒髪を分けて綺麗に微笑む、アルミの椅子に座ったちみっこい女の子がいた。
彼女の名前は薬王寺結希(やこうじ・ゆうき)。弱冠14歳のUGN秋葉原支部支部長である。
通された部屋は、樫のデスクにシンプルな革のソファがあり、その対面に結希が座っている。彼女の部屋に特別に用意されている応接間だ。
笑顔を崩さず、結希は二人の青年に座るように促す。

「ご苦労様でした隼人さん。お名前は聞いてもらえましたか?」
「あ、はい支部長。えーっと、こっちは柊蓮司って名乗りました。
 柊。こっちが俺の今の上司で、薬王寺結希支部長」
「……支部長?」

柊は目で礼をした後にソファに座ると、不思議そうにきょとんとしている。
結希は少し頬を膨らませると、抗議する。その見た目が子供がむくれているようにしか見えないのが問題だが。

「む。私、これでもこっち側では有名なんですよ?外見で判断しないでください」
「あ、年恰好で驚いたわけじゃないんだけどな。気分悪くさせたなら謝る。悪い。年と中身と外見が一致しないっつーのには慣れてるしな」

その言葉にはにゃ?と首を傾げる結希。
柊はしばらくあー、とかうーとか唸っていたが、やがて頭の中で考えがまとまったのか、結希にたずねた。

「で、えーと支部長さんだっけか。こいつ―――高崎だっけ?によれば、状況を聞かせてもらえるっていうからついてきたんだが、いくつか質問させてもらっていいか?」
「こちらも伺いたいことがいくつかあるんですが、あなたも状況を把握してからの方が話しやすいでしょうしね。
 お話に答えるのはいいですけど、隼人さんもこの部屋にいてもらったままにしてもいいですよね?」
「おい、支部長っ!?」

任務が終わったと思い込んでいた隼人があわてて割り込むものの、そこは結希も慣れたものだ。
笑顔の高速切り返しが飛ぶ。

「あれ?隼人さんは戦闘力のほとんどない女の子と、得体の知れない男が一つの部屋にいることを放っとくんですか?」
「ぐ……わかったよ、わかりましたよ仕事だろ!」
「はいお仕事です。そんなわけですのでもうしばらく支部長(わたし)の言うことを聞いててくださいね」

そんなやりとりを見て、柊はちょっと隼人に同情したような視線を向けるものの、さて、という結希の言葉に彼女に視線を戻す。

「それで、柊蓮司さんでしたか。何が聞きたいんですか?」
「まずは地名か。あと日付」

結希、再びのはにゃ?
首を傾げたまま答える。

「ここは東京の秋葉原で、日付は8月×日ですよ?」
「秋葉原……ってことは日本か。それはいいとして、8月だぁ?……うぉ、今度は時間旅行か?先なのか過去なのかはわからんが」
「8月がどうかしましたか?なにかまずいことでも?」
「いや、こっちの話だ。えーっと……薬王寺ってことは支部長さんは日本人ってことでいいんだよな?」
「えぇ、ここ日本ですし。……っていうか、さっきから妙なことばっかり気にしますね?」

結希はいぶかしげな表情で柊を見る。柊はといえば、やはり何か色々なことを考えているようだった。
しばらく考えた後、再び結希に視線を向ける。

「で、支部長さんはここに高崎を残してるよな?
 同じ部屋に男と一緒にいるのは危険だから、ならわかるけどあんたは自分をさして戦闘力のない、って言った。
 それは高崎があんたの護衛役としてここにいる、ってことでいいよな」
「えぇ。それで問題ないですよ」

続く柊の質問に、結希は少しだけ目を細めて隼人に目配せする。
もしも自分を狙っているのなら守ってくれ、という意味の目配せだ。しかし、次に柊の口から出た言葉に隼人も結希も言葉を失うこととなる。

「あんたらは、『人間』から恨みをかうようなことをしてんのか?」
「……はい?」
「そもそも、支部ってことはなんかでっかい組織の下っ端ってこったろ?どこの組織なんだ?」
「え?え?あー……私たちはUGN、ユニバーサル・ガーディアンズ・ネットワークのエージェントってことになるんですけど……」

オーヴァードが、しかも柊くらいの年で主に所属する場所といえば、UGNか、敵対組織のFH(ファルスハーツ)になる。
このどちらでもないとした場合でも、こちら側に慣れているとすれば、『支部』という単語を聞いた場合は単独行動の多いFHよりもUGNのことを想像する可能性が高い。
結希は考える。
柊は頭の回転自体は悪くない。それは結希たちの短い会話を聞いただけで、隼人がいる理由を正確に掴んだことからもわかる。
戦う、といった剣呑な話題にもついていけることから、日常の世界からいきなり非日常の世界に放り込まれた成り立てオーヴァードでないこともわかる。
なのに彼は結希たちがUGNの人間だと予測できない。
それはまるで「UGNという組織の存在を知らない」かのようではないか―――?

結希の混乱をよそに、柊はまた何かを考え込んでいるようだった。またもしばらく唸った後、彼は三度結希に視線を戻した。

「悪ぃ。UGNっていうのは聞いたことねぇわ。世界的な組織か?」
「え?ゆ、UGNですよっ!?ほんとに聞いたことないんですかっ!?」

あわてる結希にこくりと頷き、柊は隼人の方をちらりと見た。
隼人としてもUGNを知らない、というオーヴァードははじめて見たためそれはもう驚いている。
UGNのチルドレンとして育った身としては、UGNを知らない非日常の存在はかなりの衝撃だった。
その様子を見て納得したのか、彼は頷いてもう一度結希に向き直る。

「まったく聞いたこともない。確認のために俺からも質問していいか。アンゼロットって女の名前、聞いたことないか?」
「アンゼロットさん、ですか?……ごめんなさい、聞いたことないです。有名なオーヴァードですか?」
「いや、俺の……あれ?あいつと俺ってどういう関係だ?腐れ縁とか?上司と部下じゃないし、そもそも俺はフリーだし、えぇと……あぁ、依頼人!依頼人だ今回の!」
「……そ、そんなに関係に困る人なんですか。どんな人なんです、アンゼロットさんって」
「人使いは荒いわ、無理は笑顔で押し付けるわ、毒飲ますわと俺への嫌がらせに命かけてる奴だ。絶対に。そうとしか考えられん」
『失礼ですわね。わたくしはそんなにヒマではないですわよ、柊さん』

柊と結希、ついでに隼人でもない声が響く。
声自体は落ち着いた、しかし少女のソプラノだ。そのきれいな響きを耳にして、なぜか柊の動きが凍りつく。
その声は柊の懐から。ゆっくりと、いっそおそるおそると言った方が正しいような様子で彼は懐を探り、音の元と思われるものを引きずり出す。
それは携帯電話だった。
ちょっと普通の携帯には付いていない水晶のような結晶が張り付いているが、それもアクセサリとして見られないほどのものではない。
なお、柊はそれを取り出すだけでなにか人体から流れるには危ない量の汗を流しているような気がしなくもないが、隼人はそれを無視することにした。可哀相ではあるが。
その携帯からは『開けてー開けてー、早く早く早く早く開けて開けて開けてぇぇぇぇっ!』とちょっとホラーっぽい声がする。
それは先ほどの声とは違う電子音である。悪趣味にもほどがある気がするが、まぁそれは仕込んだ人間の趣味だろう。柊自体には覚えがなさそうだし、と隼人は思う。

柊は意を決して携帯を開く。同時に携帯の液晶画面から、立体映像の少女が浮かび上がった。
おぉ、と感嘆の息をつく隼人。それはこの町に来てから趣味としてちょっとばかり機械関係に詳しくなり、機械関係で友人を作った彼にとっては興味をひくものだったのだ。
立体映像の少女は長い銀の髪。地球をそのまま瞳にしたかのような蒼い瞳。年のころや発達段階は結希と同じくらいだろう。黒く、装飾の少ないドレスを着ている。
神秘的な空気を振りまき、優雅にティーカップを傾け、携帯を前にぐったりしている柊に微笑みかける。

『お久しぶりです柊さん。ご無事なようでなによりですわ』
「お前、人の0-Phone に何を仕込んでやがるんだアンゼロットぉぉぉぉっ!?」
『あら仕込むなんて人聞きの悪い。ちょくちょく異世界に引きずり込まれる柊さんのために状況を整理するためのギミックをいくつか仕込ませていただいただけですわよ?』
「仕込むって自分で言ってんじゃねぇかよっ!?」

さっきまでぐったりしていた柊が元気にツッコミをいれだしたことに驚く隼人。
彼が結希の方を見れば、彼女は彼女であまりの事態にもう頭の処理がついていっていない様子だ。
そんな彼らをおいてきぼりに、柊と少女―――アンゼロットの会話は続く。

『それだけツッコミの活きがよければ大丈夫そうですわね。
 ―――さて、あまり漫才をしている時間もありません。貴方は今の状況を把握してらっしゃいますか?』
「―――あぁ。また異世界に来ちまったっつーことだろ?」
『正解ですが、もうひとつ大切な点があります。その異世界に来たのはあなただけではないということ、それがどういう意味か、理解なさってますか?』
「……可能性の一つとしちゃ考えてたが、最悪だな。ここがどんな世界かもわからねぇっつーのに」

柊が苦い表情で言う。
ちなみに隼人や結希は本気でどんな話が進んでいるのかまったくわかっていない。
それまで処理限界を吹っ飛んでいた結希の意識が戻ってきて、彼女は意を決したようにホログラムの少女に問う。

「え、えぇーと……あなたが柊さんの依頼人のアンゼロットさん、ですか?
 彼の身柄は私たちUGNが預かってます。どういう事情があるのか話していただけませんか?」
『あらあらはじめまして。アンゼロットと申しますわ、薬王寺結希さん。お話は柊さんの内ポケットの中から聞かせていただきました』
「盗聴器までついてんのかっ!?」
『気にしたら負けですわよ柊さん。
 それで―――そちらにご厄介になっている柊蓮司の状況と、私たちのことについてご説明すればよろしいのですわよね?
 とはいえ、話すと時間がかかってしまいますので―――<安直魔法・かくかくしかじか>~♪』

そうアンゼロットが言った瞬間、隼人の頭の中に大量の情報が流れ込む。

魔法と呼ばれる力の存在する世界、ファー・ジ・アース。
その世界を襲うもの、エミュレイター。
その世界を守るもの、ウィザード。
柊蓮司はアンゼロットの依頼をよく受けるウィザードであり、今回は事故により戦闘中に異世界であるこちら側に飛ばされたこと。
そして、柊が直前まで戦っていたエミュレイターもまた、この世界に漂着していること。

そういったことが、頭の中に放り込まれたのがわかった。
結希の方を見れば、結希は必死に今与えられた情報を吟味しているようだった。しばらく目を閉じていた彼女は、やがて瞳を開けて真剣なまなざしでアンゼロットを見た。

「大体事情は飲み込めました。
 正直信じがたい気持ちでいっぱいですが、遠隔地にいる相手に一方的に情報を送り込むなんてことを苦もなくやってのけるオーヴァードなんて聞いたことがありません。
 もし私が知らないだけだとしても、そんな実力者が私に嘘をつく意味がありませんしね」
『わかっていただけて嬉しいですわ。ところでわたくしから一つお願いがあるのですが、聞いていただけますね?』
「内容によります。なんですか?」
『携帯電話でも置き電話でもいいですが、UGN日本支部長の霧谷雄吾(きりたに・ゆうご)氏とテレビ中継でお話をさせていただけませんか?
 実はわたくしはあの方とは交流があるのですが、柊蓮司の処遇についてお話をしたいのです』

はぁ、と頷き、結希が携帯のテレビ電話機能を呼び出して霧谷とアンゼロットの会談をセッティングしている中、
手持ち無沙汰になった隼人は同じく蚊帳の外に置かれた柊を見て呟いた。

「……魔法使い、ねぇ?」
「なんだよ、疑ってんのか?」
「いや。ゲームとかのイメージだとやっぱり魔法使いって知力高そうなもんじゃないか?」
「どうせ俺は頭悪い(ちりょくひくい)よっ!?」

……まぁ、高校ろくに行ってないしなぁ。それは隼人も同じわけだが。

閑話休題。
柊はふてくされた様に言う。

「仕方ないだろ。魔法がろくに使えなくても、魔法っていうシステムを利用した武器だとかを使えたり、存在そのものが魔法的なもんでも『ウィザード』って括られる。
 俺がまともに使える魔法っつったら3つくらい。それも自発的に使えるとなれば2つだ」
「へぇ。魔法かー……見てみたいんだけど、問題ないか?」

興味津々、といった様子の隼人。
柊は唐突なリクエストに、何かを探るように虚空を少し見た後頷いた。

「たぶんな。月衣は問題なく動いてるみたいだし、これくらいならなんとかできるだろ。―――よっと」

言いながら、彼は何もない空間に手を伸ばし―――長い剣を抜き放った。
赤い宝玉。鋼の刀身。なんの曇りも無い刃金色。刀身の中心には、隼人にはあまりなじみのない彫りこまれた文字がある。
それを見て、隼人は純粋におぉ、と呟いた。
西洋剣を持つ人間は見たことがある。戦ったこともある。彼と因縁の深い人間だった。今も忘れることはない。
けれど、その剣は過去に見たことのある西洋剣とは違った。もちろん形自体が違うのは当然だが、なにか在り方が違うように思えた。
どちらが偉いとか、尊いとかいうつもりはない。が、存在の仕方が違うがそこに強い意志があることは同じ。

それが、純粋にきれいに見えたのだ。

そんな隼人に、魔剣を月衣内に戻した柊が声をかける。

「ものをしまったり出したりできる個人用の結界、月衣っていうんだけどな。これはウィザードならみんなが使える魔法だ」
「便利だなぁ。四次○ポケットか?」
「そこまで便利なもんじゃねえさ。収納限界はあるし、生き物は入れられないし。ス○アポケットもないしな。
 で、えーとお前らもなんか妙な力があるんだろ?オーヴァードだっけ?」

柊の問いかけに、隼人があぁ、と頷く。
柊自身がそう悪い人間でないことがわかって安心したこともあり、隼人はオーヴァードやレネゲイドウィルスについての説明をはじめた。

18年前に存在が証明されたウィルス、レネゲイドウィルス。
そのウィルスのキャリア(潜在感染者)が、ある衝撃を受けて生まれる超人、オーヴァード。
オーヴァードに宿る能力、シンドローム。
そして、オーヴァードの組織であるUGNとFH。

一通り聞くと、柊は何度か頷いて隼人に確認する。

「で、お前らはUGNに所属するオーヴァード、ってことか。だから俺がどこの組織に属してるか聞いたんだな、FHに所属するなら何か企んでると考えるのが普通だ」
「そういうことだ。まぁ、無駄な心配に終わったわけだけどな」
「そりゃよくわからん人間が異世界から来たってのは普通は思わないだろ。俺も思わないし」
「お前のトコはちょくちょく異世界人とか来るんじゃないのか?さっきの変なので伝えられた内容だと、どうもお前は色んなとこに行ってるみたいだし」
「待て。あいつんなことまで話してんのかっ!?」

何気ないやりとりの中、結希が戻ってくる。隼人がたずねた。

「おう、お帰り支部長。どんな感じになりそうなんだ?」
「えぇと、一通りの話し合いが終わって、今は世界紅茶会議の次の日程の話になってるんで抜けてきちゃいました」

そんな顔見知りかよUGN日本支部支部長と世界魔術協会会長。
閑話休題。
結希が柊をじっと見て、話し合いの結果を伝えようとしたその時だった。

「支部長おおおおおぉぉぉっ!」

ばたんっ!とノックもなしに、その部屋に少し小柄な白髪のツンツン頭の少年が飛び込んできたのは。


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