魔人と陰は、絡み合う
―――学園世界 特別居住区
居住区には、名もなき“無人”の学生寮がいくつか点在している。
これらはいつ、どこに来るかも分からない“新たな学園”が来たとき、初めてその学園の学生寮の名を与えられ、学生たちが入るようになっている“ストック”である。
最低限の家具が備え付けられ、ライフラインが整えられた無人の寮。
選抜委員の定期的な見回りにも関わらず、そういう場所を密かにたまり場とする“不法入居者”は後を絶たない。
そして、そんな学生寮の1室、そこに、彼らはいた―――。
これらはいつ、どこに来るかも分からない“新たな学園”が来たとき、初めてその学園の学生寮の名を与えられ、学生たちが入るようになっている“ストック”である。
最低限の家具が備え付けられ、ライフラインが整えられた無人の寮。
選抜委員の定期的な見回りにも関わらず、そういう場所を密かにたまり場とする“不法入居者”は後を絶たない。
そして、そんな学生寮の1室、そこに、彼らはいた―――。
「どうだ?佐藤。玲子の足取りは追えたか?」
この世界で最も一般的な男の服、詰襟の学生服を着崩し、髪を金髪に染めた少年がきっちりと学生服を着こんだメガネの少年に尋ねる。
メガネの少年…佐藤は小手のようなものをつけた右手をせわしなく動かし、ヘッドギアに取り付けたモノクルを覗きこみつつ首を振る。
「いや。今、仕留められた。狙撃で一発。どこから来たかは分からなかった。的確だ。やっぱり向こうにデータが渡ってると考えた方がいいな」
「ちっ…ダークども向けの簡易版っつっても基本的なデータは一通り入ってたからな…セオリーは理解してる。そんなところか?」
「ああ。手もちの“鳥系”で追うのは難しいと思う。まあ、だからって他のなら楽ってわけじゃないけど」
淡々と分析をした後、佐藤は顔を曇らせる。
「ごめんな、ジャターユ…」
呟きつつ、いたわるような手つきで小手のようなもの…アームターミナルと呼ばれる召喚用にカスタマイズされたパソコンを撫でる。
「ああ?何言ってやがんだ?」
それを聞き咎め、少年は顔を歪める。
「悪魔は全部悪魔だろ?死のうがどうしようが知ったこっちゃねえ」
「違う!こいつらは僕の仲魔で…」
「いいや、一緒だ」
アームターミナルを抱き、声を荒げた佐藤に、少年は断言する。
「クソッたれの化け物で、利用すべき道具。なにより…俺らを“こんな体”にした張本人どもだ」
思い出して歯を食いしばる。
「俺は、あいつらが大っ嫌いだ…だからな、俺はあいつらの味方をするてめえも、大っ嫌いだ…」
その瞳に宿るのは、深い憎悪。男は佐藤を睨みつける。
「ああ?なんだその眼は?」
だが、佐藤の方も一歩も引かない。まっすぐに少年を見つめる…“獣の目”で。
「トリケセ…チャーリー…」
呟くように言葉を漏らすと共に佐藤の身体が膨らむ。露出した肌が灰色の毛に覆われだす。
「へっ…やるか犬コロ?今までと同じと思うなよ?こっちは“ほぼすべて”てめえより上だ」
それを見て、チャーリーと呼ばれた少年が口元を歪める。そして肌が徐々に紫へと変わっていく。
そんな、一触即発の空気を破ったのは、1人の少女の声だった。
この世界で最も一般的な男の服、詰襟の学生服を着崩し、髪を金髪に染めた少年がきっちりと学生服を着こんだメガネの少年に尋ねる。
メガネの少年…佐藤は小手のようなものをつけた右手をせわしなく動かし、ヘッドギアに取り付けたモノクルを覗きこみつつ首を振る。
「いや。今、仕留められた。狙撃で一発。どこから来たかは分からなかった。的確だ。やっぱり向こうにデータが渡ってると考えた方がいいな」
「ちっ…ダークども向けの簡易版っつっても基本的なデータは一通り入ってたからな…セオリーは理解してる。そんなところか?」
「ああ。手もちの“鳥系”で追うのは難しいと思う。まあ、だからって他のなら楽ってわけじゃないけど」
淡々と分析をした後、佐藤は顔を曇らせる。
「ごめんな、ジャターユ…」
呟きつつ、いたわるような手つきで小手のようなもの…アームターミナルと呼ばれる召喚用にカスタマイズされたパソコンを撫でる。
「ああ?何言ってやがんだ?」
それを聞き咎め、少年は顔を歪める。
「悪魔は全部悪魔だろ?死のうがどうしようが知ったこっちゃねえ」
「違う!こいつらは僕の仲魔で…」
「いいや、一緒だ」
アームターミナルを抱き、声を荒げた佐藤に、少年は断言する。
「クソッたれの化け物で、利用すべき道具。なにより…俺らを“こんな体”にした張本人どもだ」
思い出して歯を食いしばる。
「俺は、あいつらが大っ嫌いだ…だからな、俺はあいつらの味方をするてめえも、大っ嫌いだ…」
その瞳に宿るのは、深い憎悪。男は佐藤を睨みつける。
「ああ?なんだその眼は?」
だが、佐藤の方も一歩も引かない。まっすぐに少年を見つめる…“獣の目”で。
「トリケセ…チャーリー…」
呟くように言葉を漏らすと共に佐藤の身体が膨らむ。露出した肌が灰色の毛に覆われだす。
「へっ…やるか犬コロ?今までと同じと思うなよ?こっちは“ほぼすべて”てめえより上だ」
それを見て、チャーリーと呼ばれた少年が口元を歪める。そして肌が徐々に紫へと変わっていく。
そんな、一触即発の空気を破ったのは、1人の少女の声だった。
「2人ともやめな」
そんな声と共に入って来たのは、ブレザーを着崩した少女。彼女は軽々と抱えていた2人の少年…「各校選抜執行委員」と書かれた腕章をつけた少年たちを投げ出す。
「定期パトロールが来た。一応顔を見られる前に気絶させて記憶いじったけど、潮時だね。移るよ。準備して」
そう言うと少女はさっさと準備をすべく、奥の部屋へ行こうとする。
「おーおー。ライトな女神さまはお優しいこって。こんな奴ら、ぶっ殺しちまえばいいだろうが」
その、倒れた少年を蹴り飛ばす、軽く蹴っただけのように見えたそれは、少年をたやすく壁まで吹き飛ばした。
「ぐあ!?」
壁にぶつかった少年が、苦痛に声を上げる。当たった場所は完全に骨が折れていた。
「…やめろって言ったでしょ」
だが、次の瞬間、少女がじろりとチャーリーを見て呟くと同時に、その折れた骨が“何事も起こらなかったか”のように一瞬で完治した。
「玲子を捕まえてその後ろにいる“カゲモリ”を洗え。目立たないように。それが命令だったでしょ?それとも魔神皇に逆らって死にたいの?」
「…ちっ。分かったよ」
チャーリーは目をそらす。
「命拾いしたな。佐藤。ユミに感謝しとけよ」
言い残し、チャーリーは何度目かになる“引っ越し”の準備を始める。
「ごめん。由美さん。僕は…」
元の眼鏡の少年の姿に戻った佐藤が由美に謝る。それに由美は苦笑して答えた。
「いいの。っていうか、いちいち謝らないでよ。今までも、これからも佐藤君があたしたちには必要なんだから。ほら、佐藤君も準備して」
そう言うと、由美もまた引っ越しの準備を始める。
「…やっぱり、強いな2人とも」
そんな2人の背中を見て、佐藤は笑う。
「…僕とは、大違いだ…」
自分に残された“時間”が少ないことに、ひどく悲しくなりながら。
「定期パトロールが来た。一応顔を見られる前に気絶させて記憶いじったけど、潮時だね。移るよ。準備して」
そう言うと少女はさっさと準備をすべく、奥の部屋へ行こうとする。
「おーおー。ライトな女神さまはお優しいこって。こんな奴ら、ぶっ殺しちまえばいいだろうが」
その、倒れた少年を蹴り飛ばす、軽く蹴っただけのように見えたそれは、少年をたやすく壁まで吹き飛ばした。
「ぐあ!?」
壁にぶつかった少年が、苦痛に声を上げる。当たった場所は完全に骨が折れていた。
「…やめろって言ったでしょ」
だが、次の瞬間、少女がじろりとチャーリーを見て呟くと同時に、その折れた骨が“何事も起こらなかったか”のように一瞬で完治した。
「玲子を捕まえてその後ろにいる“カゲモリ”を洗え。目立たないように。それが命令だったでしょ?それとも魔神皇に逆らって死にたいの?」
「…ちっ。分かったよ」
チャーリーは目をそらす。
「命拾いしたな。佐藤。ユミに感謝しとけよ」
言い残し、チャーリーは何度目かになる“引っ越し”の準備を始める。
「ごめん。由美さん。僕は…」
元の眼鏡の少年の姿に戻った佐藤が由美に謝る。それに由美は苦笑して答えた。
「いいの。っていうか、いちいち謝らないでよ。今までも、これからも佐藤君があたしたちには必要なんだから。ほら、佐藤君も準備して」
そう言うと、由美もまた引っ越しの準備を始める。
「…やっぱり、強いな2人とも」
そんな2人の背中を見て、佐藤は笑う。
「…僕とは、大違いだ…」
自分に残された“時間”が少ないことに、ひどく悲しくなりながら。
…10分後。
「あれ?俺ら…」
「やばい。ちょっとボウっとしてた」
アパートの前で目を覚ました少年は、ハッと気が付きキョロキョロと辺りを見渡す。
「…あれ?お前も」
「え?お前もか?」
時計を2人して確認。最後に見たときより15分経っている。
「…疲れてんのかな?俺ら」
「まあ、いいや次行こうぜ」
ちらりとそのアパートを見て言う。
「ここは“もう見た”しな」
「ああ」
そして、少年たちは次の無人学生寮へと向かう。6番目の無人学生寮の記入欄に“異常なし”と書き込みながら。
「やばい。ちょっとボウっとしてた」
アパートの前で目を覚ました少年は、ハッと気が付きキョロキョロと辺りを見渡す。
「…あれ?お前も」
「え?お前もか?」
時計を2人して確認。最後に見たときより15分経っている。
「…疲れてんのかな?俺ら」
「まあ、いいや次行こうぜ」
ちらりとそのアパートを見て言う。
「ここは“もう見た”しな」
「ああ」
そして、少年たちは次の無人学生寮へと向かう。6番目の無人学生寮の記入欄に“異常なし”と書き込みながら。
―――ザールブルグアカデミー
「…またか」
授業前、見つけたから潰しておいた。そんな報告を0-Phoneで吾妻玲二から受け、斎堂一狼は溜息をついた。
「…やっぱり、タバサさんの読み通りか。玲子さんを狙っているみたいだな」
玲子がこの学園世界に来て、1ヶ月。エヴァからは『“使える”ようになるにはもう少しかかる』と聞いている。
「一応、大抵の相手なら桜花さんが護ってくれると思うけど…」
桜花の実力は、一狼も信頼している。と言うよりも、自分より強いのだ。力量は疑いようもない。
「…相手に知られているからな」
だが、向こうが“知っている相手”である以上、ある程度の準備はしてきているはず。そう、一狼は読んでいた。
だからこそ今までに2回あった悪魔絡みの事件を通して相手を…悪魔を理解している自分たちが“2人で”前線の指揮に当たっている。
「…いや、心配し過ぎか」
何事にも慎重な一狼が珍しく、楽観的な発言をする。
「そうかしら?私にはまだ信じられないのだけれど」
一狼の呟きに答えるのは、もう1人の前線指揮担当、ドルファン学園所属、ライズ・ハイマー。
「その“隊長”とやらは、本当に役に立つの?」
「え?どうしたんですか急に」
そこそこの信頼を相手に持つからこそ、ライズは自らの疑問を一狼に率直にぶつける。カゲモリが実力者揃いの組織であることはライズも知っている。
そこの隊長ともなれば、相応の実力の持ち主であることは間違いない。だが。
「…私は、その隊長には、会ったことが無い。実力を知らないわ」
一狼のことはそれなりに信頼しているが、だからと言って自分にとって未知の相手の実力を黙って信じろと言われても、はいそうですかと頷くつもりにはなれない。
敵を知るのと同じくらい己を…味方を知ることは重要なのだ。
「…ああ、そう言えばライズさんは隊長殿と会ったこと無いんでしたっけ?」
一狼がその事に思い当たり、ライズに聞く。
「ええ。無いわ。そもそも私はあのエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルが隊長だと思っていたのだけれど?」
一ヶ月ほど前、ライズは知った。数多くの悪名と“人形使い”の異名を持つカゲモリの指揮官、エヴァンジェリンは確かにカゲモリ内では大きな発言権を持つ。
だが、決してNo1…“隊長”では無い、と。
「まぁ、気持ちは分からなくもありません。エヴァさんは強さと冷静さを兼ね備えてます。正直“指揮官”としては隊長よりエヴァさんの方が上ですからね」
苦笑する。そう言えばさつきが言っていた。隊長は多忙につき滅多に茶室には顔を出さない。
そのせいか比較的最近入った“新人さん”の中にはエヴァを隊長だと思っている人も多いと。
「それで、隊長…カゲモリマモルとは、どんな奴なの?」
「隊長殿がどんな人か…ですか」
ライズの問いに一狼はちょっとだけ考えて、隊長…陰守マモルについての説明をする。
「まず、クラスは僕と同じ忍者です。年も僕と同じ2年生。通っている学園は特殊な能力の保持者がいない…実際はホタルさんや山芽さんがいるからそうでも無いんですが、
とにかく、基本的には普通の学園です。ずっと家の掟も兼ねた“任務”についているので、カゲモリ…あ、組織の方ですね、にはあまり顔を出しません」
「そこでは無いわ」
そんな、通り一辺倒な情報はライズとて既に確認している。
「私が聞きたいのは、イチロー、あなたから見たカゲモリマモルと言う人間よ」
目の前の少年の実力は理解している。イチローが自分が背中を預けるのに足るだけの実力を持つ“忍者”であると。
なればこそ、同じ忍者であるイチローから見た隊長と言うものは、きっと参考になるはずだ。
「僕から見た隊長殿、ですか…」
その言葉に、一狼は遠い目をして、言う。
「そうですね…一言で言えば…」
と言うより、一狼にとって、隊長…マモルはその一言でしか表わせない。
「…“でたらめ”ですかね」
カゲモリに最初からいた他の2人と、同じ感想しか。
授業前、見つけたから潰しておいた。そんな報告を0-Phoneで吾妻玲二から受け、斎堂一狼は溜息をついた。
「…やっぱり、タバサさんの読み通りか。玲子さんを狙っているみたいだな」
玲子がこの学園世界に来て、1ヶ月。エヴァからは『“使える”ようになるにはもう少しかかる』と聞いている。
「一応、大抵の相手なら桜花さんが護ってくれると思うけど…」
桜花の実力は、一狼も信頼している。と言うよりも、自分より強いのだ。力量は疑いようもない。
「…相手に知られているからな」
だが、向こうが“知っている相手”である以上、ある程度の準備はしてきているはず。そう、一狼は読んでいた。
だからこそ今までに2回あった悪魔絡みの事件を通して相手を…悪魔を理解している自分たちが“2人で”前線の指揮に当たっている。
「…いや、心配し過ぎか」
何事にも慎重な一狼が珍しく、楽観的な発言をする。
「そうかしら?私にはまだ信じられないのだけれど」
一狼の呟きに答えるのは、もう1人の前線指揮担当、ドルファン学園所属、ライズ・ハイマー。
「その“隊長”とやらは、本当に役に立つの?」
「え?どうしたんですか急に」
そこそこの信頼を相手に持つからこそ、ライズは自らの疑問を一狼に率直にぶつける。カゲモリが実力者揃いの組織であることはライズも知っている。
そこの隊長ともなれば、相応の実力の持ち主であることは間違いない。だが。
「…私は、その隊長には、会ったことが無い。実力を知らないわ」
一狼のことはそれなりに信頼しているが、だからと言って自分にとって未知の相手の実力を黙って信じろと言われても、はいそうですかと頷くつもりにはなれない。
敵を知るのと同じくらい己を…味方を知ることは重要なのだ。
「…ああ、そう言えばライズさんは隊長殿と会ったこと無いんでしたっけ?」
一狼がその事に思い当たり、ライズに聞く。
「ええ。無いわ。そもそも私はあのエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルが隊長だと思っていたのだけれど?」
一ヶ月ほど前、ライズは知った。数多くの悪名と“人形使い”の異名を持つカゲモリの指揮官、エヴァンジェリンは確かにカゲモリ内では大きな発言権を持つ。
だが、決してNo1…“隊長”では無い、と。
「まぁ、気持ちは分からなくもありません。エヴァさんは強さと冷静さを兼ね備えてます。正直“指揮官”としては隊長よりエヴァさんの方が上ですからね」
苦笑する。そう言えばさつきが言っていた。隊長は多忙につき滅多に茶室には顔を出さない。
そのせいか比較的最近入った“新人さん”の中にはエヴァを隊長だと思っている人も多いと。
「それで、隊長…カゲモリマモルとは、どんな奴なの?」
「隊長殿がどんな人か…ですか」
ライズの問いに一狼はちょっとだけ考えて、隊長…陰守マモルについての説明をする。
「まず、クラスは僕と同じ忍者です。年も僕と同じ2年生。通っている学園は特殊な能力の保持者がいない…実際はホタルさんや山芽さんがいるからそうでも無いんですが、
とにかく、基本的には普通の学園です。ずっと家の掟も兼ねた“任務”についているので、カゲモリ…あ、組織の方ですね、にはあまり顔を出しません」
「そこでは無いわ」
そんな、通り一辺倒な情報はライズとて既に確認している。
「私が聞きたいのは、イチロー、あなたから見たカゲモリマモルと言う人間よ」
目の前の少年の実力は理解している。イチローが自分が背中を預けるのに足るだけの実力を持つ“忍者”であると。
なればこそ、同じ忍者であるイチローから見た隊長と言うものは、きっと参考になるはずだ。
「僕から見た隊長殿、ですか…」
その言葉に、一狼は遠い目をして、言う。
「そうですね…一言で言えば…」
と言うより、一狼にとって、隊長…マモルはその一言でしか表わせない。
「…“でたらめ”ですかね」
カゲモリに最初からいた他の2人と、同じ感想しか。
―――エヴァの茶室
話は1ヶ月前までさかのぼる。
「本気…いや、正気か?タバサ」
タバサの帰還から数日。久しぶりに顔を出して早々タバサの言いだした話を聞き、エヴァが眉をひそめる。
それにタバサはこくんと頷く。
「本人の意思は確認した。“魔人皇”との決着を、自らの手でつけることをレイコは望んでいる。それには、普通の“ウィザード”としての教育では、時間がかかり過ぎる」
そう言いつつ、タバサは育ちの良さを伺わせる、美しい字で書かれたそれ…カゲモリへの“推薦状”を取り出して見せる。
「承諾は得ている。後は、協力者たるエヴァたちの同意だけ」
言うべきことを言い、他の3人の返事を待つ。
「…私は賛成よ」
最初に口火を切ったのは、今回の任務の指揮役を依頼されたカゲモリ屈指の剣の使い手、ライズだった。
「その代わり、“使える”ようになるまでは与える情報は最低限。入り方もオウカとか言う方にだけ。それが条件よ。たかが“おとり”に、全部教える必要は無いわ」
守るより、攻めろ。ただし引き際は間違うな。そう教わってきた“攻めるもの”の集団の中で育ったライズは、攻めることを恐れない。
肉は斬らせてやる。代わりに確実に相手の骨まで断つ、それならば、収支は合うのだから。
「…僕は反対だ」
それにもう1人の指揮官としてタバサ直々に選ばれた一狼が異を唱える。
「それじゃあまるで、玲子さんが魔人皇の情報を得るための道具みたいじゃないか…タバサさん、何であなたがこんな作戦を立てたんです?
正直、いつものタバサさんらしくない。そう思います」
一狼は知っている。タバサは聡明で、根は優しい少女だと。だからこそ、信じられない。明らかに実力の劣る人間をおとり…道具扱いにするような作戦を立てるなんて。
「そうだな。タバサ、お前にしては随分と残酷な絵を描くじゃないか…全ての話を聞いてから判断する。話せ」
何かあることを察したエヴァがタバサに促す。それに、タバサは頷き、答える。
「危険な作戦なのは理解している。“教育”が終わる前に狙われるかつけられる確率は極めて高いと言わざるを得ない。そうなればこちらの情報が向こうに知られる。
だけど、成功すればこちらの情報が増える。狙われなければ、戦うだけの力を得る。やる価値は、ある。それに…」
一度だけ言葉を切り、タバサはその情報を口にする。タバサに“玲子をおとりにする”ことを決意させたその情報を。
「…隊長の承諾を得た。しばらくの間、隊長がレイコを護衛する。その間に、決着をつける」
その反応は、劇的だった。
「隊長殿がっ!?」
「…なるほどな」
一狼が驚いて声を上げ、エヴァが納得して頷く。
「…隊長?」
ただ1人、ライズは眉をひそめ、エヴァの方を見る。
「…なんだ、斎堂。お前、ライズに話して無かったのか?」
「え?…ああ」
その様子を見て、事情を察したエヴァがライズに断言する。
「お前がどう思っているが知らんが…私はお前らの隊長なんてものになった覚えはない」
「…そうなの?」
怪訝そうに聞き返したライズにエヴァの代わりに一狼が説明する。
「はい。僕らの、カゲモリの隊長殿の名前は…陰守マモル。組織の名前の由来にもなった、学園世界最高の“守り手”です」
敬意と…若干の恐れを持って。
「…マモル?それが、このカゲモリの長の名前?」
確認するように、その名を口にする。
「はい。僕なんかが足元にも及ばないほどのすご腕の“忍者”。それが隊長殿です」
「“ウィザード”から見ても“常識”が通用しない存在。それが隊長。カゲモリの、切り札」
ライズの疑問に2人は自らの隊長評を口にする。
「…私は、奴に似た人間を2人知っている」
エヴァが最後に口にする。2人。エヴァの世界における“伝説の剣闘士”と、“最強の魔法使い”。そう、あの2人と同じ。
「奴は…マモルはあいつらと同じ“バグキャラ”だ…」
確信を込めて、重々しく。その言葉に…
「「「…バグキャラ?」」」
ファンタジー世界出身2名と高校生までロクにTVも無いような場所で育った田舎育ちが揃って首をかしげる。
「…少しはゲームくらいやれ。学生だろうが。お前ら」
思いっきり滑ったことに顔をしかめながら、エヴァが苦々しげにつぶやいた。
「本気…いや、正気か?タバサ」
タバサの帰還から数日。久しぶりに顔を出して早々タバサの言いだした話を聞き、エヴァが眉をひそめる。
それにタバサはこくんと頷く。
「本人の意思は確認した。“魔人皇”との決着を、自らの手でつけることをレイコは望んでいる。それには、普通の“ウィザード”としての教育では、時間がかかり過ぎる」
そう言いつつ、タバサは育ちの良さを伺わせる、美しい字で書かれたそれ…カゲモリへの“推薦状”を取り出して見せる。
「承諾は得ている。後は、協力者たるエヴァたちの同意だけ」
言うべきことを言い、他の3人の返事を待つ。
「…私は賛成よ」
最初に口火を切ったのは、今回の任務の指揮役を依頼されたカゲモリ屈指の剣の使い手、ライズだった。
「その代わり、“使える”ようになるまでは与える情報は最低限。入り方もオウカとか言う方にだけ。それが条件よ。たかが“おとり”に、全部教える必要は無いわ」
守るより、攻めろ。ただし引き際は間違うな。そう教わってきた“攻めるもの”の集団の中で育ったライズは、攻めることを恐れない。
肉は斬らせてやる。代わりに確実に相手の骨まで断つ、それならば、収支は合うのだから。
「…僕は反対だ」
それにもう1人の指揮官としてタバサ直々に選ばれた一狼が異を唱える。
「それじゃあまるで、玲子さんが魔人皇の情報を得るための道具みたいじゃないか…タバサさん、何であなたがこんな作戦を立てたんです?
正直、いつものタバサさんらしくない。そう思います」
一狼は知っている。タバサは聡明で、根は優しい少女だと。だからこそ、信じられない。明らかに実力の劣る人間をおとり…道具扱いにするような作戦を立てるなんて。
「そうだな。タバサ、お前にしては随分と残酷な絵を描くじゃないか…全ての話を聞いてから判断する。話せ」
何かあることを察したエヴァがタバサに促す。それに、タバサは頷き、答える。
「危険な作戦なのは理解している。“教育”が終わる前に狙われるかつけられる確率は極めて高いと言わざるを得ない。そうなればこちらの情報が向こうに知られる。
だけど、成功すればこちらの情報が増える。狙われなければ、戦うだけの力を得る。やる価値は、ある。それに…」
一度だけ言葉を切り、タバサはその情報を口にする。タバサに“玲子をおとりにする”ことを決意させたその情報を。
「…隊長の承諾を得た。しばらくの間、隊長がレイコを護衛する。その間に、決着をつける」
その反応は、劇的だった。
「隊長殿がっ!?」
「…なるほどな」
一狼が驚いて声を上げ、エヴァが納得して頷く。
「…隊長?」
ただ1人、ライズは眉をひそめ、エヴァの方を見る。
「…なんだ、斎堂。お前、ライズに話して無かったのか?」
「え?…ああ」
その様子を見て、事情を察したエヴァがライズに断言する。
「お前がどう思っているが知らんが…私はお前らの隊長なんてものになった覚えはない」
「…そうなの?」
怪訝そうに聞き返したライズにエヴァの代わりに一狼が説明する。
「はい。僕らの、カゲモリの隊長殿の名前は…陰守マモル。組織の名前の由来にもなった、学園世界最高の“守り手”です」
敬意と…若干の恐れを持って。
「…マモル?それが、このカゲモリの長の名前?」
確認するように、その名を口にする。
「はい。僕なんかが足元にも及ばないほどのすご腕の“忍者”。それが隊長殿です」
「“ウィザード”から見ても“常識”が通用しない存在。それが隊長。カゲモリの、切り札」
ライズの疑問に2人は自らの隊長評を口にする。
「…私は、奴に似た人間を2人知っている」
エヴァが最後に口にする。2人。エヴァの世界における“伝説の剣闘士”と、“最強の魔法使い”。そう、あの2人と同じ。
「奴は…マモルはあいつらと同じ“バグキャラ”だ…」
確信を込めて、重々しく。その言葉に…
「「「…バグキャラ?」」」
ファンタジー世界出身2名と高校生までロクにTVも無いような場所で育った田舎育ちが揃って首をかしげる。
「…少しはゲームくらいやれ。学生だろうが。お前ら」
思いっきり滑ったことに顔をしかめながら、エヴァが苦々しげにつぶやいた。