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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第02話

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―――281年1月上旬
―――北海・政庁

「……それで、貴女は?」
「嫁じゃ」
「それは聞きました」
「まだ言ってないがな」
「貴女は言ってなくとも私は聞いたのです」

 王修は、そんな会話を聞いて。

 ―――ああ、これが劉備様がこっちに来たくなかった理由か。

 などと納得していた。

 ここは政庁の一室。
 王修が忙しい政務の間を縫って、どうにか都合をつけてきて見れば、二人の女性がにらみ合っていた。
 普段は笑みを浮かべて泰然としている劉備の口元が、微妙に引きつっているのは気のせいではないだろう。
 二人の女性からやや離れた場所には、その劉備と孔融、そして北郷一刀と呂布がいた。

「しかし、傍から見てるだけだと気が楽だなあ」
「……?何?」
「いや、いつも当事者だったもんだからさ」
「…ん」

 呂布は何か納得したように頷き、一刀に頭を撫で回されるままになっている。
 表情は変わらないので、うっとおしがっているのか、それとも喜んでいるのかはわからない。
 獣として解釈するのであれば。十分満足しているようにも見えた。

 ちなみに、呂布は一刀の膝の上に座っている。背中から腰まで、ぴったりと密着している状態だ。
 それにしても彼―――北郷一刀は、どうして、あんなに女性と近づいて平然としていられるのか。
 一度は聞いてみたいものだ。

 で。一方、孔融と劉備はと言えば。

「やはり女絡みとなると、お前さんも形無しかの」
「…まったくなあ。なんでこんな状況になったんだか」

「お前が言うな」「玄徳様が言わないでください」

「こいつは失礼」

 言って劉備は、軽く額を叩き、舌を出す。
 子供じみた行為に、呆れたように彼の二人の夫人は目を細めた。

 そう、夫人だ。
 片や、江南の覇、孫家が息女、孫夫人。
 片や、徐州の豪商、麋家が令嬢、麋夫人。

 二人とも、劉備玄徳の妻であった。

「で、そろそろ作戦会議を始めたいんだが。
 せっかく王修まで来てくれたんだしな」
「あたしは構わんが、こいつはどう思うかわからんぞ」
「…私も始めていただいて構いません」

 その言葉を引き出したのは、果たして先ほどの劉備が行った子供のような行為のおかげなのか。
 もしそうだとしたら、やはり彼は、自分などが及びもつかない高みにいるのだろう。

 せいぜい、王修にわかったことと言えば。

 ―――僕には、奥さんを二人持つなんてことは無理だな。

 その程度のことであった。
 とまれ、以前の彼であったら、妻を娶る、などということすら考えもしなかったろうが。



■■■



 第二話「初動と布石」



■■■


―――281年1月上旬
―――北海・政庁

「…で。
 魔王討伐に関して、孔融殿は全力で支援してくれると、そういうことで構わないんだな?」
「うむ。
 その代わり、こちらも見返りとして劉備殿たちにも、政務や軍務をやってもらう。
 何せ、ここは人手が少なくてのう…政務も軍務も王修に任せてばかりでの。
 武安国が戦闘訓練以外もまともに働ければどうにかなるんじゃが…そうもいかん」

 武安国は、北海の武将である。
 彼と王修だけしか、北海には武将がいない。
 そして。
 ここに呼ばれていないことからもわかるように―――彼は、ウィザードではないのである。

「荊州のオッサンたちあたりが聞いたら、怒りそうな言葉だな」
「何を言うか。
 あそこは周辺もそこまで強力な勢力はなかろうが。
 こっちは、北は黄巾と公孫度、西には陶謙殿がいるのだぞ?
 陶謙殿との同盟が崩れれば、正直いつ滅ぼされてもおかしくはない」
「違いない」

 言って、劉備は地図を広げた。



■■■
                     ↑公孫度軍

  平原(張角軍)        河海海海海海
            河河河河河海海海海海海海
         河河河河              海
河河   河河河河  臨シ港      東來港 海
 河河河河                海海海海海
             北海(孔融軍) 海
                       海
           東武港 海海海海海
                海
   下ヒ(陶謙軍)    海
             海海


■■■

「とはいえ、陶謙殿の動きは、不穏なんじゃないか?」
「…うむ。
 というかはっきり言えば今にも宣戦布告されそうな勢いじゃ。
 あそこまでいきなり態度を豹変されると、やはり、の」
「どう考えても魔王絡み…ってのは言いすぎかもしれんが。
 どこの都市も今は同じような状況だ…どうにかならんもんかな」

 やはり、劉備が口にするのはとぼけた言葉。
 それに、冷たい視線が彼の妻たちから注がれた。

「魔王が関わっとるから猶予がないと言ったのはお前じゃろうが」
「…玄徳様。
 私共は慣れておりますが、時間がありません。お早く」
「だよな。
 なら…本題に入るとするか」

 劉備が最初に視線を向けたのは、孔融だった。

「結局のところ、中核を成す武将たちがエミュレイターに敗れた陶謙軍に、この北海を渡すわけにもいかん。
 孔融殿も、陶謙殿が盟友とはいえ、むざむざこの北海を渡すつもりはないだろう?」
「一応、わしも北海太守を任じられた身じゃからな」
「そいつを聞いて安心した。
 陶謙軍や、周囲の軍からこの北海を守る必要があるんでな。
 太守様が北海を明け渡しちまったんじゃ、意味がない」

 言って、劉備は地図の中、臨シ、東來、東武の三つの港を指でさした。

「さて…まずは、この三つの港に配属しているそれぞれ三千、計九千の兵を北海に集結させるべきだな」
「港は守りにくいから、ということでしょうか」
「そんなところだ。
 そもそも、港を守るところまで兵力に余裕もない」

 劉備は王修の言葉にそう答え、さらに続ける。

「北海の兵力は一万と九千。港の兵を合わせても二万と八千だ。
 参考までに、陶謙殿のところには、下ヒだけで三万四千の兵がいる。
 戦は兵の数だけで決まるのみにあらず、とはいえ…周囲の都市の中で最も兵数が少ないというのはいかんともしがたいわな。
 中華を統一しようと、いろんな野郎が考えてる状況だ。
 大方、周囲のどこの軍も、まずは北海を狙ってくるだろう…な」
「嬉しくない話じゃのう…」
「それで?」

 頭を抱えた孔融の言葉を断ち切るように。
 孫尚香が、胡乱な目を劉備に向ける。
 対して彼女の夫は、とぼけた様子で、妻の一人に視線を返す。

「何が?」
「勝算があるんじゃろうが」
「そうでなければ、玄徳様が動くわけがないとは思います」
「…そういきり立つなよ」

 笑みを絶やさず。
 だが、二人の妻からのうさんくさげな視線もまた、途切れなかった。

「実際のところ。
 張角軍と陶謙軍が同時にこっちに向かって進軍してくれば占めたものだが…な。
 上手く同士討ちさせれば、それで随分と両方の兵力は削れる」
「同士討ちしなかった場合はどうなる」
「別に俺たちだけが、複数の敵を相手にしているわけじゃない。
 北海を落とせるだけの兵力を動かせば、張角や陶謙殿の都市に隣接している軍が黙っちゃいない。
 その上、幸いなことに」

 と、そこで劉備は王修に視線を向けた。

「この軍には、『井蘭』を扱え、弩兵の指揮に長けた将がいる。
 さらには、おあつらえ向きに、陣代わりに使える港まであるときた。
 隙をついて都市を落とすのも、難しいことじゃない」
「…しかし。
 そもそも、陶謙様の軍を攻めるのがいつの間にか前提になっているような気がするのですが」

 渋い顔で、王修は答える。
 そう。この作戦会議そのものが、エミュレイターに対するものではなく、陶謙軍や、張角軍に対するものなのだ。

「王修。この状況ならば、陶謙軍は間違いなく攻めてくる。
 それはわかるな?」
「…は」
「戦に勝つには、数手どころか、数十年先を読まねばならん。それも、最悪の状況を想定してな。
 この状況下で最悪なことってのは、北海が他の軍の手に渡ることだと思うんだが…な」
「…異論はございません。
 ですが、そのために陶謙殿の軍を攻める、というのは…納得は致しかねます」
「守りの後、攻めに転じなければ状況は大抵悪化するが…な。
 それに…城を落としても俺たちが都市を支配するわけじゃない。
 陶謙軍からエミュレイターを追い払えば、その後は孔融殿に任せることになる。
 陶謙殿と話合い、これから手を取り合っていくもよし。
 あるいは、戦力を併合してしまうもよし…だ。
 どちらにせよ。
 攻めてくるのは、大半がまともな兵じゃない…」
「エミュレイターか、あるいはそれに操られた兵、ということですか?」
「…そんな気がする」

 本気か冗談か。
 頬を掻いている劉備の表情からは、王修は何も読み取れなかった。

「…それに、恐縮ながら。
 攻城戦が楽に進む、というのはむしろ楽観に過ぎるのではないかと愚考致します」
「お前さんを信頼してるのさ。
 今回の戦…お前さんがいなけりゃどうにもならん」

 それは、かなり直接的な賞賛であった。
 が。
 王修は、むしろ、どこか不安げな様子で劉備に視線を向ける。

「何かいやな予感がするんですが」
「気のせいさ」

 素の表情が若干混じった言葉を、劉備は受け流し、ぽん、と手を打った。

「さて、こっからは実際に俺たちがどう動くかだ。
 まずは、孔融殿。
 武安国と、あんた自身の手で、三つの港にいる兵を北海に移動してほしい」
「なんでわしらなんじゃ?」
「単純なことさ。
 新参者の俺等じゃ、兵が従ってはくれんだろ」
「そうでもないとおもうんじゃがな」

 何か言いたげではあるが、孔融はそれ以上は何も言わない。
 それを承諾ととったのか、さらに劉備は自分の妻の一人に目を向ける。

「麋には北海とその周辺の人材の探索をやってもらう」
「…わかりました。
 私にできることは、その程度でしょう」

 卑屈な言葉に、劉備は何も言わない。
 ただ、笑みがその意味合いを変えただけだ。

「で…だ」

 劉備が、次に目を向けたのは。

「……………ぐー」
「……………すぅ」
「…この二人は、別のことをやってもらうことにして。
 とりあえず孫には、武安国殿と一緒に軍の訓練と、徴兵をやってもらう」

 端の方で、三国無双な少女と、かつて天の御使いとして中華を統一した少年は、夢の中にいた。
 その一方で、指示を出された孫尚香は、劉備に問う。 

「そこの二人に、お前と王修は何をするつもりじゃ。
 四人揃ってサボるつもりか」

 そう。
 劉備の考えが、先ほどの言葉で全てであるならば。
 将とは呼べない一刀と呂布はともかく、劉備と王修は、少しでも兵と国力の増強をするために、彼女らと行動を共にすべきである。
 が、そうはしない。
 つまり。劉備には、もう一つ策がある。
 見抜いたのは、付き合いの長さか。
 あるいは、孫という武将の、戦略眼か。

 問われた劉備の答えは。

「少しばかり、遠出するのさ。
 ま…保証だ。
 勝つ可能性を少しでも上げるための…な」

 不敵な、笑みだった。



■■■


―――281年1月上旬
―――長沙・武将用住居

 所は変わって、舞台は北海よりはるか南の荊州。
 武将たちが住まう住居。その中の一つの部屋の扉を叩く老将がいた。

「お嬢ちゃん、いるかのー?」

 ぱたぱた、という足音とともに、返ってきたのは元気な声。

「はーい!どなたですかー…って黄忠様!
 どうしたんですか?」
「いやな、魏延はどこいっとるんじゃ?
 そろそろ給料どころか爵位まで下げられそうな勢いでうちの殿が怒ってるんじゃよ」
「うーん…えっと。
 黄忠様のお察しの通りじゃないかなー、と。
 実は、お隣の石月英さんも、数日前にいなくなっちゃいまして。
 私もよく知らないんですけど」
「…お隣ってなんじゃ。
 あの言葉遣いの無茶苦茶なお嬢ちゃんがいるのは魏延のとこじゃろがい。
 なんじゃ、一緒に駆け落ちした相手のこともろくすっぽ知らんのか」
「…駆け落ちって言っても、魏延くんの方はそんな記憶なくなってますし。
 そもそも、一旦そういう関係になった後で、若返りって言葉につられて関係解消しちゃったのも私ですしねー…。
 ほんと、未熟でしたよ。
 まさか魏延くんだけ記憶消されるとか、そんなオチが待ってるとは思いませんでした…ふ、ふふふ。
 元々魏延くんがもてるくせに鈍感なのは知ってたけど、あれが実は千載一隅のチャンスってやつだったんだろうなーって今更気づいてもおそいですよねー」

 あ、地雷踏んだ。老人がそう思ったときにはすでに遅い。
 元気爛漫だった瞳は徐々に暗いものになっていき。
 その言葉はまるで愚痴のよう。
 老将は困ったともいえず、場を取繕おうとどうにか言葉を搾り出す。

「む、うむ、そういえば数万年前に飛ばされたとかなんとか…」
「そそ、石月兵が造れなきゃ、多分そのまま死んじゃってましたよ。
 魏延くんの妻を自称して、腹いせに魏延くんの名前を歴史に残してやろうとも思いましたし。
 超技術で魏延くんとの子供捏造するか、実は妊娠してました!とか」

 どう考えても話はそれない。
 むしろ確信にまっしぐら。
 困り困った漢升さんにできることは、ありきたりの慰めの声をかけるだけ。

「ま、まあ、人生いろいろあるわい」
「黄忠さんが言うと、説得力ありますよねー」
「…その、なんじゃ。
 よく噂に聞く幼馴染っぽい巫女服の魔王やら、年下の健気な魔王やら、どこぞの大年増な世界の守護者やらに負けたらいかんぞ?
 じゃ、なくてじゃな。その…だから、じゃの、ワシは応援しとるから」
「魏延くんには、そんなつもりはないんでしょうけどねー。
 彼の鈍感っぷりというか清清しいまでの女性関係に対する態度は、何かが下がってるとしか思えないです」
「…くらいのー。なんか性格が違わんか…?」

 どんよりと虚空を睨む、実は見た目どおりの年齢ではない魔剣使いの少女と。
 見た目どおりに年を食った老黄忠。
 二人の優秀なウィザードは、今はここにいない、魔剣使いの武将に思いを馳せるのであった。


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