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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫
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ナイトウィザード!クロスSS超☆保管庫

第09話01

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だれでも歓迎! 編集

第九章 ハイパーT&T _tunnel_and_traps_


 「なんじゃそりゃぁあああああああああああ!!!!!!」

 上条当麻は、腹の底から絶叫した。
 視線の先には、ごろん、ごろん。と、足から腹に響く轟音を発てる酒樽(デスローラー)。転がり来る大質量は、まるで映画の中に飛び込んだような錯覚を覚えさせた。

 巨神の社。パール・クールの月匣の中で、

「落ち着け上条!!!!」

 頼れる同行者は、考古学者ではなく魔法使い。
 柊蓮司は、身の丈を越える白兵箒(ウィッチブレイド)を掲げる。

「美琴、援護頼む!! 最大出力で超電磁砲(レールガン)をぶっ放せ!!」
「……え? あ、わ、分かったわ!!」

 そして超能力者。
 目前の光景の、そのあまりの非常識さに一瞬呆然となっていた御坂美琴は、あたふたと取り出したコインを射出する。
 掛かる電荷がローレンツ力を生み、音速の三倍に加速された鉄片は、空気摩擦で焼き溶けて橙の極光となった。

 酒樽に突撃する柊を追い越して、御坂美琴の必殺技(レールガン)は、巨大な樽に着弾する。

 破壊的な轟音と衝撃に、ぐらり。と大樽は揺らいで―――、一〇〇〇℃以上の一撃に、樽板は発火。そして延焼。


 ―――デスローラー(ほのおのかたまり)は、轟轟と驀進する。


「って!! 状、況、悪、化ぁ!?!?」
「さ、流石に質量が違いすぎるわよコレぇ!!」

 上条の悲鳴に、美琴の声がユニゾンする。
 音速の三倍。そして艦載兵器の再現とはいえ、打ち出したのは小さな鉄片(コイン)。
 呆れるほど広く、霞むほどに天井の高い廊下を、埋め尽くすほどに巨大な酒樽の前では、焼け石に水、むしろ絶壁に釘。

「ふっ、二人とも走れぇ!!」

 流石に、度肝を抜かれた柊に、「言われなくとも!!」と、上条当麻と御坂美琴は、同時に身を翻した。
 二人を追って、柊も走り出す。
 直線の廊下を、駆け抜ける足音は三つ。それを追いかける巨大質量の回転音。

「ふ、こ、う、だぁあああああああ!!!!」
「悪かったわねぇええええ!!!!」
「走りながらじゃれてる場合かよお前ら!!」

 三者三様の絶叫が木霊する。
 背後からは、数百℃超の炎の塊。
 長大な廊下は長く、永遠に続くかのよう。ヒシヒシと詰め寄ってくる絶望感。
 月匣(ろうか)の壁は平坦だ。せめて、枝道の一つでも在りさえすれば―――、

「―――っ!!! そうだっ!!」

 天啓のように、上条の頭上に電灯が燈った。

「如何したの―――って、ちょっとアンタ!!」

 足を止めた上条に、美琴が悲鳴じみた声をあげる。

「まぁ、見てろっ!!」

 上条当麻は右手を振り上げる。

 厳然と聳える白木の壁。月匣(とりで)の壁へと。

 月匣は、悪魔(エミュレイター)に魔法使い(ナイトウィザード)―――、いわゆる超常の存在が作り上げる異界。紛れも無い異能の産物。
 だとすれば、イタリアの海に現れた艦隊のように、この右手(イマジンブレイカー)で、壁に穴を空けられるかもしれない。

 風を裂いて拳が走り、ばしっ。と―――、

「みっ!! ばっ!! みぎゃあああ!!」

 壁を捉えた右手が、痛いだけだった。

「本ン気で何やってんのよ、アンタわぁああっ!!」

 悲鳴そのものな美琴の絶叫も、泡を食った柊の挙動も識る事無く。
 火達磨は、変わらず転がり続ける。迫る熱塊の、放射熱だけで肌がチリチリ痛む。
 炎の車のその前で、一時、上条当麻は現実を見失った。

(ま、またかよっ!?)

 声にならぬ悲鳴があがる。

 キュマイラといいこの壁といい、尋常なものではない癖に、異能の右手(イマジンブレイカー)を弾き返す。
 まるで―――、

 忘我は刹那。
 けれど、燃える巨塊が詰め寄るには十分な時間。

「―――っ!」

 上条は炎に背を向けて、床を蹴る―――ために、上条の脳は全身の筋肉に命令する。
 転がる灼熱(アカ)から逃れるため。
 0.5秒。
 けれど走り出すよりも、迫る炎の方が速い。
 哀れな生贄をひき潰そうと、燃え盛るローラーは上条当麻に圧し掛かる―――、

 直前。

「ぐきぇ」

 急に締め上げられた喉元から、家鴨のような悲鳴が上がった。

「っで、柊(びぃらぎ)ざ、ぬぅおおおおおおお!!!」
「うぉりゃあああああ!!!」


 その犯人。上条の襟首を引っ掴んだ柊蓮司は、大根でも引き抜くように気合と共に渾身の力で男子高校生を放り投げる。
 悲鳴の尾を引いて。
 後方の御坂美琴に、放り投げられた上条が激突するのを横目で確認、投擲のベクトルを集約し回転して―――、


 銀光、一閃!


 閃く魔剣。
 幾度と無く侵魔冥魔を切り裂いた刃は、しかし、二メートルを越える白兵箒(ウィッチブレイド)であるとはいえ、絶壁のような大樽とは余りに質量差が在り過ぎる。
 爪楊枝のように細く頼りない剣。けれど尋常には在らざる剣。

 ―――ソレは魔剣。理より外れた、外法の剣。

 使い手と共に、数多の障害を断ち切ってきた刃は、斬撃と同時に暴風を吐き出し、巨大な炎の塊を無形無色のミキサーに放り込む。

 ―――条理の一つや二つ、覆してこそ魔剣使い(ナイトウィザード)。

 転がる火達磨は木端微塵で縦横無尽。景気のいい音を発てて廊下を跳ね回った。

(ま、こんなもんか―――。……逃げずに最初ッからこうしときゃ良かったな)

 魔剣を構えなおし、柊は内心で呟く。
 いきなり燃え出した事に度肝を抜かれはしたが、落ち着いて対処すれば別段問題もない、今まで何度も潜ってきた月匣で、何度も目にしたオーソドックスな罠であった。
 魔剣を担ぎ直して、振り返る。
 呆然と、此方を見つめる上条と美琴に片手を挙げて、無事を知らせるその横で、ぱちり、と火花が弾けた。

「え?」

 刹那。
 脳が処理するよりも早く、―――紅蓮の炎に、柊蓮司は呑み込まれていた。



 空を見上げれば、黒(よる)のキャンバスにぶちまけられる紅、青、黄の極彩色。
 異世界の街で、激突を続ける三柱の魔王のチカラの余波は、一瞬ごとに画面を塗り替える。
 そんな夜天の下。

 よろよろ。と、ゴスロリを纏った小さな身体が、学園都市の裏路地を進む。

 その名はノーチェ。イタリア出身の傭兵吸血鬼は、伝家の宝刀たる巨大水晶に顔を映しながら、おぼつかない足取りで、人探しを続行していた。

 事の発端は、一人の迷子。打ち止め(ラストオーダー)と呼ばれる外見年齢十歳ほどの少女が、保護者とはぐれて、下級侵魔の溢れていた学園都市に取り残されたこと。
 そして、縦横無尽に学園都市内を逃げ回る少女を、執行部員でありノーチェの同僚、ダブルカレイド魔法少女が捕まえたのがつい数分前。
 ところが、その二人の魔法少女、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンと美遊・エーデルフェルトは、保護対象と共に未だ戦場となって久しいこの街に留まっているのだ。

「………。こっちで、………ありますな―――」

 頼れる相棒、先祖代々伝えられてきた<叡智の水晶>が示す情報を元に、少女三人との合流を目指すノーチェ。

 胸元を飾る白いレースは、赤が混じったマーブルに。
 色の関係で目立ちはしないが、黒色ベルベットの生地もまた、血に汚れている。

 唇を割る声はかすれ、荒い吐息が入り込む。
 頭の大きさほどある水晶球が、ずしりと重い。いつもなら軽々持ち上がるソレも、深い内傷に喘ぐ今はアトラスが支える天の如く。
 摂理(ルール)を犯した。
 その代償は重く、マトモな人間ならば二度は命を落としているだろう。ノーチェがこうして歩けているのは、偏に彼女が吸血鬼だ(マトモではない)からだ。
 それでも、これから先、戦闘は不可能だろう。と、傭兵吸血鬼は自身のコンディションを分析する。

 早急に、イリヤ、美遊と合流して学園都市の外(安全地帯)に出る必要がある。

 痛む身体を引き摺って、お子様たちの元に急ぐ。
 と、ポケットで0-Phoneが震えた。

「~~~~~~~~っ!!」

 携帯電話のバイブレーション機能。
 その振動だけでも、今のノーチェには地獄の痛み。
 水晶を足指に落として更なる痛み。

『もしもしノーチェさん聞こえますか!?』
「き、聞こえているでありますから、も少し声のボリュームを下げて欲しいでありますよカザリ!」

 受話器の向うの同僚に向って、悲鳴をあげる。
 初春飾利は、心持ち声を潜めて。

『え~っと。取り敢えず、避難した学園都市の住人たちの再度の身元確認と点呼は進んでます。
 今のところ、長点上機学園と霧ヶ丘女学院の生徒さんたちは全員揃っていると、報告が来ました』

 ペラ、ペラ。と、資料を捲る音が届く。

『で、現在確実に居ないと報告が来たのは御坂さんと、例のカミジョウトウマさんぐらいですね。
 正直言って、まだ人が残ってるなんて、ちょっと信じられないです』

 でも、と初春は一言前置きして、

『学園都市(ウチ)にも色々黒い噂は在りますから、合法な手段(正攻法)では解らないこともあると思うんです。
 その辺りの情報収集、ノーチェさんの水晶玉でお願いできますか?』

 了解の意を交換して、通話が切れる。
 ノーチェは痛みに顔を顰めながら、0-Phneをポケットに突っ込んだ。

「まずは、イリヤたちと合流してからでありますな。
 あまり戦場に近いところに居てほしくは無いであります……。彼女たちは大丈夫で在りましょうが、今の私では、トイレットペーパー並みでありましょうからな」


 ―――見上げた夜空には、変わらず万色が踊っている。



 赤々と、炎の尖塔が天井を舐める。
 一瞬とは言え、離れたところに居る二人の肌も、チリつくほどの熱放射。

「ひ、柊っ!?」
「柊さんッ!?」

 御坂美琴と上条当麻。炎に呑み込まれた男を呼ぶ、二人の悲鳴が木霊した。

 魔剣使いが叩き斬ったデスローラーは、断末魔とばかりに火柱を吹いた。
 柊蓮司が両断したのは酒樽。中身は当然アルコール。つまり可燃性の危険物。火が付いたところに、そんな物をぶちまければ、フランベされるのは当然至極。
 柊が炎に呑み込まれた事に、不思議な事などありはしない。

 だから、呆然とする二人の前で、消え去った炎の中心から、無傷の柊蓮司が現れた事も不思議ではない。

「あー、ビビッた。今のはマジでビビッた」

 えほっえほっ。と咳き込んで、ぱんぱんと、コートに付いた汚れを払いながら、魔剣使いは気楽な様で二人の前まで歩いてくる。

「ん? どーした、そんなユーレー見るみたいな顔して」

 二人は爆発した。

「って、柊ぃッ!! 何でアンタはそんなお気楽なのよ!! って、無傷? 何で無傷ッ!? 防御力下がったくせに!!」
「下がるって言うなコノヤロ―――!!」
「柊さん! アンタ怪我とかないんすか!! 火傷の一つは在ってしかるべきじゃあないんですか状況的に!!」
「―――ぅぁ………。えーあー、いや、あの、上条? 美琴も、二人とも落ち着け。―――な?」

 ヒートアップした二人に「如何ユウコトダ説明シロ!!」と、サラウンドで詰め寄られたが、けれど自分もそれほど状況を掴めていない柊は、冷や汗を垂らして後ずさる。

 冷静に考えれば、それほどおかしな事でもない。

 アルコール。酒類の成分であるエチルアルコール、通称エタノールは確かに可燃物だ。
 引火点は九七%の高濃度エタノールで一四℃。これは環境によって変化するので、大体は一〇℃から三〇℃でエタノールに火が付くと思えばいいだろう。
 しかし、実際にエタノールを燃やそうと思えば、酸素と適当な濃度で混ざり合い、それが持続しなければならない。
 自身の燃える熱で失われる以上の、気化したエタノールが必要なだけ追加され、かつ大気中に酸素があることが必須の条件。

 この事は、日本酒やワインなどに、マッチの火を近づけても引火はしないことがいい例だろう。

 あの大きな炎は、御坂美琴の超電磁砲で樽板が炎上し、中の酒が百度近くまで熱せられていた事に加え、柊の風で飛散したエタノールが、引火したことが原因だ。
 日本酒に含まれるエタノールは、大体一五%。
 それほど多い訳ではないそれが燃え尽きるまでに、柊の月衣を突き抜けて熱を伝えるには、時間が足らなかった。と、そういう理屈。

 科学の街、学園都市の生徒である美琴と上条も柊を怒鳴りつけてクールダウンすれば、ソレぐらいのことにはすぐに気がつく。
 自分の脳内で、納得してしまった二人においてかれた柊は、はっ、と気を取り直して、上条に向き直った。

「そうだ上条! オマエいきなり立ち止まるなんて何考えてんだよ!」
「そうよ! 意味不明に壁なんて殴りつけて! 自殺願望でも在ったのアンタって奴は!!!」

 いきなり向けられた叱責に、上条はタジタジと

「えっ!? なんか矛先がこっち向いてる!?!
 あー。いや、逃げ道でも出来たらいーかなーって、私めは愚考した次第でありますが……」

 結局、失敗したんです。はい。
 素直に喋ったのだから、命だけは勘弁。と、両手を挙げた。

「………。ってことは何? アンタの右手効かなかったの?」
「はい、そーゆー事になります……って、御坂さん一体なんでせうその、コイツ使えねーってなお貌は?」
「…………。あんたからその右手とったら、『戦力的に』良い所なんてあんの?」

 人間的には良い所山ほど在るけど、ソレは今は関係ない。と、美琴は心を鬼にする。
 『ココ』は、唯でさえ危険だと、さっきの罠で否応無く理解させられた。これから先もきっと苛烈な罠が待っているだろう。
 そんなところに上条を連れて行って、もし何か在ったら。と思うと平常心を保つ自信が無い。
 その、不可思議な右手が切り札になりえる。と、柊(専門家)が判断したからこそ、ココまで一緒に来たが、本心を言えば、とっとと安全なところに避難していて欲しかった。
 だからこそ、その右手の能力(チカラ)が切り札にならないのなら、これ以上上条当麻を危地に留め置いてなど、置きたくはない。

 そんな美琴の内心などいざ知らず。

「んま!? 何たる暴言!! 決して、上条さんは右手(イマブレ)だけの男ではありませんことよ!!
 それに、右手(チカラ)が使えなくなったわけじゃねぇんだ! よっし、ビリビリ! 何時ものように、一発なんかぶっ放して来い!!」

 カマン!! と、上条当麻(どんかんおとこ)は右手を突き出した。

「………このっ! あぁそう!! じゃあココでリタイヤしなさいアンタは!!」
「んなっ、殺意高っ!! って、きゃああああああ!!!」

 びりびりぃ!! と、何時ものように美琴から放たれた雷撃の槍(十数億ボルト)は、上条が差し出した右手に収束し、

 何時ものように、硝子が砕けるような音を立てて、消滅した。

「ああっ! もうムカつく!! 何であたしの力に限って通じないのよ!!
 いつも言ってるけど! たまにはギャグ漫画よろしく錐揉み回転で吹っ飛んで見なさいっての!!」
「何時も何時も無茶苦茶言ってんじゃねぇよビリビリ中学生!! こっちも何度も言ってるけどな! そんなもん喰らったら漏れなく死にますよ俺は!!」

 なんだとビリビリィ! と、じゃれ合いを始める二人。
 少なくとも、柊蓮司にはそう見えた。

「あぁあもう。てめーらいい加減にしとけ」

 ギャーギャー。騒がしい二人の間に割って入る。命の危険がありそうな喧嘩の仲裁だが、これも年長者の務めだ。
 ばちばち。と、現実(リアル)に火花を散す二人に溜息一つ。

「あのな、上条。美琴の奴だって、お前を心配して言ってんだ。ソレを、そーゆー言い方はねーだろ」

 へ? そうなの? と、上条が美琴に視線で尋ねれば、本人は顔を俯かせる。そのお陰で、上条の視界には、紅潮した顔色は入らなかったが。

「それから、今度何か思いついたときは先に一声掛けてくれ。唐突に何かやらかされたんじゃ、フォローしきれねぇし、お前の命が幾つ在っても足んねぇぞ?」
「……。すみません―――」
「よろしい。それと、『月匣』には、『コア』と『ルーラー』ってのがあってな―――」

 超越者の世界である『月匣』は、力の源たる『コア』か、造り手である『ルーラー』のどちらかを破壊する以外の手段では破壊出来ない。
 夜闇の魔法使い(ウィザード)ならば、誰でも知っている基本法則だ。

「―――でだ、上条。お前の右手が通用しなかったのも、その辺の事情じゃないかと思う。詳しい事はわかんねーけど」
「あー、そんなルールがあったんすか……。
 あ、でも、もしどうだとしたら、『東方王国旗』に通じるんすかね―――?」
「……それは、大丈夫じゃねぇか?」

 そういった柊に、上条当麻は視線で疑問符をぶつけた。

「それが『月匣』の機能だってんならやばかったかも知れねぇが、その『旗』ってのは、明らかに外部から持ち込まれたもんだ。ソレは俺たちも確認してる。
 ルーラーは明らかにパール・クールだろうし、って事は、多分その『旗』はコアじゃねぇかな。決め付けんのは早計だけど。
 それに―――、ベルの奴がお前を切り札扱いしてるってのが気になる。少なくともアイツはお前の右手で、その『旗』をぶち壊せる。と、思ってるって事だ」

 まぁ、アイツも、いい加減抜けてるところはあるんだが………。と、柊は頬をかく。

「ま、『ぽんこつ』呼ばわりされるような魔王だがな、実力は折り紙付きだし、そもそも無根拠で動くような奴じゃねぇ。
 それに、お前の右手が効かなけりゃ、俺が叩き折れば良いんだしな」

 臨機応変に行こうぜ。
 と、歴戦のウィザードは、上条の肩を叩いた。

「じゃあ、こっからは俺がトップに立って罠(おとこ)探知して行くから、上条は美琴と一緒に今までより少し離れて付いてきてくれ、具体的には二十メートルぐらい」

 そうして、柊蓮司は歩を進める。
 声を掛けられた美琴が再起動するのを眺め、上条は自分の右手を握り締める。

 柊は言った。
 『月匣』を壊せなかったのは、やり方を間違えていたからだ。と、
 けれど、

(本当に、そうなんだろうか?)

 柊蓮司は確かに『侵魔対策の専門家(ナイトウィザード)』だ。けれど、この右手の事をそれほど知っているわけではない。
 彼は言った。能力は発動しても、やり方を間違えていたから、チカラが『効かなかった』んだろう。と。

―――ねぇ、ちょっと。

 今までにも、この右手が通じなかった異能(モノ)は在った。ヤニ臭い神父の魔女狩りの王しかり、自動筆記の竜王の息しかり。
 記憶にはない知識が、告げる。
 その時に破戒仕切れなかったのは、夫々に特殊な条件があったからだ。
 魔女狩りの王は、発動範囲を区切る結界自体を潰さねば何度でも蘇り、竜王の息はその物量に右手の性能(スペック)が追いつかずに押し切られた。
 能力の発動自体はしている。ただ、能力のみでは届かなかっただけ。

 今回のこれは、なんだか―――違う気がする。

 ―――ねぇってば。

 『幻想殺し(イマジンブレイカー)』での接触の、その感触は、まるでうちの三毛猫を撫でる時や、学校の校舎に触れたときのよう。
 『異能』ではないものに、その『あらゆる異能を打ち消す右手』で触れたときと、その感触は変わらない。

 ―――いい加減スルーすんな、コラッ!

 その違和感は、『月匣』という未知の存在に対してのモノなのか……。それとも―――。

 ―――…………。

 けれど、迷っている暇は無い
 今頃、学園都市ではアゼルがあの物騒なお子様相手に戦っているだろう。彼女は、他ならぬ上条当麻を信じて、パール・クール相手に、不利な戦いを挑んでいる。
 上条当麻が、状況をひっくり返せると信じて。

 ―――………………。

 ならば、やるしかない。
 たとえ右手が使えなくても―――

「………ほんっとーに。いい加減にしときなさいよ――――アンタ」

 ―――。
 地獄の底から響く風のような声が、思考をぶった斬った。

「………アノ、ミサカサン? ナニヲソンナニオコッテオラレルノデ?」

 背骨に走った怖気に、思わず、発音が似非外人風になる。

「アンタの脳味噌は、ホントにあたし限定でスルー設定になってんの? それとも、そんなにあたしの言葉を聞きたくないの?」

 静かな言葉遣いが、逆にコワイ。

「ノーサー! それは貴方様の勘違いでありますサー!」
「マム。よ!
 あーもう、バカな事やってないでとっとと行くわよ!」
「のわっ、ちょ、ちょっと待って下さい美琴さん!! 痛っ! 痛ぇっ! 強く引っ張りすぎだコノヤロウ!!」

 焦れたように上条の手をとって、そしてその状況を理解して、美琴は瞬間湯沸かし器のように蒸気を噴き出した。

「あの、どうした御坂? 顔が赤いぞ?」

 上条当麻は、心底不思議そうにそう尋ねた。

 上条当麻は、心底不思議そうにそう尋ねた。

「………。とっとと行くわよ」
「痛ェッ!! だから痛ぇっての!! もげ、?げる!! 右手もげる!!」
「いっそのこと肩からすっぽ抜けちゃいなさいよ。どうせアンタの事だから後から生えてくるでしょうが」
「なんたるスプラッタ!! そんな鮮血の結末は上条さん的にノーセンキューです!!
 あと、テメェ俺の右手をなんだと思ってやがる!! 蜥蜴の尻尾と一緒にすんな!!」
「うるさいだまれ」
「ひぃいっ! なんか怖いですよこのお嬢様っ!」

 美琴は騒ぐ上条を引っ張って、柊が先行した廊下をすすむ。
 永遠とも思えるほどの長い廊下は、一応は有限だったらしく、その先に広がるのは更に広い空間。
 廊下の先であるのだから、きっと部屋であるだろう広大な何か。

 柊蓮司は、その入り口で佇んでいた。

「……入んないんすか? 柊さん」
「……ちょっと、ココに無策で突っ込むのは無謀だろうなって、思ってな………」

 苦笑しながら柊は室内を指した。
 上条と美琴が戸口から覗き込むと、青々とした畳敷きの床が視界いっぱいに飛び込んできた。
 広さは一般的な学校のグラウンドが四つ五つは入りそうなぐらい在るが、ソレを除けば何の変哲も無い、ただの日本家屋の一部屋である。
 ぐりん、と、訝しげな視線を向ける二人に、柊は「見とけよ」と、魔剣だけを部屋の中に突き出す。

 ばすんっ。と、物騒な音と共に、巨大な針が畳をぶち抜いて、魔剣を引掻いた。

「は?」
「へ?」

 目を丸くする上条と美琴の前で、ばすんっ、ばすんっ、ばすんっ――。無数の針が広大な部屋を埋め尽くすように、あちこちで剣呑な音を立てる。

 ばすんっ、ばすんっ、ばすんっ、ばすんっ、ばすんっ、ばすんっ、ばすんっ、ばすんっ、ばすんっ、ばすんっ、ばすんっ、ばすんっ、ばすんっ、ばすん―――――!!!

 数十秒の後、親の仇に相対したかのようにこれでもかと突き上げに突き上げていた針の群が、漸く畳の下に潜り込んだ。

広大な空間を埋め尽くしていた音が止んだ、次の瞬間。


『どないせぇッちゅうんじゃこんなもん!!!』


 二人分の絶叫が、取って代わった。

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