3年生最初の中間テストが終わったとき、少女はやってきた。
「西田香津美(にしだ かつみ)です、よろしくお願いします」
3年C組担任の桜庭ひかるのとなりで挨拶する姿は、清楚と言ってよかった。
ただ、派手さがないためにクラスの中で目立たない存在になるであろうことは間違いなかったが。
ただ、派手さがないためにクラスの中で目立たない存在になるであろうことは間違いなかったが。
だが、彼女の登場をきっかけに学園内にちょっとした異変が起きることとなったのだった。
香津美の転入から数日が過ぎた、梅雨真っ盛りのある日のことである。
どんよりと曇った空の下ではあったが、陵桜学園の校内はいつもと変わらない明るさであった。
学園内の教室のひとつ、3年B組では、ひとつの机を囲むように4人の女生徒が座っている。
4人は自他共に認める親友であり、休み時間ごとに机を囲んで話しこんでいる姿がいつも見られた。
学園内の教室のひとつ、3年B組では、ひとつの机を囲むように4人の女生徒が座っている。
4人は自他共に認める親友であり、休み時間ごとに机を囲んで話しこんでいる姿がいつも見られた。
そしてその4人の中で特に賑やかなのは、チョココロネを手にした一番背の低い女生徒、泉こなたである。
こなたは後ろの席を向いて座り、その目の前に、こなたほどではないものの少し幼な目に見える少女が座っている。
まるでカチューシャのような大き目のリボンがアクセントの、肩口でそろえられた髪がトレードマークのおっとりした少女。
まるでカチューシャのような大き目のリボンがアクセントの、肩口でそろえられた髪がトレードマークのおっとりした少女。
少女の名は柊つかさ。
こなたが陵桜学園に入学してすぐに親しくなった、最初の友人である。
外国人にからまれていたつかさを助けたことが縁で知り合ったと、こなたは言う。
ただしそれは、こなたから見てのことである。
外国人にからまれていたつかさを助けたことが縁で知り合ったと、こなたは言う。
ただしそれは、こなたから見てのことである。
つかさ自身は外国人は道を聞いていただけかもしれないと今でも思っており、こなたはそのことを否定しなかった。
ふだんの生活態度からは想像もできないことではあったが、こなたは会話だけなら問題なく英語を駆使できる。
そのこなたの耳に入った外国人の言葉の内容は、はっきり言ってナンパ以外の何者でもなかったのだ。
いや、その発言にはむしろストリートガールに対して言うような発言が山のようにあったのだ。
はっきりいって、あのままであったらつかさの身にとてつもない不幸が舞い降りていたことは疑いないであろう。
ふだんの生活態度からは想像もできないことではあったが、こなたは会話だけなら問題なく英語を駆使できる。
そのこなたの耳に入った外国人の言葉の内容は、はっきり言ってナンパ以外の何者でもなかったのだ。
いや、その発言にはむしろストリートガールに対して言うような発言が山のようにあったのだ。
はっきりいって、あのままであったらつかさの身にとてつもない不幸が舞い降りていたことは疑いないであろう。
そしてそのことをつかさに知られないようにするために、あえてつかさの誤解を解く気にならないこなたであった。
そのつかさの、こなたから見て右側には、クラスの学級委員を務める高良みゆきが座っている。
こなた同様背中まで髪が伸びているが、軽くかかったウェーブが重さを感じさせない。
4人の中ではもっとも女性らしい体つきをしてはいるが、本人の持つ品のよさがその姿を清楚に見せていた。
眼鏡をかけた上品そうな面持ちが、彼女に『お嬢様』を感じる。
こなた同様背中まで髪が伸びているが、軽くかかったウェーブが重さを感じさせない。
4人の中ではもっとも女性らしい体つきをしてはいるが、本人の持つ品のよさがその姿を清楚に見せていた。
眼鏡をかけた上品そうな面持ちが、彼女に『お嬢様』を感じる。
事実、みゆきは東京の高級住宅街に住む、正真正銘のお嬢様なのであった。
みゆきとこなたの出会いは一年生の文化祭の準備をしているときである。
当時から学級委員であったみゆきが、こなたとつかさのフォローをしたことがきっかけであった。
みゆきのもつ雰囲気から自然と会話が弾み、いつの間にか3人でいることが多くなっていた。
当時から学級委員であったみゆきが、こなたとつかさのフォローをしたことがきっかけであった。
みゆきのもつ雰囲気から自然と会話が弾み、いつの間にか3人でいることが多くなっていた。
当時は学級委員であったつかさの姉とも顔見知りであったことから、4人が共に行動することが多くなったのも自然な成り行きであった。
そして、つかさの左側で、みゆきと向かい合わせに座っているのが、つかさの双子の姉、柊かがみであった。
キリッとした顔つきが少しキツ目に見える上、髪をツーテールに結わえているため、こなたから「ツンデレ」とからかわれることの多い少女である。
実のところ、かがみは自分の優しすぎる面を問題点と捉えているため、人一倍の厳しさで覆い隠そうとしているだけなのである。
だが、つかさはもちろんのこと、こなたに対しても厳しくなりきれないでいた。
キリッとした顔つきが少しキツ目に見える上、髪をツーテールに結わえているため、こなたから「ツンデレ」とからかわれることの多い少女である。
実のところ、かがみは自分の優しすぎる面を問題点と捉えているため、人一倍の厳しさで覆い隠そうとしているだけなのである。
だが、つかさはもちろんのこと、こなたに対しても厳しくなりきれないでいた。
そんなところが、こなたに「かがみはツンデレだ」だとからかわれる由縁であった。
かがみは隣のC組の生徒であるため、休み時間のたびにB組へとやってくる。
一年生のころからずうっと続いているこの習慣、もはやだれも不自然に思うものはいなかった。
妹のつかさの様子を見にくるのが目的だと、一年のころにはよく言っていた。
だが今では、妹だけではなく妹とB組の友人、特に泉こなたに会いに来ているのではないかとだれもが思っていた。
それほどに、こなたとかがみの仲はいい。
それゆえ、C組にいる中学時代からの友人から薄情者扱いされているのだが。
一年生のころからずうっと続いているこの習慣、もはやだれも不自然に思うものはいなかった。
妹のつかさの様子を見にくるのが目的だと、一年のころにはよく言っていた。
だが今では、妹だけではなく妹とB組の友人、特に泉こなたに会いに来ているのではないかとだれもが思っていた。
それほどに、こなたとかがみの仲はいい。
それゆえ、C組にいる中学時代からの友人から薄情者扱いされているのだが。
そんな4人が、いつもどおりにお弁当を持ち寄って昼食を取っている。
楽しい会話を調味料にしながら。
楽しい会話を調味料にしながら。
話題は取り留めのない、日常的なことばかりである。
けれど、そんな会話ができることが4人の喜びでもあり、大事な宝物でもあった。
残り一年をきった学園生活を惜しむかのように、4人は会話を続ける。
けれど、そんな会話ができることが4人の喜びでもあり、大事な宝物でもあった。
残り一年をきった学園生活を惜しむかのように、4人は会話を続ける。
ふいにかがみが自分のクラスに転校生がきたと話し出す。
「こんな時期に? もっといい天気の時に来ればいいのにねえ」
「いや、転校するのに天気は関係ないだろ。親の都合なんだから」
だるそうな顔でコロネをくわえつつ発するこなたの言葉に、即座にツッコミを入れるかがみ。
そのタイミングのよさは、長年コンビを組んできたベテラン漫才コンビを思わせるほどである。
そしてそれは、二人が一緒にいるときによく見られる、なじみの光景でもあった。
そのタイミングのよさは、長年コンビを組んできたベテラン漫才コンビを思わせるほどである。
そしてそれは、二人が一緒にいるときによく見られる、なじみの光景でもあった。
「それで、どんな方なのですか? 転校なさってこられたのは」
みゆきが、ふと気づいたかのようにかがみに質問してくる。
おかげで話が脱線することは防げたが、別に意識してやったわけではないのが彼女のすごいところではある。
おかげで話が脱線することは防げたが、別に意識してやったわけではないのが彼女のすごいところではある。
「ええっとね…… 名前は、西田香津美さんって言うんだけど、フンイキは峰岸に近いかな?」
転校生の名前を聞いた瞬間、一瞬こなたの動きが止まる。
だれにも気づかれることはなかったが、そのときのこなたの表情はとても硬いものであった。
だがすぐにいつもどおりのとぼけた顔つきへと戻り、内面の動揺をおくびにも出さずに言葉を発した。
だれにも気づかれることはなかったが、そのときのこなたの表情はとても硬いものであった。
だがすぐにいつもどおりのとぼけた顔つきへと戻り、内面の動揺をおくびにも出さずに言葉を発した。
「じゃあ彼氏持ちなのかな? あやのんみたいに?」
ふたりが共に名をあげた、C組におけるかがみの友人、峰岸あやの。
上品なたたずまいの美少女であり、こなたやかがみの交友関係の中で唯一の彼氏持ちである。
ふだんは気にすることのない恋人の話題だが、さすがにこういうときには気になる4人であった。
上品なたたずまいの美少女であり、こなたやかがみの交友関係の中で唯一の彼氏持ちである。
ふだんは気にすることのない恋人の話題だが、さすがにこういうときには気になる4人であった。
その手の話題に超然としているようなこなたでさえ、他のだれにも浮いた話がないのが寂しいとボヤくことがある。
残りの3人の気持ちは言うまでもないことであろう。
残りの3人の気持ちは言うまでもないことであろう。
「さあ、それはわからないわよ。まだロクに話もしてないんだから」
こなたを横目でにらみながらのかがみの言葉に、待ってましたとばかりに合いの手を入れるこなた。
その反応のよさは、まさに絶妙のタイミングと言ってよかった。
その反応のよさは、まさに絶妙のタイミングと言ってよかった。
「そりゃ、休み時間のたびにこっちに来てたら話す機会もないよね? かがみ」
ニヤリと笑うこなたにかがみは顔を赤くして反論するが、意味をなしていなかった。
もっとも、そのことに気づいてないのはかがみ本人だけだったが。
つかさも、みゆきも、そんなかがみをにこやかに見つめるばかりだった。
もっとも、そのことに気づいてないのはかがみ本人だけだったが。
つかさも、みゆきも、そんなかがみをにこやかに見つめるばかりだった。
だが、このときこなたの心の中をのぞくことができたら、だれもが驚いたことであろう。
なぜなら心の中でこなたは大きく動揺していたからだ。
なぜなら心の中でこなたは大きく動揺していたからだ。
(西田香津美……って、まさか香津美のことじゃないよね? いくらなんでもそんなことって…… )
こなたの内心の動揺に気づくことのないまま、おしゃべりは続いていく。
新たな話題の口火を切ったのは、みゆきだった。
新たな話題の口火を切ったのは、みゆきだった。
「それにしてもここのところ続いてますね。おとといからは校内警備ということで、臨時雇いの人がいらしてますし」
「ああ、蓮司兄さんね」
かがみが何気なくつぶやいた言葉に、こなたとみゆきの視線が集まる。
ふたりの視線に気がつくと、キョトンとするつかさをよそに、自分のうかつさに気づいて顔を赤らめるかがみ。
ふたりの視線に気がつくと、キョトンとするつかさをよそに、自分のうかつさに気づいて顔を赤らめるかがみ。
知り合いなのかとみゆきに問われ、バツが悪そうにかがみは答えた。
「そうなのよ。かなり遠縁の親戚なんだけど、昔っからフラフラしててねえ。
やっと決まったバイト先だからって頑張ってるみたいだけど、そろそろ定職についてもらわないと一族の名折れだわ」
やっと決まったバイト先だからって頑張ってるみたいだけど、そろそろ定職についてもらわないと一族の名折れだわ」
「お、お姉ちゃん、蓮司お兄ちゃんは『日本コスモガード』って会社にちゃんと就職してるってば」
「なに言ってるの、あそこは人材派遣会社じゃない。あんなの就職してるって言わないわよ」
必死に言葉をつむぐつかさを、かがみは一刀両断にする。
「あのう、かがみさん。『日本コスモガード連盟』は人材派遣会社ではないんですよ」
申し訳なさそうに話しかけるみゆきの言葉にかがみの動きが止まる、まるで一瞬にして彫像になったかのように。
事態を理解できないつかさは、姉とみゆきの顔を交互に見つめている。
ただひとり、こなただけがほくそ笑むようにかがみを横目で見ていた。
事態を理解できないつかさは、姉とみゆきの顔を交互に見つめている。
ただひとり、こなただけがほくそ笑むようにかがみを横目で見ていた。
「え……そ、そうなの?」
きしむ音が聞こえてきそうなくらいぎこちない動きでみゆきを見、さっきの発言が本当か確かめようとするかがみ。
みゆきはその質問にうなずいて答えた。
みゆきはその質問にうなずいて答えた。
「ええ、本当ですよ。
日本コスモガード連盟はコスモガード連盟の日本支部でして、主な業務は天体観測のデータを下に、地上への危険度を測ることなんですよ。
地上に影響が出る虞があるときは関係各所へ連絡して対策を採るように連絡なさるとか。
地上に既にある、宇宙からの飛来物が及ぼす影響を調査するための部署も存在しているということですので、遠縁のお兄様もそちらに所属されているのではないかと」
日本コスモガード連盟はコスモガード連盟の日本支部でして、主な業務は天体観測のデータを下に、地上への危険度を測ることなんですよ。
地上に影響が出る虞があるときは関係各所へ連絡して対策を採るように連絡なさるとか。
地上に既にある、宇宙からの飛来物が及ぼす影響を調査するための部署も存在しているということですので、遠縁のお兄様もそちらに所属されているのではないかと」
「さすがみゆきさん。よく知ってるね」
「いえ、以前父の会社がお世話になったことがありまして。
業務の都合でうちにも何度かいらしたことがあって、そのときにお聞きしたんですよ」
業務の都合でうちにも何度かいらしたことがあって、そのときにお聞きしたんですよ」
一方、内心でこなたはホッと胸をなでおろしていた。
みゆきが知っているのはあくまでも表向きの業務のみであったからだ。
日本コスモガード連盟の裏側の顔は、対エミュレイター用のウィザードの派遣業務。
こなたも、そして話題の主である柊蓮司も、この、裏の任務で長い間付き合いが続いていたのだった。
みゆきが知っているのはあくまでも表向きの業務のみであったからだ。
日本コスモガード連盟の裏側の顔は、対エミュレイター用のウィザードの派遣業務。
こなたも、そして話題の主である柊蓮司も、この、裏の任務で長い間付き合いが続いていたのだった。
「そ、そうなんだ……ありがと、みゆき」
なんとかみゆきに返答したかがみではあったが、完全に硬直してしまって身動きが取れないようであった。
そんなこととは露知らず、みゆきの説明に素直に関心るつかさをよそに、かがみに話しかける人物がいた。
ほくそ笑みながらかがみをずっと見ていた、泉こなたであった。
そんなこととは露知らず、みゆきの説明に素直に関心るつかさをよそに、かがみに話しかける人物がいた。
ほくそ笑みながらかがみをずっと見ていた、泉こなたであった。
「むふふ、かがみったらヒドイねえ、遠縁の親戚を容赦なく切り捨てるんだから。
やはりアレかな? つかさにひっつきそうな悪い虫って思ってるのかな、その人のこと?」
やはりアレかな? つかさにひっつきそうな悪い虫って思ってるのかな、その人のこと?」
「なっ! だ、だって、仕方ないじゃないの、なんだでだか知らないけどムシが好かないんだから!」
自分の感情が理不尽なものであることを自覚してるせいか、真っ赤な顔で反論するかがみ。
それを見たこなたは、ますますかがみをからかうのであった。
それを見たこなたは、ますますかがみをからかうのであった。
「ほほう、やはりそう思ってたんだ。そんなにつかさのことが心配なんだ、おっかないお姉ちゃんとしては」
「だれが『おっかないお姉ちゃん』よ! つうか、そんなに心配してないわよ、だって蓮司兄さんにはくれはさんがいるんだし」
周囲に恋愛に関する話がないとはいえ、そこは年頃の女の子。
こういった話題には敏感である。
新たに名前の出たくれはとはどんな人なのか、蓮司とはどんな関係なのか、興味心身でかがみに注目する。
こういった話題には敏感である。
新たに名前の出たくれはとはどんな人なのか、蓮司とはどんな関係なのか、興味心身でかがみに注目する。
「ちょ、ちょっと! そんなに近づかないでよ!」
かがみが両手でこなたとみゆきを制止しようとする。
だがそのとき、かがみの腕時計の表示が目に入ったみゆきが、ふいに心配そうな声でかがみたちに話しだす。
だがそのとき、かがみの腕時計の表示が目に入ったみゆきが、ふいに心配そうな声でかがみたちに話しだす。
「あの、盛り上がっているところ申し訳ありません。そろそろお弁当を片付けないとまずいのではないでしようか?」
みゆきの一言に自分たちの腕時計を確認し、あわてて弁当を食べ終える3人。
一方でこなたの心は完全に落ち着きを取り戻していた。
C組に来た転校生がかつての親友の名と同じであったことを、そんな偶然はありえないと結論づけて。
C組に来た転校生がかつての親友の名と同じであったことを、そんな偶然はありえないと結論づけて。
食事を終え、かがみは席を立つ。
手をふり教室を出ていくかがみを、こなたたちは手をふって見送った。
手をふり教室を出ていくかがみを、こなたたちは手をふって見送った。
やがて、満腹になったこなたが居眠りをして黒井に頭を叩かれた以外は、たいしたこともなく放課後に。
こなたはつかさとみゆきを伴ってC組へ。
いつもはかがみがB組へやってくるのだが、きょうは違った。
こなたはつかさとみゆきを伴ってC組へ。
いつもはかがみがB組へやってくるのだが、きょうは違った。
とはいえ、C組のホームルームの終了が遅くなった時など、たまにあることではあるのだが。
「かがみぃ、帰ろうよ」
こなたが真っ先に声をかけると、かがみは手をふって3人に答える。
少し離れた場所ではC組におけるかがみの友人である日下部みさおが、同じくかがみの友人である峰岸あやのに抱きついていた。
少し離れた場所ではC組におけるかがみの友人である日下部みさおが、同じくかがみの友人である峰岸あやのに抱きついていた。
「あやのー、柊が薄情くんになっちまったよう。私らより、ちびっこのほうがいいんだってよー」
「なっ! だれもそんなこと言ってないだろ!
それに、あんたらはあんたらで寄るところがあるって言ってなかったか、日下部?」
それに、あんたらはあんたらで寄るところがあるって言ってなかったか、日下部?」
かがみはいっしょに行こうとのみさおの言葉に後ろ髪を引かれながらも、3人のそばへと向かう。
いつもの4人がそろって、あとはまっすぐ駅まで帰るだけ。
なのだが、きょうのこなたはいつもと違い、なぜかC組の教室をキョロキョロと見る。
なのだが、きょうのこなたはいつもと違い、なぜかC組の教室をキョロキョロと見る。
その様子を見たかがみは、昼休みに話した転校生の話題を思い出す。
おそらくは、どんな子なのか興味津々で見にきたんだろう、そう思ってかがみは心の中でほくそ笑む。
転校生を探すこなたの顔が可愛いと思いながら。
おそらくは、どんな子なのか興味津々で見にきたんだろう、そう思ってかがみは心の中でほくそ笑む。
転校生を探すこなたの顔が可愛いと思いながら。
かがみと目が合ったみゆきが、ニッコリほほえんで、うなずく。
どうやらみゆきも、かがみの視線の先にあるこなたの行動をに気づいたようだ。
どうやらみゆきも、かがみの視線の先にあるこなたの行動をに気づいたようだ。
だが、つかさはそこからさらにワンテンポ遅れてようやく気がついたようで、こなたに質問を投げかける。
「どうしたの、こなちゃん?」
「転校生を探してるなら残念ね。きょうは急ぎの用事があるって、もう帰ったわよ」
「転校生を探してるなら残念ね。きょうは急ぎの用事があるって、もう帰ったわよ」
つかさの質問に答えるような形で、かがみはこなたに言う。
その表情は少し意地が悪そうに見えた。
その表情は少し意地が悪そうに見えた。
「おおっ! 何も言ってないのに私のしてることがわかるとは、さすが私の嫁!」
「だれがあんたの嫁だって? とにかく、きょうも寄ってくんでしょ? 今月の新刊も気になるし、つきあったげるわよ」
目を輝かせながらのこなたの言葉に呆れながらも、こなたに話しかけるかがみ。
だがその顔は本気で呆れているものではなく、わずかながら笑みが浮かんでいた。
だがその顔は本気で呆れているものではなく、わずかながら笑みが浮かんでいた。
そして、それを気づかれていないと思っているのは、かがみ本人だけであった。
「おーよしよし、素直に私といっしょにゲマズに寄りたいって言えばいいのにねえ」
感激の言葉と共にかがみに抱きつき、撫でまわし始めるこなた。
その顔には満面の笑みが浮かんでいる。
一方のかがみはテレ臭さのあまり、耳まで赤くなっていた。
その顔には満面の笑みが浮かんでいる。
一方のかがみはテレ臭さのあまり、耳まで赤くなっていた。
「こ、こらっ! 離れろ! ひっつくな!」
名残惜しそうにかがみから離れるこなた。
実はかがみも同じ気持ちではあった。
実はかがみも同じ気持ちではあった。
だが、いつまでもここでふざけていられないのも事実。
かがみは自分がしっかりしなくてはという思いと共にこなたに背を向け、席を立つ。
そうでもしないとこなたの術中に嵌ってしまうおそれがあったから。
それほどまでにこなたとのやり取りが楽しいかがみだった。
かがみは自分がしっかりしなくてはという思いと共にこなたに背を向け、席を立つ。
そうでもしないとこなたの術中に嵌ってしまうおそれがあったから。
それほどまでにこなたとのやり取りが楽しいかがみだった。
自分を飾ることなく付き合える友人として、こなたは最高の存在だった。
もちろん、みゆきやみさおやあやのとの間に距離があるわけではない。
だが、妹のつかさと同じくらい近くにいる存在がこなたであることに違いはなかった。
もちろん、みゆきやみさおやあやのとの間に距離があるわけではない。
だが、妹のつかさと同じくらい近くにいる存在がこなたであることに違いはなかった。
一部では友情以上の関係がウワサされてはいたが、ふたりにはそのような意識はなかった。
だが、生涯にわたっての付き合いになるかもしれないという予感だけは、ふたりとも持っていた。
だが、生涯にわたっての付き合いになるかもしれないという予感だけは、ふたりとも持っていた。
そしてそれは、ふたりをよく知るだれもが認めていることでもあったのだ。
「じゃ、そろそろ行こっか」
「そだね」
「そうですね」
「うん!」
教室を出て玄関へとむかう道すがら、ひとりの青年が近づいてくることに気づく。
お昼休みの話題に出ていた校内の見回りの臨時職員、柊蓮司である。
4人が蓮司とすれ違おうとしたとき、つかさが笑顔で声をかけた。
お昼休みの話題に出ていた校内の見回りの臨時職員、柊蓮司である。
4人が蓮司とすれ違おうとしたとき、つかさが笑顔で声をかけた。
「蓮司お兄ちゃん、バイバーイ」
「おお、もう帰りか。寄り道なんかしねえで、まっすぐ帰るんだぞ」
もう高校生なんだからというつかさの反論に笑う蓮司。
子ども扱いされていることにむくれるつかさ。
子ども扱いされていることにむくれるつかさ。
「ムダ口叩くヒマがあったらちゃんと仕事してよね、蓮司兄さん」
蓮司はイラだつようなかがみの言葉に、頭をかいて苦笑するしかなかった。
「やっと見つかった仕事先なんでしょ? くれはさんのためにもがんばってよね」
そのまま通り過ぎようとするかがみを追いかけながら、軽く会釈をするこなたとみゆき。
だが、蓮司とこなたがアイコンタクトを取ったことに、かがみたちは気づかない。
そしてそのまま何も起こらなかったかのように玄関へむかっていった。
だが、蓮司とこなたがアイコンタクトを取ったことに、かがみたちは気づかない。
そしてそのまま何も起こらなかったかのように玄関へむかっていった。
少し間をおいて4人を追う蓮司。
実のところ先ほど4人とすれ違ったのは、こなたと状況の確認をするためであった。
表情その他に異常を示すものはなく、ここまで何事もなかったことにホッとする。
表情その他に異常を示すものはなく、ここまで何事もなかったことにホッとする。
そしてそのまま、こなた以外には気取られないように護衛についたのだった。
玄関までついていった後は4人がバスに乗るまで、玄関ホールで待機。
停留所と周囲に気を配ることになっていた。
停留所と周囲に気を配ることになっていた。
やがて4人が無事にバスで出発すると校内の見回りを再開する蓮司。
学校で何かあった場合、それが手かがりになるかもしれないからだ。
もちろん、4人のことが気にならないわけではない。
だが、今の4人には強力なウィザードが護衛に当たっているため、あまり心配はしていなかった。
学校で何かあった場合、それが手かがりになるかもしれないからだ。
もちろん、4人のことが気にならないわけではない。
だが、今の4人には強力なウィザードが護衛に当たっているため、あまり心配はしていなかった。
(灯、頼んだぞ)
蓮司は自分たちと共に今回の任務についている顔なじみのウィザード、緋室灯(ひむろ・あかり)に心の中で願う。
緋室灯には、期間も読めない上に範囲も広いので、もう少し増援が欲しいということで来てもらっていた。
地元のウィザードの協力も得られるが、彼らの日常生活の舞台であるため行動に制限がついてしまう。
そのことが万一のタイミングに影響を及ぼさないとも限らない、とのアンゼロットの判断により派遣されてきたのだった。
地元のウィザードの協力も得られるが、彼らの日常生活の舞台であるため行動に制限がついてしまう。
そのことが万一のタイミングに影響を及ぼさないとも限らない、とのアンゼロットの判断により派遣されてきたのだった。
バスを追う、2台の小型オートバイ。
離れて行動する2台のうちの1台に、灯は乗っていた。
空が明るいため、箒(ブルーム)による飛行が行えないためである。
空が明るいため、箒(ブルーム)による飛行が行えないためである。
なお、もう一台のオートバイに乗るのは『ナイトメア』の二つ名で知られたベテランウィザード、鈴木太郎である。
本名があまりに平凡すぎるため、他のウィザードからは二つ名でしか呼ばれないが、本人に気にする様子はなかった。
もっとも、任務中に「どりぃ~む」と言うことがあるために、『ドリームマン』という呼び名があることは本人のあずかり知らぬところではあったが。
本名があまりに平凡すぎるため、他のウィザードからは二つ名でしか呼ばれないが、本人に気にする様子はなかった。
もっとも、任務中に「どりぃ~む」と言うことがあるために、『ドリームマン』という呼び名があることは本人のあずかり知らぬところではあったが。
灯もナイトメアも、ジェットタイプのヘルメットとゴーグルにライダースーツといった、目立たない服装をしていた。
ナイトメアが着用している衣装一式は灯の要請によりアンゼロットが用意したものであった。
なにしろ、ナイトメアがふだんの任務で着用しているレザーのボンデージスーツは目立つことこの上ないため、今回の任務に支障が出るおそれがあったのだ。
月閘の外における常識を疑うものはあったが、ナイトメアと任務を共にしたもの全てが抱く懸念は当たっていなかった。
ナイトメアが着用している衣装一式は灯の要請によりアンゼロットが用意したものであった。
なにしろ、ナイトメアがふだんの任務で着用しているレザーのボンデージスーツは目立つことこの上ないため、今回の任務に支障が出るおそれがあったのだ。
月閘の外における常識を疑うものはあったが、ナイトメアと任務を共にしたもの全てが抱く懸念は当たっていなかった。
「灯くん、こちらは今のところ異常はないが、そちらはどうかね?」
「今のところ異常は存在しない」
ヘルメットにセットされたインカムごしに感情の起伏のない返答をする灯。
無表情で起伏のない話し方をする灯ではあったが、それには理由があった。
灯は、強化人間と呼ばれる対エミュレイター戦闘用の改造を施された人間兵器なのであった。
絶滅社という名の傭兵派遣会社に所属するため、灯の日常は常に戦場にあった。
そのため余分なものは不要ということで、改造手術により感情をカットされていたのだった。
灯は、強化人間と呼ばれる対エミュレイター戦闘用の改造を施された人間兵器なのであった。
絶滅社という名の傭兵派遣会社に所属するため、灯の日常は常に戦場にあった。
そのため余分なものは不要ということで、改造手術により感情をカットされていたのだった。
灯とナイトメアが追うバスの中には、お互いの声が届く範囲にかたまって座ることのできた4人の姿があった。
運がよかったと言うつかさの笑顔を、姉のかがみはもちろんのこと、こなたもみゆきもほほえましそうに見つめていた。
バスの中でおしゃべりがはじまると、話題はいつの間にか先ほど会った柊蓮司のことから、お昼休みに話題に出たくれはのことに。
運がよかったと言うつかさの笑顔を、姉のかがみはもちろんのこと、こなたもみゆきもほほえましそうに見つめていた。
バスの中でおしゃべりがはじまると、話題はいつの間にか先ほど会った柊蓮司のことから、お昼休みに話題に出たくれはのことに。
「『くれはさん』ってどんな方なんですか?」
「とっても優しくて素敵な人よ」
みゆきの言葉を受けて、かがみとつかさが、かわるがわるに思い出話をはじめた。
ふたりのことを叱る必要があったときでも、まるで母親のように優しく諭されたということ。
物腰は柔らかいけど、いざというときの芯はとても強い人であること。
物腰は柔らかいけど、いざというときの芯はとても強い人であること。
驚いた時の口癖が「はわっ」であること。
蓮司とは同い年の幼なじみで、なにやら秘密を握っているらしいということ。
その秘密をネタにいろいろと、言うことを聞かせていたことがあったこと。
けれど、その秘密がなんだったのかは教えてもらえなかったということ。
その秘密をネタにいろいろと、言うことを聞かせていたことがあったこと。
けれど、その秘密がなんだったのかは教えてもらえなかったということ。
尽きない思い出が次から次へと、ふたりの口から溢れ出てきていた。
そして、そんなふたりの思い出話を、みゆきは大切なものを受け取るかのように聞いていた。
笑みを絶やさずに。
そして、そんなふたりの思い出話を、みゆきは大切なものを受け取るかのように聞いていた。
笑みを絶やさずに。
ふたりもそんなみゆきの態度がうれしくて次から次へと大事な宝物を渡していった。
いつかは終わらせなければいけないことを残念に思いながら。
いつかは終わらせなければいけないことを残念に思いながら。
一方でこなたは、なにやら思い当たることがあるかのように、あごに手を当てながら聞いていた。
かがみはその様子を気にしながらも、聞きたがっていることには変わりないだろうと思い、こなたに言葉をかけることはしなかった。
こなたの首をかしげる様子を面白そうに横目で見ながら。
かがみはその様子を気にしながらも、聞きたがっていることには変わりないだろうと思い、こなたに言葉をかけることはしなかった。
こなたの首をかしげる様子を面白そうに横目で見ながら。
「それでね、くれはさん、おとといからウチの神社に手伝いに来てるんだよ」
笑顔で話すつかさ。
けれど、この言葉を聞いたみゆきは、目を、軽く見開いた。
けれど、この言葉を聞いたみゆきは、目を、軽く見開いた。
「そうなんですか。蓮司さんのこともそうですけど、偶然ってあるものなんですね」
くれはと蓮司が、同じ日にかがみとつかさの周辺に現れることになったことに感心するみゆき。
その指摘にかがみとつかさは目を丸くし、言われればそうだと、指摘されるまであまり気に留めてなかったことを告白した。
ふたりはみゆきの指摘に素直に感心するばかりであった。
その指摘にかがみとつかさは目を丸くし、言われればそうだと、指摘されるまであまり気に留めてなかったことを告白した。
ふたりはみゆきの指摘に素直に感心するばかりであった。
もっとも、こなたはいつもどおりのトボケた顔を通してはいたが、内心ではかなり苦笑していた。
それはもちろん、くれはと蓮司の本当の目的を知っていたからである。
だがそのことをイノセントである3人に話すことはできない。
けれど、親友に対して隠し事をしてもいいのだろうかという想いも、こなたの中にはあるのだ。
それはもちろん、くれはと蓮司の本当の目的を知っていたからである。
だがそのことをイノセントである3人に話すことはできない。
けれど、親友に対して隠し事をしてもいいのだろうかという想いも、こなたの中にはあるのだ。
こなたの心に重いものがのしかかり、押しつぶされそうになっていた。
そんなこなたの気持ちに気づくことなく、かがみはこなたに話しかけた。
いつも見せる明るい笑顔で。
そしてこなたは、かがみの見せる笑顔が3人の中で一番好きだった。
いつも見せる明るい笑顔で。
そしてこなたは、かがみの見せる笑顔が3人の中で一番好きだった。
「ほら、こなた、あんたも知ってるでしょ、秋葉原の赤羽神社。くれはさんってあそこの一人娘なのよね。
今、神職になるための大学に通っているんだけど、もうじき実習が始まるてことで、ウチの両親に神職につくための手ほどきを受けにきているのよ。
神社同志の集まりで顔見知りでもあるし、蓮司兄さんとのつながりもあって、まるっきりの他人でもないってことで」
今、神職になるための大学に通っているんだけど、もうじき実習が始まるてことで、ウチの両親に神職につくための手ほどきを受けにきているのよ。
神社同志の集まりで顔見知りでもあるし、蓮司兄さんとのつながりもあって、まるっきりの他人でもないってことで」
「うん、知ってるよ、その人のこと。アキバの名物巫女さんなんだよねえ、くれはさんって」
あまりといえばあまりな発言ではあったが、3人ともこなたが知っていたことを『言われてみれば』と納得した。
赤羽神社の所在地は秋葉原、こなたのオタク活動の大きな拠点のひとつであったからだ。
しかも神社は、こなたのバイト先の目と鼻の先である、知らないほうが不自然とも言えるだろう。
赤羽神社の所在地は秋葉原、こなたのオタク活動の大きな拠点のひとつであったからだ。
しかも神社は、こなたのバイト先の目と鼻の先である、知らないほうが不自然とも言えるだろう。
「うんうん、やっぱり『はわ』は強烈だよね、『はわ』は」
かがみが「あんたねえ……」とツッコミかけたとき、車内アナウンスが終点間近であることを告げる。
そこで4人は仕方なしにではあるが、話を打ち切った。
そこで4人は仕方なしにではあるが、話を打ち切った。
だが、こなたたち4人のうち、みゆきを除いた3人は後で知ることになる。
この日が『4人が普通の生活ができた最後の日』になることを。
この日が『4人が普通の生活ができた最後の日』になることを。
数時間後、鷹宮の駅から出てきたかがみとつかさは、すっかり暗くなった道を急ぎ足で歩いていた。
自宅に近づくに去れて街灯も少なくなり、道はますます暗くなるばかりであった。
自宅に近づくに去れて街灯も少なくなり、道はますます暗くなるばかりであった。
「すっかり遅くなっちゃったな」
少し遅れ気味のつかさを気にしながら鳥居をくぐる。
2人の背後から照らす満月の灯も、境内を包む森に遮られて届かない。
わずかに照らす街灯を頼りに、本殿へと向かう。
2人の背後から照らす満月の灯も、境内を包む森に遮られて届かない。
わずかに照らす街灯を頼りに、本殿へと向かう。
森の奥から照らす満月を目印に。
「えっ?」
ふいに立ち止まるかがみ。
そこへ息を切らし気味のつかさが追いつき、話しかけてくる。
そこへ息を切らし気味のつかさが追いつき、話しかけてくる。
「どうしたの、お姉ちゃん?」
だが、かがみは答えない。
とても恐ろしいものでも見たかのように、蒼白な顔で。
とても恐ろしいものでも見たかのように、蒼白な顔で。
「つかさ……あれ」
ようやく動いたと思えば、かがみは、まるで手入れの悪いぜんまい仕掛けの人形のような動きで、何かを指差す。
見ると、かがみが指差す先には、東の空から昇る満月が。
どうしたのかと聞くつかさに、かがみは西の空を指し示すだけだった。
見ると、かがみが指差す先には、東の空から昇る満月が。
どうしたのかと聞くつかさに、かがみは西の空を指し示すだけだった。
紅い満月の昇る西の空を。
「なんなの? なんでお月様が2つ出ているの?」
事態を理解できないつかさはただ、うろたえるばかりであった。
ズン……
ふいに重く、そして大きな音が2人の耳に聞こえてくる。
ひとつ、またひとつ、いくつもの音が聞こえくる先を、2人は見つめた。
そこにはマイクロバスよりもわずかに大きな影が数体、唸りを上げながらたたずんでいた。
ひとつ、またひとつ、いくつもの音が聞こえくる先を、2人は見つめた。
そこにはマイクロバスよりもわずかに大きな影が数体、唸りを上げながらたたずんでいた。
ぎらぎら輝く紅い目を輝かせながら!