金城 護 - 架空アニメキャラ用語辞典

金城 護（かねしろ まもる）は、水崎弘明による漫画作品『怪人開発部の黒井津さん』、およびそのアニメ版に登場する人物。
秘密結社アガスティアの経理部に所属し、怪人開発の予算執行を管理する予算査定室の室長を務める。

概要
秘密結社アガスティアの財政を影で支える、経理部のベテラン中間管理職。年齢は38歳。
怪人一体を開発するにあたり、その設計図に記載されたパーツや特殊能力の一つ一つにかかる費用を精査し、承認あるいは却下する、まさしく「予算の番人」。
彼の承認印なくして、怪人はその能力を一つも実装することができないため、怪人開発部の黒井津たちにとっては、宿敵であるヒーロー以上に、日常的に戦わなければならない「組織内部の壁」として立ちはだかる。
口癖は「それは計上できません」「代替案を提出したまえ」。

生い立ちと背景
ごく普通の会計士
金城は、アガスティアの他の幹部たちのように、世界征服という壮大な野望を抱いて入社したわけではない。彼は、もともといくつかの企業を渡り歩いてきた、腕利きの会計士であった。
しかし、前の会社が倒産し、再就職先を探していた際に、「長期安定的な目標を持つ、資金潤沢なグローバル組織」という、いかにも優良企業然としたアガスティアの求人広告を偶然発見。面接を受けたところ、その卓越したコストカットの手腕と、数字に対する執念にも似た情熱を高く評価され、即日採用となった。
彼にとってアガスティアは、あくまで「給料と福利厚生がしっかりした、ちょっと変わった職場」であり、世界征服という壮大な目標も、「長期経営計画」の一環として捉えているに過ぎない。

悪の組織で働く、家庭的な男
彼の仕事へのモチベーションは、世界征服への忠誠心ではなく、愛する家族との安定した生活を守るためである。家では、小学生の娘を溺愛する、ごく普通の父親としての顔を持つ。
彼が怪人開発の予算に対して異常なまでに厳格なのは、無駄な経費を承認して組織の財政を悪化させ、万が一にも組織が倒産（あるいはヒーローに壊滅させられ）して、自分がリストラされる（物理的に消される）事態を、何としてでも避けたいためである。
娘の授業参観のために、有給休暇の取得理由をでっちあげて幹部会議を欠席しようとするなど、その行動原理は、悪の組織の構成員というよりは、日本のどこにでもいる、ごく一般的なサラリーマンの悲哀に満ちている。

作中での活躍
予算という名の絶対防壁
金城が物語に登場するのは、主に黒井津が新たな怪人の開発企画書を提出する場面である。彼は、企画書に記載された怪人の特殊能力や装備の一つ一つを、虫眼鏡を使うかのような緻密さでチェックし、少しでもコストが高い、あるいは費用対効果が不明瞭な項目を見つけると、即座に却下の印を押す。
「なぜ、この怪人には飛行能力が必要なのかね？ 走ればいいだろう」「目からビーム？ 贅沢だ。懐中電灯でも持たせておきなさい」「再生能力など、経費の無駄遣いだ。やられる前にやればいいだけの話ではないかね？」。
彼のこの姿勢は、ヒーローを打倒するための強力な怪人を作りたい黒井津たち開発部と、常に利益（世界征服）とコストのバランスを考えなければならない経理部との、永遠に埋まらない溝を象徴している。

珍妙な代替案
金城は、ただ予算を却下するだけではない。彼は、コストカットのための珍妙な代替案を提示する「クリエイティブな経理」として、黒井津たちをさらに悩ませる。
例えば、怪人の装甲を強化するための特殊合金の予算を却下する代わりに、「近所の工務店から、解体現場の廃材を安く譲ってもらえないか交渉してみたまえ」と提案したり、怪人を巨大化させるための予算がない時には、「竹馬に乗せて、物理的に大きく見せるのはどうだろうか」と、真顔で助言したりする。
これらの代替案は、ほとんどの場合、怪人のスペックを著しく低下させるが、ごく稀に、そのチープさがヒーローの予想の斜め上を行き、結果的に善戦に繋がってしまうことがある。その際には、彼の「斬新な発想」が首領アカシックの耳に入り、特別ボーナスを授与されるなど、本人も意図しない評価を得ることがある。

他の登場人物との関係
黒井津燈香
金城にとって黒井津は、組織の財政を脅かす、最も警戒すべき「浪費家」の一人である。二人の関係は、開発現場の理想と、経理の現実がぶつかり合う、まさしくプロフェッショナルな敵対関係にある。
会議室では常に火花を散らしている二人だが、その実、同じく上層部（主にメギストス）からの無茶な要求に振り回される「中間管理職」という立場では、奇妙な連帯感が生まれることもある。

メギストス
金城が組織で最も恐れる人物。メギストスが鶴の一声で承認する、壮大で、非現実的で、そして何よりも予算を度外視したプロジェクトの数々は、金城にとって悪夢そのものである。
メギストスがプレゼンで「全怪人に、衛星軌道上からのレーザー攻撃システムを標準搭載する！」などと宣言した際には、金城は一人だけ血の気の引いた顔で、その場で電卓を叩き、絶望する。彼の胃痛の主な原因は、この上司にあると言っても過言ではない。

ウルフ・ベートほか、怪人たち
金城は、ウルフをはじめとする人格を持った怪人たちのことを、一個の生命としてではなく、組織のバランスシートに記載された「資産」として認識している。
彼は、怪人たちの食費や居住費といった維持コストを常に計算しており、「今月の戦闘実績が目標を下回った場合、来月の食費は2割引とする」といった、非情な経費削減案を提示することもある。

性格・思想
「経費コンプライアンスこそが、世界征服の礎である」
彼の行動原理は、善悪や思想ではなく、ただ一点、「健全な財政」にある。彼に言わせれば、世界征服とは、人類社会という巨大なマーケットを相手にした、究極の企業活動である。
目先の勝利にこだわり、湯水のように予算を使って、結果的に組織が財政破綻してしまっては、元も子もない。彼は、地道なコストカットと、着実な黒字経営（侵略による利益）の積み重ねこそが、アガスティアの百年後を創ると固く信じている。その信念は、ある意味では、誰よりも組織の未来を真剣に考えていることの表れでもある。

サラリーマンの悲哀
彼の根底にあるのは、悪の組織の幹部としての思想ではなく、ごく一般的な日本のサラリーマンの心性である。上司の顔色を窺い、面倒な仕事は部下に押し付け、定時で帰って家族と食卓を囲むことを何よりも大切にしている。
彼が時折見せる、数字への異常な執着や、常軌を逸した節約術は、全てこのささやかな幸せを守るための、彼なりの戦いなのである。

物語への影響
「働くこと」のリアルを体現する存在
金城護というキャラクターは、『怪人開発部の黒井津さん』が持つ「お仕事コメディ」としての側面を、最も純粋な形で体現している。ヒーローとの華々しい戦闘シーンの裏側には、必ず「予算」という、極めて現実的な問題が存在することを、彼の存在が読者に突きつける。
彼の登場は、この物語が、単なる特撮パロディではなく、全ての「働く人」が共感できる、普遍的な職場のあるあるネタに基づいていることを、より強く印象づけた。

コメディの新たな担い手
彼の存在は、怪人のデザインや能力といった「開発現場」の笑いだけでなく、「予算会議」「経費精算」といった、「バックオフィス」の笑いという、新たなコメディのパターンを作品にもたらした。
黒井津が、彼の提示する無理難題なコストカット案を、いかにして開発の現場で実現（あるいは誤魔化す）かという奮闘は、本作の新たな魅力の一つとなっている。彼は、世界征服という壮大な夢の前に立ちはだかる、最も身近で、最も厄介な「現実」の象徴なのである。