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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第04話

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だれでも歓迎! 編集
護衛対象であるかがみとつかさが、友人たちと帰宅したのを見届けてから数時間後。
放課後の校長室に呼び出された柊蓮司を、ふたりの教員が待っていた。
ひとりは陵桜学園の校長、そしてもうひとりは園内に存在するウィザードのひとりである女性教師であった。

その女性教師とは、世界史の教師で泉こなたの担任でもある、黒井ななこ。

魔王たちと世界の命運をかけた、マジカル・ウォーフェアの終結後に覚醒したウィザードである。
大きな戦いを経験していないために力不足を感じさせるところはあった。
だがベテランウィザードを指導員として経験してきた任務は、ムダなく黒井の血肉となっていた。

「どや? そっちの方は?」

黒井の質問に首を振る蓮司。

「まだはじめたばっかりだし、もう少したったら何かわかるとと思うぜ」

そう願いたいものだとこぼす校長。
その口調には、やっかいごとに関わらざるを得なくなった今の立場を嘆くものがあった。

その言葉を苦笑しながら受け流し、きょうの分の調査結果の照合を続けることに。

ふたりが調査しているのは陵桜学園内に発生している、原因不明の体調不良の原因。
前日まで元気に登校していた生徒や職員が、意識不明の重体で病院に担ぎ込まれているのだ。

極度の衰弱が原因との診断がくだってはいるが、みな健康診断において問題なしとされた者ばかり。
だれもが首をかしげるばかりであった。

関係者の懸命の調査にもかかわらず、やがて事態は手詰まり状態へ。
そこで、糟日部の市教育委員会から文部科学省を通じて、日本コスモガード連盟に調査を依頼。
連盟は陵桜学園内のウィザードである泉こなたと黒井ななこに調査を命じたのである。

だが、調査をはじめるとすぐに、ふたりだけでは手が足りなくなることがわかったのだ。

休んでいる生徒を訪ねて調べてみると、体調不良の原因は急激なプラーナの大幅減少であることが判明。
しかも住んでいる地域は広範囲にわたり、重要拠点である鷹宮神社周辺にまで広がっていることがわかったからだ。
陵桜学園内に存在する他のウィザードは別任務に動いており、支援は不可能。

こなたと黒井は連盟に対して増援を依頼することにした。

依頼を受けた日本コスモガード連盟は、世界魔術協会に支援を依頼。
そこで、柊蓮司の出番となったのである。



柊蓮司は日本コスモガード連盟所属のウィザードである。
だが、その身柄は連盟が自由にできるものではない。
なぜなら蓮司はロンギヌスに所属しており、そこから身柄を預かっているということになっているからである。

かつて『星を継ぐもの』事件で日本コスモガード連盟と対立し、除籍となった蓮司。
その後はアンゼロットが身柄を預かるということで、ウィザードとしての活動を許されていたのだ。
だが、そのとき与えられた任務はかなり過酷なものが続いたらしい。
蓮司は高校卒業と共に、日本コスモガード連盟への復帰を願い出たのである。

もっとも、除籍となった経緯もあり、日本コスモガード連盟は蓮司の復帰をいったんは拒んだ。

それから柊蓮司、日本コスモガード連盟、世界魔術協会の間で紆余曲折があったらしい。
詳細は、アンゼロットの許可を得たものにしか知ることを許されていないので、不明ではあるが。
最終的に、所属は日本コスモガード連盟ではあるが実態はロンギヌスの準構成員、という扱いに落ち着くこととなった。
そこでようやく、柊蓮司の日本コスモガード連盟への復帰がかなったのである。
とはいえ、復帰した本人は不服そうではあったが。

ちなみに、蓮司に与えられたナンバーはロンギヌスH。
Hはもちろん柊のイニシャルである。

それさておき、蓮司の出動を許可したアンゼロットは絶滅社および赤羽家に連絡、ナイトメア、緋室灯、赤羽くれはの出動を要請した。
それから関係各所と調整を取って、現在の布陣となったのである。

その際少し問題となったのが、ナイトメアの服装である。
ふだんと違い潜入操作に近い任務であるため、ナイトメアがふだん任務で身に着けている服は目立ちすぎる。
それが関係者全員の意見であった。

服装の良し悪しは問わないが、その服装では現地周辺に溶け込むことは不可能。
アンゼロットの最終決断をナイトメアも承諾し、任務に就くこととなったのであった。

配偶者の手作りということで、かなり名残惜しそうにはしていたが。

そのナイトメアと緋室灯は、こなたと共に該当する地域の調査および鷹宮神社関係者の移動時の警護。
赤羽くれはは鷹宮神社において現地のウィザードと共に神社周辺の警護と調査。
そして、蓮司はこなたや黒井と共に学園内および周辺の調査と警護を行っているのであった。



「まあ、こんなもんやな、今んとこは」

蓮司とのデータ照合と交換がすんだ黒井が話を打ち切る。
これで、学園内における一日分の任務が終了したのであった。

「まだデータは足りんみたいですけど、少し状況がつかめてきたみたいです。
申しわけありませんけど、もう少々辛抱してもらえませんやろか?」

校長の前に並んで一日分の最終報告を済ませたあと、黒井と蓮司は一礼して校長室を出る。

扉を閉める時に大きなため息が聞こえてくることに呆れるふたり。
頭をかいて職員用の玄関に歩きはじめるとすぐに、黒井が小声で話しかけてくる。

「ところで、あっちゃの方はどないなっとるん?」

黒井が聞いてきたのは鷹宮神社および関係者の警護についてであった。
校長が知っているのは、あくまでも生徒に生じている異常のみ。
鷹宮神社の警護については、学園関係者に一切知らせていなかったのである。

任務本来の目的を考えると、鷹宮神社や宮司一家の護衛は副次的なものに思われる。
だが、社殿の由来を考えるとはずすことは絶対にできないものであった。

なぜなら鷹宮神社は、公表されている縁起とは違ってその主たる役割が強力なエミュレイターの封印であったからである。
魔王級とも伝えられるそのエミュレイターの正体は定かではなく、どうやって封印されているかすら不明であった。
だが、ウィザード各機関による調査によると、その伝承に誤りはなく、強力なエミュレイターが神社に封じられていることは間違いなかった。

封印の鍵がどこにあるかさえわかっていれば、ことは単純なはずであった。
アンゼロットの手による保管を行ってしまえば並のエミュレイターは手出しできないのであるから。

だが、鍵の姿かたちや場所は、ロンギヌスまで動員して捜索しているにもかかわらず、今もってわからない。
それが事態を複雑にしていたのだった。

実際、鍵が物であるならば何も問題はないのである。
当初の予定通り、アンゼロットの居城の保管庫に入れてしまえば、それでおしまいなのだから。
だがそれが人であった場合、事態は面倒なものになってしまうのだ。

鍵となる人物の生死が封印の解除に関係するのか?
補助となるアイテムが必要なのか?
何らかの儀式が必要なのか?

これらも含めたさまざまな問題が解決しない限り、対応策を練ることが不可能だからである。
そして状況次第では、その人物に転生してもらう必要が生じることもある。
その際、周囲のウィザードがそれを納得するのかということも考慮しなければならないのだ。

鷹宮神社のくれはからは、成果が上がったような話はまだ来ていない。
そのためか、事態が長期化しそうな予感が関係者の間に広まりつつあった。



陵桜学園の職員用玄関を出、黒井と共にバスで駅につく蓮司。
人通りの少ないところでウィザードに支給されている専用携帯『0-Phone(レイ=フォン)』を取り出すふたり。
他のウィザードからのメールによる連絡がないかを確認するためである。

緊急時には電話が来るようになっているので、ふたりとも呼び出しがないことにホッとしつつチェックをはじめる。
結果、ナイトメアや灯、こなたたちからのメールには異常を知らせるものはなかった。

とりあえず、きょうのところは安心のようだ。

「ほなら、きょうはここまでやな。あとは頼んだで」

黒井は蓮司に別れを告げると改札をくぐり、ホームへと向かう。
遅れて蓮司も改札をくぐると少し離れた、鷹宮行きのホームへと向かった。
向かう方向が逆であるがゆえに別のホームである。

階段を下りてホームにたどり着いたころ、鷹宮方面行きの電車が入ってきたのが見えた。
ホームには人が多く、蓮司がどこにいるのかはわからなかった。
だがおそらく今の電車に乗ったであろうと考えつつ、出て行く電車を見送る。
それからすぐに0-Phoneを取り出し、改めてメールチェックをする黒井。

やがて、こなたからのメールに太宮に寄り道をした旨の文を見つけて苦笑する。

『こなたのオタク化は小学生時代をしのぐものになっている』とは面談でのこなたの父、泉そうじろうの言葉である。
もっとも、こなたの小学生時代を知らないため、黒井には比較することは不可能。
だがメイドカフェでのバイトなど、そうじろうの言葉にうなづけるものを感じている黒井であった。

三岬中学時代には下宿先の人に禁止されていたらしく、かなりマジメというか堅物だったようだ。
実際、陵桜学園に入学した当初は表情もかなり暗く、友人ができるのだろうかと教師たちが心配していたほどであった。
だが今では、ウィザードとしての活動時はともかく、日常生活において、かつての面影を捜すことは困難になっていた。
出会ったころのこなたの様子を思い浮かべ、あのままでいてくれたらと思うことが時々ある黒井であった。

イベントに誘ったりなどの、柊姉妹やみゆきを巻きこんでの騒動は黒井の耳に入っていた。
それぞれがひとりになった時を見計らって、3人に聞いてみたことがある、「こなたのやっていることは迷惑ではないか」と。
答え次第ではこなたを3人から引き離さなければならないだろうと考えつつ。

ところが3人の答えは、「迷惑だと思ったことはない」という驚くべきものであった。

「まあ確かに、たまにげんなりすることはありますけど、そういう時はあっさりと諦めてくれるんですよ。
人との間合いを読むのがうまいんだと思うんです、こなたって。
だからこそ、私たちだけじゃなく、あちこちに友人が多いんだと思いますよ」

3人の中で最も親密度の高い、C組の柊かがみは答える。
スキンシップもまるで仲のよい姉妹並にしているふたりを、黒井はいつも温かい目で見つめていた。
こなたの、出会ったころとは違う心からの笑顔を見るたびに抱く、かがみ対する感謝の念と共に。
かがみとの対話そのものが、こなたをあそこまで表情豊かな少女にしたのだから。
髪をいじりつつ照れくさそうに答える様子を、黒井はほほえましいと思いながら見ていた。

言われてみれば、確かにこなたの交友範囲は広い。
同級生だけでなく下級生にまで友人がいるのであるから。
もちろん、ウィザード仲間にも友人は多い。

だからこそ、このあたりをまとめるリーダーのような存在になれたのだ。
黒井は自分の師匠であるこなたがそのような存在になったことを誇りに思っていた。
ゆえに日常生活では人一倍厳しくあたり、こなたのより一層の成長をうながそうとしているのだ。
おかげで馴れ合いやひいきを疑われずにすんでいるのは、幸いではあったが。

ただし、かがみがこぼした『これで、宿題さえ…… 』という発言は、聞かなかったことにした。

「こなちゃんといっしょに何かするのってとっても楽しいから、嫌だって思ったことって一度もないですよ。
それにこなちゃん、けっこう気を遣ってくれてるんじゃないかなあって思ってます。
コミケってとこでお買い物頼まれた時なんですけど、私もお姉ちゃんもこなちゃんに頼まれた本、全然買えなかったんです。
でもこなちゃんは笑顔で許してくれたんです」

陵桜学園でこなたと最初に親しくなった柊つかさは、陽だまりのような笑顔で答える。
そのせいか、そもそも一般人をあんな場所に連れて行くことが間違いだろうとつかさに言い返すことができなかった。

黒井はつかさに対しても多大なる感謝の念を常に抱いていた。
つかさとの出会いがなければ、こなたは孤立したままの高校生活を送っていたことであろう。
たぶん、つかさが無意識に発揮する強い母性がこなたを安心させ、閉じこもりがちだった心の扉を開いたのではないか。
黒井はそう考えていた。

とはいえ、もうちょっと勉強にも力を入れてほしいなあと、心の中でボヤく黒井であった。

「私やつかささんには、あまり無理なことはおっしゃったことはないですね。
むしろ私のほうが、泉さんのお役に立てなくて申し訳なく思うことのほうがしょっちゅうです。
どうしても無理だとなれば受け入れてくださいますし、こなたさんなりに考えてくださってるんだと思います」

4人のまとめ役とも思える高良みゆきが答える。
相槌は打っていたものの、たぶんそこまで考えてないと思うと心の中でツッコミを入れていた。

こなたもつかさも、なにかとみゆきを頼りにし、みゆきもそれに答えようとする。
別の機会に、かなり一方的なものに見えるその関係についても聞いてみたことがある。
が、むしろ自分が教わることが多いとみゆきから答えが返ってきたことに、黒井は驚きを隠せなかった。

三者三様の意外な答を思い返してほほえみつつ、黒井はホームにすべり込んできた電車に乗りこんだ。



糟日部駅で黒井と別れて数分後、柊蓮司は電車で鷹宮へ向かっていた。
こなたからのメールから考えるとふたりがちょうど鷹宮につくころに、自分も鷹宮につく計算になる。
これも、こなたの計算なのかと思いつつ、蓮司は車窓を流れる風景を眺めていた。

「ああ……」

思わずため息がこぼれる。
それは、現在の住居に帰った時のことに思いを馳せるとどうしても出てきてしまうものであった。
蓮司の住むアパートの隣の住人が悩みの元であるからだ。

隣に住む住人の名は赤羽くれは。
半ば腐れ縁とでも言うべき、幼なじみの女性であった。

もともと蓮司の住居は陵桜学園の近くに用意されていたのだ。
だが実際に指示された住居に行ってみると、なぜかくれはがお隣さんになっていた。

鷹宮に旅立つ際、くれはの母からメールがきた。
『孫の顔はまだ見たくない』という内容のメールが。
そこでようやく蓮司は気づいた。
これは、くれはがアンゼロットに入れ知恵をしたせいだと。

あのときの耳打ちの内容がこのことだったのかと、蓮司はくれはに抗議した。
だがその抗議は一蹴され、むしろ隣に住み続けることを強制されたのである。
くれはが蓮司の『とある秘密』を守ることを理由に。

そうなっては白旗を挙げるしかなかった。

しかも蓮司の部屋にはダブルベッドが入れられており、ベッドサイドにはなぜか段ボールケースが。
開けてみると中にはドリンク剤と、とあるものが1ダース入っている小さな箱が30個。
添えられていた姉からの手紙にはただひとこと『がんばりな』とあるだけだった。

「なに考えてんだバカ姉貴……」

あまりと言えばあまりのことに、うずくまってボヤクしかない蓮司であった。

それはそうと、くれはが隣に住むことになって起きた最初の問題は、くれはが食事をもってくるということであった。
なぜなら、くれはの料理は上手なほうではないからである。

はっきり言って冷え切った賞味期限切れのコンビニ弁当でさえ、作りたてのくれはの料理よりうまい。
だが、料理を持ってくるのが灯でなかったことを幸運と思うだけの理性が蓮司にはあった。
うっかり地面に穴を開けてしまいかねないようなものを持ってこられては、任務どころか命が危ないからだ。

「まあ、食えるだけマシ……か」

蓮司はため息混じりにつぶやく。

だが蓮司は気づかない、以前より料理がおいしくなってきていることに。
なによりくれはの両手にいくつもの絆創膏が貼られていることに。



やがて電車は鷹宮の駅に着く。
アナウンスと共にドアが開き、蓮司は改札へと向かって歩き出した。
見ると、ちょうどかがみたちが改札を通るところであった。
あえて声をかけずに後を追うことにする蓮司。

もっとも、あまりいい印象をもたれていないので、声をかけてもいい結果になりそうもないというのもあったが。

特に姉のかがみには以前から警戒の目で見られていた。
時には過保護に見えるまでのかばいっぷりに、苦笑しつつも遠巻きに双子を見ることが多かった。

任務がらみとはいえ数年ぶりの再会も、かがみだけは歓迎してはくれなかった。
以前のようにあからさまな敵意を見せ付けることはなかったが、関心を寄せることもなかった。
校内で出会ったときも口をきくことはなく、さっきの会話が再会後最初の会話なのであった。

先が思いやられると思いながらも、ふたりを見つめる蓮司。
その目には暖かい光が宿っていた。

少ないながらもそれなりに人や車の行き来のある通りを歩きつつ周囲に目を配ると、上空に灯とナイトメアの姿が見えた。
どうやら日が落ちたのでふたりともブルームに乗り換えて上空から見張ることにしたらしい。
お互いの所在を確認した蓮司たちは軽くアイコンタクトを取る、警戒を怠っていないことを証明するように。

東の空に浮かぶ満月に照らされながら、ふたりの後を追う3人のウィザード。
これできょうの任務は終わり、そう思ったときである。

周囲のざわめきがかき消すように消え、視界の端に映る西の空に……真っ赤に輝く満月が浮かび上がったのだ!

「来やがったな……」

蓮司はかがみとつかさに駆け寄りながら、手近の空間から自らのからだよりも大きな物体を取り出す。
先端から後端までの長さが2メートル以上の、白銀に輝く細長い巨大な刃物。
後端から4分の1ほどの位置には、手に持つためのグリップが。

その正体はウィッチブレード、武器としての機能を備えたブルーム。
『魔剣使い』と呼ばれるウィザードである蓮司が、いちばん信頼を置く相棒である。
とはいえ実を言うと、蓮司が現在手にしている魔剣は二代目。
以前、とある戦いで力不足を感じたため、打ち直してもらったものであった。

蓮司は右の手に己が相棒を軽々と携え、力強く握りしめる。
そして、かがみとつかさの後ろ姿が見ている先に立つ、巨大な影へと向かっていったのだ!



グルルルル……

かがみとつかさの目の前にはマイクロバスほどの大きさの黒犬がいた。
その巨体だけでも異様なのだが、黒犬の頭が三つあることが恐怖心をさらにかきたてる。

ふたりの目の前に立つ巨大な三つ首犬の正体はケルベロス、地獄の番犬と呼ばれる怪物であった。

震える足がどうしても止められない。
死にたくない、誰か助けてという言葉が頭の中でぐるぐる回る。
足だけではなく、全身に震えが走る。
まだ暑さの残る季節であるにもかかわらず、まるで冬にでもなったかのような寒さを感じる。
ついには目の前が暗くなり始め、頭の中に鐘のような音が大きく響きだす。

だがそのとき、左腕にしがみつくものがいることに気づいた。
かがみは正体を確かめるため、凍りついてしまった体を必死で動かそうとしたそのときである。

「お、姉ちゃん…… こ、怖いよう」

かすかに聞こえてくる声に、かがみの恐怖心はパッとかき消すように消えた。
なぜなら声の主は柊つかさ、さっきまでいっしょに歩いていた双子の妹であったからだ。
つかさを守らなければと意識したとたん、かがみの震えが止まる。
そして何より周囲に目を配る余裕が生まれたのだった。

「うおおっ!」

背後からの大きな声の主に目をやると、蓮司が巨大な剣のようなものを持って駆け寄ってくるのが見えた。

それはあまりにも異様な光景。
だが、もはやそれを異常だと思う気持ちはどこかへと消えていた。
むしろ助けがきたことにホッとしていたのである。

「わきへよけろ!」

いきなりの命令ではあったが、なぜか逆らう気になれずその指示に従ってつかさと共に道をあけるかがみ。
参道からさらにわきにそれ、並んでいる木々に近いところまで急ぎ足で逃げる。
自宅に逃げ込むことは不可能であったから。

ふりかえってみると、怪物の三つの首は持ち上げられて口の中に赤い輝きが灯っていた。
このままでは蓮司が怪物の吐く炎にさらされてしまう!

ゴオオッ!

直後、予想通りに巨大な炎の塊が蓮司へと吹き付けられる。
かがみはあまりのまぶしさに目を閉じてしまった。

爆音と共に熱風が勢いよく吹きつけられたとき、蓮司との永遠の別れが訪れるであろうことを覚悟した。
人間が、あのような怪物に勝てるわけがないのだから。

もう少し優しく接してあげればよかった。
憎まれ口なんか叩かなければよかった。
就職したって話を信じてあげればよかった。
陵桜に来たのは就職先からの出向だって話も、信じてあげればよかった。

みんなのように。

今さらながらに後悔する。
硬く閉じた目から涙がこぼれ落ちる。
ふたたび体が震えだす。
底なし沼に引きずりこまれるような感覚に襲われる。

絶望の縁にひとり、かがみは立っていた。

だれでもいいから助けて欲しい、そう思う脳裏に友の面影が浮かぶ。
小学生と間違えそうなくらいに背の低い、自分とつかさの共通の親友の姿を。

(こなた……)

なぜ彼女の姿が浮かんだのかわからないままに、熱風が弱まったのを感じる。
そこでかがみは恐怖にかられながらも、そうっと目を開けてみることに。
そこに黒コゲとなった蓮司の姿を見ることになるであろうことを予想しながら。



「今度はこっちの番だ!」

なんと、蓮司は無傷で怪物の前に立っていたのであった。
まるでなにかを切り裂いたかのような姿で。

「うそ……」

かがみがその驚きから立ち直る間もなく、どこからか飛びこんできた光り輝く塊が直撃!
爆音と共に3つある頭のうち、ひとつが消し飛んだ。

グァァァッ!

叫び声をあげて体勢が崩れたのを見逃さず、蓮司は飛び込んでいく。
そして一気に腹の下へともぐりこみ、勢いよくウィッチブレードを突き立てたのである。
ふたたび聞いているもののからだを揺さぶる、大きな叫び声が。

地獄の番犬と呼ばれるほどの強大な力を持った巨獣も、いくつもの死線を乗り越えてきたベテランウィザードの敵ではなかった。
もっとも、以前の任務のためにその力を下げられていなければ、蓮司は一撃で倒せていたのだが。

「おおっとう!」

残った二つの頭が蓮司を噛み殺そうとする上、体勢を崩そうと4本の足が蹴ってくる。
それらを全てかわしながら、一瞬のスキをついてわき腹を斬り裂くことに成功。
そのタイミングを狙って放たれた光の塊が、もうひとつの頭を吹き飛ばす!

グォォォン……

大地を揺るがす咆哮一つ残して巨獣は倒れ、闇の中へと消えていった。
だが、紅い月はまだ消えない。

まだ、事は終わらないらしい。

「やったか?」

不意に現れた男から飛び跳ねるように距離を置くかがみ。
男はレザーのパンツを重ね履きし、紺色のタンクトップのシャツの上にバント止めされたレザーのマントを着用していた。
しかも右の目にはアイパッチ、どこからどう見ても変質者にしか見えない人物であった。
蓮司は男を見もせずに「まだわからねえよ、ナイトメアのおっさん」と返事をする。

どうやら蓮司の知り合いのようだと、かがみは安心する。

ナイトメアが現れてからのかがみの態度に気づくことなく、ふたりは周囲に目を配っていた。
直後、10体のキマイラが魔法陣の中から浮かび上がってくる。

キシャァァァッ!

「くそっ! あいつはルーラーじゃなかったか!」

キマイラたちの声を聞いた蓮司が叫ぶと同時に、また新たな光の塊がそのうちの1体を吹き飛ばす。

目の前に広がる現実味を欠いた光景。
だが、熱気を帯びた空気と巻き起こる風が、これが現実であると訴えかけていた。
そんな光景を前に、かがみはなすすべもなく立ちすくんでいる。
目を閉じ無言で恐怖に震えるつかさを、ぎゅっと抱きしめたまま。

「つかさ、大丈夫。私がついててあげるから」

無意味な言葉だとは、かがみ自身にもわかっていた。

だがおびえる妹を守ってあげたいという思いが、口をついて出てきたのである。
それは幼いころから身についた姉としての行動。
4人姉妹の3番目であるにもかかわらず、つかさと行動を共にするゆえに身についた習慣であった。

「とはいっても、なんなのよ……これ」

少し落ち着きを取り戻して、周囲に目を配る。

ふと神楽殿の屋根の上に女性が立っていることに気づいた。
女性のしていることを不敬だと思うよりも先に、その姿をりりしいと思うかがみ。
と同時にこれで大丈夫だと、理由もわからず安心していた。

女性は2年前に見た少女を思わせるかのように髪は長かった。
だが少女とは違って背は人並みにあり、体つきもより女性的である。
たかだか2年程度でここまで成長できるとは思えないほどに。

その印象からかがみは、同じ学校に通う後輩であるふたりの少女を思い出していた。

ひとりは面倒見のよい無口な少女、岩崎みなみ。
なんでもそつなくこなす、こなたの従姉妹のクラスメートである。
スレンダーな体形でショートカットな髪型のため、少年のような印象を抱かせることのある少女である。

もうひとりはこなたの趣味の分野における後輩でもある田村ひより。
ごく普通の眼鏡をかけた髪の長い少女である。

まあ、ひよりの場合趣味が18禁同人誌の作成という『普通ではないところ』はあるのだが、それはさておき。
ひよりが眼鏡を取り、みなみの様に無口で表情に乏しくなれば、あんな感じなのではないか。
そんなことを少しだけ思わせる女性であった。

女性は電信柱かと思うほどに巨大な棒状のものを小脇に抱え、キマイラを見つめていた。
手に持ったものは巨大ではあるものの、女性はその重さを感じないかのようにそれを抱えている。

蓮司の持つ巨大な刀といい、何かとてつもないものを目にしていることを実感しているかがみであった。


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