第二章 遁走逃走 _ran_ran_ran_
1
「ああああああああああああああああっ!!!」
日の暮れた学園都市に、上条当麻の絶叫が木霊する。
日の暮れた学園都市に、上条当麻の絶叫が木霊する。
「何ですか何なんですか一体!! ねぇ神様なんか上条さんが悪い事したんでしょうか!!
理不尽だよありえねぇよ、何で俺の周りにはこんな物騒な連中しか集まらないんですか!!
そこんとこ原稿用紙にまとめて今すぐ顕現して教えやがれバカヤローォオオオオ!!!!」
理不尽だよありえねぇよ、何で俺の周りにはこんな物騒な連中しか集まらないんですか!!
そこんとこ原稿用紙にまとめて今すぐ顕現して教えやがれバカヤローォオオオオ!!!!」
全力疾走中に大声を出すなど、科学的には褒められたことではない。
その証拠に、上条の疾走スピードは、絶叫前と絶叫後では確実に落ちていた。
それを見て取った後ろの連中が、いきり立って速度を上げる。
その証拠に、上条の疾走スピードは、絶叫前と絶叫後では確実に落ちていた。
それを見て取った後ろの連中が、いきり立って速度を上げる。
「お待ちになってください、そこの少年。我々は貴方に先日のお礼がしたいだけなのです。
一生懸命動かしているその足をお止めになって、どうか我々と同行してください。
でないと非常に困ったことになりますよ」
一生懸命動かしているその足をお止めになって、どうか我々と同行してください。
でないと非常に困ったことになりますよ」
と、言う意味の日本語を、ひたすらにガラの悪い似非関西風口調で吐き散らすのは、先ほどから上条を追いかけている男たちである。
ひーふーみーよー……、全部で八人。まるで計ったかのように、おそろいの革ジャンとレザーパンツにパンクなブーツで決めた集団。
勿論色は黒で統一。
とある世紀末でバギーを乗り回しているような、頭がモヒカンでないのが不思議なぐらいな集団。
誰が何処から見ても即答する、『典型的な不良』ども。
革ジャンやズボンのあちこちにリベットを打っている辺り、もはやウケを狙っているのだろう。と、上条は思う。
ひーふーみーよー……、全部で八人。まるで計ったかのように、おそろいの革ジャンとレザーパンツにパンクなブーツで決めた集団。
勿論色は黒で統一。
とある世紀末でバギーを乗り回しているような、頭がモヒカンでないのが不思議なぐらいな集団。
誰が何処から見ても即答する、『典型的な不良』ども。
革ジャンやズボンのあちこちにリベットを打っている辺り、もはやウケを狙っているのだろう。と、上条は思う。
「あなたの逃げ足の速さは良く分かったので、いい加減観念してください」
教養を感じさせない顔が、そんなニュアンスの絶叫を放った。
「うるっせぇ!! ボコボコにされないだけマシと思え、このIQ80(サル並)野郎ども!!」
言い返した上条は非常に強烈な既視感を覚えたが、そんなものは錯覚である。
二度の絶叫で格段に落ちたスピードを引き上げる。
二度の絶叫で格段に落ちたスピードを引き上げる。
(ちぃいっくしょう!!! 不幸だぁああああ!!!)
恨み心髄な『初対面の不良』どもに追いかけられて、上条当麻は走り続ける。
事の発端は、一時間ほど前に遡る。
上条当麻は不幸な人間だ。
今日も朝から理不尽な目に遭い、何とか学校生活を乗り切ったかと思えば、
悪友と一緒くたに仕切屋おでこ娘(吹寄制理のこと。ベアナックルなものだけを指す)にどつき倒され。
「セクハラや無い、純粋な美ぃに対する評価や――プゲラっ」
などと、余計なことを言って更に殴られた青ピのとばっちりを受けて、再度強烈な頭突きをもらったのだ。
今日も朝から理不尽な目に遭い、何とか学校生活を乗り切ったかと思えば、
悪友と一緒くたに仕切屋おでこ娘(吹寄制理のこと。ベアナックルなものだけを指す)にどつき倒され。
「セクハラや無い、純粋な美ぃに対する評価や――プゲラっ」
などと、余計なことを言って更に殴られた青ピのとばっちりを受けて、再度強烈な頭突きをもらったのだ。
そんなこんなの後、家路に付いた上条だったが、学生寮に戻る前に買い物だけでもしておこう。
と、ちょっと離れた場所にある、業務用スーパーに足を向けたのが、更なる不幸への足がかりだったのかもしれない。
と、ちょっと離れた場所にある、業務用スーパーに足を向けたのが、更なる不幸への足がかりだったのかもしれない。
上条当麻が通う学校は、東京の西を丸ごと開発した学園都市の中でも、南の方に存在する。
これは、中学校や高等学校が多く存在する第七学区が学園都市の中央やや南よりに在り、上条の高校が、その第七学区の南の方に敷地を確保しているからだ。
目的地の業務用スーパーは、学園都市の中央北東よりの、第四学区に存在した。
第四学区は食品関連の施設(レストラン)が多数立ち並び、ブロックごとに違う文化圏の料理屋が営業している、此処だけで世界中の料理が味わえるという触れ込みの街だ。
そして、多重次元融合現象が発生している現在、学園都市にやってきた他所の学生たちが、最も集まる学区である。故に、他の学生とのトラブルが最も発生し易い地区でもある。
これは、中学校や高等学校が多く存在する第七学区が学園都市の中央やや南よりに在り、上条の高校が、その第七学区の南の方に敷地を確保しているからだ。
目的地の業務用スーパーは、学園都市の中央北東よりの、第四学区に存在した。
第四学区は食品関連の施設(レストラン)が多数立ち並び、ブロックごとに違う文化圏の料理屋が営業している、此処だけで世界中の料理が味わえるという触れ込みの街だ。
そして、多重次元融合現象が発生している現在、学園都市にやってきた他所の学生たちが、最も集まる学区である。故に、他の学生とのトラブルが最も発生し易い地区でもある。
上条が遭遇したのもそういった類のトラブルだった。
いかにも柄の悪そうな連中が、見慣れない制服を着た女子学生に絡んでいる。
その場を穏便に済ませようと、知り合いを装って間に割り込めば、空気読み(エアリード)機能がエラッタかの様な天然の受け答えで、目論見は見事に失敗。
仕方がないので不良に一言物申そうとすれば、そのうち一人が上条の顔を見て「どっかで見たことがあるような」と洩らし、それが一気に伝播して、「テメェあんときの!!」と集団で襲い掛かってきた。しかし、上条は彼らに見覚えが無い。
それは、とある事情で上条当麻が高校一年生の夏休み以前の記憶を失っているからなのだが。
それはともかく不良どもの顔に見覚えが在ろうとなかろうと、数で負けている喧嘩など、出来たものでは無い。
それなりに喧嘩慣れしている上条だが、一対三以上の戦力比で、正面から立ち向かうほど強くはないし、オロカでも無い。
一応超能力開発施設の学生らしく、右手には奇妙な力が宿っているが、こんな状況で役に立つものでも無い。
無い無い尽くしに明け暮れて、上条の作戦が逃亡になったのも当然な流れである。
その場を穏便に済ませようと、知り合いを装って間に割り込めば、空気読み(エアリード)機能がエラッタかの様な天然の受け答えで、目論見は見事に失敗。
仕方がないので不良に一言物申そうとすれば、そのうち一人が上条の顔を見て「どっかで見たことがあるような」と洩らし、それが一気に伝播して、「テメェあんときの!!」と集団で襲い掛かってきた。しかし、上条は彼らに見覚えが無い。
それは、とある事情で上条当麻が高校一年生の夏休み以前の記憶を失っているからなのだが。
それはともかく不良どもの顔に見覚えが在ろうとなかろうと、数で負けている喧嘩など、出来たものでは無い。
それなりに喧嘩慣れしている上条だが、一対三以上の戦力比で、正面から立ち向かうほど強くはないし、オロカでも無い。
一応超能力開発施設の学生らしく、右手には奇妙な力が宿っているが、こんな状況で役に立つものでも無い。
無い無い尽くしに明け暮れて、上条の作戦が逃亡になったのも当然な流れである。
かくして、敵に追いつかれず、また引き離さないように相手が疲れて諦めるよう仕向ける、地獄の持久走(サドンデス)が始まったのだった。
2
持久走が始まって、そろそろ時計の針が一回転する頃合。
第四学区の風景は、とっくの昔に背後に追いやられ、今は妙に寂れた光景が広がっている。
人通りが全く無い、割れた街灯が明滅を繰り返す道を、上条は駆け抜け、後ろを振り返る。
と、その足をとめた。上条の後をついてきた足音がなくなっていたのだ。
第四学区の風景は、とっくの昔に背後に追いやられ、今は妙に寂れた光景が広がっている。
人通りが全く無い、割れた街灯が明滅を繰り返す道を、上条は駆け抜け、後ろを振り返る。
と、その足をとめた。上条の後をついてきた足音がなくなっていたのだ。
「はぁ、はぁ、やっと撒いたか」
両手をひざに置いて荒い息をつく。
ぐるりと頭をめぐらせて見れば、随分と寂しい景色が目にとまる。
追いかけっこに夢中になっているうちに、第四学区を通り抜けて別の学区に入ってしまったようだ。
前時代的な風景から推察するに、学園都市の北東の端、第十九学区だろう。この辺りは開発に失敗して、急速に寂れてしまったと聞いたことがある。
ペタンと、へたり込みそうな衝動を堪えて大きく息を吸った。すえた臭いが鼻を突いたが、加熱した肺に夜気が心地好かった。
ぐるりと頭をめぐらせて見れば、随分と寂しい景色が目にとまる。
追いかけっこに夢中になっているうちに、第四学区を通り抜けて別の学区に入ってしまったようだ。
前時代的な風景から推察するに、学園都市の北東の端、第十九学区だろう。この辺りは開発に失敗して、急速に寂れてしまったと聞いたことがある。
ペタンと、へたり込みそうな衝動を堪えて大きく息を吸った。すえた臭いが鼻を突いたが、加熱した肺に夜気が心地好かった。
「あ、やっと見つけた」
上条が走ってきた方向、五メートルほど向こうから声が届く。
ギクリ。と、上条の身体が硬直する。この状況に、ひたすらに既視感を覚えるが、それは間違いなく錯覚だろう。
ギクリ。と、上条の身体が硬直する。この状況に、ひたすらに既視感を覚えるが、それは間違いなく錯覚だろう。
声の発生点には、一人の女の子が立っていた。
紫を基調に襟と袖に白を配色した品のいいブレザーに、まるで黒い布を巻きつけたかのような指貫グローブと、ニーハイソックス。
ミディアムカットのアッシュブロンドは、僅かな星の光を照り返し、此方を見詰める瞳はダークゴールドに濡れている。
紫を基調に襟と袖に白を配色した品のいいブレザーに、まるで黒い布を巻きつけたかのような指貫グローブと、ニーハイソックス。
ミディアムカットのアッシュブロンドは、僅かな星の光を照り返し、此方を見詰める瞳はダークゴールドに濡れている。
街を歩けば、すれ違う男共が誰でも振り返るような、そんな美少女。
「良かった。私の所為で怪我させてたら、どうしようかとおもった」
夜の闇の中で、柔らかな笑みを浮かべる。
それは間違いなく、第四学区で不良どもに囲まれていた、異世界の生徒。私立輝明学園の女子生徒だった。
ふんわりと、春風のような笑みを浮かべる少女に、上条は、
それは間違いなく、第四学区で不良どもに囲まれていた、異世界の生徒。私立輝明学園の女子生徒だった。
ふんわりと、春風のような笑みを浮かべる少女に、上条は、
「あの、つかぬ事をお聞きしますが、わたくしの後ろを走ってた連中はどうしたのでせう?」
「え? 眠って、貰ったけど」
「え? 眠って、貰ったけど」
どうしてそんな事を聞くの? と首を傾げる少女に、
「やっぱりかぁあああああ!!」
頭を抱えて絶叫した。
上条当麻が、わざわざ地獄の持久走を行ったのは、この少女ではなく、寧ろあの不良たちを護る為といった意味合いが強い。
その訳は、彼女がまとう制服に在る。
私立輝明学園の女子用制服。
学園都市が超能力者を開発する為の組織だとしたら、輝明学園は『ウィザード』という魔術師を養成する為の機関だ。
そして上条の経験上、『魔術師』とか言う連中には、素人相手でも決して手を抜かない弾け野郎ばかりが集まっている。
具体的には似非神父とか似非神父とか似非神父とか。
そんな奴に、この街の不良―――『開発(カリキュラム)』から零れ落ちた『不良』能力者が、束になっても勝てるとは、上条には思えなかった。
その訳は、彼女がまとう制服に在る。
私立輝明学園の女子用制服。
学園都市が超能力者を開発する為の組織だとしたら、輝明学園は『ウィザード』という魔術師を養成する為の機関だ。
そして上条の経験上、『魔術師』とか言う連中には、素人相手でも決して手を抜かない弾け野郎ばかりが集まっている。
具体的には似非神父とか似非神父とか似非神父とか。
そんな奴に、この街の不良―――『開発(カリキュラム)』から零れ落ちた『不良』能力者が、束になっても勝てるとは、上条には思えなかった。
九割九分九厘間違いなく。起こるのはきっと惨劇。
それを回避する為に、一時間も楽しくもない追いかけっこ(サドンデス)を繰り広げた。
だというのに、結局のところ彼らが倒されて終わったとなれば、徒労感があふれ出るのも仕方あるまい。
それを回避する為に、一時間も楽しくもない追いかけっこ(サドンデス)を繰り広げた。
だというのに、結局のところ彼らが倒されて終わったとなれば、徒労感があふれ出るのも仕方あるまい。
「ふ、不幸だ………」
「あの、その、ごめんなさい………でも、あの、酷い怪我とかは、させてないから」
「あの、その、ごめんなさい………でも、あの、酷い怪我とかは、させてないから」
文字通り、魔法で『睡眠』(ねむ)ってもらっただけだと、少女は言った。
「あー、それなら、まぁ―――。
自業自得といえば自業自得だからな………」
自業自得といえば自業自得だからな………」
上条は溜息一つ。大きく背伸びをする。
「まぁ、アンタも怪我とか無いようだし、それで良しとしねぇとな」
「―――実を言うとね、困ってたの。ナンパされるの(あんな事)初めてだったから」
「―――実を言うとね、困ってたの。ナンパされるの(あんな事)初めてだったから」
そう言って、彼女は恥ずかしそうに小さく微笑んだ。
「……ありがとう。あなたって、優しいのね」
「(そんなコト言われると、純情少年の上条さんは照れてしまいます)
って、そうだ、あんた時間大丈夫か? もうそろそろ最終下校時刻を越えるだろうから、ゲート閉まっちまうぞ?」
「(そんなコト言われると、純情少年の上条さんは照れてしまいます)
って、そうだ、あんた時間大丈夫か? もうそろそろ最終下校時刻を越えるだろうから、ゲート閉まっちまうぞ?」
時計を見ずとも、既に紫紺を通り越して昏蒼に近づいている空から、結構やばい時間だという事は見当が付く。
一部施設を除いて、学園都市は他所の学生に解放されているとはいえ、最終下校時間までには居住地に戻っている事が原則だ。
そして、街を出入りする為のゲートは、第十一学区。此処から結構離れている。
一部施設を除いて、学園都市は他所の学生に解放されているとはいえ、最終下校時間までには居住地に戻っている事が原則だ。
そして、街を出入りする為のゲートは、第十一学区。此処から結構離れている。
このままじゃ、帰れなくなるのではないかと、上条は懸念した。
それに対して、しかし少女は相変わらずの柔らかな笑みで、
それに対して、しかし少女は相変わらずの柔らかな笑みで、
「大丈夫。今日は学園都市に泊まるつもりだから。
ちゃんと、ゲートのところの警備員(アンチスキル)さんに、そう言ってるの」
「そうなのか? あ、でも、何処の学区のホテルか知らないけど、今の時間からじゃ、チェックインは難しくないか?」
「大丈夫。一緒に来た友達が、部屋を取ってくれてるはずだから。
心配してくれて、ありがとう」
ちゃんと、ゲートのところの警備員(アンチスキル)さんに、そう言ってるの」
「そうなのか? あ、でも、何処の学区のホテルか知らないけど、今の時間からじゃ、チェックインは難しくないか?」
「大丈夫。一緒に来た友達が、部屋を取ってくれてるはずだから。
心配してくれて、ありがとう」
そう言うと一言、さよならを告げて、踵を返して進みだす。
こつこつと、幾らか進んだところで、ふと、彼女は立ち止まった。
そこで、くるりと半回転して、かつかつと少々早足で戻ってくる。
そうして上条の目の前で止ると、もじもじと上目遣いで覗き込んできた。
「?」
疑問符を浮かべ、首を傾げる上条の仕草に、彼女は頬を染め、意を決した様に、
こつこつと、幾らか進んだところで、ふと、彼女は立ち止まった。
そこで、くるりと半回転して、かつかつと少々早足で戻ってくる。
そうして上条の目の前で止ると、もじもじと上目遣いで覗き込んできた。
「?」
疑問符を浮かべ、首を傾げる上条の仕草に、彼女は頬を染め、意を決した様に、
「あの、第六学区って……どっち?」
上条は、耐え切れずに吹き出した。
「わ、笑わないでよ………」
羞恥で頬を赤くし、少女は上目遣いに上条を睨む。
迫力不足だが、む~っ。と、唸る姿にゴメンゴメンと手を振って
迫力不足だが、む~っ。と、唸る姿にゴメンゴメンと手を振って
「送ってくよ。第六学区の、なんてホテル?」
「―――パラス、アテネ……」
「うわ、一流の高級ホテルじゃネェか」
俺なんか一生縁が無いとこだぞこん畜生。
ボソリとした呟きは、彼女の耳に入らなかったようで、
「でも、良いの? 最終下校時刻なんでしょ?」
「まぁ、良くは無いんだろうけど。
学園都市で、他所の学生さんがなんか事件に巻き込まれるってのも、アレだしな。
そういう事なら警備員(アンチスキル)も解ってくれるだろうさ」
「―――パラス、アテネ……」
「うわ、一流の高級ホテルじゃネェか」
俺なんか一生縁が無いとこだぞこん畜生。
ボソリとした呟きは、彼女の耳に入らなかったようで、
「でも、良いの? 最終下校時刻なんでしょ?」
「まぁ、良くは無いんだろうけど。
学園都市で、他所の学生さんがなんか事件に巻き込まれるってのも、アレだしな。
そういう事なら警備員(アンチスキル)も解ってくれるだろうさ」
ほら、行くぞ。
と、上条は歩を進める。
わ、わ。
と、少女は慌ててその後を着いて行く。
と、上条は歩を進める。
わ、わ。
と、少女は慌ててその後を着いて行く。
「あ、そうだ。自己紹介がまだだったな。
俺は、上条当麻。アンタは?」
俺は、上条当麻。アンタは?」
差し出される右手。
彼女はその手を握り返し、
彼女はその手を握り返し、
「私は、アゼル。
よろしく、上条君」
よろしく、上条君」
バキン。と、何かが壊れる音と共に、周囲に荷物をぶちまけた。
因みに、二人がその場を後にするまで、それから10分ほどかかったという。
3
ナイトウィザードと呼ばれる『魔法使い』達は、常に『月衣』という個人結界をまとっているらしい。
それは、空間断層とでも言うべきもので、無制限にではないが、様々な荷物を収納する事が出来る。
他にも、物理衝撃などの常識的なダメージを極限にまで抑えたり、空を飛んだりなど様々な機能を持つという。
更に付け加えるなら、と言うより、寧ろ此方の方が重要な機能なのだが、『常識』を遮断し、『非常識の存在』であるウィザードなどを、世界結界の修正から護る能力もあるらしい。
この辺りの事は、異世界人の上条にはよく解らない。
何でも第八世界という彼らの地球は、世界結界という『その時代の常識を決定し、非常識な物を排除する』結界で覆われているらしく、『魔法使い』のような非常識な存在は、本当ならば存在できないようだ。
それは、空間断層とでも言うべきもので、無制限にではないが、様々な荷物を収納する事が出来る。
他にも、物理衝撃などの常識的なダメージを極限にまで抑えたり、空を飛んだりなど様々な機能を持つという。
更に付け加えるなら、と言うより、寧ろ此方の方が重要な機能なのだが、『常識』を遮断し、『非常識の存在』であるウィザードなどを、世界結界の修正から護る能力もあるらしい。
この辺りの事は、異世界人の上条にはよく解らない。
何でも第八世界という彼らの地球は、世界結界という『その時代の常識を決定し、非常識な物を排除する』結界で覆われているらしく、『魔法使い』のような非常識な存在は、本当ならば存在できないようだ。
しかし、現実にウィザードは存在する。
それを可能にする裏技が『月衣』。世界の真実を知ってしまった者の、紛れも無い異能の力だ。
そして上条当麻の右手には、特殊な力が宿っている。
それが異能の力であるのなら、たとえ神の奇跡であっても否定する異能(チカラ)。第八世界の結界と同じように、非常識を排除する右手。
それを可能にする裏技が『月衣』。世界の真実を知ってしまった者の、紛れも無い異能の力だ。
そして上条当麻の右手には、特殊な力が宿っている。
それが異能の力であるのなら、たとえ神の奇跡であっても否定する異能(チカラ)。第八世界の結界と同じように、非常識を排除する右手。
などという会話が、自分の月衣を壊されたことに、しきりに首を傾げるアゼルと上条の間で交わされていた。
「―――だったらその右手は、
仮令どれだけ強力な魔法でも、どれだけ忌まわしいチカラでも、触れるだけで打ち消せるんだ……。
―――凄いのね」
「そうでも無ぇよ。
効果があるのは手首から先だけだから、応用は効かない。
異能の力に触れなければ発動しないから、学園都市の身体検査(システムスキャン)じゃ、無能力(レベル0)判定しか出ない。
恋人ができるわけでも、テストで百点をとれるわけでも無い。
無い無い尽くしで、有難味は薄いなぁ」
仮令どれだけ強力な魔法でも、どれだけ忌まわしいチカラでも、触れるだけで打ち消せるんだ……。
―――凄いのね」
「そうでも無ぇよ。
効果があるのは手首から先だけだから、応用は効かない。
異能の力に触れなければ発動しないから、学園都市の身体検査(システムスキャン)じゃ、無能力(レベル0)判定しか出ない。
恋人ができるわけでも、テストで百点をとれるわけでも無い。
無い無い尽くしで、有難味は薄いなぁ」
夜の空には丸い月。
第六学区は、学園都市のアミューズメントが集中した地区だ。全体的に浮世離れした雰囲気のなかに、少々毛色の違う建物が一棟。その白い建物が二人の目に入った。
『ホテル パラスアテネ』
少々場所にそぐわない、高級観光ホテル。
その豪奢かつハイセンスな造りに、根っこの方から枝葉の先端まで、これ以上ないほどに庶民な上条当麻は、ストロボフラッシュを直視したように仰け反った。
第六学区は、学園都市のアミューズメントが集中した地区だ。全体的に浮世離れした雰囲気のなかに、少々毛色の違う建物が一棟。その白い建物が二人の目に入った。
『ホテル パラスアテネ』
少々場所にそぐわない、高級観光ホテル。
その豪奢かつハイセンスな造りに、根っこの方から枝葉の先端まで、これ以上ないほどに庶民な上条当麻は、ストロボフラッシュを直視したように仰け反った。
「くわぁー!! 金持ち趣味丸出しなクセに何ですかこの嫌味のなさは!!
駄目だ直視できない、ココの敷居は上条さんには高すぎる!!」
駄目だ直視できない、ココの敷居は上条さんには高すぎる!!」
ホテルの前で頭を抱えて奇声をあげる上条を、戸惑った瞳で追うアゼル。
「あの、上条君?」
「ん? なんだ?」
「ん? なんだ?」
さっきまでの、異様なテンションが嘘のように、素に戻った上条。
アゼルはそんな彼に、一瞬なんだか得体の知れないものを見るような視線を向けたが、すぐに引っ込めて、柔らかな笑みを浮かべる。
アゼルはそんな彼に、一瞬なんだか得体の知れないものを見るような視線を向けたが、すぐに引っ込めて、柔らかな笑みを浮かべる。
「上条君。本当に、色々ありがとう」
「気にすんなよ。じゃあな」
「気にすんなよ。じゃあな」
エントランスの前で頭を下げるアゼルに手を振って、その場を後にする上条。
いいことしたなと、満足に浸って、家路に向う。
いいことしたなと、満足に浸って、家路に向う。
(しっかし、こんなラブコメじみたイベントが上条さんに起こるとは、世の中侮れませんなぁ……)
こんな幸運が自分に訪れる事など、統計学的に言ってありえないのだ。今までの経験則からすれば、このイベントは壊滅的な不幸へのフラグでなくてはならない。
一時間の徒労は精神に来るものがあったが、それもさっきの代償だと思えば、納得できないわけでも無い。
唯一残念なのは業務用スーパーの特売を逃した事ぐらいだが、それで明日にでも餓え死ぬという事は無い。
まぁ、今朝方の騒動で腹ペコシスターに冷蔵庫の中身は食い尽くされているから、明日は空きっ腹で登校する事になりそうだが、
一時間の徒労は精神に来るものがあったが、それもさっきの代償だと思えば、納得できないわけでも無い。
唯一残念なのは業務用スーパーの特売を逃した事ぐらいだが、それで明日にでも餓え死ぬという事は無い。
まぁ、今朝方の騒動で腹ペコシスターに冷蔵庫の中身は食い尽くされているから、明日は空きっ腹で登校する事になりそうだが、
(ん? ちょっと待て―――)
何かが意識の端に引っかかった。
それは多分、思い出さないほうが幸せで居られるようなものの類だが、きっと思い出さないなら思い出さないで更に酷く不幸な目に遭いそうなことだ。
それは多分、思い出さないほうが幸せで居られるようなものの類だが、きっと思い出さないなら思い出さないで更に酷く不幸な目に遭いそうなことだ。
(なんだ? 俺は一体何に引っかかったんだ?)
数瞬前の思考を脳味噌から引っ張り出してきて、キーワードを指折り並べてみる。
(幸運、統計学、ありえない、経験則、壊滅的、不幸、フラグ、一時間、徒労、スーパー、特売、餓え死ぬ、腹ペコシスター、食い尽くす、すきっぱ――――
ん? 腹ペコシスター? 食い尽くす?)
ん? 腹ペコシスター? 食い尽くす?)
「って、ああああああああああああ!!? インデックスのこと本気で忘れてた!!!!」
人混みの中心で絶叫する姿に、周囲から奇異の視線を向けられるが、気にしてはいられない。
「や、ヤバイ。このフラグは致命的か―――?」
このまま帰って学生寮の扉を開ければ、居候の白い修道女が「とおまぁあ~」と、邪神の喇叭のような声色で、はいずってくる事間違いなし。
そして、人外の俊敏さで飛び掛って、上条の頭骨を噛み砕くのだ。
そして、人外の俊敏さで飛び掛って、上条の頭骨を噛み砕くのだ。
「うわぁぁあああ!! ナニこの不吉な未来予測!! 外れて欲しいけど、多分的中率百パーセントだ!!」
取り敢えず、この時間でも開いているスーパーに飛び込んで何か買い込んで、急いで寮に戻らねば。
さもないと、第七学区の学生寮には、少女に頭を噛み砕かれた死体が一つ転がる事になるだろう。
さもないと、第七学区の学生寮には、少女に頭を噛み砕かれた死体が一つ転がる事になるだろう。
「ふーこーうーだーぁあああ!!!」
砂塵を巻き上げて、ドップラー効果つきで絶叫しても、夜空のお月様は何も返してくれない。
ただ丸く、そして血のように紅く、上空から眺め見下ろしているだけ―――
ただ丸く、そして血のように紅く、上空から眺め見下ろしているだけ―――
「え、紅い?」
満月が紅く見えることは多々ある。
日が落ちて、東の空に昇ったばかりの月など、まるで血のような色をしているだろう。
それは、月光が大気を通過する際に、波長の短い青い光線が大気に阻まれ、代りに波長の長い赤い光ばかりを人の目が捉えるからだ。
その現象は、夕日が赤く見える原理と同じであり、透過する大気の層が厚くなる水平線近くに、光源が位置するときに見られる自然現象。
日が落ちて、東の空に昇ったばかりの月など、まるで血のような色をしているだろう。
それは、月光が大気を通過する際に、波長の短い青い光線が大気に阻まれ、代りに波長の長い赤い光ばかりを人の目が捉えるからだ。
その現象は、夕日が赤く見える原理と同じであり、透過する大気の層が厚くなる水平線近くに、光源が位置するときに見られる自然現象。
しかし、天空に位置する月は中天に在りながら、赤々と不気味に輝いている。夜とは言えまだ、満月が昇りきる時間でもあるまいに。
奇妙な現象に、上条の足が止る。周囲でも、第六学区にひしめく数万の人々が、心を奪われたように空の奇景を眺めやる。
奇妙な現象に、上条の足が止る。周囲でも、第六学区にひしめく数万の人々が、心を奪われたように空の奇景を眺めやる。
――――瞬間、世界からすべての音が消えた。
「!!?!」
光が氾濫する。
極彩色の街を、そのまま砂粒に砕いて一箇所にぶちまけたような。
画材屋に置いてあるありとあらゆる絵の具の色を、混ざらないように混ぜ合わせながら、一箇所に吸い込むような。
マーブリングされた光の奔流。
その流れが、崩れ落ちたように上条を飲み込む。
極彩色の街を、そのまま砂粒に砕いて一箇所にぶちまけたような。
画材屋に置いてあるありとあらゆる絵の具の色を、混ざらないように混ぜ合わせながら、一箇所に吸い込むような。
マーブリングされた光の奔流。
その流れが、崩れ落ちたように上条を飲み込む。
―――よぅおひさつかれしぶん
「!?」
―――ロォ今日のとオオころはオンこれタンピン人イーいいペードですラ一満願
「!!?」
―――よっみせしゃけいえああそういうわか十いひと七やすみ連数少ない鎖ァ
「な、んだ……これ……」
―――これから帰りかよっしゃ来たアラシうおおおとんでもないのがなんだろねあれテメェツミ飛んだぞはら月が赤いけままけたーよっ
しゃかっシフトたまにならこれやー これやがコミやがったなたー一緒でいいですけるかどこかに砥石しらウロついたら何 サマ店長な
んこれで十三殴り易いし地区展の作だったのかこれおいみぱみしーぶっこきゅうりょまたねぇかへんな月店員居ないとぴこぴなぁああ――――
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意味の無い言葉の羅列を延々と耳元で囁かれ続ける。
混線した無線のように一つ一つが重なって、暴力的に襲い掛かる声声声。
イヤホンの音量が急激に上げられたような、音の氾濫に根こそぎ持っていかれる。
混線した無線のように一つ一つが重なって、暴力的に襲い掛かる声声声。
イヤホンの音量が急激に上げられたような、音の氾濫に根こそぎ持っていかれる。
「他人(ヒト)が―――――入って、くる」
混ざり合う感覚に、泥のような嫌悪が腹にたまる。
食道を逆流して、吐き出される熱い泥。
一度ならず、何度も何度も。
強制的に頭を通り抜ける他人の言葉が、思考が、強力に身体を圧迫する。
吐いた。吐いた。吐いた。
戻すものがなくなっても、胃液だけが逆流する。
食道を逆流して、吐き出される熱い泥。
一度ならず、何度も何度も。
強制的に頭を通り抜ける他人の言葉が、思考が、強力に身体を圧迫する。
吐いた。吐いた。吐いた。
戻すものがなくなっても、胃液だけが逆流する。
「………う、げぇ! がほっがっ、がほっ、うごぉ………」
万色の氾濫に視覚は狂い、
万音の濁流に聴覚が死ぬ。
万音の濁流に聴覚が死ぬ。
「―――――!」
胸を貫く強烈な吐き気。
脳髄を揺する、不気味な悪寒。
脳髄を揺する、不気味な悪寒。
精神を締め付ける、圧倒的な孤独。
平衡は無く、地に立つ足すら覚束ない。
痛くなるような無音、狂おしいまでの光。
平衡は無く、地に立つ足すら覚束ない。
痛くなるような無音、狂おしいまでの光。
そして唐突な暗転。
叩き付けられる人外の感覚に、精神が働かせた防衛機構。
叩き付けられる人外の感覚に、精神が働かせた防衛機構。
崩れるようにへたり込んだ。
目を瞑り、耳を塞ぎ、爆撃に怯える子供のように、上条はそこで蹲る。
目を瞑り、耳を塞ぎ、爆撃に怯える子供のように、上条はそこで蹲る。
それから、どれだけ経ったのか。
吹きつける風に頬をくすぐられ、上条当麻は目を覚ました。
脳に入り込んでいた奇妙な声は、もう聞こえない。
目に入ったのは地面。
黒々としたアスファルトは、まるで何百年と言う時を経たかのように乾きひび割れ、無残な屍を曝し、そこかしこに大きな亀裂を作っている。
身体を起こせず、仰向けに寝転がれば、夜空の中心には紅い月。
青昏い空に赤々と、毒々しく。今にも猛毒を零しそうな大きな穴。
脳に入り込んでいた奇妙な声は、もう聞こえない。
目に入ったのは地面。
黒々としたアスファルトは、まるで何百年と言う時を経たかのように乾きひび割れ、無残な屍を曝し、そこかしこに大きな亀裂を作っている。
身体を起こせず、仰向けに寝転がれば、夜空の中心には紅い月。
青昏い空に赤々と、毒々しく。今にも猛毒を零しそうな大きな穴。
力を振り絞って身体を起こす。
腹筋に力を込め、上体を起して、
腹筋に力を込め、上体を起して、
「え?」
信じられなくて目を擦る。
もう一度目を開いて、それでも、理解が追いつかなかった。
もう一度目を開いて、それでも、理解が追いつかなかった。
「うそ、だろ?」
上条を中心に360度、どれだけ目を凝らし、どれだけ周りを見回しても、
「何も、 無い」
呆然と、声が。
第六学区。
学園都市のアミューズメント施設が集結した浮世離れした街並は、最早、何処にも存在しない。
第六学区。
学園都市のアミューズメント施設が集結した浮世離れした街並は、最早、何処にも存在しない。
カラカラに乾いた荒野。
吹きぬける風に埃が舞う。
静かな廃墟は、戦場跡を連想させる。
まるで、戦争の記録映画。その中に迷い込んだよう。
唯、戦場跡と異なるのは、何処にも火の手が無い事、そして、一つも死体が転がっていない事。
吹きぬける風に埃が舞う。
静かな廃墟は、戦場跡を連想させる。
まるで、戦争の記録映画。その中に迷い込んだよう。
唯、戦場跡と異なるのは、何処にも火の手が無い事、そして、一つも死体が転がっていない事。
広い広い空間の中、上条当麻は唯一人。
「な、なんなんだよ。これは………。なんなんだよ………」
声が震える。
立ち上がった、足が竦む。
圧倒的な寂寥に、押しつぶされそうになる。
立ち上がった、足が竦む。
圧倒的な寂寥に、押しつぶされそうになる。
「なぁ、居ないのか? 誰か居ないのか!?」
返って来るのは、無慈悲な静寂。
この地区には、一万以上の人間がひしめいていたと言うのに。
この地区には、一万以上の人間がひしめいていたと言うのに。
耐え切れなくなって走り出す。
現実を否定したくて走り出す。
自分以外が皆、■んでしまったなどと、そんな幻想―――
現実を否定したくて走り出す。
自分以外が皆、■んでしまったなどと、そんな幻想―――
この広い世界で、自分ひとりが唯、一人ぼっち。
そんなこと、耐えられそうに無かった。
そんなこと、耐えられそうに無かった。
がらり。と、何かが崩れる音がした。
弾かれるようにそちらを振り向く。
そこはしばらく前まで、街並みに少々そぐわないホテルが建っていた場所。
そこはしばらく前まで、街並みに少々そぐわないホテルが建っていた場所。
「!? 誰か居るのか!?」
急いで駆けつける。
巨大な建物が壊れたわりには、少なすぎる瓦礫を掻き分けて、
上条は、彼女を見つけた。
駆け寄って、声をかける。
反応は無く、唯虚ろな声で小さく呟くだけ。
焦れた上条は彼女の肩をつかんだ。
バキンと、何かが壊れる音がして、途端、バネがはじけるように、
巨大な建物が壊れたわりには、少なすぎる瓦礫を掻き分けて、
上条は、彼女を見つけた。
駆け寄って、声をかける。
反応は無く、唯虚ろな声で小さく呟くだけ。
焦れた上条は彼女の肩をつかんだ。
バキンと、何かが壊れる音がして、途端、バネがはじけるように、
「かみ、じょう……くん?」
アッシュブロンドの髪を揺らし、ダークゴールドの瞳を大きく見開いて、
「ああ。無事みたいだな。何処か痛い所とか……うおっ!!?」
黒い帯を巻いた両腕を、上条の身体に回して、抱きついた。
「っなっ、ちょっ」
「駄目っ! 離さないで」
「駄目っ! 離さないで」
いきなりの行動に、泡を食って肩から手を離しかけた上条だったが、鋭い声に手を止める。
「よかった。キミは、無事だったのね」
上条の身体に、自分の身体を押し付けて、心の底から、安堵したように。
覗きこむように、上条の無事を確かめる少女。
彼女は、数分前まで彼と共に居た、少女だった。
覗きこむように、上条の無事を確かめる少女。
彼女は、数分前まで彼と共に居た、少女だった。
「ああ――。アンタもなんとも無いみたいだな。アゼル」
兎に角も、自分以外の存在を確認できて、上条はほっと胸をなでおろした。
行間 2
―――よぅおひさつかれしぶん
知らない誰かが流れ込んでくる。
―――よっみせしゃけいえああそういうわか十いひと七やすみ連数少ない鎖ァ
知らない何かが流れ込んでくる。
―――ロォ今日のぅおひさつかれしぶんとオオころはオンこン人イーいいペードですラ一満願
流れ込んだ全ては、私の中で渦巻き続ける。
―――よよっみせしゃけいぅおいころはいいペードういうわか十いひと七やすみ
普通ならばきっと狂ってしまうそれも、
―――いころはいいペードロォよせしゃけよっみせしゃけいえあすみ連数少ない鎖ァですラ一願
もう、慣れてしまっている。
私の名前は、アゼル・イヴリス。
荒廃の魔王。全ての命に忌み嫌われるもの。
近づいたもの全てから、無差別にプラーナを奪い取る怪物。
裏界の荒野で一人佇んでいた私は、今はこの夢のような世界で暮らしていた。
どうしてそんなコトができたのか? それは私を造ったひとが、私の力を抑えていてくれたからだ。
だから私は、誰とも触れ合う事のできない惨めな怪物は、人間みたいに学校に行って、人間みたいにお喋りして、人間みたいにご飯を食べて、人間みたいにみんなと遊んで、人間みたいに誰かと触れ合えた。
この身に宿る、忌まわしい力を忘れたフリをして。
荒廃の魔王。全ての命に忌み嫌われるもの。
近づいたもの全てから、無差別にプラーナを奪い取る怪物。
裏界の荒野で一人佇んでいた私は、今はこの夢のような世界で暮らしていた。
どうしてそんなコトができたのか? それは私を造ったひとが、私の力を抑えていてくれたからだ。
だから私は、誰とも触れ合う事のできない惨めな怪物は、人間みたいに学校に行って、人間みたいにお喋りして、人間みたいにご飯を食べて、人間みたいにみんなと遊んで、人間みたいに誰かと触れ合えた。
この身に宿る、忌まわしい力を忘れたフリをして。
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でも、その夢ももう終わりだ。
他ならぬ、私を造ったあのひとが、私の力を解放したのだ。
他ならぬ、私を造ったあのひとが、私の力を解放したのだ。
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イーいいペードですラ一満願オころはオンこれタンピン人イーいいペードですラ一満願たアラシ
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流れ込んでくる人間のプラーナ。
流れ込んでくる、モザイク状に混線した存在。
流れ込んでくる―――断末魔。最後の思考。
流れ込んでくる、モザイク状に混線した存在。
流れ込んでくる―――断末魔。最後の思考。
そして―――、
―――これは、アゼル!? きゃ
大切な友達の声も、そこに混ざっていた。
「……ベル――」
足を抱え、頭を抱え、子供のように蹲る。
こんな事したくなかった、もっと夢を見続けていたかった。
もっと誰かと、触れ合っていたかった。
驚愕は怒りに変わり、怒りは諦観となって、最後に絶望が、この身を満たす。
私は、全てを貪る怪物だ。
大切な友達すら、その牙にかけた裏切り者。
こんな私に、一体誰が触れるというのだろうか?
こんな事したくなかった、もっと夢を見続けていたかった。
もっと誰かと、触れ合っていたかった。
驚愕は怒りに変わり、怒りは諦観となって、最後に絶望が、この身を満たす。
私は、全てを貪る怪物だ。
大切な友達すら、その牙にかけた裏切り者。
こんな私に、一体誰が触れるというのだろうか?
他ならぬ私自身が、私のユメを壊したのだ。
―――居ないのか? 誰か居ないのか?
また一つ、声が届く。
また一つ、誰かを吸ったのか。
また一つ、誰かを吸ったのか。
―――誰か居るのか
声は止まない。この街にいた一万以上の人を、大事な友達を喰らってなお、
まるで私を責めるように。否、責めているのは私自身か
まるで私を責めるように。否、責めているのは私自身か
―――大丈夫か!
こんな些細な幻想(ユメ)すら護れない。
自分自身を―――
自分自身を―――
バキン。と、何かが壊れる音がした。
頭の中に響く声が、最後まで巻き取られたカセットテープのように途切れて終わる。
ワカラナクテ、弾けるように顔を上げた。
頭の中に響く声が、最後まで巻き取られたカセットテープのように途切れて終わる。
ワカラナクテ、弾けるように顔を上げた。
夜空には、大きく紅い丸い月。
心休まる紅を背負って、彼は私前に居た。
心休まる紅を背負って、彼は私前に居た。
蹲る私の肩に手を置いて、『それが異能の力なら、たとえ神様の奇跡であっても打ち消す右手』で、私に触れて、
「かみ、じょう……くん?」
上条当麻。
ついさっき知り合った男の子。
初対面の私を助けてくれて、誰も傷つかないように、私に絡んできていた人たちも傷つかないように、身体を張ってくれた優しい人。
幻想殺し(イマジンブレイカー)という、表界の結界と同じように、非常識を排除する右手を持った少年。
ついさっき知り合った男の子。
初対面の私を助けてくれて、誰も傷つかないように、私に絡んできていた人たちも傷つかないように、身体を張ってくれた優しい人。
幻想殺し(イマジンブレイカー)という、表界の結界と同じように、非常識を排除する右手を持った少年。
「ああ。大丈夫か、何処か痛い所とか……」
彼が生きている。私の力に曝されて、それでも。
唯それだけが、とても嬉しくて。
この忌まわしい力に犯されない誰か、そんな誰かが存在すること自体が私の幻想。
それなのに、彼の右手は私の肩にあって、覗き込むように私の身を案じてくれていた。
唯それだけが、とても嬉しくて。
この忌まわしい力に犯されない誰か、そんな誰かが存在すること自体が私の幻想。
それなのに、彼の右手は私の肩にあって、覗き込むように私の身を案じてくれていた。
体が自然に動いていた。
腕を背中に回し身体と身体を寄せあう。
腕を背中に回し身体と身体を寄せあう。
彼の温もりが、私に伝わる。勇気をくれる。
大丈夫だ、彼が居れば、この温もりが在れば、私は戦える。この幻想を、護っていける。
大丈夫だ、彼が居れば、この温もりが在れば、私は戦える。この幻想を、護っていける。
私の名前は、アゼル・イヴリス。
荒廃の魔王の二つ名を持つ、裏界の最終兵器。
私は、生涯で二つ目の、護りたいものを見つけた。
荒廃の魔王の二つ名を持つ、裏界の最終兵器。
私は、生涯で二つ目の、護りたいものを見つけた。