アットウィキロゴ
ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
掲示板 掲示板 ページ検索 ページ検索 メニュー メニュー

ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第01話

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集

序 章  支配者の箱庭 _a_flag_


 最初に、鈴の音が聞こえた。

 誰も居ない空間で、かしづく彼女はその音色に身を硬くする。
 数々の『魔』が幽閉されし牢獄、『裏界』。
 その中でも、魔王を名乗り配下を従え、領土を持つことを許されている彼女が、まるで処罰を待つ罪人のように微動だにしない。

 りん、りりん―――
 本来か細い鈴の音は、この広大な空間の隅々に滲み渡る。
 りりん、りん―――
 その鈴は、彼女の主が好んで身につける装飾品。
 りん、りりん、ちりりん―――
 鈴の音が止む。変わりに耳に届いたのは、先ほどまでの音色をそのまま言葉にしたような声だった。

「ふうん。良く見つけたわね。一応褒めてあげるわ」

 膝をつき、臣下の礼を崩さぬ彼女の頭上から、その声は告げた。

「有難きお言葉。有り余る―――」
「ま、あたしの下僕だもんね、この程度は当たり前」

 追従の科白をばっさりと切って、声の主は視線をめぐらす。
 金色の髪を二つに括る紐の鈴が、頭の動きに合わせて音を奏でた。


 だだっ広い空間だった。天井は高く、幅も奥行きも狭苦しさなど感じさせない。ちょうど、大きな体育館の中央に立ったときの感覚が近いだろうか。
 しかし、その六方を囲む壁の質感はなんとも形容しがたい。岩といわれればそうだと思うし、金属といわれても頷かないものはないだろう。
 この空間は、見るものによって姿を変え、『変わったこと』に対する認識の変化によって、更に変化を繰り返す認識の迷宮。
 その最深部に位置する、総ての始点。所謂『震源』。即ち、最も認識の影響を反映する場所。
 故に、一秒たりとも安定しない空間に、彼女の主は鬱陶しそうな視線を向け

 ぱちん。と、指を鳴らす。

 その瞬間。薄暗い空間はピンクの光に満たされ、床には白虎の敷物が出現し、甘ったるい香の匂いが充満する。一度たりとも視線を上げない彼女の視界には入らないが、文化的、歴史的背景などの統一感を無視した色とりどりの壺が、壁際の棚に収まっている。
 その光景は、彼女の主の私室と全く同じ。そしてその風景が現れて以降、わずかばかりも空間は揺らがない。
 指打ち一つで、揺らぎ続ける迷宮を、自身にとって最も過ごし易い空間に固定したのだ。
 幾ら『魔王』の一角であるとは言え、彼女にはそんな真似など出来ない。そう、人間から見れば同じ『魔王』とは言え、彼女とその主の前には絶望すら生温い実力差が存在する。

 力の差。
 ソレは、彼女ら裏界に住まうものにとって、唯一絶対の真理にして、犯すことの出来ないルールであった。

「これで、よしっと。
 うん。あたしったら相変わらずいい趣味してるわね。でも―――」

 自画自賛する『主』が言いよどむ。
 それは、期待していた画家の新作に、僅かばかりの瑕を見つけたときのような、

「ねぇ、あんた、顔を上げなさい」

 彼女は即座に、面を上げる。但し視線は合わさない。それは不敬に当たるからだ。しかし、

「何処見てるの? あたしの目を見なさい」

 『主』は言う。
 いつもなら、自分を正面から見据えるような下僕など、仮令それが偶然の結果であろうとも、容赦なく処断するその魔王は、彼女に視線を合わせることを要求した。
 すぐに実行する。待たせることもまた不敬なのだ。
 『主』の目を見た瞬間、視界が闇に塗りつぶされる。
 『主』の繊手が彼女の顔を鷲掴みにしたためだ。

「ねぇ。この部屋どう思う?」

 天真爛漫に、ギリギリと、万力のように締め付ける五指。

「―――――ァッ、す、すばらしいと思い」

 絶え絶えの息の下から、零れ落ちた返答は、大気を引き裂く音に掻き消される。
 それは、彼女の身体が空を舞った音。僅かな浮遊感の後、強烈な衝撃が全身を襲う。

「すばらしい? そうね確かに私のセンスは超☆最高。
 でもね、この部屋は完璧ではないの、なぜなら大事なものが欠けているから」

 みしみしと、圧迫され軋む頭蓋骨。あまりの苦痛に声も出せず、ガクガクと四肢が痙攣を起こす。

「ね、『アレ』はどこなの?
 運んでた連中がウィザードに捕捉された事はもう知ってるの、まさか、盗られた。なんて事はないわよね?」

 『主』は更なる力を五指に込めた。

「………ぁぎがっ、い、こ、こちらぅぐあっ、此方、です」

 彼女は震える腕で、月衣から身の丈ほども在る長い包みを取り出し、
 言い終えると同時、噴水のように脳漿をぶちまけた。

 人間ならば即死。しかし彼女は魔王。この程度の傷ならばじきに回復するし、頭部を握り潰されようと、意識はしっかりと残っている。

「なんだ。ちゃんとあるんじゃない。だったら早く出しなさいよね」

 『主』は、己の身長をゆうに越える包みをはがし、中身を取り出す。

「うふふ、これでこの世界はこのあたしのモノ。
 待ってなさいよ、ベール・ゼファー。今に世界で一番、強くて可愛いのが誰かを思い知らせてあげるんだから」


 迷宮の奥底で、とびっきりの災厄が芽吹いたことを、今はまだ、誰も知らない。


第一章  日常 _at_strange_days


 上条当麻は、不幸な人間だ。

 どれくらい不幸かといえば、自分のベッドを居候の女の子に奪われバスルームで眠らざるを得ず。
 寝床(ユニットバス)に寝惚けて潜り込んできた居候に、朝一番で悲鳴と共に噛付かれて朝日を拝むくらいに不幸だ。
 それだけに留まらず、朝っぱらから件の居候と怒鳴りあって再び噛み付かれ時間をとられた挙句、遅刻を免れようと電車に飛び込んでみれば、
何故か信号の故障でダイヤが大幅に遅れ、諦めて全力疾走すれば道路工事で遠まわりを余儀なくされ、
その途中で常盤台中学のビリビリ中学生に遭遇し何が気に触ったのかレールガンキャッチボールに強制参加。
 学校についたらついたで遅刻スレスレ。慌てて教室に飛び込めば、「遅いわよ、貴様」の一言と共におでこ女子に右ストレートを貰い、
気絶して目が覚めたらホームルームはとっくに終了。結局遅刻扱いにされている。
 と、授業が始まるまでだけでこの調子。
 授業が始まったら始まったで、全時限で先生に当てられ、休み時間に自販機に向えば総て売り切れ、
昼に購買に行けば買ったパンが踏み潰される。廊下に出れば校内キャッチボールの流れ弾が直撃し、
跳ね返ったボールで壊れたスプリンクラーでびしょ濡れになる。などなど。
 クラスメイトから、「あいつを置いとけば不幸避けになる」と、避雷針代わりに重宝される不幸体質は伊達ではない。

 そんな風に、何時もどおりの一日を過ごした放課後、上条当麻はグデーッと机に突っ伏していた。
 唯一の御洒落ポイントである黒いツンツンヘアも心なしかしんなりしている様に見える。
 気力体力共に限界値ギリギリの上条としては、こうやって多少なりとも身体を休めて体力を回復したいところだが、
 神様とやらはどうあっても上条当麻を休ませる気はないようだ。

「なぁなぁ、カミやん。
 お疲れのとこ悪いけんやけど、ちょこっとこれ見てくれる?」


 悪いと思ってるんなら、休ませろコラ。
 と声の主に半眼をぶつける上条だったが、エセ関西弁を操る青髪ピアスの大男は、何処吹く風と手に持っているチラシを突きつけてくる。

(ん~。なになに………、学食メニュー決定戦? イベントのチラシか?)

 口を開く気力も無いのか、ナニコレ? と視線だけで問い返す。

「今度、光陵学園でやるらしいねん。一緒に行く?」
「………。思いっきり他所の学校じゃねぇか。部外者が行って良いのか?」
「そんなん勿論―――」

 満面の笑顔で頷き返す、青髪ピアス、

「―――不法侵入に決まってるやん」
「ヤメロ馬鹿」

 上条のツッコミ魂が、疲労を駆逐した。

「そういや、てめぇこないだも他所の学校(まじしゃんずあかでみぃ)に忍び込もうとして捕まってただろうが。
 しかも無理矢理巻き込んだ俺を囮にしやがって。今度やったらホントに極生に酷い目に合わされるぞ」
「見損なったでカミやん!! 光陵学園いうたらエルフ耳の巨乳校長、歌って踊れる魔法少女とか二次元記号満載の楽園(シャングリラ)やんか!!
 寧ろオタクの聖地(エリュシオン)言うても過言やない!!
 それを極上生徒会(ゴクセー)恐いからって諦めてしまうなんて、貴様それでも二次元戦士か!!
 修正したる!!」
「こないだも似たようなこと言ってとっ捕まったんじゃねぇか!!
 ちったぁ学習しろってか涙流しながら詰め寄るな鬱陶しい!!」


 拳を握る一八〇越えの大男、青髪ピアス。既に鬱陶しいを通り越して暑苦しい。
 上条と押し合い圧し合いを繰り広げる横から、別の声が降ってくる。

「にゃー。楽しそうだなぁカミやん」
「おお、土御門いいところに。
 この馬鹿止めるの手伝ってくれたら、上条さん的支持率が一万八千は上がります事よ」
「あ、小豆相場より激しい変動ぜよ……」

 この世界の住人の常として奇妙な口調なのは兎も角、大の男がにゃーにゃー猫なで声を出すのは背筋が寒くなるが、背に腹は変えられないと言うか、青髪ピアスな大男に迫られるよりは十分ましである。
 モテたいがために、金髪アロハにサングラスという不良ファッションに身を包んだ土御門元春は、

「で、カミやんは行かないのかにゃー?」
「えっ!? なに!? オマエも光陵行くの!? 何時も舞夏に飯作って貰ってるくせに!?」
「何時もじゃないぜよ。最近は三日に一度ぐらいだにゃー。
 って、そんなコトはどうでも良くて。あの学校にはエルフがいるからにゃー、ツルペタばんざい」

 シスコンでロリコンと言う(本人否定)ひたすらに濃ゆい隣人なのだ。
 ガクッ。と脱力した上条は、殆ど反射的に絶叫する。

「結局ソレかっ!?」
「お前は何でもかんでもつるつるのぺったんこにしやがって、エルフさん言うたら妖艶な大人キャラ一択やろが!!」
「にゃー、青ピ、それは妄想力が貧困ぜよ。
 トールキン発、ソードワールド経由のステレオタイプに縛られるなんてまだまだ甘いにゃー。ビバひんにゅー」

 なにをう。と、焼け石にガソリンをぶっ掛けたように空気が加熱。
 鉄板を置けば一人でに熱を持ち、目玉焼きぐらい作れそうな程の議論は、際限なく輪と大風呂敷を展開する。
 今までと変わらない馬鹿な会話。そのうち殴り合いにまで発展して、キレた吹寄制理にどつき回されるだろう。
 少し前までなら単に二次元の話だったエルフだのなんだのは、しかし現在では、事実リアルな話題だった。
 原因不明の多重次元融合現象。ソレも学校施設だけをピンポイントに繋げる異常事態が起こった結果、
二次元と、ファンタジー、オカルトと呼ばれていた事象を含んだ世界の存在が確認されるに至った。
 そんな異常事態に、科学バンザイな学園都市の生徒たちは当初戸惑ったものの、もともと超能力という不思議に身近に触れていることや、
発達段階の子供ならではの適応性の高さゆえに、一週間、二週間と過ぎる内に次第に順応して行き、今では1+1=2が当然であるのと同様、
当たり前のことと受け入れていた。
 どれくらい、受け入れられているのかといえば、

「あのなぁ、エルフ=ひんにゅーって公式こそソードワールドのスタンダードだろ。
 だったら俺は巨乳エルフを推すね。そして性格属性は面倒見のいいお姉さん。これ上条的マイフェイバリット」
「ソレも既に通った道だにゃー。先人に敬意を表すのは結構だが、萌属性に関してそれは足踏みと変わらないにゃー」

 などという二次元会話が、

「貴様、上条当麻!! いい加減にしときなさい!!
 立派にセクシャル・ハラスメントよ、それ!」

 本気で、嫌がらせ(セクハラ)認定されるぐらいだ。

 かくして、クラスの三バカ(デルタフォース)こと、上条、土御門、青髪ピアスは、クラスの半分の支持を受けた吹寄制理によって、K.O.される。
 後に残ったのは、死屍累々と転がる三バカと、肩をいからせる吹寄に、惜しみなく注がれる主に女子方面からの拍手喝采であった。


行間 一


 大気を震わせる雄叫びは、そのまま世界を揺らす呪文となって顕現する。
 開いた口のその奥にわだかまる闇。
 闇が固まり刃となり、彼に向って飛来する。

 冥属性攻撃魔法<ダークブレイド>。

 闇の刃を放ったのは、山羊頭人身の怪物。裏界に住まう悪鬼の一種。レッサーデーモン。
 侵魔としては下級に分類されるが、人間との実力差は明白。決して嘗めて掛かっていい相手ではない。
 しかし、それでも彼の相手をするには、力不足であることは否定できない。

 男が手にする刃が、光に包まれる。ルーンが発光し浮かび上がる力ある文字。
 込められた魔力が、闇色の刃を文字通りに霧散させる。

「はっ、こんなもんで俺をやろうだなんて、ちぃいっとばかし考えが甘いんじゃねぇのか?」

 こうして、攻撃を防がれるのは何度目か。
 そうして、何匹の同種が眼前で屠られたのだろう。

 全長約二メートルに及ぼうかという、巨大な刃。
 端から端まで刀身を備え、下から三分の一ほどのところに柄が備わっている奇妙な構造。
 インテークやダクト、ノズルの様な奇妙な部品を取り付けた、剣というカテゴリからは余りに外れていて、
 しかし大別、剣としか表現の仕様の無い『武器』。
 ウィッチブレードという、科学魔術相半ばの白兵戦用戦闘箒。
 それを、軽々と振り回す、男。

 彼の名は柊蓮司。
 元の世界でも、そしてこの世界においても名を知らぬものなどいない、ウィザードだ。

 勿論、裏界の住人たちの間にもその名は知れ渡っている。
 それは現在彼らと相対している下級侵魔も例外ではない。後にマジカルウォーフェアと呼ばれる魔人間戦争の当初から、最終決戦までを戦いぬいた、ベテランウィザード。
 侵魔と人の間に在る、狩猟者と被狩猟者の関係は、今この場においては逆転している。
 下級とは言え、『彼』も侵魔の端くれ、たかが人間に上を行かれることに屈辱を感じないわけではない。しかし―――、

 そして柊は間合いを詰める。
 二メートル超の凶器は、だらりと無造作に下げられている。
 拳を握り、デーモンは腕を振り上げる。

「此処はテメェらの来るところじゃねぇ。
 とっとと巣穴に戻りやがれ」

 倒れこむように、最後の間合いが侵略される。
 振るわれるデーモンの拳を、膝を撓め重心を落とす勢いで加速し前進。結果、回避。
 虚しくも空を切る魔の豪腕。しかしウィザードの動きは止まらない。
 ゼロからトップスピードに乗った勢いで、突き出す刃を加速、ノズルからの噴射で更に加速。

 巨大な刃が、侵魔の腹を貫通する。
 背中から飛び出す刀身。力を失い、倒れこむまえに身体が虚空に霧散する。
 今際の際で、己がどんな表情を浮かべているのか、『彼』は見えずとも確信していた。


 * * *


 最後の侵魔が消滅し、続いて何も現れないことを確認して、柊蓮司は息をついた。
 どうやら、無事に退治できたらしい。

 此処、学園世界には時々侵略者が現れることがある。
 今回は侵魔の群だったが、裏界の住人に限らず、様々な敵が発生し、襲い掛かってくる。
 何故彼らが現れるのか、詳しいところは何も解らないが、それでも黙っているわけには行かない。
 現在の柊は、それらを退ける役目を請け負っている。敵が居住区に入り込む前に、水際で叩きのめす。
 勿論、柊だけではなく様々な能力者がこの世界と住人を護る為に戦っていた。

 近づいてくる足音の主もその一人。
 こつこつ、とローファーが地面を打つ音は、割と耳に馴染んだもの。

「お疲れ、柊。
 こっちも終わったわよ」

 声の主は、紺系チェック柄のプリーツスカートと、ベージュ色のブレザーを着こなした少女。
 彼女の名は、御坂美琴。
 学園都市のサイキッカーたちの中で、序列三位に列せられる超能力者(レベル5)。
 淡い褐色の髪に褐色の瞳が健康的な、お嬢様らしからぬお嬢様である。

「お疲れさん。
 大丈夫だったか」
「大丈夫よ。
 あの程度の連中ならどれだけ出てこようと恐くないわ」

 柊の言葉に、美琴は快活に笑う。
 学園都市で最高位の電撃使い(エレクトロマスター)には、下級侵魔の相手は役不足だったようだ。

「柊って割りと心配性よね」
「当然だろ、一応俺は社会人(オトナ)だからな」
「の、割には制服(そんな服)着てるけどね」
「うるせぇ!! 好きで着てるわけじゃねぇ!!」

 思わず怒鳴るブレザーな柊。きゃーっ! と、美琴は楽しそうな悲鳴をあげる。
 そのタイミングで、柊の懐から軽快なメロディーが流れ出す。
 0-Phoneの着信音。
 美琴に向って何か言いたげだった柊だったが、無視することも出来ずに携帯のフリップを開く。

『お疲れ様でした、柊さん、御坂さん』

 電話の向こうから聞こえてくるのは、こういったときにオペレーターをかって出てくれる少女の声だ。
「お疲れ、初春」
『とりあえず監視エリア内の敵性反応はすべて消滅を確認しました。
 何体か取り逃がしたようですが、問題になるほどではないと思いますよ。
 後は、帰ってきて報告書をまとめてもらうだけですね』
 報告書という響きに「うげぇ」と、柊が呻けば、「もう代理人を用意してます」と、電話口から返って来た。
「しっかし、なんだってあんな小物ばっかりが群れてたのかしらね。
 例えば動物でアレだけの群れだったら、統率する親玉が居てもおかしくないのに」
『いえいえ、そうでも無いんですよ。
 レーダーを見ていた限りでは、さっきのエネミーたち、御坂さんたちが接触した瞬間、数体を遠くに配置して、残りが防衛線みたいなのを築きましたからね』

 何気ない美琴の呟きに、電話の声が反応する。
『一応、撤退戦らしきことをやろうとしていたようなんですが、こっちの攻撃力で壁を崩して、あらかた食い尽くしちゃった感じですね』
「ま、攻撃力が取り得の魔剣使いと超電磁砲だからね」
 と、美琴が返答したところで、先ほどから何も言わない柊に視線を向ける。
「? どうしたの柊。なんか気になることでも在るの?」
 彼は、美琴に視線を合わすと
「いや、俺が最後に斬った奴。なんか、嗤ってたんだよ」
 ウィッチブレードを突き刺して、消滅するまでの数秒で、あのデーモンは、確かに笑みを浮かべていたと思う。
 それも、此方を蔑むような、気分の悪い笑みを。
「『嗤ってた?』」
 電話と美琴の声がシンクロする。
 侵魔が、人間に倒されるとき、大抵悔しそうな表情を浮かべるのだ。
 奴らからすれば、人間はエサでしかないのだから、そちらの方が自然といえる。
 その状況で嗤っていたとなれば、それは

「もしかしたら、俺たちは奴らを追っ払ったんじゃなくて―――、
 まんまと、逃げられたのかもしれねぇな」

 沈黙が落ちた。

 逃げられた。
 追い散らしたのではなく、群の殆どを斃すことに時間を割いている内に、重要な存在を逃がされた。
 勿論、今の段階では仮説でしかない。
 仮説でしかないのだが、もしそうだとすれば、事態は何も解決していないことになる。
 それに、たかが人間相手に侵魔がそこまでして逃がさなければ成らないものとは、一体―――。

『と、兎に角。二人とも一度戻ってきてください!
 詳しいことはまた後ほど、みんなで話し合いましょう』

 電話の向うからも、落ち着かない声音が届く。
 「おう」/「わかったわ」と、肯定の意を返し、帰路につく柊と美琴。

 魔剣使いと超電磁砲の内心には、表現の仕様の無い、嫌な感覚が渦巻いていた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー